弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
被告人を懲役16年及び罰金800万円に処する。
未決勾留日数中250日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万5000円を1日に換算した期
間(端数は1日に換算する)被告人を労役場に留置する。
横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤228袋(平成13年領第263号符号1ない
し228)を没収する。
理      由
(犯罪事実)
被告人は,A,B(ただし,Bについては,輸入禁制品である覚せい剤の輸入の
限度で共謀)ほか数名と共謀の上,みだりに,営利の目的で,
第1 輸入禁制品である覚せい剤を本邦に輸入しようと企て,平成12年10月1
9日ころ,中華人民共和国広東省a港で,氏名不詳者において,覚せい剤であるフ
ェニルメチルアミノプロパン塩酸塩約225.7121キログラム(平成13年領
第263号符号1ないし228はその鑑定残量,甲12ないし34はそのうち23
袋)を袋詰めにして40フィートコンテナ1本内に隠匿してドイツ連邦共和国国籍
のコンテナ船C号に積み込み,同船をして,同月25日,横浜市b区cd番地e所
在の指定保税地域であるf岸壁に接岸させた上,情を知らない荷役業者をして,上
記覚せい剤を同船から同岸壁に陸揚げさせ,もって,覚せい剤を輸入するととも
に,同日から同月30日までの間,gターミナル用地に上記覚せい剤を搬入させ,
同日,横浜税関c出張所コンテナ検査場において,上記覚せい剤を上記コンテナに
隠匿したまま横浜税関c出張所の税関検査を受けさせ,同月31日,これらについ
て同税関c出張所長の輸入許可を受け,もって,関税定率法上の輸入禁制品である
覚せい剤を輸入し,
第2 同年11月1日,千葉県市原市h字ij番k付近駐車場において,前記覚せい
剤を所持した。
(事実認定の補足説明)
1 被告人は,自分は本件各犯行を通訳等として手伝っただけである旨供述し,弁
護人も本件各事実につき被告人には幇助犯が成立するのみであり,また,判示第1
の事実に関しては,被告人が認識していた覚せい剤の量の限度で責任を負うにとど
まる旨主張しているので,以下検討する。
2 関係各証拠によれば,本件犯行に至る経緯,犯行状況として,概ね以下の事実
を認めることができる。
 (1) 被告人は,Aらと,平成11年6月ころより中国からの覚せい剤密輸を計画
し,Aらと共に香港へ赴き,中国側の密売人と交渉を行っていたところ,同年11
月ころ,Aの知り合いであったBを買受人とすることにして密売人と交渉をした結
果,覚せい剤を購入する合意が成立し,その後,Aらは日本国内に既に持ち込まれ
ていた覚せい剤合計25キログラムを譲り受け,Bらと手分けしてこれを暴力団関
係者などに売却した。
 その後,被告人は,同12年5月ころ,Dなる覚せい剤密売人をAらに紹介した
ところ,AらはDから数回にわたり相当量の覚せい剤を譲り受けて日本国内で密売
した。さらにその後も被告人は別の密売人であるEなる人物をAらに紹介し,Aら
はEから黒い墨状の覚せい剤を譲り受け,これを日本に持ち込んで精製した上,暴
力団関係者などに密売するなどした。
 (2) ところで,被告人は,同12年7月ころ,Dから日本から中国に廃棄物を輸
出するための許可証をいわば報酬として,覚せい剤数十キログラムを通常の貨物を
装ったコンテナに入れて日本に輸入する話を持ちかけられた。被告人は貿易業を仕
事としており,上記許可証を入手すれば多額の利益が見込まれることなどからこれ
を了承し,Aに輸入した覚せい剤入りコンテナを保管するための倉庫の手配を依頼
したところ,Aもこれを了承した。そして,Aはコンテナを保管する倉庫を探すと
ともに,倉庫の手配がつかない時には同人が実質的に経営するA産業の敷地内にコ
ンテナを置くことについても承諾をした。
 その後,被告人は,同年10月初旬ころ香港へ赴き,Dとともにコンテナの表向
きの貨物となるサンダルの手配をするなどし,日本に帰国した後も通関業者に対し
本件コンテナの通関手続きを依頼するなどコンテナ輸入の準備を行った。その結
果,同月19日ころ,本件覚せい剤入りのコンテナを積んだ貨物船が中国を出航
し,同月25日,横浜cからコンテナが陸揚げされ,通関手続きを経た上,同月3
1日,輸入許可を受けた。
 なお,被告人は,日本に帰国した後の同月20日ころ,Dからコンテナが中国を
出たとの連絡を受けたが,その際,報酬として約束されていた廃棄物の輸入許可証
が入手できないため,代わりに報酬を60万香港ドルとすることの約束を得た。
 (3) そのころ,被告人はBからAが覚せい剤を使用しているらしいとの話を聞い
たためAに不信感を抱き,同月27日,Bに対して本件覚せい剤密輸の話をした
上,コンテナを保管する倉庫を探すよう依頼したところ,Bは知り合いの暴力団員
Fと連絡を取り,コンテナを保管するための千葉県茂原市所在の倉庫(以下「本件
倉庫」という)を手配した。そして,被告人はDらと本件倉庫の下見をし,同月2
9日,Dが本件倉庫を借り受けコンテナを搬入することが決定された。
 なお,被告人は,同月31日,Dから本件コンテナ内の覚せい剤が実際には20
0キログラム以上あることを知らされ,被告人の報酬は100万香港ドルに引き上
げられた。
 (4) 同年11月1日,コンテナが通関手続きを終え,保税地域より本件倉庫へ向
けて運搬されることとなり,被告人はDらと本件倉庫へ向かうため移動していたと
ころ,被告人らはその途中で本件覚せい剤入りコンテナの密輸が捜査機関に発覚し
た可能性のあることを察知した。そこで,被告人らは様子をみるため保管場所を急
遽A産業敷地に変更することとし,Aに電話連絡をしてその了承を得るとともに,
Bにも直ちに事情を説明し了解を得た。
 コンテナがA産業に運ばれた後,被告人はDらとともに善後策を協議したが結論
は出ず,しばらくそのまま様子を見ることとなったが,結局その後被告人は逮捕さ
れた。
3(1) そこで,以上の事実等を前提にまず被告人の正犯性について検討するに,被
告人が本件覚せい剤を直接扱ったことまでは認められないものの,被告人は,Dか
ら依頼を受け,コンテナに覚せい剤が隠匿されていることを承知の上で,その保管
場所となる倉庫の手配を行った上,コンテナの表向きの貨物となるサンダルの準備
を行ったり,通関業者の手配を行うなどしていて,本件コンテナの輸入に当たり重
要な役割を果たしている。
 加えて,前記のとおり被告人はDから多額の報酬を得る約束も取り付けていたこ
とからすれば,被告人はまさに自己の犯罪として覚せい剤を輸入したと評価してよ
く,被告人が本件の正犯であることは優に認められるというべきである。
 (2) 次に,覚せい剤の量についての認識の点について検討するに,確かに,被告
人が本件覚せい剤の量が200キログラム以上あると認識したのは,上記のとお
り,平成12年10月31日ころであるが,それ以前にも,相当大量の覚せい剤を
輸入することについては認識しており,そのような認識がある以上,犯情の面につ
いてはともかく,本件についての故意として欠けるところはなく,本件覚せい剤全
体について罪責を負うことは明らかである。
4 以上からすれば,被告人は判示各事実について共同正犯としての罪責を負うも
のと認められる。
(法令の適用)
罰    条
判示第1の所為
覚せい剤取締法違反の点 刑法60条,覚せい剤取締法41条2項,1項
関税法違反の点     刑法60条,関税法109条1項,関税定率法21条1
項1号
判示第2の所為     刑法60条,覚せい剤取締法41条の2第2項,1項
科刑上1罪の処理    刑法54条1項前段,10条(判示第1の罪につき重い
覚せい剤輸入罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第1の所為     情状により有期懲役刑及び罰金刑を選択
判示第2の所為     情状により懲役刑及び罰金刑を選択
併合罪の処理      同法45条前段
懲役刑につき      同法47条本文,10条により重い第1の罪の刑に同法
14条の制限の範囲内で法定の加重
罰金刑につき      同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計
未決算入        同法21条
労役場留置       同法18条
没      収    関税法118条1項本文,覚せい剤取締法41条の8第
1項本文
訴訟費用        刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑理由)
 本件は,被告人が共犯者らとともに,覚せい剤を営利目的で大量に輸入したとい
う事案(判示第1)及び,輸入した覚せい剤を共犯者が実質的に経営する会社の敷
地内において,営利目的で所持したという事案(判示第2)である。
 本件各犯行に係る覚せい剤は,合計225キログラム余りと極めて大量であっ
て,覚せい剤輸入元である中国側には覚せい剤密売組織の存在も窺われるなど,大
規模かつ国際的な犯罪であり,また,本件覚せい剤は貨物を装ったコンテナ内に巧
妙に隠匿されており,輸入の各場面において多数の共犯者,関係者が関与するな
ど,計画的,組織的犯行であって犯行態様も悪質である。
 報酬獲得目的の犯行動機に同情できる点はなく,被告人は密売元の中国人と連絡
を頻繁にとり,本件覚せい剤の密輸に積極的に関与するとともに,コンテナを輸入
する手配を主体的に行うなど本件犯行に際し重要な役割を果たしており,犯情は悪
質というべきである。
 さらに,被告人は本件の共犯者らに継続的に覚せい剤密売人を紹介するなどし
て,共犯者らが中国から覚せい剤の密輸入を行うことに加担しており,被告人の規
範意識は相当鈍磨していると言わざるを得ない。
 違法薬物の蔓延が深刻な社会問題となっている現状に鑑みれば,本件のように組
織的かつ大規模な犯罪は,同種犯罪を予防するという一般予防の見地からも強い非
難に値する。
 以上からすれば,被告人の刑事責任は重大と言わざるを得ない。
 しかしながら,被告人の上には首謀者と目される中国人らが存在すること,本件
覚せい剤は捜査機関により押収されており,覚せい剤の害悪の拡散は幸いにも未然
に防止されていること,事実関係については一応認め反省の情を示していること,
これまで前科前歴がなく,覚せい剤の密輸に関与するまでは真面目に生活していた
こと,被告人を案じる老父,家族がいることなど,被告人のために斟酌すべき事情
も認められる。
 そこで,以上の事情等を総合考慮の上,被告人を主文の刑に処するのを相当と判
断した。
(検察官中村融,国選弁護人滝口秀夫各出席)
(求刑-懲役20年,罰金800万円,没収)
平成13年12月20日
横浜地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官   矢   村       宏
   裁判官   柳   澤   直   人
   裁判官   石   井   芳   明

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