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平成23年1月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10160号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年12月22日
判決
原告積水化学工業株式会社
同訴訟代理人弁理士宮崎主税
目次誠
中山和俊
石村知之
被告特許庁長官
同指定代理人佐々木一浩
所村美和
豊原邦雄
紀本孝
豊田純一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009−18170号事件について平成22年3月30日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件補正後の発明の要
旨を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同
請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記
3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案
である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願(甲6)及び拒絶査定
発明の名称:ダイシング・ダイボンディングテープ及び半導体チップの製造方法
国際出願番号:PCT/JP2008/50407
国内出願番号:特願2008−526309号(甲7)
国際出願日:平成20年1月16日
特許協力条約に基づく優先権主張日:平成19年4月19日及び同年7月19日
手続補正日:平成22年2月9日付け(甲8。以下「本件補正」という。)
拒絶査定:平成21年6月24日付け
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成21年9月28日(不服2009−18170号)
審決日:平成22年3月30日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成22年4月19日
2本願発明の要旨
本件審決が判断の対象とした本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載され
た発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,以下のとおりである。なお,「/」
は,原文における改行箇所である。
半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップをダイボンデ
ィングするのに用いられるダイシング・ダイボンディングテープであって,/ダイ
ボンディングフィルムと,前記ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付された
非粘着フィルムとを有し,/前記非粘着フィルムは,光硬化性樹脂又は熱硬化性樹
脂を含む材料を光硬化又は熱硬化させることにより形成された非粘着フィルムであ
って,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含み,/前記非粘着フィルムの
側面が,粘着性を有する粘着剤層及び前記ダイボンディングフィルムの内のいずれ
によっても覆われていないことを特徴とする,ダイシング・ダイボンディングテー

3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された
発明(以下「引用発明1」という。)に下記イの引用例2に記載された発明(以下
「引用発明2」という。)を適用することにより,当業者が容易に発明をすること
ができたものであって,特許法29条2項の規定に該当するものであるから,特許
を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開平9−266183号公報(甲1)
イ引用例2:特開2004−134689号公報(甲2)
(2)本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及
び相違点(以下「本件相違点」という。)は,次のとおりである。
ア引用発明1:シリコンウェーハをダイシングし,ICチップを得,ICチッ
プをリードフレームに接着するのに用いられるテープ状のウェーハダイシング・接
着用シートであって,ポリイミド系接着剤層と,前記ポリイミド系接着剤層の一方
の面に貼付された,離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムとを有し,前記
ポリイミド用工程フィルムの側面が,感圧性接着剤層及び前記ポリイミド系接着剤
層のうちのいずれによっても覆われていない,ウェーハダイシング・接着用シート
イ一致点:半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップ
をダイボンディングするのに用いられるダイシング・ダイボンディングテープであ
って,ダイボンディングフィルムと,前記ダイボンディングフィルムの一方の面に
貼付され,半導体ウェーハと共にダイシングされた後,ダイボンディングフィルム
から剥離されるフィルムとを有し,前記フィルムの側面が,粘着性を有する粘着剤
層及び前記ダイボンディングフィルムのうちのいずれによっても覆われていない,
ダイシング・ダイボンディングテープである点
ウ相違点:ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付されるフィルムが,本
願発明では光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む材料を光硬化又は熱硬化させるこ
とにより形成された非粘着フィルムであって,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成
分として含むのに対し,引用発明1では離型処理を施されたポリイミド用工程フィ
ルムである点
(3)なお,「ダイシング」とは,半導体ウェーハを小さな方形あるいは立方体状
に切断加工することをいい(「マグローヒル科学技術用語大辞典第3版」株式会社
日刊工業新聞社発行),「ダイボンディング」とは,半導体チップ(ダイ)をリー
ドフレームやパッケージに固定することをいう(「半導体大事典」株式会社工業調
査会発行)。
4取消事由
本件相違点についての判断の誤り
(1)引用発明2の認定の誤り
(2)引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)引用発明2の認定の誤りについて
ア本件審決は,引用例2には,「半導体ウェーハをダイシングし,半導体チッ
プを得,半導体チップをダイボンドするのに用いられるダイシング・ダイボンドフ
ィルムであって,イミド系樹脂を含むダイ接着用接着剤層と,前記ダイ接着用接着
剤層の一方の面に貼付された粘着力が低下した粘着剤層とを有し,前記粘着力が低
下した粘着剤層は,放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化させることに
より形成されたフィルムであって,(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含
むこと」が記載されているとした。
イしかしながら,引用例2(【0009】【0014】【0020】【002
3】【0038】【0039】【0101】)によると,引用発明2の技術的意義
は,ダイ接着用接着剤層のワーク貼り付け部分(3a)に対応して粘着力が相対的
に弱い部分(2a)と,ワーク貼り付け部分(3a)以外の部分(3b)に対応し
て粘着力が相対的に強い部分(2b)とを有し,粘着力が相対的に弱い部分(2a)
が(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含んでいる粘着剤層を採用し,ワー
クをダイシングする際の保持力と,ダイシングにより得られるチップ状ワークをそ
のダイ接着用接着剤層と一体に剥離する際の剥離性とのバランス特性を改善したこ
とにあるものであって,引用例2には,粘着剤層(2a)を粘着剤層(2b)から
切り離して単独で存在させることが記載も示唆もされていないことからしても,引
用発明2において,粘着力が相対的に弱い部分(2a)と,粘着力が相対的に強い
部分(2b)とは,独立して存在し得るものではなく,協働する一体不可分の要素
として存在するものである。
したがって,粘着剤層から,粘着力が相対的に弱い部分(2a)のみを意図的に
抽出し,引用発明2を認定した本件審決には誤りがある。
(2)引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについて
ア剥離処理工程の省略
(ア)本件審決は,引用発明1のポリイミド用工程フィルムには離型処理が施さ
れており,このようなフィルムを用意するには離型処理工程を経る必要があるとこ
ろ,工程数を減らして製造過程を単純化することは技術者が常に念頭に置くべき周
知の課題であることから,ポリイミド用工程フィルムに求められるダイボンディン
グフィルムに対する剥離性を保ちながらポリイミド用工程フィルムの離型処理工程
を省略する方法を模索することは,当業者が当然に行うものであるとした上で,ダ
イシング・ダイボンディングテープに関する引用例2に接した当業者が,引用発明
1のポリイミド用工程フィルムに離型処理を施す代わりに,引用発明2を適用し,
ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付されるフィルムを,光硬化性樹脂を光
硬化させることにより形成され,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む
非粘着フィルムとすることには,格別の創意を必要とせず,引用発明2を引用発明
1に適用して,本件相違点に係る本願発明の構成とすることは容易に想到すること
ができるとした。
(イ)しかしながら,当業者が引用発明1におけるポリイミド用工程フィルムの
離型処理工程を省略しようとするのであれば,これを省略してもポリイミド用工程
フィルムに求められるダイボンディングフィルムに対する剥離性を保ち得ることが
必須となるから,ポリイミド用工程フィルムに離型処理を行った場合と同等又はそ
れ以上の離型性を有するフィルムをポリイミド用工程フィルムの代替品として用い
ようとするのは当然である。
ところで,引用例1に記載されているポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチ
レンテレフタレート樹脂などからなるポリイミド用工程フィルムは,引用発明2の
(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含む非粘着フィルムよりも低い粘着力
を有しているにすぎない。
引用発明1では,そのように粘着力が非常に低く,離型性に優れているポリエチ
レンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などからなるポリイミド
用工程フィルムの離型性を更に向上するために,ポリイミド用工程フィルムに離型
処理を施して使用しているのであるから,引用発明1におけるポリイミド用工程フ
ィルムの離型処理工程を省略するために,ポリイミド用工程フィルムよりも粘着力
が高い引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィル
ム(甲9)に置き換えようとすることは,技術的に矛盾した行為であり,当業者と
して試みることがないものであって,本件審決の判断には誤りがある。
イ引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出すこと
また,上記(1)のとおり,粘着剤層のうち,粘着力が相対的に弱い部分(2a)を
粘着剤層から抜き出すことは,引用発明2の技術的意義を損なうものであって,自
然な発想ということはできず,粘着剤層全体から意図的に抽出された粘着剤層(2
a)を本願発明の進歩性の判断の基礎とすることはできない。
(3)小括
以上のとおり,①引用発明1のポリイミド用工程フィルムを,引用例1に記載さ
れてない他の材料からなるフィルムに置き換えること,②引用例2の粘着力が相対
的に弱い部分(2a)を粘着剤層から抜き出すことのいずれもが,技術的に不自然
な発想であり,かつ,引用例1及び2には,そのようにすることに対する動機付け
が何ら記載されていないものであるから,引用発明2の粘着力が相対的に弱い部分
(2a)を粘着剤層から抜き出し,引用発明1のポリイミド用工程フィルムを,そ
の粘着力が相対的に弱い部分(2a)に置き換えることには,当業者といえども容
易に想到することができないというべきである。
したがって,引用発明1の離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムを,引
用発明2に基づいて,光硬化樹脂を光硬化させることにより形成され,(メタ)ア
クリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムと代替することに格別の創意
は必要とされないとした本件審決の判断は誤っている。
〔被告の主張〕
(1)引用発明2の認定の誤りについて
ア引用例2(【0014】)によると,粘着剤層(2a)はワーク貼り付け部
分(3a)に対応し,粘着剤層(2b)はそれ以外の部分に対応し,それぞれ異な
る領域に形成されるものであり,また,粘着剤層(2a)はピックアップ時の剥離
性,粘着剤層(2b)はダイシング時やエキスパンド時の保持力という異なる機能
を有するものであって,粘着剤層としては別々のものとして認識することができる。
そして,引用発明1において,ポリイミド用工程フィルムに離型処理工程を施す
ことなく剥離が可能となる方法を模索する当業者が引用例2を見た場合,剥離性と
いう引用発明1が必要とする機能を有する粘着剤層(2a)に着目し,それを採用
しようと試みることは自然なことであるし,また,引用例2には,粘着剤層(2a)
の部分のみにダイ接着用接着剤層を設けてウェーハを貼り付けることが記載されて
いること(【0029】及び図3)からして,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)
の両方がなければ,ウェーハを貼り付けることができないものでもない。
イしたがって,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)とを常に一体不可分でし
か抽出できないとする原告の主張は理由がなく,引用例2には,粘着剤層(2a),
すなわち本件審決が認定した「粘着力が低下した粘着剤層」が記載されているもの
であって,本件審決に誤りはない。
(2)引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについて
ア剥離処理工程の省略
(ア)引用例1における「ポリイミド用工程フィルム」に求められる特性は,ダ
イシング工程等に必要十分な接着力を有し,かつ,ピックアップ工程に必要十分な
剥離性を有するものであり,本件審決が説示する「ポリイミド用工程フィルムに求
められるダイボンディングフィルムに対する剥離性」とは,上記のようなピックア
ップ工程に必要十分な剥離性を意味するものであって,原告が主張するような「ポ
リイミド用工程フィルムに離型処理を行った場合と同等又はそれ以上の離型性」の
みを意味するものではない。
そして,工程数を減らして製造過程を単純化することは,技術者が常に念頭に置
くべき周知の課題であって,離型処理工程を省略しようと試みることは当業者が普
通に行うべき課題である。
(イ)そうすると,仮に,引用発明1の剥離処理工程を施したポリイミド用工程
フィルムよりも,本願発明の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘
着フィルムの粘着力が高い場合があったとしても,引用発明1においては,ピック
アップ工程に必要十分な剥離性が確保されていればよいことになる。
そして,引用例2には,粘着剤層(2a)に離型処理を施すことについては何ら
記載されておらず,かつ,粘着剤層(2a)において,ピックアップ時の軽剥離が
可能であることが記載されているのである(【0014】)から,引用発明1及び
2に接した当業者であれば,離型処理工程を省略するために,ポリイミド用工程フ
ィルムに代えて,引用発明2の粘着剤層(2a)を採用することは,格別の創意を
要することなく容易に行うことができたものである。
イ引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出したこと
上記(1)のとおり,引用例2の記載事項のうちから粘着剤層(2a)のみを抽出す
ることができるものであり,引用発明1と引用発明2とは,いずれもダイシング・
ダイボンディングフィルムという同一の技術分野に属し,ピックアップ工程におい
て剥離を可能とするという共通の機能を有するものである。
また,引用発明1において,ポリイミド用工程フィルムは,ポリイミド系接着剤
と共に用いられるものであるが,引用例2の【0063】には,ダイ接着剤として
熱可塑性樹脂であるイミド系樹脂を用いることが記載されているように,引用例2
記載の粘着剤層(2a)もポリイミド系接着剤と共に用いることができるものであ
るから,引用発明1に引用発明2を適用できないとする特段の事情もない。
(3)小括
以上によると,引用発明1及び2に接した当業者にとって,引用例1のポリイミ
ド用工程フィルムの剥離処理工程を省略するために,同一の技術分野に属し,かつ,
機能が共通する引用例2記載の粘着剤層(2a)を採用することは,各別の創意を
要することなく容易に想到し得たものであって,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1引用発明2の認定の誤りについて
(1)引用発明2の内容
ア引用例2によると,引用発明2は,半導体チップなどのチップ状ワークと電
極部材とを固着するための接着剤を,ダイシングする前にワーク(半導体ウェーハ
等)に付設した状態で,ワークをダイシングに供するために用いられるダイシング
・ダイボンドフィルムに係る発明であり(【0001】),ワークをダイシングす
る際の保持力と,ダイシングにより得られるチップ状ワークをそのダイ接着用接着
剤層と一体に剥離するピックアップ時の剥離性とのバランス特性に優れるダイシン
グ・ダイボンドフィルムを提供することなどを目的とするものであって(【000
9】),ダイシング・ダイボンドフィルムの一部を構成する粘着剤層のうち,ダイ
接着用接着剤層上のワーク貼付部分(3a)に位置的に対応する粘着剤層(2a)
は軽剥離が可能な粘着力が相対的に弱い部分とし,他方,ダイ接着用接着剤層上の
ワーク貼付部分以外の部分(3b)に位置的に対応する粘着剤層(2b)は接着剤
層とダイシング時やエキスパンド時に適度に接着して,粘着剤層と接着剤層とが剥
離しないようにした粘着力が相対的に強い部分としたものであって(【0014】
【0015】【0019】∼【0022】【0027】【0029】),その粘着
剤層は,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)とに粘着力の差を設けやすい放射線
硬化型粘着剤により形成されることが好ましく,ワーク貼り付け部(3a)に対応
する粘着剤層(2a)部分にのみ紫外線を照射することによって形成され(【00
23】【0035】【0081】【0084】【0087】),(メタ)アクリル
系ポリマーを主成分として含むものが考えられる(【0038】【0039】)と
の,ダイシング・ダイボンドフィルムの発明である。
イ以上によると,引用発明2は,ワーク貼付部分(3a)に位置的に対応する
粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)と,ワーク貼付部分以外の部分(3b)に
位置的に対応する粘着力が相対的に強い粘着剤層(2b)とを設けるもので,粘着
力が異なる2種類の粘着部分(2a)と(2b)とは,互いに異なる領域に各別に
形成されているものであり,また,粘着部分(2b)はダイシング時やエキスパン
ト時の機能を有するものであるのに対し,粘着部分(2a)はチップ状ワークを粘
着剤層から剥離するピックアップ時の機能を有するものであって,この粘着剤層(2
a)が担う軽剥離が可能とするとの機能は,粘着剤層(2b)とは独立した機能の
併存によって達成されるものであるから,粘着剤層(2b)が存在することによっ
て影響を受けるものではなく,粘着剤層(2a)のみによって独自に発揮されるも
のということができる。
そうであるから,引用発明2の課題が,ワークをダイシングする際の保持力と,
ダイシングにより得られるチップ状ワークをピックアップする際の剥離性とのバラ
ンスを考慮したものであることを考慮しても,当業者は,引用発明2の構成に係る
粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)と粘着力が相対的に強い粘着剤層(2b)
とをそれぞれ別個の構成のものとして認識することができ,それぞれが有する技術
的意義も個別に認識することができるから,粘着剤層(2a)について,チップ状
ワークを粘着剤層から剥離する時の軽剥離性に着目し,この粘着力が相対的に弱い
ものとして,独立して抽出することができるものということができる。
(2)小括
したがって,粘着剤層につき,放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化
させることにより形成されたフィルムであり,(メタ)アクリル系ポリマーを主成
分として含むものである引用発明2につき,粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)
部分に着目して,「半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チ
ップをダイボンドするのに用いられるダイシング・ダイボンドフィルムであって,
イミド系樹脂を含むダイ接着用接着剤層と,前記ダイ接着用接着剤層の一方の面に
貼付された粘着力が低下した粘着剤層とを有し,前記粘着力が低下した粘着剤層は,
放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化させることにより形成されたフィ
ルムであって,(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含む」発明と認定した
本件審決には誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
2引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについて
(1)引用発明1の内容
引用例1によると,引用発明1は,大径の状態で製造された半導体ウェーハをI
Cチップに切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるパッケージ用リード
フレームにICチップを載置するダイボンディング工程に移す際,半導体ウェーハ
があらかじめ粘着シートに貼着された状態で,ダイシング,洗浄,乾燥,エキスパ
ンド及びピックアップの各工程が加えられた後,次工程のダイボンディング工程に
移送されるもので(【0002】),このような半導体ウェーハのダイシング工程
からピックアップ工程に至る各工程で用いられる粘着シートとして,ダイシング工
程から乾燥工程まではウェーハチップに対して十分な接着力を有し,他方,ピック
アップ時にはウェーハチップに粘着剤が付着しない程度の接着力を有しているもの
が望まれるものであって(【0003】),前記第2の3(2)アのとおり,「シリコ
ンウェーハをダイシングし,ICチップを得,ICチップをリードフレームに接着
するのに用いられるテープ状のウェーハダイシング・接着用シートであって,ポリ
イミド系接着剤層と,前記ポリイミド系接着剤層の一方の面に貼付された,離型処
理を施されたポリイミド用工程フィルムとを有し,前記ポリイミド用工程フィルム
の側面が,感圧性接着剤層及び前記ポリイミド系接着剤層のうちのいずれによって
も覆われていない,ウェーハダイシング・接着用シート」との発明である。
(2)剥離処理工程の省略
ところで,引用発明1において「ポリイミド用工程フィルム」に離型処理が施さ
れるのは,ポリイミド用工程フィルムの特性としては,ダイシング工程等において
は必要十分な接着力を有し,他方,ピックアップ工程においては必要十分な剥離性
を有するものであることが求められているからである。
しかしながら,工程数を減らして製造過程を単純化することは,技術者が常に念
頭に置くべき周知の課題であるから,引用発明1において,「離型処理工程」を省
略しようと試みることそれ自体は当業者が普通に行うべき課題であるということが
できる。
そして,引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出すことに問
題がないことは前記説示のとおりであるから,引用発明1の離型処理を施されたポ
リイミド用工程フィルムについて,その「離型処理」を省略しようと試みる当業者
が,引用発明1と同様のダイシング・ダイボンドフィルムに関する引用発明2に係
る引用例2に接した場合,前記(1)のとおりの粘着剤層(2a)が離型処理を行わな
くともピックアップ工程に必要十分な剥離性を有することに着目するのはごく自然
であって,このような引用発明2を引用発明1に適用することは容易に想到するこ
とができるものということができる。
(3)原告の主張について
この点について,原告は,引用発明1では,もともと粘着力が非常に低く,離型
性に優れているポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂
などからなるポリイミド用工程フィルムの離型性を更に向上するために,ポリイミ
ド用工程フィルムに離型処理を施して使用しているのであるから,引用発明1にお
いて,ポリイミド用工程フィルムの離型処理工程を省略するために,ポリイミド用
工程フィルムよりも粘着力が高い引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成
分として含む非粘着フィルムに置き換えようとすることは,技術的に矛盾した行為
であって,当業者として試みることがないものであると主張する。
しかしながら,仮に,引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分して含
む非粘着フィルムの粘着力が,引用発明1におけるポリイミド用工程フィルムの粘
着力よりも高いものであるとしても,引用発明1においては,ピックアップ工程時,
ピックアップに必要十分な剥離性が確保されていればよいものであるところ,前記
1のとおり,引用発明2においては,紫外線によって硬化された粘着剤層(2a)
がピックアップ時の軽剥離が可能な粘着力が相対的に弱い部分であるとされている
のであるから,引用発明2に接した当業者であれば,引用発明1の離型処理工程に
代えて,引用発明2の粘着剤層(2a)を採用することも,容易に想到することが
できたものということができ,このように想到するに際して,引用発明1のポリイ
ミド用工程フィルムの粘着力と,引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成
分とする非粘着フィルムの粘着力とに差異があることが妨げとなるとは解されない
から,原告の主張は採用することができない。
(4)小括
したがって,引用発明1と同様にダイシング・ダイボンディングフィルムに関す
る引用発明2に係る引用例2に接した当業者が,引用発明1のポリイミド用工程フ
ィルムに離型処理を施す代わりに,引用発明2を適用して,ダイボンディングフィ
ルムの一方の面に貼付されるフィルムを,光硬化性樹脂を光硬化させることにより
形成され,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムとする
ことに格別の創意は必要とされないとし,当業者において,本件相違点が容易想到
であるとした本件審決の判断に誤りはない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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