弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
2前項の部分につき,被上告人らの請求をいずれも棄
却する。
3訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人辻井治,上告復代理人管納啓文の上告受理申立て理由について
1本件は,上告人の施行する土地区画整理事業の施行地区内に存する11階建
てマンション(以下「本件マンション」という。)の区分所有者でありその共用部
分及び敷地(以下「本件土地」という。)を他の区分所有者とともに共有する被上
告人らが,上告人から,土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前の
もの。以下「法」という。)98条1項に基づき,本件土地につき仮換地の指定
(以下「本件仮換地指定」という。)を受けた上,法77条2項に基づき,本件マ
ンションの共用部分である受水槽等の移転をする旨の通知(以下「本件移転通知」
という。)を受け,その移転工事(以下「本件工事」という。)が完了したことか
ら,違法な本件仮換地指定並びに本件移転通知及びこれに基づく本件工事により損
害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき上告人に対し損害賠償を請求する
事案である。なお,被上告人らは,上告人に対し,本件移転通知の取消しを求めて
訴えを提起したが,第1審で請求棄却の判決を受け,控訴したところ,その後本件
工事が完了したため,原審において行政事件訴訟法21条に基づき損害賠償請求へ
の訴えの変更をしたものである。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成4年1月17日に都市計画決定がされ同年9月14日に事
業計画が定められた福岡都市計画事業筥崎土地区画整理事業(以下「本件事業」と
いう。)の施行者である。本件事業は,本件土地の所在する福岡市A区Bの一部を
含む27.8haを施行地区とし,都市計画事業として施行される土地区画整理事
業であり,公共施設の未整備,土地の細分化や家屋の密集などによる市街地環境の
低下,道路と鉄道が平面交差することにより発生する交通事故や慢性的な交通渋滞
等の問題を解消するため,本件事業の都市計画決定と同時に都市計画決定がされた
鉄道の高架化を内容とする福岡都市計画都市高速鉄道事業九州旅客鉄道株式会社鹿
児島本線及び篠栗線(以下「本件関連事業」という。)と併せて行われ,幹線道
路,区画道路,箱崎駅前広場,公園等の公共施設の整備改善と宅地の利用の増進を
図ることを目的とするものである。
(2)上告人は,本件事業について換地の設計を行い,土地区画整理審議会の意
見を聴いた上,平成8年11月に施行地区内全ての仮換地を決定し,平成9年3月
から順次仮換地の指定をした。本件土地については,本件マンションの管理組合の
役員や区分所有者に対する個別説明等を実施した上,平成17年8月29日,被上
告人らを含む区分所有者に対し通知することにより,効力発生の日を同年9月1日
として本件仮換地指定をした(以下,本件仮換地指定がされる前の本件土地を「本
件従前地」,本件仮換地指定において本件土地の仮換地として指定された土地を
「本件仮換地」という。)。本件仮換地指定は,本件従前地とほぼ同じ位置に本件
仮換地を指定するいわゆる現地仮換地の方法によるものであって,本件マンション
の移転や除却が必要となるものではないが,本件従前地と本件仮換地には次のよう
な相違がある。
ア本件従前地は,正方形に近い形状で,換地計画を定める基準として算出され
た地積が1480.03㎡であり,北側の1辺が幅員約8mの道路(以下「北側道
路」という。)に,南側の1辺が幅員約5mの道路(以下「南側道路」という。)
にそれぞれ接していた。南側道路は,本件従前地の東隣に南北方向に広がる鉄道敷
地に突き当たり行き止まりとなっていたが,本件従前地の西方で南北方向に走る県
道とつながっていた。本件マンションの電線は,南側道路の電柱から引き込まれて
おり,本件マンションの下水の一部は,南側道路の下に埋設された排水管に排出さ
れていた。
イ本件仮換地は,その南東部において正方形の一角が東に向かって張り出した
形状で(以下,この張り出した部分を「本件張り出し部分」という。),実測によ
り測定された地積が1556㎡であり,本件従前地と比べて約5%増えている。本
件事業の事業計画に従い,南側道路が廃止された一方,本件仮換地の東側に鉄道敷
地に沿って南北方向に走る道路(以下「東側道路」という。)が新たに設けられて
おり,本件仮換地は,北側道路に接しているほか,本件張り出し部分において東側
道路に接している。なお,本件事業により北側道路の幅員は17mとなったこと,
また,東側道路の幅員は6mであることがうかがわれる。本件マンションの電線
は,地下埋設方式となり,南側に排出されていた下水は,東側に排出されることに
なった。
ウ本件事業により上記のとおり本件仮換地と鉄道敷地の間に東側道路が設けら
れたことに加え,本件関連事業により鉄道の高架化が実現したことから,本件マン
ションから線路までの距離は,本件事業開始前は14.9mであったが,現在は1
6.9mである。鉄道高架敷が本件マンションの3階付近の高さにあり,一部の階
では鉄道の騒音が増加したものの,その増加後の騒音は従前の他の階の騒音と同程
度のものであることがうかがわれ,また,3階以上では線路までの距離が本件事業
開始前より近くなっているものの,カーテンや目隠しにより十分にプライバシー保
護を図ることができる程度のものにとどまることがうかがわれる。
(3)本件仮換地が上記のような形状及び地積となったのは,次の経緯によるも
のであった。
上告人は,本件従前地につき,当初,その属する街区における関係権利者の公平
を考慮して3%の減歩をすることを検討したが,それをすると本件マンションの容
積率が建築基準法の定める数値を超えるため,敷地となる土地を加えることにより
これを避ける必要があると判断した(もっとも,平成9年6月13日に施行された
平成9年法律第79号による建築基準法の改正により,建築物の容積率の算定の基
礎となる延べ面積に共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積を算
入しないこととされたため,本件仮換地指定当時には本件従前地につき3%の減歩
をしても本件マンションの容積率が同法に違反することはなかったが,上告人は上
記改正後に上記の判断を見直すことをしなかった。)。また,上告人は,南側道路
が廃止されることから,本件仮換地が東側又は西側で道路と接するようにする必要
があると判断した。
こうして,本件従前地につき3%の減歩をすれば地積が1435㎡となるとこ
ろ,これに121㎡の本件張り出し部分が加えられて本件仮換地となり,その地積
が1556㎡となったものである。
(4)上告人は,南側道路が廃止され,本件仮換地が本件張り出し部分において
東側道路と接することになったことに伴い,本件従前地の南側部分に存した本件マ
ンションの共用部分である受水槽,フェンス,雨水汚水設備その他工作物一式を本
件張り出し部分等に移転する必要があると判断し,本件マンションの区分所有者を
対象とした移転補償説明会を実施し,移転の必要性等を説明した上,平成18年1
0月4日,被上告人らを含む本件マンションの区分所有者に対し,期限を同年12
月10日と定め,その後に上告人がその移転を行うものとする本件移転通知をし
た。
(5)上告人は,平成21年11月5日,本件移転通知に基づく本件工事に着手
し,平成22年5月20日にこれを完了した。
本件工事完了後,本件仮換地の南側部分に設けられた駐車場は,本件従前地上に
あった当時と比較すると一部の駐車スペースが狭くなるなど利用しづらくなってい
るものの,自動車を駐車すること自体に支障はなく,また,東側道路からの緊急車
両の進入は可能であり,救助活動が阻害される状況もうかがわれない。
3原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件仮換地指
定の違法を理由とする損害賠償請求として,被上告人らの上告人に対する前記請求
を各自55万円(慰謝料50万円,弁護士費用5万円)及び遅延損害金の支払を求
める限度で認容した。
平成9年法律第79号による建築基準法の改正の結果,本件従前地につき3%の
減歩をしても本件マンションの容積率が同法違反となることはなかったから,特別
の事情がない限り,本件マンションの敷地を増やす必要はなかったものである。本
件仮換地と北側道路以外の道路との接続を図る必要があるとしても,本件張り出し
部分を加えることなく,南側道路を延長して新設の東側道路とつなぎ,従前の電線
や下水排水施設をそのまま利用し,本件マンションの区分所有者の経済的負担をな
るべく軽減するという,より合理的な仮換地案も十分に考えられた。本件仮換地指
定は,必要のない敷地の増加により不整形な本件仮換地を作り出し,本件マンショ
ンの区分所有者に清算金の負担等の経済的不利益を発生させた上,駐車場の配置等
の点においても不利益を生じさせており,本件従前地と本件仮換地は,宅地の位
置,地積,利用状況等において照応しないことが明らかである。したがって,本件
仮換地指定は上告人の裁量権の範囲を逸脱したものであり,違法である。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)土地区画整理事業の施行者は,法98条1項に基づいて仮換地を指定する
場合において,法89条1項所定の基準を考慮してしなければならないところ(法
98条2項),土地区画整理は,施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につ
き,多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであ
り,また,仮換地の方法は多数あり得るから,具体的な仮換地の指定を行うに当た
っては,法89条1項所定の基準の枠内において,施行者の合目的的な見地からす
る裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難いところである。そし
て,仮換地の指定は,指定された仮換地が,土地区画整理事業開始時における従前
の宅地の状況と比較して,同項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお,社
会通念上不照応であるといわざるを得ない場合においては,上記裁量的判断を誤っ
た違法のものと判断すべきである(最高裁昭和63年(行ツ)第104号平成元年
10月3日第三小法廷判決・裁判集民事158号31頁参照)。
(2)本件についてこれをみると,前記事実関係等によれば,次の諸事情を指摘
することができる。
本件仮換地は,本件従前地とほぼ同じ位置に指定されたいわゆる現地仮換地であ
り,本件マンションの移転や除却が必要となるものではなかった。本件従前地の地
積が1480.03㎡であったのに対し,本件仮換地の地積は1556㎡であり,
地積は約5%増加している。本件従前地が正方形に近い形状であったのに対し,本
件仮換地はその南東部で本件張り出し部分が東側に張り出した形状となっており,
その分だけ不整形になっているが,上記のとおり全体の地積は増加しており,本件
張り出し部分はこの増加分にほぼ対応している。そして,本件従前地が北側道路の
ほかに南側道路に接していたのに対し,本件仮換地は,本件張り出し部分が加えら
れたことによって,北側道路のほかに東側道路に接しており,その利用状況とし
て,2方向において自動車の出入りが可能な状況であることに変わりはなく,しか
も,本件事業により北側道路の幅員は8mから17mへと広がり,南側道路の幅員
が約5mであったのに対し東側道路の幅員は6mとなっているのであって,本件仮
換地のマンションの敷地としての利用価値が本件従前地と比較して特に減少したと
は認め難い。また,本件仮換地における電線や排水管等の設備の利便性が本件従前
地と比較して低下したとはいえない。
さらに,近隣の鉄道の騒音やその線路との距離といった本件仮換地の環境条件が
本件事業及び本件関連事業開始前における本件従前地の環境条件と比較して特に悪
化しているとはうかがわれない。なお,本件事業の施行地区内の他のマンションが
鉄道の騒音を考慮して移転したなどの事実はうかがわれない。
上記の諸事情を総合的に考慮すれば,本件仮換地が南側で道路に接していないこ
とや本件張り出し部分が存在することによって不整形となっていることなどを勘案
しても,本件仮換地指定は,社会通念上不照応なものであるとはいえないというべ
きである。したがって,本件仮換地指定は,上告人が前記の裁量的判断を誤ってし
たものとはいえず,照応の原則を定める法89条1項に違反するものではない。
(3)原審は,照応原則違反の有無を判断するに当たり,南側道路を廃止しない
で延長するとした場合に想定される仮換地案と本件仮換地とを比較検討すべきであ
る旨をいうが,前記2(2)イのとおり南側道路の廃止は本件事業の事業計画におい
て定められたものであるから,照応原則違反の有無は上記(2)のとおりその廃止を
所与の前提として判断すべきものである(なお,南側道路を廃止することとした点
において本件事業の事業計画決定に違法があることを認めるに足りる事情もうかが
われない。)。また,原審は,本件マンションの区分所有者に清算金の負担が生ず
ることを考慮すべきである旨をいうが,清算金は換地処分が行われその公告があっ
た日の翌日において確定するものである(法104条8項,103条4項)から,
本件仮換地指定の時点において実際に清算金の負担が生ずるか否かは明らかでない
上,清算金の負担の有無や額によって本件仮換地指定についての照応原則違反の有
無の判断が左右されるものではない。
(4)以上のとおり,本件仮換地指定は法89条1項に違反するものではなく,
他にこれを違法と認めるに足りる事情もうかがわれないから,本件仮換地指定に違
法があるということはできない。
5以上によれば,上告人に対して本件仮換地指定の違法を理由として損害賠償
を求める被上告人らの前記請求は,その余の点について判断するまでもなく理由が
ない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。
そして,同部分に関する被上告人らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却
すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官横田尤孝)

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