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平成15年(ワ)第3396号輸入差止請求権不存在確認請求事件
口頭弁論終結日 平成15年5月14日
              判       決
       原      告        株式会社ミスタータン
       訴訟代理人弁護士        土  門     宏
       被      告        株式会社ボディーグロ
ーヴ・ジャパン
       訴訟代理人弁護士        小  川  浩  賢
       同               豊  島     真
              主       文
  1 別紙商標目録1記載の各商標を付した半袖ティーシャツ及びポロシャツ
で,東京税関大井出張所により,関税定率法21条1項5号,同条4項に基づき,
別紙通知目録記載の認定手続開始通知のとおりの認定手続の対象となった商品を原
告が販売することについて,被告は,登録第1921224号商標権の専用使用権
に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
  2 本件訴えのうち,原告の輸入行為に係る部分を却下する。
  3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
別紙商標目録1記載の各商標を付した半袖ティーシャツ及びポロシャツで,
東京税関大井出張所により,関税定率法21条1項5号,同条4項に基づき,別紙
通知目録記載の認定手続開始通知のとおりの認定手続の対象となった商品を原告が
輸入及び販売することについて,被告は,登録第1921224号商標権の専用使
用権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
第2 事案の概要
   本件は,別紙商標目録1記載の各商標(以下「マレーシア商標」と総称す
る。)の付されたティーシャツ及びポロシャツを輸入した原告が,マレーシア商標
と同一又は類似の商標についての商標権の専用使用権者である被告に対して,上記
商品の輸入は真正商品の並行輸入であるから違法性が阻却されるとして,同商品の
輸入及び販売を差し止める権利を有しないことの確認を求めた事案である。
 1 前提となる事実
(1) 米国法人であるボディー・グラブ・インターナショナル・リミテッド・ラ
イアビリティ・カンパニー(以下「BGI」という。)は,以下の商標権(以下
「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有する(甲1,
2)。
  登録番号     1921224号
  出願年月日    昭和57年6月18日
  登録年月日    昭和61年12月24日
  商品の区分旧第17類
  指定商品     被服その他本類に属する商品
  登録商標     別紙商標目録2記載のとおり
(2) 被告は,平成10年12月11日,本件商標権について,地域を日本全
国,期間を平成18年12月24日まで,内容を指定商品全部として,専用使用権
の設定を受け,平成11年2月1日,その登録がされた(甲2)。
(3) マレーシアにおいて,本件商標と同一又は類似のマレーシア商標が,ティ
ーシャツ,ポロシャツを指定商品として商標登録されている。ところで,マレーシ
アの法人であるビージーマーケティング(以下「BGM」という。)は,BGIと
のライセンス契約により,ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付し
て,これをマレーシア国内で製造販売することの許諾を得ている。
(4) 原告は,平成14年4月ころ,マレーシア商標の付されたティーシャツ及
びポロシャツ2279枚を輸入しようとした。これに対して,東京税関大井出張所
長は,同年6月3日,上記各商品について,関税定率法21条4項に基づき禁制品
認定手続を開始した(上記の各商品を以下「本件商品」と総称する。)。しかし,
東京税関大井出張所長は,平成15年5月6日,本件商品は関税定率法21条1項
5号に掲げる貨物に該当しない旨の認定をした。(甲9,25,乙6)
本件商品の商品下げ札のホログラムシールには,“USAAPPROVED”との表
示がある(甲7)。
 2 争点
本件商品の輸入,販売は,適法な並行輸入として,実質的違法性を欠くとい
えるか。
 3 争点についての当事者の主張
(原告の主張)
本件商品の輸入は,いわゆる真正商品の並行輸入に該当し,実質的な違法性
を欠く。その理由は,以下のとおりである。
  (1) 我が国の登録商標と同一又は類似の標章を付した商品を輸入した場合に,
①当該標章が外国における商標権者又は商標権者から契約によって使用許諾を受け
た者等により適法に付されたものであり,②当該外国における商標権者と我が国の
商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るよう
な関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するも
のであって,③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行
い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品
とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合に
は,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠く
ものというべきである。
 上記の基準に照らすならば,原告の本件商品の輸入は実質的違法性を欠
く。
 すなわち,①BGMは,マレーシアにおける商標権者であるBGIから許
諾を得て,本件商品に本件商標と同一又は類似のマレーシア商標を付すことについ
ての正当な権原を有していた。②本件商品は,BGMによって製造,販売されたも
のである。チーフリソースイズ社は,BGMが製造したマレーシア商標の付された
Tシャツ及びポロシャツ合計2640枚のうち,1868枚についてはファンフッ
ションストアー社を介して,426枚についてはヒンディージーンズ社を介して,
346枚についてはBGMの直営小売店を介して,それぞれ購入し,そのうち22
79枚(本件商品)を原告に販売した。③被告は,本件商標権を有するBGIの資
本で設立され,BGIの日本の営業所たる実質を有する。被告は,本件商標権につ
いて,商標権者であるBGIから,日本国における専用使用権の設定を受けてい
る。本件商標権の商標権者であるBGIと本件商品の製造者であるBGMとは同一
人であるか,又は同一人と同視できる特殊な関係にあるといえる。そして,④BG
Mは,本件商品の製造,販売において,上記ライセンス契約の取決めに違反してい
ない。
 本件商品の輸入が適法とされるためには,ライセンス契約のすべての条項
が遵守される必要はなく,販売地域制限条項等のごく些細な条項の違反があっても
差し支えないと解すべきである。販売地域制限条項に違反しただけで違法性が阻却
されないと解すると,およそ並行輸入は許されなくなり,不当である。
(2)この点について,被告は,“USAAPPROVED”との表示のある商品下げ札が
付いた本件商品を輸入する原告の行為は,許諾契約に係る特約違反に当たり,実質
的に違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の理由に
より失当である。
   ア “USAAPPROVED”という表記は,「米国の承認」という意味であり,実
体に合致するものであるから,違法となることはない。また,“USAAPPROVED”と
の表記は本件商標の構成要素となっていない。
イ 商標の使用許諾契約において,“USAAPPROVED”又は“MALAYSIA
APPROVED”との表記を商品下げ札に表示して使用する旨の特約は,商標の本質と関
連する事項ではない。
   ウ 仮に,「X国APPROVED」という表記を付する特約に違反したことが,並行
輸入行為を違法ならしめると解した場合には,商標ではない「X国APPROVED」という
表示の下げ札を特定の国で商品に付することを特約させることによって並行輸入を
阻止できる結果となって,不当である。
エ BGIは,平成14年3月ころ,BGMがマレーシアで“USA
APPROVED”と表示された商品下げ札を付してティーシャツ,ポロシャツを販売して
いることを知りながら,何ら禁止措置を採らなかったのみか,警告書も発しなかっ
たのであるから,仮に,“USAAPPROVED”との表示を付した商品下げ札を使用する
ことを禁止していた事実があったとしても,その後これを許容したといえる。
(3) 被告は,原告がBGMに対して,BGIとのライセンス契約の違反行為を
させた旨主張する。しかし,原告がBGMにライセンス契約違反行為をさせたので
はなく,BGMが原告に対して,買い受けを申し込んできたのであるから,被告の
主張は前提を欠く。
 (被告の反論)
 本件商品の輸入は,以下の理由により,実質的な違法性を欠くとはいえな
い。
(1) 付加表示について
ア 本件商品の商品下げ札には,“USAAPPROVED”との表記が付されている
ところ,BGIは,BGMに対し,このような表記の使用を許諾していないから,
そもそも,本件商品はBGMによって製造されたものでないと推認される。
 仮に,本件商品がBGMによって製造されたものであったとしても,そ
の商品下げ札に“USAAPPROVED”との表記が付されている本件商品を輸入する行為
は,以下の理由から,適法とはいえない。
 BGIはBGMに対して,このような表記の使用を許諾していないか
ら,BGMは,BGIから許諾された範囲を超えた形態でマレーシア商標を使用し
ていることになり,したがって,本件商品の輸入は,実質的な違法性を欠くとはい
えない。被告製造に係る本件商標を付した商品(以下「被告商品」という。)に
は,“JapanApproved”との表記及び商標の入ったホログラムシールが付けられて
おり,需要者は,これによって,当該製品がいわゆる真正商品であることを知るこ
とができる。したがって,マレーシアから“USAAPPROVED”との表記入りの商標を
付した商品が輸入されると,被告商品との間で出所の混同を来す結果になる。
イ原告は,以下のとおり主張するが,いずれも失当である。
 まず,原告は,“USAAPPROVED”という表記は,本件商標の要素とはな
っていない旨主張する。しかし,同表記は,マレーシア商標を構成する円の部分の
内部において,掌のマーク及び“BODYGLOVE”という商標の構成と同等の大きさ,
顕著度をもって,マレーシア商標と一体となって,一つの標章を形成しているので
あるから,原告の上記主張は失当である。
次に,原告は,“USAAPPROVED”とは,「米国の承認」という意味であ
るから,実体に合致しており問題はない旨主張する。しかし,このような主張を前
提とすると,ライセンシーはライセンス契約の範囲を超えて,自由に商標を改変す
ることが可能となるので,失当である。
さらに,原告は,BGIは,BGMが商品に“USAAPPROVED”の表示を
した商品下げ札を付していることを知りながら,何ら禁止措置を採らなかった旨主
張する。しかし,BGIは上記事実を知らなかったのであり,原告の主張は,誤っ
た事実に基づく主張であり,失当である。
(2) 販売地域について
 BGMが本件商品を原告に販売することは,BGIとの間のライセンス契
約における販売地域の取決めに違反することになるから,本件商品の輸入は,いわ
ゆる真正商品としての並行輸入とはならない。すなわち,BGMは,BGIから,
マレーシア商標を付したシャツ類をマレーシア国内で販売することのみを許諾され
ており,日本で販売することの許諾を受けていないところ,本件商品は原告からの
発注に基づき,原告が日本で販売するために製造されたものであり(原告はBGM
から,カタログ,製造工程表を交付されており,このことは上記事実の証左であ
る。),BGMがマレーシア国内用に製造販売したものを原告が輸入したものでは
ないから,上記ライセンス契約の販売地域に関する条項に違反しており,本件商品
の輸入は適法な並行輸入とはならない。
これに対し,原告は,ライセンス契約の販売地域条項違反により製品が不
真正商品になるとすれば,並行輸入は一切認められなくなる旨主張する。しかし,
並行輸入とは,一般的には,海外のライセンシーが海外で販売した商品を現地で購
入して日本に輸入することを意味するのであり,このような一般的な並行輸入であ
れば,当該ライセンシーには販売地域条項違反はないから,適法な並行輸入となる
余地がある。したがって,原告の上記主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
 原告は,本件商標と類似するマレーシア商標が付された本件商標権の指定商
品に含まれるティーシャツ及びポロシャツ(本件商品)を,本件商標の我が国にお
ける商標権者及び専用使用権者の許諾を得ずに輸入している。そこで,本件商品の
輸入及び販売(以下両行為を併せて「輸入」という場合がある。)が適法であるか
否かについて検討する。
 1 事実認定
前記前提となる事実,証拠(甲1,2,4ないし7,9,11ないし15,
19,21ないし28,乙6)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら
れ,これに反する証拠はない。
(1) 被告は,平成10年12月11日,本件商標権について,商標権者である
BGIから,地域を日本全国,期間を平成18年12月24日まで,内容を指定商
品全部として,専用使用権の設定を受け,平成11年2月1日,その旨の登録を受
けた。他方,BGMは,本件商標の商標権者であるBGIとの間でライセンス契約
を締結し,ティーシャツ及びポロシャツにマレーシア商標を付して,これをマレー
シア国内で製造販売することの許諾を得た。本件商品は,BGMがマレーシアにお
いて製造,販売したものである。
(2) 原告は,平成14年4月ころ,マレーシアの法人であるチーフリソースイ
ズ社から本件商品を輸入しようとしたが,東京税関大井出張所長は,同年6月3
日,本件商品について,関税定率法21条4項に基づき禁制品認定手続を開始し
た。しかし,同所長は,平成15年5月6日,本件商品は本件商標権を侵害しない
ことを理由として,本件商品は関税定率法21条1項5号に掲げる貨物に該当しな
い旨の認定をし,これにより,原告は,本件商品を輸入することができた。
(3)本件商品のうち,ティーシャツには織ネーム,裾,胸の部分に,ポロシャ
ツには織ネーム,左胸,背中肩の部分に,それぞれマレーシア商標が付されてい
る。
 また,本件商品には,商品下げ札2枚が付されており,そのうちの1枚の
表側には,青色のモノトーンの波の写真,マレーシア商標,“California
Lifestyle”及び“since1953USA.”の各文字,直径約14ミリメートルの円形のホ
ログラムシール等が印刷され,同ホログラムシールには,直径約9ミリメートルの
円,左掌の図形,“BODYGLOVE”及び“USAAPPROVED”の各文字が,光の角度によっ
て浮き出て見えるように印刷されている。
 2 判断
(1) 上記認定した事実を基礎として,原告が本件商品を輸入することが,いわ
ゆる真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くといえるかについて検討する。
 商標法は,商標登録制度を設け,商標権者に登録商標を,指定商品又は指
定役務(以下「指定商品等」という場合がある。)に独占的に使用する権能を付与
している。このように,登録商標権者のみに対して,登録商標の使用を許す法制度
が設けられたことにより,商標権者は,第三者が当該登録商標と同一又は類似の商
標を使用することによって生ずる商品ないし役務の出所の混同を阻止できるという
本来的な目的を達成することができる。需要者の立場からは,商品ないし役務に使
用された登録商標を見ることによって,その出所を識別することができることにな
る。すすんで,商標権者は,登録商標権に付与された独占的な使用権能,すなわ
ち,第三者が当該登録商標と同一又は類似の商標を,指定商品等に使用することを
阻止し,また,自己のライセンシーが当該登録商標を使用して製造する商品や提供
する役務の質を管理することのできる権能を有効に活用することを通して,自己の
出所に係る商品ないし役務の品質の維持や,そのような品質管理を実施した結果と
して商標権者自身の信用の維持を,事実上図ることができる。需要者の立場から
は,商標権者がそのような管理をする限りにおいて,当該商品ないし役務に使用さ
れた登録商標を見ることによって,商標権者の出所に係る商品ないし役務の品質を
識別することができることになる。
 ところで,商標権者以外の第三者が,我が国における商標権に係る商品と
同一の商品について,その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する
行為は,形式的には,商標権を侵害することになる。
 しかし,そのような商品の輸入行為であっても,当該商標が外国における
商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者によって付されたものであり,
当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同
視し得るような関係がある場合には,そもそも当該商標は我が国の登録商標と同一
の出所を表示するものと評価されるのであるから,およそ出所の誤認混同を避ける
必要性がないという意味で,商標権侵害としての実質的な違法性を欠くといえる。
なぜなら,当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一視できる場合で
あると解される以上,当該商品の出所が,そのいずれであるかは,商標法の趣旨に
照らして,特段の事情のない限り,保護に値する利益とはいえないからである。
 ただし,上記のような場合であっても,我が国の商標権者が,前記の商標
権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質ないし信用の維持を図
ってきたという実績があるにもかかわらず,外国における商標権者の出所に係る商
品が輸入されることによって,そのような品質ないし信用を害する結果が現に生じ
たといえる特段の事情があるときは,例外的に,当該商品が外国の商標権者を出所
とするものであるか,我が国の商標権者を出所とするものであるかを識別すべき利
益が生じ,この利益は保護に値するといって差し支えない。
 以上総合すると,登録商標と同一又は類似の商標を付した商品を輸入する
行為は,当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた
者によって付されたものであり,当該外国における商標権者と我が国の商標権者と
が同一視できるような関係があれば,原則として,商標権侵害としての実質的な違
法性を欠くといえるが,上記のような場合であったとしても,我が国の商標権者
が,自己の出所に係る商品の品質ないし信用の維持を図ってきたという実績があ
り,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのよう
な品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情があるとき
は,商標権侵害を構成するというべきである。
(2)本件において,この点を考察する。
本件商品はBGMによりマレーシアにおいて製造されたものである。そし
て,前記のとおり,本件商品を製造したBGMは,本件商標の商標権者であるBG
Iとの間でライセンス契約を締結し,同契約によりティーシャツ及びポロシャツに
マレーシア商標を使用することの許諾を得たこと,マレーシア商標は本件商標と同
一ないし類似していることから,マレーシア商標の商標権者と本件商標の商標権者
とは同一人であるか,実質的に同一人と同視できるものと推測される。
 したがって,マレーシア商標が付された本件商品を輸入する原告の行為
は,いわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠く。また,本件全証拠
によるも,後記(3)及び(4)のとおり,マレーシア商標が付された本件商品が輸入さ
れることによって,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果
が現に生じたと認めることはできない。
(3) 被告は,本件商品には,“USAAPPROVED”との表示がされた商品下げ札が
付されているが,BGIはBGMに対して,このような表記がされることを許諾し
たことはないから,BGMは,BGIから許諾された範囲を超えた態様でマレーシ
ア商標を使用していることになり,本件商品の輸入は,実質的な違法性を欠くとは
いえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下の理由により失当である。
 まず,商標の出所表示の観点から考察する。本件全証拠によっても,BG
IとBGMとの間で締結されたマレーシア商標の使用許諾に関するライセンス契約
において,BGMが,その製造する商品に,“USAAPPROVED”との表示を付加する
ことを禁止する旨の合意があったと認めることはできないので,被告の主張は,そ
もそもその前提を欠く。そして,仮に,被告の主張するような付加的な表示を禁止
する旨の合意があったとしても,商標とは別に,アメリカ合衆国承認という趣旨
の“USAAPPROVED”という付加的な表示をすることを禁止する旨の合意は,商品の
出所を識別するために何らかの意味を有する合意であるとは解しがたいことに照ら
すならば,たとえ,被告商品については“JapanApproved”との表示が付されれて
いたという事情が存在することを前提にしたとしても,“USAAPPROVED”との表示
を付加した本件商品の輸入は,本件商標の出所表示機能を害することにはならない
から,商標権侵害としての実質的な違法性を欠くのであって,その余の点を判断す
ることなく,被告の主張は理由がないことになる。
 なお,商標の品質ないし信用維持の観点からも,念のため考察する。仮
に,BGIとBGMとの間において,被告の主張するような付加的な表示を禁止す
る旨の合意があったとしても,そのような合意は,商品に対する品質を管理するた
めに何らかの意味のある合意と解することはできない。たとえ,仮に,被告商品に
限り,“JapanApproved”との表示が付されることにより,需要者が同表示によっ
て,何らかの流通経路に関する区別をすることがあったという事実が存在すること
を前提としても,なお,BGMが,そのような合意に違反して,“USAAPPROVED”
との表示を付加した本件商品を販売し,原告がこれを購入して,我が国に輸入する
行為が,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用維持を害する結果を生じせしめ
る行為と評価することはできない。
(4) 被告は,①BGIとBGMとの間のライセンス契約においては販売地域の
取決めがあること,②本件商品は,原告の発注に基づき,原告が日本で販売するた
めに製造されたものであり,原告は本件商品をBGMから直接購入したことを前提
として,上記の販売地域制限条項に違反するから,本件商品を輸入する原告の行為
は,実質的な違法性を欠くとはいえない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下
の理由により失当である。
 まず,本件全証拠によるも,①BGMとBGIとの前記ライセンス契約に
おいて,BGMの商品の販売地域がマレーシアに制限されていたと認めることはで
きないのみならず,また,②前記のとおり,原告は,本件商品をマレーシアの法人
であるチーフリソースイズ社から購入したのであり,BGMから直接購入したので
はないのであるから,原告の主張はその前提をいずれも欠く。
 そして,仮に,BGMとBGIとの前記ライセンス契約において,BGM
の商品の販売地域がマレーシアに制限される旨の合意があったとしてみても,ライ
センス契約における販売地域の制限に係る取決めは,通常,商標権者の販売政策上
の理由でされたにすぎず,商品に対する品質を管理して品質を保持する目的と何ら
かの関係があるとは解されない。上記取決めに違反して商品が販売されたとして
も,市場に拡布された商品の品質に何らかの差異が生じることはないから,本件商
品の輸入によって,BGIの出所に係る商品の品質ないし信用の維持を害する結果
が生じたということはできない。
いずれの理由によっても,原告が本件商品を輸入することが実質的に違法
であるとはいえない。
なお,被告は,原告はBGMにBGIとのライセンス契約における販売地
域条項に違反する行為をさせ,正当に認められている総代理店システムを害してい
るから,本件商品の輸入の違法性が阻却されることはないとも主張する。しかし,
そもそも総代理店システムを採用することにより,商標権者が国際的な価格政策を
維持できる利益は,商標法上保護に値する利益であると解することはできない。こ
の点の被告の主張は失当である。
3 結論
(1) 以上のとおり,マレーシア商標の商標権者と本件商標権者であるBGIと
は同一人ないし実質的に同一人と同視できるものと認められるから,マレーシア商
標と本件商標とは同一の出所を表示するものであり,また,マレーシア商標は,B
GIから同商標の使用許諾を受けたBGMにより付されたものであり,さらに,B
GMの製造に係る本件商品を原告が輸入することによって,BGIの出所に係る商
品の品質ないし信用の維持を害する結果が現に生じたといえる特段の事情は存在し
ないから,本件商品の輸入はいわゆる真正商品の並行輸入として実質的な違法性を
欠くというべきである。
(2)被告は,東京税関大井出張所長により,本件商品は,被告の商標権を侵害
するものではないとの認定を受け,輸入が許されたのであるから,本件訴えは訴え
の利益がない旨主張するので,この点について検討する。
  確かに,東京税関大井出張所長により,本件商品は,被告の商標権を侵害
するものではないとの認定を受け,輸入が許されたのであるから,本件訴えのう
ち,原告が本件商品を輸入することについて,被告が差止請求権を有しないことの
確認を求める部分については訴えの利益がないから,これを却下するのが相当であ
る。
  しかし,関税定率法21条4項に基づく禁制品認定手続における,本件商
品が本件商標権を侵害しない旨の東京税関大井出張所長の認定は,被告の本件商標
権侵害に基づく本件商品の販売の差止め及び損害賠償請求権の有無には何ら影響し
ないから,本件訴えのうち,原告が本件商品を販売することについて,被告が差止
請求権を有しないことの確認を求める部分については,訴えの利益がないというこ
とはできない。
(3) よって,主文のとおり判決する(訴訟費用については,すべて被告に負担
させることにする。)。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官    飯  村  敏  明
裁判官榎  戸  道  也
裁判官佐  野     信 
別紙通知目録
 認定手続開始通知日    平成14年6月3日
 開始通知書番号      開始通知第14-3号
 輸入申告者        株式会社ミスタータン
 申告番号         20020523
 申告年月日        平成14年5月23日
 疑義貨物 品名      ティーシャツ,ポロシャツ
      数量      2279枚
 権利の内容        商標権(登録番号第1921224号)
 輸入差止申立者      株式会社ボディーグローヴ・ジャパン
商標目録1商標目録2

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