弁護士法人ITJ法律事務所

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主    文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求(請求の趣旨)
1 被告は,原告に対し,1324万2000円及びこれに対する平成11年4月
9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,マンションの区分所有者である原告が,その居住するマンションの管理組
合は,各区分所有者と委任に準じた法的関係にあり,同管理組合は,受任者とし
て,敷地及び共用部分等の管理責任があるにもかかわらず,これを怠ったことによ
り,損害を被ったと主張して,同管理組合の理事長である被告に対し,受任者とし
ての善管注意義務違反に基づく損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等(証拠を引用しない部分は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
原告は,平成6年1月14日,同マンションK棟104号室(以下,同マンション
K棟の居室は,単に号室のみで記載する。)を購入して区分所有者となり,管理組
合の一員となったものである。
被告は,昭和61年7月から昭和63年4月にかけて,住友不動産株式会社が,清
水建設株式会社を請負人として建築し,住友不動産販売株式会社が分譲した,Bマ
ンション(以下「本件マンション」という)のAないしM棟の全286戸の専有部
分所有者で構成される管理組合(以下「管理組合」という)の管理者である(争い
のない事実,弁論の全趣旨,証人Aの証言)。
管理組合の管理規約(以下,単に「規約」という)に関する管理組合と組合員との
間の訴訟については,規約第72条2項により,管理者(理事長)がその原告又は
被告となるものと規定されている。
管理組合は,昭和63年に住友不動産建物サービス株式会社(以下「管理会社」と
いう)と管理委託契約を締結した。
管理組合は,平成3年に,清水建設との請負契約に基づき,104号室,204号
室の外壁部分の補修工事(以下「本件工事」という)を実施したが,原告は,平成
8年当時の管理組合理事長に対し,本件工事の実施に関する資料の提出を求めたと
ころ,管理組合からは,そのような資料はないとの回答しかなかった。
(2) 規約
規約には,以下のとおりの定めがある。
第15条
3項 団地建物所有者がその所有する住戸部分を,他の団地建物所有者又は第三者
に譲渡又は貸与したときは,その団地建物所有者の駐車場の専用使用権は消滅す
る。ただし,区分所有権を相続または贈与により移転した場合はこの限りではな
い。
第20条
1項 敷地及び共用部分等の管理については,管理組合がその責任と負担において
これを行うものとする。ただし,バルコニー等の管理のうち,通常の使用に伴うも
のについては,専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなけれ
ばならない。
2項 共用部分の設置または保存に瑕疵があることにより専有部分に汚損・毀損等
の損害が生じるときは,当該専有部分の汚損,毀損等に対する管理組合の賠償責任
は次の各号によるものとする。
一 第23条1項に定める賠償責任保険契約の補償の範囲内の場合には,管理組合
は当該保険契約の補償額を限度としてその責任を負うものとする。
二 前号以外の場合には,管理組合は当該専有部分の天井,壁,床,クロス,畳,
カーペット,塗装,障子,襖に限りその責任を負い,当該専有部分にある家財,書
画,骨董品,その他動産に対してはその責任を負わないものとする。
第23条
1項 団地建物所有者は,管理組合が団地建物所有者を代理して,次の業務を行う
ことを承認する。
一 対象物件に対する次の損害保険契約の締結
イ 共用部分等の火災保険
ロ 個人賠償責任保険
ハ 施設賠償責任保険
二 前号の損害保険契約に係る保険証券の保管ならびに保険金(前号ロを除く。)
の請求および受領
第32条 管理組合は,次の各号に掲げる業務を行う。
一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下,本条及び第46条において
「組合管理部分」という。)の保安,保全,保守,清掃,消毒及び塵芥処理
二 組合管理部分の修繕
三 共用部分等に係る火災保険その他の損害保険に関する業務
四 団地建物所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当で
あると認められる管理行為
五 敷地及び共用部分等の変更,処分及び運営
六 管理費等及び使用料の収納,保管,運用,支払等に関する業務
七 官公庁,町内会等との渉外業務
八 風紀,秩序及び安全の維持に関する業務
九 防災に関する業務
十 広報及び連絡業務
十一 組合員及びその関係者等に対する生活上の諸サービスの取次又は斡旋
十二 その他組合員の共同の利益を増進し,良好な住環境を確保するために必要な
業務
第33条 管理組合は,前条に定める業務の全部又は一部を,第三者に委託し,又
は請け負わせて執行することができる。
2 原告の主張
(1) 管理組合の義務
管理組合は,規約により議決機関として集会,執行機関として理事会,理事長とい
う団体としての組織が定められ,集会においては多数決の原則が行われ,また,団
体の構成員である区分所有者の変更があっても,区分所有関係が継続する限り団体
が存続し,その他代表の方法,総会の運営,財産の管理等,団体としての主要な点
が確定しているので,権利能力なき社団であり,この場合,管理組合と各区分所有
者との法的関係は,委任に準じるものと解される。
本件において,規約第20条に定める「管理組合は・・・責任を負う」とは,こう
した管理組合の団体的性格及び各区分所有者に対する直接の責任及び義務を明示
し,管理組合が各区分所有者に対し,管理上の損害賠償責任を負うことを明確に規
定したものである。
管理組合は,原告のため規約第32条に定める業務を行い,この場合,原告に対
し,善管注意義務を負う。
(2) 管理組合の義務違反
ア 外壁補修工事に関して
管理組合は,規約第32条に定める業務の全部又は一部を第三者に委任又は請け負
わせて執行することができるが(規約第33条),その場合,原告に対し,第三者
の業務が適正に行われるよう監督する義務がある。
そして,管理組合は,昭和63年,管理会社と管理委託契約を締結したのであるか
ら,本件マンションの各区分所有者に対し,管理会社に対する監督義務を負う。
原告は,平成3年に204号室の外壁部分について,本件工事が行われた事実を知
らないまま104号室を購入し,平成8年9月に生じた壁の変色の原因を調査して
初めて本件工事の存在を知ったことから,同室を売却しようと考え,当時の管理組
合理事長に対し,本件工事の実施に関する総会議事録,理事会議事録,本件工事の
概要等の記録の提出を求めたが,管理組合からは,そのいずれの資料もないので,
直接,管理会社及び清水建設に問い合わせるようにとの回答を受けた。
しかし,仮に,清水建設が,瑕疵担保責任に基づき,本件工事を行ったものである
としても,外壁部分の工事は,共用部分の変更又は管理事項に該当し,集会決議に
より決せられるべき問題であり,かつ,管理業務の一環としての工事であるから,
少なくとも管理者たる理事長は,その概要を把握しておかなければならない職務上
の義務がある。
にもかかわらず,当時の理事会あるいは管理を受託した管理会社が工事概要を把握
せず,同工事を清水建設に丸投げしたことにより,若しくは工事概要を把握してい
たとしても,それに関する記録を保管しなかったため,管理組合は工事の内容,水
漏れの原因を全く把握しておらず,現在において同工事の概要を把握することは不
可能となった。
こうした管理上の不備の終局的責任は,規約に基づく管理会社に対する監督義務を
怠った管理組合にある。
イ 駐車場問題に関して 
本件マンションにおいて,駐車場の専用使用権は,規約第15条3項に基づき,区
分所有者に限定され,その所有する住戸部分を譲渡,貸与した場合には消滅するも
のであり,空き駐車場が発生した場合の使用者は,申込順に決定することとなって
いる。
にもかかわらず,管理組合駐車場において,同条項に違反する以下のとおりの駐車
場の不正使用の事実があった。
(ア) 住友不動産販売が,駐車場の専用使用権付住戸区分所有権で販売した。
(イ) 使用規則により,空き駐車場の使用者は申込順で,管理室のノートに申込者の
名前を記入する方法を採用しているが,そのノートが紛失し,登録したはずの申込
者の名前が記入されていなかった。
(ウ) 区分所有者が,駐車場付で所有住戸部分を賃貸したり,又は自己が専用使用権
を有する駐車場のみを賃貸した。
このような規約違反の実態がある場合には,管理組合は,早急にその是正のため
に,建物の区分所有等に関する法律に基づく手続をとるべきであり,原告は,この
問題を,総会毎に訴え,あるいは臨時総会の開催要求を含めて訴えてきたにもかか
わらず,管理組合理事会はこれを取り上げようとせず,違法な状況を黙認した。
このように,管理組合が,規約違反事実を漫然と放置する行為は,規約第32条5
号違反である。
ウ フローリング問題に関して
本件マンションにおいて,フローリング床の施工は,1階部分においてのみ許され
ているにもかかわらず(原始規約に準ずるマンションパンフレット),2階,3階
においてフローリング床施工部分がある。
しかし,管理組合は,このような規約違反事実を黙認しており,規約第43条4号
違反である。
エ 議事録問題に関して
本件マンションにおいては,理事会の議事録も,総会議事録と同様に,作成保管が
義務づけられている(規約第52条2項)。
しかるに,過去の理事会議事録は,作成されていないもの,作成されていても参加
理事の署名捺印がないもの,あるいは,理事会での発言が記載されていないものな
どがあり,議事録の作成に関し,理事会の規約違反行為が恒常化しており,総会議
事録についても参加者の発言が正確に記載されていなかった。
管理組合は,こうした議事録の作成,保管を,建物の区分所有等に関する法律及び
規約により自ら適正に行うのみならず,過去の議事録の作成についても責任を負う
べきであるにもかかわらず,漫然と上記規約違反事実を放置しており,管理義務違
反である。
(3) 損害
原告の主張する損害は,以下のとおり。
ア 原告の専有部分の価値下落による損害額 1022万円
原告は,所有する104号室の売却を考え,その査定を仲介業者に依頼したとこ
ろ,平成3年の水漏れの事実及び原因,修繕の有無,外壁工事の内容等の重要事項
が明確でない限り,売却できないと言われ,管理組合の管理不備により,結局,こ
れを明確にできなかった結果,2社から仲介を拒否され,現在売却できない状態と
なってしまった。
その期間にマンション価値(主として地価)が下落したが,これによる損害は,以
下のとおりである。
すなわち,原告が仲介業者に104号室の売却仲介を依頼した平成9年3月から平
成13年6月までのマンション価格下落率は28パーセントであり,平成9年3月
時点における仲介業者の査定価格は3600ないし3700万円であるから,マン
ション価格の下落による損害の平均価格は,
3650万円×0.28=1022万円である。
よって,原告は,規約に基づく管理義務を怠った管理組合に対し,債務不履行に基
づく損害賠償として,104号室の価値下落相当分1022万円の支払を求める。
イ 駐車場利用権の侵害に基づく損害    2万2000円
理事長は,駐車場利用権に関する不正行為を知っていたにもかかわらず,黙認した
ため,原告は,駐車場の使用を妨げられ,やむなく敷地外の民間駐車場を借りざる
を得なかったが,これにより原告が被った損害は,平成10年5月から平成13年
11月まで27か月分の管理組合駐車場専用使用料と民間駐車場使用料との差額
(月額500円)合計2万2000円である。
このように,原告は,順番待ちの権利を侵害されたことにより,上記損害を被った
ものであるが,これは,理事会の不正な管理によって生じた損害であるから,原告
は,管理組合に対し,同損害の賠償を請求する。
ウ 時間・実費浪費に関する損害    300万円
管理規約違反事実に関し,管理状況是正のために努力をしたにもかかわらず,組合
はこれを無視したが,原告がこれに携わった時間,実費の浪費による損害は,30
0万円である。
以上を合計すると,原告の被った損害は,1324万2000円である。
(4) よって,原告は管理組合に対し,善管注意義務違反に基づく損害賠償として,
上記金員及びこれに対する催告としての訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法
所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の認否及び主張
(1) 管理組合の義務について
管理組合と各区分所有者との法的関係が委任に準じるとの主張は争う。
管理組合と,その組合員である各区分所有者の関係は,団体とその構成員の関係で
あり,委任の関係にはない。
また,規約中に,原告が主張する内容の条項があることは認めるが,その余は不知
ないし否認する。
規約第20条には,原告のために行うとは規定されていないし,責任の範囲も明確
に規定されている。
(2) 管理組合の義務違反について
ア 外壁補修工事に関して
第1,第2段落のうち,規約第33条に,原告主張のとおりの定めがあること,管
理組合が管理会社に対し,本件マンションの管理を委託したことは認めるが,その
余は否認する。
第3段落以下のうち,原告が管理組合に対し,補修工事の記録を求めたこと,それ
につき管理組合が記録はないと回答したことは認めるが,その余は不知ないし否認
する。
本件マンションは,昭和58年5月頃,住友不動産が清水建設に発注して建築した
後,住友不動産販売が分譲したものであるが,平成2年4月頃,204号室の区分
所有者から水漏れの苦情があったため,建築業者である清水建設が,請負人の瑕疵
担保責任に基づき,その責任において本件工事を行った。
このように,本件工事は,管理組合ないし管理会社が,清水建設に対し発注したも
のではないし,被告が本件工事に関与した事実もないから,外壁変色につき被告に
責任はない。
そもそも,管理組合と区分所有者との間には委任契約はないから,原告の主張する
ような注意義務が生じる根拠はない。
イ 駐車場問題,フローリング問題,議事録問題に関し,原告の主張する事実は,
いずれも否認する。
(3) 損害について
ア 原告の専有部分の価値下落による損害について
不知。
外壁の変色程度のことは,補修可能なことであり,これにより価値が下落するとは
考えられない。
イ 駐車場利用権の侵害に基づく損害及び時間・実費浪費に関する損害について
は,民間駐車場使用料が月額500円高額であったことは認めるが,その余の事実
は,いずれも不知。
第3 裁判所の判断
1 甲第1ないし第8号証,第10ないし第25号証,第29ないし第32号証,
第33号証の1,2,第34,第35号証,第37号証の1,2,第38ないし第
40号証,第41号証の1ないし3,乙第1号証の1ないし69,第2号証の1な
いし14,証人Aの証言,原告本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められ,
同認定に反する証拠はない。
(1) 原告は,平成6年1月14日,104号室を購入し,同年3月に居住を開始し
たが,次第に管理組合の管理のあり方に疑問を抱くようになった。
まず,本件マンション駐車場の数は,入居者全員分はなかったため,順番待ちをし
ないと使用できず,また,規約により,専用使用権者は原則として区分所有者に限
られているにもかかわらず,規約に違反して駐車場が使用されたり,駐車場順番待
ちの管理が徹底されないという事実があった。
また,当初,住友不動産販売は,2階以上の床はフローリング床施工はできないも
のとして本件マンションを販売していたにもかかわらず,その後,フローリング施
行をして販売を行っていた事実を管理組合が黙認し,総会において問題にしなかっ
たことや,総会議事録にこの問題が記載されていないといった事態も生じていた。
そこで,原告は,これを是正すべく,管理組合に熱心に働きかけたにもかかわら
ず,事態は改善されなかったことから,原告は,管理組合やその理事長,管理会社
に対し不信を抱き始め,平成8年3月頃には,104号室の販売を決意し,仲介業
者に仲介を依頼した。
(2) ところが,同年6月頃,原告の居住する104号室の上にある204号室の外
壁に変色が生じ,更にその後,104号室の外壁も変色し始めた。
そこで原告は,そうした外壁が変色した原因等につき近所に聞き込み調査を行い,
資料を作成して理事会に問い合わせ,管理会社や清水建設と面会を重ねたが,納得
のいく回答を得られなかったため,独自に調査を行ったところ,おおむね以下のと
おりの事実関係が判明した。
すなわち,本件マンションの工事は,昭和61年7月から昭和63年4月にかけて
行われたものであるが,2年目点検の際に,管理会社から清水建設に対し,K棟2
階と1階に水漏れがあるとの申出があったため,これに基づき清水建設担当者が各
部屋を点検したところ,1,2階部分の部屋の壁の上部に平面的にカビが発生して
おり,特に,204号室の状態がひどかった。
清水建設は,カビの生え方が平面的であったこと,本件マンション286所帯の中
で1軒も雨漏りがなかったこと,室内の幅木はいたんでいなかったことから,カビ
の原因は結露であると判断したが,原因は雨漏りであるという住民からの申出に従
い,平成3年,水漏れ対策として,外壁部分の塗膜工事,204号室,304号室
のベランダ部分の工事,内装関係の工事を行った。
しかし,その後もカビの発生はおさまらず,204号室の居住者は,管理会社を通
じて,清水建設に対し問題の解決を要請したが,平成8年になるまで,清水建設が
現地調査に訪れず,平成8年になり,ようやく2回にわたり,104号室の調査に
訪れたが,その際,清水建設担当者は,原告に対し,カビの原因について,L棟を
越えてきた北風がK棟外壁に当たり,104号室と204号室は,その通り道にあ
るため,特に冷やされて結露するのであろうなどと説明した。
(3) 原告は,仲介業者から,このようなカビの発生に関する一連の問題について
は,その原因,修理経過,今後の修理計画は,重要事項として告知義務があるか
ら,これを明確にした上,今後,問題が再発した場合における管理組合の保証がな
い限り,104号室の売却は難しいとの説明を受けた。
しかし,原告は,上記のとおり,清水建設からの,外壁変色の原因は結露であろう
という説明以上に,管理組合その他から何ら説明を受けることはできなかったた
め,結局,各社から仲介契約を断られ,104号室は売却できないまま,現在に至
っている。
なお,水漏れ発覚後に,仲介業者から,104号室の売出価格は3600ないし3
700万円であるとの査定結果が出されたが,この価額は,外壁修理等,上記諸問
題を考慮に入れずに算出されたものであった。
2 以上の事実を前提に,原告の主張を検討する。
(1) 原告の専有部分の価値下落による損害について
本件において,変色の生じた外壁部分は,共用部分に当たるところ(規約第9
条),前記前提事実のとおり,管理組合は,規約上敷地及び共用部分等の管理責任
を負っている(規約第20条1項)。
したがって,管理組合は,同外壁部分につき管理責任を負い,その原因や修理経
過,今後の修理計画について把握する義務がある。
この義務が原告ら個々の組合員に対して負うものかはともかく,上記認定のとお
り,管理組合は,原告が,平成8年当時の管理組合理事長に対し,本件工事の実施
に関する資料の提出を要求した際,一切の資料がないとして,この要求に応じなか
ったことからすれば,平成3年当時に外壁の補修工事が行われた事実を含め,変色
の原因につき詳細を把握していなかったと認められ,したがって,上記義務を怠っ
たことが認められる。
しかし,原告が仲介業者に売却を依頼した平成9年3月時点における104号室の
価額として,原告が主張する3600ないし3700万円は,水漏れ等,本件一連
の問題を考慮することなくこれらの減価要因を検討せずに算出された価格であるか
ら,この価額は,本件マンションの下落価値を算定する基準とはなり得ない。
東京カンテイ作成の類似マンション売データ(甲34,35)中の,平成9年8
月,同年11月時点における104号室の参考価格も,本件マンションと最寄り
駅,同駅からの距離,竣工年月,総戸数,売主,土地権利,階数,施工主の条件が
類似するマンションの価額を参考に算定されたデータではあるが,その条件中に,
減価要因である本件一連の問題が含まれているものとは認められないから,同様
に,本件マンションの下落価値を算定する証拠とはなり得ない。
その他に,上記問題をも考慮に入れた上で,平成9年3月から現在に至るまでの間
の104号室の価値下落額を具体的に算定するに足りる的確な証拠はない。
また,前記認定のとおり,そもそも原告の居住するK棟の外壁変色は,2年目点検
の際,既に存在していた要因が,原告が104号室に居住を開始した後の平成6年
6月頃に顕在化したものといえるから,原告はいわば正に瑕疵のある状態で104
号室を前所有者から買い受けたものであって,104号室自体の価値がもともと低
かったのであり,仮にそうした瑕疵の存在を買い手に伝えた場合には売買契約自体
成約に至るか否かはなはだ疑問であることは原告本人の自認するところであって,
管理組合が重要事項を開示しなかったことが原因で,同室の価値が下落したとはい
えず,したがって,管理組合の任務懈怠と,平成9年3月から現在までの104号
室の価値の下落との間に,因果関係は認められない。
以上のとおり,104号室の価値下落価額を認定することはできず,また,管理組
合の任務懈怠と価値下落との間の因果関係も認められないから,結局,原告の専有
部分の価値下落による損害に関する原告の主張は採用できない。
(2) 駐車場利用権の侵害に基づく損害について
駐車場部分についても,共用部分等の一部に含まれるものとして,管理組合が規約
上その管理義務を負っている(規約第8条,第20条1項)。
この義務が原告ら個々の組合員に対して負うものかはともかく,前記のとおり,管
理組合は,同義務に反して本件マンション駐車場の管理を徹底せず,区分所有者以
外の人が駐車場を使用したり,駐車場の順番待ちが守られないといった事態が生じ
ていた事実も認められる。
しかし,仮に,管理組合が上記責任を守り,駐車場管理を徹底して行っていれば,
平成10年5月から平成13年11月までの間に,原告が駐車場専用使用権を確保
できていたかどうかという点については,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,駐車場利用権の侵害に基づく損害についても,これを認めることはで
きない。
(3) 時間・実費浪費に関する損害について
原告は,管理組合の管理状況是正活動に伴う時間,実費の浪費による損害を請求す
るものであるが,個別具体的に主張立証し得る性質の損害内容であるにもかかわら
ず,その活動に携わった時間,活動に要した実費の具体的内訳等につき,何ら具体
的に主張立証しないから,結局,時間,実費の浪費に関する損害についても,これ
を認めることは困難である。
3 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第8民事部
裁判長裁判官   松 田    清
   裁判官  清 水  研 一
   裁判官   西 野  牧 子
 

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