弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人鍛治利秀の上告受理申立て理由について
1本件は,かすみがうら市の住民である上告人が,かすみがうら市議会議員1
4名が平成18年度に被上告人から交付を受けた政務調査費について使途基準に違
反する違法な支出を行っており,上記各議員は同市に対して上記支出額に相当する
金員を不当利得として返還すべきであるのに,被上告人はその返還請求を違法に怠
っているとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被上告人に対し,
上記各議員に対して上記不当利得の返還請求をすべきことを求めている事案であ
る。
2原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)かすみがうら市では,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前
のもの)100条13項の規定を受けて,かすみがうら市議会政務調査費の交付に
関する条例(平成17年かすみがうら市条例第6号。平成20年かすみがうら市条
例第15号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)を制定し,議会にお
ける会派及び議員に対し政務調査費を交付することとしている。
本件条例7条は,会派及び議員は,政務調査費を別に定める使途基準に従い使用
しなければならないと定めている。これを受けたかすみがうら市議会政務調査費の
交付に関する規則(平成17年かすみがうら市規則第5号。平成20年かすみがう
ら市規則第17号による改正前のもの)は,その5条及び別表第2により,議員に
係る上記使途基準(以下「本件使途基準」という。)として,資料購入費につき
「議員が行う調査研究のために必要な図書・資料等の購入に要する経費(書籍購入
代,新聞雑誌購読料等)」,事務費につき「議員が行う調査研究に係る事務遂行に
必要な経費(事務用品,備品購入費,通信費等)」などと規定している。
(2)被上告人は,本件条例に基づき,平成18年5月2日,平成18年度の政
務調査費(ただし,平成19年1月27日の任期満了までの分)として,別表の
「氏名」欄記載の14名の議員(以下「本件議員ら」という。)に対し,それぞれ
12万5000円を交付した。本件議員らは,交付を受けた政務調査費から,平成
18年9月15日から同年12月25日にかけて,別表の「年月日」欄記載の各日
付けで,「項目」欄記載の経費として,パソコン,プリンター,ビデオカメラなど
「品名」欄記載の各機器又は書籍(以下「本件物品」という。)を購入するため,
「金額」欄記載の各金額を支出した(なお,本件議員らのうちA,E,F及びNの
各議員は,政務調査費から他の支出も行っており,その総額は12万5000円を
超過している。以下,別表記載の支出を「本件各支出」という。)。
(3)本件議員らは,任期満了による平成19年1月21日施行の市議会議員選
挙に立候補することなく,同月27日に市議会議員としての任期を終えた。なお,
本件議員らの任期中の最後の議会(平成18年度定例議会第4回定例会)の会期
は,平成18年12月7日に終了している。
(4)本件訴訟に先立つ住民監査請求において,監査委員が本件議員らに対し本
件物品の購入目的や用途につき書面による回答を求めたところ,その回答(以下
「本件回答」という。)は,「調査研究に必要が生じたため購入し,有効利用し
た」,「文書等を作るために利用した」などと抽象的な内容にとどまるものがほと
んどであった。
(5)上告人は,本件各支出に関し,本件議員らは,10年から20年以上にわ
たる議員としての経歴があるところ,その在職期間中には本件物品と同種の機器や
書籍を使用してこなかったにもかかわらず任期満了近くになり初めてこれを購入し
たり,緊急の必要性もなく買い換えたりしており,購入した本件物品が手元に残る
ことから,その私的使用をもくろんだものにすぎず,本件使途基準に違反する違法
な支出であると主張している。
3原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり,本件各支出は本件使途
基準に反するものとはいえないと判断して,上告人の請求を棄却すべきものとし
た。
政務調査費の支出は市政と何らかの関連性を有することが必要であるが,その関
連性の要件の判断においては議員の裁量権が尊重されなければならず,一見して明
らかに市政とは無関係であるとか,極めて不相当なもの以外は関連性を認めるべき
である。本件各支出については,本件回答に照らしても無関係又は極めて不相当な
ものとはいえず,支出の時期を考慮したとしても,裁量権の範囲を逸脱するもので
あったとまではいえない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
本件使途基準は,前記2(1)記載のとおり,資料購入費につき「議員が行う調査
研究のために必要な図書・資料等の購入に要する経費」,事務費につき「議員が行
う調査研究に係る事務遂行に必要な経費」と定めるなど,調査研究のための必要性
をその要件としている。議員の調査研究活動は多岐にわたり,個々の経費の支出が
これに必要かどうかについては議員の合理的判断にゆだねられる部分があることも
確かである。そして,本件物品は,その機能,一般的用途からして,議員の調査研
究活動に用いられる可能性はあり,それがパソコンやビデオカメラなどの比較的高
額な物品であるからといって,直ちに上記の必要性を欠くものとはいい難い。
しかし,前記事実関係等によれば,本件物品は,本件議員らの任期満了1ないし
4か月半前という時期に購入されており,任期中の最後の議会の会期後に購入され
たものも少なくない。また,本件議員らは,任期満了による選挙に立候補すること
なく,市議会議員としての任期を終えたというのである。そして,上告人は,本件
議員らは10年から20年以上にわたる議員としての経歴を有するところ,このよ
うな手元に残る物品を在職中初めて購入したり,緊急の必要性もなく買い換えたり
したと主張している。前記の事実に加えて,上記のような主張に係る事実が認めら
れるのであれば,本件各支出は調査研究のための必要性に欠けるものであったこと
がうかがわれるというべきであり,その場合,特段の事情のない限り,本件各支出
は本件使途基準に合致しない違法なものと判断されることとなる。この点,住民監
査請求における本件議員らの監査委員の調査に対する本件回答の内容は,前記のと
おり,そのほとんどが抽象的なものにとどまるところ,本件において,このような
抽象的な回答をせざるを得ないような合理的な理由があるか否かは定かではなく,
本件回答があるだけで上記の特段の事情があるということは困難である。
そうすると,上告人の上記主張に係る事実の存否や上記の特段の事情の有無につ
いて十分に審理することなく,単に本件物品の品名を認定し,上記のような本件回
答を参酌するだけで,直ちに本件各支出は本件使途基準に反するものとはいえない
とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとい
うべきである。
5以上によれば,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記
の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官近藤崇晴裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)
別表
氏名年月日(平成18年)金額項目品名
1A11月9日,同月18日,7万3367円資料購入費書籍(辞典等十数
12月8日,同月25日冊)
11月18日3万7800円事務費電子辞書
2B12月22日2万7000円事務費電子辞書
3C12月21日5万7000円事務費電子辞書及びプリ
ンター
4D10月15日12万5000円事務費デジタルカメラ
5E9月15日9万6700円事務費ビデオカメラ
6F11月23日11万7000円事務費ビデオカメラ及び
関連用品代
7G10月19日ころ12万5000円事務費パソコン
8H12月25日12万5000円事務費パソコン及び関連
機器代
9I12月5日12万5000円事務費パソコン及び関連
機器代
10J10月8日12万5000円事務費パソコン
11K11月18日11万8200円事務費パソコン
12月23日6090円事務費パーツ代

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