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主文
1鹿児島税務署長が,原告に対して,平成19年12月25日付けでした,
原告の平成16年11月1日から平成17年10月31日までの課税期間
の消費税及び地方消費税に係る更正処分のうち,消費税の還付すべき税額
981万7737円を超え1629万3177円を超えない部分及び地方
消費税の還付すべき譲渡割額245万4434円を超え407万3294
円を超えない部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち13万10
00円を超える部分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
事実及び理由
第1請求
鹿児島税務署長が,原告に対して,平成19年12月25日付けでした,原
告の平成16年11月1日から平成17年10月31日までの課税期間(以下「本
件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税に係る更正処分のうち,消費税
の還付すべき税額981万7737円を超え1713万0701円を超えない
部分及び地方消費税の還付すべき譲渡割額245万4434円を超え428万
2675円を超えない部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,内航海運業等を営む原告が,新たな船舶を建造するに当たり,A連
合会(以下「A」という。)に納付すべき建造等納付金の免除を受けるために
必要となる「留保対象トン数使用承諾書」を取得する取引(以下「本件承諾書
取引」という。)及び「預託金預り証書」(以下「預託金証書」という。)を
取得する取引(以下「本件預託金証書取引」という。)を行い,各取引に係る
取得費用は,いずれも建造する船舶の営業権に該当するもので,消費税の課税
仕入れに該当するとして,当該取得費用に係る消費税相当額を課税仕入れに係
る消費税額に含めて消費税等の申告を行ったところ,鹿児島税務署長が,上記
各取引は消費税法(以下「法」という。)上の課税資産の譲渡等(課税取引)に当
たらず,課税仕入れには該当しないとして,請求記載の更正処分等を行ったた
め,原告が,これらの処分は違法であると主張して請求記載の部分の取消しを
求めた事案である。
2前提事実(証拠は各文中又は項目末尾記載のとおり。記載のない部分は争い
のない事実。)
(1)原告及びAについて
Aは,内航海運組合法56条に基づき,昭和40年12月4日,全国組織
の5海運組合を構成組合として設立認可された法人である。
原告は,内航海運業等を営む株式会社であり,Aの構成組合傘下の組合の
組合員である。
原告は,平成元年9月30日付けで,鹿児島税務署長に対し,法57条1
項1号の規定に基づき,消費税課税事業者届出書を提出した。
(2)Aの事業
ア船腹調整事業
Aは,昭和41年以降,中小零細の事業者が多い内航海運業における船
腹需要の適正化を図るため,運輸大臣の認可を受けて船腹調整事業(以下
「旧事業」という。)を開始した。
旧事業は,船舶の建造,改造及び内航海運業以外の用途からの転用(以下
「建造等」という。)を行う際に,一定の引当率(建造等船舶の重量トン数と
解撤等船舶の重量トン数との割合)による既存船舶の解体及び撤去等を義
務付けるスクラップ・アンド・ビルド方式による船舶建造方式である。
旧事業によって,事業者は,新たに船舶の建造等を行うためには,引当
資格を保有していることが必要となり,これを保有していなければ,引当
資格を他の組合員から取得する必要があったことから,引当資格が一種の
営業権として内航海運事業者間において取引されるようになり,また,企
業会計上資産として評価され,税務上も相続等の際の課税対象として評価
されるようになったが,旧事業は,競争制限的であるとして,見直しの要
請が高まり,解消されることとなった。
イ暫定措置事業
Aは,平成10年5月15日から,引当資格の財産的価値の消滅による
影響を緩和するため,暫定措置事業を開始した。
同事業は,Aの構成組合及びその傘下の組合の組合員(以下「本件組合
員」という。)の経済的地位を改善し,内航海運業の円滑な運営により国
民経済の健全な発展に寄与することを目的として,内航海運組合法12条
に基づき運輸大臣(平成13年1月6日以降は国土交通大臣)が認可した
内航海運暫定措置事業規程(以下「本件規程」という。乙14の21頁以
下)及び同実施細則(以下「本件細則」という。乙14の35頁以下)に
基づいてAが実施している事業であり,その内容は,概要以下のとおりで
ある。
(ア)建造等納付金(本件規程3条5項)の納付
本件組合員が,平成10年4月1日以降,本件規程の対象となる船舶
を新たに建造等しようとするときは,Aにその認定申請をし,その認定
を得るとともに,建造等を行おうとする船舶の対象トン数等に応じて算
出される建造等納付金を納付するものとする(本件規程7条)。
(イ)建造等納付金の免除(本件規程9条)
新たに調整対象船舶を建造等する本件組合員において,Aから建造等
納付金免除の認定を受けた上で,本件規程に定める要件に従って建造等
を行う船舶に相当する船種の納付金免除船舶を解撤,海難沈没及び海外
売船(以下「解撤等」という。)するときは,当該納付金免除船舶の引
当資格に係る解撤等交付金相当額の建造等納付金が免除される(本件規
程3条4項,同9条1項)。
建造等納付金の免除の対象となる船舶(納付金免除船舶)は,平成1
0年3月31日までに,保有船舶調整規程(暫定措置事業の以前に実施
されていた旧事業における規程。以下「旧規程」という。)に基づいて
建造等の承認がされ,かつ,平成11年9月30日までに船舶原簿登録
を行った船舶であって,旧規程に基づきAが管理する引当資格台帳に記
載され,建造等納付金の免除資格を有する船舶である(本件規程3条7
項)。
(ウ)解撤等交付金(本件規程3条6項)の交付
本件組合員が,自己の所有する船舶を解撤等し,解撤等交付金の交付
を受けようとするときは,Aに申請をし,その受給資格の認定を得て,
申請に係る船舶の解撤等を完了したときに,解撤等船舶の対象トン数に
応じた解撤等交付金が交付される(本件規程10条1項及び同条4項)。
解撤等交付金の交付対象となる船舶(交付金対象船舶)は,平成10
年3月31日までに旧規程に基づいて建造等の承認がされ,かつ,平成
11年9月30日までに船舶原簿登録を行った船舶であって,旧規程に
基づきAが管理する引当資格台帳に記載され,解撤等交付金の受給資格
を有する船舶である(本件規程3条8項)。
(エ)解撤等交付金の額は,年々漸減され(本件規程10条3項),建造等
納付金は解撤等交付金の額以上の額とされ(本件規程8条,同10条),
新たに建造等された船舶には,引当資格は与えないとされ(本件規程1
6条),平成15年4月1日以降は,交付金対象船舶を船齢15年以下
のものに限るとされ(本件規程10条2項),暫定措置事業は同事業に
係る収支が相償ったときに終了する(本件規程30条)とされていた。
ウ暫定措置事業の追加的措置
暫定措置事業は,その後,不況の長期化に伴う運賃・用船料の低迷が続
く中で,新造船舶又は代替船舶の建造等が予想したほど進まなかったこと
から,解撤等交付金の原資となる建造等納付金が不足し,解撤等交付金を
直ちに交付できない状態に陥った。なお,平成16年当時,解撤等交付金
は3年程度の交付待ちの状態であった。
そこで,Aは,平成16年3月31日,前項の暫定措置事業についての
本件細則27条3項を改正し,運用の細目として「対象トン数の留保に係
る取扱い要領」(以下「本件要領」という。乙14の76頁以下)を定め,
本件細則27条3項により留保されたトン数(以下「留保対象トン数」と
いう。)を第三者である他の本件組合員の納付金免除船舶として使用する
こと(以下「留保対象トン数の第三者使用」という。)を認め,解撤等交
付金の認定額の一部をAに預託することとする暫定措置事業の追加的措置
(以下「追加的措置」という。)を実施することとした。
追加的措置の概要は以下のとおりである。
(ア)留保対象トン数の第三者使用について
a暫定措置事業においては,旧規程の下で引当資格の対象となる船舶
を有していた本件組合員は,これを交付金対象船舶として解撤等交付
金の交付を受ける(本件規程10条)か,納付金免除船舶として新造
船舶の建造等納付金の免除を受ける(本件規程9条)かの選択が可能
であった。暫定措置事業の実施当初は,納付金免除船舶により新造船
舶に係る建造等納付金の免除を受ける場合,当該納付金免除船舶の解
撤等交付金相当額が新造船舶の対象トン数を超えている場合,その余
剰トン数(以下「余剰トン数」という。)を留保し,自己の次の新造
船舶の納付金免除船舶として使用することのみが認められていた(改
正前の本件細則27条3項)。
b追加的措置において,本件細則27条3項の改正により,上記余剰
トン数の留保以外にも,交付金対象船舶として認定を受けている船舶
を納付金免除船舶に振り替えたり,解撤等を完了した船舶についてそ
のトン数が留保できるようになり,留保対象トン数の範囲が拡大され
た。そして,Aへの留保申請により,認定された留保対象トン数につ
いて,自己の新造船舶の納付金免除船舶として使用すること以外に,
他の本件組合員の納付金免除船舶としても使用させることができるよ
うになった(本件要領2条,3条,6条2号)。
c留保対象トン数の第三者使用を行うに当たっては,留保対象トン数
を有する本件組合員(以下「留保者」という。)が,「留保対象トン
数使用承諾書」を使用承諾を受けようとする本件組合員(以下「取得
者」という。)に対して発行し,取得者が当該使用承諾書と誓約書(発
行者及び使用者の誓約書)を建造等認定申請に際して,Aに提出する
ことにより,新造船舶の建造等納付金の免除が受けることができる(本
件要領6条2号,7条,8条)。
留保対象トン数使用承諾書の発行者は,留保者に限られ(本件要領
7条1号),取得者は,当該使用承諾書による免除申請を辞退する場
合には,当該使用承諾書を発行者に返却しなければならず(本件要領
11条1項),取得者はさらに第三者である本件組合員へ再発行する
ことはできない。
(イ)解撤等交付金の預託について
平成16年度解撤等交付金に関する理事会決定(以下「本件理事会決
定」という。乙14の131頁)により,解撤等交付金の交付を受けよ
うとする本件組合員は,解撤等交付金の認定額の20%相当額をAに預
託するものとし,当該預託金を解撤等交付金の資金に充てることとされ
た。
このため,解撤等交付金の預託措置の導入時に解撤等交付金の認定を
受けている本件組合員は,原則として,交付金認定額の20%相当額を
平成16年6月21日までにAに預託した上で,解撤等交付金の交付を
受けることとされた(本件理事会決定2条)。
預託金の返済は,建造等納付金を原資として行われ,返済期限として
は金融機関等へ返済された後とされ(本件理事会決定8条①),平成2
5年3月31日とされた。
また,Aから預託金証書の発行を受けた本件組合員は,Aが同意した
場合に限り,当該預託金に係る債権を他の本件組合員に譲渡することが
できるとされた(本件理事会決定8条③)。
(3)本件各取引について
原告は,一般貨物船のB(総トン数499GT,対象トン数1550DW)
及びC(総トン数499GT,対象トン数1550DW)を新たに建造し,
自己の内航海運業の用に供するため,Aに船舶建造に必要な認定申請を行い,
平成17年2月8日付けでB,同年3月17日付けでCの建造等の認定をそ
れぞれ受けた(乙17,同18)。
原告が,上記認定に必要な建造等納付金の納付及びその一部の免除に関連
して行った取引は,次のとおりである。
ア本件承諾書取引
(ア)D有限会社(以下「D」という。)との取引
原告は,平成16年11月2日付け「船舶留保登録権利売買契約書」
により,Dとの間で,同社が有していた船舶(E)に係る一般貨物権利
を7075万5300円(うち消費税336万9300円)で譲り受け
る契約をした(以下「D取引」という。乙1)。
そして,原告はDから留保対象トン数1021対象トンの「留保対象
トン数使用承諾書」の発行を受けた(乙19)。
(イ)株式会社F(以下「F」という。)との取引
原告は,平成16年12月17日付け「内航船舶建造引当権売買契約
書」により,Fとの間で,同社が保有していた船舶(G)の内航船舶代
替建造引当資格の留保トン数を9922万5000円(うち消費税47
2万5000円)で譲り受ける契約をした(以下「F取引」という。乙
2)。
そして,原告は,Fから,使用留保対象トン数1500対象トンの「留
保対象トン数使用承諾書」の発行を受けた(乙20)。
イ本件預託金証書取引
(ア)破産者H株式会社及び破産者I株式会社の破産管財人J(以下「J管
財人」という。)との取引
原告は,平成16年11月15日付け「預託金預り証書の譲渡契約書」
により,J管財人との間で,破産財団が保有する預託金証書を1300
万円(消費税相当額等の記載はない。)で譲り受けることを約する契約
をした(以下「管財人取引」という。乙3)。
そして,原告は,J管財人から,Aが発行した次の預託金証書2通の
交付を受けた(乙16の1及び2)。
a○預第066号平成16年6月21日付け
預託金額934万4000円
b○預第067号平成16年6月21日付け
預託金額1060万円
(イ)K有限会社(以下「K」という。)との取引
原告は,平成16年11月17日付け「預託金預り証書の譲渡契約書」
により,Kが保有する預託金証書を930万円(消費税相当額等の記載
はない。)で譲り受けることを約する契約をした(以下「K取引」とい
う。乙4)。
そして,原告は,Kから,Aが発行した次の預託金証書の交付を受け
た(乙16の3)。
○預第057号平成16年6月21日付け
預託金額1257万8000円
ウ建造等納付金の免除等
原告は,新たに建造するB及びCの建造等申請に伴う建造等納付金の免
除に必要な書類として,D取引及びF取引によって取得した各留保対象ト
ン数使用承諾書,管財人取引及びK取引によって取得した各預託金証書を
Aに提出し,平成17年2月8日付け「内航海運暫定措置事業による建造
等納付金免除船舶認定通知書」によりBに係る建造等納付金の免除の認定
を,平成17年3月17日付け「内航海運暫定措置事業による建造等納付
金免除船舶認定通知書」によりCの建造等納付金の免除の認定を次のとお
り受けた(乙21,同22)。
(ア)Bの免除額合計1億2555万円
a8270万1000円
D取引でDから使用の承諾を受けた留保対象トン数1021対象ト
ン数に係る解撤等交付金相当額(留保対象トン数1021に平成16
年度の解撤等交付金単価8万1000円を乗じた額)
b1994万4000円
管財人取引で譲り受けた各預託金証書に係る預託金合計額
c1078万3000円
K取引で譲り受けた預託金証書に係る預託金相当額1257万80
00円の一部
d1212万2000円
原告が以前より保有していた預託金証書に係る預託金相当額
(イ)Cの免除額合計1億2555万円
a1億2150万円
F取引でFから使用の承諾を受けた留保対象トン数1500対象ト
ン数に係る解撤等交付金相当額(留保対象トン数1500に平成16
年度の解撤等交付金単価8万1000円を乗じた額)
b129万6000円
K取引で譲り受けた預託金証書に係る預託金相当額1257万80
00円の一部
c275万4000円
原告の保有していた船舶(L)の留保対象トン数34対象トン数に
係る解撤等交付金相当額(留保対象トン数34に平成16年度の解撤
等交付金単価8万1000円を乗じた額)
(4)課税の経緯等
ア原告は,D取引で支払った留保対象トン数の取得費用6738万600
0円,管財人取引で支払った預託金証書の取得費用1238万0952円
(譲渡価格には消費税等の額が含まれるとして,1300万円から130
0万円に105分の5を乗じて算出した61万9048円を差し引いた額)
及びKとの取引で支払った預託金証書の取得費用のうち885万7143
円(譲渡価格には消費税等の額が含まれるとして,930万円から930
万円に105分の5を乗じて算出した44万2857円を差し引いた額)
をBの営業権としてそれぞれ計上するとともに,それぞれの金額に5%を
乗じた額を仮払消費税として計上した。
イ原告は,F取引で支払った留保対象トン数の取得費用9450万円をC
の営業権として計上するとともに,9450万円に5%を乗じて算出した
額を仮払消費税として計上した。
ウ原告は,上記ア及びイにより営業権として計上した取得費用を課税仕入
れ(法2条1項12号)に含め,鹿児島税務署長に対し,別紙1の「確定
申告」欄記載のとおりの内容で本件課税期間の消費税等の確定申告書を法
定申告期限までに提出した(乙5)。
エ鹿児島税務署長は,原告の本件課税期間に係る消費税等の調査を行い,
平成19年12月25日付けで,別紙1の「更正処分等」欄記載のとおり,
本件課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(以下「本件各処分」という。)をした(乙6)。被告が主張する本件各処分
の根拠は別紙2のとおりである。
オ原告は,平成20年2月22日,鹿児島税務署長に対し,本件各処分を
不服として,国税通則法(以下「通則法」という。)75条1項に基づく
異議申立てをしたが,鹿児島税務署長は,同年5月19日,原告の異議申
立てを棄却する旨の決定をした(乙7,同8)。
カ原告は,平成20年6月12日,国税不服審判所長に対し,前項の決定
を不服とし,通則法75条3項に基づく審査請求をしたが,同所長は,平
成21年6月5日,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙9,同
10)。
3争点及び当事者の主張
(1)本件承諾書取引が「対価を得て行われる資産の譲渡」(法2条1項8号)
に当たるか(争点1)
ア原告の主張
(ア)本件承諾書取引の対象が「資産」に該当すること
「資産」とは,棚卸資産,固定資産等の有形資産から商標権,特許権
等の無形資産まで,およそ取引の対象となる全ての資産を含み,法律上
保護の対象とならない権利又は経済的価値であっても,それが財産的価
値を有するもので取引の対象となるものであれば,法においては「資産」
に該当する。
本件承諾書取引の対象は,内航船舶の新船建造に係る一種の権利,す
なわち,納付金免除船舶として使用することができる権利,地位である
から,当然に「資産」に当たる。
(イ)本件承諾書取引が「対価を得て行われる譲渡」に当たること
本件承諾書取引の各契約条項からすれば,同取引が,解撤等交付金対
象船舶を納付金免除対象船舶に振り替えてその建造等納付金の免除を受
ける地位を金銭的価値を有する資産として取引の対象としていることは
明らかであり,新造船舶の建造等納付金に代えて使用することができる
地位ないし資格として財産的価値を有するものの取引といえる。
また,D取引においては,その対価である6738万6000円に対
して,消費税5%の336万9300円が付されることが契約書に明記
されており,F取引においては,その対価である9450万円に対して
消費税5%の472万5000円が付されることが契約書に明記されて
いることからしても,これらの取引において,両当事者間において新船
建造に係る一種の権利(資産)の譲渡であるとの認識で,これが課税資
産の譲渡として認識されていたことは明らかである。
(ウ)本件承諾書取引で支払われた金銭(以下「本件金銭」という。)は補
償金的な性格を有するものとはいえないこと
暫定措置事業の下においてAが支払う解撤等交付金が補償金としての
性格を有するとしても,原告は暫定措置事業を行う者ではなく,直接利
害関係を有する者でもないから,原告が補償金を支払う根拠はないし,
暫定措置事業全体を通じて,取得者がAに代わって留保者に補償金を支
払う旨の規定は存在しない。原告は,D,Fに対し,納付金免除引当資
格という権利,地位の有する経済的価値に対してその譲渡の対価を支払
ったものである。
また,その対価は,取引ごとに異なっており,その価額は当事者間の
経済的状況や市場の需給関係によって定まるものであって,年度によっ
て一定額が定められている解撤等交付金とは異なる。
したがって,本件金銭が補償金として評価されるということはできな
い。
(エ)仮に本件金銭に補償金的な性格があったとしても,「資産の譲渡」に
該当すること
法に規定する「資産の譲渡」に当たるかについては,取引の目的物の
経済的実態に照らして判断すべきであり,法規の規定が内航船舶の留保
対象トン数の第三者使用を承諾するための補償金の立替払いを想定して
いたとしても,取引当事者間において,譲渡する側が「船舶登録権利」
や「内航船舶建造引当権」として認識し,譲渡を受ける側がこの権利を
実質的,経済的見地から新船建造のための必要不可欠な権利であると認
識してその権利に経済的な価値を認めてその対価を支払った場合には,
その時点でその対価の意義は,「およそ取引の対象となる全ての資産」
という実質的な権利に変換していると考えるべきである。したがって,
内航船舶の留保対象トン数の譲渡に係る取引は,たとえAが補償的な性
格のものであると定めたとしても,法上は,「資産の譲渡」に該当する
というべきである。
(オ)結論
以上より,本件承諾書取引は,「資産の譲渡等」(法2条1項8号)
に当たるから,「課税資産の譲渡等」(法2条1項9号)に該当し,こ
れと裏腹の関係にある「課税仕入れ」(法2条1項12号)に該当する
から,前記2(4)エの課税の経緯に係る鹿児島税務署長の判断は誤ってい
る。
イ被告の主張
(ア)本件承諾書取引の対象が「資産」に該当しないこと
a法における「資産」と観念できる無形資産は,商標権や特許権等の
権利と同様に一般的に権利と認知され,取引の対象となり得る無形資
産をいうと解するべきであり,無制限に「およそ取引の対象となる全
ての資産」をいうと解することはできない。
b留保対象トン数の第三者使用が許されるようになった経緯は,旧事
業の下で一種の営業権として取引されるに至っていた引当資格につい
て,同事業の廃止に伴い経済的価値が無価値になることから,その激
変緩和措置として旧事業の下において有していた引当資格について,
船舶を解撤等することにより解撤等交付金の交付を受けるか,あるい
は船舶を新造するに当たって支払わなければならない建造等交付金の
免除に利用する暫定措置事業を創設したことに端を発している。この
ように,暫定措置事業は,飽くまでも旧事業の廃止に伴う補償的・暫
定的な制度として実施されたものにすぎず,建造等納付金の免除を受
けられる制度や解撤等交付金の交付を受けられる制度は,消滅する引
当資格の補償的な措置として設けられたものにすぎないのであって,
引当資格に代わる独自の経済的な価値を有する資格を認めたものでは
ない。
また,旧事業の下では,代替船の建造等をするための引当資格が,
いわゆる建造引当権という営業権として取引の対象となっていたこと
から,法人税基本通達の昭和55年改正において,営業権の一種とし
て例示されるに至っていたが,平成10年3月31日に旧事業が廃止
され,その後に実施された暫定措置事業においては,船舶の建造等の
ための引当資格が必要であるとの規制がなくなり,これに伴っていわ
ゆる建造引当権という営業権も消滅したことから,例示から削除され
ることとなった。また,消費税法基本通達においても,平成7年12
月の制定時から同様の規定が置かれていたが,同様の理由で,平成1
2年5月の改正で削除された。
このことからも,船舶の建造等について何ら規制がない暫定措置事
業の下においては,もはや営業権などの権利を認識し得ないことは明
らかであるから,留保対象トン数は「資産」に該当しない。
cそもそも,本件承諾書取引は,飽くまでもAが行う追加的措置とし
て,本件組合員相互間において認められた留保対象トン数を第三者で
ある他の本件組合員が建造等納付金の免除として利用する制度の中で
行われたものであって,留保対象トン数の第三者使用が許容されてい
るにすぎず,留保対象トン数が第三者に譲渡されることは想定されて
いない。
すなわち,本件では,D及びFが,Aの認定を受けた留保対象トン
数について,原告において建造等納付金の免除を受けるために使用す
ることを承諾するとともに,本件要領7条の定めにより留保対象トン
数使用承諾書を原告に対して発行し,かつ,D及びFが留保対象トン
数について解撤等交付金を受けること及び納付金免除船舶として使用
することを放棄あるいは辞退したことの対価として謝礼的ないし補償
的な性質の金銭が支払われたものであって,本件要領の下で行われた
留保対象トン数の第三者使用をさせるための取引であることは明らか
である。
以上のような留保対象トン数の第三者使用をさせるための取引内容
に鑑みれば,譲渡又は移転の対象となる「資産」が存在するとはいえ
ない。
(イ)資産の「譲渡」に当たらないこと
a課税の対象となっている資産の「譲渡」とは,資産の同一性を保持
しつつ,それを他人に移転することであり(消費税法基本通達5-2
-1),経済的にみた場合には,資産の譲渡の対価を収受したと同様
の実態にあるときであっても,その同一性を保持しつつ他人に移転す
るという事実がないときは,譲渡があったこととはならず,消費税の
課税の対象としての「資産の譲渡」に当たらない。すなわち,収用等
による補償金や損害賠償金については,その補償金や損害賠償の金額
がその支払の対象となった資産を譲渡した場合の金額(時価)と同額
であったとしても,その補償金又は損害賠償金が支払われることとな
った行為が「譲渡」に該当しない以上,消費税の課税の対象とはなら
ない。
b前記のとおり,暫定措置事業の下で,建造等納付金の免除を受けら
れる制度や解撤等交付金の交付を受けられる制度は,消滅する引当資
格の補償的な措置として設けられたものにすぎないところ,その後予
想外に解撤等交付金の申請が多くなり,Aにおいて解撤等交付金の支
払に充てる資金に不足するようになったため,追加的措置が採られる
こととなり,留保対象トン数の第三者使用が認められるようになった
のであり,このような経緯に照らせば,留保対象トン数の第三者使用
を認めることにより,本来Aから支払を受ける解撤等交付金の代わり
に,留保対象トン数の第三者使用によって使用承諾を受ける第三者が
謝礼的に支払う金銭を受領する機会を与えるようにしたというもので
あり,経済的実質としては補償金としての性質を有するものである。
したがって,本件金銭は,本来Aが支払うべき補償金を本件組合員
である原告が代わりに支払ったにすぎず,取引の代償として支払われ
る金銭は補償金と評価されるものであるから,建物の取得者が借家人
に対して支払った立退料が補償金としての性格を有するため立退料の
支払と引換えに建物を明け渡す取引が「資産の譲渡」に該当しないの
と同様,本件承諾書取引は,「資産の譲渡」に当たらない。
また,解撤等交付金の交付も建造等納付金の納付も反対給付が存し
ないから不課税取引に当たるところ,解撤等交付金に代わる金銭の交
付を受けた場合に,課税取引とされる理由は見いだせない。
c追加的措置によって留保対象トン数の第三者使用が認められている
ものの,留保対象トン数の使用承諾書の発行者は留保者に限られてお
り,取得者は,当該使用承諾書による免除申請を辞退するなど留保対
象トン数を使用しない場合には,当該使用承諾書を発行者に返却しな
ければならないとされているように,その使用目的及び範囲並びに使
用者が限定されているのであって,そこに何らかの権利,財産,法律
上の地位等が同一性を保持しつつ他人に移転されているとみることも
できない。
したがって,留保対象トン数の第三者使用は,「資産の譲渡」に該
当しない。
d消費税は,最終的には全て消費者に転嫁される税金であるところ,
暫定措置事業事業において,物品やサービスの移転はなく,最終的に
消費者に転嫁すべき取引は存在しないから,資産の譲渡等は存在しな
い。
(ウ)小括
以上より,本件承諾書取引は,「資産の譲渡」(法2条1項8号)に
当たらないから,「課税資産の譲渡等」(法2条1項9号)に該当せず,
これと裏腹の関係にある「課税仕入れ」(法2条1項12号)に該当し
ない。
(2)本件預託金証書取引が「金銭債権」(法6条1項,法別表1の2号及び消
費税法施行令9条1項6号)の譲渡に当たるか(争点2)
ア原告の主張
(ア)本件預託金証書取引の実態は,内航船舶建造に係る権利の取得である
こと
a本件預託金証書取引において,契約書には預託金証書がAの新船建
造に使用できることを条件とする旨記載されており,預託金証書が取
引当事者間においては譲渡を受けた者が新船建造に係るAの建造申請
に使用できることを認識し,かつ,それを目的として売買しているこ
とを表している。また,預託金に係る債権を分割して,異なる本件組
合員に譲渡したり,預託金の譲渡を受けた本件組合員は,さらに他の
本件組合員に譲渡することができる。
したがって,本件預託金証書取引の経済的実態は,第三者に対して
譲渡されたとき,その性質が変換し,Aの新船建造に係る実質的な権
利の売買であったということができる。
bこれは,ゴルフ会員権について会員権発行段階においては,出資金
又は預り金であるから資産の譲渡等に該当せず課税対象とならないが,
一旦会員権を取得した者がそれを他に転売する場合や会員権業者が販
売する場合は,預託形式のものであっても金銭債権の譲渡とされず,
ゴルフ会員権としてその全額が課税の対象となることと類似し,預託
金証書においても,第三者に転売されるときにその性格を実質的な新
船建造権に変換させているといえるのである。
(イ)本件預託金証書取引は,金銭債権の譲渡とはみられないこと
a預託金証書を購入する内航海運事業を行う者の目的は,本来の目的
である交付金を受け取ることであって,金銭債権を購入する目的でな
いことは明らかである。
bまた,預託金証書が第三者に対して譲渡された場合,譲渡を受けた
事業者は,そのほとんどが新船建造に使用し,Aから預託金額の返還
を受けたものはごく一部の例外を除いてないものと推測される。すな
わち,譲渡を受けた事業者は,実質的に新船建造に係る権利として使
用するのであって,単なる金銭債権として使用するわけではない。
cさらに,原告は,J管財人及びKとの取引において,前者において
は預託金額の65.1%の金額で預託金証書を買い受け,後者におい
ては預託金額の77.9%の金額で預託金証書を買い受けている。仮
に預託金証書が金銭債権を表象した証書であるとすればその取引価格
は将来支払を受ける金額の現在価値や回収に対する危険などによって
決定されるはずで,債務者が唯一Aであることを勘案するとその流通
価格は管財人取引及びK取引において債権額の一定割合として同様に
なるはずであるところ,上記各取引において割合が異なるということ
は,金銭債権としての通常の取引ではなく,実質的な新船建造権に係
る取引であるといえる。
(ウ)したがって,本件預託金証書取引は,法6条1項,法別表1の2号及
び消費税法施行令(平成18年政令第129号による改正前のもの。以
下同じ。以下「施行令」という。)9条1項6号に規定する「金銭債権」
の譲渡に該当しない課税取引である。
イ被告の主張
原告が管財人取引及びK取引において交わした契約書においては,預託
金証書自体を譲渡の対象としている外形となっているが,同契約は,内航
海運の建造申請に使用できることを条件とし,Aの承諾が認められない場
合には,契約を解消し,譲渡価格を払い戻すものとされていた。
また,本件理事会決定8条③によれば,預託金に係る債権は,Aが同意
した場合に限り,本件組合員に譲渡することができるとされており,本件
預託金証書取引は,本件理事会決定の下で行われた預託金債権に係る債権
の譲渡であることは明らかである。
さらに,Aが発行する預託金証書にも,預託金額が表示されており,明
確に預託金の預託を受けたこと及び預託金の返還期限も記載されている。
また,暫定措置事業の下においては,新船の建造認定は建造等納付金の
納付によって行われており(本件規程7条,同8条),建造等納付金を納
付すれば建造できるのであって,預託金はその一部に充当できるものでは
あるが,預託金証書がなければ建造の認定を受けることができないという
ものではないから,新船建造に係る実質的な権利ということはできない。
そして,管財人取引及びK取引では,いずれも消費税額が別掲されてお
らず,このことは取引当事者間であるJ管財人及びKにおいても金銭債権
の譲渡が行われており,非課税であるという認識があったことを基礎付け
る。
そうすると,預託金証書は,預託者である本件組合員が受託者であるA
に対して預託金債権を有していることを表象する証書であるといえ,本件
預託金証書取引は,暫定措置事業の追加的措置に係る本件理事会決定の下
で行われた預託金という金銭債権の譲渡である。
したがって,本件預託金証書取引は,法6条1項,法別表1の2号及び
施行令9条1項6号に規定する「金銭債権」の譲渡に該当する非課税取引
である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
証拠(各項目末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認
めることができる。
(1)本件承諾書取引の契約書の定め
アD取引について
D取引に係る契約書は,表題を「船舶留保登録権利売買契約書」とし,
売主の所有に係る内航船舶の一般貨物権利の売買契約を締結すること,売
買する一般貨物船舶留保引当船の明細を「留保対象引当トン数1,02
1対象トン」とすること,Dの売り渡す代替権利船はAの規定により,代
替建造引当できることを条件に原告が買い受けるものであり,万一使用不
能の場合は無償解約とし,原告がDに支払済金額の全額を無利子のまま返
済すること,Dの売り渡す代替権利が正当なものであり,原告側の責任に
おいてAの建造等の不承認が発生した場合はDには一切責任がないものと
することを定め,売買価格を6738万6000円とし,これに対する消
費税5%336万9300円を支払うこと,Dは原告に対し,代金支払と
同時に引当資格使用承諾書等必要な書類を交付することを定めていた(乙
1)。
イF取引について
F取引に係る契約書は,「内航船舶建造引当権売買契約書」との表題の
下に,売主が所有する汽船Gの内航船舶代替建造引当資格の留保対象トン
数の売買契約を締結すること,「引当権・貨物船1850トンのうち15
00トン」を契約の目的物とすること,同契約は売主の売却する引当権が,
Aの規定の平成17年1月申請として使用できることを条件とすること,
買主は本引当権の全部を第三者に分割して売り渡す事ができること,この
時売主は無償で建造申請に必要な書類の作成に協力することを定め,引当
権の売買価格を9450万円,消費税を472万5000円として,合計
9922万5000円とすることを定めていた(乙2)。
(2)本件承諾書取引ほかの取引実態
本件承諾書取引に関与した業者及び船舶の売買の取引業者の間では,本件
承諾書取引の当時,取引の対象となるのは,新船建造の際に必要な権利であ
る留保対象トン数であって,通常はこれを目的として売買契約を締結し,同
権利の対価として代金を支払うものと認識され,これに沿う取引が行われて
おり,また,取得者から第三者への留保対象トン数の転売も行われていた。
(甲5,同9ないし11)
(3)留保対象トン数による建造等納付金の免除
暫定措置事業において追加的措置が実施されるようになった平成16年度
(平成16年4月1日から平成17年3月31日)及び平成17年度(平成
17年4月1日から平成18年3月31日)における貨物船及び油送船の建
造船隻数はそれぞれ73隻(貨物船51隻,油送船22隻)及び78隻(貨
物船61隻,油送船17隻)であった。そして,そのうち平成16年度は2
6隻,平成17年度は27隻の船舶について,他の本件組合員からの留保対
象トン数の使用承諾を受けて,建造等納付金の免除が行われた。
(乙11,同30)
(4)本件承諾書取引の相手方の課税状況
D取引について,Dは,消費税の確定申告において,本件承諾書取引によ
る収入を課税売上高に算入して申告したが,所轄税務署からこれは課税売上
高に該当しないとして消費税の還付を受けたことはない。
(甲7,同8の1ないし6,同11)
(5)解撤等交付金,建造等納付金及び留保対象トン数の第三者使用に係る消費
税の取扱いについて
Aは,平成10年5月頃,国税庁に対し,解撤等交付金及び建造等納付金
の法上の取扱いについて照会したところ,いずれも資産の譲渡等の対価に該
当せず,消費税の課税の対象とならない旨の回答を得て,その内容を本件組
合員に周知した。
また,Aは,平成17年9月頃に,東京国税局に対し,解撤等交付金(余
剰対象トン数)の第三者使用に係る消費税の取扱いについて照会したところ,
留保対象トン数の第三者使用について消費税の課税対象とはならない旨の回
答を得たことから,平成17年11月9日頃,これを本件組合員に周知した。
(乙10,同15,同26,同27)
(6)本件預託金証書取引について
ア管財人取引について
管財人取引の契約書には,預託金証書の譲渡契約を締結すること,譲渡
価格を1300万円とすること,同契約は,Aの建造申請に使用できるこ
とを条件とし,Aの承諾が認められない場合には,同契約を解消して,譲
渡価格の払戻しを行うこと等の約定が記載されていた(乙3)。
イK取引について
K取引の契約書には,預託金証書の譲渡契約を締結すること,譲渡価格
を930万円とすること,同契約は,Aの建造申請に使用できることを条
件とし,Aの承諾が認められない場合には,同契約を解消して,譲渡価格
の払戻しを行うこと等の約定が記載されていた(乙4)。
ウ預託金証書について
本件預託金証書取引において譲渡されたAが発行する預託金証書には,
いずれも預託金額が表示されており,「受託者は,預託者の預託承諾書に
基づき上記金額の預託を受け,これを受領した証として,本証書を発行し
ます。」と記載され,また,預託金の返還期限について,平成25年3月
31日とし,Aの理事会が返還期限の変更を決議した場合には変更後の返
還期限による旨,さらに,特約として,「本件預託金債権は,受託者が同
意した場合に限り,本件組合員である事業者に対してのみ譲渡することが
できます。」と記載されている(乙16の1ないし5)。
エ預託金証書による建造等納付金の免除
預託金証書によって,建造等納付金の免除が行われた船舶は,平成16
年度は12隻,平成17年度は21隻であるが,これらの預託金証書の使
用は,預託者自身が行ったのか,他の本件組合員から譲渡を受けた者が行
ったのかは明らかではない(乙11,同30)。
2争点1(本件承諾書取引が「対価を得て行われる資産の譲渡」に当たるか)
について
(1)本件承諾書取引の対象が「資産」に該当するかについて
ア「資産」の意義
法は,「国内において事業者が行つた資産の譲渡等には,この法律によ
り,消費税を課する」と規定し(法4条1項),「資産の譲渡等」とは,
事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供を
いい(法2条1項8号),消費税法基本通達5-1-3(甲1,乙24)
は,法2条1項8号及び12号に規定する「資産」とは,取引の対象とな
る一切の資産をいうから,棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか,
権利その他の無形資産が含まれることに留意する旨定めている。
その上で,法は,「資産の譲渡等」のうち,その性質上消費税になじま
ないものや,特別の政策的配慮により課税対象として適当でないものにつ
いて非課税取引として限定列挙方式により課税対象から除外している(法
6条)。
上記のほか,法の規定を総合すれば,消費税は,物品やサービスの個人
の消費に担税力を見出して課税を行うものであるところ,法は,消費税を
最終的な消費行為よりも前の各取引段階で物品やサービスに対する課税が
行われ,税負担が物品やサービスのコストに含められて最終的に消費者に
転嫁することが予定されている間接消費税として位置付け,各取引段階で
課税する多段階消費税の制度をとった上,税負担の累積を防止するため,
各取引段階で移転,付与される附加価値を課税標準として課税する附加価
値税の制度を採るものであり,このように多段階一般消費税である我が国
の消費税は,生産,流通過程のあらゆる段階において発生する附加価値に
対して課税を行うものとして,原則として広くあらゆる物品,サービスを
課税の対象とするものというべきである。
イ当てはめ
そこで,本件承諾書取引の対象が,上記の「資産」に該当するかどうか
についてみると,前記認定のとおり,本件要領等の下で,留保者は,自己
の有する留保対象トン数を使用して,Aに対して納付すべき新造船舶の建
造等納付金の免除を受けることができる(留保対象トン数の第三者使用)
ところ,そのためにはAに対する申請及び認定の手続を要するものではあ
るが,本件要領等の趣旨からすれば,Aは恣意的に認定の可否を決するこ
とは許されず,要件を満たす申請があった場合にはこれを認定する義務を
負うものと解されるから,留保者の有する上記のような権能は,Aに対す
る債権ないし債権類似の権利であると解される(以下「本件権利」という。)。
そうすると,原告は,本件承諾書取引により,本件権利を取得し,これ
をAに対し行使したものにほかならず,同取引の対象は,本件権利である
というべきである。
また,他の取引事例をみても,前記認定のとおり,本件承諾書取引の当
時,本件組合員が船舶の建造等に当たり,他の本件組合員から留保対象ト
ン数の使用承諾を受けて建造等納付金の免除を受けた例が年に20件以上
あり,前記認定の取引関係者の認識等によれば,少なくともそのうちの相
当数は売買契約その他の有償契約によって本件権利を取引したものと考え
られ,本件権利が,本件のみならず,本件組合員間で取引の対象になって
いたことも明らかである。
そうすると,本件承諾書取引の対象は,「取引の対象となる権利」にほ
かならず,法2条1項8号にいう「資産」に該当するというべきである。
ウ被告の主張について
(ア)「資産」の限定的解釈の主張について
被告は,法における「資産」と観念できる無形資産は,商標権や特許
権等の権利と同様に一般的に権利と認知され,取引の対象となり得る無
形資産をいうと解するべきであり,無制限に「およそ取引の対象となる
全ての資産」をいうと解することはできない等と主張する。
しかしながら,前記のような法の文理に照らしても,そのような限定
をすべき根拠は見当たらないし,前記通達自体が取引の対象となる「一
切の」資産をいうとしているのであって,被告主張のような解釈は,同
通達に反するものであって,採用できない。
(イ)暫定措置事業の趣旨に関する主張について
また,被告は,前記第2の3(1)イ(ア)bのとおり,旧事業の下では引
当資格が営業権として認められていたが,暫定措置事業は,これを廃止
し,暫定的,補償的な制度として実施されたもので,追加的措置におい
ても引当資格に代わる資格を認めたものではない等と主張し,確かに,
前記認定の各事実によれば,暫定措置事業の下では,旧事業の下での引
当資格はもはや営業権とは認められなくなったものであり,暫定措置事
業が暫定的,補償的な性格を有することも明らかである。
しかしながら,本件における「資産」該当性の問題は,留保対象トン
数により建造等納付金の免除を受け得る留保者及び取得者の権能を取引
対象の権利とみることができるかという問題であり,旧事業下での引当
資格が暫定措置事業の下でも残存していたといえるかではないし,前記
のとおり,旧事業下での引当資格は本件権利とはその内容において異な
るものであるから,その廃止をもって本件権利の権利性を否定すること
はできない。
また,「資産」該当性は,一定の制度を前提とする権利関係の場合,
当該制度における具体的な規定や約定に基づく権利義務関係に照らして
判断されるべきものであって,これを離れて制度を創設し,又は規定等
を設けた者の主観や意図に左右されるものではない。Aは,熊本国税局
長に対し,承諾書取引について売買の対象となるものとは考えていない
旨の回答をしており(乙15),追加的措置において,本件権利が発生
することを認識ないし意図していなかったとも考えられるが,本件要領
等の具体的規定の下で,留保対象トン数に係る権能が有償で取得者に移
転することが予定されていたことは明らかであり,Aが,これが売買の
対象にならないと考えていたとしても,必ずしも合理的な想定とはいえ
ず,そのようなAの主観によって,その権利性が左右されるものともい
えない。
さらに,暫定措置事業は,その名称のとおり,暫定的なものであった
ことは疑いがないが,暫定的な権利について「資産」該当性を否定すべ
き根拠は,法令,通達上も何ら見当たらず,本件課税期間において,本
件権利の行使が可能であり,実際にも行使されたものであることからす
れば,事業の暫定性をもって,本件権利の権利性を否定することもでき
ない。
(ウ)取引の形態等に関する主張について
被告は,前記第2の3(1)イ(ア)cのとおり,暫定措置事業の下で留保
対象トン数が第三者に譲渡されることは想定されておらず,本件承諾書
取引は,留保対象トン数を原告が使用することの承諾と,D又はFがこ
れを使用すること及び解撤等交付金放棄又は辞退したことに対して金員
の支払がなされたものにすぎず,譲渡又は移転の対象となる「資産」が
存在するとみることはできない等と主張する。
しかしながら,被告主張の上記の点は,本件権利の移転の法律形式に
係るものであるから,後に述べるように,「譲渡」に該当するかどうか
の問題であって,本件権利の権利性を否定し得る内容とはいえない。
なお,被告は,上記のほか,納付金免除引当資格は,暫定措置事業の
反射的効果にすぎず,取引の対象となるような財産的権利ではない等と
主張し,大阪高裁平成21年4月23日判決(平成○年(ネ)第○号)
に言及するが,資産該当性について,法令,通達が権利が本来的に発生
するものか,反射的効果によって発生するものかによって区別している
とする根拠は見当たらないし,上記判決は,追加的措置の実施前の事案
であり,また,解撤等交付金と納付金免除船舶引当資格について,抵当
権の目的物である船舶と客観的にみて経済的に一体をなすものとして抵
当権の効力が及ぶかという点について船舶と一体性がある権利と認める
ことができない旨判示したにとどまるものであって,追加的措置の下で,
「資産」に該当するかどうかの問題の先例性を有するものとはいえない。
(2)本件承諾書取引が,資産の「対価を得て行われる資産の譲渡」に当たるか
について
ア資産の「譲渡」の意義
法2条1項8号にいう資産の「譲渡」とは,資産についてその同一性を
保持しつつ他人に移転させることをいう(消費税法基本通達5-2-1)。
すなわち,経済的にみた場合には,資産の譲渡の対価を収受したのと同
様の実態にある時であっても,その同一性を保持しつつ他人に移転すると
いう事実がないときは,譲渡があったこととはならず,消費税の対象とは
ならない。
また,収用等による補償金や損害賠償金の金額がその支払の対象となっ
た資産の譲渡をした場合の金額(時価)と同額であったとしても,その補
償金又は損害賠償金が支払われることとなった行為が「譲渡」に該当しな
い以上,消費税の課税の対象とはならない。
そして,法は,経済取引において附加価値の移転等がある場合は課税対
象とするものであり,これらについては私法によって規律されているので
あるから,課税要件該当性を判断する際にも,まず私法に基づいて検討す
るのが原則であり,第1次的には,当事者が選択した法律形式,契約内容
等を踏まえ,その取引の実態に即して判断すべきである。もっとも,当事
者が租税回避等の目的で,真に意図する法律形式を回避して殊更別の形式
を採用して法律行為を行ったような場合には,この限りでないというべき
である。
イ当てはめ
これを本件についてみると,前記認定の各事実によれば,本件承諾書取
引は,いずれも売買契約の形式を取っており,原告は,D,Fからそれぞ
れ留保対象トン数を使用して,建造等納付金の免除を受ける権利(本件権
利)の移転を受け,その対価として売買代金を支払ったものと認められ,
原告はその上で本件権利を使用して建造等納付金の免除を受けたものと認
められる。
そうすると,本件権利は,本件承諾書取引によって消滅したり,減少し
たりすることはなく,本件承諾書取引は,売買契約によって,資産の同一
性を保持しつつ他人に資産を移転したものであるから,資産の「譲渡」に
該当するというべきである。
ウ被告の主張について
(ア)本件金銭が補償金としての性格を有するとの主張について
被告は,前記第2の3(1)イ(イ)bのとおり,本件金銭は,Aが支払う
べき補償金を原告が代わりに支払ったものにすぎない等と主張し,また,
解撤等交付金の交付も建造等納付金の納付も反対給付が存しないから不
課税取引に当たるところ,解撤等交付金に代わる金銭の交付を受けた場
合に,課税取引とされる理由は見いだせない等と主張し,確かに,追加
的措置において留保対象トン数の第三者使用が認められた経緯に照らし,
留保者がAから補償金の性格を有する解撤等交付金の支払を受ける代わ
りに,取得者から留保対象トン数の第三者使用に係る対価の支払を受け
ることが認められたという面があることは否定できない。
しかしながら,解撤等交付金ないし本件権利に補償金的性格があるか
どうかという問題と,本件権利の取引によって支払われた金銭に補償金
的性格があるかどうかという問題は,別個の問題であり,前者が肯定さ
れれば,後者が肯定されるとはいえない。
また,前記のとおり,本件承諾書取引の各当事者が,同取引を売買契
約の形式を選択して行ったことは明らかであり,これによれば,本件金
銭の性質は売買代金であって,補償金ないしその立替金ではない。
そして,その法的構成を否認できるかどうかについてみても,本件に
おいては,関係当事者は,本件権利を売買する意思で,売買契約の形式
を採用して取引し,売買代金を支払って,最終的には,原告において本
件権利をAに対し行使しており,その過程にも契約条項にも,租税回避
の場合に見られるような不自然な点や契約条項は見当たらず,原告にお
いては消費税の還付を受ける目的があったとしても,D及びFにおいて
は,逆に消費税を課せられる取引になり,少なくとも前者はその旨の税
務申告をしているのであるから,租税回避の目的で真意に反して,売買
契約の形式を選択したものとみることもできないのであって,契約の解
釈上,売買契約であることを否認することもできないというべきである。
そうすると,本件承諾書取引が,被告が主張するような原告が留保対
象トン数を使用することの承諾とDらの使用の放棄・辞退というような
法的性格の取引であったとはいえず,本件金銭に補償金としての性格が
あったとも認められないから,被告の上記主張は採用できない。
(イ)同一性に関する主張について
被告は,前記第2の3(1)イ(イ)cのとおり,追加的措置において,留
保対象トン数の使用承諾書の発行者は留保者に限られており,取得者は,
留保対象トン数を使用しない場合には,当該使用承諾書を発行者に返却
しなければならないとされているように,同事業の下においてその使用
目的,範囲,使用者が限定されているのであって,そこに何らかの権利
等が同一性を保持しつつ他人に移転されているとみることもできない等
と主張する。
しかしながら,本件権利を取得者から第三者に譲渡できるかについて
みると,本件要領には,本件権利を第三者に転売することを禁止する規
定は存在しない(乙14)し,本件権利を転売する場合には,あらかじ
め,留保者と取得者との間で,留保者が第三者あてに留保対象トン数使
用承諾書を発行することを約するなどして,転売を行うことが可能であ
り,実際にも,F取引における契約書には,その旨の約定があり,他の
取引事例においても取得者から第三者への転売取引は行われることがあ
ったと認められるのであるから,第三者への譲渡可能性を理由に,本件
権利が取得者の下で同一性を失うということはできない。
なお,留保者は,取得者に本件権利を移転すると,解撤等交付金請求
権を失うものと考えられ,これが取得者に移転するものではないが,そ
もそもこの権利は,本件承諾書取引の対象となっていないものであって,
本件権利が本件承諾書取引によってその内容が変化したというものでは
なく,このことをもって,本件権利が同一性を失ったといえるものでも
ない。
そうすると,結局,本件権利自体は,本件承諾書取引によって,消滅
したり減少したりしたものではないから,同一性を保持しつつ移転した
ものというべきであり,被告の前記主張は採用できない。
(ウ)その他の被告の主張について
また,被告は,前記第2の3(1)イ(イ)dのとおり,本件承諾書取引に
おいて,物品やサービスの移転はなく,最終的に消費者に転嫁すべき取
引は存在しない等と主張するが,そもそも被告主張のような点において
「資産」ないし「譲渡」の該当性を限定すべきであるという根拠は,法
規及び通達上も見受けられないし,前記のような本件承諾書取引の実態
に照らし,物品やサービスの移転がなく,最終的に消費者に転嫁すべき
取引が存在しないといえるものでもない。
エ課税の経緯等について
なお,前記のとおり,本件権利の取引について,国税当局は,消費税の
課税対象ではないとの見解を明らかにしており,平成17年11月9日以
降,Aにおいて,本件組合員にその旨を周知しており,その後は,これに
ついて消費税の課税はなされていないものと考えられ,本件においても,
課税庁側が課税要件を限定的に解釈して,本件承諾書取引は課税対象でな
いと主張している。
しかしながら,租税法律主義の観点からすれば,課税庁が課税要件を限
定的に解釈すべきであるという見解を公にしていたからといって,これが
裁判規範となるものではないし,これまで本件権利の取引に課税されてい
なかったことによって不都合が生じたとしても,それはやむを得ないこと
である。
(3)小括
以上によれば,本件承諾書取引は,「資産の譲渡等」(法2条1項8号)
に当たり,「課税資産の譲渡」(法2条1項9号)に該当するから,これと
裏腹の関係にある「課税仕入れ」(法2条1項12号)に該当するというべ
きである。
3争点2(本件預託金証書取引が「金銭債権」の譲渡に当たるか)について
(1)判断
ア法6条1項は,「国内において行われる資産の譲渡等のうち,別表第1
に掲げるものには,消費税を課さない。」と規定し,別表第1(平成19
年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)の2号は,証券取引法2
条1項に規定する有価証券その他これに類するものとして政令で定めるも
のの譲渡を掲げており,この規定を受けた施行令9条1項6号には,有価
証券に類するものとして,「貸付金,預金,売掛金その他の金銭債権」を
掲げている。したがって,一般的に金銭債権の譲渡は,非課税取引に該当
し,「課税資産の譲渡等」に該当しない。
イこれを本件についてみると,前記認定のとおり,本件預託金証書取引に
係る各契約書には,預託金証書を譲渡する旨記載されている。そして,預
託金証書には,預託金額が表示され,預託金の預託を受けたこと及び預託
金の返還期限が記載されているところ,かかる預託金は,Aにおいて,解
撤等交付金の資金が不足する事態となったことから,本件理事会決定に基
づき,その対応策として,解撤等交付金を申請し交付を受けようとする本
件組合員から,その交付予定である解撤等交付金の一部の金額の預託を受
け,解撤等交付金の原資に充てることとして実施したものであり,本件理
事会決定8条③には,預託金に係る債権はAが同意した場合に限って本件
組合員に譲渡することができる旨定められている。そうすると,預託金証
書は,本件組合員がAに対して預託した預託金返還請求権を表象したもの
であることが認められる。
このように本件預託金証書取引は,預託金返還請求権についての取引で
あると解されるから,「金銭債権」の譲渡として非課税取引に当たり,「課
税仕入れ」(法2条1項12号)には該当しないというべきである。
(2)原告の主張について
ア原告は,前記第2の3(2)ア(ア)aのとおり,本件預託金証書取引の経
済的実態は,留保対象トン数の譲渡と同様に,第三者に対して譲渡された
とき,その性質が変換し,内航海運の新船建造に係る実質的な権利の売買
であったということができ,単なる金銭債権の売買ではないとして,本件
預託金証書取引は,非課税取引たる金銭債権の譲渡ではなく,課税資産の
譲渡に該当すると主張する。
しかしながら,原告の上記主張によっても,何ら本件預託金証書取引の
対象が金銭債権であることを否定するものではなく,単に,その取得の目
的が当該金銭債権を取立て等の通常の方法により行使する以外の点にあっ
たというにすぎず,そのような目的をもって譲渡した場合に「金銭債権」
に該当しないとする法令上,通達上の根拠も何ら見当たらないことからす
れば,原告の上記主張は採用できない。
イまた,原告は,前記第2の3(2)ア(ア)bのとおり,本件預託金証書取
引についても,ゴルフ会員権と同様,船舶建造に必要な納付金が免除され
るという経済的価値が付加され,これを目的として取引がされているから,
ゴルフ会員権と同様に課税取引の対象となると主張する。
しかしながら,法は,明文の規定により,非課税取引から,ゴルフ場そ
の他の施設の利用に関する権利に係るものとして政令で定めるものを除く
ことを定めているのであり(法別表第1の2号,施行令9条2項),これ
と異なる本件預託金証書取引についても課税対象であるとはいえない。
また,実質的に見ても,預託金会員制のゴルフクラブ会員権の法的性格
は,①ゴルフ場施設の優先的利用権,②預託金返還請求権,③会費納入義
務の権利義務関係が一体となった契約上の地位であり(最高裁第一小法廷
昭和61年9月11日判決・裁判集民事148号482ページ),預託金
会員制のゴルフクラブ会員権を所有している会員がゴルフクラブ会員権を
売買する場合,金銭債権たる預託金返還請求権と年会費納入等の義務と併
せ,ゴルフ場施設の優先的利用権とが一体不可分となって売買されること
になるのである。このように,非課税取引となる金銭債権たる預託金返還
請求権の譲渡と「資産の譲渡」に該当するゴルフ場施設の優先的利用権の
譲渡とが一体としてなされることから,ゴルフ場の優先利用権の譲渡に対
して消費税を課税するため,非課税取引とされる金銭債権の譲渡から,「ゴ
ルフ場施設を一般の利用者より有利な条件で継続的に利用する権利を有す
る者となるための要件とされている場合における当該預託に係る金銭債権」
(施行令9条2項)を除く規定が定められているのである。
これに対し,預託金証書は,前記のとおり,単に預託金返還請求権とい
う金銭債権を表象するものにすぎず,建造等納付金の免除についても,い
わば,この金銭債権の使い道であるにすぎず,金銭債権とは別に,ゴルフ
会員権におけるゴルフ場利用権等のようなA等に対する権利義務が観念で
きるものではない。
ウさらに,原告は,前記第2の3(2)ア(イ)のとおり,本件預託金証書取
引について,預託金証書を購入する者は,金銭債権として購入するのでは
なく,新船建造に係る権利として使用する目的で購入していると主張し,
その根拠として①預託金証書を購入した者でAから預託金額の返還を受け
たものはごく一部の例外を除いてないものと推測されること,②預託金証
書が金銭債権であるならば,その流通価格は,おのずと債権額の何%とい
う一定の範囲に収斂されるはずであると主張する。
しかしながら,①の主張は,金銭債権購入の目的に関するものであって,
これが金銭債権性を否定する根拠とはなり得ないのは前記アのとおりであ
る。
また,②の主張についてみても,金銭債権であっても,その価格は様々
な要因によって変動するのであり,本件において,取引価格の差異が大き
かったとしても,それは預託金証書が市場で流通する性質のものではなく,
相対で取引されるものであり,その価格は取引当事者の当時の経済的状況
等によって左右されるためであると考えられるから,預託金証書の取得価
格が一定でないことは,本件預託金証書取引が「金銭債権」に当たらない
ことの根拠とはならないというべきである。
以上のとおり,本件預託金証書取引は,預託金返還請求権という金銭債
権の譲渡であって,これに反する原告の主張は採用できない。
4税額計算等
以上を前提に本件課税期間における消費税の控除不足還付税額,地方税の譲
渡割額及び過少申告加算税の額を算定すると次のとおりとなる。
(1)課税標準額22億2856万6000円
次のアからイを控除した金額である。
なお,課税標準額は,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び
地方消費税額を含まない金額(いわゆる「税抜き金額」)である(法28条
1条括弧書)。
ア申告額22億2886万6000円
イ課税標準額に含まれない金額30万円
原告は,他に譲渡した預託金証書の譲渡代金額を課税標準額に含めて申
告しているが,これは,法上の課税資産の譲渡等に該当しないから,30
万円(原告の申告額31万5000円に105分の100を乗じて算出し
た金額)を減額する。
(2)課税標準に対する消費税額8914万2640円
上記(1)の金額に,法29条に基づく税率100分の4を乗じて算出した金
額である。
(3)控除対象仕入税額1億0543万5817円
次のアからイを控除した金額である。
なお,控除対象仕入税額(課税仕入れに係る消費税額)は,課税仕入れに
係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した金額である(法30条1
項括弧書)。
ア申告額1億0628万5341円
イ控除対象仕入税額に該当しない金額84万9524円
本件預託金証書取引は,法6条1項に規定する課税資産の譲渡等から除
外される取引(非課税取引)に当たり,課税仕入れに該当しないから,原
告が,課税仕入れの支払対価の額に含めて申告した金額に,法30条1項
に規定する105分の4を乗じて算出した額である。
(計算式)
13,000,000円+9,300,000円=22,300,000円
22,300,000円÷105×4=849,524円
(4)控除不足還付税額(消費税の還付すべき税額)1629万3177円
上記(2)から(3)を控除した金額である。
(計算式)
89,142,640円-105,435,817円=-16,293,177円
(5)差引納付すべき消費税額83万7500円
上記(4)で算出した還付すべき税額1629万3177円と本件消費税等確
定申告書における還付すべき税額1713万0701円との差額83万75
00円が差引納付すべき税額(ただし,通則法119条1項により100円
未満の端数を切り捨てた後のもの。)となる。
(計算式)
△16,293,177円-(△17,130,701円)(端数処理)=837,500円
(6)地方消費税の課税標準となる消費税額(控除不足還付税額)
1629万3177円
地方税法72条の77第2号及び同法72条の82に基づき,上記(4)の金
額となる。
(7)譲渡割額(還付額)(地方消費税の還付すべき譲渡割額)
407万3294円
地方税法72条の83に基づき,上記(6)に税率100分の25を乗じて算
出した金額である。
(計算式)
16,293,177円÷100×25=4,073,294円
(8)差引納付すべき譲渡割額20万9300円
上記(7)で算出した還付すべき譲渡割額407万3294円と本件消費税等
確定申告書における還付すべき譲渡割額428万2675円との差額20万
9300円が差引納付すべき譲渡割額(ただし,地方税法20条の4の2第
3項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。)となる。
(計算式)
△4,073,294円-(△4,282,675円)(端数処理)=209,300円
(9)差引納付すべき消費税等の税額104万6800円
上記(5)と(8)の合計額であり,本件消費税等確定申告書との差引納付すべ
き消費税と地方消費税の譲渡割額の合計額である。
(計算式)
837,500円+209,300円=1,046,800円
(10)過少申告加算税の額13万1000円
過少申告加算税の額は,通則法65条1項の規定に基づき,上記1(9)の
差引納付すべき消費税等の税額104万円(通則法118条3項の規定によ
り1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)に100分の10の割合
を乗じて算出した10万4000円及び同法65条2項の規定に基づき,上
記1(9)の差引納付すべき消費税等の税額104万6800円から,同条3項
2号の規定により計算される,期限内申告税額△2141万3376円と5
0万円とのいずれか多い金額である50万円を控除した54万円(通則法1
18条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)に
100分の5の割合を乗じて算出した2万7000円の合計13万1000
円となる。
5結論
以上によれば,原告の請求は主文1項の限度で理由があるからその限度でこ
れを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につ
いては,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主
文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官増田隆久
裁判官長谷川秀治
裁判官渡部みどり
別紙2
1本件課税期間の消費税等の更正処分の根拠
(1)課税標準額22億2856万6000円
次のアからイを控除した金額である。
なお,課税標準額は,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び
地方消費税額を含まない金額(いわゆる「税抜き金額」)である(法28条
1条括弧書)。
ア申告額22億2886万6000円
原告の本件課税期間の消費税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」
という。)の課税標準額の金額(別紙1「確定申告」欄の①の金額)であ
る。
イ課税標準額に含まれない金額30万円
原告が,他に譲渡した預託金証書の譲渡は,法上の課税資産の譲渡等に
該当しないから,原告が,課税標準額に含めて申告した金額30万円(3
1万5000円に105分の100を乗じて算出した金額)を減額した。
(2)課税標準に対する消費税額8914万2640円
上記(1)の金額に,法29条に基づく税率100分の4を乗じて算出した金
額である。
(3)控除対象仕入税額9896万0377円
次のアからイを控除した金額である。
なお,控除対象仕入税額(課税仕入れに係る消費税額)は,課税仕入れに
係る支払対価の額に105分の4を乗じて算出した金額である(法30条1
項括弧書)。
ア申告額1億0628万5341円
本件確定申告書の控除対象仕入税額の金額(別紙1「確定申告」欄の③
の金額)である。
イ控除対象仕入税額に該当しない金額732万4964円
次の(ア)と(イ)の合計金額に法30条1項に基づき105分の4を乗じて
算出した金額である。
(計算式)
(169,980,300円+22,300,000円)÷105×4=7,324,964円
(ア)本件承諾書取引に係る支払対価の額
1億6998万0300円
本件承諾書取引は,法上の課税の対象となる取引に当たらず,課税仕
入れに該当しないから,原告が,課税仕入れの支払対価の額に含めて申
告した金額を減額した。
(計算式)
(67,386,000円+3,369,300円)+(94,500,000円+4,725,000円)=
169,980,300円
(イ)本件預託金証書の取得に係る取引の支払対価
2230万円
本件預託金証書取引は,法6条1項に規定する課税資産の譲渡等から
除外される取引(非課税取引)に当たり,課税仕入れに該当しないから,
原告が,課税仕入れの支払対価の額に含めて申告した金額を減額した。
(計算式)
13,000,000円+9,300,000円=22,300,000円
(4)控除不足還付税額(消費税の還付すべき税額)981万7737円
上記(2)から(3)を控除した金額である。
(計算式)
89,142,640円-98,960,377円=-9,817,737円
(5)差引納付すべき消費税額731万2900円
上記(4)で算出した還付すべき税額981万7737円と原告が申告した還
付すべき税額1713万0701円との差額731万2900円が差引納付
すべき税額(ただし,国税通則法(平成18年法律第10号による改正前の
もの。以下同じ。)119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後
のもの。)となる。
(計算式)
△9,817,737円-(△17,130,701円)(端数処理)=7,312,900円
(6)地方消費税の課税標準となる消費税額(控除不足還付税額)
981万7737円
地方税法72条の77第2号及び同法72条の82に基づき,上記(4)の金
額となる。
(7)譲渡割額(還付額)(地方消費税の還付すべき譲渡割額)
245万4434円
地方税法72条の83に基づき,上記(6)に税率100分の25を乗じて算
出した金額である。
(計算式)
9,817,737円÷100×25=2,454,434円
(8)差引納付すべき譲渡割額182万8200円
上記(7)で算出した還付すべき譲渡割額245万4434円と原告が申告し
た還付すべき譲渡割額428万2675円との差額182万8200円が差
引納付すべき譲渡割額(ただし,地方税法20条の4の2第3項により10
0円未満の端数を切り捨てた後のもの。)となる。
(計算式)
△2,454,434円-(△4,282,675円)(端数処理)=1,828,200円
(9)差引納付すべき消費税等の税額914万1100円
上記(5)と(8)の合計額であり,本件更正処分により新たに納付すべき消費
税と地方消費税の譲渡割額の合計額である。
(計算式)
7,312,900円+1,828,200円=9,141,100円
2本件課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分の根拠
過少申告加算税の額134万6000円
過少申告加算税の額は,国税通則法65条1項の規定に基づき,上記1(9)
の差引納付すべき消費税等の税額914万円(国税通則法118条3項の規定
により1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)に100分の10の割
合を乗じて算出した91万4000円及び同法65条2項の規定に基づき,上
記1(9)の差引納付すべき消費税等の税額914万1100円から,同条3項
2号の規定により計算される,期限内申告税額△2141万3376円と50
万円とのいずれか多い金額である50万円を控除した864万円(国税通則法
118条3項の規定により1万円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)に
100分の5の割合を乗じて算出した43万2000円の合計134万600
0円となる。

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