弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人長谷川毅の上告理由一ないし三について。
 所論は、二審証人Dは被上告人主張の債権(正確には、被上告人が譲渡をうける
前の債権者であるE株式会社の上告人に対する売掛代金債権)は、一部弁済された
後残余は免除されていると証言しているのに、原審がこれにつき、採否の判断を示
さなかつたのは審理不尽、理由不備であるというのであるが、この証言は、上告代
理人が上告理由書で引用しているところによるも、弁済額を明示せず、且つ免除の
あつたことを明示するものではないから、原審が本件手形金債務および売掛代金債
務の存否を判断するにあたり、右証言について判決理由中で判断を加えなかつたか
らとて何らの違法はない。引用の判例はいずれも本件に適切でない。結局原判決に
は所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同四について。
 所論は、利得償還請求権の時効消滅の抗弁につき原審が判断をしなかつたのは、
審理不尽、理由不備であるというのであるが、原判決は、その理由欄に記載のとお
り、この点についての判断は、一審判決の理由説示を引用しているので、結局利得
償還請求権は民法一六七条所定の一〇年の時効により消滅すべきものなるところ、
まだその期間を経過しておらず、時効により消滅していないと判断していることに
なるから、原判決には所論の審理不尽、理由不備の違法はない。
 次に、利得償還請求権の消滅時効期間は五年であるとの所論について判断する。
 利得償還請求権は、手形上の権利が手続の欠缺あるいは短期の消滅時効によつて
消滅するため、手形上の権利を失なつた手形債権者と利益を得た手形債務者の公平
をはかるために認められたものであるから、手形上の権利自体ではないが、既存の
法律関係が形式的に変更されるだけで、手形上の権利の変形と見るべきであり、手
形上の権利が実質的に変更されて既存の法律関係とは全く別個な権利たる性質を有
するに至るものというべきではない。したがつて、利得償還請求権は商法五〇一条
四号にいう「手形ニ関スル行為」によつて生じた債権に準じて考うべく、これが消
滅時効期間については、同法五二二条が類推適用され、五年と解するのが相当であ
る。
 本件為替手形一〇通の満期日が昭和二八年一〇月七日、同年一〇月一七日、同年
一一月七日、同年一一月一〇日、同年一一月二〇日、同年一一月一六日、同年一一
月二五日、同年一二月一四日(三通)であり、本件手形上の債権は右満期日から三
年の経過とともに時効により消滅したことは、原審が適法に認定判断したところで
あり、そして、利得償還請求権の消滅時効は手形上の債権の消滅したときから進行
をはじめると解すべきところ、本訴が提起された日が昭和三八年六月五日であるこ
とは本件記録上明らかである。そうだとすれば、前記説示に照らし、本件利得償還
請求権は、時効中断等特段の事情のない限り、消滅時効にかかつているといわなけ
ればならない。しかるに、これと異なつた見解に立ち、利得償還請求権は時効にか
かつていないとした原審の判断は、この点についての法律解釈をあやまり、且つ審
理を尽していない違法があるものといわなければならない。論旨は理由があり、原
判決はこの点において被棄を免れない。
 されば、本件についてさらに右特段の事情を審理させるため、民訴法四〇七条一
項により原判決を破棄して本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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