弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役4年6月及び罰金80万円に処する。
未決勾留日数中270日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
被告人から金10万円を追徴する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,みだりに,
第1 平成13年3月上旬ころ,兵庫県姫路市ab番地のc所在のJd号室におい
て,Aに対し,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤白色結晶
粉末約0.17グラム(平成13年押第155号の13はその一部を含むものの鑑
定使用後残量)を無償で譲り渡した
第2 Aと共謀の上,営利の目的で,同年3月19日ころ,同市ae番地所在のK
駐車場において,Bに対し,フェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せ
い剤結晶粉末約0.27グラムを代金1万円で譲り渡した
第3 Aと共謀の上,営利の目的で,同月29日午後3時ころ,前記Jd号室にお
いて,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤白色結晶粉末約
3.16グラム(同押号の1ないし12はその鑑定使用後残量)を所持した
第4 営利の目的で,同年6月12日ころ,兵庫県姫路市fg番地のc所在のL駐
車場において,C及びDに対し,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する
覚せい剤約5グラムを代金10万円で譲り渡した
ものである。
(証拠の標目)
 ―括弧内の検で始まる数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―
判示第1ないし第3の各事実について
 省 略
(補足説明)
第1 被告人及び弁護人は,判示各事実につき,いずれも事実無根であり,被告人
は無罪である旨主張する。
   当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,判示各事実はいずれも優に認められ
ると判断したのであるが,以下,その理由を補足して説明する。
   なお,以下,括弧内の検及び弁を付した数字はそれぞれ証拠等関係カード記
載の検察官及び弁護人請求証拠番号である。
第2 判示第1ないし第3の各事実について
 1 同各事実に関し,Aの前掲各供述調書,Bの公判供述及び前掲各供述調書の
内容は次のとおりである。
  (1) Aは,平成12年暮れころから,被告人が経営する風俗店で稼働し,同人
の援助を受けて生活していたところ,遅くとも平成13年2月初めころから,覚せ
い剤を被告人から4回譲り受けて使用し,同月ころから被告人の依頼を受けて同人
の覚せい剤を密売客であるBらに販売するようになった。
  (2) Aは,同年3月上旬ころ,判示第1記載のJd号室において,被告人から
ポリ袋入り覚せい剤約0.17グラムを無償で譲り受けた。その後,Aは,その覚
せい剤を何度か自己使用し,同月27日ころ,その残量を同年2月初めころに被告
人から譲り受けて自宅で保管中の覚せい剤と合わせて,1つのパケに入れて,携帯
用タバコ吸い殻入れに入れた上,コタツの上の小物入れに入れて自宅で保管してい
た。
  (3) Aは,同年3月19日午後8時37分ころ,Bから電話で覚せい剤の注文
を受け,同女と判示第2記載のK駐車場で待ち合わせ,同日午後9時過ぎころ,被
告人から預かった覚せい剤1袋を代金1万円と引き換えにBに手渡し,前記Jd号
室に戻ってから,その代金1万円を被告人に手渡した。
  (4) Aは,同月27日午後6時ころ,被告人から6万円を渡されてその指示に
従い,前記Kの駐車場において,密売人から代金6万円と引き換えに覚せい剤の入
った茶封筒を預かり,これをJd号室で被告人に手渡したところ,同月28日,被
告人から大きなポリ袋に入れられたほぼ均等に小分けされた判示第3の覚せい剤1
2袋を渡され,これをキーホルダー内に入れて密売のため保管していた。
 2 Aの前掲各供述調書は,一部は共犯者の氏名が仮名で記載されており,ある
いは,密売の開始時期や被告人からの覚せい剤譲受状況,仕入先である密売人の人
相風体等に関し,若干の変遷がないわけではないが,その骨格となるべき事実関係
に関する供述記載部分は,具体的かつ詳細で,かつ,一貫しており,前掲関係各証
拠から認められるAが逮捕された時の状況,同人方の状況,BからAに対する電話
による通話状況並びにBの公判供述や前掲各供述調書と符合すること,それまで主
犯格の共犯者について,仮名では供述していたものの,顕名での供述調書の作成に
は応じていなかったAが,自己の公判期日にそれが被告人であることを進んで明ら
かにし,その後その旨の供述調書を作成するに至った経緯には些かも不自然なとこ
ろは窺えないことに
照らすと,十分信用できる。
   弁護人は,(1)被告人は平成12年8月25日廃棄物の処理及び清掃に関する
法律違反の罪(以下「別件事件」という。)で逮捕され同年9月14日同罪で起訴
され以後同年12月6日に保釈されるまでの間勾留されていたのであるが,同年8
月被告人が逮捕された後保釈されるまでの間,Aは独自に覚せい剤を仕入れて密売
していたのであって,この事実はAの前掲各供述調書の骨格部分と矛盾する,A
は,自己の覚せい剤仕入先を隠匿する利益があり,自己の刑事責任を軽減しようと
する意図で虚偽供述に及んだものである,Aの前掲各供述調書中には,密売人の人
相風体,被告人から預かった覚せい剤の数量やその処分状況等につき供述変遷部分
や不合理な部分があって,それらの点につき合理的な説明が全くなされていない,
Bに譲渡した覚せい剤
の形状等につき,Bの公判供述及び前掲各供述調書との間で相反する部分があるな
ど,Aの前掲各供述調書には信用性がない,(2)Aの供述の信用性を裏付けるべきB
の供述にも不合理な点があり,同人は親密な関係にあるAのため被告人に不利な虚
偽の供述をしているというべきでBの公判供述及び前掲各供述調書は信用できな
い,(3)Aは公判廷で特段の理由もないのに証人としての宣誓及び供述を拒否した
が,これは同人の供述調書の内容が虚偽であったためであると考えるほかないか
ら,Aの前掲各供述調書の信用性はないなどと主張する。
   しかしながら,(1)Bの各供述調書中には,被告人が別件事件で身柄を拘束さ
れていた間も,BがAから覚せい剤を入手していたとする供述記載部分があるが,
Bはその後「被告人が別件事件で逮捕された後はしばらく覚せい剤を入手できず,
平成12年9月中旬以降,Eから覚せい剤を入手するようになった。」旨供述内容
を変化させているところ,この供述は,新たな入手先の氏名を含む具体的かつ詳細
なもので,他の客観的事実とも符合すること等に徴するとその信用性は十分であ
り,従前の前記供述記載部分の信用性は低いというべきであって,他にAが被告人
以外の第三者から覚せい剤を仕入れていたことを窺わせる証拠はないから,Aが独
自に覚せい剤を密売していたのではないかとの合理的な疑いの生じる余地はない
し,弁護人はAが自己の
刑事責任を軽減する意図で虚偽の供述をしたというが,仮にAが当初から被告人に
自己の刑事責任を転嫁するつもりであれば,自己の捜査段階において作成された前
掲供述調書中で被告人の氏名を仮名とすることにこだわったのは不自然であるほ
か,前掲関係各証拠によれば,Aが敢えて虚偽供述をしたものではないと優に認め
られるし,Aの前掲各供述調書中の供述変遷部分や不合理部分であると弁護人が主
張するところは,概ね些細な点に関するものであって,しかも,被告人との関係に
つき虚構の事実を述べることによって生ずる類のものではない上,その多くがAの
記憶違いによるものであると認められる。一例として,弁護人が不自然とする,A
が判示第1の覚せい剤につき『覚せい剤を保管しているのを忘れてまた被告人から
覚せい剤を購入した』
と供述している点について見ると,被告人から容易に覚せい剤を入手できる立場に
あったAが覚せい剤の保管について若干ルーズになって先に入手した覚せい剤を使
い切る前に新たに被告人から覚せい剤を譲り受けたと考えれば必ずしも不自然であ
るとはいえない。また,通話記録との不整合(例えば,Aが平成13年3月19日
にBから2回電話があったと供述する点は客観的には3回が正しい。)等は,捜査
官からの誘導がなかったことを示すものともいえるのであって必ずしも不自然であ
るとはいえないし,さらに,Bに譲渡した覚せい剤の形状等に関し,AとBの各供
述間に相反する部分のあることは事実であるが,その余の供述記載部分は概ね相互
に符合しているのであって,Bが平成13年2月以降にAから8回覚せい剤を購入
した等と供述してい
ることに照らすと,前記相反部分は,A又はBが他の覚せい剤取引時の記憶と混同
したとみるべきであり,この点からAの前掲各供述調書の信用性は左右されないか
ら,弁護人の主張は理由がない。(2)次に,Bの供述自体の信用性について見ると,
同人がAから8回覚せい剤を購入したと供述した点はBの従前の供述に比べAに不
利な内容のものであるところ,当公判廷におけるBの供述態度を見ると,検察官の
質問に対しても覚えていない点は覚えていない旨供述するなどしており,検察官に
迎合して被告人に不利な供述をしようとはしていないのであって,前記の相反部分
の存在によってBの前掲供述等の信用性が減殺されるものではない。(3)さらに,A
が当公判廷で宣誓及び供述を拒否した点について検討すると,前掲関係各証拠によ
り認められるAにお
いて主犯格の共犯者が被告人である旨を供述するに至った動機ないし経緯,Aが宣
告された量刑に対し強い不満を持ったこと並びに同人の前掲各供述調書の供述経過
及び供述内容等を総合勘案すると,Aの前掲各検察官調書(同51ないし54)は
刑事訴訟法321条1項2号前段により証拠能力が認められるというべきであると
ともに,Aにおいて宣誓及び供述を拒否したとの事情は同人の前掲各供述調書の信
用性を左右するものではないと認めるのが相当である。
 3 そうすると,A及びBが供述する前記1の事実は間違いない事実として認定
することができ,この事実及び前掲関係各証拠によれば,判示第1ないし第3の各
事実はいずれもこれを認めるに十分である。
   弁護人は,被告人には覚せい剤の密売を継続しがたい事情があった,A及び
Bが被告人以外の第三者から覚せい剤を入手したのではないかという合理的な疑い
を容れる余地がある旨主張し,被告人も当公判廷でこれに沿う供述をするが,弁護
人主張の事情のみをもって被告人に覚せい剤の密売を継続しがたい事情があったも
のとは認められないし,前記のとおりAが被告人以外の第三者から覚せい剤を入手
していたことを窺わせる証拠はなく,覚せい剤の入手状況及びその費消状況に関す
るBの公判供述及び前掲供述調書の各供述部分も,前掲関係各証拠により認められ
る平成13年2月から同年3月までの間のBと被告人やAとの間のやりとりに照ら
すと,弁護人が指摘するBの覚せい剤の使用頻度及び入手量等を考慮しても,不自
然不合理であるとは
いえないし,他方,被告人の供述中,「Bから覚せい剤を渡してくれという連絡な
どなかったし,しかも同人とさほど親しくなかった。」とする点は,同人の携帯電
話から被告人の携帯電話への通話状況と合致しない等,被告人の供述には明らかに
不合理な点があるのであって,十分信用できるAの前掲各供述調書,Bの公判供述
及び前掲各供述調書と対比するとき,これに反する被告人の前記公判供述部分は信
用できず,前記各事実の認定に合理的な疑いを容れる余地はない。弁護人の前記主
張は理由がない。
第4 判示第4の事実について
 1 Cの前掲各供述調書及び証人Dの公判供述の内容は次のとおりである。
  (1) 平成13年6月11日午後10時30分ころ,Cは,その勤務先のゲーム
喫茶Mにおいて,被告人から電話で「もうすぐ産業廃棄物の事件でパクられるか
ら,シャブの商売もこれで最後になる。まとめて引いてくれれば量が多いから,1
0引いてくれ。」等と持ちかけられ,覚せい剤を購入する旨返事した。
  (2) 同月12日午前零時30分ころ,Cは,Dに対し,電話で「F(被告人の
別名。以下同じ。)から10引いてくれといわれている。いつものように5ずつ買
わへんか。Fはもうすぐ捕まって,1年くらい入るらしいわ。」と持ちかけたとこ
ろ,同人は「うん,立替えといて。」と述べ,覚せい剤を共同で買うことを承諾し
た。
  (3) 同日午後3時過ぎころ,Cは,勤務中,ゲーム喫茶Mにおいて,被告人か
ら電話で,「L駐車場に仕事が終わったら来るように。」と覚せい剤受渡しの時間
と場所の連絡を受けた。
  (4) 同日午後11時50分前ころ,Cは,判示第4記載の駐車場において,黒
っぽい軽四輪自動車の助手席から降りてきた被告人に代金10万円を支払って判示
第4の覚せい剤を受け取った。その際,Cは,被告人から「1年ほど入らなあか
ん。10万円だけど12万円分入っとる,サービスしたで。小分けしたら16万円
分くらいになるで。」等と言われた。
  (5) 同月13日午後8時ころ,Cは,D宅を訪ね,同所で前記覚せい剤のパケ
袋を2つに切り分けてほぼ等分し,それぞれ1つずつ取得し,後日,Dから代金5
万円の支払を受けた。
  (6) Dは,前記(5)の覚せい剤を3つのポリ袋に小分けした上,同年6月13
日から逮捕された同年7月20日までの間,前記(5)の覚せい剤を1回あたり約0.
05グラム宛て,合計約5回使用した。
  (7) Cは,同年6月13日から逮捕された同年8月21日までの間,前記(5)
の覚せい剤を1回あたり約0.1グラム宛て,3日に1度あぶって吸引する方法で
使用した。
 2 Cの前掲各供述調書は,犯行の日時について変遷はあるものの,日時を除く
具体的な事情の供述記載部分は一貫した内容の供述であって,C及びD方に対する
捜索や両名の逮捕に至る状況,被告人,C,D間の通話状況,C及びD両名からの
覚せい剤の押収状況,両名の覚せい剤分配等に関するDの供述などにも沿う具体的
かつ詳細なものであり,十分信用できる。
   弁護人は,Cの公判供述並びに前掲各供述調書間の供述内容の変遷や矛盾に
照らすと,Cの前掲各供述調書がCには何ら記憶がないのに検察官らの予断に基づ
く取調べに迎合して作成された虚偽内容の供述調書であることは明らかである,証
人Dの公判供述も捜査段階の各調書(弁11ないし14)の内容に比して著しく変
遷している上,C及びDのそれまでの覚せい剤の使用状況と逮捕当時の覚せい剤の
所持量に照らすと,両名が被告人以外の第三者から覚せい剤を購入していたのでは
ないかとする合理的な疑いが残るから,いずれも信用できない旨主張する。
   しかしながら,Cは,当公判廷で,被告人との関係のみならず覚せい剤の自
己使用状況についてでさえも曖昧な供述に終始しているのであって,Cの前掲各供
述調書に反する同人の公判供述部分は到底信用できないし,前記供述記載部分の主
として日時に関する供述の変遷は,殊更虚偽供述をしたものと窺わせるものでは全
くなく,Cの単なる記憶違いによるものと認められること,Dの公判供述は,同人
の前記調書(弁11ないし14)と対比する限り被告人からの覚せい剤の譲受状況
に関しその供述内容を変化させているが,関係各証拠に照らすと,当初の前記各調
書(同11ないし13)は共犯者であるCを庇うために虚偽供述に及んだものであ
ることは明らかであり,次の前記調書(同14)は,その後に作成された同人の検
察官調書(検58)
及び同人の公判供述をも併せ考慮すると,日時の点に関するDの記憶違いに過ぎな
いといえるから,いずれの変遷部分も合理的な説明が可能であり,Dの前記公判供
述は十分信用できる。さらに,関係証拠により認められるCの前記覚せい剤の使用
状況と逮捕当時のその所持量との間に矛盾はなく,弁護人は前記覚せい剤取得後の
Dの使用回数が少ないと主張するが,Dにおいて被告人から覚せい剤を入手するこ
とができなくなると考えたため使用回数を減らしたものと理解できるから,不自然
とはいえない。そして,そもそも,C及びDが覚せい剤の購入先を供述することは
両名にとって覚せい剤譲受罪に問われかねないことであるから,これを架空人等と
することも容易であり,同人らにおいて敢えて,この購入先が被告人であるとして
被告人を陥れる合理
的な理由は何らない。以上のとおりであって,弁護人の前記主張は理由がない。
 3 そうすると,C及びDが供述する前記1の事実は間違いない事実として認定
することができ,この事実及び前掲関係各証拠によれば,判示第4の事実はこれを
認めるに十分である。
   弁護人は,被告人は判示第4の日時には姫路市内のカラオケルームNでGら
と麻雀をしており,この間自宅にいた内妻Hに何度も電話していたのであって,ア
リバイがある旨主張するが,判示第4の日時にはGらと麻雀をしていた旨の被告人
の公判供述及びこれに沿う証人G及び同Hの各公判供述は,証人Gの供述によって
も同月11日から同月12日にかけて麻雀したが,何時まで被告人らと麻雀をした
のかは明確ではないというものであり,被告人のアリバイ事実を裏付けるものとは
到底認められず,また,Hの供述も同様であって,弁護人の主張は理由がない。
(累犯前科及び確定裁判)
 被告人は,(1)平成8年3月4日神戸地方裁判所姫路支部で覚せい剤取締法違反の
罪により懲役1年2月に処せられ,平成9年3月25日その刑の執行を受け終わ
り,(2)平成13年6月14日同裁判所同支部で廃棄物の処理及び清掃に関する法律
違反の罪により懲役1年及び罰金50万円に処せられ,その裁判は同年6月22日
確定したものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(証拠等関係カ
ード記載の検察官請求証拠番号105)によって認める。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は覚せい剤取締法41条の2第1項に,判示第2及び第
3の各所為はいずれも刑法60条,覚せい剤取締法41条の2第2項,1項に,判
示第4の所為は同法41条の2第2項,1項にそれぞれ該当するところ,判示第2
ないし第4の各罪につき,情状により各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
し,前記(1)の前科があるので刑法56条1項,57条により判示第1の罪の刑及び
判示第2ないし第4の各罪の懲役刑についてそれぞれ再犯の加重(判示第2ないし
第4の各罪の刑については同法14条の制限に従う。)をし,以上の各罪と前記(2)
の確定裁判があった罪とは同法45条後段により併合罪の関係にあるから,同法5
0条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし,な
お,判示各罪もまた
同法45条前段により併合罪の関係にあるから,懲役刑については同法47条本
文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第4の罪の刑に同法14条の制限内で
法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により判示第2ないし第4の各
罪所定の罰金の多額を合算し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役4年6月
及び罰金80万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中270日をその懲
役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5
000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,判示第4の犯行により被
告人が得た現金10万円は国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する
行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律11条
1項1号の薬物犯罪収
益に該当するが,既に費消して没収することができないので,同法13条1項前段
によりその価額を被告人から追徴し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項本文に
より全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,(1)覚せい剤を無償譲渡し(判示第1),(2)営利の目的で,
共犯者と共謀の上同人において覚せい剤を有償譲渡し(判示第2),あるいは覚せ
い剤を所持し(判示第3),さらに,単独で覚せい剤を有償譲渡した(判示第4)
という覚せい剤取締法違反4件の事案である。
 被告人が本件各犯行に及んだ動機は必ずしも明らかではないが,薬物の密売によ
り利益を得るため共犯者を誘い込むなどして本件各犯行に及んだものと窺われるの
であって,覚せい剤の害悪を社会内に現実に拡散し,または拡散しようとした著し
く反社会的な犯行であり,厳しい非難を免れない。殊に判示第2ないし第4の各犯
行は,常習的な覚せい剤密売の一環として,共犯者を手足として利用して,営利目
的で覚せい剤を有償譲渡し,さらに,覚せい剤約3.16グラムを所持していた共
犯者が現行犯逮捕されたにもかかわらず,その後自ら営利目的で約5グラムもの覚
せい剤を有償譲渡したものであって,本件各犯行がいずれも前記確定裁判に係る公
判手続中,保釈中に敢行された犯行であることをも併せ考慮すると,本件各犯行は
大胆かつ巧妙な犯行
であり,犯情極めて悪質である。
 以上の諸事情に加え,被告人は,当公判廷でも不自然不合理な弁解に終始し,反
省の態度を示していないことをも併せ考慮すると,再犯のおそれも高く,被告人の
刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
 そうすると,判示第3の覚せい剤が社会に拡散される前に押収されたこと,被告
人には養うべき内妻や幼子がいること,被告人には営利目的による薬物事犯の前科
はないこと,未決勾留が相当期間に及んだこと,被告人の健康状態等,被告人のた
めに酌むべき事情を最大限に考慮しても,主文掲記の刑は免れない。
 よって,主文のとおり判決する。
  平成15年4月21日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官  杉 森 研 二
   裁判官橋 本   一
   裁判官林   史 高

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