弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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      主    文
   被告人を懲役4年に処する。
   未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
      理    由
(犯行に至る経緯等)
 被告人は,2歳半ころ高熱を発して難聴となり,2級の障害者手帳を受けている
聴覚障害者で,都内aろう学校高等部を卒業し,さらに専攻科2年を経て就職した
が長続きせず,職を転々とした後,平成8年12月に手話グループで知り合った聴
覚障害者である妻Aと婚姻し,その間に長女B(平成○年○月○日生)をもうけ,
神奈川県相模原市b○丁目○番○号○号室被告人方居室において,親子3人で生活
していたが,婚姻したころ,一時アルバイトをした外は,無職状態が続いていた。
 被告人ら夫婦は,Bを養育するに当たり,言葉で伝えることが困難であることも
あり,日頃から,いうことを聞かないと思うと,Bを叩く,つねるなどして分から
せようとしていたが,被告人の方が強く叩くなどするため,Aに制止されることも
あった。さらに,被告人は,優しいところもある反面,自分を見失う程に激すると
ころがあり,平成13年2月24日ころには,Bが被告人のゲーム機をいたずらし
たとして立腹し,その顔面を殴打したり,首を絞めるなどの暴行を加えていた。
 Bは,聴覚に障害はなく,平成11年4月から相模原市内の保育園に通園してい
たが,保育園関係者は,Bに痣等が余りに多いため不審を抱き,児童虐待を疑っ
て,8月には児童相談所に通報し,その後は,保育園だけでなく,児童相談所,相
模原福祉事務所等が関与し,ケースワーカー,民生委員等,更には連絡を受けた姉
や母が被告人夫婦に様々な働きかけを行ったが,被告人らは,つまづいて転んだと
か育児について相談することはないなどとして,これを受け入れることはなく,拒
否的,消極的な対応に終始し,他方,Bに痣がたえず,欠席することもあったた
め,保育園等においても,不安を抱きながら見守っていた。
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年3月7日午前8時ころ,前記被告人方居室において,前記
B(当時3歳)が犬の餌を散らかしたりしてAから軽く叩かれているのを見て,B
が犬の餌を食べたのではないかと思い,Bを叱った際,Bが顔を背けるなどして素
直に聞こうとせず,反抗的な態度を取ったとして激高し,Bに対し,その顔面を手
けんや平手で数回殴打した上,腹部を数回足蹴にするなどの暴行を加え,よって,
同月8日午前1時9分ころ,同市c○丁目○番○号C病院救急救命センターにおい
て,Bを腹部打撲傷に基づく腸間膜破裂,小腸損傷による腹腔内出血及び腹膜炎に
より死亡するに至らしめたものである。
(証拠の標目)   略
(法令の適用)   略
(量刑の理由)
 本件は,判示のとおりの傷害致死の事案である。
 発端は,被告人が被害者が犬の餌を食べたのではないかと心配してのこととはい
え,その体罰は,およそしつけとは無縁の感情に任せたものであり,思慮を欠くこ
と甚だしく,同情する点はない。
 弁護人は,被告人がしつけとして暴行に出ることについては,聴覚障害による育
児情報の不足等が影響しており,同情すべき点がある旨主張する。
 しかしながら,保育園や社会福祉関係者らは被害者の痣から被告人らの虐待を疑
い,被告人夫婦に対し,種々の援助を申し出,また,被告人は,連絡を受けた姉や
母親からも注意をされていたのに,これを受け入れ,あるいは生かすことをしてい
ない。しかも,被告人は,相応の学校教育も受け,職場勤務の経験もあって,幼児
に対する暴行の危険性等についても十分理解できる立場にある。さらに,そもそ
も,本件は,被害者に対するいらだちや腹立ちを解消しようと思慮なく感情的に被
害者に暴行を加えたものであって,育児情報の不足というよりも,被告人の性格特
性が強く反映している。以上の点からみて,弁護人指摘の点がそれほど斟酌できる
事情とは認められない。
 暴行の態様も,被告人の供述と妻の供述とで食い違いがあるが,被告人の供述に
よっても,3歳の女児に対する仕打ちとは思われない執拗,かつ,苛烈極まりない
ものであって,およそしつけとは無縁の常軌を逸したものというほかない。被害者
の腸管は10センチメートルにわたり破裂し,小腸は腸管も数カ所にわたり損傷
し,半ば断裂しており,衝撃のすごさを物語っている。犯行後,被害者は何度か嘔
吐しながら眠りにつき,医療機関の手当すら受けられないまま死に至っている。受
傷時から死亡までの苦痛は想像するに難くない。被害者は,途中目覚めて大丈夫か
と容態を尋ねる被告人に,ほほえみかけて頷いたというのであるが,最も信頼し,
愛情を得たいと願う親からかかる仕打ちを受けながら,なおも親の愛情を得たいと
願う被害者の胸中は察するに余りある。前記のとおり,被害者は,体の痣等をもっ
て,上記関係者らに被害の危険性を身をもって示し,無言の救助を求めていたの
に,結局救われることなく,薄幸と苦痛のうちにわずか3歳でその短い人生を終わ
らざるを得なかったものである。まことに痛ましく,哀れというほかない。
 これらからすると,被告人の刑事責任は重大である。
 他方において,本件は,平素の体罰とは無縁ではないものの,一時の激情に流さ
れるまま暴行を加えたもので,突発的な犯行であること,被害者の具合が悪くなっ
てからは,その様子を気に掛け,容態の急変を知って後は,人工呼吸をしたり,1
19番通報をするなど救命のための努力もし,逮捕後は自己の行為について率直に
認めていること,被害者を死に至らせてしまったことについて,日頃体罰を加えて
きたことを含め,強く反省し,後悔,苦悩していること,望んで被害者をもうけた
ものであり,体罰を加えてはいるものの平素は,被害者を可愛がり,被害者も被告
人になついていたこと,妻も聴覚障害者であり,他人とのコミュニケーションに困
難を伴うこともあって,妻共々周りとの接触,対応に,拒否的,消極的となり,ま
た,しつけの際にも,勢い体罰に頼りがちになるなどしたこと,幼少時から聴覚障
害を背負ってきた上,父母が早くに事実上の離婚状態となり,健全な父親像に接す
る機会が乏しく,さらに,一時一般の小学校,高等学校に入学していじめにあい転
校を余儀なくされたことも,被告人の前記のような激しやすい性格特性の形成に影
響を及ぼしたとみうること,被告人の妻,母親が証人として出廷しその更生に協力
する旨述べており,助力を期待できる聴覚障害者団体会員もいること,これといっ
た前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 そこで,これらの諸情状を総合考慮し,主文の刑を相当と認めた。
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官橋本千惠子,弁護人関守麻紀子(主任),同田門浩,同大和田治樹各公判
出席)
(求刑 懲役6年)
平成14年1月24日
   横浜地方裁判所第1刑事部
 
           裁判長裁判官  田  中  亮  一
              裁判官  前  澤  久美子
              裁判官  竹  林  俊  憲

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