弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人は無罪。
理由
第1争点
1本件公訴事実及び訴因としての共謀
本件公訴事実は,「被告人は,A,B及びCと共謀の上,平成12年7月1
3日午前9時30分ころ,(1)富山県高岡市内のDE方1階8畳和室において,
D(当時56歳)に対し,殺意をもって,所携の自動装てん式けん銃で,その
頭部を目がけて実弾2発を発射し,いずれもDの顔面に命中させ,よって,即
時同所において,Dを右下顎角部銃創による脳損傷により死亡させて殺害し,
(2)DE方1階北東4.5畳和室において,E(当時52歳)に対し,殺意を
もって,上記自動装てん式けん銃で,その後頭部等を目がけて実弾2発を発射
し,いずれもEの後頭部等に命中させ,よって,即時同所において,Eを左後
頭部銃創による脳損傷により死亡させて殺害し,(3)DE方において,B及び
Cが,上記自動装てん式けん銃及び回転式けん銃各1丁を,自動装てん式けん
銃に適合する実包8個及び回転式けん銃に適合する実包4個とともに携帯して
所持した。」というものである。
そして,検察官は,本件に係る共謀について,被告人とAとの間では,本件
の前日である平成12年7月12日午前11時ころから同日午後2時ころまで
の間に,携帯電話による通話及びその後暴力団a一家組事務所等で直接面談す
る方法によって成立し,更にAを介しBらとの間でも,遅くとも同日午後3時
台に,電話でのやりとりで順次共謀が成立したものと主張する。
2弁護人の主張及び被告人の供述
これに対し,弁護人は,本件公訴事実のうち,A,B及びCが共謀の上,B
及びCが自動式けん銃1丁及び回転式けん銃1丁とこれらに適合する実包を携
帯してDE方に押し入り,Bが同所で自動式けん銃を用いてDE夫婦を殺害し
たことについては争わないが,被告人がAらと共謀した事実は一切なく,被告
人は無罪である旨主張し,被告人も,捜査段階から一貫してAらとの共謀を強
く否認する。
3共犯者供述の信用性
本件においては,被告人と実行犯であるB及びCとの間では直接のやりとり
がほとんどなく,被告人とAとの間で共謀が成立したことに関する直接証拠は,
第8回ないし第17回公判調書中の証人Aの供述部分のみである。すなわち,
Aは,本件の発端は,自己が被告人からD殺害を持ちかけられたことにあり,
実行犯であるBへの殺害依頼やその後のBとの打合せ等,実行に向けた一連の
準備行為も,被告人と相談の上,その指示のもとに行ったものである旨証言す
る(以下,被告人との共謀等に係るAの証言を「A供述」という。)。
そして,検察官は,A供述の核心部分の信用性が高いとして,被告人とAと
の共謀の成立を主張するのに対し,弁護人は,A供述は全く信用できない,と
主張する。したがって,本件においては,いわゆる共犯者供述の信用性が被告
人の有罪無罪を決する最大の争点となる。
ところで,共犯者は,一般に,自己の刑事責任を免れ又は軽減させるため,
無関係な第三者を引き込む危険がある上,自身の犯行体験をもとに真実と虚偽
を織り混ぜて巧妙な嘘をつくことが比較的容易であることから,その供述の信
用性判断には慎重な検討が必要であるとされている。加えて,共謀共同正犯に
おいては,その性質上,共謀に関する客観的証拠に乏しい事案が多い上,本件
におけるAのように,共犯者が順次共謀の中間者である場合には,実行者と口
裏を合わせることなく単独で引き込み供述をし得る立場にあり,反対尋問も容
易に功を奏さないことについても,特に留意が必要である。
そこで,A供述の信用性判断にあたっては,いわゆる注意則を参照しつつ,
客観的事実ないし証拠との整合性,供述内容の合理性・自然さ等を多角的に検
討しなければならず,被告人の供述とも対比してその真偽を見極めることが必
要である(もちろん,被告人も,Aと同様,共犯者に責任を転嫁して自己の刑
責を免れるため,虚偽供述をするおそれがあるから,その弁解を安易に信用す
ることはできない。)。
4争点検討の順序
以下においては,まず,証拠上容易に認められる事実を前提事実として摘示
した上(第2),Aが供述する個々の間接事実について,その存在の可能性を
検討してから(第3),本件の中心的争点である共謀内容に関するA供述の信
用性を判断し(第4),A供述の外在的な事情を付加して更に吟味する(第
5),という順序で判断する。
第2前提事実
まず,関係各証拠により容易に認められ,被告人も強く争わない背景事情や
共犯者及び被告人らの行動等として,以下の各事実が認められる。
1被告人及び関係者の身上経歴等
(1)被告人
被告人は,富山県内で出生し,中学校を卒業後,昭和45年ころに一度暴
力団b組組員となり,その後料理店等で稼働していたものの,昭和58年6
月ころ,暴力団a一家の前身であるc組の組長であったDと盃を交わしてc
組組員となった。そして,被告人は,その直後から平成9年まで約13年間
にわたり,a一家の若頭を務め,その後会長代行を経て,平成12年当時は
副長の地位にあり,同時に,上部団体であるd組でも若頭補佐として活動し
ていた。
なお,被告人は,C型慢性肝炎の持病があり,平成9年11月10日から
同年12月26日まで入院し,その後も平成12年5月2日まで,毎月1回
程度通院をしていた。
(2)DE夫婦
Dは,昭和19年に同県内で出生し,中学校を卒業後,工員,土木作業員
として稼働していたが,昭和40年代ころから,暴力団組員として活動する
ようになり,平成12年当時は,上記a一家の組長の傍ら,e商事の実質的
経営者として金融業を営んでいた。
DE夫婦は,昭和48年に婚姻し,長女Fをもうけ,本件当時はDE方に
おいて二人で暮らしていた。そして,DE夫婦は,本件当時,不動産及び預
貯金約4億円のほか,DE方の屋根裏部屋に現金9300万円を隠匿保管す
るなど,多額の資産を保有していた。
(3)A
Aは,昭和22年に北海道で出生し,昭和60年ころから,富山県高岡市
内に移り住んでパチンコ店の店員として稼働するなどしていたが,平成3年
ころ,友人であった暴力団組員Gの紹介でDと知り合い,平成5年ころに飲
食店の経営を始めた後,その企業舎弟となり,前刑を終えて出所した平成9
年6月ころ,正式にa一家の組員となり,さらに,平成10年4月ころには,
a一家の若頭として活動するようになった。
2Dの被告人らに対する言動等
Dは,気性が荒く,非常に短気な性格で,配下の組員らに厳しい態度をとる
ことがしばしばあった。
被告人についても,同年5月ころ,Aと被告人とが志賀高原へ旅行中,Dは,
若い衆の行動に腹を立て,既に若頭を退いていた被告人の携帯電話に電話し,
その指導不足を叱った(反面,若頭になっていたAには,Dからの連絡がなか
った。)。また,Dは,同年秋ころ,自分に対して含み笑いした被告人に立腹
し,自宅に謹慎させたこともあった。
さらに,被告人が,平成11年7月28日,その配下の者と共謀し,高岡市
内の飲食店fにおいて,Dと兄弟分の暴力団組長Hらに暴力をふるって負傷さ
せるなどしたため,Dは,Hに1000万円を支払うなどの後始末をさせられ
た。加えて,被告人及びAは,同年秋ころ,g組系暴力団組長の妻の経営する
同市内の別の飲食店hにおいて暴れたことで,Dから,激しい叱責及び暴行を
受けた。
なお,被告人は,肝炎の治療のため入院中であった平成9年末ころ,当時被
告人の若い衆であったIが起こした暴力事件の仲裁を図ったことがある。
3A及び被告人とBとの接触の契機
A及び被告人は,平成11年3月ころ,Dの指示により,同市内のa一家事
務所(以下「組事務所」という。)において,当時暴力団i組会長であったB
を相手に,Dが以前所属していたj一家の関係者とBとの間のけん銃等の保管
をめぐるトラブルについて交渉した。A及び被告人とBは,このとき初めて面
識を持ち,以来,AとBは,携帯電話等で連絡を取り合うようになった。
4A及び被告人の外国人捜し等
A及び被告人は,平成11年の秋ないし冬ころ,Aのかねてからの知人であ
る暴力団k組組員Jと会いに神戸へ出向き,殺人を請け負う外国人の紹介を依
頼した。
また,A及び被告人は,Jとの面談と前後して,伏木港等に停泊している外
国船の船員や国道8号線沿いにある中古車店にいる外国人をたずね,身振り手
振りで,外国人マフィアに関する情報を聞き出そうとした。
なお,Aは,平成12年4月ころ,一人でGと会い,相手がDであることは
告げずに,殺人を引き受けるか否かをたずね,その場では了承されたものの,
翌日には断られたということがあった。
5A及び被告人のBへの接触状況
(1)A及び被告人は,同年1月24日,DE夫婦とともに静岡県にゴルフに
行く途中で宿泊した東京都新宿区内のlホテルにおいて,Bと面談した。そ
の際,金を出せば違法な仕事をしてくれる東京の中国人マフィアのことが話
題となった。また,Bは,サイレンサー付き自動式けん銃が2丁まとめてで
あれば安く買える旨の話をそのころ知人から聞いていたため,Aらに対し,
Bと一緒にけん銃を購入しないかと勧めた。
(2)Aは,上記けん銃の購入話を受けることとし,同年5月上旬ころ,Bか
ら,サイレンサー付き自動装てん式けん銃1丁及びその適合実包16発を購
入した。その後,Aは,上記けん銃を試射した上,耐火金庫に入れて知人の
Kに保管させた(このけん銃が,後に本件犯行の用に供された。)。
(3)Bは,同年6月1日,Aの招きに応じ,富山県に来訪し,同日午後5時
42分,高岡市内のホテルmにチェックインをした。その後,Aは,ホテル
m1階の喫茶店等において,Bに対し,Dがa一家内で組員に対して厳しく
当たることなど,Dに殺意を抱くに至った経緯を説明するなどした上,中国
人マフィアを実行役とするD殺害を依頼した。これに対し,Bは,知人であ
るLから,Lと親交がある強盗等の犯罪を敢行する中国人グループが強盗に
押し入る先を探している旨聞かされていたので,Lを介して中国人らに持ち
かけることとし,Aの依頼を了承した。そこで,Aは,同日夕刻以降,下見
のため,Bを自己の運転する車に乗せ,同県新湊市《現在は射水市》にある
Dの愛人方や高岡市内のDE方等を案内して回った。なお,被告人は,来訪
中のBと会っていない。
6A及びBらのDE方襲撃に向けた準備
Bは,帰京後,Lに対し,強盗に見せかけた殺人を中国人マフィアに依頼し
たい旨持ちかけ,Lは,これを了承した。その後,Bは,Aから支払われる約
束になっていた1500万円のうち,まず800万円の送金を依頼し,Aは,
これに応じ,同月5日,同額をBに送付した。
そして,Bは,Lの仲介で,中国人マフィアのMと会い,強盗に見せかけて
DE夫婦を殺害してくるように依頼したところ,強盗はするが殺人はしないと
断られた。しかし,Bは,Lから,中国人は強盗を敢行すれば家人まで殺害し
てしまうことが多い旨聞かされたため,DE夫婦が殺害されることを期待し,
Mには強盗のみを依頼してその旨の承諾を受け,Mに上記800万円のうち2
00万円を準備金として交付した。
他方,Aは,そのころ,BからDE方付近の地図及びDE夫婦の写った写真
の送付を求められ,また,中国人には強盗をやる人間は相当いるが,殺人だけ
ではあまり人がいないなどと言われたため,Bらが,D殺害に際し,DE方に
押し入り,強盗に見せかけ併せて金を奪ってくるつもりであることを察知した
ものの,自らが依頼したD殺害遂行のためにはやむを得ないと考え,これを認
容した(以下,このときAらの間に成立した合意の内容を「DE方襲撃計画」
という。)。そして,Aは,同年4月26日にnゴルフ場で被告人とAがDE
夫婦を挟み4人が横一列に並んで撮影した写真(以下「Aら4名の写真」とい
う。)を自ら所持していたことから,そのAと被告人の写っている両端部分を
切り取ってDE夫婦が写っている部分のみを残した写真(以下「本件写真」と
いう。)を作出した上,Bに対し,本件写真,DE方付近の住宅地図のコピー
及びDE方の隠し金庫の位置等の説明を付記したDE方内の見取図を送付した。
それから,Bは,同年6月11日夜,埼玉県川口市内のカラオケ店等で,L
とともに,中国人グループとDE方襲撃計画について打合せを重ねる一方,自
分の養子であるCにも同計画を打ち明けて自動車運転手役等をするように命じ,
Cに了解させた。また,同月17日昼,B,C及びLは,DE方を下見してそ
の様子をビデオカメラで撮影し,同月21日夕方,東京都武蔵野市内のホテル
の一室で,中国人グループに対し,この撮影に係るビデオテープを再生して見
せるとともに,Aから入手した本件写真,見取図及び地図等並びにBが入手し
てきた自動装てん式けん銃1丁,サイレンサー1個及びその適合実包を渡した。
さらに,Bは,バール等の強盗の道具や偽造ナンバープレートを用意したほか,
Lも,普通乗用自動車(以下「ワゴン車」という。)を手配するなどし,DE
方襲撃計画の準備を整えていった。
なお,DE方襲撃計画は,当初,同月25日に実行する予定であったが,D
に予定が入ったことなどから,結局,同月30日に実行する手はずとなった。
7DE方襲撃計画の失敗
同月29日午後零時30分ころ,中国人らは,埼玉県草加市内の店舗駐車場
から,上記自動装てん式けん銃等が積み込まれたワゴン車ともう1台の自動車
の2台に分乗し,N及びCの運転により石川県経由で富山県に向かい,同日午
後7時前,金沢市に到着し,同市内の2つのホテルに宿泊した。ところが,中
国人らは,同月30日午前7時すぎころ,ワゴン車に乗り込み富山県へ出発し
ようとした際,不審者が宿泊しているという通報を受けて付近に張り込んでい
た警察官に銃砲刀剣類所持等取締法違反で現行犯逮捕され,上記自動装てん式
けん銃や本件写真,DE方周辺の地図等の証拠品も押収された。そのころ,B
とLは,L運転の普通乗用自動車(以下「甲車」という。)で石川県内に来て
いたが,Cからの連絡により中国人らが警察官に検挙されたと考え,当日の計
画を中止した。
しかし,Bは,同日午前,AにDE方襲撃計画の失敗を電話で連絡し,機会
をうかがって再度計画を実行することとした。また,BとLは,甲車に積載さ
れていた偽造ナンバープレートや脇差しを,石川県内のoダム近くの駐車場付
近に隠した。さらに,Bは,Aに,自分が中国人らに渡した本件写真等が押収
されていないかなどの捜査に関する情報を教えてもらうよう依頼した。
その後,Bは,Aに,DE方襲撃計画を再度実行するため中国人らに支払う
追加資金の提供を要求したので,Aは,同年7月4日と同月6日の2度に分け
て,Bに合計400万円を振込送金した。
8AとBらとの共謀成立状況
逮捕された上記中国人らの捜査をしていた石川県警察は,押収物の中にDE
方周辺の地図等があったため,Dから事情を聞く必要があると考え,高岡警察
署員が,同月12日(以下「本件前日」ともいう。)午前10時から午前10
時40分までの間,事情聴取に応じるか否かDの意向を確認するため,DE方
を訪れてDと面談し,これに応じる旨の回答を得た。
Aは,同日午前11時2分のDからの電話で,Dが翌日13日(以下「本件
当日」ともいう。)に事情聴取のため石川県警察金沢東警察署に赴く旨聞かさ
れた。Aは,本件写真の元となったAら4名の写真がA,被告人及びDE夫婦
しか所持していないものであったため,本件写真をDE夫婦が確認するなどす
れば,自己がDE方襲撃計画に関与していたことが発覚し,Dから厳しい制裁
を受けることをおそれ,Bにその旨の連絡をし,以後,電話でDE夫婦を直ち
に殺害するよう依頼した。これに対し,Bは,DE方襲撃計画の発覚を免れる
ためには,Dが本件写真を警察署で確認する前に殺害するほかはないと考える
に至り,Aに電話でDE夫婦殺害の要請に応じる旨回答し,ここにDE夫婦殺
害の共謀が成立した。そこで,Aは,DE夫婦殺害の際に凶器として使用する
けん銃2丁を用意しておくことを伝えた。
それから,BとCは,本件前日午後4時すぎ,東京都台東区内の店舗でDE
夫婦殺害を実行する際に着用する衣服等を各自購入した。Cは,この際,Bが
自分と二人でDを殺害する意図であることを認識するとともに,DE方襲撃計
画が発覚して報復を受けることを避けるためにはDE夫婦を殺害せざるを得な
いと考え,DE夫婦殺害の順次共謀が成立するに至った。
9本件の実行準備及び実行直前の状況
BとCは,C運転の普通乗用自動車(以下「乙車」という。)に乗り,同日
午後8時50分,練馬インターチェンジから関越自動車道に入り,途中で甲車
に乗ったLと合流し,2台で北陸自動車道を経由して高岡市に向かった。そし
て,Bは,まずoダムに行き,同所で自動車のナンバープレートを先に隠して
いた偽造ナンバープレートに取り替えることとし,Aとの間では,同ダムから
高岡市方面に向かう道路の途中で落ち合い,Aからけん銃等を受け取ることを
決めた。
他方,Aは,同日午後11時50分前後に被告人方を訪問し,Bにけん銃等
を引き渡す待ち合わせ場所を確認するため,本件当日午前零時ころ,当夜組事
務所に泊まっていたa一家組員Oに対し,被告人方の電話でoダムの場所を問
い合わせた。
そして,Bは,同日午前3時半ころ,oダムに到着し,その後,自ら乙車を
運転して同ダムから高岡市方面に向かい,同日午前4時半ころ,その途中の道
路でAと落ち合い,Aは,Bから購入した自動装てん式けん銃1丁及びサイレ
ンサー1個,別に入手していた回転式けん銃1丁並びにこれらの適合実包をB
に引き渡した。Bらは,これを試射した。
なお,同日午前5時25分ころ,氷見市内で甲車のタイヤがパンクするアク
シデントが発生し,AからBへの電話でBがその旨を告げると,Aは,車で,
Bらのもとへ向かった。その際,Aは,Bとの連絡用に使用していたプリペイ
ド式携帯電話を自宅に忘れたため,所持していた携帯電話で自宅に電話し,自
分の妻にBの携帯電話の番号を教え,プリペイド式携帯電話でBに電話して所
在をたずねるよう要請し,Aの妻は,同携帯電話でBと連絡を取った。
それ以降も,Aは,Bと携帯電話で連絡を取り合い,前夜用心のためDE方
を避けて組事務所に泊まっていたDE夫婦の動静を伝え,Bらは,DE方近く
の駐車場に移動して待機し,Dを殺害する機会をうかがっていた。
同日午前9時前,DE夫婦が組事務所から一度DE方に戻ることになったの
で,Aは,この機会にDE夫婦の殺害が実行できると考え,同日午前8時57
分,上記駐車場の甲車内で待機していたBにこの旨を電話で連絡した。また,
Aは,このころ,犬の散歩のためにDE方に行くこととなっていたa一家組員
Pに電話をかけ,Dらが組事務所に忘れていったバッグ等を取りに来させてD
E方に近づかないようにした。それから,Aは,同日午前9時21分,Bに対
し,今なら大丈夫だからDE方に押し入ってくれなどと電話で申し向け,殺害
の実行を指示した。そこで,Bら3名は,直ちにDE方に向かい,DE方付近
で,Bが自動装てん式けん銃を,Cが回転式けん銃をそれぞれ持って甲車から
降り,DE方に押し入って,本件犯行に及び,DE夫婦殺害の目的を遂げた。
10本件後の状況
(1)本件の発覚及び捜査開始
Aは,本件の発覚をできるだけ遅らせるため,同日午後6時近くになって
からOらにDE方の様子を見に行かせ,DE方でDE夫婦の死体を発見した
Oからその旨の報告を受けて110番に通報をし,警察の捜査が開始された。
なお,被告人及びAは,現場で警察の事情聴取を受けた。
(2)Aの罪証隠滅行為
本件後,Aは,Bとの連絡に使用した携帯電話を投棄したほか,同年8月
中旬,逃走中のBに会うため北海道に赴き,既に死亡していた某人の写真を
見せ,Bが携帯電話で連絡を取り合っていたのは某人である旨の供述をする
よう依頼するなどの罪証隠滅工作を行った。
また,Aは,本件に使用された回転式けん銃と別の回転式けん銃の弾が混
ざってしまったことから,それぞれの弾を区別しておかないと,同けん銃が
警察に発見されたときに,本件まで発覚してしまうと考え,同月中旬ころ,
被告人の愛人である韓国人女性が住んでいた高岡市pにあるマンションの一
室(以下「pマンション」という。)において,被告人と一緒に弾の仕分け
作業をし(以下「本件弾分け作業」という。),その後,Aは,本件に使用
された回転式けん銃に適合する弾を川に投棄した。
(3)a一家の掌握状況
Aは,DE夫婦の通夜の際にd組のQ組長から指名を受け,同年7月19
日にはDの跡を継いでa一家の2代目組長に就任した。なお,a一家は,平
成14年4月にq会と名称を改めた。
また,Aは,DE夫婦の唯一の相続人であるFから,平成12年9月18
日,DE夫婦殺害犯人の探索資金名目で3000万円を,平成13年2月2
8日にも,d組に対する上納金名目で3000万円を,それぞれ用意させ,
一旦d組の組長らに交付したものの,そのうち合計2000万円を再び受け
取ってa一家の運営資金等に費消した。
さらに,Aは,Dが2億9000万円を貸し付けていた元パチンコ店経営
者Rとの間で交渉を行い,貸付金の返済額を大幅に減じた上で,F宛ての振
込を含めて少なくとも合計5000万円の返済を受けた。加えて,Aは,e
商事から,平成12年8月以降組長の経費名目で毎月30万円程度を受け取
っていたほか,平成14年7月以降の逃亡中にも金銭を引き出した。
(4)本件の捜査及び公判の状況
B及びCは,平成12年8月下旬から同年末までの間,本件等(強盗予備,
殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪)について逮捕,起訴されたが,そ
の捜査や公判段階において,首謀者との共謀状況等の供述を拒んでいた。
他方,Aは,平成13年7月下旬ころ,別件の威力業務妨害罪で逮捕され
るのではないかという噂を聞き,警察から本件について追及されることをお
それ,同年8月下旬ころまでの間,愛媛県松山市に逃走した。なお,Aは,
その直前に,本件に関する被告人との会話をマイクロカセットテープに録音
した。また,Aは,平成14年6月25日,威力業務妨害罪で逮捕されたが,
病気を理由に釈放されるや,同年7月初め,入院先から再度逃走し,同年1
0月13日に再逮捕されるまで愛人であるSとともに長野県内等に潜伏して
いた。
ところが,Bは,同月8日,Bらの公判が一度結審して接見禁止が解かれ
た後,同月24日に元の兄貴分が面会に来たことを契機として,本件におけ
るA及び被告人の関与を供述するに至った(なお,平成15年3月の段階で
は,被告人が平成12年6月2日以降事件に関与しなくなった旨供述を変え
ている。)。そのため,Aは,殺人罪等で逮捕され,平成14年12月16
日,本件についても起訴された。しかるに,Aは,捜査段階では,本件への
関与を否認していたものの,起訴後の平成15年1月16日には,上申書を
提出して自己及び被告人の関与を供述するようになったが,E殺害の共謀に
ついては否認を続けた。一方,被告人も,本件について,同月30日,逮捕
され,同年2月20日,起訴されるに至り,第8回公判(同年12月18
日)から第17回公判(平成16年9月9日)にかけてAの証人尋問が実施
された。
なお,平成16年3月26日,Bに対しては死刑が,Cに対しては懲役1
8年がそれぞれ宣告された。また,平成17年1月27日,Aに対しても死
刑が宣告された(本件のほか,併合された建造物侵入,威力業務妨害,覚せ
い剤取締法違反の罪を含む。)。
第3Aが供述する間接事実の認定の可否
1共謀成立から本件実行前までの被告人らの行動等
(1)午前11時17分のAと被告人との通話
Aは,本件前日午前11時2分(以下,本項では,特に断らない限り時刻
は同日のものとする。),Dからの電話で,翌日金沢東警察署に事情聴取を
受けに行く旨告げられ,DE方襲撃計画への自己の関与が発覚し,Dから激
しい制裁を受けるとおそれたことは上記第2の8のとおりであるから,Aは,
その時点から善後策の検討が必要になったと考えられる。したがって,Aが
同電話に比較的近接した午前11時17分に被告人に電話していることは,
Aと被告人との間でDE夫婦殺害の共謀が成立したことを推認させる間接事
実となり得る。
しかし,通話記録によれば,Aから被告人への午前11時17分の電話は,
午前11時2分のDからの電話(通話時間2分33秒)の後,同5分にTに
(同37秒),同7分にBに(同1分3秒),同9分にUに(同1分54
秒),それぞれ電話した後,Dとの通話終了後12分あまり後に初めてされ
たものである。しかも,午前11時17分の通話時間は,わずか21秒間で
あるから,一般に,殺人の共謀が行われる時間としては,あまりにも短すぎ
る。
そうすると,この通話の存在自体から直ちに被告人の本件への関与を推認
することはできない(その通話内容に関するA供述の信用性については,後
に第4の1(2)アで検討する。)。
(2)組事務所での状況説明
Aは,本件前日昼すぎころ,組事務所へ行って被告人と会い,上記電話の
続きとして,Bとの電話の内容,Dら殺害にどのけん銃を使うかなどについ
て説明した旨証言する。そこで,Aと被告人とが,そのころ,組事務所で会
って話をすることができたか否かを検討する。
a一家の事務所当番が,組員が組事務所に来た時刻や組事務所への電話が
あった時刻等を記載するノート(以下「当番日誌」という。)には,被告人
が午後零時11分に,Aが午後零時30分に,それぞれ組事務所へ来た旨の
記載がある。この当番日誌は,その当時,a一家のいわば日常業務の一環と
して,本件とは無関係に作成されていたものである。弁護人は,当番日誌の
記載は正確な時間を反映していない,と主張するが,電話連絡の時刻の記載
と通話記録とを対比すると,数分程度の誤差はあるにしても,大きく食い違
うことはない。したがって,当番日誌の記載は,おおむね信用できるという
べきである。
そして,午後零時14分に被告人からAに電話をかけた後,午後1時44
分まで被告人とAとの通話記録がないが,これは,当番日誌の記載と矛盾し
ない。一方,被告人は,前夜預かった現金300万円を届けるためDE方に
行き,午後1時ころ,組事務所に戻った旨供述している。
これらを併せ考えれば,当番日誌記載の各時刻の前後に被告人及びAが組
事務所へ来たこと,つまりAと被告人とが比較的近接した時刻に組事務所に
いたという事情を認定することができる。なお,被告人は,Aは本件前日昼
間組事務所に来るはずがない,というが,その根拠は確実でない。
そうすると,Aと被告人とが,本件前日昼ころ,組事務所で直接会って話
をすることは十分に可能であったと認められる(ただし,Aがこのとき組事
務所で被告人に状況を説明したことは,A供述なしには認定できない。その
会話内容に関するA供述の信用性については,後に第4の1(2)イで検討す
る。)。
(3)けん銃の指紋ふき取り
Aは,本件前日午後,pマンションにおいて,被告人と二人でけん銃に付
着した指紋をふき取る作業をした旨供述する。
アまず,Aがその時点までにけん銃をKから手元に引き上げて用意してい
たか否かを検討する。
Kは,本件前日ないし当日にはAから預かっていた耐火金庫の受渡しは
なく,それより1週間ないし10日前にはこれをAに返していた記憶であ
る旨証言する。しかし,本件前日午前11時台よりも前の段階では,Aが
けん銃を引き取るべき理由は見当たらない。しかも,Kの証言は,具体的
にどの時点で誰から誰に対し耐火金庫を受け渡したのかがあいまいである
(A供述も,同様である。)。加えて,Kは,本件への関与を疑われた場
合,大きな不利益を被りかねないから,Kには真実と異なる供述をするだ
けの動機があると認められる。これらの事情に照らすと,Kの証言は,そ
のままには信用できない。
むしろ,本件当日午前1時27分のAからKへの電話は,AがBと落ち
合う直前という時間帯,Bとの連絡用に使用していたプリペイド式携帯電
話を使用していること,Aが午前3時3分Vにも同様の電話をかけている
ことなどに照らせば,AがK方へけん銃を引き取りに行くための連絡であ
った可能性が高い。
そうすると,検察官の指摘するA側の事情を考慮しても,Aが本件前日
午後7時以前にけん銃を手元に用意していたことは疑わしい。
イ次に,被告人が同作業をすることが時間的に可能であったか否かを検討
する。
同日の被告人の行動を見ると,まず,午後3時15分には警備会社に電
話しているが,これは,DE方が中国人から狙われたことを受け,同方の
セキュリティを向上させる目的で,DE方でかけたものと認められる。次
に,被告人とAとは,午後3時46分,同55分,午後4時42分,午後
5時17分,同19分,同26分と断続的に通話をしているが,このAと
被告人とが通話している時間帯には,両名は会っていなかったものと認め
られる。その後ほどなく,両名は,用心のため組事務所に泊まることとし
たDE夫婦が寝るための布団をDE方から運んだ(これは,Aと被告人と
の間では午後6時台の通話記録がないことにより裏付けられている。)。
それから,Dは,午後7時8分及び36分の電話で友人であるWを夕食に
誘い,Aが,午後7時37分に焼肉店rに予約の電話を入れた後,被告人
も,DE夫婦らとともに出かけた。したがって,被告人がAとpマンショ
ンで会っていたとすれば,その時間帯は,午後3時55分の通話の終了後,
次の午後4時42分の通話前の約47分間しか考えられない(検察官主張
のように,午後3時57分の被告人の韓国人女性への電話が同女をpマン
ションから退出させるためのものであったすれば,その裏付けとなり得
る。)。
また,午後3時49分44秒にDE方から被告人の携帯電話番号と矛盾
しない電話番号(090−329…)に電話がかけられているが,この通
話の開始は,Aと被告人との通話が終了した午後3時49分42秒の2秒
後である。そして,検察官主張のように,これが被告人の携帯電話のキャ
ッチホン機能によりAとの通話が終了したものであるとすれば,DE方か
らの通話は被告人宛てのものであって,被告人はその時点では既にDE方
から退去していたことになる(ただし,検察官が主張するキャッチホン機
能の使用状態については,通話記録しか裏付けがないから,直ちにそれが
Eから被告人への通話であったと断定することはできない。)。
一方,被告人は,午後2時ころから午後5時ころまでDE方にいた旨供
述する。しかし,被告人は,本件直後を含む捜査段階では,午後3時すぎ
ないし午後4時にはDE方から帰宅した旨供述していた。したがって,被
告人の弁解は,そのままには信用できない。
そうすると,午後4時台であれば,被告人がDE方を退去した後にAと
会い,一緒にけん銃の指紋をふき取ることが可能であったということがで
きる(ただし,実際に同所においてけん銃に付着した指紋をふき取る作業
をしたという事実は,A供述なしには認定できない。この点に関するA供
述の信用性については,後に第4の2(2)アで検討する。)。
なお,検察官は,午後4時28分のAからsサッシへの電話について被
告人が具体的かつ詳細に供述している点を捉え,この供述自体,被告人が
午後4時台にAと行動をともにしていた事実を強く推認させる,と主張す
る。しかし,被告人の供述は,全体として専ら純粋な記憶に依拠したもの
ではなく,通話記録を検討しつつ,推論を重ねながら,いわば理由を後付
けした説明であることが容易に見て取れる。したがって,その電話の用件
が被告人の記憶に残っているとは思えないから,上記供述そのものは,被
告人がAの側にいたことの裏付け証拠にならないというべきである。
(4)oダムへの道順確認
Aは,午後10時51分から午後11時28分までの間,Sと射水郡大島
町《現在は射水市》内のホテルを利用していたこと,その間,被告人は,午
後11時24分,Aに電話をかけたこと,その後,Aは,午後11時50分
前後に一人で被告人方を訪れ,午後11時59分以降,被告人方の電話でO
に対し,けん銃等の受渡場所であるoダムまでの道順を聞いて確認したこと
が認められる。
しかるに,当時の状況下で,本件と無関係の者にその準備の一部でも関与
させることは,発覚と同時に事件との関連性を疑われることになるから,相
当高いリスクを伴うところ,Aは,本件準備行為の中核部分であるけん銃受
渡しを目的とする行為について被告人を手伝わせている(被告人は,事後的
にではあるが,AからOへの口止めの相談を受けたと供述している。)。ま
た,Aは,Sとホテルに入ってからさほど時間が経っていないのに,被告人
からの電話を受けた約4分後にはあわただしくホテルを出て,深夜にもかか
わらず,すぐさま被告人方を訪れている。これらの事情に照らせば,午後1
1時24分の電話及び被告人方でのけん銃受渡場所であるoダムへの道順確
認は,本件当時,被告人がAの犯行計画を既に知っていたことを強く推認さ
せる間接事実であるというべきである。
ただし,Aは電話の相手であるOへの口止めが必要であったことに照らし,
Oは本件に関与していないと認められるから,本件と無関係の者が犯行準備
に関与するのを避けるという観点からすると,Aないし被告人の行動は一貫
していないともいえる。したがって,上記道順の確認をもって直ちに被告人
とAとの共犯関係を推認することはできない。
(5)甲車パンク時のやり取り
Aが被告人方から退去した後,本件当日午前8時52分にAから電話する
までの間,被告人が自宅の電話及び通常使用している携帯電話でAと通話し
た記録は一切見当たらない。この時間帯は,正にAが実行犯であるBらと落
ち合い,凶器であるけん銃を引き渡すなどの重要な役割を果たしている場面
を含んでいる。被告人が本件に関与していたと仮定すると,けん銃の受渡場
所の確認のためにAを自宅まで呼びつけるという慎重な態度をとったはずの
被告人が,実行犯へのけん銃の受渡しという本件の成否を左右する重要な事
柄について,Aに報告を求めたり被告人から確認の連絡を欲しなかったとい
うことは,通常考えられない。そうすると,この点は,共謀の成立を否定す
る間接事実であるというべきである。
のみならず,上記第2の9のとおり,本件当日午前5時25分ころ,L運
転の甲車のタイヤがパンクするというアクシデントが発生した。そして,実
行犯の使用する車が走行困難になったことは,犯行計画を完遂する上で大き
な障害になる。ところが,Aは,Bからその旨の電話連絡を受けたにもかか
わらず,被告人に対する報告や連絡を一切していない。仮に,被告人が首謀
者の一人であるならば,Aは,被告人に連絡を取ってしかるべきである。し
かし,Aは,本件と何の関わりもない身重の妻(当時妊娠8か月)に対し,
Bとの連絡役を依頼したにとどまる。したがって,この点は,共謀の成立を
強く否定する間接事実といわなければならない。
(6)午前9時台の組事務所への立寄り
Aは,BらがD殺害に成功したときは,BからAに電話の呼出音を1回鳴
らす(以下「ワンコール」という。)よう頼み,被告人にもそのことを伝え
ており,本件当日午前9時30分ころ,Bから自分の携帯電話にワンコール
があったので,組事務所の外で,被告人にそれを伝えた,と供述する。そこ
で,Aが組事務所で被告人にBからのワンコールを伝えることができたか否
かを検討する。
まず,ワンコールの時期については,弁護人は,Lの証言等に基づき,早
くとも午前9時40分ころと主張するが,通話記録には表示されておらず,
Aの携帯電話の着信履歴もないのであるから,本件の証拠上は,午前9時3
0分すぎとしか認定できない。
次に,当番日誌には,被告人は,本件当日午前9時30分に組事務所へ来
た旨記載されているところ,当番日誌の記載は,上記(2)のとおり,おおよ
その時刻という限度では十分に信用することができる(ただし,Aが本件当
日午前8時に組事務所へ来た旨の記載については,もっと早かった可能性が
ある。)。そして,被告人は,午前9時39分にはAに,午前9時40分に
は組事務所に,それぞれ電話をかけている。
一方,被告人は,午前9時台に組事務所へ立ち寄ったこと自体は認めなが
ら,BからAにワンコールがあったと思われる時間には,既に組事務所から
立ち去っていた旨弁解する。しかし,検察官指摘のような当番日誌の記載と
通話記録との一致状況に照らすと,記載の順序が正しければ,被告人が組事
務所に来たのは,午前9時20分以降と認められる。しかも,被告人は,本
件直後を含む捜査段階では,午前9時25分ころ組事務所に行き,約10な
いし15分間いた旨供述していた。したがって,被告人の弁解は,たやすく
信用できない。
これらを併せ考えれば,被告人はワンコールのあった午前9時30分すぎ
の時間帯に組事務所にいたことを認定することができる。そうすると,Aが
被告人にBから受けたワンコールを報告することは可能であったと認められ
る(ただし,実際にAが組事務所で被告人にワンコールがあったことを報告
したという事実は,A供述なしには認定できない。この点に関するA供述の
信用性については,後に第4の2(2)ウで検討する。)。
なお,Aは,本件当日朝,被告人に対し,DE夫婦を金沢東警察署まで送
っていくように依頼したことは認めているから,被告人の午前9時半ころ組
事務所に行った理由が,本件実行時のアリバイ作りにあったように推認すべ
きではない。
2本件前の被告人らの行動等
(1)lホテル等における外国人捜し
上記第2の4のとおり,A及び被告人は,平成11年ころから,殺人を請
け負う外国人の紹介を知人等に依頼するなどしている。特に,平成12年1
月24日のlホテルでのBとの面談は,その後,Bとの間でDE方襲撃計画
が進められ,更に本件に至ったという経緯に照らすと,本件の準備行為であ
るとも位置づけられる。そうだとすれば,被告人も,本件の準備行為をAと
共同で行っていることになるから,被告人とAとの共犯関係を推認させる間
接事実ということができる。
しかし,A及び被告人が同日lホテルに宿泊したのは,翌日にDE夫婦と
ゴルフに出かけるためであり,その参加者全員が同宿している。そのような
状況で,D殺害のための外国人の紹介を依頼することは,その場面をDらに
見咎められて会話の内容を問い質されるおそれもある。したがって,A,被
告人及びBが,あえてその場でDの殺害に関する話をすべき理由は見出し難
い。
しかも,このとき,Bから実行犯の紹介を拒絶されたわけではないのに,
Aは,その後一人でGに対しても,殺害対象がDであることを告げずに,そ
の実行を依頼している。これは,それまで被告人とAが専ら外国人を実行役
とする依頼をしてきたことと符合しない(かえって,弁護人主張のように,
Aの単独計画であったことを疑わせる。)。
一方,被告人は,これらの外国人捜しにつき,その概要は認めながらも,
t会の内部抗争(跡目争い)に備えるためであって,Dの発案,指示による
ものである旨弁解している。この点につき,検察官は,抗争等の準備として
外国人を雇い入れる必要性は乏しい状況であった,と主張する。しかし,t
会2代目会長が死亡した平成13年11月には,d組組長代行のXが死亡し
たことやAがDからサイレンサー付き自動式けん銃の購入を指示されていた
ということに照らすと,抗争勃発の危険がない状況であったとはいえない。
したがって,被告人の弁解を虚偽のものと断定することはできない。
そうすると,これらの外国人捜しをもって直ちに本件の準備行為と位置づ
けることはできないというべきである。
(2)Bの来訪時の対応
上記第2の5(3)のとおり,平成12年6月1日,BがAの招きに応じて
高岡市まで出向いた際,Aは,Bに対し,中国人マフィアを実行役とするD
殺害を依頼し,当夜,DE方等を下見し,夕食時も,Dらの悪口を告げるな
どして,4時間半以上誰とも電話連絡を取らないで,誠に熱心に殺害依頼を
続けていた。これに反し,被告人は,同日,石川県内へゴルフに出かけてい
て,Bとは会っていないし,翌朝の見送りもしていない。のみならず,Aと
の電話のやり取りすら,午後6時30分台に1往復があっただけである。こ
のように,D殺害の了解を得てDE方襲撃計画を合意,立案するという極め
て重要な場面において,被告人の関与が皆無に等しいことは,この当時,被
告人が本件に全く関与していなかったことを強く推認させる間接事実である
ということができる。
もっとも,Aは,被告人も飲食店uでBと会食しながら面談する予定であ
った,と証言する。しかし,実際にAがBと夕食を摂ったのは,焼肉店vで
あった。しかも,被告人のゴルフ場の精算時間が午後6時20分であったこ
とからすると,被告人が高岡市に帰着するのは,午後8時前後と遅くなる。
さらに,Bは,Aが被告人を電話で呼び出そうとするのを,何回か断ったと
証言する。これらを併せ考えると,被告人がAからBとの飲食の話を聞いて
いたとしても,被告人にはBとの会食をする事前の約束や具体的予定はなか
ったと認められる(AがBにD殺害を依頼済みであったという事情は,Bの
承諾前である限り,この認定の妨げにならない。)。加えて,Bとの下見の
所要時間が30分間というAの説明は,ホテルmから新湊市までの往復時間
に照らし,無理といわざるを得ない。したがって,Bの来訪時の被告人の関
与をいうA供述は,信用性が乏しいというべきである。
(3)被告人による資金提供の有無
Aは,DE方襲撃計画を含む本件の支度金の1500万円は,被告人から
提供された旨供述する。そこで,この事実が認定できるか否かを検討する。
確かに,AがBに支度金の一部として800万円を送った同月5日と比較
的近接する日に,被告人がAに対し,1500万円を渡したことは,被告人
も自認するところであり,十分に認められる。しかし,その時期は,Y及び
Zの各供述や通話記録等によれば,被告人が同月28日にYから,同月末こ
ろにZから,各750万円ずつ合計1500万円を借り入れた後である可能
性が高いと認められる。他方,Aも,同年4月にYから土地売却代金516
万円を得ており,この当時,1500万円程度は自分で用立てることが可能
であった旨自認している。
そうすると,上記支度金の出所が被告人であると断定することはできない。
3本件後の被告人らの行動等
(1)上記第2の10(2)のとおり,被告人は,本件後,pマンションにおいて,
Aと二人で本件弾分け作業をしたほか,Aは,逃走に先立ち,被告人と本件
に関する会話をテープに録音していたことが認められる(ただし,会話の趣
旨は明確でないから,その内容から事前共謀の成立を認定できるものではな
い。)。これらの事実に照らし,その当時,被告人が,Aの本件への関与を
知るに至っていたことは明らかである。
しかるに,Aが,本件のように極めて重大悪質な事件について,差し迫っ
た必要もないのに,共犯者以外の者に自己の関与を打ち明けることは,常識
的には考えられない。したがって,これらの事実は,被告人が,本件前から
Aの関与を知っていたことを推認させる間接事実であるということができる。
(2)被告人の弁解の要旨
被告人は,(本件前にはDE方襲撃計画にもDE夫婦殺害にも全く関与し
ていなかったが,)DE夫婦の写った本件写真等を中国人が持っていたとい
う話などから,どうも腑に落ちない点が幾つもあり,もしかするとa一家の
中にDE夫婦殺害に関与した人間がいるかもしれないと思った。
そこで,被告人は,DE夫婦の葬儀が終わった後,同年7月17日か18
日の夕方,Aを誘い出し,車の中で「オヤジの件何か変でないか。」と言っ
た。この時,Aのことを全く疑っていなかったが,Aが急にうつむいて黙り
込んでしまったため,本件への関与を疑って追及したところ,実行犯を手引
きした旨告白した。被告人は,怒りがこみ上げてきて,Aの顔面等を多数回
殴りつけた。Aは,涙を流しながら,「がまんできずにやってしまった。B
に頼んでやってもらった。」と言った。被告人は,a一家を存続させること
を優先してしまい,Aに対し,「このことは聞かなかったことにする。」と
だけ言った。
その後,Aが話してくる本件の中味を聞いた。被告人は,同じ組員同士で
ある上,事件にふたをしてしまった引け目もあったので,もしAが本件で逮
捕されたりすれば,Aの弁護料を負担し,Aの家族にも生活費を渡して面倒
を見るという約束をしていたが,何もしなかった。
(3)検討
検察官は,被告人の供述するDE夫婦に対する思いとは全く矛盾する行動
を取っているのであって,本件後の被告人の行動は,被告人のDらに対する
思いの軽さを物語るものであり,また,被告人が本件に関与していたことを
強く推認させるものである,と主張する。
確かに,被告人は,これまでDE夫婦に多大の恩義がある旨強調している
にもかかわらず,AがDE夫婦殺害に関与したことを知らされながら,他方
で,Aへの制裁は告白直後に殴りつけたにとどまり,その後警察にもa一家
の上部団体にも全く相談せず,かえってAに資金援助の約束までし,さらに,
Aの破門後は跡目を継いで自らa一家の組長に就任しているのであって,被
告人の言行に不一致があることは明らかである。
そして,被告人は,真相を知った時点で直ちにAを殺害するなどの峻烈な
報復ができなかったために,逆に事件にふたをするしかない状況に追い込ま
れてしまった,時間の経過により自らの安定した生活を守ろうとする保身の
意識も強くなり,Aと秘密を共有しているかのような感覚も抱いていた,と
も弁解する。このような被告人の弁解は,一般論としては,合理性に乏しく,
いささか不自然であるというほかない。しかし,既にa一家の執行部からは
外れ,自宅の新築中であり,特に経済的に困窮していたわけでもないという
本件当時の被告人の生活状況等に鑑みれば,被告人の弁解が客観的事実と矛
盾するわけではなく,また,被告人の行動もあながち了解不能とはいえない。
したがって,被告人の弁解が全くの虚偽であるとは断定できない。
ともあれ,本件の事実認定上,上記(2)の被告人供述の信用性如何は,被
告人の本件への関与の有無を推認させる間接事実として位置づけられるにと
どまるのであって,これにより被告人との共謀についてのA供述の信用性が
直接的に高まるという関係にはない。
4間接事実による被告人とAとの共謀認定の可否
A供述の信用性を判断する前提として,A供述を除外した間接事実だけで被
告人とAとの共謀が認定できるか否かを検討しておく。ここでは,Aと被告人
との共謀を推認するための間接事実は,証拠上確実に認定できるものでなけれ
ばならない。
(1)上記1のとおり,本件前日午前11時すぎから本件当日午前9時30分
ころの殺害実行までの間において,被告人がAと共謀を遂げていたことを推
認させる間接事実としては,①本件前日の午前中,Dから翌日警察へ事情聴
取に出向く旨伝えられたAが,その後比較的近接した時間に被告人に電話を
かけていること,②本件前日昼ころ,組事務所において,Aが被告人に会っ
て状況を説明することは可能であったこと,③同日深夜,Aが被告人方を訪
れ,本件凶器となるけん銃等をBに引き渡す待ち合わせ場所について確認し
たこと,④本件当日午前9時30分すぎころ,組事務所において,Aが被告
人にBのワンコールを伝えることは可能であったことが挙げられる。
このうち,①,②及び④は,共謀の成立を推認させる間接事実として強い
ものではなく,特に②及び④については,会話したことまでは認定できない
以上,推認力は乏しいといわざるを得ない。また,③は,共謀を推認させる
間接事実として相当強力なものではあるが,反面,Aが,Bにけん銃等を渡
す前後にも,甲車がパンクした旨Bから告げられた後にも,被告人に連絡を
取っていないという共謀を否定する有力な間接事実も存在する。したがって,
これらの間接事実だけでは,Aと被告人とが本件の共謀を遂げていたことを
推認することはできないというべきである。
(2)上記2のような本件前の被告人らの行動を見ても,lホテルでの面談等,
共謀の存在を推認させる間接事実があるとはいえ,その証明力の程度はそれ
ほど高いとはいえず,他方,Bが来訪した同年6月1日のA及び被告人の行
動には共謀と矛盾する間接事実も認められる。なお,後記第4の3のとおり,
被告人にDないしDE夫婦殺害の動機があったことは疑わしい。したがって,
本件前の被告人らの行動だけでは,被告人が本件の首謀者であることやAと
被告人との間で共謀が成立していたことを推認することはできない。
(3)もっとも,上記3のとおり,本件後の被告人の行動は,被告人がAの本
件への関与を知っていたことを示しており,被告人が本件前からAの関与を
知っていたことを推認させる間接事実である。しかし,上記のとおり,A供
述を除外した間接事実から被告人との共謀を推認することはできないのであ
り,このことは,被告人の事後的関与についての弁解の不合理性が付加され
ても,変わりがないというべきである。
そうすると,被告人との共謀内容に係るA供述以外の証拠から確実に認定
できる事実には,Aと被告人との共謀を推認させる間接事実も少なくなく,
中にはかなり有力なものもあるけれども,他方,共謀を否定する間接事実も
看過し得ない。したがって,A供述以外の証拠から認定できる間接事実によ
る限り,Aと被告人との共謀を認定するには合理的な疑いが残るというほか
ない。
結局,Aと被告人との共謀の成否は,挙げてA供述の信用性如何に依拠する
ことになる。
第4共謀内容に関するA供述による共謀認定の可否
ここでは,共謀内容に関するA供述の内容を吟味し,本件における中心的争
点であるA供述の信用性について判断することにより,被告人との共謀が認定
できるか否かを検討する。
1共謀成立状況
(1)A供述の要旨
Aは,本件前日,自宅にいたところ,午前11時2分のDからの電話で,
Dが翌日石川県警察金沢東警察署に赴き,逮捕された中国人が所持していた
本件写真等の確認をする予定になっている旨聞かされた。本件写真の元とな
ったAら4名の写真がA,被告人及びDE夫婦しか所持していないものであ
ったため,Dが本件写真を確認すれば,自己ないし被告人がDE方襲撃計画
に関与していたことが発覚し,Dから厳しい制裁を受けることになるため,
Bにその旨の連絡をした。そして,Aは,本件前日午前11時17分,被告
人に電話をし,被告人から,「Bに言ってすぐやってもらうしかないぞ。」
とD殺害を指示されたのを受け,直後のBからの電話で,Dの殺害を早期に
実行するように依頼した。
その後,Aは,昼ころに組事務所へ行って被告人と会い,Bとの電話の内
容,Dら殺害にどのけん銃を使うかなどについて説明した。
(2)検討
ア電話での殺害指示
本件においては,被告人及びAら関係者の通話記録が存在しており,A
供述も,通話記録を踏まえたものと認められる。そして,上記第2の10
(4)のとおり,Aの証人尋問が開始されたのは平成15年12月であり,
本件から約3年5か月後であるから,記憶喚起の必要は否めず,通話記録
を見た上での供述というだけで,直ちに信用性が否定される理由はない。
しかし,相当期間経過後の供述は,通話記録という客観的証拠が存在する
だけに,それに整合するよう,自己の記憶を曲げ,あるいは,何ら記憶の
ない会話を作出して,自己に有利な方向に虚偽の供述をする危険も否定で
きない。したがって,供述内容が通話記録に符合することのみをもって直
ちにその信用性が肯定できることにはならない。
(ア)Aの架電状況の不自然性
A供述は,本件前日午前11時2分及び17分の通話の存在とは矛盾
しないが,両通話の間の架電状況とは必ずしも符合しない。すなわち,
DE方襲撃計画については,Aと被告人とが共謀して,取り分けAが供
述するように被告人が主導的な立場で話を進めてきたのであれば,Dか
らの電話の終了後,直ちに首謀者と名指しする被告人と善後策を協議す
るのが自然であると考えられるのに,上記第3の1(1)のとおり,Aは,
午前11時2分にDから電話を受けた後,T,B及びUに,それぞれ電
話した後,Dからの電話の終了から12分あまり後に初めて被告人に電
話している。このうち,Bへの電話は,Aが供述するように,中国人ら
が所持していた写真について確認するものであるとすれば,被告人への
電話に先立つことも理解し得るが,TやUへの電話については,その必
要性が判然としない。しかるに,Aは,当時はパニックになっていたと
して,T及びUへの電話自体ないしその内容についてあいまいな供述を
するにとどまり,合理的な説明ができていない。
この点につき,検察官は,Tへの電話については,当時,Aにおいて,
Dは翌13日にはゴルフに出かける予定であるとの認識であったため,
これに同行する可能性の高いTに連絡し,Dの予定について探りを入れ
たものであって,不自然ではなく,また,Uへの電話についても,Aら
4名の写真を撮影したゴルフコンペで一緒であったUに再度同じ写真を
入手する方法を模索したのであって,不合理ではない,と主張する。し
かし,検察官の主張は,それまでの経過を踏まえてはいるものの,Aの
行動は,検察官自身が「混乱の中の悪あがき」という評価しかできない
程度のものである。どのように取り繕ったとしても,AのT及びUに対
する電話が被告人への連絡,相談よりも先に行われることの不自然性は
容易に払拭されない。
なお,Aは,再主尋問において,被告人との電話はどこでどうやって
話をしようか迷った,午前11時15分にDE方からの電話が自分又は
被告人にあったため,その間,自分から被告人に電話しようとしてもで
きなかったなどと供述する。しかし,この供述も,それまでの通話と異
なり被告人との電話だけ場所を移そうと考えたという内容自体が不自然
であり,反対尋問で弾劾されたために供述を変遷させた疑いがあるから,
にわかに信用できない。
(イ)通話時間の不整合性
また,Aは,午前11時17分の通話(通話時間21秒)において,
「副長,こんなして写真も挙がっているらしいわ。それでおやじから電
話かかってきて,あした11時に金沢東署へ確認しに行くらしい,まず
いことになったわ。」と伝えたところ,被告人から,「そんな頭,もし
ゴルフの写真だったら頭持っておらんやろう。そんなもんBに言ってす
ぐやってもらうしかないぞ。」と言われ,Aが「それはわかっておるけ
ど,いや,まずいことになったな。」などと言うと,更に被告人から
「Bに電話したんか。」などと言われた旨証言する。しかし,これらの
やり取りが生の会話として行われた場合,21秒間で終えるのは著しく
困難であることが明白である。
この点につき,検察官は,A供述が,電話での会話内容を理由なども
込めて分かりやすく説明しようと意識しているからであり,実際に被告
人がそれまでの事情を知っているのであれば,説明と指示だけでよく,
21秒間の会話で十分である,Aは同日昼過ぎに組事務所へ赴き,同所
で被告人と直接話していると認められるが,Aが電話で被告人と話した
内容は,直接会った際の会話との峻別ができていないからとも考えられ
る旨主張する。
しかし,検察官の主張は,そのような可能性があるというにとどまり,
いずれもA供述に沿わない面があるから,それを前提として,A供述に
十分な信用性を認めることはできない。
(ウ)前後の電話の内容の不自然性
さらに,Aは,午前11時7分のBへの電話では,Bに何とかして欲
しいという程度の話をしただけで,D殺害の具体的な依頼まではしてい
ないが,午前11時18分のBからの電話で,Aにこれ以上迷惑をかけ
られないので,段取りしたら行くから,道具(けん銃)をもう1丁用意
してくれなどと言ってきた,と証言する。
しかし,Bは,当初から富山来訪へ積極的な姿勢を示したことを否定
しており,Bの証言は,この点では特段の利害関係のないLの証言と一
致するから,信用性が高いといえる。しかも,このような流れは,Dが
金沢東警察署に行った場合,直ちに疑われるのがBではなくAであるこ
とと矛盾するばかりか,Aが午前11時18分のBからの電話の後,2
9分,36分,50分,56分,57分,58分と午前11時台に立て
続けにAの方からBに電話をしていることとも符合しない。仮に,午前
11時18分の電話でBからA供述のとおりの話がされたとすれば,そ
の直後に,Aから被告人へBが了解したことの連絡があってしかるべき
であるが,Aと被告人との次の通話は午後零時14分の被告人からAへ
の電話であるから,この点でも,A供述は不自然である。
したがって,Aは,午前11時17分の電話で被告人からD殺害を指
示されたことを指摘したいがために,同7分の電話の内容を故意に歪め
ているのではないかとの疑念が払拭できない。そうすると,A供述の内
容は,信用性が高いものとは到底認められない。
(エ)被告人の説明
一方,被告人は,午前11時17分の電話について,以前高岡市内の
繁華街で水商売をしていたN’という人物についてたずねられた,と説
明する。これは,上記第2の7とおり,DE方襲撃計画の実行犯である
中国人らの同行者としてNがいたこと,午前11時33分にAから電話
を受けたαも,このときN’についてたずねられた旨証言することと符
合するから,直ちに排斥することができない。
(オ)小括
以上のとおり,被告人からD殺害を指示されたとするA供述は,架電
状況,通話時間及び前後の電話の内容に不自然,不整合な面があるから,
そのままには信用できない反面,被告人の説明をたやすく排斥できない。
したがって,A供述は,被告人が午前11時17分の電話でAにD殺害
を指示したことを認定するには,証明力が不十分というほかない。
イ組事務所での会話について
検察官は,当番日誌の記載からして,被告人とAとが組事務所で直接会
って話をすることは十分可能であるところ,A供述とB供述との不一致に
ついては,Bが高岡に来ることの確認や来る人数とけん銃の調達の点は,
午後2時台及び3時台の電話のやり取りの中でも話題になったはずである
から,A供述は,複数の機会にあった会話内容を,記憶の中で組事務所の
やり取りに一極化し固定してしまったものと考えられる,と主張する。
しかし,当番日誌の記載は,A供述を裏付けるとはいえ,通話記録の存
在と同等であって,A供述の信用性を著しく高めるものではない。しかも,
A供述は,信用性の高いB供述の内容と大きく食い違うから,信用性が大
幅に減殺されている。そもそも,午前11時17分の電話で被告人から殺
害を指示された旨のA供述は,上記アのとおり,信用性が乏しいから,こ
れと一連の経過である組事務所での会話についても,信用性が低いという
べきである。
そうすると,組事務所での会話に関するA供述は,たやすく信用するこ
とができない。
2本件前日午後から本件当日実行直後までのA及び被告人の行動
(1)A供述の骨子
Aは,A及び被告人の行動につき,①本件前日夕方ころ,Bに渡す予定の
けん銃の指紋を被告人と一緒にふき取る作業を行い,また,②午後11時2
4分ころ,被告人から電話で,Bにけん銃を渡すことになっている場所を把
握しているか確認されるとともに,被告人方に来るように指示され,被告人
方へ行ったが,その際,被告人が被告人方からOに電話し,このとき自分も
Oと話し,Bとの待ち合わせ場所までの道順を確認し,③本件当日朝,組事
務所で,Bからワンコールがあった後,それを被告人に伝えた旨証言する。
(2)検討
検察官は,これらの点についてもA供述が信用できる,と主張する。
ア①けん銃ふき取り作業
(ア)A供述の要旨
本件前日午後の早い時間に,それまで耐火金庫に入れてK方に預けて
いたけん銃2丁を引き上げてきた。その当時は,パニックになっていた
ため,その時刻や実際に引き上げたのが自分か自分の若い衆であるβか
は憶えていないが,本件当日午前1時27分にKに電話した後に取りに
行ったものではない。この電話は,特に用事があったわけではなく,冗
談半分にかけたものである。これらのけん銃は,自分が入手した後,被
告人とともに試射を行い,その後K方に預けておいたものであったこと
から,けん銃を引き上げた後,これを本件の凶器としてBに提供するに
当たり,本件前日の夕方ころ,pマンションで,被告人の指示により,
自分たちの本件への関与の発覚を避けるため,被告人とともにけん銃に
付いた指紋をふき取る作業を行った。
(イ)検討
上記第3の1(3)イのとおり,本件前日午後4時台であれば,A供述
に沿うけん銃の指紋ふき取り作業の時間がないとはいえない。しかしな
がら,A供述は,そのような内容ではなく,作業をした時間については,
他の事柄との先後関係も含め,実にあいまいであって,組事務所にDE
夫婦の布団を運んだ後という時間的に不可能な時間帯の可能性まで示唆
している。
のみならず,A供述は,けん銃の指紋ふき取り作業を行う時間や場所
等について被告人との間でいつどのような方法により意思疎通を図った
のかが説明できていない。
しかも,K方に連絡を入れることなく耐火金庫を引き取りに行ったな
どという点は,不自然,不合理な内容であって,腑に落ちない。むしろ,
上記第3の1(3)アのとおり,本件当日午前1時27分のAからKへの
電話は,AがBと落ち合う直前という時間帯やBとの連絡用のプリペイ
ド式携帯電話を使用したことなどに照らし,けん銃を引き取りに行くた
めの連絡であった可能性が高い。ところが,Aは,これを否定しながら,
Kへの電話の趣旨について,深夜であるにもかかわらず,特に用件はな
く冗談半分であったなどと著しく不自然,不合理な供述をしている。そ
れをAの尋常ではない心理状態とか暇つぶしのようにいう検察官の説明
は採用の限りでない。
加えて,Aは,上記第2の10(2)のとおり,同じpマンションにおい
て,本件後の平成12年8月中旬ころ,被告人と一緒に本件弾分け作業
を行っていることに照らすと,けん銃の指紋ふき取り作業の様子につい
て比較的具体的な供述をしている点も,本件弾分け作業の場面における
記憶を,意図的に本件前日のけん銃の指紋ふき取り作業にすり換えて供
述したとの疑いが払拭できない。
そうすると,本件前日午後早い時間帯にK方からけん銃を引き上げ,
被告人と指紋をふき取ったとするA供述は,信用性に欠けるというべき
である。
イ②けん銃受渡場所の確認
(ア)A供述の要旨
本件前日夜,Sとホテルにいたところ,午後11時24分ころ,被告
人からの電話で,Bにけん銃を渡すこととなっている場所を把握してい
るか確認されるとともに,被告人方に来るよう指示され,ホテルを出て
一人で被告人方に赴いた。その際,被告人がOにかけた電話で,自分が
Oと話し,Bとの待ち合わせ場所であるoダムまでの道順を聞いた。
(イ)検討
上記第3の1(4)のとおり,Aが本件前日夜,Sとホテルを利用して
いたこと,午後11時24分に被告人がAに電話をかけ,その直後にA
がホテルを出て被告人方に赴き,同日午後11時59分に被告人が同人
方からOに電話をかけ,OがAからoダムまでの道を聞かれたことは優
に認められ,これらの事情は,被告人の本件への関与を強く推認させる
間接事実であって,A供述の裏付けとしても相当に有力なものといえる。
ただし,通話記録によれば,午後11時41分,Aが被告人に電話を
かけていることも認められ,これは,午後11時24分の電話で被告人
に呼び出されたとするA供述とは必ずしも符合しない。
一方,被告人は,午後11時24分のAへの電話については,組事務
所に宿泊したDE夫婦が就寝したことを伝えるものであり,同41分の
電話についても,Aから被告人方へこれから行ってよいかたずねられた
ものである旨供述している。この供述自体,記憶に基づくものか疑わし
いとはいえ,当時Aがa一家の若頭であったことや上記電話の時間帯に
照らせば,それなりに納得できる説明である。
また,上記第3の1(5)のとおり,被告人は,Aが被告人方から帰っ
てから本件当日の午前8時52分にAからの電話を受けるまでの間,A
を含む何人との間でも,一切電話連絡を取っていないことが認められ,
本件の首謀者の一人の行動としては著しく合理性を欠き,甚だ不自然な
ものといわなければならない。
もっとも,Aは,被告人が通常夜間は携帯電話の電源を切っているた
め,連絡しなかった旨供述する。しかし,被告人は,現役の暴力団組員
であって,a一家だけでなく,その上部団体であるd組でも幹部として
活動していたのであるから,常日頃夜間には携帯電話の電源を切ってい
るということが理解し難い(もちろん,被告人自身,これを否定す
る。)。仮に,Aが何らかの事情で被告人の携帯電話にはかけられなか
ったとしても,被告人方の加入電話にかけることはできたはずである。
これらの事情を総合すれば,けん銃受渡場所の確認に関するA供述は,
有力な裏付けもあるが,決定的に高度な信用性を有するものとまではい
えない。
ウ③ワンコールの伝達
(ア)A供述の要旨
Aは,BらがDら殺害に成功したときは,BからAにワンコールを入
れるよう頼み,被告人にもそのことを伝えていた。そして,本件当日午
前9時30分ころ,Bから自分の携帯電話にワンコールがあったので,
組事務所の外で,被告人にそれを知らせた。被告人は,間もなく組事務
所から出て行ったが,自分に電話をかけてきて,携帯電話を処分した方
がいいと言ってきた。それで,Bとの連絡に使っていた携帯電話を処分
した。
(イ)検討
上記第3の1(6)のとおり,当番日誌の記載からして,被告人とAと
が組事務所で直接会って話をすることは十分可能である。そして,A供
述は,当番日誌の記載及び通話記録によりある程度裏付けられている。
しかし,上記のとおり,本件前日から本件に至るまでのA供述は,信用
性が乏しいことを前提とすれば,この部分についてだけA供述に高度の
信用性を認めることはできない(弁護人も,A供述は作り話であるとし
て,その内容の不自然・不合理性やV証言との矛盾等を指摘する。)。
そうすると,この点に関するA供述の信用性も,十分でないというべき
である。
3本件の発端・動機
(1)A供述の要旨
Aは,本件の発端について,次のように証言している。
被告人は,平成9年末ころ,肝炎の病状が芳しくない状態にあったにもか
かわらず,DからIの暴力事件の仲裁を命じられたこと,平成10年春ころ,
若い衆の行動に腹を立てたDから叱責されたこと,同年秋ころ,自分に対し
て含み笑いしたと立腹したDから謹慎させられたことなどが重なった。その
ころ,組事務所前の焼却炉付近において,被告人からまじめな顔で,「おや
じやっちゃうか。」などとDの殺害を持ちかけられたが,このときAは,
「まさかそんなことできんやろうね。」などと答えたにとどまった。その後,
fやhでの事件等の出来事が重なり,また,被告人と二人で実行犯を捜すた
め,伏木港等で外国人マフィアに関する情報を聞き出そうとしたり,平成1
1年の冬ころ神戸のJのところへ行ったり,平成12年4月にGに殺害を依
頼したりした。同年1月にBとlホテルで会ったのも,同様の目的であり,
被告人の発案である。
Aは,被告人がDから疎んじられていることなどに同情したことなどから,
Bとの面談後には上部団体に相談するなどの回避策を提案したものの,被告
人に受け入れられず,従前からの被告人のDを殺害する意向に同調した。
(2)Dと被告人との関係
まず,検察官は,A供述を前提として,本件犯行計画の背景には,Dの気
性の激しさ及び強引な組織運営があり,被告人及びAは,Dの平素の行動に
不満や恨みを持ち,Dを疎ましく思っていた,と主張する。
確かに,上記第2の2のとおり,平成10年の春から秋にかけて,数回に
わたり,被告人がDから叱責を受けたこと,平成11年には,被告人の行動
に立腹したDが,被告人に激しい制裁を加えたことが認められるから,被告
人がDを恨んで裏切った可能性も十分に考えられる。しかし,これらは,い
ずれも本件より2年ないし数か月前の出来事であるから,Dへの殺意や共謀
と直接的に結びつくものと認めるのは困難である。しかも,Dが被告人の不
始末のせいで1000万円もの大金を支払ったことは,被告人がDに恩義を
感じていたことを推認させるから,Dに対する殺意と矛盾する事情といえる。
したがって,検察官主張のような被告人のDに対する個人的悪感情が直ちに
本件の動機につながるものとは認められない。
そもそも,被告人は,Dとの関係が17年間以上に及び,そのうち約13
年間は若頭として組長であるDに付き従ってきたのであって,Dの性格を熟
知していたと認められる。そして,被告人は,DE夫婦と日頃から頻繁に富
山県内外のゴルフ場に出かける仲であった。DE夫婦は,DE方が中国人ら
に狙われていた疑いが強いことを知り,本件当日,事情聴取のため金沢東警
察署に出向く際にも,Dの運転手であるPではなく,被告人に運転をさせる
意向であったことが認められる。したがって,Dと被告人との関係は,悪化
していなかったことが推認でき,少なくとも,DE夫婦の方では被告人を疎
ましく思っている素振りなどうかがえない(本件前後にa一家の組員であっ
た者も,Dが被告人のことを毛嫌いしていた様子は見られなかったと証言す
る。)。
一方,被告人は,検察官が指摘する個々の事実について,その概要を認め
つつ,それらはDに恨みを抱く事情とはならないことを具体的な根拠を挙げ
て説明している。この説明は,直ちに否定できるような証拠がないから,そ
れなりに信用してもよい。
そうすると,A供述中の事情は,被告人がDを恨む理由となり得るとはい
え,被告人が過去の出来事からDを恨んで殺意まで抱いていたというA供述
は,たやすく信用できない。
(3)a一家の支配権獲得の意図,目的
次に,検察官は,被告人及びAがa一家組織の実権を把握し得る立場にあ
り,現実にa一家の支配権を掌握した,と主張する。
ア被告人の関与の不可欠性
検察官は,被告人の関与が本件犯行に不可欠な要素であったことを強調
し,その根拠として,Aと被告人とでは,a一家内外での暴力団組員とし
ての実力,影響力に相当の差があり,Aが単独でa一家の組織掌握を画策
したとしても,それを果たせる可能性は極めて低く,かえって,D殺害を
疑われることになれば,被告人やその影響力の強い組員からの反発を受け,
自己の地位だけでなく,生命・身体も危ういものとなる,と主張する。
確かに,被告人は,a一家の執行部には入っていなかったものの,上部
団体であるd組の若頭補佐の地位にあったことやその経歴,配下の若い衆
の数等に照らし,実質上a一家において,Dに次ぐ地位にあったと認めら
れ,Dが亡きものとなれば,a一家組長の跡目を継ぎ,その支配権を獲得
できる最も有力な立場にあったことは明らかである。反面,A単独での組
織掌握が困難であろうことは検察官指摘のとおりであって,a一家の中心
的存在である被告人がa一家組長への就任を固辞しなければ,後記第5の
3のようなAの人物像に鑑みても,Aがその地位に就くことは考えにくい。
したがって,D殺害の限度では共謀を認めているAが,被告人を引き込ん
だというのであれば,それなりに理解できる。
しかし,Aは,自分は始終一貫して消極的であって,被告人の指示に従
っていた旨証言する。被告人に組織掌握や経済的利益獲得の意図があった
との検察官の主張を強調していくと,かえって,被告人がAを共謀に引き
入れる必要性は乏しくなるはずである。したがって,検察官の指摘は,A
供述の信用性を低下させる方向にも作用し得る。
そうすると,被告人の関与が本件に不可欠であったことは,A供述の信
用性を高めるものではない。
イa一家の支配権の獲得
そして,検察官は,被告人が,Aをa一家の2代目組長に就任させ,D
亡き後のa一家の実質的な支配者として君臨した,と主張する。確かに,
被告人は,上記アのような本件当時の状況に照らすと,a一家の実質的な
支配力を有しており,Dの後継者としても最有力であったといえる。しか
し,被告人は,実際にd組の組長らから真っ先にa一家の2代目組長への
就任を打診されたにもかかわらず,あえて組長就任を固辞している。少な
くとも,上記第2の10(4)のテープの会話からは,Aが被告人に服従して
いたような様子や雰囲気は感じられない。a一家の実力者である被告人が
D死亡後も在籍を続けていたというだけで,2代目組長のAをいわば傀儡
としてa一家の実効支配をしていたと評価できるかどうかは疑問とする余
地がある。
また,検察官は,A検挙後,被告人がa一家の3代目組長となって,名
実ともに組織の頂点に立っている,と主張する。確かに,被告人は,組長
就任こそ固辞したものの,a一家に在籍を続け,Aがa一家を破門された
後には,a一家の3代目組長に就任しているから,a一家の組織運営に全
く興味,関心がなかったとはいえない。しかし,被告人の3代目就任は,
本件から2年以上経過した後,しかも,組長であるAの逮捕という暴力団
組織にとって危機的な事態を迎えた後のものである。したがって,本件当
時,被告人がそのような事態まで想定して本件に及んだとは考え難い。
そうすると,被告人のD殺害の動機がa一家の支配権獲得にあったとい
うのは疑わしい。
ウ経済的利益の獲得
また,検察官主張のとおり,DE夫婦の資産は,Dがa一家の組織的活
動又はこれを背景に行った貸金業で築き上げられたものと認められるから,
a一家には相当の利益生産力があったといえる。したがって,本件の共犯
者,特に首謀者は,本件犯行の成功により,相当大きな経済的利益を期待
するのが当然であり(実行犯のBでさえ,1億円の報酬を期待していたと
いう。),現実にも得られたはずである。
しかし,被告人は,本件後,DE夫婦の保有資産等から直接経済的な利
益を得たことはない。しかも,本件によってe商事に関連する利益を実際
に獲得したのはAであるのに対し,被告人にはせいぜいAから貸付金15
00万円の返済があったにとどまるから,このような不均衡は看過できな
い。
なお,被告人は,本件当時,w商事という金融業等による収入がそれな
りにあったし(Aに融資をするだけの経済的信用もあった。),自宅の新
築中だからといって,経済状況がひっ迫していた様子もうかがえない。
そうすると,被告人のD殺害の動機が経済的利益の獲得にあったとは到
底認められない。かえって,この点は,Aとの共謀を否定する間接事実で
あるということができる。
エ被告人のEに対する殺意
さらに,検察官は,Eはa一家の運営やe商事に関して大きな影響力を
持っていたから,a一家組織の掌握にはEの殺害まで必要であった旨主張
する。
確かに,Eは,金融業だけでなく暴力団組織の活動にまで口を出し,影
響力を有していたと認められる。しかし,Dの殺害後,Eが従前どおり影
響力を行使し続けるか否かは予想がつかないから,検察官主張の前提には,
異論があり得る。しかも,被告人は,Eに大変可愛がられていたというの
であるから,特別な理由もなくEに対する殺意を抱くとは思えない。した
がって,上記主張は採用できない。
(4)Aの本件の動機の有無
それでは,弁護人が主張するように,Aが単独でDE夫婦に殺意を抱く動
機や理由があり得るか,いわゆるアナザー・ストーリーの可能性について検
討する。
アDとAとの関係
まず,Aは,Dから厳しく叱責されたことなどから,Dに対して個人的
悪感情を抱いていたことが認められる。そもそも,Aは,企業舎弟を経て
a一家の正式な組員となった後,短期間のうちに若頭の地位に就くことに
なったものであって,DE夫婦との付き合いも長くない。そのため,Dの
Aに対する信頼は十分でなく,上記のようなDの性格もあって,Aがその
対応に苦慮し,Dから理不尽な仕打ちを繰り返されるうちに恨みを募らせ
ることは十分に考えられる。その際,Aは,長く若頭を務めてDE夫婦か
らの信頼の厚い被告人と比較される場面があったことも容易に推察される。
したがって,Aの本件の動機がDに対する怨恨にあった可能性は相当高い
というべきである。
イa一家の支配権及び経済的利益の獲得
次に,Aは,本件後,被告人からの推薦を受けたd組の組長らに打診さ
れるや,躊躇なくa一家の2代目組長への就任を引き受けている。Aは,
本件当時,a一家の若頭の地位にあったから,被告人さえ辞退すれば,D
の跡目を継げるという思惑があったことが推認できる。そして,2代目組
長となったAは,e商事に関連する利益を含め,種々の経済的利益を現実
に獲得することができた。加えて,Aは,a一家の名称を自分の名前の一
文字を付けたq会に変更していることも認められる。したがって,Aによ
るa一家組織の掌握は,本件の動機と矛盾せず,これを裏付けるものとい
うべきである。
なお,被告人とAとのa一家における立場の違いは,Aが単独で本件を
計画したことの妨げにはならない。
ウ当時の経済状態
また,Bは,Aから,自分がDに紹介した土建屋に3000万円を貸し
付けたところ,同人が行方不明になったために,DからAの方で全部責任
を持てと言われ,何とかしなければいけない旨聞かされた,と証言する。
これに対し,Aは,平成11年12月にDから1000万円を借りたが,
平成12年6月までに完済した,土建屋への貸付けの話自体がない,と否
定する。もっとも,Bは,上記のとおり,Aに悪感情を有しているため,
その信用性については慎重な検討が必要である。しかし,その供述内容が
具体的であること,AがBにD殺害を依頼する際,DE夫婦の悪口を並べ
立てていた状況と符合すること,AとDとの関係自体はB自身の刑責に特
段の影響を及ぼさないことに照らせば,Bの証言はそれなりに信用するこ
とができる。したがって,この点も,Aの本件犯行の動機を裏付けるもの
ということができる。
エAのEに対する殺意
ところで,Aは,自身の公判及び当公判廷において,D殺害の共謀は認
めるものの,Eへの殺意はなく,BにEの殺害を依頼したこともないなど
としてE殺害の故意及び共謀を否認する。しかし,Aは,本件写真をBに
送付した時点では,E殺害を未必的に認識していたと認められる。のみな
らず,DE方襲撃計画の発覚を防ぐためには,本件写真の存在を知ってい
たEの殺害も必要であったと認められる。したがって,少なくとも本件前
日の段階では,AがE殺害を認識かつ認容し,その旨BとE殺害の意思を
相通じていたことは優に認定することができる。A供述は,E殺害の共謀
を否認することにより刑責の軽減を意図したものと認められるから,信用
できない。
なお,Bは,6月2日の夜,Aから電話があり,Eの殺害も依頼された
旨供述する。しかし,同日夜間,AからBにかけられた唯一の電話である
同日午後8時37分の通話が53秒間と比較的短いことや,BとAとでは
報酬額について理解が食い違うことなどに照らし,この点はそのままには
信用できない。そうすると,Aが,Eに対しても,DE方襲撃計画の当初
から確定的な殺意を有していたことまでは認定できない。
オ小括
以上のとおり,Aが,単独でDE夫婦に対する殺意を抱くことも十分に
考えられるだけでなく,むしろ,その可能性の方が高いというべきである。
弁護人の主張は,理由がある。
(5)殺意の発生時期
なお,検察官は,被告人らはa一家組織の支配権を獲得し,継続的に不法
な利益を生み出す暴力団組織を自分たちの手中に収めるため,DE夫婦の殺
害を決意したものであり,平成12年6月30日以降も引き続き,DE夫婦
殺害の機会をうかがっていたところ,本件前日,翌日にDらが金沢東警察署
へ写真等の確認に行くと知ったため,自分たちのDE方襲撃計画への関与が
発覚するのを阻止する必要が生じ,予定を早めて殺害の計画を実行させた,
と主張する。しかし,その基本的な目的がa一家組織の掌握にあったという
前提に賛成できないことは上記のとおりである。しかも,Aの確定的な殺意
の発生時期についても,上記(4)エのとおり,本件前日である可能性が高い。
したがって,上記主張は採用しない。
(6)小括
A供述中の個々の出来事については,その存在は概ね認められるものの,
それだけでは被告人のD殺害の積極的な動機や本件の準備行為性を推認する
ことができない。また,検察官が主張するa一家の支配権や経済的利益の獲
得という動機についても,本件後の被告人の行動と明らかに矛盾する点があ
るから,そのとおりには認定することができない。むしろ,被告人のDE夫
婦との関係や感情からして,積極的に被告人のDE夫婦殺害の動機を見いだ
すことはできない。したがって,被告人の本件への動機が明らかでなく,反
面,A単独でもDE夫婦殺害の動機が考えられることからすれば,本件の動
機に関するA供述を全面的に信用することはできない。
そうすると,Aとの共謀の前提として被告人が本件の犯意を有していたこ
とを認定することはできない。
第5A供述をめぐる外在的な事情
さらに念のため,A供述をめぐる外在的な事情を検討し,その信用性を評価
する上での参考にする。
1Aが虚偽供述をする動機の有無
本件の罪質,態様及び結果等,特に暴力団組員がけん銃を使用して2名を射
殺したという凶悪かつ重大な事案であることに照らせば,一般に,関与者には
厳罰が科せられ,特に首謀者には極刑が言い渡されることは容易に予想される。
そして,Aは,逃亡を重ねたことから見ても,自分が首謀者であると認定され
た場合,死刑が宣告される可能性が高いことをよく認識していると認められる
(現に,Aは,実行犯であるBに対する死刑判決があったことを把握してい
る。)。
そこで,Aが自分に対する死刑宣告を回避するため,自己の刑責を転嫁でき
る相手としては,a一家の実力者であり,日頃から頻繁に電話で連絡を取り合
っていた被告人以外には思い浮かばない。そして,Aに対する証人尋問が行わ
れたのは,自身の公判の求刑前であるから,その証言により責任転嫁を図るこ
とが可能な時期であった。
反面,Aが被告人の関与について虚偽供述をした場合,被告人ないしその配
下の者から報復を加えられるおそれがあるとしても,それは現実的なものでは
ない。すなわち,A自身は,首謀者と認定されずに死刑宣告を回避できたとし
ても,Bらに働きかけてDE夫婦殺害を実行させたという役割分担等に照らし,
無期又は長期の有期懲役刑による服役がやむを得ない。また,Aの妻子に対す
る危害が想定できるにしても,妻子を置いたまま愛人と一緒に逃亡するような
者にとっては,さしたる報復にならない。
これらの事情を前提として利益・不利益を比較すれば,Aは,被告人に刑責
を転嫁して自己の首謀者としての刑責を免れるため,被告人を首謀者に仕立て
上げる一方,自分の本件への関与をできるだけ低く証言するという虚偽供述を
するだけの強い動機があるというべきである。
2Aの本件後の行動と自白の時期,理由及び内容
上記第2の10(2)のとおり,Aは,本件後,Bとの連絡に用いた携帯電話を
処分したり,Bに口裏合わせを依頼したりして実際に罪証隠滅行為を行ってい
る。また,Aは,別件で自分が逮捕される旨の噂を聞くや,本件についての追
及を免れるため逃亡し,その後も再度逃亡している。このように,Aは,これ
まで幾度となく罪証隠滅工作や逃亡を繰り返しており,自己の刑責を免れよう
とする姿勢は顕著である。
しかも,上記第2の10(4)のとおり,Aは,本件で逮捕された後も,捜査段
階においては,本件への関与を否認していた。加えて,Aが本件への関与を認
めるに至った理由は,Bの供述内容をニュースで知り,このまま否認を続けて
いてはBの言いなりになってしまうと考えたためであるなどというのである。
したがって,真摯な反省悔悟に基づいて早い段階で自白した場合に比べると,
Aの自白の信憑性は低いものである。
なお,Aは,E殺害についてのBらとの共謀を否認するが,虚偽供述と認め
られる。もちろん,被告人が首謀者として本件に関与し,Aに種々の指示をし
たことについては,それとは場面を異にするから,直ちに虚偽供述として信用
性を否定することはできない。しかし,本件に関する重要部分における虚偽供
述の存在は,被告人の関与に関するA供述の信用性を判断する上でも,その供
述態度ないし傾向として留意する必要がある。
3Aの人間性
Aは,法廷での証言態度を見ると,口が軽く,よくしゃべることが認められ,
また,携帯電話の通話記録からも,大変に電話好きであることが分かる。
そして,Bは,Aについて,「あれポン中(覚せい剤中毒者の意)だから,
頭狂ってっから。」,「あのやろう詐欺師でもって,口ぺらぺらでもってうま
いんですよ,泣いたり笑ったりね。」,と虚言癖があるかのように批判する。
ただし,Bは,報酬額の理解の食い違いや上部団体に対する慰謝料請求による
トラブルのため,Aに悪感情を持っているから,その人物評価が厳しくなるの
は避けられない。
また,Iは,Aについて,正式にa一家の組員になる前,覚せい剤を使用し
て賭博をしていた際,捜索に来た刑事を包丁で人質にして暴れ回ったこと,そ
れとは別に,覚せい剤を使用した状態でa一家組員(被告人とAの間の一時期,
若頭を務めたことがある。)のγとのさいころ博打に負けたとき,勝ち逃げす
るのかなどと言って包丁を振り回し,最後にはDE方まで押しかけたことなど
から,また覚せい剤を使用するのではないかなどと心配し,正式にa一家に入
れるには反対意見もあった,Aが若頭になった後も,ついていきたいと思う相
手では全くなく,人間性的にお金に汚いなど,信用できないと感じた面が多々
あった,と証言する。ただし,Iは,元々被告人の若い衆であったから,その
ような事情の認定は慎重にすべきである。
いずれにしても,検察官が,「Aが信用を置きがたい人物と評価される傾向
にあることは,だれの供述を前提としても揺るぎないところである。」と主張
するように,Aが周囲の者から信用をおき難い人物であると評価されていたこ
とは否定できない。
4捜査官の誘導の可能性
なお,警察は,本件発覚直後から,被告人及びAを捜査対象としていた様子
がうかがえる。通話記録から判明する頻繁な連絡状況を見れば,Aのみならず
被告人までも本件への関与を疑われたのはむしろ当然である。そして,被告人
は,平成13年1月,別件の暴力行為等処罰に関する法律違反で逮捕された際,
本件についての取調べを受けたという。しかも,警察は,平成14年10月に
A及び被告人の関与を認めるBの供述を得てからは,被告人も事件に無関係な
はずはないとの心証を強くしていた。したがって,平成15年1月には,Aの
起訴後の取調べで取調官が誘導をした可能性も否定できない。その際,被告人
の弁解と対比しながら,A供述の信用性が十分に吟味されていたか否かは不明
である。
5小括
以上のとおり,Aは,被告人との共謀について,虚偽供述により自己の刑責
の軽減を図る強い動機がある上,幾度となく罪証隠滅工作や逃亡により処罰を
免れようとし,公判段階でようやく本件への関与を認めたものの,E殺害の共
謀という重要な部分について虚偽と見られる供述を行い,自己の刑責の軽減を
図っている。なお,Aは,周囲の者からも,信用のおき難い人物と評価されて
いる。
A供述は,上記第3,第4のとおり,細部においても全体としても,十分な
信用性を備えたものではない上,これらの諸事情をも加えて考慮すると,被告
人との共謀に関するA供述の核心部分が信用できるとは到底いえない。
第6結論
以上のとおり,被告人との共謀内容に係るA供述については,その信用性を
肯定する間接事実もあるけれども,上記のとおり,いずれも決め手にはならず,
共犯者供述の一般的な危険性及びAの主観的な虚偽供述の危険性を踏まえて慎
重に検討すると,これに十分な信用性を肯定することはできないというべきで
ある。したがって,被告人がAと共謀し,更にBらと順次共謀を遂げ,Bらに
本件を実行させたことを認定するには,合理的な疑いが残るといわざるを得な
い。結局,被告人に対する本件公訴事実については,その証明が不十分であっ
て,犯罪の証明がないことに帰着するから,刑事訴訟法336条により無罪の
言渡しをする。
よって,主文のとおり判決する。
平成18年11月21日
富山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官手崎政人
裁判官大野博隆
裁判官五十嵐浩介

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛