弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、「原判決を取り消す。本件を仙台地方裁判所に差し戻す。控訴費用は
被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求
めた。
 当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次に付加するほかは原判決の事実
摘示と同一であるからこれを引用する。
 (控訴人の主張)
 一、 控訴人は、目的、名称、事務所等を定めた定款を有し、かつ、代表者の定
めを有する社団であるから、当事者能力を有する。
 二、 被控訴人主張の五名のうち、Aが現に就学中の子女を有し、その余の者が
現に就学中の子女を有していないことは認める。学校教育法二二条は、保護者の義
務期間および順位を規定したに過ぎないものであるから、同条にいう「保護者」と
は、現に就学中の子女を有する者のみでなく、広く将来において子女を就学させる
立場にある者をも含む趣旨である。しからばa町c学区民はすべてその子女を安全
かつ近距離にあるc分校に就学させる権利を有するものであつて、控訴人はその共
同の利益を守ることを目的とした団体である。
 三、 被控訴人の後記一の主張を否認する。
 (被控訴人の主張)
 一、 c分校存置対策委員会は、もと委員長たるBのほかC、A、D、Eの四名
の構成員を有していたところ、原審判決言渡后まもなく右四名は右対策委員会を脱
退し、その結果右対策委員会はBが残るのみとなつた。従つて控訴人は団体性を喪
失し、当事者能力を欠くにいたつた。
 二、 かりに右主張に理由がないとしても、控訴人は、次の諸点に徴しても権利
能力なき社団の成立要件をそなえていない。
 (一) 右対策委員会の設立時期、構成員が不特定、不明であり、権利義務の主
体、資産の総有的帰属主体が不明であること
 (二) 右対策委員会には、目的、名称、事務所、資産に関する事項等を記載し
た定款、規約が存在しないこと
 三、 学校教育法二二条にいう「保護者」とは、子女に対して親権を行う者、親
権を行う者のないときは後見人を指すものであるところ、右対策委員会の五名の構
成員中保護者に該当する者はA一人だけで、その余の者は保護者ではない。しかし
て社団とは、共同の目的を達成するために意識的に結合した二人以上の集団を指す
ものであるから、保護者である者が一人で、他はそうでない者によつて団体を組織
しても適法な団体ではない。
(証拠)(省略)
         理    由
 一、 まず控訴人たるa町立b小学校c分校存置対策委員会(以下単に控訴人委
員会という。)が、かりに控訴人主張の如く民訴法四六条にいう法人に非ざる社団
に該当するものであるとしても、本件訴の提起につき当事者適格(原告適格)を有
しない限り本訴は不適法たるを免れないので以下当事者適格の有無につき検討す
る。控訴人は、右適格の理由づけとして、
 (1) 控訴人委員会は、学校教育法二二条によりその子女を小学校に就学させ
る義務を負う保護者によつて構成されている、
 (2) 右構成員はいずれも現在もしくは将来保護者としてその子女を小学校に
就学させる権利を有するところ、本件処分によりその子女は昭和四五年四月以降b
小学校本校に通学せざるをえないことになるが、その通学はc分校への通学にくら
べて著しく困難かつ危険であつて、このような結果を招来する本件処分は右構成員
の権利を侵害するものである、(3)控訴人委員会は、右構成員に対する右権利の
侵害を排除し、その共同の利益を守るために設立されたものである、と主張する。
 <要旨第一>ところで、憲法二六条、教育基本法三条、四条、学校教育法二二条
は、すべての国民に対しひとしく教育を受ける権利を保障するととも
に、これを実効あらしめるため、保護者に対しその保護する子女を小学校等へ就学
させるべく義務づけ、他方においてこれに対応して地方自治法二条三項五号、学校
教育法二条、二九条、四〇条により市町村に対して小学校等を設置する義務を課し
ている。このように小学校という教育施設(営造物)の設置が地方公共団体の義務
とされ、他方保護者に対して就学の強制すなわち特定の営造物の利用の強制がなさ
れている法意から考えると、保護者は、その保護する子女を就学させる義務を負う
と同時に、その反面において特定の小学校に子女を就学させるため当該営造物を利
用する、一種の法律上保護されるべき利益(以下法的利益という。)を有している
ものと解することができる。従つて、市町村の設置する小学校もしくは分校につき
廃止処分がなされ、そのために子女の通学が著しく困難もしくは危険であつて、そ
の就学が事実上不可能となるような状態が招来される場合には、たとえ右処分が特
定の相手方のない処分であるとしても、保護者は右に述べた法的利益の侵害を理由
として、右処分の効力を争うについて法律上の利益を有するものと解するのが相当
である。
 <要旨第二>ひるがえつて右に述べた「保護者」の意義、範囲について考えるに、
学校教育法二二条一項は「子女に対して親権を行う者、親権を行う者の
ないときは、後見人」を保護者とし、かつ、子女が満六才に達した日の翌日以後に
おける最初の学年の初から、満一二才に達した日の属する学年の終りまで(この期
間を学齢期間という。)、小学校に就学させる義務を負う旨定めていることならび
に同法二三条、二五条、二七条の各規定の文言からみると、(1)具体的に就学義
務を負うべきものとされる保護者は、その子女に対し親権または後見を行う者で、
右学齢期間にある子女を有する者のみに限られること、(2)しかも右にいう保護
者とは、現に親権または後見を行う実親、養親または後見人という住民個人(但
し、児童福祉法四七条の施設の長はその例外である。)を指すものであることが明
らかである(控訴人は、この点につき将来において就学義務を負う者をも含むと主
張するけれども、前記諸規定の文言にてらすとき到底採用しえない独自の見解であ
る。)。
 右によれば、その子女を就学させて小学校を利用する法的利益を享受しうる主体
は、前記(1)(2)の資格を具備する者でなければならないところ、当審証人
C、同A、同Dの各証言およびこれによつて成立を認めうる甲第二号証の一ないし
三ならびに当審証人Eの証言によると控訴人委員会は、本件処分に反対し、c分校
存置のための活動をするためc分校学区内の住民から選出された四名によつて構成
されている団体であつて、団体それ自体前記(1)(2)の資格を具備せず、従つ
て右法的利益享受の主体たりえないものであることが明らかであり、しかも控訴人
委員会の構成員が前記法的利益を有するとしても(控訴人は、この点につき控訴人
委員会は、構成員全員が右法的利益を有することを前提とし、その共同の利益を守
ることを目的とする旨主張するけれども、成立に争いのない乙第五ないし九号証、
同第一一号証によれば、前記構成員四名のうち前記(1)(2)の資格を具備して
いるのはAのみであることが認められるから、右主張は採用の限りでない。)、控
訴人委員会が右各個人の前記法的利益につき法律上管理処分権を有するとか、控訴
人委員会が団体として構成員個人のなすべき本件処分の効力を争う訴訟につき任意
的訴訟担当が認められるとする法律上の根拠はみあたらない。
 してみると、控訴人委員会は、本件処分の不存在、無効の確認もしくはその取消
を求めるにつき団体固有の法律上の利益を有しないものであり、従つて本件訴につ
いて原告適格を欠くものといわなければならない。
 二、 以上の次第で、本件訴はその余の点について判断するまでもなく、右の理
由だけで却下を免れないものであり、結論において同旨の原判決は相当であつて、
本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して主
文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松本晃平 裁判官 伊藤和男 裁判官 佐々木泉)

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