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主文
  1 本件訴えをいずれも却下する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が,原告に対して,平成14年8月30日付けでした,原告の平成13年分の所得税の更正処分のうち,課
税所得金額1億4369万0000円,納付すべき税額4584万0000円を超える部分,及び,過少申告加算税の
賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告が平成14年8月30日付けでした原告の平成13年分の所得税の更正処分は,ストック
オプションの行使により取得した利益を給与所得に該当することを根拠とするものであるが,給与所得として課税でき
る法律上の根拠がなく,租税法律主義に反し,違法なものである旨主張して,この更正処分のうち,前記利益が一時所
得に該当するとして計算した課税所得金額及び納付すべき税額を超える部分の取消しを求めるとともに,被告が同日付
けでした過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めている事案である。
1 前提事実
(1) 平成13年分の所得税の申告
原告は,後記(2)の更正処分より前に,勤務していたシスコシステムズ株式会社の親会社である米国法人シスコ
システムズ・インクから付与されたストックオプション(株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することが
できる権利)の行使により取得した利益(権利行使時における株式の価格と権利行使価格との差額。以下「権利行使
益」という。)を一時所得に該当するとして,平成13年分の所得税につき,別表の「更正前の額」欄記載の内容の確
定申告書を被告に提出した(甲1,弁論の全趣旨)。
(2) 更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
被告は,平成14年8月30日付けで,原告に対し,原告の平成13年分の所得税につき,別表の「更正後の
額」欄記載のとおり,所得税額等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(
以下,この賦課決定処分と本件更正処分とを併せて「本件各処分」という。)をした(甲1)。
(3) 訴えの提起
原告は,平成14年12月2日,本件各処分について不服申立手続を経ずに当庁に本件訴えを提起した(弁論
の全趣旨,本件訴訟記録上明らかな事実)。
(4) 平成11年分及び平成12年分の原告の所得税に係る各課税処分の経緯等(いずれも弁論の全趣旨)
ア 平成11年分について
(ア) 原告は,平成13年1月30日,被告に対して,原告の平成11年分の所得税について,権利行使益が
給与所得ではなく一時所得に該当することを理由として,更正の請求をした。
(イ) 被告は,平成13年6月18日付けで,原告に対して,前記(ア)の更正の請求について,更正をすべき
理由がない旨の通知処分(以下「平成11年分通知処分」という。)をし,平成13年6月20日付けで増額更正処分
(以下「平成11年分更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「平成11年分賦課決定処分」
といい,平成11年分通知処分及び平成11年分更正処分と併せて「平成11年分各処分」という。)をした。
(ウ) 原告は,平成13年8月13日,被告に対して,平成11年分通知処分を不服として,異議申立てを
し,被告は,平成11年分更正処分及び平成11年分賦課決定処分についても併せて審理することとし,平成13年1
1月6日付けで,原告に対して,前記異議申立てについて,平成11年分賦課決定処分について一部取り消す旨の決定
をした。
(エ) 原告は,平成13年11月28日,国税不服審判所長に対し,前記(ウ)の異議申立てについての決定を
不服として,審査請求をし,国税不服審判所長は,平成14年7月19日付けで,同審査請求を棄却する旨の裁決をし
た。
イ 平成12年分について
(ア) 原告は,平成13年4月2日,被告に対して,原告の平成12年分の所得税について,権利行使益を一
時所得として修正申告した。
(イ) 被告は,平成13年6月20日付けで,原告の平成12年分の所得税について,更正処分(以下「平成
12年分更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,この賦課決定処分と平成12年分更正処分
とを併せて「平成12年分各処分」という。)をした。
(ウ) 原告は,平成13年8月13日,国税不服審判所長に対し,平成12年分各処分を不服として,審査請
求をし,国税不服審判所長は,平成14年7月19日付けで,同審査請求を棄却する旨の裁決をした。
2 争点
国税通則法(以下「通則法」という。)115条1項3号にいう「正当な理由」の存否
3 争点に関する当事者の主張
(原告)
通則法115条1項3号は,「正当な理由」があるときに,不服申立手続を経ずに処分の取消しを求める訴えを
提起することを認めており,「正当な理由」があるというためには,司法審査に先立ち,不服申立て手続を経由させる
ことにつき合理的な理由がない場合,すなわち,① 各処分が実質的に同一である場合とか,あるいは,② 一つの処
分について不服申立てをした以上他の処分について不服申立てをしても,もはや行政庁等の対応が変わる余地がなく,
紛争の自主的解決を期待し得ないような場合であることが必要であり,②を具体的にいえば,各処分が処分の理由を共
通にし,不服申立てにおいて攻撃する点ももっぱら共通の処分理由に対するものであり,かつ,それに対する行政庁等
の基本的な判断が一つの処分に対する不服申立手続において既に示されていて変更の余地がないような場合であること
が必要であるとされる(大阪高裁平成元年(行コ)第13号同2年12月19日判決・訟務月報37巻8号1482
頁。以下「大阪高裁平成2年判決」という。)。
平成11年分各処分及び平成12年分各処分についての不服申立手続における被告の主張は,いずれも権利行使
益が給与所得に該当するというものであり,国税不服審判所長も被告の主張を採用して,原告の審査請求を棄却し,本
件についても,更正通知の別表中,給与所得の金額が増額され,一方,一時所得の金額が零円に減額されていることか
ら,平成11年分各処分及び平成12年分各処分と本件各処分とは,処分の理由が全く同一であると解される。そし
て,その処分理由に対する被告及び国税不服審判所長の基本的な判断は,平成11年分各処分及び平成12年分各処分
についての不服申立手続において既に示されている。
そうすると,平成11年分各処分及び平成12年分各処分と本件各処分とは,処分の理由を共通にし,不服申立
てにおいて攻撃する点ももっぱら共通の処分理由に対するものであり,かつ,それに対する行政庁等の基本的な判断が
一つの処分に対する不服申立手続において既に示されていて変更の余地がないような場合に該当し,大阪高裁平成2年
判決の基準に照らしても,通則法115条1項3号にいう「正当な理由」があるといえる。
(被告)
通則法115条1項は,国税に関する法律に基づく処分については原則として不服申立手続を経ることを訴訟要
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件として定めているのであるから,不服申立手続を経ずして出訴が許されるのは,実質的に不服申立手続を経ていると
認められる場合又は不服申立手続を経ないことについて納税者の責めに帰すことができない客観的な事由がある場合で
あると解される。
同項3号後段にいう「正当な理由」とは,不服申立てについての決定又は裁決を待っていたのでは,不服申立人
に著しい損害の発生が客観的に予見される等,裁決を経ることができないことについてやむを得ない事情が存する場合
をいうものと解されているところ,本件において,不服申立手続を経ることができないことについてやむを得ない事情
が存するとは認められず,本件訴えについて,通則法115条1項3号にいう「正当な理由」があるということはでき
ない。
原告は,平成11年分通知処分及び平成12年分更正処分については適法に不服申立手続を経ているが,当該両
処分と本件更正処分とは処分理由が同一であると認められること,並びに,当該処分理由に関する課税庁及び国税不服
審判所長の判断には変更の余地はないと認められることからすれば,本件においては,通則法115条1項3号にいう
「正当な理由」があると主張するが,内容が関連する複数の処分であっても,それらが別個の事実を基礎とする別個の
処分である場合において,一方の処分の取消しを訴求するためには,その前提として当該処分に対する不服申立手続を
経る必要があることは当然である。
また,複数の処分の基礎となった事実関係が共通であるとしても,一方の処分が他方の処分に付随する処分であ
ると解することができない場合には,当該両処分に対する納税者の不服の事由が同一であって一方の処分について適法
に不服申立手続が採られているからといって,他方の処分に対する不服申立ての前置を不要と解することはできず,ま
た,同処分に対する不服申立手続を経ないことについて通則法115条1項3号にいう「正当な理由」があると解する
こともできない(最高裁昭和58年(行ツ)第85号同59年6月28日第一小法廷判決・民集38巻8号1029頁
及び最高裁昭和54年(行ツ)第87号同57年12月21日第三小法廷判決・民集36巻12号2409頁)。
以上のとおり,たまたま争点を共通にする平成11年分通知処分及び平成12年分更正処分について不服申立手
続を経たからといって,これらとは別個の事実を基礎とする全く別個の独立した処分である本件更正処分について,実
質的に不服申立手続を経ているとは認められないのであるから,本件訴えが不服申立手続を経ないことにつき「正当な
理由」がある旨の原告の主張は失当である。
第3 争点に対する判断
1 通則法115条1項本文によれば,国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消
しを求める訴えは,異議申立てをすることができる処分(審査請求をすることができるもの(異議申立てについての決
定を経た後審査請求をすることができるものを含む。)を除く。)にあっては異議申立てについての決定を,審査請求
をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ,提起することができないと
されているところ,本件各処分は審査請求をすることができる処分であるが,原告は前記第2の1(3)のとおり,本件各
処分について不服申立手続を経ていない。
そして,同項ただし書きによれば,同項各号の一つに該当するときは,前記決定又は裁決を経る必要がないとさ
れているところ,本件は同項1号,2号に該当しないことは明らかである。そこで,本件においては,本件各処分につ
いて不服申立手続(審査請求についての裁決)を経ないことにつき「正当な理由」があるときに当たるかどうかが問題
となる。
2 本件各処分は,原告の平成13年分の所得税に関する処分であるところ,平成11年分各処分と平成12年分各
処分は,それぞれ原告の平成11年分,平成12年分の所得税に関する処分であり,それぞれ異なる年の所得という別
個の事実を基礎とするものであり,原告が本件訴訟において一時所得に当たると主張する権利行使益と平成11年分各
処分及び平成12年分各処分の不服申立手続の争点に関して一時所得に当たると主張する権利行使益とは,それぞれ異
なる年における別個の権利行使益である。そして,本件各処分は,平成11年分各処分と平成12年分各処分を前提と
してなされた処分でもない。
そうすると,本件各処分と平成11年分各処分と平成12年分各処分とは,別個の処分であって,平成11年分
各処分と平成12年分各処分に対する不服申立手続を経たからといって,本件各処分に対する不服申立手続を経たのと
実質的に同視しうるものとして本件各処分に対する不服申立ての前置を不要と解することはできず,本件各処分につい
て不服申立手続を経ないことにつき「正当な理由」があるとはいえない。
3 この点,原告は,大阪高裁平成2年判決の基準に照らして,本件についても通則法115条1項3号にいう「正
当な理由」がある旨主張する。しかし,大阪高裁平成2年判決の前提となった事実は,欠損金の繰越控除を否認した更
正処分を前提としてなされたその後の事業年度の更正処分に対して不服申立手続を経ずに訴えを提起したというもので
あって,同判決は,ある年度の繰越欠損金の額が決定されれば,その認定額が,法に規定する範囲内で連続する次年度
以降に繰り越されてその年度の繰越欠損金に機械的に加算され,ある年度の繰越欠損金の認定処分を変更すれば,法の
定める範囲内で,次年度以降の繰越欠損金の確定額の変更を余儀なくされる関係に立つというように各処分の関連性が
極めて強いものに関して判断したもので,争点の基礎となる事実も,基準となる当該ある年度の繰越欠損金の額という
同一のものであるのに対して,本件は,前述のとおり,本件各処分と平成11年分各処分及び平成12年分各処分とが
別個の事実を基礎とする別個の処分であり,争点の基礎となる事実も,異なる年の権利行使益という別個の事実であ
り,また,本件各処分は,平成11年分各処分と平成12年分各処分を前提としてなされた処分でもないというよう
に,大阪高裁平成2年判決と本件とでは,その前提を異にするものであって,大阪高裁平成2年判決の基準を本件に用
いるのは相当ではないから,原告の主張は理由がない。
第4 結論
 以上によれば,本件訴えはいずれも不適法であるから却下することとして,主文のとおり判決する。
    千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官    山 口   博
裁判官    佐々木 清 一
裁判官武田美和子は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官    山 口   博
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