弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を公文書偽造の罪につき懲役六月に、偽造公文書行使の罪及び道
路交通法違反の罪につき懲役壱年に処する。
     但し、本裁判確定の日から参年間右各刑の執行を猶予する。
     押収にかかる自動車運転免許証一通(当庁昭和四〇年押八二九号の1)
中の偽造部分はこれを没収する。
     原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事横溝準之助提出の控訴趣意書に記載され
たとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は、通常の場合文書偽造行為とその偽造文書行使行為とは牽連犯の関係にあ
り、科刑上一罪として取り扱われるが、被告人の原判示第一の所為中自動車運転免
許証偽造と該偽造免許証行使の間に被告人に対する確定裁判が介在しており、かか
る場合、確定裁判前後の両行為は、その確定裁判によつて牽連関係が遮断され、各
別個独立の罪としてこれを処断するのを相当とするから、原判決が右偽造行為と行
使行為とを牽連犯と認め一罪として処断したのは、法令の適用を誤つたものである
というに帰する。
 よつて、審按するに、原判決の認定するところによれば、被告人の原判示第一の
所為中自動車運転免許証偽造は昭和三十九年九月四日の犯行であり、該偽造免許証
行使は昭和四十年六月十七日の犯行であるが、原審で証拠調を経た交通事件原票に
よると、被告人は、昭和四十年三月十九日横浜西簡易裁判所において道路交通法違
反の罪により罰金四千円に処せられ、右裁判は同年四月三日確定したことが明らか
であるから、右偽造行為と行使行為との間に確定裁判が介在しているわけである。
 公文書偽造行為と該偽造公文書行使行為とは、牽連犯の関係にあり、科刑上一罪
として取り扱われる。ところで、牽連犯は、競合犯の一態様であり、実質的には数
罪であつて、それぞれ別個の構成要件的評価を受けうるものであるにかかわらず、
これを科刑上一罪として取り扱う所以のものは、その数罪間にその罪質上通例一方
が他方の手段又は結果となるという経験上の類型的関係があり、したがつて、犯人
がかかる関係において数罪を犯した場合は、全く関係のない独立の数罪を犯した場
合に比し概して道義的非難の程度において軽く、構成要件的評価の面においても、
一方の構成要件が他方のそれに該当する行為をある程度予想しており、当該犯人に
つき犯行目的の単一性が認められるのを通常とすることを考慮すると、これを包括
的に評価することが妥当であるとの観点から、これを一罪として最も重い罪につき
定めた刑をもつて処断するをもつて足り、数罪として処断するまでの必要がないも
のと認めたことにあるものと解される(昭和二四年一二月二一日最高裁判所大法廷
判決、刑集三巻一二号二〇五三頁及び昭和三二年七月一八日同第一小法廷判決、刑
集一一巻七号一八六三頁参照)。
 しかしながら、本来牽連犯たるべき手段たる行為と結果たる行為との間に別罪に
よる確定裁判が介在する場<要旨>合には、叙上の趣旨はもはや妥当しないものと考
えられる。すなわち、犯人が手段たる行為を行つた後、別罪による確定裁判
によつて、いつたん刑罰的評価を受ければ、その後は新たな人格態度が期待される
のであつて、それにもかかわらず犯人があえて結果たる行為を行つた場合、その確
定裁判前後の両行為については、形式的には類型的関係がなお存在するにもせよ、
道義的非難の点においても、構成要件的評価の面においても、前叙のごとき一罪と
して取り扱うべき実質的理由は、ほとんど失われたものというべきであり、したが
つて、右両行為をおのおの別個独立の行為と見て、これを二罪として処断するのが
相当である。叙上の見解は、実質的な一罪たる性質を有する継続犯若しくは常習犯
について、確定裁判の介在によつて二罪に分断されるべきではないとした最高裁判
所の判例(昭和三五年二月九日第三小法廷決定、刑集一四巻一号八二頁、昭和三九
年七月九日第二小法廷決定、刑集一八巻六号三七五頁)の趣旨に牴触するものでは
ないと解すべきである。されば、原判決が原判示第一の自動車運転免許証偽造行為
と該偽造免許証行使行為について、その間に確定裁判が介在するにかかわらず、こ
れを牽連犯であるとし一罪として処断したのは、法令の適用に誤つたものであり、
この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の控訴趣意につき
判断するまでもなく、原判決は右の点において破棄を免れない。論旨は理由があ
る。
 (その余の判決は省略する。)
 (裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)

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