弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点について。
 遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前
処分の寄附行為に基づく財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合
において、右生前処分が遺言と抵触し、したがつて、その遺言が取り消されたもの
とみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の寄附行為に基づく財団設
立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたことを
必要とし、ただ単に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけ
では、その法律効果は生ぜず、遺言との抵触の問題は生じえないとするのが、当裁
判所の判例(当裁判所第三小法廷判決、昭和四〇年(オ)第七〇六号同四三年一二
月二四日言渡)とするところである。
 ところで、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が適法に判示
するところによると、Dは、昭和三一年一月一三日、当時所有していた被上告会社
の株式三〇万四七六五株を出捐して原判決の別紙第一記載の財団法人Eの設立を目
的とする寄附行為について、公正証書による遺言書を作成したこと、Dは、右遺言
書作成後その生前に、同人所有の現金二〇万円と同人が当時所有していた被上告会
社の株式二〇万株とを出捐して原判決の別紙第二記載の財団法人Fの設立を目的と
する寄附行為書を作成し、同三一年一一月二八日付でその設立許可申請が三重県教
育委員会を通じて同年一二月二五日付で主務官庁である文部省に対してされたが、
その設立許可申請書は、同三三年三月二四日付の書面で、Dあてに、文部省から運
用資金を五〇万円とすることおよび役員構成を変更することを求めて返戻されてき
たこと、その後間もなくDは同三三年四月二二日死亡したこと、なお、同人の遺言
に基づき被上告人らのなした財団法人E設立許可申請書も文部省から返戻されたこ
とが認められる。
 右確定した事実関係のもとでは、生前処分にあたる財団法人F設立の寄附行為は
まだその効力を生じておらず、この生前処分が前記遺言による財団法人E設立の寄
附行為に抵触するものとなしえないことは、前記説示に照らして明らかである。
 原判決中には、右と異なる見解を前提とする説示もあるが、本件においては、D
のした遺言と生前処分との間に民法一〇二三条二項にいう抵触は生じていないとい
うのであるから、結局、原判決の結論は正当である。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、前記説示と異なる独自の見解
を前提として原判決を非難するか、または、判決の結果に影響のない説示部分につ
いて原判決の違法をいうに帰し、失当として排斥を免れない。
 同第四点について。
 原判決が適法に判示した事実関係のもとにおいては、Dの遺言による寄附行為の
出捐財産である被上告会社の本件株式三〇万四七六五株は、設立さるべき財団法人
Eの目的財産として、Dの死亡後、遺産として相続人に渡された被上告会社の株式
八五〇〇株その他の財産と分離されてきたもので、その株主名義も、右財団法人の
設立準備委員長B名義に書き換えられ、しかも、被上告会社の株主総会において同
人名義で議決権が行使され、本件株式は寄附行為者Dの個人財産から明確に分離さ
れ、実質的には個人の帰属を離れた独立の存在として管理運用されてきており、ま
た、被上告人Bは財団法人Eの設立準備委員長として文部省に対しその設立許可申
請手続をし、同人は設立中の被上告財団の代表者的地位に立つて行動していたとい
うのである。
 そして、原判決の適法に判示するところによれば、被上告人BはDの死後、同人
の遺言に基づいて遺言執行者に就任し、遺言による寄附行為に基づく財団法人Eを
設立しようとして、みずから右財団の設立準備委員長となり、Dの遺産である本件
株式を財団法人E設立準備委員長B名義に書き換え、株式の議決権を行使したとい
うのであつて、Bは設立中の被上告財団の代表機関たる地位にあつたものといえる。
 してみれば、設立中の被上告財団が、民訴法四六条にいわゆる権利能力のない財
団として当事者能力を有するものとした原審の判断は、正当として是認することが
できる。
 ところで、遺言により遺言執行者が定められている場合には、相続人は、相続財
産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできなく(民法一〇一三
条)、遺言執行者が、相続人に代わつて、相続財産の管理その他遺言の執行に必要
な一切の行為をなす権利義務を有し(民法一〇一二条一項)、そのために相当かつ
適切と認める行為をすることができる。
 これを本件について検討するに、設立中の被上告財団が権利能力なき財団として
その存立を認められるのは、民法三四条による主務官庁の許可を得たうえで、財団
法人Eの設立されることを目的とする限度において、その社会的活動が認められる
からであつて、この両者の関係は株式会社成立前における権利能力なき社団たる設
立中の会社と成立後の会社との関係に類似しており、たとい設立中の被上告財団が
主務官庁の許可を得ておらず、いまだ法人として成立していないとしても、権利能
力なき財団たる被上告財団に本件株式の権利を帰属させ、その代表機関名義に本件
株式の名義を書き換えることは、遺言執行者としては、本件遺言の目的の達成のた
めに必要な行為をしたというべきであり、この行為をもつてその任務に背くものと
いうことはできない。
 したがつて、遺言執行者たるBの右名義書換により、本件株式の権利は権利能力
なき財団たる被上告財団に完全に帰属し、相続人たる上告人らは本件株式について
の権利を喪失したものと解するのが相当である。
 原判決の説示中には、これと異なる部分もあるが、論旨は、本件株式が相続財産
として相続人たる上告人らの権利に属することを前提として、原判決を非難するも
のであつて、この所論が前提を欠くものであることは、前記説述したところに徴し
て明らかであり、論旨は結局失当として排斥を免れない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第一点および第二点1ないし5(むすび中の照応論
旨部分を含む。)、ならびに追加上告理由について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点
に対して判示したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用するこ
とができない。
 上告代理人浜口雄の上告理由第二点7および8(むすび中の照応論旨部分を含む。)
について。
 所論は、本件株式につき上告人らが権利を有することを前提として原判決を非難
するものであるが、その前提を欠くことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点
において判示したとおりであり、論旨は結局失当たるを免れない。
 上告代理人下飯坂潤夫、同下飯坂常世の上告理由第一点、第二点および第四点、
第五点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第一点ないし第三点
において判示したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用すること
ができない。
 同第三点について。
 所論の採用しがたいことは、上告代理人江谷英男の上告理由第四点および上告代
理人浜口雄の上告理由第二点7、8において判示したとおりである。原判決に所論
の違法はなく、論旨は採用に値いしない。
 なお、上告代理人江谷英男の上告理由第三点第二、同浜口雄の上告理由第二点6、
同下飯坂潤夫、同下飯坂常世の上告理由第三点中、預金通帳引渡請求に関する部分
については、当審の口頭弁論期日において、当該被上告人からその請求を認諾する
趣旨の訴訟行為がなされて口頭弁論調書が作成され、その部分の訴訟は終了してい
るから、右論旨について判断をすることはできない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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