弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主    文
被告人を懲役2年10月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理    由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 酒気を帯び,血液1ミリリットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコール
を身体に保有する状態で,平成14年5月19日午前1時17分ころ,山口県萩市
a町b番地のc付近道路において,普通乗用自動車を運転した
第2 前記日時ころ,飲酒検問中の警察官の停止指示に従わなかったことから,パ
トカーに追尾され,これを振り切って自己の飲酒運転の発覚を免れようと,最高速
度を時速30キロメートルと指定され,右方に約135度屈折したY字交差点とな
っている前記場所において,その進行を制御することが困難な時速約85キロメー
トルを超える高速度で前記車両を東から西に向けて走行させ,そのため,自車を前
記Y字交差点の道路の屈折に応じて北西方向に右折して進行させることができなく
なり,進路前方のA方石垣に自車をその前部左側から激突させ,よって,自車助手
席に同乗中のB(当時18歳)を同日午前3時22分ころ,同市d町e番地C病院に
おいて,全身打撲により死亡させるとともに,自車助手席側後部座席に同乗中のD
(当時18歳)に安
静加療約2か月間を要する左大腿骨骨折の傷害を,自車運転席側後部座席に同乗中
のE(当時18歳)に加療約2か月間を要する右恥骨・坐骨骨折等の傷害をそれぞ
れ負わせた
ものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
被告人の判示第1の行為は,平成13年法律第51号附則9条により同法による
改正前の道路交通法119条1項7号の2,65条1項,平成14年政令第24号
附則7条により同政令による改正前の道路交通法施行令44条の3に,判示第2の
行為は,各被害者毎にいずれも刑法208条の2第1項後段,前段にそれぞれ該当
するが,判示第2の各行為については,1個の行為が3個の罪名に触れる場合であ
るから,同法54条1項前段,10条により最も重いBに対する危険運転致死罪の
刑で処断することとし,判示第1の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は同
法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の
罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告
人を懲役2年10月
に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,訴訟費用
は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこと
とする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,酒気帯びの状態で普通乗用自動車を運転した事案(判示第
1),及びその運転中,警察の追尾を振り切るため,高速で自車を運転した結果,
屈折した道路を曲がりきれず,石垣に自車を衝突させ,同乗者のうち1名を死亡さ
せるとともに,他の同乗者2名に重傷を負わせた事案(判示第2)である。
被告人は,友人らと飲酒するため,普通乗用自動車を運転して居酒屋に向かった
のであって,当初から飲酒運転を予定していた。被告人は,実際に,飲酒後,カラ
オケ店に向かうために友人らを同乗させて自車を運転したものであるが,被告人の
飲酒量は,正確な量は不明であるものの,ビール,チューハイ,日本酒など相当量
にのぼっており,当時の法令の基準を大幅に上回る血液1ミリリットルにつき1.
53ミリグラムものアルコールを保有した状態で運転したのであって,この点だけ
を取り上げても,その犯行態様は無軌道,悪質である。また,被告人は,従来か
ら,漠然としたものであったにせよ,酒気帯び運転中に警察の検問に遭遇した場合
には逃走するとの考えを持っていたものであり,現に,本件で警察の検問を発見
し,警察官から停止を求
められるや,躊躇することなく自己の酒気帯び運転の刑責を免れるために逃走を開
始し,パトカーに追尾されると,これを振り切るため,国道を右折し,道路状況を
熟知したそれほど道幅の広くない公道に入り,制限速度をはるかに超える時速約1
10キロメートルの速度で走行した挙げ句,本来被告人自身,時速30キロメート
ルを超えるような高速度では右折が困難であると状況を認識していたはずの現場交
差点の直前までブレーキをかけず,本件事故を引き起こしたものである。このよう
に,逃走を図った被告人の動機は言語道断なものであったし,逃走のための運転は
極めて無謀,危険極まりないものであったといわざるを得ない。
本件犯行の結果一命を奪われた被害者は,いまだ18歳で,高校卒業後,就職し
て真面目に働き,保母になるとの夢も抱いていたのであって,これから人生を謳歌
しようとしていた矢先に,突然,その生命を奪われた同人の無念さは,到底図り知
ることができない。また,愛情を注いで同人の成長を見守り,支えてきた同人の両
親らも,突然の訃報に接して極めて大きな衝撃を受け,今後も決してやむことのな
いであろう大きな悲哀を抱いていることも想像に難くない。さらに,他の同乗者2
人の被った傷害の程度も重い。
被告人は,本件以前から飲酒運転を繰り返していたし,検問にあえば逃走する意
図を持っていたのであって,被告人には,交通規範に対する遵法精神が希薄化して
いたといわざるを得ない。
近時,悪質な交通事犯,これによる悲惨な人身事故が増加しており,これに対処
するため,危険運転致死傷罪の制定を始めとして,幾度かの法改正等を経ていると
ころであり,かかる事犯に対しては厳しい姿勢で臨むことが社会的に強く要請され
ているというべきであって,一般予防の観点からも,本件についての被告人の刑責
は,厳正に問われなければならないといわざるを得ない。
以上,本件,とりわけ判示第2の犯行の動機,態様,悲惨かつ重大な結果によれ
ば,被告人の刑責は重いといわなければならず,被告人に対しては,実刑をもって
臨むことがやむを得ない。
もっとも,被害者らは,被告人とともに飲食し,被告人が相当飲酒していること
を承知しながら,被告人が自動車を運転するのを容認し,これに同乗していたので
あって,検問を無視し,パトカーの追尾を振り切るべく被告人が判示の如き無謀運
転に及ぶことまでは想定外であったとはいえ,上記の点で被害者らに落ち度が全く
なかったといえるかには疑問もある。判示第2の犯行により死亡した被害者の遺族
の感情は,前記のとおり,衝撃,悲哀が大きいことは格別,被告人に対するものと
しては,今後の更生を願う意思も窺われ,処罰感情が高いとまではいえないし,傷
害を負った被害者2名は,いずれも,被告人に対して重い処罰を望まない旨述べて
いる。これらの被害者又はその遺族に対しては,保険により,将来しかるべき賠償
のなされることが見
込まれてもいる。また,被告人は,捜査段階から一貫して事実関係を率直に認め,
当公判廷においても,深い反省の情を示している。更に,被告人の両親は,被害
者,被害者遺族に対し,被告人に代わって謝罪し,死亡した被害者遺族に対しては
100万円を超える金銭を,傷害を負った被害者2名に対しては,それぞれ10万
円又は20万円の金銭を支払うなど誠意を尽くすとともに,被告人の父親が当公判
廷に出廷し,今後も被害弁償については誠意を持って対応し,合わせて被告人を監
督する旨述べている。これらの事情に加え,被告人はいまだ若年で,前科前歴もな
く,正業に励んでいたこと,被告人自身も右膝蓋骨解放骨折等の傷害を負っている
ことなど,被告人にとって酌むべき事情も多々存するところではある。
以上のような事情を総合考慮し,被告人に対しては,前記のとおり実刑をもって
臨まざるを得ないが,その量刑については,主文の限度にとどめるのが相当である
と判断した。
(求刑・懲役5年)
平成15年1月22日
山口地方裁判所第3部
裁判長裁判官   小   島   正   夫
裁判官   山   口   浩   司
裁判官   安   部       勝

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