弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は一・二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
一 双方の申立
1 控訴人は主文同旨の判決を求めた。
2 被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
二 双方の主張と証拠関係
 当事者双方の主張および証拠の提出・援用・認否は、左記に付加するほか、原判
決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張
イ 当審における補充主張
 業務上の災害とは、災害が労働者の業務遂行中に生じた(業務遂行性)ものであ
り、かつその業務内容と事故との間に相当因果関係がある(業務起因性)ことを必
須の要件としている。
 そして業務遂行性は個別的・具体的な労働関係に対応してその内容を定むべきで
あり、一般的に労働契約により使用者の命ずる行為およびこれに附随する行為をい
い、さらに緊急事態において使用者の命によらない場合でも当該事業の労働者とし
てこれをなすことが通常期待されるような合理的な行為も業務遂行性を有すると考
えられる。
 しかし労働者の業務遂行途上のものといえない災害(私的行為中の災害)、また
は就業時間中に同僚または第三者と業務に関係がない女のことで喧嘩してうけた災
害など業務遂行途上の行為といえども業務となんら必然的な関係がない行為による
災害は業務遂行性を有しない。
 つぎに業務起因性とは、その災害が当該業務に内在している危険の現在化したも
のであり、当該業務遂行と災害(現実化した危険)との間に相当因果関係(災害の
予測性)があるかどうかをいうものである。その危険は業務自体に内在している危
険と、業務に通常附随する危険とに分けて考えられている。
 しかして、労働者の同僚あるいは第三者との喧嘩は私的行為の極端なものであつ
て就業時間中または職場内であつても一般に本来の業務およびそれに附随するもの
でなく、また通常期待される合理的行為でもないから業務遂行性を有しないばかり
か、当該業務に内在している危険の現実化したもの(相当因果関係のあるもの)で
もないから、業務起因性をも有しない。
 ところで本件において亡Aの行為はいかなる点からみても業務行為といえないば
かりか、その業務と被災との間に相当因果関係もない。
ロ 当審における新主張
 違法行為の転換の理論により本件不支給決定は適法となる。
 或る行政処分に瑕疵があつてもこれを他種の行政処分としてみれば瑕疵がない場
合には、それは他種の行政処分としてその効力が維持されるのである。そして瑕疵
ある処分は、処分の依拠法条が異なつても、その行政目的・手続・効果が等しいも
のであれば、その間の転換が容認される。
 したがつて本件において、亡Aの災害が業務上の災害に該当し、本件不支給決定
が違法であるとしても、原判決が説示するように「亡Aの応接態度の不誠実さは、
事故発生につき重大な過失と考えて、これを政府において裁量により保険給付をし
ないための理由となる」ところ、本件災害は亡Aが喧嘩を敢えて買つて出た故意に
も比すべき重大な過失によつて負傷したいわゆる自損行為であり、結局保険給付を
支給すべきでない場合に該当する。
 災害が業務上の災害に該当しないとして不支給決定をする場合と、労働者災害補
償保険法第一九条にもとづき不支給決定をする場合とは、その依拠法条は異なる
が、その行政目的・手続・効果を全く等しくするものであるから、本件については
処分の転換が許される場合であり、仮に業務上の災害に該当しないという理由によ
る不支給決定が違法であるとしても、処分の転換により労働者災害補償保険法第一
九条に照らして本件不支給決定は結局適法となる。
2 被控訴人の当審における補充主張
 Bは就職を亡Aに直接依頼したのでなく、現場監督に就職希望の伝言を依頼した
のであつて、亡Aは使用者の代理として応接したのであるから、右就職依頼は純然
たる個人関係でなく業務に附随する行為である。そして亡AがBに呼ばれて仕事場
の屋根から降りたのは喧嘩のためでなく、さきの就職の話の続きと思つて降りて行
つたのである。したがつて亡Aの右行動は使用者の意思に反したものでなく、業務
遂行のためのものであるから、災害と業務との間に相当因果関係がある。またBの
行為は一方的な暴行であつていわゆる私闘ではない。
       理   由
一 被控訴人主張の請求原因(一)記載の事実のうち、その主張の日に被控訴人が
労働保険審査会に再審査請求をし、同審査会より裁決書の謄本の送付を受けた事実
は成立に争いがない甲第三号証および弁論の全趣旨によつて認められ、その余の事
実は当事者間に争いがない。
二 そこで亡Aの死亡が業務上の災害にあたるかどうかを検討する。
 いずれも成立に争いがない甲第一号証、第四号証の一・二、乙第一ないし第三号
証、原審における証人C、同D、同E、同B、同Fの各証言および弁論の全趣旨を
綜合すると、以下の各事実が認められる。
1 大工Bは昭和三七年九月二九日の朝倉敷市中庄団地で偶然以前一緒に働いてい
た大工Gと会い、両名は同市粒江の大工E方に行つた。BとGはEに対し適当な仕
事先がないかと相談し、Eは冷酒を出し、これを飲みながら右相談にのり「家の近
くに藤木工務店の作業現場があるから、そこかまたは紡績の方にも現場があるので
その仕事現場に行つて頼んでみよう」と答えた。そしてBはE方で昼頃まで冷酒約
四合飲み、EにつれられてGとともに同日午後一時頃藤木工務店現場監督Hが働い
ている同市<以下略>の藤木工務店建築工事現場に行つた。
2 右現場は藤木工務店がIから請負つた側壁をブロツクとし、屋根を鉄筋コンク
リート造とする住宅新築工事現場で、同工務店はその大工作業を三浦組ことJに下
請させ、同組では大工世話役Fの下で亡A(昭和六年一〇月一五日生)、C、Dの
三名の大工が右住宅一階の屋根の上にあがつて板張りの仕事をしていた。右現場の
三浦組の責任者はFであるが、同人を除き同組で勤務年数の長い者はCついで亡A
であつた。そしてBらが右現場にきたとき、世話役のFはおらず、右三名の大工の
みが一階屋根の上で右大工仕事をしていた。
 右屋根部分には県道から幅三尺位の桟橋をかけ、これを昇つて屋根に上れる足場
ができていたが、右現場周囲および右足場にはなんらの障壁・囲もなく、外部から
自由に出入できるようになつていた。
3 右現場には現場監督Hがきていなかつたので、Bは以前一緒に三浦組で働いて
いた亡AやDらに時候の挨拶をし、右屋根の上で梁の間の寸法を測り板を打ちつけ
ていた亡Aの傍にかがみこんで、一・二ケ所所携のスケールで梁の検尺をして同人
が釘を打ち易いように板の片方を押えるなどの手伝いをしながら「Fが帰つてきた
ら、藤木で働けるように就職を頼みにきたと伝えてくれ」といつて伝言を依頼し
た。ついでBは既に構築されている仮枠の梁の間隔を測つて亡Aにその寸法が広す
ぎると指摘してから、前示桟橋を下に向けて降りかけていたところ、亡AがBに対
し「もとおりもせんのに」(「仕事ができもしないのに」という意味)と言つたの
で、Bはこれを聞きとがめたが、そのまま下の県道のところまで降りた。
4 そこでBは亡Aを謝罪させるため、Gに対し「Kがおかしなことを言つたから
呼んできてくれ、話をしたるけん」と言つたが、Gはもし亡Aを呼んで喧嘩になつ
てはいけないと考えてこれを止めたが、Bは「言うだけは言つて話をつけておいて
やらんといけん」と言つて亡Aを降りてくるように呼ぶと、同人がすぐ降りてき
て、右足場の東外れの川の向い側の県道上でBと向い会つた。Bが亡Aに対し「お
前さつきいらんことを言つたのを」と言うと、亡Aが返事もせずにただにやにや笑
つているので、傍にいたEはこのままではBが暴力を振うかも判らないと考え、亡
Aの肩をつきながら「お前笑うばかりせずに断りをせにやいけまいが」と繰返し言
つて謝罪するようにすすめたが、亡Aがなんらの応答もせず、ただにやにや笑みを
浮べいかにもBを馬鹿にしたような態度を示すので、Bは自分を嘲笑しているもの
と考え、憤激の余り突如手拳で亡Aの顔面を突き、同人の左腰から玄能を右手でと
り、これで同人の左頭部を殴打した。
5 その後右両名は仲直りし、亡Aも屋根に上つて作業を続けた。まもなく現場監
督HがきたのでEはBらの就職を依頼したが、人手が足りているということで断ら
れた。
 以上の各事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
 右事実によれば、亡AはBに仕事の一部を手伝つてもらつたものの、その作業内
容を批判するような言動を示されたので、Bに対し仕事もできないものが何をいう
かという趣旨の侮蔑的な言辞を述べてBを立腹させ、Bの呼びかけに応じて屋根の
作業現場から下の県道まで降りてきて、立腹しているBに対しなんらの謝罪もせ
ず、かえつてBを嘲笑するような態度でにやにや笑みを浮べてBを挑発したので、
Bは憤激の余り前示暴力を振うようになつたことが認められる。
三 或る災害が業務上と認められるためには、それが業務遂行中に業務に起因して
発生したものであることを要すると解すべきである。もつとも業務遂行中とは労働
者が使用者の従属関係にあることを意味し、業務に起因するとは、それが業務を原
因として生じた災害で業務と事故との間に相当の因果関係が存する場合をいうので
あるから、業務上の災害とは使用従属関係のもとにある労働者が、その業務に起因
して被つた災害によるものと認められる場合をいうのである。そして業務遂行中に
生じた災害は業務に起因するものと推定せられるが、被災者の積極的な私的行為や
恣意的行為によつて災害を招いた場合には、これらは私的行為・恣意的行為による
災害として除外され、さらに第三者の暴行による災害は、他人の故意に起因するも
のとして一般的に業務に起因するものとはいい難いが、被災者の職務の性格や内容
などを考慮し、加害行為が明らかに業務と相当因果関係にあると認められる場合に
限り、その災害は業務上のものというべきである。
 これを本件についてみると、前掲認定によつて明らかなように、本件災害は亡A
がBに対し侮蔑的言辞を述べ、さらに同人の呼びかけに応じて県道上まで降りてき
て嘲笑的態度をとり同人の暴力を挑発させたことに起因するものであるところ、亡
Aのかかる行為はいかなる点からみてもその本来の業務に含まれないことは勿論、
それに必然的に随伴または関連する行為でもなく、また業務妨害者に対し退去を求
めるための必要的行為と解し得る余地も存しない。
 したがつて亡Aの災害は、その使用従属関係の下におきたものであるが、業務と
関連がない同人の私的行為または挑発的な恣意的行為によつて自ら招いた災害とい
うべきであつて、その死亡と業務との間には相当因果関係がなく、これを業務上の
死亡と解し難いものといわなければならない。
 してみると亡Aの死亡が業務上のものであることを前提とする被控訴人の本訴請
求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。
四 そうすると被控訴人の本訴請求は棄却すべく、本訴請求を認容した原判決は失
当であるからこれを取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条・第八九条
を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋正男 中原恒雄 西内英二)

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