弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
1本件控訴及び当審における予備的請求をいずれも棄却する。
2控訴費用及び当審における予備的請求に係る訴訟費用はいずれも控訴人の負
担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2(主位的請求)
控訴人の被控訴人に対する源泉所得税3593万7500円及び不納付加算
税359万3000円の納税義務が存在しないことを確認する。
3(予備的請求)
被控訴人の控訴人に対する源泉所得税3593万7500円及び不納付加算
税359万3000円の各債権が財団債権でないことを確認する。
4訴訟費用は1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,住吉税務署長が,控訴人がP1に対して支払った破産管財人の報酬
及び控訴人がP2株式会社(破産宣告後の同社を含み,以下「破産会社」とも
いう)の元従業員らに対して配当した退職金等について,平成15年10月。
23日付けで,破産会社に対して源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不
納付加算税賦課決定処分(併せて,以下「本件各処分」という)をしたのに。
対し,控訴人が本件各処分に係る納税義務が存在しないことの確認を求めた実
質的当事者訴訟である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴を提起した。
また,控訴人は,当審において,予備的請求として,当該源泉所得税及び不納
付加算税が財団債権でないことの確認請求を追加し,主位的請求の源泉所得税
額を3593万7500円に減縮した。
2本件の争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとお
り当審での当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2
の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
()本件管財人報酬が弁護士の業務に関する報酬等(所得税法204条1項1
2号)に該当するか(争点1)について
(控訴人の主張)
破産管財人と破産会社との間には,委任契約又はこれに類する法律関係
は存在しない。原判決は,源泉徴収制度の趣旨が徴税の便宜を図ることに
あると解した上で,源泉徴収の対象となる範囲を広く解するのであるが,
源泉徴収制度の解釈に当たって徴税の便宜のみを強調するのは誤りであ
る。源泉徴収・納付義務(以下「源泉徴収義務」という)は,他人の所。
得にかかる租税を第三者に徴収させ納付させる制度であり,しかもその義
務を加算税や刑罰による制裁の下に課している制度であるから,源泉徴収
義務が課される第三者の範囲も,その者に過度の負担とならないように限
定される必要があるからである。
(被控訴人の主張)
「」所得税法204条1項2号の弁護士・・・の業務に関する報酬又は料金
は,おおむね「弁護料,監査料その他の通常の報酬または料金のほか名,
義のいかんにかかわらず,その役務の提供に対する対価たる性質を有する
一切のもの」が対象となると解されており(武田・前掲DHCコンメンタ
ール所得税法()8459頁,広く,当事者,その他関係人の依頼又は官4)
公署の委嘱によって行う法律事務に隣接,関連する役務の提供に対する対
価を含むのであり,同条項の文言及び解釈においても,控訴人の主張する
ように支払者と受任者との間に委任契約又はこれに類する原因が存在する
場合に限定されていない。
また,日本弁護士連合会調査室自身が,破産管財人の事務は,弁護士法
3条1項の規定する「官公署の委嘱」による法律事務に該当するという解
釈を明らかにしている(日本弁護士連合会調査室編著・条解弁護士法31
頁参照。)
その上,弁護士法人の業務の範囲を定める弁護士法30条の5は「弁,
護士法人は,第3条に規定する業務を行うほか,定款で定めるところによ
り,法令等に基づき弁護士が行うことができるものとして法務省令で定め
る業務の全部又は一部を行うことができる」と規定し,この弁護士法人の
業務を定める法務省令は「自然人たる弁護士が通常行うことができる業,
務が幅広く規定されている(黒川弘務ほか「弁護士法の一部を改正する」
法律(弁護士法人制度)の概要」ジュリスト1210号101頁)と解説
されているところ,弁護士法30条の5の業務を定める省令は,1号に,
「当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により,管財人,管理人そ
の他これらに類する地位に就き,他人の事業の経営,他人の財産の管理若
しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し,若しくは補助
する業務」と規定している。したがって,破産管財人の事務が,一般的に
「弁護士の業務」に当たると解されていることは明らかである。
()破産者は所得税法199条1項等の「支払をする者」に当たるか(争2
点2)について
ア「支払をする者」の意義(争点2のア(ア))について
(控訴人の主張)
(ア)源泉徴収制度は,本来であれば課税庁が負担すべき徴税事務の労
力と費用とを,行政上・刑事上の法的制裁を課してまで本来の納税者
(受給者)以外の私人に強いる制度であるから,源泉徴収義務を課す
ことが許される第三者の範囲は,かかる義務を課すのに足りる合理的
な理由のある者に限定されなければならない。
(イ)この点,源泉徴収義務に関する所得税法・国税通則法の規定(所
得税法6条199条204条国税通則法15条)も「支払」とい,,,,
う文言を用いるのみならず「支払をすべき者」ではなく「支払をす,
る者」と規定しており,現実に「支払」という行為をし又はこれをす
ることができる者,すなわち「自らの権限で支払をすることができ,
る者」であって初めて源泉徴収義務を負うことを示している。すなわ
ち,このような者であれば,支払原資(源泉)から税額を天引き徴収
して納付することが可能であり,受給者の所得税納付のために支払者
,,自身の資産等を充てる必要はないし給与等の支払額も把握しており
これに徴収税率を乗じて徴収税額を算定することも可能であり,その
ような立場にある者に対してのみ源泉徴収義務を負担させ得ることを
明らかにしているのである。
(ウ)被控訴人は,①「支払をする者」とは,支払に係る経済的出捐の
効果が最終的に帰属する者であれば足り,控訴人主張のような限定を
加えることは,かえって徴収の確保及び源泉納税義務者の納税義務の
便宜を図るという源泉徴収制度の趣旨に反するとか,②実質課税の原
,「」,,則にかんがみれば支払とは現実に金銭を交付する行為のほか
給与等の支払義務を消滅させる一切の行為が含まれるもので,必ずし
も事実行為としての支払に限られないから「支払をする者」も債務,
消滅の効果が帰属する者と解すれば足りるなどと主張するが,①の点
については,源泉徴収制度の意義を,単に「徴税の便宜」という効果
の面のみに矮小化して捉え,ある者に他人の所得税の徴収納付義務と
いう負担を課すことが許されるための根拠を無視するものというべき
であるし,②の点については,所得税法199条1項・204条1項
2号等の規定が不納付犯(同法240条2号)の構成要件を定める規
定でもあることに照らし,広範かつ不明確にすぎるといわざるを得な
,「」い上仮に現実の金銭の交付のみならず相殺等の一定の行為が支払
に当たると解するとしても,そのことと誰が相殺等を行えば源泉徴収
義務が発生するのかという問題とは別の問題であって,その者が「し
ようと思えば金銭支払により債務消滅させる権限を有する者」でなけ
れば「支払をする者」たり得ず,したがって源泉徴収義務者たり得な
いと解することは何ら背理ではないから,いずれの点も失当というべ
きである。
(エ)以上の点に照らしても,所得税法199条1項・204条1項2
号等の規定における「支払をする者,すなわち,他人の所得税を徴」
収し納付する義務を負わせることが許される者とは,支払に係る経済
的利益から受給者の所得税を天引き徴収することができる者,すなわ
ち「当該支払に係る経済的出捐の効果の帰属主体」であると同時に,
「自らの権限で支払行為をなしうる者」でなければならないことは明
らかというべきである。
(被控訴人の主張)
(ア)源泉徴収制度は,納税者(給与等の支払を受ける者)の便宜と徴
税上の便宜を図るための制度であるから,源泉徴収義務を課すことが
許される「支払をする者」とは,源泉徴収の法律関係の当事者となる
のに適した者であれば足り,源泉所得税の納付をする者からみれば,
支払によって退職金や報酬の支払債務が消滅する効果を受けることに
なるから,支払によりそのような債務消滅の効果が帰属する者が「支
払をする者」に当たると解するのが相当である。
(イ)法の規定を控訴人主張のように解する根拠はない上,そもそも,
,,控訴人主張のような限定的な解釈をしなければならない理由もまた
控訴人のいう自ら支払をなし得る「権限」とはいかなる根拠に基づく
いかなる内容の権限かも明らかでないから,控訴人の主張は独自の見
解というほかなく,失当である。
イ破産会社が「支払をする者」に該当するか(争点2のア(イ))につい

(控訴人の主張)
破産会社は,本件退職金(破産債権)に係る配当又は管財人報酬(財
団債権)に対する弁済に係る「経済的出捐の効果の帰属主体」ではある
が,破産宣告時点で有した自己の財産(破産財団所属財産)に対する管
理処分権を失っている(破産法(大正11年法律第71号。平成16年
法律第75号により廃止される前のもの。以下同じ)7条)ため「自。,
」,「」らの権限で支払行為をなしうる者に当たらないから支払をする者
とはいえない。したがって,破産会社は源泉徴収義務を負わないし,破
産債権に関しては,破産管財人も,経済的出捐の効果帰属主体でない以
上,源泉徴収義務者に当たらないから,この場合,源泉徴収義務を負う
者が存在しないことになるが,課税要件を充たさない者に課税ができな
,()。いことは租税法律主義憲法84条の見地からも当然のことである
また,財団債権については,その債務者が誰であるかについて破産法
の学説が分かれているが,財団債権の債務者も破産会社であると解する
ときは,破産債権について述べたのと同様に,破産会社は「支払をする
者」に当たらないことになるし,破産財団又は(管理機構としての)破
産管財人であると解するときは,破産会社は,そもそも財団債権の弁済
に係る経済的出捐の効果すら帰属しないことになるから,やはり「支払
をする者」に当たらない。以上いずれにしても,財団債権の弁済につい
て,破産会社が「支払をする者」に当たると解する余地はない。
(被控訴人の主張)
本件退職金支払債務は,破産宣告前に成立していた雇用関係あるいは
その終了によって生じた債務であり,本件管財人報酬支払債務は,破産
手続上生じ,破産財団の負担となるべき債務であって,これらの債務が
破産財団から支払われることにより,当該債務は消滅し,当該支払の効
果は,破産財団の権利主体である破産会社に帰属する。よって,本件退
職金及び本件管財人報酬の支払は,所得税法199条及び204条1項
「」,「」。等に規定する支払でありその支払をする者は破産会社である
そして,所得税法は退職所得及び弁護士報酬に係る源泉徴収義務につい
て破産法人を除外していないのであるから,破産会社は,本件退職金及
び本件管財人報酬について,源泉徴収を行い,これを国に納付する義務
があるというべきである。
ウ破産債権(本件退職金)の配当についての徴収義務(争点2のイ)
(控訴人の主張)
(ア)「配当」という手続は,破産手続のほか,個別的執行手続等にお
いても行われ,債務者又は滞納者の従業員に対する労働債権に対し配
当がされることもある。しかし,執行機関等については,配当する金
員から源泉所得税を徴収する必要があるとは解されておらず,実際に
も,執行機関等が配当する金員から源泉所得税を徴収しているという
例は聞かない。
(イ)しかし,個別的執行等における「配当」と破産手続における「配
当」とは,強制換価の対象が債務者の個別財産に限られるか財産一般
に及ぶかという点で異なるだけで,その手続は極めて類似しており,
その性質に異なるところはない。そして,上記配当の際,執行機関等
が配当する金員から源泉所得税を徴収しない根拠としては,原審で述
べた①源泉徴収義務は債務者が任意に支払をする場合に課されるもの
であるところ,配当は債務者の任意の支払ではないこと,②執行機関
が債権者に対して負う配当義務は,執行債権の実体法上の性質が捨象
された無色透明の手続上の債務であることに加えて,③個別的執行等
においても,配当について源泉徴収義務者たりうる「支払をする者」
が存在しないことがある。すなわち,源泉徴収義務を負う「支払をす
る者」とは,前述のとおり「当該支払に係る経済的出捐の効果の帰,
属主体」であり,かつ「自らの権限で支払行為をなしうる者」をいう
から,破産配当について,破産会社,破産管財人のいずれも源泉徴収
義務者にあたらず「支払をする」が存在しないのと同様,個別的執,
行等の配当についても,配当に係る経済的出捐の効果が帰属するのは
債務者等であるが,その配当は,執行機関等の権限により行われるも
のであり,債務者等はその権限を有しないから,債務者等は,個別的
「」,,執行等における配当について支払をする者に当たらないしまた
執行機関等も,自らの権限で配当をなしうるものの,配当に係る経済
,「」,的出捐の効果が帰属しないからやはり支払をする者に当たらず
いずれも「支払をする者」に当たらない点で破産配当の場合と異なら
ない。
(ウ)なお,上記②の点について敷衍するに,現行の強制執行制度にお
いては,私権の確定手続と執行手続とが分離されており,執行機関は
(),,執行債権実体権の存否消滅の有無等は問題とすることができず
執行請求権は存在するものとして手続を続行しなければならない。例
えば,債務名義の成立後に,弁済等により実体法上の債権が消滅して
も,かかる債務名義に基づいて執行手続が開始された場合には,民事
執行法39条1項1号の請求異議判決が提出されない限り,執行機関
は手続法上,当該債権に対する配当義務を負う。このような制度が採
られているのは,訴訟手続において一旦その存在が確定された権利に
ついて,執行機関は,権利者の救済の観点からも,債務名義の主文に
表示されていない実体関係には拘泥することなく,迅速に執行手続を
進めるべきであるからだと考えられる。そして、この点は、破産手続
における配当においても何ら変わらない。破産手続においても、債権
確定手続と配当手続とは,明確に異なる別の手続である。破産手続に
おいても,債権の存否の確定は,究極的には訴訟手続によることが予
定されているし、配当実施に際しては,債権者は,配当表につき異議
申立てを行うことができるが(破産法264条,異議事由は,配当)
表の作成及び更正に関する法則違背等に限定され,すでに確定された
破産債権の内容に関する主張は異議の事由とはなりえない。また,い
ったん債権調査手続で確定した債権につき,保証人等の弁済があった
ため消滅しても,債権者による任意の届出取下げがない限り,破産管
財人は,これを配当表から削除することはできず,請求異議訴訟を提
起し勝訴判決確定をまって除斥するほかはないと解されている。
(エ)以上によれば、破産配当も個別的執行等の配当と同様,実体的法
律関係にかかわりなく,単位配当加入資格のある債権に手続上の満足
を与えるものにすぎないと考えられる。たしかに,配当加入債権が実
体法上も存在する限り,破産配当の実施により実体上存在する債権が
消滅する効果が生じるが,破産配当は,配当加入債権の実体法上の存
否にかかわらず実施されるものであるから,配当手続それ自体は,実
体上存在する債権の満足を直接の目的とするものではない(個別的執
行等の配当が債権の弁済と同義ではないとされていることと軌を一に
するといえる。そうだとすれば,破産管財人が配当加入債権の実体。)
法上の法的性質を考慮して源泉徴収を行うべきであるとすることは,
,,配当手続の本質に背馳するものであると考えられるから破産配当は
所得税法199条1項等の「支払」に該当せず,源泉徴収を要しない
と解される。
(被控訴人の主張)
(ア)個別的執行手続等において,執行機関等が配当手続において配当
に参加する債権者の債権の存否及びその額を確定する手続は予定され
。,,ていないしたがって個別的執行手続において配当が行われた場合
執行機関が債権の存否,性質(労働債権に該当するか,数額等を実)
体的に把握して源泉徴収義務の有無を判断し,これを履行することは
不可能であるのに対し、債務者は,執行目的物以外の財産についての
管理処分権を失わないのはもちろん,自由な経済活動を継続している
のであって,その活動の中で,源泉徴収義務の有無を判断し,これを
履行することが可能であるから,個別的執行手続において,執行機関
に源泉徴収義務を課す必要がない。すなわち,個別的執行手続におい
て,労働者に対して,源泉所得税相当額を含め,配当として支払がさ
,,れた場合の法律関係は使用者において源泉徴収義務を履行した上で
労働者に対して源泉所得税相当額の金員の返還を求めることになる。
以上の理は,希有の事態ではあるが,滞納処分において労働債権に対
し配当がされる場合にも同様に当てはまる。
(イ)所得税法199条等の「支払」とは「支払債務が消滅する一切,
の行為が含まれる(武田・DHCコンメンタール所得税法()772」4
7頁)のであり「支払」が任意に行われるか,裁判所の執行手続を,
通じてなされるものかによって結論に違いが生じると解する根拠はな
い。すなわち,労働者の使用者に対する退職金債権について,個別的
執行等によって配当される場合も,配当金額について支払債務が消滅
するのであるから,個別的執行等による配当も所得税法199条等の
「支払」には該当する。しかし「支払をする者」とは,支払により,
債務消滅の効果が帰属する者であるところ,個別的執行等における配
当によって債務消滅の効果が帰属するのは,執行裁判所ではなく使用
者であるから「支払をする者」は,執行裁判所ではなく使用者であ,
る。
,,,したがって執行裁判所が個別的執行等における配当を行う際に
源泉所得税を控除しないのは,執行裁判所が源泉徴収義務を負うわけ
ではなく,使用者が源泉徴収義務を負うからにすぎない。
そして,個別的執行等手続における使用者は,破産手続における破
産者と異なり,自己の財産の管理処分権限を失っていない以上,源泉
徴収義務を負担することに何ら支障はなく,配当終了後においても,
国に対して源泉徴収義務を履行しなければならない。
()破産管財人の源泉徴収義務(争点3)について3
(控訴人の主張)
ア破産管財人は,破産者と債権者および債権者相互間の利害が対立する
破産関係の中で,破産法に基づき中立的な機関として,それら関係人間
の利害の調整をはかりつつ,その職務権限を行うものである。破産管財
人の権限は,第一次的には,破産法の目的である「債務者の財産等の適
正かつ公平な清算」を達するために(新破産法1条,破産者からも破)
産債権者からも独立した中立的な立場で行使される。この法の目的から
みて,破産管財人が破産者の代理人ないし代表者であると解することは
あり得ず、かかる見解は,今日では学説上も実務上も皆無である。原判
決は,破産手続においては「破産管財人が破産者に代わってこれ(源泉
所得税)を徴収ないし徴収,納付する権限を有する旨の実定法上の明文
の規定」が存在するものと考えており,それは,破産財団に対する管理
処分権を定めた破産法7条を指しているものと解されるが、破産管財人
の管理処分権は,破産者が破産宣告時において有していた財産と破産宣
告前の原因に基づく将来の請求権に限定されている(破産法6条1項2
項。破産者が所有する財産であっても,破産財団に含まれないものに)
は,破産管財人の管理処分権の及ばない自由財産である。
イこのように,①破産管財人の管理処分権が,破産者の財産であっても
そのうち破産財団に属するものについてしか及ばず,その範囲が限定さ
れていること,②この管理処分権が破産財団の維持増殖による配当財源
の形成のために行使されるものであることからすれば,破産管財人の破
産財団に対する管理処分権は,破産者が本来履行すべき義務の全てに及
ぶものではなく,その範囲は,破産管財人に破産財団の管理処分権が専
属することとした破産法の目的に資する行為に限られる。この点から,
破産者の負う源泉徴収義務を,破産管財人が破産者に代わって履行しな
ければならないのか否かが,検討されなければならないが,配当に係る
経済的利益は,破産財団を離脱して,配当を受ける破産債権者に帰属す
るものであり,この配当に係る源泉所得税も,当該配当を受けた者が負
担すべきであり,破産財団に属する財産が負担すべきものではない。こ
のような第三者の所得に係る源泉所得税を徴収し納付することは,上記
破産法の目的に全く資するところがない。そのような租税の徴収納付事
務が破産財団の管理又は処分に関するものであるということなどできな
い。
ウわが国の源泉徴収制度は,源泉徴収義務を支払者の固有の義務とし,
法律関係も専ら国と支払者との間にのみ生じ,国と受給者との間には,
いかなる意味での法律関係も生じないとするものであって,支払者は,
給与等の支払いの際に,何が源泉徴収の対象になるか,あるいはいかな
る額を控除すべきかなどについて,微妙な判断と高度に複雑な計算を強
いられる上,不納付加算税の賦課や不納付犯としての刑罰も課されるほ
か,過大・過小徴収の問題の当事者とされている。殊に本件におけるよ
うな労働債権(給与等・退職手当等)にあっては,累進税率の適用,累
積型の源泉徴収等の複雑な仕組みが採用されているため,その負担も極
めて重いものとなっている(甲16ないし18。)
エ源泉徴収制度は,本来的には自らの負担において確定申告・納付をす
べき受給者の所得税について,その徴収納付を受給者以外の第三者であ
る支払者に負わせる制度であり,支払者は,当該給付による経済的利益
を享受するわけではないのに徴税事務手続上の負担を強いられるのであ
るから,その適用は合理的な範囲に止められるべきは当然である。最高
()「,裁判所昭和37年2月28日判決刑集16巻2号212頁も法は
給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあって,徴税
上特別の便宜を有し,能率を挙げうる点を考慮して,これを徴税義務者
としているのである」と判示し,給与の支払をなす者と給与を受ける。
者との間に「特に密接な関係」を要求しているが,破産管財人は,あく
まで債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利
関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図
ることを目的とする破産手続を公正かつ中立的な立場で主宰する機関で
あって,破産宣告前の破産者の経済活動とは何らの利害関係も有してお
らず,受給者との間に「特に密接な関係」があるわけではない。
オまた,日米租税条約は,各国の源泉徴収制度の内容が異なることによ
る不当な結果を軽減する目的で一定の場合に軽減税率を適用する旨定め
ている(同条約22条1項)ところ,同条約においては,さらに,その
適用要件についての判断を容易にするための規定(同条約22条3項
(c)まで置いているが,現行の所得税法においては,源泉徴収義務)
を負う破産管財人の負担を軽減するための何らの規定も置いていないか
ら,同法は,破産管財人が源泉徴収義務を負うことをそもそも予定して
いないものとみるべきである。
カ源泉徴収義務を負うとした場合,破産管財人としては,計算上の過誤
防止等の目的で,税理士等に委任して行うことが考えられ,また,破産
管財人が自ら行う場合であっても,相応のコストを破産管財人報酬に反
映させる必要があるから,結局,これらのコストは破産財団,すなわち
破産債権者の負担に帰することになる。つまり,破産配当又は財団債権
の弁済について破産管財人に源泉徴収の事務を行わせることは,結局,
源泉所得税の徴税に要するコストを破産債権者に負担させることになる
ところ,破産財団の属する財産の管理などの関係で,破産者が公法上の
義務を負っているときには,破産管財人が,管理処分権の行使主体とし
て,その履行の責任を引き受けるべき場合がありうるとしても,その場
合に破産管財人が義務を履行すべきものとされるのは,それが破産財団
所属財産の管理にともなって発生する費用であり,破産債権者が共同で
負担することを受忍しなければならない負担という性質を持つためであ
る。しかし,源泉徴収義務は,破産財団の管理換価等に関するものでは
なく,特定の財団債権者または破産債権者の利益のためのものでしかな
いから,その履行によるコストを破産債権者が受忍しなければならない
いわれはない。
(被控訴人の主張)
ア退職金及び管財人報酬について,所得税法199条及び204条1項
により「支払をする者」として源泉徴収義務を負うのは,支払による,
債務消滅の効果が帰属する破産者であるが,破産者は,破産財団に対す
る管理処分権を有せず,破産管財人が,破産財団の管理処分権を専有し
ているのであるから(破産法7条,破産管財人は,その権限の行使とし)
て破産財団からの支払をするとき,その事務として,源泉所得税の徴収
義務を負う。すなわち,破産管財人は,破産財団の管理処分権を行使す
る上で,自己の事務として源泉徴収及び納付義務を負うのであって,破
産者の代理人あるいは代表者として源泉徴収義務を破産者に代わって履
行しているのではない。
イまた,源泉徴収とは,租税を徴収するに当たって,納税者(受給者)
の便宜と徴税上の便宜を図るため,本来の納税義務者から直接国に納付
させず,納税義務者に対して課税標準となるべき金銭等の支払を行う者
(いわゆる源泉徴収義務者)をして,その税金相当額を支払う際に天引
き徴収させ,その徴収した金額を国に納付させる方式であって,いった
ん,受給者に支払われて,給付者から離脱した受給者の収入から源泉徴
収するものではない。すなわち,破産管財人は,支払によって破産財団
から離脱した給付について源泉徴収を行うのではなく,破産管財人が破
産財団から支払う際に源泉徴収するのであって,控訴人の上記エの主張
は,源泉徴収の仕組みに対する理解を欠くもので,失当である。
ウ控訴人は,最高裁判所判決が「法は,給与の支払をなす者が給与を受
ける者と特に密接な関係にあつて,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙
げうる点を考慮して,これを徴税義務者としているのである」と判示。
していることを挙げ,破産管財人と破産債権者は「特に密接な関係」が
ないのであるから,破産管財人は源泉徴収義務を負わない旨主張してい
。,「」,,るしかし最高裁判所がいう給与の支払をなす者とは本件では
破産管財人ではなく破産会社であるP2であり「給与を受ける者」す,
なわち破産会社の元従業員との間に密接な関係があることは明らかであ
るから,控訴人の上記主張は失当である。
()本件租税債権及び不納付加算税の財団債権該当性(争点4)について4
(控訴人の主張)
破産法47条2号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」とは,破
産財団の管理上の経費と認められる性質のものをいうところ(最高裁判所昭
和43年10月8日判決・民集22巻10号2093頁,源泉所得税は,)
破産財団から離脱した受給者への給付に対して課せられる租税であって(甲
5「破産管財人の源泉徴収義務,あくまでその発生の根拠となる経済的利」)
益から負担されるべきものであり,その性質上,破産債権者にとっての共益
的費用に当たる要素はないから,破産財団の管理上その経費と認められる公
租公課に当たらない。
(被控訴人の主張)
源泉所得税は「所得の支払」に着目して課税される租税であるところ,本
件退職金及び本件管財人報酬は破産財団から支払うことが予定されているの
であるから,本件退職金及び本件管財人報酬を支払うことによって当然に成
立し確定する本件各源泉所得税債権の支払は,まさに破産手続に伴う共益的
費用として「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たると解すべきである。
第3当裁判所の判断
1主位的請求について
当裁判所も,控訴人の主位的請求は理由がないと判断する。
その理由は,次のとおりである。
()争点1(本件管財人報酬が弁護士の業務に関する報酬等(所得税法201
4条1項2号)に該当するか)について
当裁判所の認定判断は,原判決「事実及び理由」第3の1と同様であるか
ら,これを引用する。
()争点2(破産者は所得税法199条1項等の「支払をする者」に当たる2
か(争点2のア)について)
当裁判所の認定判断は,原判決「事実及び理由」第3の2(),()と同様12
であるから,これを引用する。
アまず,本件退職金について検討する。
(ア)①本件退職金に係る源泉徴収義務は,破産宣告前の原因に基づく破

会社の元従業員に対する退職金債務の支払に関するものであり,その
支払は,本来は,破産会社によってなされ,所得税法199条に基づ
き,当該支払の際に,破産会社において,受給者の負担すべき所得税
を天引き徴収した上これを課税庁に納付すべきものである(なお,そ
の徴収,納付に要する費用も当然破産会社において負担すべきものと
なる。。)
②ところが,破産会社が破産宣告を受けたため,破産会社は,破産宣
告時点で有する一切の積極消極財産(破産財団。破産法6条)に対す
る管理処分権を喪失し,破産管財人においてこれを専有するところと
なった(同法7条。なお,本件退職金債務も同法6条2項に基づき破
産財団に属する。。)
③破産管財人は,上記管理処分権に基づき,管財業務の一環として,
本件退職金につき,他の破産債権者に優先して(優先破産債権。破産
法39条,民法306条,308条,元従業員らに対する配当を実施)
した(破産法40条,256ないし286条。)
(イ)本件退職金に係る配当は,少なくとも元従業員らとの関係では,同
人ら自身の退職金の受給としての性質を有し,所得税法30条1項にい
う「退職により一時に受ける給与」として同項所定の「退職手当等」に
該当するとともに,実体法的には,本件退職金債務の全部又は一部を消
滅させる効果を生じ,破産宣告後も破産会社の法主体性は失われない以
上,その効果は破産会社に帰属する。
(ウ)他方,所得税法199条は,国内において居住者にその「支払をす
る者」は,支払の際に所得税を徴収し,これを国に納付すべき旨規定し
ており,当該「支払をする者」が,同条所定の源泉徴収義務(公法上の
義務)を負うこととされている。
(エ)争点2のア(ア)(イ)は,上記「支払をする者」が誰であるか及び破
産者が「支払をする者」に当たるかに係るが,源泉徴収制度が,一定の
所得等に係る金員の支払者から受給者に移転する経済的利益を課税対象
と捉え,これに対する税金を,本来の納付義務者である受給者に代えて
支払者に徴収・納付させようとする制度であることに照らすと上記支,「
払をする者」とは,経済的利益移転の一方当事者,すなわち,本件退職
金の場合は,その経済的出捐の効果の帰属者である破産会社であると解
されるから,破産会社は,上記「支払をする者」として同条に基づく源
泉徴収義務を負担するものということができる。
(オ)この点に関し,控訴人は,ある者が上記「支払をする者」に該当す
るためには,その者が経済的出捐による効果の帰属者である必要がある
ことはもとより,さらに現実に「支払行為」をする者でなければならな
いなどと主張し,その理由として,①所得税法等においては「支払」な
「」,,「」る用語が支払行為の意味で用いられておりまた支払をすべき者
でなく「支払をする者」と規定されている,②源泉徴収制度は「支払を,
する者」であれば,その支払の際に天引きすることによって所得税相当
額を容易に徴収できることに着目した制度であるから,上記「支払をす
る者」に該当するためには,その者が自ら現実に天引きの機会を有する
必要があるなどと主張する。
しかし,①については,文理解釈上「支払をする者」にいう「支払」,
を現実の「支払行為」の意味に限定して解すべきまでの根拠に乏しいと
いわざるを得ない。次に,②についてみるに,一般論としては,源泉徴
収制度が,その「支払をする者」であれば,支払の際に源泉所得税相当
額を天引きすることによって容易に徴収できる点に着目して組み立てら
れた面のあることは否定できず,たとい経済的出捐による効果が一定の
者に帰属するとしても,およそ天引きの機会がないような者にまで,そ
の者に「支払をする者」としての源泉徴収義務を負担させることが相当
であるか否かについては疑問が残らないではないところ,破産会社は,
破産宣告によって本件退職金債務の支払原資となるべき破産会社の破産
宣告時点の財産に対する管理処分権を喪失しているのであるから,現実
には自ら現実の支払行為をすることはできず,天引き徴収もできないこ
とになるが,他方で,上記財産についての管理処分権を専有する破産管
財人が存在するから,その法律的性質論の点はさておき,これに基づく
配当をする際に所得税相当額を天引き処理することが全く不可能なわけ
ではない。
この点に関し,控訴人は,破産管財人のなす配当は「支払」でないと
か,破産会社自身が自ら支払をできなければならないなどと主張するの
であるが,当該配当金は,少なくとも当該配当を受領する元従業員らと
の関係では,所得税法30条1項所定の「退職手当等」に該当し,破産
会社にとって本件退職金債務消滅の効果を生じるものである以上,その
限りで「支払(経済的利益の移転)に当たると解して差し支えないもの」
と思われるし,自ら支払行為ができる必要がある等の点についても,上
記の制度趣旨との関係でいう限り,必ずしもこれを自ら行い得る場合に
限るべき理由はなく,少なくともこれと同視できる場合であれば足りる
ものと解するのが相当である(ただし,破産管財人による配当がこれに
当たるか否かの議論は後に論じることとするが,当裁判所は積極に解す
るものである。。)
イ次に本件管財人報酬について検討する。
(ア)本件管財人報酬が所得税法204条1項2号の「報酬」に該当する
ことは既にみたところである。そして,同条項は,居住者に対し国内に
おいて次に掲げる報酬の支払をする者は、その支払の際、その報酬につ
、。いて所得税を徴収しこれを国に納付しなければならない旨定めている
(イ)次に上記「支払をする者」とは,所得税法199条の規定する「支
払をする者」の解釈と同様の理由で「経済的出捐による債務消滅の効果
が帰属する者」を指すと解され,したがって,破産会社が源泉徴収義務
の債務者となるというべきである。
ウ争点2のイ(破産債権(本件退職金)の「配当」についての源泉徴収義
務)について
当裁判所の認定判断は,原判決の認定判断(第3の2の())と同様であ3
,。,。るからこれを引用するただし32頁8行目から16行目までを除く
控訴人は,破産手続と個別的執行等手続等との共通点として,債権確定
手続と配当手続とが峻別されている点を追加しているが,仮にその点にも
共通性が認められるとしても,上記引用に係る認定判断を左右しない。
()争点3(破産管財人の源泉徴収義務)について3
当裁判所の認定判断は,原判決「事実及び理由」第3の2()ないし()と13
同様であるから,これを引用する。ただし,28頁末行の「原告の上記主張
は」から29頁2行目末尾まで及び30頁14行目から同頁17行目まで,
を削除する。
ア控訴人は,破産会社が本件退職金の支払に関し源泉徴収義務を負担する
としても,破産管財人は,破産会社の代理人でも機関でもないから,上記
義務を引き継ぐべき根拠はないと主張する。
たしかに,本件のような場合は,所得税法199条に基づく源泉徴収義
務者である破産会社がその履行の前提となる支払をすることができないか
のような様相を呈するのであるが,これは,破産法が,破産宣告時点の破
産者の積極的財産によって破産宣告前に原因の生じた破産者に対する債権
(消極的財産)を弁済又は配当するという破産的清算の目的を実現する限
りで,破産者から破産宣告時点の一切の積極消極財産(破産財団)に対す
る管理処分権を奪い,これを破産管財人に存続させるという法的構成を採
用した結果にすぎないから,破産管財人において,自己に専有する管理処
分権に基づいて上記原資を用いて本件退職金債権についての配当を実施し
たものである以上,破産会社自体がこれを行うのと実質的に異なるところ
,,,はなく法的には破産会社自体が自ら支払をしたのと同視できるしまた
その場合,破産管財人は,破産法7条の管理処分権に基づき,上記配当を
本来の管財業務として行ったのであるから,これに付随する職務上の義務
として,国に対して本件退職金に係る所得税の源泉徴収義務を負うと解す
るのが相当である。
イこの点に関し,控訴人は,①本件退職金につき破産管財人が源泉徴収義
務を負担するとすれば,受忍しがたい過大な手続上の負担を強いられるば
かりか,その履行に要する費用は破産財団の負担となって合理的な理由な
く破産債権者の負担に帰せられること,②破産の場合も,実務上,破産裁
判所は破産管財人に源泉徴収義務がない旨の指導をしてきたこと,③日米
租税条約22条3項()では,我が国の源泉徴収制度の下で支払者に不当c
なリスクを課さないようにするため,同条約の軽減税率の適用を容易に判
断できるような規定が置かれているが,現行法は,源泉徴収の要否及び額
の計算を容易にし,また源泉徴収義務を行う破産管財人の負担,リスクを
軽減するような規定を設けていないから,破産管財人が源泉徴収義務を負
うことを予定していないなどと主張している。
しかし,①については,破産管財人に不可能又は可能であっても受忍を
求めることが相当でないような過大な手続上の負担が生じるとまで認める
に足りる証拠はないし,仮にその履行のための費用が財団債権となって破
産債権者の負担に帰するとしても,そのような費用は破産会社が支払を行
ったとしても生じる費用であるから,元来,自己の債権の引当てとして期
待できなかった性質のものであること等の点を考慮すれば,いずれも破産
管財人の源泉徴収義務を否定する根拠とはならない
さらに,②の点も,証拠(甲7,10,11,21∼31)によれば,
各地の破産事件担当の裁判所が破産管財人は源泉徴収義務を負わないとの
見解を有し,破産管財人向けのマニュアル等でも同様の見解が示されてい
る(ただし,甲10によれば,東京地方裁判所の破産部は,平成13年1
月の改訂までは源泉徴収義務を負うと解していたことが分かる)ことが。
窺われるが,これらはもとより裁判ではないから,本件の解釈を直ちに左
,。右するものではないしその根拠とするところも必ずしも明らかではない
また,③については,日米租税条約22条の趣旨(乙12)は「日米,
租税条約では,投資所得に関する限度税率が大幅に引き下げられたことに
伴い,第三国の者による不正利用の防止を目的として,租税条約の適用要
件を限定するための要件の一つの判定方法を規定した(同条3項())にc
すぎず,源泉徴収義務の存否や程度にかかわる規定ではないから,直ちに
破産管財人が源泉徴収義務を負わないことの根拠となるものではない。
ウ控訴人は,さらに,①破産管財人の破産財団に対する管理処分権は,破
産者がなすべき義務すべてを破産者に代わって履行する権限ではないこ
と,②源泉所得税は,受給者の収入に課せられる租税であり,受給者の収
入となる給付は,それが支払われる時点で破産財団を離脱し,その時点で
初めてこれに係る源泉所得税が成立するのであって,破産財団の管理には
関係がないとして,本件退職金に係る源泉所得税の徴収,納付に係る事務
が破産管財人の管理処分権の範囲に含まれない旨主張している。
しかし,破産者は,破産財団に対する管理処分権を有せず,破産管財人
が,破産財団の管理処分権を専有しているのであるから(破産法7条,破)
産管財人は,その権限の行使として破産財団からの支払をするとき,その
事務として源泉所得税の徴収,納付を行うのである。すなわち,破産管財
人は,破産財団の管理処分権を行使する上で,自己の義務として源泉徴収
及び納付する義務を負うのであって,破産者の代理人あるいは代表者とし
。,て源泉徴収義務を破産者に代わって履行しているのではないしたがって
控訴人の上記①の主張は失当である。
また,源泉徴収とは,租税を徴収するに当たって,納税者の便宜と徴税
上の便宜を図るため,本来の納税義務者から直接国に納付させず,納税義
務者に対して課税標準となるべき金銭等の支払を行う者(いわゆる源泉徴
収義務者)をして,その税金相当額を支払う際に天引き徴収させ,その徴
収した金額を国に納付させる方式であって,いったん,受給者に支払われ
,,て給付者から離脱した受給者の収入から源泉徴収するものではないから
控訴人の上記②の主張も失当である。
エまた,本件管財人報酬(財団債権)の支払についても実体的な法主体で
ある破産会社が債務者となると認めるべきことは既にみたとおりであり,
その支払による債務消滅の効果は破産会社に帰属することとなるから支,「
払をする者」は破産会社であると解すべきことになり,その場合も,本件
退職金でみたのと同様の理由により,破産管財人に本件管財人報酬に係る
源泉所得税を徴収し納付する義務があると解される。
オ以上によれば,破産管財人は,管理権限の行使として,本件退職金の配
当又は本件管財人報酬の支払に際し,源泉所得税相当額を天引き徴収した
上,国に納付する義務を有するというべきである。
()したがって,原判決「事実及び理由」第3の2()アのとおりいうことが44
できる。
()本件租税債権及び不納付加算税の財団債権性(争点4)について5
当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3の2()イと同様である4
から,これを引用する。
ア破産法47条の定める財団債権は,破産財団から破産債権に優先して,
かつ破産手続によらないで弁済を受けることのできる請求権であり(同法
49条,50条,その大部分は,破産手続の開始より終了に至るまでの)
手続遂行上不可欠な費用,殊に破産財団の管理・換価及び配当に関する費
用(同条3号)等,総債権者の共益費用ないしは総債権者の利益となる出
費からなるが,同条2号の租税債権は,その例外として,本来は破産債権
の性質を有するにもかかわらず,租税が国家存立の財政的基礎であること
から,その徴収の確保という公益上の要請に基づき,法が特に財団債権と
して定めたものである(同号本文。ただし,破産宣告後の原因に基づく)
公租公課で財団債権に関しないものは除外しているが(同号但書,これ)
は,破産宣告後の原因に基づく租税債権についてまで破産財団の負担とさ
れるべきでなく,本来,破産者において負担すべきものではあるが,これ
が「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に該当する限り,破産財団管理上の
当然の経費として破産債権者にとって共益的な支出と認められるところか
ら,破産債権者が共同でこれを負担するのが当然であるとして,なおこれ
を財団債権として取扱うこととしたものと解される。
イ本件租税債権についてみるに,その徴収に係る法技術的な構成の点はと
もかくとして,本件租税債権も所得税である以上,受給者に所得が生じな
い限りこれが発生するはずはなく,本件において受給者に所得が生じたの
は,破産宣告後に元従業員らに対する配当又は破産管財人に対する弁済が
なされたことによるのであるから,それによって発生した本件租税債権は
破産宣告後の原因に基づく公租公課であるというほかない(被控訴人の主
張のうち,これに反する部分は採用できない。。)
しかし,上記配当及び弁済は,元従業員らの未払退職金(破産債権)に
対する配当又は本件破産管財事務に係る破産管財人の報酬(財団債権)に
対する弁済として,破産会社の破産宣告時点における財産から破産管財人
の本来の管財業務としてなされたものであるから,消極積極財産からなる
破産財団の管理上なされたものであることは明らかである。
そして,本件租税債権に係る源泉所得税の納税義務は,当該配当又は弁
済の時に法律上当然に成立し,その成立と同時に納付すべき税額が確定す
るから,このように破産財団の管理上なされた支払に付随して当然に成立
し確定する納税義務は,破産財団管理上の当然の経費として破産債権者に
とって共益的な支出(共益的費用)に係るものであって,破産法47条2
号但書のいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に該当するというべきで
ある。
ウこの点に関し,控訴人は,破産法47条2号但書にいう「破産財団ニ関
シテ生シタルモノ」とは,破産財団の管理上の経費と認められる性質のも
のをいうところ,源泉所得税は,破産財団から離脱した受給者への給付に
対して課せられる租税であるから,その発生の根拠となる経済的利益から
負担されるべきもので,その性質上,破産債権者にとっての共益的費用に
当たる要素はなく,破産財団の管理上その経費と認められる公租公課に当
,,たらない旨主張するが破産財団は消極的積極的財産から構成されるから
その管理上の経費が,積極的財産の維持,保全等のための経費に限られる
理由はなく,消極的財産である債務の履行に伴って発生する経費もこれに
含まれるものと解される上,本件租税債権に係る納税義務との関係でみて
も,これを法定の期限までに履行することにより不納付加算税や延滞税等
の余分の経費の発生を防止できるのであって,その限りで総債権者の利益
にもかなうものといえるから,控訴人の主張は採用することができない。
エまた,不納付加算税に係る債権は,本税たる租税債権に附帯して生じる
ものであるから,それが財団債権に当たるかどうかは,本税である租税債
権が財団債権性を有するかどうかにかかるものというべきであるところ,
上記のとおり,本税である源泉所得税に係る本件租税債権が財団債権に該
当する以上,その附帯税である不納付加算税に係る租税債権も財団債権に
該当することは明らかである。
2当審における予備的請求について
前記1()によれば,控訴人の当審における予備的請求も理由がないことは5
明らかである。
3本税及び不納付加算税の税額について
当裁判所の認定判断は,原判決「事実及び理由」第3の3()ないし()のと13
おりであるから,これを引用する。ただし,原判決35頁19行目の別紙2の
「」,,次に差引税額欄を加え同頁21行目冒頭から36頁4行目までを削除し
同頁25行目の「第7号証まで」の次に「第10,11,第21から第31号
」,「」証までを加え同頁9行目及び37頁14行目の各3593万8000円
をいずれも「3593万7500円」と改める。
第4結論
,,以上によれば本件請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきところ
これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから本件控訴を棄
却すべきであり,当審における予備的請求も理由がないものとしていずれもこ
れを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官若林諒
裁判官小野洋一
裁判官菊地浩明

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