弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由は別紙のとおりである。
 一、 上告理由第一点について
 所論は本件農地の所有権移転については農地法第三条第二項の県知事の許可がな
されることの許されない場合にあたるから県知事のなした本件許可は当然無効とい
うべきであるのに、「原判示のごとき特段の事由が存するときは右のごとき違法な
許可もこれを当然無効ならしめる重大かつ明白な瑕疵とはいえない」旨の原判決の
判断は法令の解釈を誤つた違法があり、ひいては理由そごの違法があるというので
ある。そこでまず農地法第三条第二項に違背してなされた県知事の許可の効力につ
いて考察する。
 <要旨>おもうに農地法第三条第二項によると、同項所定の場合県知事は小作地の
所有権移転等について許可することができない旨定められているが、その趣
旨はこれによつて農地の移動などに関する許可基準を明確にし許可制度の適正を期
そうとするものであるから、その強行法規たる性格を帯びていることは否定し得な
い。しかしながら、右法条ことに同条第二項第五号の違背のうちには、その瑕疵の
違法性きわめて高度のものから瑕疵の違法性のはなはだ薄いものにいたるまで、幾
多の態様が考えられるのであるから、これを一律に当然無効とする見解には疑なき
を得ないのである。また右条項は前記のごとく許可要件を積極的に掲記する方法を
避けて所定の場合許可することができないというような規定形式をとつているけれ
ども、それも単なる立法技術上の便宜からなされたことで、これに違背した許可の
効力を一般行政処分とことさら別異に取扱う趣旨にいでたものとはおもわれない。
けだし農地法自体のなかにも効力規定についてはこれを明規した条文が存するにか
かわらず(同法第三条第四項)この場合にはそのような規定が設けられていないか
らである。
 してみると、右の第三条第二項第五号に違背する県知事の許可も一般行政処分の
瑕疵と同様、その瑕疵が重大かつ明白なときに限り無効とし、瑕疵がその程度に達
しないときは取消事由となるにしても当然無効にはならないものと解するのが至当
である。
 したがつて原判決が豪雪という異常事態の発生のため被上告人Aがやむなくその
農地の一部を耕作の事業の不可能となつた期間に限り一時的に他人に耕作させたと
いう特段の事情を認定し、本件農地についての県知事の許可に違法の点が存するこ
とを認めつつ、しかも、右のごとき特段の事情からみてその違法は重大かつ明白な
瑕疵とは到底いえない旨説示したのは相当であつてこれを是認することができる。
 よつてこれと結局同趣旨にいでた原判決には所論指摘の法令解釈の誤はなく、ま
たもとより理由そごの違法も存しないから論旨は理由がない。
 二、 同第二点について
 所論は原判決認定のごとき特段の事情は存しなかつたのであるから、原判決には
理由不備ないし審理不尽の違法があるというのである。
 しかしながら、原判決挙示の各証拠を綜合すれば、原判決の認定事実はすべて肯
認でき、上告代理人指摘の各事実をもつてするも原認定を左右し得ないから、原判
決の認定に理由不備の違法は存しない。
 なお証拠の取捨選択は原審の専権に属することであつて原審が上告代理人申請の
証人を取調べなかつたことを目して審理不尽と称し得ないこというまでもない。論
旨は理由がない。
 三、 以上の次第ゆえ、本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条、第
三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 成田薫 裁判官 布谷憲治 裁判官 黒木美朝)

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