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平成13年(行ケ)第347号 審決取消請求事件(平成13年12月10日口頭
弁論終結)
          判         決
   原      告   株式会社コーセー
訴訟代理人弁理士成   合       清
同瀬   戸   昭   夫
       被      告   株式会社トライパワーグループ
   訴訟代理人弁理士   志   賀   正   武
同          渡   辺       隆
同          高   柴   忠   夫
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成10年審判第35336号事件について平成13年6月25日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  被告は、「モイスチュアサイエンス」の片仮名文字及び「Moisture
Science」の欧文字を2段に横書きしてなり、指定商品を商標法施行令別表による第
3類「化粧品、せっけん類」とする商標(登録第4034918号、平成7年11
月17日登録出願、平成9年7月25日設定登録、以下「本件商標」という。)の
商標権者である。原告は、平成10年7月24日、本件商標登録の無効審判の請求
をし、特許庁は、同請求を平成10年審判第35336号事件として審理した結
果、平成13年6月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、その謄本は、同年7月6日、原告に送達された。
2 審決の理由
  審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件商標と原告の引用する「サイ
エンス」の片仮名文字及び「SCIENCE」の欧文字を2段に横書きしてなり指定商品を
商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)による第4類
「化粧品、その他本類に属する商品」とし、商標権存続期間の更新登録により現に
有効に存続している登録第2110684号商標(昭和56年9月22日登録出
願、平成1年2月21日設定登録、以下「引用商標」という。)に類似するから、
商標法4条1項11号に掲げる商標に該当するとの原告の主張に対し、本件商標が
全体として一体不可分の造語よりなる商標であるとの判断をした上、両商標は、(1)
 本件商標より生ずる「モイスチュアサイエンス」の称呼と引用商標より生ずる
「サイエンス」の称呼とは、明らかに聴別し得るものであり、(2) 外観上互いに区
別し得る差異を有し、(3) 観念上比較すべくもないから、両商標は非類似であっ
て、本件商標が商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものということ
はできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決は、本件商標が全体として一体不可分のものであるとの誤った判断をし
た上、本件商標と引用商標が非類似である旨誤った判断をした結果、本件商標の商
標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものであるから(取消事由)、違法とし
て取り消されるべきである。
 2 取消事由(類否判断の誤り)
  (1) 商標が、その構成中に指定商品の品質、用途、効能等(以下「品質等」と
いう。)を表す部分(以下「記述的部分」という。)を有する場合には、当該商標
が一体不可分の態様で表されていたとしても、記述的部分を看取させないほど商標
全体の中に埋没融合するに至っているとか、他の文字と結合することで品質等とは
関係のない1語を形成しその語が一般に親しまれているといった特段の事情がある
場合を除き、記述的部分は、自他商品の識別機能を有しないものである。
  (2) 本件商標中「モイスチュア/Moisture」の部分に上記特段の事情はないけ
れども、皮膚の保湿は、化粧品、特に、基礎化粧品にとって重要な機能の一つとさ
れ(甲第4号証)、「モイスチャークリーム」「モイスチャーローション」といっ
た、専ら肌に対する保湿を目的とする化粧品や、頭髪や肌に保湿効果を有するシャ
ンプー等が取引されている(甲第5~第9号証)。これらの商品について、「モイ
スチュア/Moisture」の文字は、本件商標の登録時、これらの商品が保湿効果を有
することを表示するものとして一般に使用されていた(甲第7~第10号証)。ま
た、特許庁が、「モイスチュア」「モイスチャー」「Moisture」等の文字につい
て、自他商品識別機能を有しないとした審査例も少なくない(甲第11~第14号
証)。
  (3) 以上の事実に照らすと、本件商標が指定商品中の保湿効果を有する化粧品
や石けん類について使用されたとき、これに接する取引者、需要者は、「モイスチ
ュア/Moisture」の文字を記述的部分として理解し、「サイエンス」と称呼し「科
学」の観念を想起する。
  (4) 審決は、「モイスチュア/Moisture」の文字が、化粧品業界において、上
記のような記述的部分として一般に使用されていることを考慮することなく、本件
商標が外観上まとまりよく表示され、これにより生ずる称呼も格別冗長とはいえな
いとして、直ちに、本件商標を一体不可分の造語よりなる商標とした上、これを前
提に本件商標が引用商標と非類似であるとしたものであって、一体不可分と解すべ
き理由についての判断を遺脱し、また、非類似との誤った判断をしたものである。
第4 被告の反論
 1 本件商標と引用商標が類似しないとする審決の判断は正当であり、原告の取
消事由の主張は理由がない。
 2 取消事由(類否判断の誤り)について
  (1) 本件商標を構成する「モイスチュア/Moisture」の文字には「湿気」「潤
い」等の意味があり、「サイエンス/Science」の文字には「科学」の意味があるか
ら、本件商標は、指定商品との関係において、「湿気の科学」「潤いの科学」等の
観念を想起させるものである。したがって、本件商標は、外観及び称呼のみなら
ず、観念上も一体不可分とみるべき特段の事情がある。
  (2) 原告は、「モイスチュア/Moisture」の文字に自他商品識別機能が認めら
れないとした上、類否判断においてこの部分を無視し得ると主張するが、失当であ
る。これらの文字と次の語が一体不可分と判断された例として、「モイスチャーフ
ィール/MOISTUREFEEL」と「Feel/フィール」が非類似とされたものなどが多数存
在する(乙第3~第16号証の各1、2)。これらの例は、「モイスチュア/
Moisture」の文字に続く語が既成語であり、かつ、日本人にも比較的なじみのある
英語であって、とりわけ、指定商品である「化粧品、せっけん類」の取引者、需要
者になじみのあるものである。これらの要件を具備する商標は、「化粧品、せっけ
ん類」を指定商品として、全体で一種の造語のようにみられ、一体不可分のものと
して多数登録されている。そこで、「モイスチュア/Moisture」の文字に続く「サ
イエンス/Science」の文字についてみると、既成語であり、かつ、日本人にも比較
的なじみのある英語であって、とりわけ、指定商品である「化粧品、せっけん類」
の取引者、需要者になじみのあるものであるという点で、上記の登録例と同様であ
る。「サイエンス/Science」の文字を含む商標は、「ミクロサイエンス/MIKRO
SCIENCE」など多数のものが、指定商品を「化粧品、せっけん類」として登録されて
いる(乙第23~第48号証の各1、2)。ちなみに、「PURESCIENCE/ピュアサイ
エンス」(乙第25号証の1)等の商標は、「PURE/ピュア」(乙第50号証)等
の商標が拒絶されているにもかかわらず、「サイエンス/Science」と組み合わされ
ることにより一体不可分の商標として登録されているが、これは「サイエンス」単
独の称呼又は「科学」単独の観念は生じないとの判断によるものである。
  (3) 本件商標は、全体で一種の造語を形成し、一体不可分のものとして「モイ
スチュアサイエンス」の称呼、観念しか生じないから、「サイエンス」の称呼、観
念しか生じない引用商標とは非類似である。
  (4) 被告は、本件商標を使用した商品(検乙第1号証)を販売しており、販売
数量及び売上とも実績を挙げているが(乙第57号証)、これまで、一般消費者か
ら引用商標との混同による苦情を受けたことはない。原告が実際に販売している商
品に使用されている商標は「HYDRO-SCIENCE/ハイドロサイエン
ス」「VITAL-SCIENCE/バイタルサイエンス」「WHITE-SCIENCE/ホワイトサイエン
ス」であるが、これら商品との関係でも、混同が生じたことはない。本件商標は、
実際の取引市場においても、登録商標としてその機能を十分発揮しており、取引秩
序を乱すような不都合は生じていないから、この点からも、本件商標の登録は妥当
なものである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(類否判断の誤り)について
  (1) 称呼について
    本件商標(甲第1号証の1)は、「モイスチュアサイエンス」の片仮名文
字及び「MoistureScience」の欧文字を2段に横書きしてなるものである。そし
て、本件商標中、「モイスチュアサイエンス」の片仮名部分は、一連に表記されて
「ア」と「サ」の間に間隔はなく、かつ、各片仮名は、「ユ」が小さいほかは、同
一の大きさ及び一般的な字体により表記されている。また、「MoistureScience」
のローマ字部分は、「e」と「S」の間に間隔があるが、1文字分であっ
て「Moisture」と「Science」の英単語2語から構成されることが示されているにす
ぎず、各単語の語頭の「M」及び「S」のみが大文字で表記され、その字体は、いず
れの文字も一般的なものである。そうすると、本件商標において、「モイスチュア
サイエンス」の片仮名部分及び「MoistureScience」の欧文字部分は、いずれも一
連に称呼され、「モイスチュアサイエンス」の称呼を生ずるが、「サイエンス」の
称呼を生ずることはないと認められる。他方、引用商標は「サイエンス」の称呼の
みを生ずるから、両商標は、称呼において類似しないというべきである。
  (2) 観念について
    本件商標中「モイスチュア/Moisture」の部分は、英語及びその発音を片
仮名で表記したものであり、英語の「Moisture」は、「湿気」「潤い」「水分」
「水蒸気」などの意味を有する(昭和55年株式会社研究社発行の「新英和大辞典
〔乙第1号証〕)。また、「サイエンス/Science」の部分も、英語及びその発音を
片仮名で表記したものであり、英語の「Science」は、「科学」すなわち「一定の目
的・方法のもとに種々の事象を研究する認識活動」などの意味を有することが明ら
かである(平成10年11月20日株式会社小学館発行の「大辞泉〈増補・新装
版〉」〔乙第2号証〕)。そこで、これらを組み合わせた本件商標から生ずる観念
について検討すると、前半部分の「湿気」「潤い」などの意味と後半部分の「科
学」などの意味が結びつけられて理解されるとは認め難く、本件商標が特定の観念
を生ずるものとして取引者、需要者に理解されていると認めるに足りる証拠もない
から、本件商標は、全体として一つの造語として理解され、特定の観念を生じない
というべきである。他方、引用商標は、上記のとおり、「科学」などの観念を生ず
るが、本件商標が特定の観念を生じない以上、両商標は、観念において、比べるべ
くもなく、類似しないというべきである。
  (3) 外観について
    両商標は、外観が上記(1)のとおりであり、外観において類似しないという
べきである。
(4) 以上のとおり、両商標は、称呼、観念、外観のいずれの点においても類似
せず、他に両商標の類似性を基礎付ける事実関係はうかがわれないから、全体的に
観察して、両商標は類似しないというべきである。
  (5) 商標の構成中に記述的部分がある場合には、当該部分は、原則として自他
商品の識別機能を有しないものであるところ、原告は、「モイスチュア/
Moisture」の文字が記述的部分であると主張するので、この点について判断する。
    証拠によれば、皮膚の保湿が化粧品にとって重要な機能の一つとされ(平
成9年8月20日株式会社南山堂発行の「新化粧品学」〔甲第4号証〕)、「モイ
スチャークリーム」「モイスチャーローション」といった、専ら肌に対する保湿を
目的とする化粧品、頭髪や肌に保湿効果を有するシャンプー等が取引されているこ
と(平成4年10月1日株式会社廣川書店発行の「廣川香粧品事典」〔甲第5号
証〕、昭和61年10月18日東洋経済新報社発行の「現代商品大辞典新商品版」
〔甲第6号証〕)、「モイスチュア/Moisture」の文字は、本件商標の登録時、こ
れらの商品が保湿効果を有するものであることを表示するものとして、一般に使用
されていたこと(株式会社週刊粧業発行の「1996cosmeticsinjapan」〔甲第8号
証〕、同「1997cosmetticsinjapan」〔甲第9号証〕、同「1998cosmeticsin
japan」〔甲第7、第10号証〕)が認められる。しかしながら、英語
の「Moisture」の語は、上記(2)の意味を有する名詞であり、本来、「保湿効果のあ
る」とか「潤いのある」という形容詞としての意味を有する語ではない。確かに、
「モイスチャー」の語が「クリーム」「ローション」等の語と組み合わされた「モ
イスチャークリーム」「モイスチャーローション」等の場合には、組み合わされた
2語のイメージが近いことから、「保湿効果を有するクリーム」「保湿効果を有す
るローション」という意味に理解されることがあるとしても、「モイスチャー」の
語が「サイエンス」と組み合わされた場合には、「保湿効果を有する科学」のよう
な意味で理解し得ないことはもちろんのこと、2語のイメージがかけ離れているた
め、「湿気の科学」「潤いの科学」などの意味で理解されるとも認め難い。したが
って、上記甲号証をもってしても、「モイスチュア/Moisture」の文字が記述的部
分であると認めることはできない。
    また、原告は、特許庁が「Moisture」「モイスチュア」「モイスチャー」
等の文字について、自他商品識別機能を有しないとした審査例が少なくないと主張
し、これを立証するものとして証拠(日本化粧品工業連合会発行の「拒絶文字商標
集〈第4類〉」〔甲第11号証〕、同「拒絶文字商標〈第4類〉一覧」〔甲第1
2、第13号証〕、審決公報〔甲第14号証〕)を提出するが、これらの証拠は、
「モイスチュア」「モイスチャー」「Moisture」等の文字そのもの、又はこれが他
の文字と結合された商標が拒絶されたことを示すものにすぎず、拒絶の理由、審判
請求の有無及び結果等も明らかではない。また、上記(2)のとおり、本件商標は、全
体として一つの造語として認識されるものであるから、仮に、その一部である「モ
イスチュア」等が記述的商標又は記述的部分であるからといって、本件商標におい
ても記述的部分であると推認し得るものではない。
    さらに、原告は、「モイスチュア/Moisture」の文字が化粧品業界におい
て記述的部分として一般に使用されていることを審決が考慮していないと主張する
が、これが一般に記述的部分として使用されていると認められないことは上記のと
おりであり、この点で化粧品業界が特に事情を異にすると認めることもできない。
また、本件商標が一体不可分の造語として理解されることは上記(2)のとおりであ
り、この点において審決の判断は正当というべきであるから、これを前提に本件商
標と引用商標を非類似とした審決の判断には、原告主張のような判断の遺脱又は誤
りがあるということはできない。
 2 以上によれば、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決
する。
   東京高等裁判所第13民事部
       裁判長裁判官  篠   原   勝   美
          裁判官   石   原   直   樹
裁判官    長   沢   幸   男

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