弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人秋山薫一の上告理由第一点について。
 原判決は、「上告人は昭和一八年一〇月三日訴外Dから、同人が訴外Eに賃貸し
ていた本件土地を買受け、いまだその所有権移転の登記を受けていなかつた同二〇
年一一月一日Eに対して右賃貸借解約の申入をなしたのであるが、当時Eは上告人
の所有権取得を争い、Dとの賃貸借を主張していたのであるから、右Eに対しその
所有権の取得を対抗し得ず、従つて、上告人のなした該解約の申入は無効であつた
といわざるを得ないとし且つその後同二一年一月二八日に至り上告人が所有権移転
の登記を受けたからといつて、前示無効であつた同二〇年一一月一日における解約
の申入が申入の日に遡及してその効力を発生すべきいわれはない」旨判示したもの
である。さればその判旨は正当であるといわなければならない。蓋し、登記を物権
変動の対抗要件とした所以のものは、これにより第三者の保護を企図したものであ
ること多言を要しないところであるから、登記による物権変動の対抗力は、その公
示手続である登記を経た時期以後将来に向つてのみ発生するものと解さなければな
らない。登記により対抗し得るに至るものは変動した物権そのものではなく物権の
変動それ自体であること勿論ではあるが、所論の如く一旦登記を経ればその登記の
時期如何に拘わらず物権の変動それ自体の発生した当初に遡り一切の法律関係を恰
もかかる物権の変動が当初にあつたのと同一の状態に変更する効力あるものと解す
ることはできない。この事は仮登記予告登記等の制度(不動産登記法二条三条七条
二項等参照)の存することに徴しても明らかであろう。所論引用の大審院判例は、
民訴六八六条の特別規定に基く競落許可決定に因る不動産の所有権取得の場合にお
ける登記に関するもので本件に適切ではない(民訴六五一条七〇〇条参照)。され
ば、本件土地につき昭和二一年一月二八日になした所有権移転登記の対抗力が昭和
一八年一〇月三日の買受の日に遡及することを前提として、同二〇年一一月一日の
本件土地の解約申入を有効であるとする所論を排斥した原判決には所論のような違
法はなく、論旨は、採用し難い。
 同第二点乃至第四点について。
 しかし、自作農創設特別措置法六条の二第二項四号並びに費地調整法附則(昭和
二二年法律二四〇号)三条二項五号の規定は、当該農地の所有者又はその承継人が
昭和二〇年一一月二三日以後において現に該農地に就き耕作の業務を行う場合にお
いてのみ適用のある規定であり、また、右措置法は、現に耕作者である者の地位を
安定し、いわゆる自作農を創設するを目的とするものであるから、本件土地のよう
に小作地であつて、これに就き現に耕作の業務を営んでいない。従つて、単に小作
料を取得すべき地位にあるのみであつて、該土地耕作することによりて生活を営む
者でない上告人の論旨二点は、上告人と訴外Eとの生活関係を比較する迄もなく失
当であるといわなければならないし、また、原判決には論旨三点のような違法があ
るともいうことができない。なお、論旨四点は、自作地の買収による生活困難を前
提とするものであるから、前述の理由によりその前提において採用し難い。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    岩   松   三   郎

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