弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
主文と同旨
2控訴の趣旨に対する答弁
()本件控訴を棄却する。1
()控訴費用は控訴人の負担とする。2
第2当事者の主張
1請求原因
()被控訴人及び控訴人は,いずれも埼玉県越谷市所在のゲームセンターN1
の常連客であったところ,平成17年1月22日,同店事務室において,店
内で両者が起こしたトラブルにつき,同店店長Aらを交えて話し合う機会を
もった。控訴人は,この話合いの途中で,席を外し,被控訴人が,前に控訴
人の自転車がパンクさせられた事件(以下「本件器物損壊事件」という。)
の犯人であり,Nにいるとして,警察官の出動を要請した。
()控訴人の通報を受けてNに到着した警察官は,被控訴人に対し,「他人2
の自転車をパンクさせたことがあるか。」などと繰り返し尋問をした。被控
訴人は,控訴人の自転車をパンクさせたことはないにもかかわらず,控訴人
が110番通報をし,警察官の出動を要請したため,出動した警察官から犯
人扱いされ,名誉を侵害されて精神的苦痛を被った。
()被控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる額は,30万円を下ら3
ない。
()よって,被控訴人は,控訴人に対し,不法行為(民法709条,7104
条)に基づき,30万円の支払を求める。
2請求原因に対する認否及び控訴人の主張
()請求原因()のうち,控訴人が,110番通報をした際,自転車をパンク11
させた犯人は被控訴人である旨述べたとの点は否認し,その余は認める。
()同(),()は知らない。223
控訴人は,平成16年12月13日,Nの駐輪場において,本件器物損壊
事件の被害に遭い,同月15日,警察に被害届を提出した。このことを知っ
ていたのは,控訴人の家族,警察官及び控訴人の友人であるBのみであった。
それにもかかわらず,被控訴人は,平成17年1月22日の話合いの際,同
席したBに対し,「(控訴人の自転車を)パンクさせられたあくる日から,
俺のことを見てるだろう。」と述べたものであり,これをBから聞いた控訴
人は,被控訴人がパンクの被害に遭ったことやその日付を知っていることに
驚いた。また,被控訴人は,Nにおいて,30分から1時間おきに駐輪場の
自転車のタイヤをくまなく手で触る,控訴人の行動を見張りトイレまで後を
つける,控訴人が退店する姿を窓越しに目で追う等の不審な行動をとってい
た。控訴人は,これらの根拠に基づいて110番通報をして,被疑者らしき
者がいる旨述べたものであるが,被控訴人が犯人であると断定したわけでは
ない。
また,控訴人の通報によりNを訪れた警察官は,被控訴人から事情聴取を
したに過ぎないから,被控訴人は,警察官から犯人扱いされるという屈辱的
行為を受けたとは認められないし,仮にそのような事実があったとしても,
責めを負うべきは,事情聴取をした警察官であり,控訴人ではない。
したがって,控訴人の行為は,不法行為に当たらない。
理由
1請求原因()のうち,控訴人が,110番通報をした際,自転車をパンクさ1
せた犯人は被控訴人である旨述べたとの点を除いた事実は,当事者間に争いが
ない。この事実,証拠(甲1,乙5,乙6,原審における証人A,同C,同D,
同E及び同Bの各証言,原審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果)
及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
()被控訴人及び控訴人は,いずれもNの常連客である。被控訴人及びその1
家族と控訴人との間では,平成16年5月ころから,Nにおいて,ゲーム機
の使い方等をめぐり,度々諍いが発生していた。
()控訴人は,平成16年12月13日,Nの駐輪場において,同所に駐輪2
していた自己の自転車の前後のタイヤをパンクさせられるという本件器物損
壊事件の被害に遭い,同月15日,警察に被害の届出をしたが,Nの店員に
対しては,被害に遭った旨を知らせなかった。
()被控訴人は,平成16年12月ころから,自宅前に駐輪していた自分及3
びその妻の自転車に相次いで鎖をかけられるいたずらをされる被害に遭った
として,平成17年1月4日,警察署に届出をして,被控訴人の自宅を訪れ
た警察官に対し,上記被害につき思い当たることとして,Nにおける控訴人
とのトラブルについて話した。被控訴人は,警察官から,Nを訪ねて事情を
聴くかもしれない旨告げられたため,同日,Nに赴き,Aに対し,事情を説
明した。Aは,被控訴人に対し,控訴人も自転車をパンクさせられる被害に
遭ったらしいことを伝えた。しかし,控訴人は,この経緯を知らず,Aや被
控訴人が本件器物損壊事件が発生したことを知っているとは認識していなか
った。
()被控訴人は,その後,Nを訪れた際,駐輪場に頻繁に出向いて見回った4
り,自転車のタイヤを触ったりすることがあった。控訴人は,上記のような
被控訴人の姿を見たほか,Nの店内において,被控訴人に見張られていると
感じることが多々あったため,被控訴人の挙動が不審であると思っていた。
()平成17年1月22日午後6時ころ,被控訴人,控訴人の夫であるD,5
A,B及びNの社員1名が同店事務室に集まり,被控訴人と控訴人及びその
家族間の度重なるトラブルの解決方法について,話し合うことになった。
話合いの最中,Bが,被控訴人に対し,被控訴人は自分たちを監視してい
るのではないかと述べたところ,被控訴人は,「控訴人の自転車がパンクさ
せられたからといって,お前らも俺を監視しているじゃないか。」旨を述べ
た。これを聞いたBは,事務室の外に出て,控訴人に対し,被控訴人が
「(控訴人の自転車を)パンクさせられたあくる日から俺のことを見ている
だろう。」と本件器物損壊事件の犯人しか知り得ないことを言った旨を伝え
た。控訴人は,被控訴人が本件器物損壊事件のことを知っているはずがない
と思っていたので,Bの話を聞いて驚き,同日午後8時ころ,被害届を提出
した交番のF警察官に相談しようとして電話をしたが,不在だったため,1
10番通報をして,本件器物損壊事件の被疑者らしき被控訴人がNにいる旨
述べて出動を要請した。
間もなく,パトカー勤務員であるG警察官ら2名がNを訪れた。控訴人及
びBは,G警察官に対し,本件器物損壊事件の犯人しか知り得ないことを被
控訴人が知っているので,被控訴人が犯人に違いない旨述べた。G警察官は,
続いて,同店の事務所に入室し,Aと話をしたが,すぐに被控訴人とG警察
官以外の者は,事務所外に退出し,被控訴人一人が事情聴取を受けた。G警
察官は,被控訴人に対し,「この店でお客さんの自転車がパンクさせられた
被害がありましたが,これについて知っていますか。」などと本件器物損壊
事件について尋ね,被控訴人は,「そんなことを言うのは控訴人だろう。」,
「(その件については)知らない。」などと答えた。被控訴人が事情聴取を
受けている間に,C警察官ら越谷駅前交番勤務の警察官4名が,Nを訪れ,
A及び店員から事情を聴取した。警察官らは,事情聴取を終えるとNを後に
した。
()Bは,警察官らが帰った後,Aから,勘違いしたのなら被控訴人に謝る6
べきではないかと促されて,被控訴人に対し,謝った。控訴人一家及びAは,
同月23日の未明まで,被控訴人とのトラブルの解決策等を話し合い,帰宅
した。
なお,その後,被控訴人が,本件器物損壊事件に関して,警察官から取り
調べられたり,刑事処分を受けたりすることはなかった。
2前記認定事実によれば,控訴人は,自分の自転車をパンクさせた被疑者らし
き者がいるとして110番通報をして警察官の出動を要請し,訪れた警察官に
対し,Bと共に,犯人は被控訴人に間違いない旨述べたこと,その結果,被控
訴人は警察官から本件器物損壊事件について事情を聴取されたことがそれぞれ
認められる。
ところで,私人が捜査機関に対し犯罪容疑者を通告して捜査に協力すること
は公益上望ましいことではあるが,私人が他人に犯罪の嫌疑をかけ,これを捜
査機関に通告する場合には,それによりその者の名誉が毀損されることが当然
に予想されるので,通告者は,犯人の同一性,その他諸般の状況を十分注意深
く考慮し,犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的証拠を確認した上で通告しな
ければならない注意義務を負うものというべきである。したがって,通告者が
このような注意義務を怠った場合は,過失による不法行為責任を負うものとい
わなければならない。
これを本件についてみるに,前記認定の事実によれば,控訴人と被控訴人と
の間で,平成16年5月ころからゲーム機の使い方等を巡って諍いが生じてい
たところ,控訴人は,平成16年12月13日,本件器物損壊事件に遭い,そ
の後,被控訴人が頻繁にNの駐輪場に赴いて周囲を見回ったり,Nの駐輪場で
自転車のタイヤを触ったりする姿を現認し,さらには,平成17年1月22日
に,知人から被控訴人が本件器物損壊事件の犯人しか知り得ないような発言を
した旨聞かされたりしたため,被控訴人が本件器物損壊事件の被疑者ではない
かと疑い,110番通報をしたものであり,このような控訴人の行動は,それ
相応の客観的根拠に基づくものであり,通常人であれば当然とる行動として是
認されるものといえるから,そこに上記の注意義務を怠った過失があるという
ことはできない。
3結論
以上によれば,被控訴人の本訴請求は,その余について判断するまでもなく
理由がない。これを一部認容した原判決は不当であるから,これを取り消し,
被控訴人の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民訴法67条2
項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第6民事部
裁判長裁判官近藤壽邦
裁判官太田晃詳
裁判官板橋愛子

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