弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
本件各控訴をいずれも棄却する。
理由
1本件控訴の趣意は,被告人両名の弁護人前田裕司,同渡邉良平,同坂根真也作
成の控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。
論旨は,要するに,原判決は,被告人株式会社E(以下「被告人会社」とい
う。)は,解体工事の請負等を営むもの,被告人Fは,同社の代表取締役として同
社の業務全般を統括するものであるが,被告人Fは,同社の業務に関し,平成13
年1月10日から同年7月13日までの間,前後39回にわたり,茨城県a市に株
式会社X(以下「X」という。)が設置した無許可処分場である同社a工場(以下
「a工場」という。)において,茨城県知事から産業廃棄物の処分の許可を受けて
いない同社に対し,産業廃棄物である木くず合計約221m(以下「本件木材」3
という。)を,無償で,上記処分場で処分することを委託し,産業廃棄物の処分の
許可を受けた者その他環境省令で定める者以外の者に産業廃棄物の処分を委託した
と認定したが,本件木材はチップ原料としての再生利用が予定された有価物であり,
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)2条4項に
いう「産業廃棄物」に該当せず,被告人は無罪であり,原判決は,この点に関する
事実を誤認し,廃棄物処理法の解釈適用に関する法令の適用を誤ったものであって,
これらの誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。
2そこで,本件木材が廃棄物処理法2条4項にいう「産業廃棄物」であるか否か
を検討する。
関係証拠によれば,本件の経緯等に関し,次の事実が認められる。(1)
アXは,埼玉県市と市にそれぞれ埼玉県知事から産業廃棄物収集運搬業及び同bc
処分業の許可を受けた工場(以下「工場」「工場」などという。)を有し,家屋bc
解体業者等の搬入業者から処理料金を徴して受け入れた木材(以下では,特に断り
のない限り廃棄物となるものに限定せず,このような木材一般を「木くず」と称す
る。)を再生利用し,工場では専ら燃料用チップを生産し,工場では製紙・合板cb
用チップ全般と燃料用チップの双方を生産し,これらを販売していたが,a工場に
おいては,上記各許可を受けず,同様の搬入業者から受け入れた木くずを再生利用
して質の高い製紙・合板用チップ(A,Bチップ)を中心に生産・販売していた
(なお,チップというのは,木材を破砕するなどして小片化したものであり,製紙
・合板原料となるチップ(A,B,Cチップ)と燃料用となるチップ(Dチップ)
に大別され,木くずのうち質の高い製紙・合板原料用のチップ(A,Bチップ)の
原料となるのは,ペンキ等の付着のない柱や梁,比較的断面積のある解体材等であ
った。)。
Xは,a工場で受け入れる木くずについては,設置当初,搬入業者にトラック1
台当たり500円程度を支払って受け入れていたものの,平成6,7年ころからは,
ほぼ無償で受け入れるようになり,一部の業者からはダンプトラック1台(10ト
ン車)につき3万円から4万円程度の処理料金を徴して収益に加えており,搬入業
者が持ち込む産業廃棄物管理票(マニフェスト)には,処理業者として他工場の印
を押印していた。なお,本件当時,家屋解体等により生じた木くずについてチップ
原材料としての市場は成立しておらず,解体業者等は,有料で産業廃棄物処理業者
に処理を委託するのが通常であった。
a工場では,他工場と異なり,質の高い製紙・合板原料用のチップ(A,Bチッ
プ)の原料に適した角材や松杭等に限って受け入れ,ベニヤ板等や細かいくずは受
け入れない方針であったが,処理料金を徴していた一部の業者には薄材の混入を認
めていた。また,実際の受入れに際しては,常に個別の検査がされているわけでは
なく,工場が一杯となり木くずの受入れが困難である場合には,工場向けの木くbb
ずをa工場でそのまま受け入れることもあった。
そして,a工場では,木くずやチップ等が長年の間に大量に堆積されたいわゆる
チップ山が施設内の各所に形成され,茨城県の担当部署から施設内での保管量を削
減するよう指導されていたところ,平成11年11月,このチップ山から自然発火
して燃焼が続く事故(以下「本件火災」という。)が生じ,数か月間木くずの受入
れが停止された。
さらに,チップ市況の低迷から,a工場では,平成12年3月期にチップの販売
価格により製造コスト等が賄えない逆ざやが生じるに至り,Xは,同年5月,受け
入れる木くずの範囲を拡大して処理料金を徴収することにより経営を安定させる旨
の事業計画書を茨城県に提出し,産業廃棄物処理業の許可を取得する手続を開始し,
多額の設備投資を行って施設の改善を進め,平成13年1月に茨城県の要領に定め
られた処理施設の事前審査を終え,本件途中の同年6月4日付けで産業廃棄物収集
運搬業の許可を取得し,本件後の同年10月に同処分業の許可申請を行い,間もな
く同許可を得られる見込みであったが,廃棄物処理法違反で摘発を受けたためこの
ような計画は一時頓挫した。なお,本件当時も本件火災による残存物の処理はなお
続いていた。
イ被告人会社は,千葉県知事及び茨城県知事から産業廃棄物収集運搬業の許可を
受けて家屋解体業を営み,Y株式会社(以下「Y」という。)から住宅の解体及び
廃棄物の処理一式を請け負っていた。
Yは,Xが木くずの再生能力を有する産業廃棄物処理業者であることを評価し,
Xとの間に産業廃棄物処理委託契約を締結しており,Yと被告人会社との契約では,
木くずは工場に処分委託すべきものとされていた。被告人会社は,上記のようなc
関係から,Yから受注した工事現場で生じた廃材を自社施設に持ち帰り,コンクリ
ート殻,廃プラスチック類などと分別した木くずを工場に搬入して有料で処分をc
委託していたのであるが,代表者の被告人Fは,本件の2年ほど前に,a工場では
無償で木くずを受け入れており,マニフェストに工場の印を受けられることを知c
り,木くずをa工場に搬入させるようにした。しかし,このような事情はY側には
伝えられていなかった。
被告人会社は,a工場の受入れ基準に従って木くずのうち柱や梁といった角材の
みを選別して搬入し,残るベニヤや小さい木くずなどは再生利用せずに自社施設で
焼却処分しており,電線など木材以外の物が付着していたり,ペンキ等が付着した
ものもa工場には搬入していなかった。
ウ本件木材は,このように被告人会社が解体現場で生じた木くずを選別し,平成
13年1月10日から同年7月13日までの間,前後39回にわたりa工場に無償
で搬入したものであり,搬入時からa工場での再生利用が予定されていたものであ
る。なお,これらに関するマニフェストには処理業者として工場の印が押されてc
いたが,実際に工場に本件木材の処分を委託した場合には合計で約91万円の処c
理料金が必要であった。
ところで,本件木材が産業廃棄物について定めた廃棄物の処理及び清掃に関(2)
する法律施行令(平成13年7月11日政令第239号による改正前のもの)2条
2号にいう「木くず」に形式的に該当することは明らかであるが,これが産業廃棄
物にあたるというためには,本件木材が廃棄物処理法の規定する「廃棄物」に該当
する必要がある。
そして,廃棄物処理法にいう「廃棄物」とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡
することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当する
か否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事
業者の意思等を総合的に勘案して決すべきものと解される。
本件を踏まえてさらに検討すると,廃棄物処理法が廃棄物の処理業を許可制にし
ているのは,廃棄物が不要であるが故に占有者の自由な処分に任せるとぞんざいに
扱われるおそれがあり,生活環境の保全及び公衆衛生の向上に支障が生じる可能性
を有することから,その一連の過程を行政の監視の下に置くことによって廃棄物の
不法な投棄・処分を防止するためである。したがって,当該物件について市場での
価値が存在しないとすれば,それがぞんざいに扱われて不法に投棄等がされる危険
性は高まるから,取引価値を有するというのは,重要なメルクマールであり,それ
は,原則として搬入業者(処分委託業者)が受入業者(処分業者)に対して有償で
譲渡できるような場合であることを要するものというべきである。もっとも,有償
譲渡できるか否かは,その時の市況によって左右されることもあり,これを絶対的
な基準として,通常は有償で譲渡することが可能であるのに,市況等の変動により
たまたま無償で譲り渡しがされたような場合をとらえて直ちに取引価値を欠くもの
ということはできないが,一般的に有償譲渡であるか否かは,それが有用物である
か否かを判定する合理的かつ明確な基準というべきである。
しかしながら,上記のように有償譲渡が行われず,その意味では取引価値のない
物であったとしても,関係法令に照らし,再生利用を含む循環的な資源の有効利用
が促進されるべきことは明らかといってよく,それに対する社会的な要請,期待感
も大きい。これに取り組む企業が廃棄物処分業の許可を得た上で再生利用を行うこ
とができることは当然としても,これに伴う各種規制等が循環的な資源の有効利用
の促進に際して負担となることも否定できないところであり,当該物件の廃棄物該
当性を考えるに当たって,以上のような観点から,当該物件の再生利用に関連する
一連の経済活動の中で,各事業者にとって,一定の価値があるかどうかという点を,
取引価値の判断の一要素として加えることは許されるべきものと考えられる。しか
し,このように判断の一要素として加えるとしても,そのためには,単に受入業者
により再生利用が行われるというだけではなく,その再生利用が製造事業として確
立したものであり継続して行われていて,当該物件がもはやぞんざいに扱われて不
法に投棄等がされる危険性がなく,廃棄物処理法の規制を及ぼす必要がないという
ような場合でなければならない。そして,そのような場合には,再生利用目的があ
ることは廃棄物該当性を否定する事情として考慮することができるものと解すべき
である。この観点からは,原判決が,廃棄物処理法(同法14条4項ただし書)に
いう「専ら再生利用の目的となる」物に当たらない場合に,再生目的を考慮して廃
棄物該当性を限定的に判断し規制緩和することは,この規定と抵触して許されない
としたが,それには賛同できない。
以上の見解を前提に本件木材が廃棄物であるか否かを検討することとする。(3)
関係証拠によれば,本件当時,家屋解体等により生じた木くずについては,有料
でつまり料金を支払って廃棄物処理業者にその処理を委託するのが通常であり,被
告人会社がa工場に搬入した木材(木くず)は,上記の木くずのうちから柱や梁と
いった角材を選別したものではあったが,これらについても一般に有償で譲渡でき
るような状況にはなかった。a工場は,本件木材を含めて被告人会社から上記のよ
うにして選別された木くずをすべて無償で受け入れていたのであるから,通常の意
味で,本件木材に取引価値はなかったというべきである(所論は,委託時において
は,選別されたものが搬入対象となっていたから,その物は有価物であるというが,
選別された物についても,価格が形成されていなかったことは明らかである。)。
そこで,a工場での再生利用が製造事業として確立し継続したものになっていた
かを検討すると,a工場では,平成6,7年ころから本件当時まで,産業廃棄物処
分業等の許可を受けないまま,多くの場合に処理料金を徴することなく,木くずの
うち質の高い製紙・合板原料用のチップ(A,Bチップ)の原料となる物を受け入
れ,これらを再生利用してチップを生産・販売する事業(以下この事業を「本件事
業」という。)を行ってきたものである。
しかしながら,平成11年11月の本件火災に至った経緯からすれば,それ以前
のa工場において,必要以上に木くずを受け入れ,施設内で木くずやチップの適切
な管理を怠る状態が続いていたことは明らかであって,その当時の本件事業は確立
した製造事業であったとはいえないというべきである。そして,その後の経緯をみ
ても,チップ市況の低迷のため,a工場では,平成12年3月期にチップの販売価
格で製造コスト等が賄えない逆ざやが生じるに至り,Xは,同年5月,受け入れる
木くずの範囲を広げた上で処理料金を徴収して経営を安定させるため,産業廃棄物
処理業の許可取得のための手続を開始し,多額の設備投資をして施設の改善を進め,
本件の途中には産業廃棄物収集運搬業の許可を得ており,同処分業の許可がされる
ことも見込まれていたのである。本件当時のa工場は,木くずの再生利用を行う産
業廃棄物処理施設としての準備段階にあり,今後も本件事業が産業廃棄物処理業と
は別立ての自立した事業として継続されることは予定されていなかったことが認め
られる。さらに,a工場での実際の受入れ態勢をみても,受け入れる木くずが明確
に規格化されたものではないにもかかわらず,常に個別の検査が行われていたわけ
ではなく,本来は他工場向けの木くずを受け入れることもあるなど原料受入れ時の
選別は徹底されていなかった上,一部の搬入業者から徴していた処理料金が収益源
のひとつともなっていた。
これらの事情に照らせば,本件当時,本件事業は,製造事業として確立し継続し
たものとなっている状況にはなかったというべきであり,廃棄物処理法の規制を及
ぼす必要がなかったということはできず,再生利用目的があったことが廃棄物該当
性を否定する理由にはならないものというべきである。
これらの事情を総合勘案すると,本件木材が廃棄物処理法にいう「廃棄物」に該
当することは明らかというべきであり,本件木材は,同法2条4項にいう「産業廃
棄物」に当たるものと判断される。
所論は,本件で処罰の対象となるのは,当該物件の占有自体ではなく,処分(4)
の委託行為であり,それは委託者と受託者の関係を前提としているものであるから,
当該物件が廃棄物であるのか,有価物であるのかの検討に際しては,物の占有者で
ある委託者のみならず受託者側の事情も考慮すべきである,という。
確かに,本件の場合,産業廃棄物に該当するか否かの判断において,委託者のみ
ならず,受諾者(受入業者)側の事情も考慮すべきものと思われる。この点に関し
て,原判決は,廃棄物であるか否かは物の現在の占有者について判断すべきであり,
事業者にとって当該物件が有用物か不要物かと判断する場合の「事業者」というの
は,本件では被告人会社を指す旨判示する(そして,「その物がたとえ他者にとっ
て有用であるとしても,占有している者にとって不要であれば,ぞんざいに扱われ
て不法投棄がなされ,生活環境上支障が生じるおそれがあるからである。」と判示
する。)が,それぞれの問題になっている段階(本件においては,処分の委託の段
階)における各事業者について総合的に検討すべきものであり,占有者に限定して
しまうのは相当でない。この点は,所論のいうところは正当と思われる。しかし,
その点を考慮しても,既に述べたとおり,a工場での再生利用が製造事業として確
立し継続したものではなく,廃棄物処理法の規制を及ぼす必要がないような場合で
はなかったと認められるのであり,前記の結論は左右されない。
また,所論は,a工場において被告人会社外4社から本件木材を含めた産業廃棄
物である木くずを受け入れて処分し,無許可で産業廃棄物の処分を業として行った
との起訴事実につきXとその代表者らを無罪とした平成16年1月26日の水戸地
方裁判所判決(確定)を援用し,再生利用が予定される物の取引価値の有無ないし
これに対する事業者の意思内容を判断するに際しては,有償により受け入れられた
か否かという形式的な基準ではなく,当該物の取引が,排出業者ないし受入れ業者
にとって,それぞれの当該物件に関する一連の経済的活動の中で価値ないし利益が
あると判断されているかを実質的・個別的に検討する必要があり,本件木材はXに
おいてチップの原材料として有用であるばかりか,被告人会社は,無償でa工場に
搬入することで工場へ処理の委託をするのに比べて金銭的な利益を生み出すことc
ができるなどの利益が存在し,本件木材の取引は,一連の経済的活動の中で価値な
いし利益を有するものであって,本件木材は廃棄物ではない,という。
しかしながら,この点についてもすでに説明したとおりであって,a工場での再
生利用が製造事業として確立し継続したものではなく,廃棄物処理法の規制を及ぼ
す必要がないような場合ではないと認められるのであり,本件木材の廃棄物該当性
は否定されないものと解される。受入業者(X,a工場)にとって再生利用のため
に有用であり,このような業者との取引によって搬入業者(被告人会社)が処理費
用を節約できるなどの利益を得るとしても,このような事情だけでは,その後の確
実な再生利用が担保されるというには不十分といわざるを得ない。言葉をかえると,
それだけでは,不法投棄,不適切処理の危険性がなくなるとはいえないのである。
3以上の次第であり,本件木材が産業廃棄物に該当するとした原判決の結論は正
当であり,原判決に事実誤認,法令適用の誤りは認められない。
論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却することとし,主文の
とおり判決する。
()裁判長裁判官門野博裁判官鬼澤友直裁判官奥山豪

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