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平成12年(行ケ)第76号審決取消請求事件(平成12年7月5日口頭弁論終
結)
         判     決
    原      告       【A】
    原      告       【B】
    上記両名訴訟代理人弁理士   【C】
    同              【D】
    被      告       特許庁長官 【E】
    指定代理人          【F】
    同              【G】
         主     文
     原告らの請求を棄却する。
     訴訟費用は原告らの負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告ら
   特許庁が、平成10年審判第12898号事件について、平成12年1月2
4日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告らは、平成7年11月24日、白地に黒色で「負圧燃焼焼却炉」との漢
字を横書きしてなる別紙記載の商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商
品を商標法施行令別表による第11類「焼却炉」として商標登録出願をした(商願
平7-122156号)が、平成10年6月29日に拒絶査定を受けたので、同年
8月14日、これに対する不服の審判を請求した。
   特許庁は、同審判請求を平成10年審判第12898号事件として審理した
うえ、平成12年1月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を
し、その謄本は、同年2月9日、原告らに送達された。
 2 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願商標が、これをその指定商品に
使用した場合に、これに接する取引者、需要者に、商品の品質、機構を表示するも
のと認識されるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たさないものと認
められるから、商標法3条1項3号に該当し、登録することはできないとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由の要点
 1 審決は、本願商標が、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章の
みからなる商標であると誤って判断したものであるから、違法として取り消されな
ければならない。
 2 取消事由
  (1) 審決は、「負圧燃焼焼却炉」の文字よりなる本願商標が、商品である「燃
焼炉」の文字に、「大気圧以下絶対圧力零までの圧力」を意味する「負圧」、及び
「空気中又は酸素中で物質が酸化して炎を生じる現象」を意味する「燃焼」の各文
字を付してなるものであるから、「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」
の意味合いを容易に理解させるものとしたうえ、これをその指定商品に使用した場
合に、これに接する取引者、需要者に、上記意味合いを有する商品を表したもの、
すなわち、商品の品質、機構を表示するものと認識されるに止まり、自他商品の識
別標識としての機能を果たさないとして(審決書2頁下から7行~3頁12行)、
本願商標が商標法3条1項3号に該当するとしたが、それは誤りである。
  (2) 審決は、本願商標を「負圧」、「燃焼」及び「焼却炉」の各文字部分に分
離して観察したうえで、本願商標が「その商品の・・・品質・・・を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)に該当すると
したものであるが、本願商標の構成は、「負圧燃焼焼却炉」の漢字7文字を一体的
に横書きにしたものであって、特定の観念を生じない造語からなるものであるか
ら、そのようなものとして、その全体が「商品の品質を普通に用いられる方法で表
示」したものであるか否かを論じるべきものである。
    しかるときは、「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」につい
て、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるのは、「負圧利用
空気吸入燃焼焼却炉」との文字よりなる標章であって、本願商標の構成態様はこれ
に当たらないというべきである。「負圧燃焼焼却炉」の文字は、一般に、「焼却
炉」の取引過程において、商品の品質を表すものとして必ず使用されなければなら
ないものではなく、現に使用されている事実も存在しない。
  (3) 「半乾留ガス化燃焼」との文字よりなる商標、及び「半ガス化乾留燃焼」
との文字よりなる商標が、指定商品を商標法施行令別表による第11類「ごみ焼却
炉」等として設定登録された事実が存在するところ、該各商標の構成態様は、本願
商標の構成態様と極めて類似する。
    また、「燃焼」との文字よりなり、指定商品を平成3年政令第299号に
よる改正前の商標法施行令別表(以下「旧別表」という。)による第25類「紙
類、文房具類」とする商標、「マイナス/MYNAS」との文字よりなり、指定商
品を旧別表による第24類「おもちゃ、運動具」等とする商標、「マイナス」との
文字よりなり、指定商品を旧別表による第31類「調味料、乳製品」等とする商
標、「プラス」との文字よりなり、指定商品を旧別表による第10類「理化学機械
器具、測定機械器具」等とする商標、及び「プラス」との文字よりなり、指定商品
を旧別表による第13類「手動利器、金具」等とする商標は、その各構成態様に照
らして、商標法3条1項3号に該当すると思われるのに、いずれも設定登録がなさ
れている。
    これらの登録例と比較しても、本願商標が商標法3条1項3号に当たると
する審決の判断は誤りというべきである。
第4 被告の反論の要点
 1 審決の認定・判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由は理由がない。
 2 原告ら主張の取消事由について
  (1) 審決の認定するとおり、「負圧」の文字は「大気圧以下絶対圧力零までの
圧力」の意味を有し、「燃焼」の文字は「空気中又は酸素中で物質が酸化して炎を
生じる現象」の意味を有するものであるから、「負圧燃焼」の文字部分からは「負
圧を利用して空気吸入し燃焼させる」との意味合いを生じ、「負圧燃焼」の文字に
「焼却炉」の文字を付してなる本願商標は、その構成文字に対応して「負圧を利用
して空気吸入し燃焼させる焼却炉」の意味合いを容易に生じるものであって、本願
商標の構成が、特定の観念を生じない造語からなるものであるとする原告らの主張
は誤りであり、仮に、これが造語であるとしても、その構成文字に応じて上記意味
合いを生じることは明らかである。
    したがって、本願商標は、これをその指定商品である焼却炉に使用すると
きは、該商品が「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」であることを表示
してなるに止まり、これに接する取引者、需要者には、単に、商品の品質、機構を
表示してなるものとして認識されるものである。
    そして、商標法3条1項3号の「普通に用いられる方法で表示する標章」
とは、文字の表示態様において、普通の態様(書体等)で表示された標章をいうも
のであるところ、本願商標は、これを構成する「負圧」、「燃焼」、「焼却炉」の
各文字を同一の書体にし、その各文字も一般に用いられる書体及び横書き方法でさ
れたもので、特異な表示態様とは看取し難く、普通に用いられる方法で表示してな
るものである。
    そうすると、本願商標は、その構成文字全体で商標法3条1項3号に該当
するものとして、自他商品識別標識の機能を有しないものであるから、審決の判断
に誤りはない。
  (2) 原告らは、「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」について、商
品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるのは、「負圧利用空気吸
入燃焼焼却炉」との文字よりなる標章であると主張するところ、仮に、そのように
呼ばれることがあるとしても、そのことによって、本願商標が、指定商品の分野に
おいて、取引者、需要者に「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」の意味
を表すものと認識されるとの前示認定が左右されるものではない。
    また、原告らは、「負圧燃焼焼却炉」の文字は、一般に、「焼却炉」の取
引過程において、商品の品質を表すものとして必ず使用されなければならないもの
ではなく、現に使用されている事実も存在しないと主張するが、現在、本願商標
が、焼却炉の取引過程において使用されている事実がないとしても、将来、商品の
品質、機能等を表す表示として使用され、取引者、需要者に商品の品質表示等であ
ると認識される可能性があり、かかる場合にも、商標法3条1項3号が適用される
ものである。
  (3) 原告ら主張の「半乾留ガス化燃焼」との文字よりなる商標、「半ガス化乾
留燃焼」との文字よりなる商標、並びに「燃焼」との文字よりなる商標、「マイナ
ス/MYNAS」との文字よりなる商標、「マイナス」との文字よりなる商標及び
「プラス」との文字よりなる各商標が、それぞれ、主張の商品を指定商品として設
定登録されていることは認める。
    原告らは、これらの各登録例と比較して、本願商標が商標法3条1項3号
に当たるとする審決の判断は誤りであると主張するが、これらの各登録例に係る登
録商標と本願商標とは、商標自体の構成態様を異にする別異の商標であって、か
つ、指定商品も相違するものであるか、又は指定商品が同一若しくは類似するもの
であっても、商標自体の構成態様を異にする別異の商標であるから、いずれも、そ
の両者を同様に取り扱うことができないものであって、原告らの該主張は失当であ
る。
第5 当裁判所の判断
 1 原告ら主張の取消事由について
  (1) 本願商標が、白地に黒色で「負圧燃焼焼却炉」との漢字を横書きしてなる
別紙記載の構成であることは、当事者間に争いがない。
    しかるところ、平成7年4月25日発行の工業教育研究会編「英和・和英
機械用語図解辞典・第2版」(乙第1号証)には、「負圧」の語義として「大気圧
以下絶対圧力零までの圧力」(同号証385頁)と、また、「燃焼」の語義として
「空気中または酸素中で物質が酸化して炎を生じる現象」(同112頁)と記載さ
れていることが認められる。そうすると、本願商標を構成する「負圧燃焼焼却炉」
との文字は、「気圧を大気圧以下として空気を吸入することにより、燃焼をさせる
焼却炉」、すなわち、審決の認定するとおり、「負圧を利用して空気吸入し燃焼さ
せる焼却炉」との意味合いを有する語として、取引者、需要者に認識されるものと
認められ、したがって、本願商標は、その構成文字に応じて、かかる意味合いを生
じるものと認めることができる。
    原告らは、本願商標の構成が「負圧燃焼焼却炉」の漢字7文字を一体的に
横書きにしたものであって、特定の観念を生じない造語からなるものであると主張
するが、「負圧燃焼焼却炉」との語は、仮に、それ自体としては造語であるとして
も、それを構成する各単語の語義から前示意味合いを有する複合語として認識され
るものであるから、原告らの該主張を採用することはできない。
    しかして、本願商標は、指定商品を「焼却炉」とするものであるから、本
願商標から前示「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」との意味合いが生
じるものとすれば、本願商標を指定商品に用いた場合には、これに接する取引者、
需要者は、本願商標につき、当該商品がそのような機構の焼却炉であることを表し
たものと理解するにすぎないと認められる。そして、本願商標は、別紙のとおり、
白地に、黒色明朝体による同書体の「負圧燃焼焼却炉」との文字を、同大、同間隔
で、左横書きに書したもので、当該文字の表示として、ごく通常、一般的な態様よ
りなるものであるから、本願商標は、指定商品の品質を普通に用いられる方法で表
示する標章のみからなる商標といわざるを得ない。
    原告らは、「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」について、商
品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるのは、「負圧利用空気吸
入燃焼焼却炉」との文字よりなる標章であって、本願商標の構成態様はこれに当た
らないと主張する。しかしながら、仮に、該文字よりなる標章が、その表示態様に
よっては、「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」につき、その商品の品
質を普通に用いられる方法で表示する商標に当たり得るものとしても、そのことの
故に、前示のとおり、同様に「負圧を利用して空気吸入し燃焼させる焼却炉」との
意味合いを生じ、かつ、ごく通常、一般的な表示態様よりなる本願商標が、指定商
品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に当たることが
妨げられるものではない。
    また、原告らは、「負圧燃焼焼却炉」の文字が、一般に、「焼却炉」の取
引過程において、商品の品質を表すものとして必ず使用されなければならないもの
ではなく、現に使用されている事実も存在しないと主張するが、商標法3条1項3
号は、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様
の商標につき、それ故に登録を受けることができないとしたものであって、該表示
態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用
されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべき
であるから、原告らの該主張も採用することができない。
  (2) 原告ら主張の「半乾留ガス化燃焼」との文字よりなる商標、「半ガス化乾
留燃焼」との文字よりなる商標並びに「燃焼」との文字よりなる商標、「マイナス
/MYNAS」との文字よりなる商標、「マイナス」との文字よりなる商標及び
「プラス」との文字よりなる各商標が、それぞれ、主張の商品を指定商品として設
定登録されていることは、当事者間に争いがない。
    しかるところ、原告らは、これらの各登録例に係る商標の構成態様が、本
願商標の構成態様と極めて類似し、あるいは商標法3条1項3号に該当すると思わ
れるのに、いずれも設定登録がなされていることに照らして、本願商標が商標法3
条1項3号に当たるとする審決の判断は誤りであると主張する。
    しかしながら、これらの各登録例に係る商標と本願商標とでは、構成態様
が異なり(「半乾留ガス化燃焼」との文字よりなる商標、及び「半ガス化乾留燃
焼」との文字よりなる商標についても、格別本願商標と構成態様が類似するとはい
えない。)、さらに、「燃焼」との文字よりなる商標、「マイナス/MYNAS」
との文字よりなる商標、「マイナス」との文字よりなる商標、及び「プラス」との
文字よりなる各商標は、その指定商品も、本願商標の指定商品と全く異なるもので
あるところ、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に当たるものであるかどう
かの判断は、当該商標の構成態様と指定商品とに基づいて、個別具体的に判断され
るものであって、これら各登録例が存在することのみによって、本願商標が同号に
該当することを否定することはできず、また、本願商標についての同号該当性の判
断が、これらの各登録例に拘束されるものでもない。
    したがって、原告らの該主張も採用することはできない。
 2 以上のとおりであるから、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、その他
審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件
訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決す
る。
   東京高等裁判所第13民事部
     裁判長裁判官   田 中 康 久
        裁判官   石 原 直 樹
        裁判官   宮 坂 昌 利
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