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平成16年11月16日判決言渡
平成16年(ハ)第10863号 損害賠償請求事件
判      決
主      文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,各自の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金50万円及びこれに対する平成16年8月1日から支払い
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨   
被告は,以下(1)ないし(4)の言動のとおり,原告を花泥棒呼ばわりしてその社
会的名誉を毀損したので,不法行為に基づく損害賠償として金50万円の支払を求
める。
(1) 平成16年5月14日午前11時ころ,被告は,原告宅に近いA女史方を訪れ,
同人に対し,コリーをつれて黒い帽子を目深に被って散歩している人を知らない
か,植木は盗むし,鉢は蹴っ飛ばしていくし,今朝も花(月下美人)を引き抜いて
いった,家を教えて欲しいなどの趣旨を述べた。
(2) 同日午前11時10分ころ,A女史方隣家のB女史方を訪れ,A女史に述べた
ことと同趣旨のことを繰り返して述べ,さらに「このコリーも老齢の犬だからもうす
ぐくたばる,犬がいなくなればこんな凶暴なこともなくなるのだろうけど,ほとんど
毎日なので困っている。」などと述べた。
(3) 同日午前11時20分ころ,被告は,A女史,B女史がいる前で,通りかかった
C女史に対し,同趣旨のことを述べた。
(4) 同日夕方,原告が,a川のb橋とc橋間の遊歩道を,犬を連れて散歩していた
ところ,周囲に約三,四十人がいるなかで,「思い出した。やっぱりお前だ。お前
が泥棒なんだ。花を盗んだり,鉢を蹴飛ばして行った。」と原告に向かって言っ
た。
2 被告の主張 
私は,原告のことを花泥棒と言ったことはない,花を引き抜いたり,花壇の綱を
引きちぎったり,月下美人系の花を引きちぎったと言ったのである。花泥棒なら許
せるが,花を引き抜いたり,引きちぎったりしてその場に捨てるのは犯罪だから許
せない。
3 争点
被告の言動は名誉毀損(民法710条)に該当するか
第4 当裁判所の判断
1 原告が,被告主張のとおり,花を引き抜いたり,引きちぎったりした事実がある
かにつき判断する。
被告は,原告が花を引き抜いたり,引きちぎったりするのを見たと陳述する
が,その日時や場所の特定が十分でなく,原告以外の者を原告と見間違えた可
能性も否定できないことからすれば,被告の陳述を採用することはできず,その
事実を認めることはできない。また,原告が花を盗ったことを認める証拠もない。
2 請求原因(1)ないし(4)が認められるかを判断する。
(1) 請求原因(1)ないし(3)は,Dの陳述書及び原告の陳述により認める。
(2) 請求原因(4)につき検討する。
① 原告の陳述要旨は以下のとおり。
私は,犬を連れて散歩の途中,川の遊歩道に松葉ボタンがちぎられて落
ちているのを見て,私のことを花泥棒みたいに言っている被告に対し,私が
花を盗ったりなどしていないことを明らかにするため,川を挟んで向かい側
にいた被告に声をかけた。そして,橋を渡って来た被告に対し,抗議の意味
を含めて,「小父さん,ここにも花がちぎられているじゃない」と言った。ところ
が,被告は,その花も私がちぎったようなことを言ってから,橋を渡って戻る
途中,私の方を振り返り,手をパンとたたいて,「思い出した。やっぱりお前
だ。お前が泥棒なんだ。花を盗んだり,鉢を蹴飛ばして行った。」と大声で言
った。そのとき,周囲には,カルガモ見物の近隣住民が,私の知人を含め約
二,三十人いた。私は,顔から火が出るくらい恥ずかしい思いをした。
② 被告の陳述要旨は以下のとおり。
私は,川の向こう側で,原告が私に向かって大きな声を出していたので,
橋を渡って原告の方に行った。原告が「ここにも松葉ボタンが落ちているじ
ゃない。」と言うので松葉ボタンを見たが,私は「なんでもないよ」と言っただ
けで,ほかのことは一切言わなかった。
③ 上記のように対立するので判断する。
(ア) 原告と被告は,数年前に,原告が散歩させていた犬の扱いをめぐっ
てやりとりがあって以来,必ずしも友好的ではない関係が続いていた。
(イ) 請求原因(4)事実の直前である当日午後2時30分ころ,e交番にお
いて,原告が,被告のそれまでの言動について警察官に苦情を述べて被
告と口論となったが,警察官の取りなしでようやく収まった。
以上(ア),(イ)のような経緯があったことからすると,わざわざ原告に川
の向こうから呼ばれて橋を渡って行った被告が,ただ「なんでもないよ」と言
うのみで,他のことは一切言わなかったという陳述は,不自然で必ずしも一
貫性があるとはいえず,そのまま信用するのには躊躇せざるを得ない。加
えて,原告が陳述した内容は具体的で,被告とのやりとりを特段誇張するこ
ともなく陳述していることからすれば,原告の陳述を採用することができ,請
求原因(4)を認定することができる(ただし,その場にいたのは約二,三十
人と認める。)。
3 以上1,2を総合すれば,被告の請求原因(1)ないし(4)の一連の言動は,複
数の近隣住民が認識できる状況のなかで,何らの正当な理由もなく,原告の社
会的評価を低下させたものといわざるを得ない。
なお,仮に被告主張のとおり,被告が原告に対し,花を盗んだと言ったのでは
なく,花を引き抜いたり,引きちぎったりしたと言ったとしても,花を引き抜いたり,
引きちぎる行為(器物損壊)も,花を盗む行為(窃盗)と同じく刑法上の犯罪であ
るから,原告を犯罪を犯した者と誹ったことに変わりはない。
そうだとすれば,被告は,本件言動につき,原告に対し謝罪の気持ちをもって
然るべきものと考える。
4 その上で,本件被告の言動が,民法上の名誉毀損に該当するかどうかを検討
する。
人は,社会生活する中で,他者の言動によって,自己の社会的評価を低下さ
せられ,不愉快な思い,恥ずかしい思いをすることがある。しかし,民法はそのよ
うなときに,常に名誉毀損が成立して損害賠償義務が発生するとはしておらず,
他者の言動が,その動機,経緯,具体的結果をも含めて,金銭をもって慰謝する
のが相当であると認められる程の違法性がある場合に限り,名誉毀損が成立す
ると定めているものと解する。
そうすると,以下(1)(2)を考慮すれば,結果的には,被告の本件言動は,い
まだ金銭で慰謝するのが相当であると認められる程の違法性がある事案とはい
いがたく,名誉毀損は成立しないと判断する。
(1) 被告の本件言動の動機は,被告が日頃から遊歩道などに犬が糞をしない
ように注意を呼びかけたり,空き地に花壇を設けたりして,被告なりに近隣の
清掃・美化をしているにもかかわらず,思うにまかせない憤まんがたまたま原
告に向けられたともいえること。
(2) 被告の本件言動の結果,原告が,近隣で花泥棒とかの噂を立てられたな
どの事実はなく,原告の名誉につき深刻な実害が生じる事態には至らなかっ
たこと。
5 以上のことから,原告の慰謝料請求を棄却することとし,訴訟費用については,本
件訴訟の経過,内容をしんしゃくし,民訴法62条を適用して,原告・被告の各自の
負担とする。  
よって,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第3室
裁 判 官   齋  藤  利  夫

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