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平成25年1月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ワ)第44473号損害賠償請求事件
口頭弁論の終結の日平成24年8月21日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1被告は,原告株式会社技研製作所に対し,3785万9733円及び
これに対する平成22年12月10日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2原告株式会社技研製作所の主位的請求のうちその余の部分並びに二
次的請求及び三次的請求をいずれも棄却する。
3原告新日鐵住金株式会社の主位的請求及び二次的請求をいずれも棄
却する。
4被告は,原告新日鐵住金株式会社に対し,3646万1733円及び
これに対する平成22年12月10日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
5原告新日鐵住金株式会社の三次的請求のうちその余の部分を棄却す
る。
6訴訟費用は,原告株式会社技研製作所に生じた費用の10分の7と被
告に生じた費用の40分の9を同原告の負担とし,原告新日鐵住金株式
会社に生じた費用の7分の6と被告に生じた費用の40分の23を同
原告の負担とし,原告株式会社技研製作所に生じた費用の10分の3と
原告新日鐵住金株式会社に生じた費用の7分の1と被告に生じた費用
の40分の8を被告の負担とする。
7この判決は,第1項及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原告株式会社技研製作所
(1)主位的請求及び二次的請求
被告は,原告株式会社技研製作所に対し,1億3000万円及びこれに対
する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(2)三次的請求
被告は,原告株式会社技研製作所に対し,7812万2000円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
2原告新日鐵住金株式会社
(1)主位的請求
被告は,原告新日鐵住金株式会社に対し,2億7000万円及びこれに対
する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(2)二次的請求
被告は,原告新日鐵住金株式会社に対し,1億9849万円及びこれに対
する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(3)三次的請求
被告は,原告新日鐵住金株式会社に対し,7812万2000円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
第2事案の概要
本件は,護岸の連続構築方法及び河川の拡幅工法に関する特許権を共有する
原告らが,妙正寺川整備工事で被告を構成員に含む共同企業体の採用した施工
方法につき,上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとして,被告に
対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告株式会社技研製作所(以
下「原告技研」という。)については,●(省略)●又は損害金7812万2
000円及びこれらに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,原告新日鐵住金株式
会社(以下「原告新日鐵」という。)については,●(省略)●又は損害金7
812万2000円及びこれらに対する上記遅延損害金の支払をそれぞれ求め
る事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる事実)
(1)本件特許権
原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有している。
特許番号第4105076号
出願日平成15年10月28日
登録日平成20年4月4日
発明の名称護岸の連続構築方法および河川の拡幅工法
(2)本件発明
本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,本判
決添付の特許公報の該当項記載のとおりである(以下,この請求項1に係る
発明を「本件発明」という。)。
(3)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
A鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
B先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
Cコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
Dこの鋼管杭列から反力を得ながら,
E上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート
護岸を打ち抜いて連続壁を構築し,
Fその後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する
G護岸の連続構築方法。
(4)妙正寺川整備工事
東京都は,平成17年9月の集中豪雨により,中野区内を流れる妙正寺川
の流域で浸水被害が発生したことから,別紙地図記載のとおり,河川激甚災
害対策特別緊急事業の関連事業として,妙正寺川の同区沼袋一丁目地内から
同区野方二丁目地内までの両岸に鋼管杭を打ち込み,川の幅と深さを拡張し
て流域面積を確保する妙正寺川整備工事(激特1,激特2,激特2の2及び
激特2の3)を発注することとした。
被告,北野建設株式会社及び河本工業株式会社は,平成19年5月31日,
被告を代表者として森本・北野・河本建設共同企業体(以下「本件JV」と
いう。)を結成し,本件JVは,次のとおり,妙正寺川整備工事のうち激特
2,激特2の2及び激特2の3(以下「本件各工事」という。)を受注して,
有限会社オオブ工業(以下「オオブ工業」という。)に下請けさせるなどし
て,いずれもこれらを完成させた。
ア工事件名激特2
契約年月日平成19年10月9日
工事代金21億6825万円
工期平成22年2月26日まで
工事内容約420mの両岸に鋼管杭を左岸に336本,右岸に3
39本打ち込んだ上で,既設の護岸等を取り壊し,河川
内を掘削するなどした。各鋼管杭を打ち込んだ鋼管杭圧
入装置及び各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物は,別
紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄及び打込対
象物欄記載のとおりである。
イ工事件名激特2の2
契約年月日平成20年9月12日
工事代金1億4910万円
工期平成21年3月31日まで
工事内容約40mの両岸に鋼管杭を左岸に28本,右岸に29本
打ち込んだ。各鋼管杭を打ち込んだ鋼管杭圧入装置及び
各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物は,別紙鋼管杭表
の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄及び打込対象物欄記載
のとおりである。
ウ工事件名激特2の3
契約年月日平成21年8月28日
工事代金5029万5000円
工期平成22年2月24日まで
工事内容激特2の2に係る既設の護岸等を取り壊し,河川内を掘
削するなどした。
(甲6,7,11,12,14及び15の各1,乙14の1)
(5)被告方法の構成
本件JVが本件各工事で採用した施工方法(以下「被告方法」という。)
の構成を本件発明の構成要件に対応させて分説すると,次の点は当事者間に
争いがない。
a鋼管杭列から反力を得ずに鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置であ
るコウワ機又は鋼管杭列から反力を得ながら鋼管杭を回転圧入できる鋼
管杭圧入装置である鋼管パイラー機を用いて,
b別紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄に「コウワ機」と記載さ
れた鋼管杭につき,先端に9個又は15個のビットを備えた鋼管杭で
d別紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄に「パイラー機」と記載
された鋼管杭につき,構築した鋼管杭列の上に鋼管パイラー機を設置し
て,鋼管杭列から反力を得る
g護岸の連続構築方法。
(6)被告方法の本件発明に対する充足性
被告方法は,本件発明の構成要件A,Gを充足する。
(7)先行技術
本件特許出願前に頒布された刊行物として,別紙先行技術目録記載の公報
がある(以下,同目録記載の番号に従い「公報1」のようにいう。)。
2争点及び当事者の主張
本件の争点は,①被告方法の構成,②被告方法が本件発明の技術的範囲に属
するか,③本件発明に係る請求項1が特許無効審判により無効にされるべきも
のと認められるか,④被告の責任及び損害である。
(1)争点①(被告方法の構成)について
(原告らの主張)
ア本件発明の構成要件Cに対比した構成(c)
被告方法は,コンクリートブロック層(厚さ約35㎝),その裏側のコ
ンクリート層(厚さ約5㎝ないし約10㎝)及び更にその裏側の裏込材層
(厚さ約30㎝)で構成されたコンクリート護岸(深さ約3m)の上端部
におけるコンクリートブロックの数段と背後の土砂等を除去した上で,コ
ウワ機を用いて,①鋼管杭を打ち込む最も固い対象物が裏込材になった場
合は,先端に9個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材と土砂に対して深さ
約17mまで回転圧入し,②鋼管杭を打ち込む最も固い対象物がコンクリ
ートブロック又はコンクリートであった場合は,先端に15個のビットを
備えた鋼管杭で,コンクリートブロックやコンクリート,裏込材,土砂に
対して深さ約5mまで回転圧入した後,先端に9個のビットを備えた鋼管
杭に取り替え,土砂に対して深さ約17mまで回転圧入して,鋼管杭列を
構築する方法である。
各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物等は,別紙鋼管杭表の原告らの主
張中の打込対象物欄等記載のとおりである。
イ本件発明の構成要件Eに対比した構成(e)
被告方法は,構築した鋼管杭列に連続し,コンクリート護岸の上端部に
おけるコンクリートブロックの数段と背後の土砂等を除去した上で,鋼管
パイラー機を用いて,①鋼管杭を打ち込む最も固い対象物が裏込材になっ
た場合は,先端に6個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材と土砂に対して
深さ約17mまで回転圧入し,②鋼管杭を打ち込む最も固い対象物がコン
クリートブロック又はコンクリートであった場合は,先端に15個のビッ
トを備えた鋼管杭で,コンクリートブロックやコンクリート(橋台を含
む。),裏込材,土砂に対して深さ約5mまで回転圧入した後,先端に6
個のビットを備えた鋼管杭に取り替え,土砂に対して深さ約17mまで回
転圧入して,連続壁を構築する方法である。鋼管杭同士は,接触していな
いが,壁面に見える程度の状態で列状に並んでいるから,連続壁を形成し
ている。
各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物等は,別紙鋼管杭表の原告らの主
張中の打込対象物欄等記載のとおりである。
ウ本件発明の構成要件Fに対比した構成(f)
被告方法は,連続壁を構築した後,鋼管杭列の河川側のコンクリート護
岸と土砂を除去する方法である。
(被告の主張)
ア本件発明の構成要件Cに対比した構成(c)について
被告方法は,コンクリートブロック層(厚さ約35㎝),その裏側のコ
ンクリート層(ない場合もあるが,ある場合は厚さ約数㎝ないし約10㎝)
で構成されたコンクリート護岸の上端部におけるコンクリートブロック
の数段と背後の土砂等を除去した上で,コウワ機を用いて,①鋼管杭を打
ち込む最も固い対象物が裏込材(ない場合もあるが,ある場合は厚さ約3
0㎝)か土砂になった場合は,先端に9個のビットを備えた鋼管杭で,裏
込材や土砂に対してウォータージェットでほぐしながら回転圧入し,②鋼
管杭を打ち込む最も固い対象物がコンクリートブロック又はコンクリー
トであった場合は,先端に15個のビットを備えた鋼管杭で,コンクリー
トブロックやコンクリートに対して回転圧入した後,先端に9個のビット
を備えた鋼管杭に取り替え,裏込材や土砂に対してウォータージェットで
ほぐしながら回転圧入して,鋼管杭列を構築する方法である。
各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物等は,別紙鋼管杭表の被告の主張
中の打込対象物欄等記載のとおりである。
イ本件発明の構成要件Eに対比した構成(e)について
被告方法は,構築した鋼管杭列に連続し,コンクリート護岸の上端部に
おけるコンクリートブロックの数段と背後の土砂等を除去した上で,鋼管
パイラー機を用いて,①鋼管杭を打ち込む最も固い対象物が裏込材か土砂
になった場合は,先端に6個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材や土砂に
対してウォータージェットでほぐしながら回転圧入し,②鋼管杭を打ち込
む最も固い対象物がコンクリートブロック又はコンクリートであった場
合は,先端に15個のビットを備えた鋼管杭で,コンクリートブロックや
コンクリート(橋台を含む。)に対して回転圧入した後,先端に6個のビ
ットを備えた鋼管杭に取り替え,裏込材や土砂に対してウォータージェッ
トでほぐしながら回転圧入して,鋼管杭列を構築する方法である。鋼管杭
同士は,25㎝の間隔があり,連続壁を形成していないから,被告方法は,
連続壁を構築する方法ではない。
各鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物等は,別紙鋼管杭表の被告の主張
中の打込対象物欄等記載のとおりである。
ウ本件発明の構成要件Fに対比した構成(f)について
被告方法は,連続壁を構築する方法ではない。
(2)争点②(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか)について
(原告らの主張)
ア構成要件Bの充足性
先端にビットを備えた鋼管杭は,回転圧入によって地盤を切断するから,
被告方法において用いた先端に9個又は15個のビットを備えた鋼管杭
は,構成要件Bの「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」に当たる。なお,
本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項2には,「掘削用
鋼管杭」と記載されていて,「切削」と「掘削」とが使い分けられていな
いし,土木工事の分野でも,「切削」と「掘削」とが使い分けられていな
いから,構成要件Bの「切削用鋼管杭」をコンクリートを削り取ることが
できるものに限定すべき理由はない。なお,原告らは,出願時には単に「鋼
管杭」としていたものを,進歩性欠如の拒絶理由通知を受けて,「先端に
ビットを備えた切削用鋼管杭」に限定したが,この「切削用」とは,「先
端にビットを備えた鋼管杭」をより明確に表現したものにすぎないから,
「切削用鋼管杭」は,コンクリートを削り取ることができるものに限定さ
れない。
したがって,被告方法は,構成要件Bを充足する。
イ構成要件Cの充足性
被告方法において鋼管杭を打ち込んだコンクリートブロック,コンクリ
ート,コンクリート製の橋台は,構成要件Cの「コンクリート護岸」に当
たる。また,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」
という。)の発明の詳細な説明の【0001】には,「コンクリート護岸
あるいは石材等で構成した護岸(以下,コンクリート護岸という)」と記
載されている上,「コンクリート護岸」とは,コンクリートブロックとコ
ンクリート,これらを安定させるための裏込材で形成されたコンクリート
系護岸を意味するから,構成要件Cの「コンクリート護岸」とは,土砂以
外の強固な材料で形成された護岸を広く意味し,被告方法において鋼管杭
を打ち込んだ裏込材も,打込みの障害となるから,構成要件Cの「コンク
リート護岸」に当たる。本件特許出願の願書に添付した図面の【図2】,
【図4】ないし【図7】には,均一な材料で形成されたように見えるコン
クリート護岸が示されているが,これは概念図にすぎない。
そして,被告方法における鋼管杭は,少なくとも裏込材を貫通している
から,構成要件Cの「コンクリート護岸を打ち抜」くものに当たるし,仮
に被告方法における鋼管杭が土砂だけを打ち抜いていたとしても,これは
一部にすぎないから,全体として見れば,構成要件Cの「コンクリート護
岸を打ち抜」くことに当たる。
さらに,被告方法における鋼管杭は,少なくとも裏込材を貫通した後,
先端に9個のビットを備えた鋼管杭に取り替えた上で,土砂に対して圧入
されることにより,鋼管杭列を構築している場合があるが,本件発明は,
単一の鋼管杭で圧入して鋼管杭列を構築するとの限定はなく,実施態様の
1つにすぎないから,この場合も構成要件Cの「圧入して鋼管杭列を構築」
することに当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Cを充足する。
ウ構成要件Dの充足性
被告方法における鋼管杭は,構築した鋼管杭列から反力を得ているから,
構成要件Dの「この鋼管杭列から反力を得」ることに当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Dを充足する。
エ構成要件Eの充足性
被告方法において,構築した鋼管杭列に連続し,先端に6個又は15個
のビットを備えた鋼管杭で,コンクリートブロック,コンクリート又は裏
込材に対して深さ約17mまで回転圧入するという方法は,構成要件Eの
「上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリー
ト護岸を打ち抜」くことに当たる。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の【0013】には,「鋼管杭列
PLは,鋼管杭Pを連続的に圧入したものであるが,…一定の間隔を有し
て圧入することもできる。」と記載されているから,構成要件Eの「連続
壁」は,鋼管杭同士が接触している必要はなく,壁面として見られる程度
の状態で列状に並んでいる鋼管杭列は,構成要件Eの「連続壁」に当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Eを充足する。
オ構成要件Fの充足性
被告方法において,連続壁を構築した後,鋼管杭列の河川側のコンクリ
ート護岸と土砂を除去するという方法は,構成要件Fの「その後,上記鋼
管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する」ことに当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Fを充足する。
カ以上のとおりであって,被告方法は,構成要件AないしGを充足するか
ら,本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア構成要件Bの充足性について
切削とは,金属や固い岩盤等,硬い物を削り取ることを意味する。また,
構成要件Bの「鋼管杭」は,構成要件Cの「コンクリート護岸を打ち抜」
く必要がある。そして,原告らは,「鋼管杭」を「先端にビットを備えた
切削用鋼管杭」に限定したのであるから,構成要件Bの「切削用鋼管杭」
は,コンクリートを削り取ることができるものに限定すべきである。
被告方法において用いた先端に15個のビットを備えた鋼管杭は,コン
クリートを削り取ることができるから,構成要件Bの「先端にビットを備
えた切削用鋼管杭」に当たるが,先端に9個のビットを備えた鋼管杭は,
コンクリートを削り取ることができないから,構成要件Bの「先端にビッ
トを備えた切削用鋼管杭」に当たらない。
したがって,被告方法の一部は,構成要件Bを充足しない。
イ構成要件Cの充足性について
本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1には,「コン
クリート護岸」が石材等で構成した護岸を含む旨の記載がない上,仮に「コ
ンクリート護岸」が石材等で構成した護岸を含むとしても,川岸を保護す
るために水流では容易に流されない石垣等を含むにすぎないのであって,
水を抜くために栗石や砂利等で構成される裏込材は,水流で容易に流さ
れ,川岸を保護するものではないから,石材等で構成した護岸に含まれな
い。また,護岸は,法覆工,基礎工及び根固工で構成され,これらに裏込
材は含まれない。なお,仮に「コンクリート護岸」がコンクリート系護岸
を意味するとしても,コンクリート系護岸が何で形成されているかは必ず
しも明確ではない。そうであるから,被告方法において鋼管杭を打ち込ん
だ裏込材や土砂は,構成要件Cの「コンクリート護岸」に当たらない。
仮に裏込材が構成要件Cの「コンクリート護岸」に当たるとしても,裏
込材は鋼管杭から回転圧入を受けると鋼管杭の内外に移動するから,被告
方法における鋼管杭は,構成要件Cの「コンクリート護岸を打ち抜」くも
のに当たらない。
さらに,先端に15個のビットを備えた鋼管杭で,コンクリートブロッ
クやコンクリートに対して回転圧入する場合であっても,特許請求の範囲
や本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,同一の切削用鋼管杭で
鋼管杭列を構築するものであるから,先端に9個のビットを備えた鋼管杭
に取り替えた上で,裏込材や土砂に対して回転圧入して,鋼管杭列を構築
するものは,構成要件Cの「圧入して鋼管杭列を構築」することに当たら
ない。
したがって,被告方法は,構成要件Cを充足しない。
ウ構成要件Dの充足性について
構成要件Dの「この鋼管杭列」は,切削用鋼管杭で構築した鋼管杭列を
指すから,被告方法において先端に9個のビットを備えた鋼管杭で構築し
た鋼管杭列は,構成要件Dの「この鋼管杭列」に当たらない。
したがって,被告方法は,構成要件Dを充足しない。
エ構成要件Eの充足性について
構成要件Eの「上記鋼管杭列」は,切削用鋼管杭で構築した鋼管杭列を
指すから,被告方法において先端に9個のビットを備えた鋼管杭で構築し
た鋼管杭列は,構成要件Eの「上記鋼管杭列」に当たらない。
また,前記アと同様に,被告方法において用いた先端に15個のビット
を備えた鋼管杭は,構成要件Eの「上記切削用鋼管杭」に当たるが,先端
に6個のビットを備えた鋼管杭は,構成要件Eの「上記切削用鋼管杭」に
当たらない。
また,特許請求の範囲や本件明細書の発明の詳細な説明の【0015】
の記載によれば,同一の鋼管杭圧入装置を用いて切削用鋼管杭を回転圧入
すべきであるから,コウワ機から鋼管パイラー機に取り替えて鋼管杭を回
転圧入するものは,構成要件Eの「上記切削用鋼管杭を回転圧入」するこ
とに当たらない。
また,前記イと同様,被告方法において,裏込材や土砂に対して回転圧
入する方法は,構成要件Eの「コンクリート護岸を打ち抜」くことに当た
らない。
さらに,構成要件Eの「連続壁」は,流水が浸入して土砂を洗い流さな
いよう,鋼管杭同士の間隔がせいぜい1㎝程度までのものに限られるが,
被告方法における鋼管杭列は,その間隔が25㎝もあるから,構成要件E
の「連続壁」に当たらない。
加えて,前記イと同様,先端に15個のビットを備えた鋼管杭で,コン
クリートブロックやコンクリートに対して回転圧入する場合であっても,
特許請求の範囲や本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,同一の
切削用鋼管杭で連続壁を構築するものであるから,先端に6個のビットを
備えた鋼管杭に取り替えた上で,裏込材や土砂に対して回転圧入して,鋼
管杭列を構築するものは,構成要件Eの「連続壁を構築」することに当た
らない。
したがって,被告方法は,構成要件Eを充足しない。
オ構成要件Fの充足性について
構成要件Fの「上記鋼管杭列」は,切削用鋼管杭で構築した鋼管杭列を
指すから,被告方法の先端に9個又は6個のビットを備えた鋼管杭で構築
した鋼管杭列は,構成要件Fの「上記鋼管杭列」に当たらない。
したがって,被告方法は,構成要件Fを充足しない。
カ以上のとおり,被告方法は,構成要件BないしFを充足しないから,本
件発明の技術的範囲に属しない。
(3)争点③(本件発明に係る請求項1が特許無効審判により無効にされるべき
ものと認められるか)について
(被告の主張)
ア公報1及び2記載の発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到容易性
(ア)本件発明と公報1に記載された発明との対比
a公報1に記載された発明
公報1の記載(【請求項5】,【0001】,【0002】,【0
004】,【0008】,【0021】ないし【0023】,【図1
2】,【図13】)によれば,公報1の「鋼管矢板壁」は,本件発明
の「鋼管杭列」及び「連続壁」に相当するから,公報1には,次の発
明が記載されている。
(a)堤防のコンクリート護岸の背後に鋼管杭列を構築し,
(b)上記鋼管杭列に連続して連続壁を構築し,
(c)その後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除
去する
(d)護岸の連続構築方法。
b本件発明と公報1に記載された発明との相違点
本件発明と公報1に記載された発明は,構成要件C及びEの一部,
F及びGの全部において一致し,次の5点で相違する。
(a)本件発明では,鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用い
るのに対し(構成要件A),公報1に記載された発明では,これが
ない点
(b)本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を用いるの
に対し(構成要件B),公報1に記載された発明では,鋼管杭の限
定がない点
(c)本件発明では,堤防のコンクリート護岸を打ち抜いて圧入する
ことにより鋼管杭列を構築するのに対し(構成要件C),公報1に
記載された発明では,堤防のコンクリート護岸の背後に鋼管杭列を
構築する点
(d)本件発明では,構築した鋼管杭列から反力を得るのに対し(構
成要件D),公報1に記載された発明では,これがない点
(e)本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を回転圧入
してコンクリート護岸を打ち抜くのに対し(構成要件E),公報1
に記載された発明では,これがない点
(イ)相違点に係る構成の想到容易性
a公報2に記載された発明
公報2の記載(【0001】,【0006】,【0010】,【0013】,
【0016】,【0018】ないし【0023】,【0026】,【図2】,
【図3】)によれば,公報2の「ケーシング回転掘削機」,「ビット1d
が取り付けられたもの」,「掘削」は,本件発明の「鋼管杭を回転圧入
できる鋼管杭圧入装置」,「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」,「打
ち抜いて圧入」にそれぞれ相当するから,公報2には,次の発明が記
載されている。
(a)鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
(b)先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
(c)地中障害物を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
(d)スパイクウェイト等の反力取り装置によって反力を得ながら,
(e)上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入して地中
障害物を打ち抜いて連続壁を構築する
(f)連続壁の連続構築方法。
なお,公報2には,ハンマーグラブを併用する旨の記載があるが(【0
021】,【図3】),これは,圧入した鋼管杭内の掘削と排土に必要と
なるにすぎず,実質的,経済的にも,硬質地盤に対する鋼管杭の圧入
に必要となるものではない。
b公報3及び4に記載された周知慣用技術
公報3の記載(【0001】,【0007】ないし【0009】,【図1】,
【図2】)及び公報4の記載(【請求項1】,【0001】,【0023】,
【0028】,【図2】ないし【図4】)によれば,公報3の「ケーシン
グチューブ」,「全周回転式オールケーシング掘削機」は,本件発明の
「鋼管杭」,「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置」に相当し,ま
た,掘削は切削を概念上含むので,公報3の「掘削」は,本件発明の
「切削」に相当する。公報3の「岸壁」は,【図1】,【図2】の斜線が
コンクリートを意味し,公報3の「護岸」も,1個当たり1t程度の
被覆石や捨石層で覆われているから,両者は,いずれも本件発明の石
材等で構成した護岸を含む「コンクリート護岸」に相当する。また,
公報4の「ケーシング」,「建込み装置」,「掘削刃」,「鉄筋コンクリー
ト構造物,PC杭その他の地中構造物」は,本件発明の「鋼管杭」,「鋼
管杭圧入装置」,「ビット」,「コンクリート」にそれぞれ相当する。そ
うであるから,次の技術は,周知慣用であった。
(a)鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
(b)先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
(c)コンクリート護岸やコンクリート構造物を打ち抜く方法。
なお,公報3(【0009】)及び公報4(【0003】,【0012】)
には,ハンマーグラブやアースオーガを併用する旨の記載があるが,
これは,後に別の杭を打ち込むため,先に圧入した鋼管杭内の掘削と
排土に必要となるにすぎず,実質的,経済的にも,硬質地盤に対する
鋼管杭の圧入に必要となるものではない。
c公報5ないし7に記載された周知慣用技術
公報5の記載(【請求項1】,【請求項4】,【請求項5】,【0001】,
【0002】,【0004】,【0005】,【0011】ないし【001
5】,【0024】,【0025】,【0040】,【0043】),公報6の
記載(【0001】ないし【0003】,【0009】,【0011】,【0
016】,【0017】,【図1】,【図6】,【図7】)及び公報7の記載(2
欄9行ないし3欄13行,4欄32行ないし6欄5行,【第4図】,【第
5図】)によれば,公報5の「鋼管杭壁」,公報6の「既設の鋼管杭」
及び公報7の「杭列」は,本件発明の「鋼管杭列」及び「連続壁」に
相当するから,次の技術は周知慣用であった。
(a)既設の鋼管杭列から反力を得ながら,
(b)上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を圧入して連続壁を構築する方
法。
d想到容易性
公報1及び2に記載された発明並びに公報3ないし7に記載された
周知慣用技術は,いずれも鋼管杭の構築という同じ技術分野に属して
いる。
また,公報1に記載された発明においては,鋼管杭列を構築する場
所がコンクリート護岸の場合があって,その示唆もあり(【0022】),
公報2の「地中障害物」は,通常,コンクリート構造物を指すから,
公報2に記載された発明を組み合わせたり,公報3及び4に記載され
た周知慣用技術を適用する動機がある。
そして,本件発明は,公報1,3ないし7に記載されている上,公
報1及び2に記載された発明や公報3ないし7に記載された周知慣用
技術の各効果の総和以上の効果を有しないから,本件発明は,公報1
及び2に記載された発明や公報3ないし7に記載された周知慣用技術
から予測困難で顕著な効果を生じない。
したがって,本件発明は,公報1に記載された発明に公報2に記載
された発明を組み合わせ,公報3及び4に記載された周知慣用技術を
適用して,鋼管杭が打ち抜く対象物を「地中障害物」から「コンクリ
ート護岸」に置換するとともに,公報5ないし7に記載された周知慣
用技術を適用して,反力を得る手段を「反力取り装置」から「既設の
鋼管杭列」に置換することにより,当業者が容易に想到することがで
きたものである。
イ公報1及び5に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到
容易性
(ア)本件発明と公報5に記載された発明との対比
a公報5に記載された発明
公報5の記載(【請求項1】,【請求項4】,【請求項5】,【0001】,
【0002】,【0004】,【0005】,【0011】ないし【001
5】,【0024】,【0025】,【0040】,【0043】)によれば,
公報5の「鋼管杭壁」は,本件発明の「鋼管杭列」及び「連続壁」に
相当するから,公報5には,次の発明が記載されている。
(a)鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
(b)鋼管杭を
(c)圧入して鋼管杭列を構築し,
(d)この鋼管杭列から反力を得ながら,
(e)上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を回転圧入して連続壁を構築す
る方法。
b本件発明と公報5に記載された発明との相違点
本件発明と公報5に記載された発明は,構成要件A及びDの全部,
B,C及びEの一部において一致し,次の5点で相違する。
(a)本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を用いるの
に対し(構成要件B),公報5に記載された発明では,鋼管杭を用い
るだけである点
(b)本件発明では,コンクリート護岸を打ち抜くのに対し(構成要
件C),公報5に記載された発明では,これがない点
(c)本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を回転圧入
してコンクリート護岸を打ち抜くのに対し(構成要件E),公報5に
記載された発明では,鋼管杭を回転圧入するだけである点
(d)本件発明では,連続壁を構築した後,鋼管杭列の河川側のコン
クリート護岸と土砂を除去するのに対し(構成要件F),公報5に記
載された発明では,これがない点
(e)本件発明は,護岸の連続構築方法であるのに対し(構成要件G),
公報5に記載された発明では,これがない点
(イ)相違点に係る構成の想到容易性
a公報1に記載された発明は,前記ア(ア)aのとおりである。
b公報3及び4に記載された周知慣用技術は,前記ア(イ)bのとおり
である。
c想到容易性
公報5及び1に記載された発明並びに公報3及び4に記載された周
知慣用技術は,いずれも鋼管杭の構築という同じ技術分野に属してい
る。
また,公報5に記載された発明においては,鋼管杭列を構築する場
所に重要な意味がなく,鋼管杭列をコンクリート護岸に構築しようと
する場合もあるから,公報1に記載された発明を組み合わせたり,公
報3及び4に記載された周知慣用技術を適用する動機がある。
そして,本件発明は,公報5及び1に記載された発明や公報3及び
4に記載された周知慣用技術の各効果の総和以上の効果を有しないか
ら,公報5及び1に記載された発明や公報3及び4に記載された周知
慣用技術から予測困難で顕著な効果を生じない。
したがって,本件発明は,鋼管杭列をコンクリート護岸に構築しよ
うとする場合において,公報5に記載された発明に公報1に記載され
た発明を組み合わせ,公報3及び4に記載された周知慣用技術を適用
して,鋼管杭を「鋼管杭」から「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」
に置換するとともに,鋼管杭列を構築する場所を「コンクリート護岸
の背後」から「コンクリート護岸」に置換することにより,当業者が
容易に想到することができたものである。
ウ公報1ないし3に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想
到容易性
(ア)本件発明と公報1に記載された発明との対比
a公報1に記載された発明は,前記ア(ア)aのとおりである。
b本件発明と公報1に記載された発明との相違点は,前記ア(ア)bの
とおりである。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性
a公報2に記載された発明は,前記ア(イ)aのとおりである。
b公報3に記載された発明
公報3記載の「ケーシングチューブ」,「全周回転式オールケーシン
グ掘削機」,「掘削」,「岸壁」及び「護岸」は,前記ア(イ)bのとおり,
本件発明の「鋼管杭」,「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置」,「切
削」,「コンクリート護岸」にそれぞれ相当し,また,公報3の記載(【0
001】)によれば,土留め杭は鋼管杭列を概念上含み,公報3の「土
留め杭」は,本件発明の「鋼管杭列」,「連続壁」に相当するから,公
報3には,次の発明が記載されている。
(a)鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
(b)先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
(c)コンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
(d)上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコン
クリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築する
(e)護岸の連続構築方法。
c公報4に記載された周知慣用技術は,前記ア(イ)bのとおりである。
d公報5ないし7に記載された周知慣用技術は,前記ア(イ)cのとお
りである。
e想到容易性
公報1ないし3に記載された発明及び公報4ないし7に記載された
周知慣用技術は,いずれも鋼管杭の構築という同じ技術分野に属して
いる。また,公報1に記載された発明については,公報2及び3に記
載された発明を組み合わせたり,公報4及び5に記載された周知慣用
技術を適用する動機がある。そして,本件発明は,公報1ないし3に
記載された発明や公報4ないし7に記載された周知慣用技術から予測
困難で顕著な効果を生じない。
したがって,本件発明は,公報1に記載された発明に公報2及び3
に記載された発明を組み合わせ,公報4ないし7に記載された周知慣
用技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができた
ものである。
エ以上のとおりであって,本件発明に係る請求項1は,特許無効審判によ
り無効にされるべきものと認められる。
(原告らの主張)
ア公報1及び2に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到
容易性について
(ア)本件発明と公報1に記載された発明との対比について
a公報1に記載された発明について
被告の主張は争う。
b本件発明と公報1に記載された発明との相違点について
被告の主張は争う。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a公報2に記載された発明について
公報2の記載(【0021】,【図3】)によれば,実質的,経済
的には,硬質地盤に対して,ケーシング回転掘削機の自重と反力取り
装置のみによっては必要な反力を得られず,ハンマーグラブ等といっ
た大型装置の併用が必要であるから,公報2の「ケーシング回転掘削
機」,「掘削」,「反力」,「回転圧入」は,本件発明の「鋼管杭を
回転圧入できる鋼管杭圧入装置」,「打ち抜いて圧入」,「反力」,
「回転圧入」にいずれも相当しない。
b公報3及び4に記載された周知慣用技術について
公報3の記載(【0009】)及び公報4の記載(【0003】,
【0010】,【0012】,【0014】)によれば,実質的,経
済的には,硬質地盤に対して,ハンマーグラブやアースオーガ等とい
った大型装置の併用が必要であるから,公報3の「全周回転式オール
ケーシング掘削機」,「掘削」は,本件発明の「鋼管杭を回転圧入で
きる鋼管杭圧入装置」,「切削」にいずれも相当しない。
また,公報3の【図2】は,全周回転式オールケーシング掘削機を
用いて岸壁を打ち抜いたように見えるが,当該掘削機は構造物として
の岸壁に損傷を与えるおそれがあり,専用のコンクリートカッター等
を用いて岸壁を打ち抜いたことが技術常識上明らかであるから,公報
3は,鋼管杭圧入装置を用いてコンクリートを打ち抜く方法を開示す
るものではない。
c公報5ないし7に記載された周知慣用技術について
被告の主張は争う。
d想到容易性について
公報1に記載された発明に,公報2に記載された発明を組み合わせ
たり,公報3ないし7に記載された周知慣用技術を適用したりしても,
ハンマーグラブやアースオーガ等といった大型装置を併用するため,
本件発明に到達しない。この点をおくとしても,公報1に記載された
発明は護岸の形成,公報2に記載された発明は鋼管杭列の施工という
異なる技術分野に属するとともに,課題も異なる。
また,公報1に記載された発明は,護岸の背面に鋼管杭列を構築し,
コンクリート護岸に鋼管杭列を構築しないから,地中障害物を掘削す
る公報2に記載された発明と組み合わせたり,コンクリートを掘削す
るという公報3及び4に記載された周知慣用技術を適用したりするこ
とを阻害する要因がある。
さらに,公報2に記載された発明は,ハンマーグラブの併用によっ
て地中障害物を掘削することができるのであるから,既設の鋼管杭か
ら反力を得る公報5ないし7に記載された周知慣用技術を適用する必
要もない。
加えて,本件発明の効果は,公報1,3ないし7に記載されていな
いから,本件発明は,公報1及び2に記載された発明や公報3ないし
7に記載された周知慣用技術から予測困難で顕著な効果を生じた。
したがって,本件発明は,公報1に記載された発明に公報2に記載
された発明を組み合わせたり,公報3ないし7に記載された周知慣用
技術を適用したりすることにより,当業者が容易に想到することがで
きたものではない。
イ公報5及び1に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到
容易性について
(ア)本件発明と公報5に記載された発明との対比について
a公報5に記載された発明について
被告の主張は争う。
b本件発明と公報5に記載された発明との相違点について
被告の主張は争う。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a公報1に記載された発明について
被告の主張は争う。
b公報3及び4に記載された周知慣用技術については,前記ア(イ)b
のとおりである。
c想到容易性について
公報5に記載された発明に公報1に記載された発明を組み合わせた
り,公報3及び4に記載された周知慣用技術を適用したりしても,ハ
ンマーグラブやアースオーガ等といった大型装置を併用するため,本
件発明に到達しない。この点をおくとしても,公報5及び1には,鋼
管杭列をコンクリート護岸に構築するという課題の記載も示唆もな
い。本件特許出願当時は,鋼管杭をコンクリート護岸に対して圧入す
るならば,公報2ないし4記載のとおり,実質的,経済的には,先端
にビットを備えた鋼管杭とハンマーグラブやアースオーガ等の併用が
必要であったが,大がかりな工事となるため,コンクリート護岸を除
去した上で,鋼管杭を土砂に対して圧入する方が合理的であり,上記
課題自体を着想し得なかった。
したがって,本件発明は,公報5に記載された発明に公報1に記載
された発明を組み合わせたり,公報3及び4に記載された周知慣用技
術を適用したりすることにより,当業者が容易に想到することができ
たものではない。
ウ公報1ないし3に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想
到容易性について
(ア)本件発明と公報1に記載された発明との対比について
a公報1に記載された発明について
被告の主張は争う。
b本件発明と公報1に記載された発明との相違点について
被告の主張は争う。
(イ)相違点に係る構成の想到容易性について
a公報2に記載された発明については,前記ア(イ)aのとおりである。
b公報3に記載された発明については,前記ア(イ)bのとおりである。
c公報4に記載された周知慣用技術については,前記ア(イ)bのとお
りである。
d公報5ないし7に記載された周知慣用技術について
被告の主張は争う。
e想到容易性について
公報1に記載された発明に公報2及び3に記載された発明を組み合
わせたり,公報4ないし7に記載された周知慣用技術を適用したりし
ても,本件発明に到達しない。この点をおくとしても,公報1に記載
された発明と公報2に記載された発明は,異なる技術分野に属すると
ともに,課題も異なる。
また,公報1に記載された発明は,公報2及び3に記載された発明
と組み合わせたり,公報4に記載された周知慣用技術を適用したりす
ることを阻害する要因がある。
さらに,公報2に記載された発明は,公報5ないし7に記載された
周知慣用技術を適用する必要もない。
加えて,本件発明は,公報1ないし3に記載された発明や公報4な
いし7に記載された周知慣用技術から予測困難で顕著な効果を生じ
た。
したがって,本件発明は,公報1に記載された発明に公報2及び3
に記載された発明を組み合わせたり,公報4ないし7に記載された周
知慣用技術を適用したりすることにより,当業者が容易に想到するこ
とができたものではない。
エ以上のとおりであって,本件発明に係る請求項1は,特許無効審判によ
り無効にされるべきものと認められない。
(4)争点④(被告の責任及び損害)について
(原告らの主張)
ア被告の責任
本件JVは,平成20年7月ころから,被告方法を使用して本件各工事
を行うことが本件特許権を侵害するものであることを知り,又は過失によ
りこれを知らないで,被告方法を使用したから,原告らは,本件JVの構
成員である被告に対し,本件特許権の侵害により自己が受けた損害の賠償
を請求することができる(商法511条1項)。
イ原告技研の損害
(ア)民法709条による損害額●(省略)●
原告らは,本件発明に係る工法を共同開発し,ジャイロプレス工法と
命名の上,原告技研の完全子会社である株式会社技研施工(以下「技研
施工」という。)に,上記工法を用いた護岸工事を受注させるとともに,
原告新日鐵に対して必要かつ適切なビットを有する鋼管杭を発注させ
て,実績を上げていた。
東京都は,妙正寺川整備工事をジャイロプレス工法で行うことを想定
し,原告らに対して当該工法を用いた工事費の見積りを求めた上で,上
記工法を標準案とする入札公告を行った。原告技研は,本件JVの不法
行為がなければ,技研施工が本件JVから本件各工事を下請として受注
し,粗利から変動経費を控除した限界利益の額に相当する技研施工の株
式価値の上昇益を得ることができたのに,本件JVの不法行為により,
これを得ることができなかった。
本件特許権の侵害により原告技研が受けた損害の額は,本件各工事の
うち鋼管杭の圧入と特殊ビットの鋼管杭への取付けに関する両限界利
益の合計額がこれに相当する。この両限界利益の合計額は,激特1と本
件各工事が両鋼管杭数を異にする以外は同様の工事であるから,技研施
工が元請人の奥村・長田・片倉建設共同企業体(以下「奥村組JV」と
いう。)から激特1を下請として受注して得た上記両限界利益の合計額
を基に算出するのが相当である。
a鋼管杭の圧入に関する限界利益額
鋼管杭の圧入に関し,●(省略)●その限界利益額は,次の計算式
のとおり,●(省略)●となる。なお,東京都は,鋼管杭の圧入に関
する入札予定額を2億9559万8634円と定めたが,元請人と下
請人との間の契約を拘束するものではない上,原告技研の提出した見
積りを不当に切り下げるものであったから,入札予定額を基に算出す
べきではない。
(計算式)●(省略)●
b特殊ビットの鋼管杭への取付けに関する限界利益額
特殊ビットの鋼管杭への取付けに関し,●(省略)●であったとこ
ろ,本件各工事では,732本の鋼管杭が圧入されたから,その限界
利益額は,次の計算式のとおり,●(省略)●となる。
(計算式)●(省略)●
cそうすると,鋼管杭の圧入に関する限界利益額と特殊ビットの鋼管
杭への取付けに関する限界利益額の合計額は,●(省略)●となるか
ら,本件特許権の侵害により原告技研が受けた損害の額は,1割の弁
護士費用である●(省略)●となる。
(イ)特許法102条1項による損害額●(省略)●
仮に前記(ア)の損害額が認められないとしても,本件各工事で圧入さ
れた鋼管杭732本のうち653本が,別紙鋼管杭表のとおり,構築し
た鋼管杭列から反力を得ながら圧入され,明らかに本件特許権を侵害し
たものであるから,本件特許権の侵害により原告技研が受けた損害の額
は,1割の弁護士費用である●(省略)●となる。
(計算式)●(省略)●
(ウ)特許法102条3項による損害額7812万2000

仮に前記(イ)の損害額が認められないとしても,本件発明の実施料率
は,工事代金の6%を下らないところ,本件各工事の工事代金は,合計
23億6764万5000円であるから,本件特許権の侵害により原告
技研が受けた損害の額は,1割の弁護士費用である710万2000円
も加えれば,次の計算式のとおり,7812万2000円となる。
(計算式)23億6764万5000円×0.06÷2+710万2000円≒7812万2000円
ウ原告新日鐵の損害
(ア)民法709条による損害額●(省略)●
原告らは,原告技研がジャイロプレス工法を用いた工事を受注した場
合,原則として原告新日鐵が製造販売する鋼管杭を用いる旨合意してい
た。また,原告新日鐵は,本件特許権の共有者であるから,上記鋼管杭
の使用と引換えに,技研施工が本件JVから本件各工事を受注したり,
本件JVが本件各工事の一部を行うことを許諾することができた。原告
新日鐵は,本件JVの不法行為がなければ,本件JVから本件各工事を
受注した技研施工から鋼管杭を受注し,限界利益相当額の利益を得るこ
とができたのに,本件JVの不法行為により,これを得ることができな
かった。
本件特許権の侵害により原告新日鐵が受けた損害の額は,本件各工事
で販売し得た鋼管杭の限界利益額に相当する。この限界利益額は,●(省
略)●であるから,本件特許権の侵害により原告新日鐵が受けた損害の
額は,1割の弁護士費用である●(省略)●を下らない。
(イ)特許法102条1項による損害額●(省略)●
仮に前記(ア)の損害額が認められないとしても,本件各工事で圧入さ
れた鋼管杭732本のうち653本が,別紙鋼管杭表のとおり,構築し
た鋼管杭列から反力を得ながら圧入され,明らかに本件特許権を侵害し
たものであるから,本件特許権の侵害により原告新日鐵が受けた損害の
額は,1割の弁護士費用である●(省略)●となる。
(計算式)●(省略)●
(ウ)特許法102条3項による損害額7812万2000

仮に前記(イ)の損害額が認められないとしても,前記イ(ウ)に述べた
ように,本件特許権の侵害により原告新日鐵に生じた損害の額は,前記
イ(ウ)と同様,7812万2000円となる。
(被告の主張)
ア被告の責任について
被告方法を使用して本件各工事を行ったのは,本件JVであり,被告で
はないし,本件JVは,平成21年7月2日に鋼管杭の圧入工事を完了し
たが,原告らから警告書を受領したのは同月3日ころであり,そこで初め
て本件特許権の存在を知ったから,仮に被告方法の使用が本件特許権を侵
害するものであったとしても,故意や過失はない。
イ原告技研の損害について
原告技研は,技研施工と別法人であって,本件発明を実施しているとは
いえないから,逸失利益としての民法709条及び特許法102条1項に
よる損害を被っていないし,仮に損害を被ったとしても,東京都は,本件
各工事のうち鋼管杭の圧入に関する入札予定額を2億9559万863
4円と定めたから,これを基に算出すべきである。GRBシステムに係る
費用は,本件発明と関係ない。
また,本件各工事は,本件発明に係る工法を用いなくても,コウワ機を
増やせば,工期内に完成することができたし,東京都も工法として回転圧
入工法を指定しただけであって,代替手段があったから,本件発明の実施
料率は,2.5%を上回ることはない。
さらに,鋼管杭は,コンクリート護岸を最大でも30㎝ほど打ち抜いた
にすぎず,かすっただけである。
ウ原告新日鐵の損害について
原告新日鐵は,本件発明を実施していない。また,技研施工からの鋼管
杭の受注による利益は,原告技研との間の合意に基づく反射的利益にすぎ
ないし,本件JVが原告新日鐵の販売する鋼管杭の使用を義務付けられる
というのであれば,平成21年法律第51号による改正前の私的独占の禁
止及び公正取引の確保に関する法律2条9項に基づき公正取引委員会が
指定した不公正な取引方法(昭和57年同委員会告示第15号)の11(排
他条件付取引)及び13(拘束条件付取引)に該当し,同法19条に違反
するから,正当な利益ではないのであって,原告新日鐵は,鋼管杭の販売
に関する逸失利益としての民法709条及び特許法102条1項による
損害を被っていない。
本件発明の実施料率は,前記イのとおり,2.5%を上回ることはない。
また,鋼管杭は,前記イのとおり,かすっただけである。
第3当裁判所の判断
1争点①(被告方法の構成)について
(1)本件発明の構成要件Cに対比した構成(c)について
証拠(甲3の1,4,7,8の1,13の1及び3,14の1,27,3
7,乙7,8,15の3,5及び6,33の1ないし5,35,59の5)
及び弁論の全趣旨によれば,被告方法は,コンクリートブロック層(厚さ約
35㎝),その裏側のコンクリート層(厚さ約5㎝ないし約10㎝)及び更
にその裏側の裏込材層(厚さ約30㎝)で構成されたコンクリート護岸(深
さ約3m)の上端部におけるコンクリートブロックの数段と背後の土砂等を
除去した上で,コウワ機を用いて,①鋼管杭を打ち込む最も固い対象物が裏
込材になった場合は,先端に9個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材と土砂
に対して深さ約17mまで回転圧入し,②鋼管杭を打ち込む最も固い対象物
がコンクリートブロック又はコンクリートであった場合は,先端に15個の
ビットを備えた鋼管杭で,コンクリートブロックやコンクリート,裏込材,
土砂に対して深さ約5mまで回転圧入した後,先端に9個のビットを備えた
鋼管杭に取り替え,土砂に対して深さ約17mまで回転圧入して,鋼管杭列
を構築するものであることが認められる。
そして,別紙鋼管杭表の証拠欄記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,各
鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物は,同表の当裁判所の判断(打込対象物)
欄記載のとおりであると認められる。
被告は,裏側のコンクリート層や裏込材層がない場合もあると主張するが,
これを裏付けるような証拠はない上,裏側のコンクリート層や裏込材層がな
ければ,容易に護岸が崩壊するから,これらがない場合があるとは考え難い。
被告の上記主張は,採用することができない。
(2)本件発明の構成要件Eに対比した構成(e)について
証拠(甲3の1,4,7,8の1ないし3,10の1及び2,13の2及
び4,14の1及び2,27,37,53ないし56,58,乙6ないし8,
15の1,2,4,7ないし14,33の1ないし5,36,42の1ない
し14,44の1及び2,50の1ないし6,59の1ないし5)及び弁論
の全趣旨によれば,被告方法は,構築した鋼管杭列に連続し,コンクリート
護岸の上端部におけるコンクリートブロックの数段と背後の土砂等を除去し
た上で,鋼管パイラー機を用いて,①鋼管杭を打ち込む最も固い対象物が裏
込材か土砂になった場合は,先端に6個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材
と土砂に対して深さ約17mまで回転圧入し,②鋼管杭を打ち込む最も固い
対象物がコンクリートブロック又はコンクリートであった場合は,先端に1
5個のビットを備えた鋼管杭で,コンクリートブロックやコンクリート(橋
台を含む。),裏込材,土砂に対して深さ約5mまで回転圧入した後,先端
に6個のビットを備えた鋼管杭に取り替え,土砂に対して深さ約17mまで
回転圧入して,鋼管杭間に25㎝の間隙を有する鋼管杭列を構築するもので
あることが認められる。
そして,別紙鋼管杭表の証拠欄記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,各
鋼管杭を打ち込んだ最も固い対象物は,同表の当裁判所の判断(打込対象物)
欄記載のとおりであると認められる。
(3)本件発明の構成要件Fに対比した構成(f)について
証拠(甲6,8の1及び3,14の1,15の1及び2,乙15の13及
び14,33の4及び5,44の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告方法
は,鋼管杭間に25㎝の間隙を有する鋼管杭列を構築した後,鋼管杭列の河
川側のコンクリート護岸と土砂を除去するものであることが認められる。
2争点②(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1)構成要件Bの充足性について
証拠(甲18ないし21,乙3ないし5)によれば,切削とは,通常,金
属等を切り削ることを意味するが,土木工事の分野では,掘削と同様,地盤
を掘り削ることを意味することが認められる。そして,証拠(甲2)によれ
ば,本件特許の特許請求の範囲の請求項1と請求項2では,いずれも鋼管杭
を「コンクリート護岸」という同一の対象物に圧入するものであるにもかか
わらず,請求項1では「切削用鋼管杭」と記載され,請求項2では「掘削用
鋼管杭」と記載されている上,本件明細書の発明の詳細な説明の【0016】
では,請求項1に係る実施例として,「掘削用鋼管杭」と記載されているこ
とが認められる。これらの事実を総合すれば,構成要件Bの「切削用鋼管杭」
とは,地盤を掘り削ることに用いるための鋼管杭を意味するものと解される。
被告方法における先端に9個及び15個のビットを備えた両鋼管杭は,い
ずれも地盤を掘り削ることに用いるための鋼管杭であるから,構成要件Bの
「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」に当たる。
被告は,原告らが「鋼管杭」を「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」に
限定したから,構成要件Bの「切削用鋼管杭」は,コンクリートを削り取る
ことができるものに限定すべきであると主張する。しかしながら,「切削」
の意味は,前記のとおりであるから,被告の上記主張は,採用することがで
きない。
したがって,被告方法は,構成要件Bを充足する。
(2)構成要件Cの充足性について
ア「コンクリート護岸」について
証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,段落【0
001】に「コンクリート護岸あるいは石材等で構成した護岸(以下,コ
ンクリート護岸という)」と記載されていることが認められる。そして,
証拠(甲2,3の1,4,乙23,24)によれば,護岸とは,川岸や海
岸等を流水等による浸食作用から保護するために,法覆工,基礎工及び根
固工等によって形成される構造物を意味し,コンクリート護岸とは,上記
構造物のうち,法面を主としてコンクリートブロックやコンクリートで被
覆したものをいい,石材等で構成した護岸とは,上記構造物のうち,法面
を主として自然石やこれに類する物で被覆したものをいうこと,コンクリ
ート護岸及び石材等で構成した護岸における法覆工とは,法面をコンクリ
ートブロック,コンクリート,自然石及びこれに類する物で被覆するとと
もに,これらの背面に裏込材を充填する工法を意味するものであることが
認められる。これらの事実を総合すれば,構成要件Cの「コンクリート護
岸」とは,川岸や海岸等を流水等による浸食作用から保護するために,法
覆工,基礎工及び根固工等によって形成され,法面をコンクリートブロッ
ク,コンクリート,自然石又はこれに類する物で被覆するとともに,これ
らの背面に裏込材を充填した構造物を意味するものであると解される。
被告方法における先端に9個又は15個のビットを備えた鋼管杭を打ち
込んだコンクリートブロック,コンクリート及び裏込材は,妙正寺川の川
岸を流水等による浸食作用から保護するために,法覆工,基礎工及び根固
め工等によって形成され,法面をコンクリートブロック及びコンクリート
で被覆するとともに,これらの背面に裏込材を充填した構造物の一部であ
るから,いずれも構成要件Cの「コンクリート護岸」に当たるが,上記鋼
管杭を打ち込んだ土砂は,上記構造物の一部ではないから,構成要件Cの
「コンクリート護岸」に当たらない。
被告は,裏込材につき,栗石や砂利等で構成されるため,水流で容易に
流されて川岸を保護しないから,「コンクリート護岸」に含まれないと主
張する。しかしながら,護岸は,全体として川岸を保護すれば足りるので
あって,護岸の構成要素である裏込材が個々に川岸を保護する必要はない
から,被告の上記主張は,採用することができない。
イ「打ち抜いて」について
被告方法における先端に9個又は15個のビットを備えた鋼管杭は,前
記1(1)のとおり,コンクリート護岸の深さが約3mであるのに対し,い
ずれも約5m以上の深さまで打ち込まれているのであって,上記鋼管杭で
コンクリートブロックやコンクリート,裏込材に対して打ち込む場合は,
コンクリート護岸を貫通しているから,構成要件Cの「コンクリート護岸
を打ち抜」くものに当たる。
この点につき,被告は,裏込材が鋼管杭から回転圧入を受けると鋼管杭
の内外に移動するから,被告方法における鋼管杭が構成要件Cの「コンク
リート護岸を打ち抜」くものに当たらないと主張する。しかしながら,鋼
管杭が「コンクリート護岸」という構造物を打ち抜けば足り,「コンクリ
ート護岸」の構成要素である裏込材を個々に打ち抜く必要はないから,
個々の裏込材が鋼管杭の内外に移動するか否かは関係がない。被告の上記
主張は,採用することができない。
ウその余について
被告方法は,前記1(1)のとおり,コウワ機を用いて,先端に9個又は1
5個のビットを備えた鋼管杭で,裏込材まで貫通した後も,土砂に対して
深さ約17mまで回転圧入して,鋼管杭列を構築するものであり,これは
構成要件Cの「圧入して鋼管杭列を構築」することに当たる。
被告は,「コンクリート護岸を打ち抜い」た切削用鋼管杭と同一の切削
用鋼管杭で「鋼管杭列を構築」すべきものであって,被告方法において鋼
管杭を取り替えた場合は,構成要件Cの「圧入して鋼管杭列を構築」する
ものに当たらないと主張する。しかしながら,特許請求の範囲や本件明細
書の発明の詳細な説明の記載によれば,コンクリート護岸を打ち抜いて圧
入して鋼管杭列を構築するのが,「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」
であれば足り,これが同一の当該鋼管杭であることまでは求められていな
い。被告方法における先端に9個及び15個のビットを備えた両鋼管杭
は,いずれも「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」に当たるのであるか
ら,被告の上記主張は,採用することができない。
もっとも,構成要件Cの「鋼管杭列」は,構成要件Dの「この鋼管杭列」
と同じであり,反力の取得源となるものに限られる。証拠(甲6,7,乙
36)及び弁論の全趣旨によれば,激特2における鋼管杭の打込みは,別
紙鋼管杭表記載1の左岸杭番号1,31,292及び右岸杭番号1,24,
291の鋼管杭を各基点として,上流に向かって行われたこと,鋼管パイ
ラー機は,2本の鋼管杭から反力を得ていたことが認められる。そうであ
れば,被告方法において,別紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄
に「コウワ機」と記載された鋼管杭のうち,反力の取得源となったものは,
別紙鋼管杭表記載1の左岸杭番号3,52,53,306,307及び右
岸杭番号3,47,48,298,299,306,307の鋼管杭に限
られるものというべきである。
エしたがって,被告方法は,別紙鋼管杭表記載1の左岸杭番号3,52,
53,306,307及び右岸杭番号3,47,48,298,299,
306,307の鋼管杭につき,構成要件Cを充足する。
(3)構成要件Dの充足性について
被告方法において,別紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置欄に「パ
イラー機」と記載された鋼管杭につき,構築した鋼管杭列の上に鋼管パイラ
ー機を設置して,鋼管杭列から反力を得ることは,構成要件Dの「この鋼管
杭列から反力を得」ることに当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Dを充足する。
(4)構成要件Eの充足性について
ア「連続壁」以外について
被告方法における先端に6個のビットを備えた鋼管杭は,地盤を掘り削
ることに用いるための鋼管杭であるから,構成要件Eの「上記切削用鋼管
杭」に当たる。
被告方法において,前記1(2)のとおり,構築した鋼管杭列に連続し,鋼
管パイラー機を用いて,先端に6個又は15個のビットを備えた鋼管杭
で,コンクリートブロックやコンクリート(橋台を含む。),裏込材に対
して回転圧入し,裏込材まで貫通した後も,土砂に対して深さ約17mま
で回転圧入することは,構成要件Eの「上記鋼管杭列に連続して上記切削
用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜」くことに当たるが,
被告方法において,土砂のみに対して回転圧入することは,構成要件Eの
「コンクリート護岸を打ち抜」くことに当たらない。
被告は,特許請求の範囲や本件明細書の発明の詳細な説明の【0015】
の記載によれば,コウワ機から鋼管パイラー機に取り替えて鋼管杭を回転
圧入する被告方法は,構成要件Eの「上記切削用鋼管杭を回転圧入」する
ことに当たらないと主張する。証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明
の詳細な説明の段落【0015】には,「構築の最初は鋼管杭圧入機11
は公知の反力架台から反力を得て適宜本数の鋼管杭Pを圧入するのであ
る。そして,この鋼管杭Pに鋼管杭圧入機11を配置し,以後は圧入され
た鋼管杭Pより反力を得て,新たな鋼管杭Pを圧入していくのである。」
と記載されていることが認められる。しかしながら,鋼管杭圧入機が同一
の用語で表現されていたり同一の符号を付されたりしているからといっ
て,当然に同一の鋼管杭圧入機である必要はなく,「鋼管杭を回転圧入で
きる鋼管杭圧入装置」を用いれば足りるから,被告の上記主張は,採用す
ることができない。
イ「連続壁」について
証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明
の実施例として,段落【0013】に「鋼管杭PLは,鋼管杭Pを連続的
に圧入したものであるが,鋼管杭P,P同士を互いに接触して圧入するこ
ともでき,一定の間隔を有して圧入することもできる。」,段落【001
6】にも「鋼管杭Pは,既設の鋼管杭Pと接触して圧入しても良いが,一
定の距離をおいて圧入しても良い。」と記載されていることが認められる。
これらの事実を総合すれば,構成要件Eの「連続壁」とは,鋼管杭同士が
接触して並び,又は一定の間隔を空けて並ぶことにより,壁状に配置され
ていると認識することができる鋼管杭列を意味するものと解される。
被告方法における鋼管杭列は,前記1(2)のとおり,鋼管杭同士が25㎝
の間隔を空けて並んでいるが,証拠(甲7,8の3,14の1,27,乙
15の13及び14,33の4,59の2及び4)によれば,鋼管杭の直
径が1mであることが認められ,これらの事実によれば,鋼管杭列が壁状
に配置されていると認識することができるから,構成要件Eの「連続壁」
に当たる。
ウしたがって,被告方法は,別紙鋼管杭表の前提事実中の鋼管杭圧入装置
欄に「パイラー機」と記載された鋼管杭のうち,前提事実中又は当裁判所
の判断中の各打込対象物欄に「コンクリートブロック」,「コンクリート」,
「橋台」又は「裏込材」と記載された鋼管杭(同表記載1の左岸杭番号1,
2,4ないし30,54ないし291,308ないし328,334ない
し336及び右岸杭番号1,2,4ないし23,52ないし290,30
0ないし303,308ないし328,337ないし339,並びに,同
表記載2の左岸杭番号1ないし28及び右岸杭番号1ないし29の鋼管
杭)に限り,構成要件Eを充足する。
(5)構成要件Fの充足性について
被告方法において,前記1(3)のとおり,鋼管杭間に25㎝の間隙を有する
鋼管杭列を構築した後,鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去
することは,構成要件Fの「その後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート
護岸と土砂を除去する」ことに当たる。
したがって,被告方法は,構成要件Fを充足する。
(6)以上によれば,被告方法は,別紙鋼管杭表1記載の左岸杭番号1ないし3
0,52ないし291,306ないし328,334ないし336及び右岸
杭番号1ないし23,52ないし290,298ないし303,306ない
し328,337ないし339,並びに,同表2記載の左岸杭番号1ないし
28及び右岸杭番号1ないし29の鋼管杭に係るものに限り,本件発明の技
術的範囲に属する(激特2の右岸杭番号47及び48は,同49が土砂に対
して圧入するものなので,属しない。)。
3争点③(本件発明に係る請求項1が特許無効審判により無効にされるべきも
のと認められるか)について
(1)証拠(乙9の1ないし7)によれば,公報1ないし7には,それぞれ次の
記載があることが認められる。
ア公報1(別紙公報1添付図面参照)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項5】既存の護岸の背面に鋼矢板壁(1)
を構築し,この鋼矢板壁(1)の頂部に走行レール(6)を設置し,この走行
レール(6)により走行自在な移動構台(7)を両岸の走行レール(6)にまた
がって載置し,鋼矢板壁(1)内側の工事を前記移動構台(7)上から行うこ
とを特徴とする都市河川の改修工法。」
(イ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,周囲に空地のない
都市河川における河川改修工法に関する。
【0002】【従来の技術】近年,市街地を流れるいわゆる都市河川
の台風や集中豪雨の際の氾濫が社会問題となっている。ところが,これ
ら都市河川は周囲を住宅や道路に囲まれ,拡幅や堤防のかさ上げ等がほ
とんど不可能であるばかりでなく,工事に伴う資材,機材のためのスペ
ースの確保も困難であり,騒音等の環境面の制約もきびしい。したがっ
て,何らかの対策を迫られているものの,これらの条件にかなった採用
可能な工法を模索しているのが実情である。」
(ウ)「【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記の
諸問題を解消し,後背地が狭小な都市部においても施工が可能で,環境
破壊のおそれもなく,比較的短い工期で効率的に河川改修を行うことの
できる都市河川改修工法を実現することを目的とする。」
(エ)「【課題を解決するための手段】…【0008】請求項5に記載の
本発明は,既存の護岸の背面に鋼矢板壁を構築し,この鋼矢板壁の頂部
に走行レールを設置し,この走行レールにより走行自在な移動構台を両
岸の走行レールにまたがって載置し,鋼矢板壁内側の工事を前記移動構
台上から行うことを特徴とする都市河川の改修工法である。」
(オ)「【0021】…実施例3
本発明の都市河川改修工法の第3の実施例として,河川の拡幅を行う
場合を図12,13により説明する。
【0022】このケースでは,拡幅する護岸の位置に合わせて,既存
の河川の背面に鋼管矢板壁を構築することが必要である。この鋼管矢板
壁を,十分な支持力のあるものとすれば,実施例1,2におけるごとき
腹起こしや切梁の取り付けを省略し,鋼管矢板壁1の頂部に直接走行レ
ール6を取り付けることができる。図12は,既存の護岸の外側に鋼管
矢板壁1を構築し,その頂部に取り付けた両岸の走行レール6にまたが
って移動構台7を載置し,この上から作業を行っている状況を示す。た
とえば,河川の上流側または下流側へ向かって鋼管矢板壁を延長する作
業は,この移動構台7上に載置したクレーンCを使用して行うことがで
きる。なお,前記鋼管矢板壁を鋼管杭やH形矢板またはH形杭に変更し
てもよい。
【0023】図13は,移動構台7上のコンクリート破砕機により既
存の護岸Pを解体し,パワーショベルによってこれを搬出している状況
を示している。既存の護岸Pを撤去し,内部地盤の掘削を行い,鋼管矢
板壁1を新たな護岸として拡幅を完了する。この実施例でも,このよう
に河川上空を作業基地として有効利用して改修工事を行うことができ
る。
【0024】【発明の効果】本発明によれば,河川上空を作業基地と
して使用するので後背地が狭小な都市河川においても施工が容易であ
り,またすべての作業を流水状態のままで行うことができるため工期が
短く,工費も少なくてすむなど,多くのすぐれた効果を奏する。」
イ公報2(別紙公報2添付図面参照)
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,建築現場での
土留めや仕切りとして,鋼管を柱列状に連結して形成する鋼管杭壁およ
びその施工方法に関するものである。
【0002】【従来の技術】建築現場では土留めや仕切りとして,鋼
管を柱列状に連結して形成する鋼管杭壁が用いられている。従来,この
鋼管杭壁は鋼管の外周にジャンクションと称する継手金具が溶接され
た鋼管矢板を使用している。」
(イ)「【0005】【発明が解決しようとする課題】こうした従来の鋼
管矢板による鋼管杭壁の施工では,油圧ハンマまたはバイブロハンマに
よって鋼管矢板を打ち込むので,騒音および振動が大きく,ときには周
囲の地盤の沈下を招くといった問題がある。
【0006】また,硬い地質や転石・玉石の多い地質,あるいは地中
に障害物がある場合には,予め別のケーシング回転掘削機で施工すべき
鋼管矢板より大径のケーシングで掘削し,内部の土をハンマグラブなど
で取り除いて新たな土を埋め,ケーシングを回収する置換施工を行なう
などして,鋼管矢板を打ち込み易くしなければならないといった問題が
ある。
【0007】このため,施工手順が増えたり,施工のための機材もそ
の土質によって種々のものを必要とし,したがって,施工費用が嵩み工
期がかかっている。そこで,本発明は,効率的に施工できる鋼管杭壁と
その施工方法を提供することを目的としている。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】…【0010】本発明の鋼管杭壁
に使用される鋼管杭は,従来の鋼管矢板のように鋼管外周に突起した継
手金具を備えていないことを特徴としており,回転圧入によって施工で
きる。なお,鋼管杭壁は,直線状に施工されるものに限らず曲線状のも
のも含まれ,また,上面から見てT字状やL字状のように施工されるも
のも含まれる。」
(エ)「【0013】本発明の鋼管杭壁の施工においては,ケーシング回
転掘削機を使用するが,このケーシング掘削機はケーシングを把持して
回転させつつ地中へ押し込むもので,場所打ち杭に使用される公知の施
工機である。断面C型の継手の打設は,油圧ハンマやバイブロハンマに
よってもよいし,ケーシング回転掘削機に押込み用のアタッチメントを
付設して,押込みのシリンダを作動させて行ってもよい。」
(オ)「【発明の実施の形態】…【0016】鋼管杭は,この例では図1
に示すように,断面が円筒で,長手方向へ円周上2カ所に,内側へ円弧
状に凹む継手係合部1a,1bが設けられている。そして,鋼管杭の下
端部1c(図3参照)は回転掘削できるようにノコギリ状に形成されて
いる。なお,軟弱地盤ではフラット(ノコギリ状の形成がないもの)の
ものを用い,硬質地盤では図3の右図に示すようにケーシング掘削で用
いられるビット1dが取り付けられたものを使用する。」
(カ)「【0018】ケーシング回転掘削機10は,ベースフレーム12
上に複数のスラストシリンダ15によって連結された昇降フレーム1
1に鋼管杭1を把持して回転させる把持装置と回転装置が設けられた
もので,ベースフレーム12にはケーシング回転掘削機10の水平を出
すための水平ジャッキ14が設けられている。
【0019】また,ベースフレーム12には図示しないスパイクウエ
イトなどの反力取り装置が取り付けられ,回転と押込みの反力が取れる
ようになっている。鋼管杭壁の施工は,まず,水平ジャッキ14でケー
シング回転掘削機10の水平を出し,鋼管が鉛直に施工されるようにす
る。
【0020】次に,鋼管杭1をクレーンで上方からケーシング回転掘
削機10に挿通して,把持装置で把持し,回転装置を作動させて回転さ
せスラストシリンダ15を作動させて地中へ押し込む。そして,スラス
トシリンダ15が縮小してストロークエンドまでくると,鋼管杭1の把
持を解除し,スラストシリンダ15を伸長させて鋼管杭1を再度把持し,
掘進させる。この動作を繰り返して行うことにより鋼管杭1は所定の深
さに建て込まれる。
【0021】軟弱地盤では押込みのみで建て込むことができるが,一
般および硬質地盤では鋼管の下端に取り付けられたビット1d(図3参
照)で地盤を掘削し,ハンマグラブ30などで鋼管内の土を掘削しなが
ら掘進させる。鋼管杭1が所定深さまで建込まれたら,継手係合部1a,
1bが施工の基準線上に向くように位置させる(図2(a))。なお,鋼
管内の土を掘削した場合は,掘削土を鋼管内へ埋め戻してもよい。
【0022】次に,ケーシング回転掘削機10を移動させ,鋼管杭1
の中心がB点になるように位置させて,次の鋼管杭1を建て込む。そし
て,B点の鋼管杭1もその継手係合部1a,1bを施工の基準線上を向
くように位置させる(図2(b))。即ち,A点の鋼管杭1の継手係合部
1bとB点の鋼管杭1の継手係合部1aとが対向するように建て込む。
【0023】次に,ケーシング回転掘削機10を移動させ,油圧ハン
マまたはバイブロハンマあるいはケーシング回転掘削機10に押込み用
のアタッチメントを付設したものによって継手2を継手係合部1a,1
bに圧入打設する(図2(c))。次に,ケーシング回転掘削機10をB
点より右の図示しないC点に位置合わせをして,上記と同じ動作によっ
て鋼管杭1を建て込む。このようにして,順次鋼管杭1の建込みと継手
の打設を行って鋼管杭壁を構築する。」
(キ)「【発明の効果】…【0026】また,本発明の鋼管杭壁の施工方
法は,ケーシング回転掘削機で回転圧入して施工され,軟弱地盤では圧
入のみで作業できるので騒音振動が少なく,さらに硬い地質や転石・玉
石の多い地質あるいは地中に障害物がある場合でも,鋼管下端のビット
で地盤を掘削し鋼管内を掘削することにより,十分鋼管杭を建て込むこ
とができるので,予め土の置換施工を行う必要がなく,施工工期を短縮
できる。」
ウ公報3(別紙公報3添付図面参照)
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,護岸や玉石
などを多く含む地盤に基礎杭,あるいは土留め杭などの地中構造物を築
造するさいにおける杭打込み用孔の形成方法に関する。
【0002】【従来の技術】一般に,例えば河川や海岸においては,
地盤の表面に捨石などを敷設して所要の護岸が構築せしめられている。
ところで,かかる護岸個所に基礎杭や土留め杭などの地中構造物を築造
する場合には,従来より,予め地中にベノトマシンや全周回転式オール
ケーシング掘削機などにより所要深の掘削孔を掘削形成すると共に,該
掘削孔内にケーシングチューブを挿入せしめ,該ケーシングチューブ内
に砂などの置換材を投入して掘削孔深とほぼ同高に充填せしめたのち,
ケーシングチューブを引抜くことにより掘削孔を置換材でもって埋め戻
し,杭打込み用孔を形成するものとされている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来例
は単に掘削孔に砂などの置換材を充填せしめたにすぎないものであるか
ら,海中であることとも相まって時間の経過と共に沈下してその上に捨
石などが堆積したり,あるいは,掘削孔壁個所の捨石が置換材中に侵入
しやすいものである。このため,基礎杭などを打込むさいにはかかる捨
石が障害物となってスムーズな打込みが阻害され,本来の杭打込み用孔
としての機能を喪失しやすいものである。」
(イ)「【0007】【実施例】以下に,この発明の一実施例を図面に示
す掘削機に基づいて説明する。1は全周回転式オールケーシング掘削機,
2は該全周回転式オールケーシング掘削機1を構成する垂直状のケーシ
ングチューブで,該ケーシングチューブ2は昇降自在とされると共に所
定方向に回転自在とされ,かつ,その下端縁には掘削ビット3が周設さ
れている。4は全周回転式オールケーシング掘削機1と協働作動せしめ
るクローラークレーン,5は該クローラークレーン4のブーム6に牽引
ロープ7を介して牽引自在に吊設されたハンマーグラブである。
【0008】8は堤防の法面に沿って築造された護岸で,該護岸8は
地盤9の表面に堆積された盛砂層10と,該盛砂層10の表面を覆うべ
く多数の基礎捨石11でもって所要の厚さに敷設された捨石層12とよ
り形成されている。13は捨石層12個所に構築された既設岸壁である。
その他,14は掘削孔,15は砂などよりなる置換材,16は該置換材
15を充填せしめる合成繊維製袋体,17は杭打込み用孔で,上記の袋
体16は所定の掘削孔深とほぼ同高になるように構成されている。
【0009】次に,既設の岸壁13を補強すべく,全周回転式オール
ケーシング掘削機1とクローラークレーン4の協働による杭打ち用孔1
7の形成状態について説明する。まず,岸壁13上の所定個所に全周回
転式オールケーシング掘削機1とクローラークレーン4を各々設置せし
めると共に,ケーシングチューブ2を所定の杭芯上に位置せしめるべく
調整する(図2A参照)。しかるのち,ケーシングチューブ2を回転せ
しめつつ下降作動せしめ,掘削ビット3により捨石層12を順次掘削す
ると共に,ケーシングチューブ2内に牽引ロープ7を介して挿入せしめ
たハンマーグラブ5を掘削面に落下せしめて打込み,掘削捨石11を掴
み取って外方に排出せしめつつ掘削孔14を掘削形成せしめる(図2
B・C参照)。このさい,ケーシングチューブ2を回転せしめつつ下降
作動せしめて掘削するため,掘削孔壁からの捨石11の崩落は確実に防
止される。そして,捨石層12の掘削が終了した時点でケーシングチュ
ーブ2の回転を停止せしめると共に下降を停止せしめて掘削孔14内に
残留せしめ,かつ,ケーシングチューブ2内よりハンマーグラブ5を外
方に抜き去る。しかるのち,ケーシングチューブ2内に針金などの吊設
部材(図示略)を介して袋体16を開口状態に吊設せしめ,上方より袋
体16内に砂などの置換材15を投入して充填せしめる(図2D・E参
照)。置換材15の投入が完了すると,吊設部材より袋体16を解放せ
しめると共に,ケーシングチューブ2を上昇作動せしめて抜き去り,掘
削孔14を置換材15でもって埋め戻すことにより杭打込み用孔17を
形成せしめる(図2F参照)。このさい,置換材15により埋め戻し形
成された杭打込み用孔17は,袋体16でもって掘削孔14壁と置換材
15との間を確実に隔離せしめるため,掘削孔14壁からの捨石11の
侵入を確実に防止せしめ得るものである。」
エ公報4(別紙公報4添付図面参照)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】先端に掘削刃を設け,外周をチ
ャックされながら回転推進されて地盤に挿入される掘削ケーシングにお
いて,掘削ケーシングの先端近傍の外周部分にこのケーシング周面を旋
回する突条を形成したことを特徴とする掘削ケーシング。」
(イ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,大深度掘削,
柱列連続壁,地中障害物切削,転石切削,岩盤切削等を施工するのに使
用する掘削ケーシングに関するものである。
【0002】【従来の技術】杭孔掘削にはオーガスクリュー軸を回転
させて錐モミ状に地盤に挿入するアースオーガがよく使用されるが,か
かるオーガスクリューでは岩盤や転石の多い硬質地盤ではその掘削能力
に限界があり,掘削径も大きいものは不可能である。
【0003】これに対して,単軸掘削の場合はオーガスクリューの周
囲に鋼管ケーシングを配置し,かつ,この鋼管ケーシングとオーガスク
リューとを相互に逆向きに回転させて地盤に切り込むケーシングオーガ
工法も周知である。特に鋼管ケーシングの先端に掘削刃を設け,この鋼
管ケーシングで地盤をドーナツ状に切取り,その内部をオーガスクリュ
ーて掘削排土するようにすれば,オーガスクリューへの負荷を軽減する
ことができ,掘削能力を高めることができる。」
(ウ)「【0009】そこで,岩盤や転石の多い硬質地盤でも大口径の削
孔が可能なために,ケーシングを大口径のものとしてこれを回転駆動す
る技術がもとめられ,それを実現するものとして,図8,図9に示すよ
うにケーシング4の外周をたが状に締め付けるチャック装置7とこのチ
ャック装置7を回転駆動するモーターや減速機等の駆動装置8と,これ
らチャック装置7および駆動装置8を上下動する油圧シリンダーによる
昇降シリンダー9とからなる建込み装置10を用いたオールケーシング
工法がある。
【0010】図9中11は建込み装置10を水平に設置する水平ジャ
ッキによるアウトリガー,12はチャック装置7の締めつけ機構として
のクサビ,13はクサビ12の係脱用シリンダーで,この例はクサビ型
チャック機構としたが,これ以外に小シリンダーで輪を閉じるバンド式
のチャック機構のものでもよい。
【0011】図10~図13に場所打ち杭施工における一般な作業工
程を示すと,建込み装置10を据え付け,最初のケーシング4をその外
周をチャック装置7で締め付け固定し,駆動装置8でこのチャック装置
7を回転させると同時に昇降シリンダー9をフリーとすればケーシング
4は地盤に挿入される。
【0012】このようにケーシング4を連続回転させて削孔して押し
込みを行い,ハンマーグラブ14を掘削手段としてケーシング4内に上
から差し入れて掘削・排土する。かかる掘削・排土はケーシング4内が
地盤からコア状に切断された部分となるので岩盤等の硬質地盤でもハン
マーグラブ14で可能となる。」
(エ)「【0014】【発明が解決しようとする課題】しかし,前記建込
み装置10による大口径のケーシング4は,掘削する地盤が岩盤,転石,
既存構造物等の硬質なものである場合は,外周面に対する地盤からの摩
擦抵抗が大きく加えられ,回転トルクが消耗され,また,浮き上がり力
が加えられるなどして掘削効率が悪くなる。
【0015】本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し,チャック
装置による建込み装置で大口径のケーシングを硬質地盤に建込む場合で
も,地盤の摩擦抵抗を減らし,効率良く削孔できる掘削ケーシングを提
供することにある。」
(オ)「【0022】【発明の実施の形態】以下,図面について本発明の
実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の掘削ケーシングの1実施
形態を示す斜視図,図2は同上要部の一部切欠いた正面図で,前記従来
例を示す図8と同一構成要素には同一参照符号を付したものである。
【0023】本発明の掘削ケーシングも前記図8,図9に示すように,
ケーシング4の外周をたが状に締め付けるチャック装置7とこのチャッ
ク装置7を回転駆動するモーターや減速機等の駆動装置8と,これらチ
ャック装置7および駆動装置8を上下動する油圧シリンダーによる昇降
シリンダー9とからなる建込み装置10により,外周をチャックされな
がら回転推進されて地盤に挿入される掘削ケーシングで,先端には掘削
刃5を設けたものである。」
(カ)「【0028】このようにして突条15を先端近傍の外周部に設け
た本発明のケーシング4は,岩盤切削の他に特に図3に示すように転石
16を切削するような場合や図4に示すように旧建物の鉄筋コンクリー
ト構造物,PC杭その他の地中構造物17を切削するような場合におい
て,この切削される側は突条15がまず接し,突条15間には空隙αが
できるので摩擦抵抗が減り,浮き上がり力を受けることも少なくなる。」
オ公報5(別紙公報5添付図面参照)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】既設の杭から反力を取って地中に
杭を圧入する杭圧入装置に設けられるチャック装置であって,前記杭を
つかむチャック手段と,このチャック手段を少なくとも一つの回転方向
に連続的に回転させることによって,このチャック手段によりつかまれ
た杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に回転可能な回転手段と,を
備えることを特徴とするチャック装置。」
(イ)「【請求項4】既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する杭圧入
装置であって,請求項1~3のいずれかに記載のチャック装置と,この
チャック装置を昇降させる昇降手段と,を備え,前記既設の杭から反力
を取った状態で,杭をつかんだ状態のチャック手段を回転手段により少
なくとも一つの回転方向に連続的に回転させながら,前記昇降手段によ
り前記チャック装置を昇降させることによって,前記杭を少なくとも一
つの回転方向に連続的に回転させながら地中に圧入することを特徴とす
る杭圧入装置。
【請求項5】請求項4記載の杭圧入装置を用いて,既設の杭から反力
を取って地中に杭を圧入する杭圧入工法であって,既設の杭から反力を
取った状態で,杭をつかんだ状態のチャック手段を回転手段により少な
くとも一つの回転方向に連続的に回転させながら,前記昇降手段により
前記チャック装置を昇降させることによって,前記杭を少なくとも一つ
の回転方向に連続的に回転させながら地中に圧入することを特徴とする
杭圧入工法。」
(ウ)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,既設の杭から反
力を取って地中に杭を圧入する杭圧入装置に設けられるチャック装置,
このチャック装置を備える杭圧入装置,および,この杭圧入装置を用い
た杭圧入工法に関する。
【0002】【従来の技術】従来より,鋼管杭壁の構築に用いられる装
置として,既設の鋼管杭から反力を取って地中に鋼管杭を圧入する杭圧
入装置が知られている。このような杭圧入装置には,既に打ち込まれた
鋼管杭をつかむクランプと,地中に圧入する鋼管杭をつかんで支持する
チャックが設けられている。前記クランプにより既設の鋼管杭をつかん
で反力をとった状態で,圧入する鋼管杭をつかんだ状態のチャックを降
下させることによって,鋼管杭を地中に圧入できるようになっている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】ところで,上述の従来の
杭圧入装置では,杭は回転させないか,所定角度範囲内で鋼管杭を揺動
回転させながら地中に圧入するようになっていたが,鋼管杭の周面抵抗
が大きく,鋼管杭を圧入しづらい,という問題が生じていた。本発明の
課題は,杭を圧入する際の抵抗力を軽減して,より効率よく杭を圧入で
きるようにすることである。
【0004】【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するため,
請求項1記載の発明は,例えば,図1および図2に示すように,既設の
杭から反力を取って地中に杭(鋼管杭P)を圧入する杭圧入装置(1)に設
けられるチャック装置(2)であって,前記杭をつかむチャック手段(チャ
ック部4)と,このチャック手段を少なくとも一つの回転方向に連続的
に回転させることによって,このチャック手段によりつかまれた杭を少
なくとも一つの回転方向に連続的に回転可能な回転手段(油圧モータ3
4,ギヤ35)と,を備えることを特徴とする。
【0005】請求項1記載の発明によれば,チャック装置は前記チャ
ック手段と前記回転手段とを備えるので,杭がつかまれた状態のチャッ
ク手段を回転手段が少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させる
と,前記杭が少なくとも一つの回転方向に連続的に回転する。したがっ
て,杭圧入装置により既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する際
に,請求項1記載のチャック装置によって,杭を少なくとも一つの回転
方向に連続的に回転させながら地中に圧入できる。これにより,杭圧入
時の抵抗力を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭を圧
入することができる。また,杭圧入時の抵抗力を軽減できるので,外周
に羽根や突条などが設けられた回転鋼管杭などであっても,容易に地中
に圧入することができる。」
(エ)「【0011】請求項4記載の発明は,既設の杭から反力を取って地
中に杭を圧入する杭圧入装置であって,請求項1~3のいずれかに記載
のチャック装置と,このチャック装置を昇降させる昇降手段(油圧シリ
ンダ12)と,を備え,前記既設の杭から反力を取った状態で,杭をつ
かんだ状態のチャック手段を回転手段により少なくとも一つの回転方向
に連続的に回転させながら,前記昇降手段により前記チャック装置を昇
降させることによって,前記杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に
回転させながら地中に圧入することを特徴とする。
【0012】請求項4記載の発明によれば,既設の杭から反力を取っ
た状態で,杭をつかんだ状態のチャック手段が,回転手段により少なく
とも一つの回転方向に連続的に回転しながら,昇降手段により昇降する。
これにより,チャック手段によってつかまれた杭が,少なくとも一つの
回転方向に連続的に回転しながら,地中に圧入される。したがって,杭
圧入時の抵抗力を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭
を圧入することができる。また,杭圧入時の抵抗力を軽減できるので,
外周に羽根や突条などが設けられた回転鋼管杭などであっても,容易に
地中に圧入することができる。
【0013】請求項5記載の発明は,請求項4記載の杭圧入装置を用
いて,既設の杭から反力を取って地中に杭を圧入する杭圧入工法であっ
て,既設の杭から反力を取った状態で,杭をつかんだ状態のチャック手
段を回転手段により少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させなが
ら,前記昇降手段により前記チャック装置を昇降させることによって,
前記杭を少なくとも一つの回転方向に連続的に回転させながら地中に圧
入することを特徴とする。請求項5記載の発明によれば,請求項4記載
の発明と同様の効果が得られる。
【0014】【発明の実施の形態】以下,この発明の実施の形態につい
て,図面を参照しながら説明する。図1に示すように,本発明の一実施
の形態例のチャック装置2は,地中に打ち込まれた既設の鋼管杭から反
力を取って鋼管杭Pを地中に圧入する杭圧入装置1に設けられている。
【0015】杭圧入装置1は,従来の杭圧入装置と同様に,図示して
いない既設の鋼管杭をつかむクランプを下部に備えたサドル(図示略)
と,サドルに対して前後にスライド移動するスライドベース(図示略)
と,スライドベース上で旋回する旋回部10(図1においては,先端部
のみ図示)と,旋回部10の前方に設けられるチャック装置2と,を備
えて構成されている。旋回部10の先端側には,上下方向に延在する二
つのガイド溝11が,その開口側を互いに向き合わせて,間隔をあけて
設けられている。」
(オ)「【発明の実施の形態】…【0024】次に,以上の構成の杭圧入装
置1により鋼管杭Pを地中に圧入する杭圧入工法について説明する。杭
圧入装置1は,図示しないクランプにより既設の鋼管杭をつかんで既設
の鋼管杭から反力を取った状態で,新たな鋼管杭Pを圧入する。
【0025】まず,図1に示すように,チャック部4に設けられたバ
ッテリー46に予め充電された電力により油圧ポンプ48を作動させ
て,油圧シリンダ41により鋼管杭Pをつかんだ状態としておく。この
状態で,油圧シリンダ12によりチャック装置2を下降させるとともに,
油圧モータ34を作動させてチャック部4を少なくとも一つの回転方向
に連続的に回転させる。すなわち,例えば,チャック部4を図1中にお
ける右回り方向に連続的に回転させたり,左回り方向に連続的に回転さ
せたり,右回り方向への連続回転と左回り方向への連続回転を連続して
行ったりする。これにより,チャック部4によりつかまれた鋼管杭Pは,
少なくとも一つの回転方向に連続的に回転しながら,地中に圧入され
る。」
(カ)「【0040】【発明の効果】請求項1記載の発明によれば,杭圧入
装置により杭を地中に圧入する際に,杭を少なくとも一つの回転方向に
連続的に回転させながら地中に圧入できる。よって,杭圧入時の抵抗力
を軽減して杭の圧入を補助できるので,より効率よく杭を圧入でき,ま
た,外周に羽根や突条などが設けられた回転鋼管杭などであっても,容
易に地中に圧入することができる。」
(キ)「【0043】請求項4,5記載の発明によれば,チャック手段によ
りつかまれた杭が,少なくとも一つの回転方向に連続的に回転しながら,
地中に圧入される。したがって,杭圧入時の抵抗力を軽減して杭の圧入
を補助できるので,より効率よく杭を圧入でき,また,外周に羽根や突
条などが設けられた回転鋼管杭などであっても,容易に地中に圧入する
ことができる。」
カ公報6の記載(別紙公報6添付図面参照)
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は既設の鋼管杭上に
定置して該鋼管杭の反力に基づいて新たな鋼管杭を地盤内に圧入,引抜
するとともに,連続して圧入引抜される鋼管杭の圧入引抜ピッチの変更
と進路変更にも素早く対応可能にした鋼管杭圧入引抜機に関するもので
ある。
【0002】【従来の技術】近年,各種の土木基礎工事において,鋼管
杭,例えば鋼管単杭とか鋼管矢板は大きな支持力が得られるとともに経
済性に優れているため,永久構造物の外にも護岸工事及び山留め工事,
締切り工事等の仮設工事の支持杭として広く採用されている。従来から
これらの鋼管杭の地盤への圧入,引抜工事は,例えば上空制限のない場
所ではバイブロハンマとかディーゼルハンマもしくは中堀式などの工法
や,静荷重型鋼管杭圧入引抜機が用いられており,また,上空制限のあ
る場所では主として静荷重型鋼管杭圧入引抜機が採用されている。
【0003】この静荷重型鋼管杭圧入引抜機としては,実公平6-2
1962号に示すように,既設の鋼管杭上に定置された台座の下方に複
数の反力掴み装置(クランプ)を設けて,この反力掴み装置により既設
杭をクランプすることによって反力を取っており,この反力掴み装置は
台座の下面にあって進行方向先頭の反力掴み装置は左右方向に摺動自在
に設けられ,残りの反力掴み装置は前後及び左右方向に摺動自在に取り
付けられている。これはカーブ施工において建込み杭の進行方向法線に
対するクランプ装置の左右方向への「ずれ」に対する位置合わせと,反
力掴み装置が既設杭に圧接する際に発生するクリアランス分の移動をス
ムーズに行わせるための機構を構成している。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】…【0006】そこで本発明は
このような従来の鋼管杭圧入引抜機が有している課題を解消して,圧入
引抜機自体の大型化を防止するとともに機構を簡易化して垂直方向の寸
法を低くし,機械重量も低減して建設現場での搬入と操作を容易にする
とともに,連続して圧入引抜される鋼管杭のピッチの変更と進路変更に
も素早く対応可能な鋼管杭圧入引抜機を提供することを目的とするもの
である。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】…【0009】かかる本発明によ
れば,建込用の鋼管杭を地盤に圧入する際の基本操作は前部反力掴み装
置と後部反力掴み装置の各クランプシリンダを用いて既設の鋼管杭をク
ランプしてから杭掴み装置に内蔵されたチャックシリンダにより建込用
鋼管杭をチャックし,杭圧入引抜シリンダの駆動により鋼管杭の圧入を
行う。圧入引抜機を前進させるには,前部反力掴み装置と既設の鋼管杭
とのクランプを解除してから後部反力掴み装置と台座間に配設されたシ
リンダ装置を伸長することによって圧入引抜機本体をシリンダ装置のス
トローク分だけ前方にスライドさせ,前部反力掴み装置に内蔵されたク
ランプシリンダの伸長により前部反力掴み装置と既設の鋼管杭とをクラ
ンプし,次に後部反力掴み装置と既設の鋼管杭とのクランプを解除して
から上記シリンダ装置の短縮により後部反力掴み装置を前方にスライド
させて再度既設の鋼管杭にクランプして1ステップの前進工程が完了す
る。」
(エ)「【0011】【発明の実施の形態】以下図面に基づいて本発明に
かかる鋼管杭圧入引抜機の具体的な実施形態を説明する。図1は本発明
を適用した鋼管杭の圧入引抜機本体1を全体的に示す側面図,図2は同
平面図であり,2は台座,3は台座2の下部に配設されて既設の鋼管杭
をクランプする反力掴み装置である。この反力掴み装置3は前部反力掴
み装置3aと後部反力掴み装置3bとに分割構成されている。詳細は後
述するように,前部反力掴み装置3aは台座2の下面にあって進行方向
に対して左右方向に摺動自在に配設され,後部反力掴み装置3bは進行
方向に対して前後方向に摺動自在に配設されている。Fは圧入引抜機本
体1の進行方向を示す。」
(オ)「【0016】図5は反力掴み装置3a(3b)の縦断面図,図6
は図5のC-C線に沿う断面図であり,反力掴み装置3a(3b)内に
はクランプシリンダ14が内蔵されている。該クランプシリンダ14の
一端が杭掴み装置3a(3b)の一方側に固定されているとともに他方
側が半円形部分に固定されていて,このクランプシリンダ14の伸長に
伴って既設の鋼管杭の内面に反力掴み装置3a(3b)が圧接して,摩
擦抵抗により建込用鋼管杭の圧入引抜時の反力を得るように構成されて
いる。
【0017】かかる構成によれば,建込用の鋼管杭16を地盤に圧入
する際の基本操作として,先ず前部反力掴み装置3aと後部反力掴み装
置3bの各クランプシリンダ14を用いて既設の鋼管杭15,15をク
ランプしてから,図7に示すように杭掴み装置10に内蔵されたチャッ
クシリンダ11,11により可動側チャック爪10bを固定側チャック
爪10a方向に押動して建込用の鋼管杭16の外周を4方向からチャッ
クし,杭圧入引抜シリンダ9,9を駆動して鋼管杭16の地盤への圧入
を行う。そして杭圧入引抜シリンダ9,9のストローク分だけ圧入する
と,チャックシリンダ11,11を開放してから該チャックシリンダ1
1,11を杭圧入引抜シリンダ9,9のストローク分だけ上昇させ,再
び前記同様の操作を繰り返して所定の深度まで圧入を行う。鋼管杭16
を地盤から引き抜く際の基本操作もほぼ同一であり,杭圧入引抜シリン
ダ9,9を駆動して該杭圧入引抜シリンダ9,9のストローク分だけ鋼
管杭16の引抜作業を行えばよい。」
キ公報7の記載(別紙公報7添付図面参照)
(ア)「(産業上の利用分野)本考案は杭圧入引抜機のクランプ装置に関
するもので,特にクランプ装置の各クランプが夫々独立して移動可能で
あるものに関する。
(従来の技術)従来より鋼矢板等の鋼杭を圧入するために杭圧入引抜
機が使用されていた。この杭圧入引抜機は,基台上のスライドベース上
に立設されたマストの前方に杭挟持用のチャックを構成し,前記基台の
下部には既設杭を挟持するための複数のクランプを構成している。
このクランプは,上記基台下端に固定されていて,既設杭を挟持して
杭圧入引抜機本体を杭列上に固定し,杭の圧入あるいは引抜時には既設
杭より反力を得るものであり,杭圧入引抜機の杭列上自走に際しては,
基台の移動に伴って前進あるいは後退していた。
(考案が解決しようとする問題点)このような従来のクランプ装置で
は,各クランプのピッチは予め定められた間隔で基台に固定されている
ため,個々のクランプが独立して前後方向に移動することは出来なかっ
た。
そのため鋼矢板の連続圧入時に,各杭の杭幅が異なりクランプの挟持
ピッチが異なる場合には,杭を挟持できなくなるため,杭圧入引抜機自
体を交換しなければならなかった。」(2欄5行ないし3欄13行)
(イ)「次にこのように構成した本実施例の作用を説明する。
第4図に示すように既設鋼管杭P,Pの上端にクランプ1,1を把持
せしめることで,杭圧入引抜機10を既設杭上に固定して鋼管杭圧入作
業を行う。本実施例で使用する鋼管杭用のクランプ1を第6図に基づい
て簡単に説明する。
クランプ1は,円筒形状の押圧部を2分割して断面略三日月形の可動
把持部41と固定把持部51を構成している。
前記押圧部には上下に2基の流体圧シリンダ61,61が内蔵されて
いる。可動把持部41に形成した凹部41a,41aにシリンダ61,
61のピストン61b,61bの端部を嵌合固定し,一方,固定把持部
51に形成した凹部51a,51aには上記ピストン61b,61bを
摺動自在に嵌合すると共に,シリンダ61,61のロッド61a,61
aの一端を凹部51a,51aの奥部に固定する。
使用に際しては,シリンダ61,61を作動し,ロッド61a,61
aを伸長せしめることによって可動把持部41を杭Pの内壁面に押圧せ
しめる。さらにロッド61a,61aを伸長し,該可動把持部41が杭
Pの内壁面より得る反力で固定把持部51が外側(第6図右側)にわず
かに移動し,クランプ1は鋼管杭Pに固定する(第6図(b)参照)。こ
の状態で鋼管杭Pはクランプ1に確実に把持される。
なお,鋼管杭Pより,クランプ1を取り外すときは,シリンダ61の
ロッド61a,61aを退縮すれば把持状態は解除される。
この杭圧入作業は,新たな圧入鋼管杭Pをチャック12で挾持して,
該チャック12を下降することで行うが,この圧入作業にともなって,
杭圧入引抜機10も既設杭列上を移動していく。
このように,圧入引抜機10が前進あるいは後退するたびに基台14
下のクランプ1,1は新な既設杭を把持しなくてはならない。これらの
杭P,Pは通常は等間隔に圧入されているため,これを把持するクラン
プ1,1も予め一定の間隔に設定しておけば良いが,杭P,Pの杭径が
異なる場合,あるいは杭の圧入ピッチが異なる場合にはクランプ1,1
の間隔も変更しなければならない。その場合は,基台14の下端に取付
けたシリンダ34を作動せしめ,レールR2,R2を基台14の摺動溝
32,32に沿って移動させ,上部スライド機構31を前進または後退
させることで,クランプ1,1を移動する。
そのため,クランプ1は杭ピッチの変更に応じた微小な前後動が可能
となり,その中心を常に鋼管杭Pの中心と整合させることができる。従
ってクランプ1は常に鋼管杭の内周面に密着して,確実な把持状態を確
保できるのである。
特に第5図に示すように,鋼管杭Pの圧入作業においては,そのセク
ション部分S,Sの構造上の相違により杭Pの圧入間隔も変化してくる。
また,第5図(a)のようにカーブ打ちの場合には杭P,Pの間隔は少
しずつ変化してくるのでクランプ1も,これに対応するため,ピッチの
微小な調整を余儀なくされるのであるが,これらの場合にも本実施例の
クランプ移動機構2によれば,迅速かつ正確に対応できる。」(4欄3
2行ないし6欄5行)
(2)公報1及び2に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到
容易性について
ア本件発明と公報1に記載された発明との対比について
(ア)公報1に記載された発明について
前記(1)(ア)認定の事実によれば,公報1の段落【0022】等の「鋼
管矢板壁」は,本件発明の「鋼管杭列」及び「連続壁」に相当するから,
公報1には,次の発明(以下「公報1発明」という。)が記載されてい
ると認められる。
aコンクリート護岸の背面に鋼管杭列を構築し,
b上記鋼管杭列に連続して連続壁を構築し,
cその後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去す

d護岸の連続構築方法。
(イ)本件発明と公報1発明との対比について
本件発明と公報1発明とは,「鋼管杭列を構築し,上記鋼管杭列に連
続して連続壁を構築し,その後,上記鋼管杭列の河川側のコンクリート
護岸と土砂を除去する護岸の連続構築方法。」である点で一致し,次の
5点で相違する。
a本件発明では,鋼管杭を回転圧入できる切削用鋼管杭圧入装置を用
いるのに対し(構成要件A),公報1発明では,これがない点
b本件発明では,先端にビットを備えた鋼管杭を用いるのに対し(構
成要件B),公報1発明では,鋼管杭の限定がない点
c本件発明では,コンクリート護岸を打ち抜いて圧入するのに対し(構
成要件C),公報1発明では,コンクリート護岸の背面に鋼管杭列を
構築する点
d本件発明では,鋼管杭列から反力を得るのに対し(構成要件D),
公報1発明では,これがない点
e本件発明では,構築した鋼管杭列に連続して,先端にビットを備え
た切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜くのに対し
(構成要件E),公報1発明では,これがない点
イ相違点に係る構成の想到容易性について
(ア)公報2に記載された発明について
前記(1)イ認定の事実によれば,公報2の段落【0013】等の「ケー
シング回転掘削機」,段落【0016】等の「ビット1dが取り付けら
れたもの」,段落【0021】等の「掘削」及び段落【0001】等の
「鋼管杭壁」は,本件発明の「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置」,
「先端にビットを備えた切削用鋼管杭」,「打ち抜いて圧入」並びに「鋼
管杭列」及び「連続壁」にそれぞれ相当するから,公報2には,次の発
明(以下「公報2発明」という。)が記載されていると認められる。
a鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置及びハンマーグラブを用い
て,
b先端にビットを備えた切削用鋼管杭を
c地中障害物を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,
dスパイクウェイト等の反力取り装置によって反力を得ながら,
e上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入して地中障害
物を打ち抜いて連続壁を構築する
f連続壁の連続構築方法。
被告は,公報2のハンマーグラブは,鋼管杭内の掘削と排土に必要と
なるにすぎず,鋼管杭の圧入に必要とならないと主張する。しかしなが
ら,前記(1)イ認定の事実によれば,公報2発明は,建て込んだ鋼管杭を
残して形成した鋼管杭壁に関する発明であり,軟弱地盤ではケーシング
回転掘削機と鋼管杭の下端に取り付けたビットだけで掘進することがで
きるものの,硬質地盤では,公報2の段落【0021】に「ハンマグラ
ブ30などで鋼管内の土を掘削しながら掘進させる。」や段落【002
6】に「鋼管内を掘削することにより,十分鋼管杭を建て込むことがで
きる」と記載されているように,ハンマーグラブを併用して掘進するこ
とを前提とするものである(なお,公報2の段落【0021】に「鋼管
内の土を掘削した場合」との記載があるが,これは,一般及び硬質地盤
に対してハンマーグラブを併用して鋼管内の土を掘削した場合を意味す
るのであって,硬質地盤に対してハンマーグラブを併用しない場合を示
唆するものではない。)。したがって,被告の上記主張は,採用するこ
とができない。
(イ)公報3及び4に記載された周知慣用技術について
前記(1)ウ認定の事実によれば,公報3の段落【0007】等の「ケー
シングチューブ」,「全周回転式オールケーシング掘削機」及び「掘削
ビット」は,本件発明の「切削用鋼管杭」,「鋼管杭を回転圧入できる
鋼管杭圧入装置」及び「ビット」にそれぞれ相当する。また,証拠(乙
11の1及び2)によれば,捨石とは,土木工事の分野では,波等によ
る浸食から保護するため,岸辺に置かれる1個当たり約10ないし20
0㎏の石を意味することが認められるところ,本件発明の「コンクリー
ト護岸」は,前記2(2)アのとおり,石材等で構成した護岸を含むから,
公報3の段落【0008】等の「捨石」からなる「護岸」は,本件発明
の「コンクリート護岸」に相当する(被告は,公報3の「岸壁」も本件
発明の「コンクリート護岸」に相当すると主張するが,上記「岸壁」は,
海岸等を流水等による浸食作用から保護するために法覆工,基礎工及び
根固工等によって形成される構造物ではないから,「護岸」に相当しな
い。また,岸壁は,捨石より硬いコンクリートからなることがうかがわ
れるにもかかわらず,これをケーシングチューブが掘削したことをうか
がわせる記載は【図2】だけであって,発明の詳細な説明には記載がな
く,ケーシングチューブ以外の方法で掘削されたことが明らかであるか
ら,「コンクリート…を打ち抜い」たともいえない。)。
また,前記(1)エ認定の事実によれば,公報4の【0023】等の「ケ
ーシング」,「建込み装置」,「掘削刃」及び「掘削ケーシング」は,
本件発明の「鋼管杭」,「鋼管杭圧入装置」,「ビット」及び「切削用
鋼管杭」にそれぞれ相当する。
そうすると,公報3及び4には,次の周知慣用技術が記載されている
と認められる。
a鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置及びハンマーグラブを用い
て,
b先端にビットを備えた切削用鋼管杭で
cコンクリートを打ち抜く方法。
被告は,公報3及び4のハンマーグラブは,鋼管杭内の掘削と排土に
必要となるにすぎず,鋼管杭の圧入に必要とならないと主張する。しか
しながら,証拠(乙18,20,26ないし29)によれば,遅くとも
昭和60年ころには,ケーシング(鋼管杭)とハンマーグラブを併用し
て地盤を掘削した後にケーシングを引き抜きながらコンクリートを打設
するオールケーシング工法という杭工法が開発されたことが認められ,
前記(1)ウ及びエ認定の事実を併せ考慮すると,公報3及び4に記載され
た周知慣用技術も,上記工法に属するものと認められる。そうであるか
ら,公報3の段落【0009】に「ハンマーグラブ5を掘削面に落下せ
しめて打込み,掘削捨石11を掴み取って外方に排出せしめつつ掘削孔
14を掘削形成せしめる」と記載され,公報4の段落【0012】に「ハ
ンマーグラブ14を掘削手段としてケーシング4内に上から差し入れて
掘削・排土する。」と記載されているように,公報3及び4に記載され
た周知慣用技術は,ハンマーグラブを併用して掘進することを前提とす
るものである(なお,証拠(乙18,20,26ないし29)によれば,
オールケーシング工法は,遅くとも平成元年ころには,ケーシングの先
端にビットを備えることにより,岩盤等の掘削も可能になったことが認
められるが,それでもなおハンマーグラブを併用して掘進することを前
提としていたことが認められる。)。したがって,被告の上記主張は,
採用することができない。
(ウ)公報5ないし7に記載された周知慣用技術について
前記(1)オないしキ認定の事実によれば,公報5の段落【0002】の
「鋼管杭壁」,公報6の段落【0009】等の「既設の鋼管杭」及び公
報7の5欄12行の「既設杭列」等は,本件発明の「鋼管杭列」及び「連
続壁」に相当するから,公報5ないし7には,次の周知慣用技術が記載
されていると認められる。
a既設の鋼管杭列から反力を得ながら,
b上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を圧入して連続壁を構築する方法。
(エ)想到容易性について
公報2発明と公報3及び4に記載された周知慣用技術は,いずれもハ
ンマーグラブを用いるものであるから,公報1発明に公報2発明を組み
合わせ,公報3及び4に記載された周知慣用技術や公報5ないし7に記
載された周知慣用技術を適用しても,本件発明の構成に到達しないとい
うべきである(この点をおくとしても,公報1発明と公報2発明との間
には,技術分野,課題及び効果における関連性がほとんどないから,こ
れを組み合わせる動機付けがない。)。
したがって,本件発明は,公報1発明に公報2発明を組み合わせ,公
報3及び4に記載された周知慣用技術や公報5ないし7に記載された周
知慣用技術を適用して,当業者が容易に発明することができたとは認め
られない。
(3)公報5及び1に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想到
容易性について
ア本件発明と公報5に記載された発明との対比について
(ア)公報5に記載された発明について
前記(1)オ認定の事実によれば,公報5の段落【0002】の「鋼管杭
壁」は,本件発明の「鋼管杭列」及び「連続壁」に相当し,公報5の【請
求項5】等の「杭圧入装置」は,本件発明の「鋼管杭圧入装置」に相当
するから,公報5には,次の発明(以下「公報5発明」という。)が記
載されていると認められる。
a鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて,
b鋼管杭を
c圧入して鋼管杭列を構築し,
dこの鋼管杭列から反力を得ながら,
e上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を回転圧入して連続壁を構築する方
法。
(イ)本件発明と公報5発明との対比について
本件発明と公報5発明とは,「鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装
置を用いて,鋼管杭を圧入して鋼管杭列を構築し,この鋼管杭列から反
力を得ながら,上記鋼管杭列に連続して鋼管杭を回転圧入して連続壁を
構築する方法。」である点で一致し,次の5点で相違する。
a本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を用いるのに対
し(構成要件B),公報5発明では,鋼管杭を用いるだけである点
b本件発明では,コンクリート護岸を打ち抜くのに対し(構成要件C),
公報5発明では,これがない点
c本件発明では,先端にビットを備えた切削用鋼管杭を回転圧入して
コンクリート護岸を打ち抜くのに対し(構成要件E),公報5発明で
は,鋼管杭を回転圧入するだけである点
d本件発明では,連続壁を構築した後,鋼管杭列の河川側のコンクリ
ート護岸と土砂を除去するのに対し(構成要件F),公報5発明では,
これがない点
e本件発明では,護岸の連続構築方法であるのに対し(構成要件G),
公報5発明では,これがない点
イ相違点に係る構成の想到容易性について
公報3及び4に記載された周知慣用技術は,ハンマーグラブを用いるも
のであるから,公報5発明に公報1発明を組み合わせ,公報3及び4に記
載された周知慣用技術を適用しても,本件発明の構成に到達しないという
べきである(この点をおくとしても,公報5発明と公報1発明との間の間
には,技術分野,課題及び効果における関連性が全くないから,これを組
み合わせる動機付けがない。)。
したがって,本件発明は,公報5発明に公報1発明を組み合わせ,公報
3及び4に記載された周知慣用技術を適用して,当業者が容易に発明する
ことができたとは認められない。
(4)公報1ないし3に記載された発明と周知慣用技術に基づく本件発明の想
到容易性について
ア本件発明と公報1発明との対比について
公報1発明は,前記(2)ア(ア)のとおりであり,本件発明と公報1発明と
の相違点は,同(イ)のとおりである。
イ相違点に係る構成の想到容易性について
(ア)公報2発明は,前記(2)イ(ア)のとおりである。
(イ)公報3に記載された発明について
前記(1)ウ認定の事実によれば,公報3には,次の発明(以下「公報3
発明」という。)が記載されていると認められる。
a鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置及びハンマーグラブを用い
て,
b先端にビットを備えた切削用鋼管杭で
cコンクリート護岸を打ち抜く方法。
被告は,公報3の「土留め杭」が本件発明にいう「鋼管杭列」,「連
続壁」に相当すると主張するが,公報3に土留め杭を複数連続して圧入
する旨の記載や示唆は認められないから,被告の上記主張は,採用する
ことができない。
(ウ)公報4に記載された周知慣用技術は,前記(2)イ(イ)と同様であり,
公報5ないし7に記載された周知慣用技術は,同(ウ)のとおりである。
(エ)想到容易性について
公報2発明,公報3発明及び公報4に記載された周知慣用技術は,い
ずれもハンマーグラブを用いるものであるから,公報1発明に公報2発
明及び公報3発明を組み合わせ,公報4に記載された周知慣用技術や公
報5ないし7に記載された周知慣用技術を適用しても,本件発明の構成
に到達しないというべきである(この点をおくとしても,公報1発明と
公報2発明,公報3発明との間には,技術分野,課題及び効果における
関連性がほとんどないから,これらを組み合わせる動機付けがない。)。
したがって,本件発明は,公報1発明に公報2発明及び公報3発明を
組み合わせ,公報4に記載された周知慣用技術や公報5ないし7に記載
された周知慣用技術を適用して,当業者が容易に発明することができた
とは認められない。
(5)以上によれば,本件発明に係る請求項1は,特許無効審判により無効にさ
れるべきものと認められない。
4争点④(被告の責任及び損害)について
(1)被告の責任について
証拠(甲8の3,10の2,13の4,27,乙15の10及び11)に
よれば,本件JVは,本件特許権が登録された後に当たる平成20年7月中
旬から,被告方法の使用を開始し,本件特許権を侵害したことが認められる。
また,証拠(甲5の1及び2,28の1ないし3,31の1ないし5,4
3及び47の各2,57)及び弁論の全趣旨によれば,原告技研は,建設,
工作機械の開発,製作及び販売,土木建築その他建設工事全般等を業とする
株式会社であり,原告新日鐵は,鉄鋼の製造及び販売等を業とする株式会社
であるところ,原告技研は,原告新日鐵と共に,本件発明に関する工法を共
同開発し,平成15年10月には本件発明に係る特許出願をするとともに,
上記工法をジャイロプレス工法と命名の上,鋼管杭の回転圧入を含む各種工
事を受注していたこと,本件JVは,東京都の発注する妙正寺川整備工事が
鋼管杭の回転圧入を含むものであったことから,平成19年7月から同年1
0月の間にかけて,原告らからジャイロプレス工法を用いる場合の工事費や
材料費の見積書を得て,原告技研の担当者との間で,ジャイロプレス工法を
用いた工事方法に関する打合せを行っていたことが認められる。これらの事
実を総合すれば,本件JVは,被告方法を使用するに当たり,少なくとも,
本件特許権があることを認識することができたにもかかわらず,これを認識
することなく,被告方法を使用して本件特許権を侵害したことを推認するこ
とができるから,本件JVには,本件特許権の侵害について,過失があった
ものと認められる。そして,被告は,建築,土木工事等を業とする株式会社
であるとともに(弁論の全趣旨),本件JVの構成員であるから,商法51
1条1項により,被告JVが本件特許権の侵害によって負う不法行為に基づ
く損害賠償債務につき,連帯債務を負うというべきである(最高裁平成6年
(オ)第2137号同10年4月14日第三小法廷判決・民集52巻3号81
3頁参照)。
(2)原告技研の損害について
ア民法709条による損害額について
(ア)損害及び因果関係
証拠(甲12,13の1ないし4,28の1ないし3,29,30の
1ないし8,38の1,2及び4,50)によれば,東京都は,妙正寺
川整備工事の発注に当たり,妙正寺川がその周囲を道路や住宅等に囲ま
れていることから,周囲に工事の影響を与えにくいジャイロプレス工法
を念頭に,平成18年12月,原告らからジャイロプレス工法を用いる
場合の工事費や材料費の見積書を得た上で,平成19年4月,ジャイロ
プレス工法を標準案とする技術提案型総合評価方式の入札公告を行っ
たこと,同年7月から実施された各入札の結果,激特1は奥村組JVが,
本件各工事は本件JVがそれぞれ落札し,奥村組JVは,原告技研の完
全子会社である技研施工に対してジャイロプレス工法を用いた下請工
事を発注したが,被告JVは,前記認定のとおり,原告らから見積書を
得たり原告技研の担当者との間で打合せを行ったものの,結局,オオブ
工業に対して下請工事を発注したこと,オオブ工業は,鋼管杭の打込み
を開始した平成20年4月から同年7月上旬までは,鋼管杭列から反力
を得ないコウワ機を用いていたが,コンクリートや裏込材に阻まれて進
捗が遅く,工期に間に合わないことが明白となったため,同年7月中旬
から,鋼管杭列から反力を得る鋼管パイラー機を用いるようになったこ
とが認められる。
これらの事実を総合すれば,本件JVが本件特許権を侵害せずに本件
各工事を工期内に完成させるには,技研施工に対して鋼管杭の打込みに
係る下請工事を発注するしかなかったものと認められるから,原告技研
は,本件JVの不法行為がなければ,技研施工が本件JVから鋼管杭の
打込みに係る下請工事を受注し,粗利から変動経費を控除した限界利益
の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益のうち,本件特許権の共有
持分の割合に相当する利益を得ることができたが,本件JVの不法行為
により,上記利益を得ることができなかったものである。
原告技研は,本件各工事全体の限界利益の額に相当する技研施工の株
式価値の上昇益の全部が原告技研の逸失利益であると主張する。しかし
ながら,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,
「【技術分野】【0001】本発明は,河川や堤防等のコンクリート護
岸あるいは石材等で構成した護岸(以下,コンクリート護岸という)の
改修工事あるいは補強工事を行うための護岸の連続構築方法およびそ
れを利用した河川や沼,海岸等の拡幅工法に関するものである。【背景
技術】【0002】河川の氾濫を防ぐために,川巾を拡幅したり川底を
浚渫するなどして流路面積を大きくする工事が行われているが,従来の
工法では護岸の巾以上の拡幅は不可能であった。また,従来の護岸の形
状はコンクリートブロックなどを法面に積載したものが多く,これは河
川の巾を狭める結果となっていた。…【発明が解決しようとする課題】
【0005】本発明は上記の点に鑑みなされたものであり,大掛かりな
仮設装置又は仮設工事などを必要とせず,安定した状態で鋼管杭を連続
して打設して効率的に河川や堤防の護岸の改修あるいは補強ができる
構築方法と,それを利用した河川や沼,海岸等の拡幅工法を提供するも
のである。…【発明の効果】【0010】請求項1の発明より,コンク
リート護岸の改修工事や護岸の補強工事あるいは河川等の浚渫工事等
が安全かつ効率よく行える。特に従来では拡幅不可能な河川等における
改修工事が可能となり,この拡幅工事を行うための仮設工事を一切必要
としないので工期の短縮,工費の削減を図ることができる。また,鋼管
杭を回転しながら圧入するため,アースオーガ等の装置も必要としな
い。」と記載されていることが認められ,これらによると,本件発明の
作用効果を発揮するのは,構成要件A,D及びEの部分であり,本件特
許権の価値も当該部分にあるといえるから,当該部分に対応する鋼管杭
の打込工事の限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益の
みが民法416条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」に当たると
いうべきである。また,本件特許権は,原告らの共有に係るから,原告
技研は,自己の持分に応じてのみ損害賠償請求権を行使することができ
るものである(最高裁昭和39年(オ)第1179号同41年3月3日第
一小法廷判決・裁判集民事82号639頁参照)。したがって,原告の
上記主張は,採用することができない。
また,被告は,原告技研が技研施工と別法人であり,本件発明を実施
しているとはいえないから,民法709条による損害を被っていないと
主張する。しかしながら,原告技研は,本件JVの不法行為によって通
常得られたはずの利益を得ることができなかったのである(最高裁平成
元年(オ)第1400号同5年9月9日第一小法廷判決・民集47巻7号
4814頁参照)。被告の上記主張は,採用することができない。
(イ)損害額
a鋼管杭の圧入に関する限界利益額について
(a)証拠(甲6,7,11,12,13の1,14の1,22の1,
38の1ないし3,42,43の1及び2)によれば,激特1と本
件各工事は,打ち込んだ鋼管杭の数が異なることを除き,ほぼ同様
の工事であることが認められるから,技研施工が被告JVから受注
することができた本件各工事において鋼管杭を回転圧入できる鋼管
杭圧入装置を用いて構築した鋼管杭列から反力を得ながら先端にビ
ットを備えた切削用鋼管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁
を構築する工事に係る限界利益の額は,原告技研が算出した上記工
事の見積額に対し,激特1における値引率及び限界利益率並びに本
件各工事で打ち込んだ鋼管杭数に対して本件JVが実際に上記工事
を行った鋼管杭数の割合を乗じることに基づいて,算出するのが相
当である。
被告は,原告技研が算出した見積額ではなく,東京都が定めた入
札予定額に基づいて算出すべきであると主張する。しかしながら,
入札予定額は,落札の可否を判断するための基準となる額にすぎな
いし,証拠(甲40,41)によれば,技研施工が上記入札予定額
である約3億円で受注すれば,原価割れとなって,損失を被ること
が認められるから,上記入札予定額に基づいて算出するのは相当で
ない。被告の上記主張は,採用することができない。
(b)証拠(甲5の1,38の2,41)によれば,本件各工事にお
ける「鋼管杭回転圧入」という見積合計額●(省略)●には,鋼管
杭圧入装置ではないクランプクレーン,パイルランナー,クローラ
クレーン及びウォータジェット等の各運転費とこれに対応する人件
費が●(省略)●含まれていることが認められるから,原告技研が
算出した本件各工事において鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装
置を用いて構築した鋼管杭列から反力を得ながら先端にビットを備
えた切削用鋼管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築す
る工事の見積額は,下記計算式のとおり,●(省略)●と認められ
る。
そして,証拠(甲30の1ないし8,41,43の1,44の1
ないし3)によれば,激特1における値引率及び限界利益率は,下
記計算式のとおり,それぞれ●(省略)●と認められ,また,本件
各工事で打ち込んだ鋼管杭数は,別紙鋼管杭表のとおり,732本
であり,被告JVが鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用い
て構築した鋼管杭列から反力を得ながら先端にビットを備えた切削
用鋼管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築する工事を
行った鋼管杭数は,前記2(4)ウのとおり,637本であると認めら
れる。
したがって,技研施工が本件JVから受注することができた本件
各工事において鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて構
築した鋼管杭列から反力を得ながら先端にビットを備えた切削用鋼
管杭でコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築する工事に係る
限界利益の額は,下記計算式のとおり,6883万5878円であ
ると認められる。そして,原告技研と原告新日鐵がそれぞれ有する
本件特許権の各共有持分は,相等しいものと推定されるから,原告
技研が受けた鋼管杭の圧入に関する損害の額は,半分の3441万
7939円と認められる。
(計算式)●(省略)●≒6883万5878円
(1円未満切捨て)
b特殊ビットの鋼管杭への取付けに関する限界利益額について
原告技研は,特殊ビットの鋼管杭への取付けに関する限界利益の額
に相当する技研施工の株式価値の上昇益を得ることができなかったと
主張する。しかしながら,本件特許権は,特殊ビットを鋼管杭に取り
付ける方法に係る発明に関するものでなく,民法416条の類推適用
を受ける「通常生ずべき損害」には当たらないというべきであるから,
原告の上記主張は,採用することができない。
c弁護士費用について
本件事案の内容,審理経過,前記認容額その他諸般の事情を総合考
慮すると,前記aの1割に相当する344万1794円とするのが相
当である。
(ウ)したがって,原告技研の主位的請求は,被告に対し,3785万9
733円及びこれに対する不法行為の後の日であり,訴状送達の日の翌
日であることが記録上明らかな平成22年12月10日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で
理由がある(なお,この結論は,特許法102条1項による損害額の場
合でも,同じである。)。
イ特許法102条3項による損害額について
(ア)実施料相当額の損害について
a本件発明は,前記ア(ア)のとおり,コンクリート護岸又は石材等で
構成した護岸の改修工事や補強工事を行うための護岸の連続構築方法
に関する発明であるところ,本件発明の作用効果を発揮するのは,鋼
管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて構築した鋼管杭列から
反力を得ながら先端にビットを備えた切削用鋼管杭でコンクリート護
岸を打ち抜いて連続壁を構築する部分であり,護岸工事全体から見れ
ば,重要ではあるものの,一部分にすぎないから,このことを基本と
して,本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,本件発明の実施料率は
2.8%であると認めるのが相当である。
被告は,コウワ機を増やせば工期内に完成することができたし,東
京都も回転圧入工法を指定しただけで,代替手段があった上,鋼管杭
がコンクリート護岸を最大でも30㎝ほど打ち抜いたにすぎず,かす
っただけであると主張する。しかしながら,被告が主張するとおりで
あるならば,オオブ工業が高価な鋼管パイラー機をあえて購入する必
要はなかったのであるから(甲13の2),被告の上記主張は,採用す
ることができない。
b本件各工事の総工事代金額は,23億6764万5000円である
から,原告技研が被った実施料相当額の損害は,次の計算式のとおり,
3314万7030円であると認められる。
(計算式)23億6764万5000円×0.028÷2=3314万7030円
(イ)弁護士費用について
本件事案の内容,審理経過,前記認容額その他諸般の事情を総合考慮
して,前記(ア)の1割に相当する331万4703円とするのが相当で
ある。
ウそうすると,二次的請求及び三次的請求に係る損害額は,いずれも主位
的請求に係る損害を超えるものではないから,原告技研の主位的請求に対
する認容額を超える部分についての二次的請求及び三次的請求は,理由が
ない。
(3)原告新日鐵の損害について
ア民法709条及び特許法102条1項による損害額について
本件特許権は,鋼管杭に係る発明に関するものでないから,鋼管杭の販
売に関する限界利益を得ることができなかったとしても,これは,民法4
16条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」に当たらない。
したがって,原告新日鐵の主位的請求及び二次的請求は,いずれも理由
がない。
イ特許法102条3項による損害額について
原告新日鐵が被った実施料相当額の損害は,前記(2)イに述べたように,
弁護士費用と併せて,合計3646万1733円であると認められる。
したがって,原告新日鐵の三次的請求は,被告に対し,3646万17
33円及びこれに対する不法行為の後の日であり,訴状送達の日の翌日で
あることが記録上明らかな平成22年12月10日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
る。
5結論
よって,原告技研の請求については,主位的請求のうち,3785万973
3円及びこれに対する平成22年12月10日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,主位的
請求のその余の部分並びに二次的請求及び三次的請求はいずれも失当であるか
らこれを棄却し,原告新日鐵の請求については,主位的請求及び二次的請求は
いずれも失当であるからこれを棄却し,三次的請求は,3646万1733円
及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを
認容し,三次的請求のうちその余の部分は失当であるからこれを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官志賀勝
裁判官小川卓逸
(別紙特許公報,同公報1添付図面,同公報2添付図面,同公報3添付図面,同公
報4添付図面,同公報5添付図面,同公報6添付図面及び同公報7添付図面は省略)
(別紙)
当事者目録
高知市<以下略>
原告株式会社技研製作所
東京都千代田区<以下略>
原告新日鐵住金株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士増井和夫
橋口尚幸
齋藤誠二郎
大阪市<以下略>
被告株式会社森本組
同訴訟代理人弁護士藤田健
森英子
深川真紀子

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