弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、上告人はスクーターを運転中にDと衝突して負傷させたので
あるから、同人の被つた損害を賠償すれば足り、同人以外の者である被上告会社に
対し損害賠償義務を負うべきいわれはない、けだし、上告人の同人に対する加害行
為とこれによつて被上告会社の被つた損害との間には相当因果関係がないからであ
る、と主張する。
 よつて検討するのに、本件において、上告人の過失により惹起された加害行為の
直接の被害者となつたのはDであり、同人の負傷により得べかりし利益を喪失した
と主張してその損害の賠償を求めるのは、同人を代表者とする被上告会社であつて、
法律上、両者が人格を異にすることは所論のとおりである。
 しかし、原判決の確定するところによれば、Dは、もと個人でE薬局という商号
のもとに薬種業を営んでいたのを、いつたん合資会社組織に改めた後これを解散し、
その後ふたたび個人でBという商号のもとに営業を続けたが、納税上個人企業によ
る経営は不利であるということから、昭和三三年一〇月一日有限会社形態の被上告
会社を設立し、以後これを経営したものであるが、社員はDとその妻Fの両名だけ
で、Dが唯一の取締役であると同時に、法律上当然に被上告会社を代表する取締役
であつて、Fは名目上の社員であるにとどまり、取締役ではなく、被上告会社には
D以外に薬剤師はおらず、被上告会社は、いわば形式上有限会社という法形態をと
つたにとどまる、実質上D個人の営業であつて、Dを離れて被上告会社の存続は考
えることができず、被上告会社にとつて、同人は余人をもつて代えることのできな
い不可欠の存在である、というのである。
 すなわち、これを約言すれば、被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人
会社であり、その実権は従前同様D個人に集中して、同人には被上告会社の機関と
しての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと
認められるのであつて、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、上
告人のDに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相
当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を
認容しうべきものとした判断は、正当である。
 原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 原審挙示の証拠によれば、所論の点に関する原審の認定は肯認しえないものでは
ない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非
難するに帰し、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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