弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人原田昇の上告理由第一点について。
 所論指摘の点に関する原判決(その引用する第一審判決を含む。以下、この項に
おいて同じ。)の認定・判断は、その挙示する証拠関係に照らして首肯することが
でき、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の証拠の取捨・判断、事実の認定
を非難するに帰し、採用することができない。
 同第二点について。
 所論指摘の点については、原判決は、第一審判決理由を一部訂正のうえで引用し
ているのであり、それによれば、本件貸金の弁済期は昭和四一年三月二日到来した
旨を認定・判示していることが明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論
旨は、原判決を正解しないことに基づくものであつて、採用するに由ない。
 同第三点について。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下、この項において同じ。)は、そ
の認定事実に基づき、上告人主張の権利濫用の抗弁を排斥したものと認められ、こ
の判断は、正当として是認することができる。所論指摘のような間接事実について
は、事実審としても、必ずしも逐一判断を示す必要はない。原判決に所論の違法は
なく、論旨は採用することができない。
 同第四点について。
 仮差押の目的は、債務者の財産の現状を保存して金銭債権の執行を保全するにあ
るから、その効力は、右目的のため必要な限度においてのみ認められるのであり、
それ以上に債務者の行為を制限するものと解すべきではない。これを債権に対する
仮差押について見ると、仮差押の執行によつて、当該債権につき、第三債務者は支
払を差し止められ、仮差押債務者は取立・譲渡等の処分をすることができなくなる
が、このことは、これらの者が右禁止に反する行為をしても、仮差押債権者に対抗
しえないことを意味するにとどまり、仮差押債務者は、右債権について、第三債務
者に対し給付訴訟を提起しまたはこれを追行する権限を失うものではなく、無条件
の勝訴判決を得ることができると解すべきである。このように解して、右仮差押債
務者が当該債権につき債務名義を取得し、また、時効を中断するための適切な手段
をとることができることになるのである。殊に、もし、給付訴訟の追行中当該債権
に対し仮差押がされた場合に仮差押債務者が敗訴を免れないとすれば、将来右仮差
押が取り消されたときは、仮差押債務者は第三債務者に対し改めて訴訟を提起せざ
るを得ない結果となり、訴訟経済に反することともなるのである。そして、以上の
ように仮差押債務者について考えられる利益は、ひいて、仮差押債権者にとつても、
当該債権を保存する結果となる。さらに、第三債務者に対する関係では、もし、右
判決に基づき強制執行がされたときに、第三債務者が二重払の負担を免れるために
は、当該債権に仮差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示する
ことにより、執行手続が満足的段階に進むことを阻止しうるものと解すれば足りる
(民訴法五四四条)。
 右判示の趣旨に牴触する大審院判例(昭和四年七月二四日判決・民集八巻七二八
頁、同一五年一二月二七日判決・民集一九巻二三六八頁等)は、これを変更すべき
である。
 ところで、本件において、原審の確定したところによれば、被上告人が上告人ら
に対し本件貸金請求訴訟を追行中、昭和四三年八月二四日、訴外Dの申請により本
件債権に対する仮差押命令が発せられ、その頃執行を了したというのであるが、こ
れによつて本件請求が手続的にも実体的にもなんらの影響を受けないことは、前判
示のところから明らかである。したがつて、これと同旨に出た原審の判断は正当と
いうべく、原判決に所論の違法はないから、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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