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裁判例


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主          文
 1 被告は,原告に対し,金888万7700円及びこれに対する平成10年2
月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
          事実及び理由
第1 請求
   被告は,原告に対し,金3000万円及びこれに対する平成10年2月28
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が被告に対し,原告が被告から不動産取引の仲介依頼を受け,
仲介行為を行ったが,被告が原告を排除して不動産取引を成立させたとして,仲介
委任契約及び民法130条に基づき,仲介手数料3000万円及びこれに対する支
払請求の後である平成10年2月28日から支払済みまで商法所定の年6分の割合
による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
 2 前提事実(末尾に証拠等を掲げるもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,不動産の賃貸,売買,管理及びその仲介等を目的として,平成2
年4月19日に設立された有限会社である。
  (2) 被告は,不動産の賃貸,売買,管理及びその仲介等を目的として,昭和5
8年1月27日に設立された株式会社である。
  (3) 被告は,平成5年11月8日,訴外株式会社ファミリー(以下「訴外ファ
ミリー」という。)に対し,山口市大字a字bc番dほか11筆の土地(以下,同
所所在の土地については地番のみで表示する。)を8億3974万円で売却する旨
の売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。
  (4) 被告は,平成5年11月30日,訴外ファミリーに対し,e番fほか6筆
の土地を平成5年12月1日から平成25年11月30日まで賃料月額147万1
000円で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。乙60)。
 3 争点
  (1) 本件の争点は,①原・被告間の仲介委任契約の成否(請求原因),②民法
130条の適用の可否(請求原因),③仲介手数料の金額(請求原因),④消滅時
効の成否(抗弁),である。
  (2) 争点①(仲介委任契約の成否)について
   ア 原告の主張
    (ア) 被告は,原告に対し,平成2年6月ころ,被告所有の分筆前のg番
h,i番j及びk番lの3筆の土地(以下「本件土地」という。)の売却に関する
仲介行為を委任した。
    (イ) もっとも,原告は,当時,宅地建物取引業者の免許申請中であった
から,上記仲介委任契約は同免許取得を停止条件とするものであったが,同年7月
4日に山口県知事から同免許を取得したので,同日,上記仲介委任契約は効力を発
生した。
    (ウ) そして,原告は,訴外三井不動産販売株式会社(以下「訴外三井不
動産販売」という。)及び訴外三井不動産建設株式会社(以下「訴外三井不動産建
設」という。)を買主として被告に紹介し,調整を行っていたが,その後,被告が
直接交渉していた訴外ファミリーと訴外三井不動産販売らとの調整も被告から委任
され,さらに,交渉相手が訴外ファミリーに一本化された後は,被告と訴外ファミ
リーの間の調整を行い,結局,被告と訴外ファミリーは,平成4年9月2日,一部
を売買,その余を賃貸とすることで合意したので,そのころ,被告の原告に対する
委任内容は,売買契約及び賃貸借契約の仲介に変更された。
   イ 被告の主張
    (ア) 上記アの事実は,否認する。
    (イ) 原告と被告の間に仲介委任契約の契約書は存在せず,実際にも,原
告は,被告所有の本件土地の売買ないし賃貸借に関して仲介行為と評価し得るよう
な行為は行っていない。
  (3) 争点②(民法130条の適用の可否)について
   ア 原告の主張
    (ア) 被告と訴外ファミリーは,平成3年2月ころ,原告の仲介行為によ
り,被告が訴外ファミリーに対して本件土地を10億円で売却するとの基本的な合
意に達し,正式な契約成立前ではあったが,訴外ファミリーは被告に対し,平成3
年2月25日,10億円を支払い,被告はこれを「予約申込保証金」名目で受領し
た。
    (イ) ところが,その後,被告が土地単価の引上げを要求し出したため,
再び,原告が調整し,被告と訴外ファミリーは,平成4年9月2日,坪単価を26
万5000円とし,本件土地のうち17分の10を訴外ファミリーが買い受け,そ
の余は被告が訴外ファミリーに賃貸するという内容で合意し,原告,被告及び訴外
ファミリーはその旨の覚書(甲2)を交わした。
    (ウ) その後,被告と訴外ファミリーは,原告による調整の結果,売買部
分と賃貸部分の具体的範囲について合意し,平成5年4月27日までにその測量図
面を作成した上,同年5月1日ころ,賃貸部分につき「事業用借地権設定契約のた
めの覚書」を作成し,原告も仲介者としてこれに記名押印した(甲5)。
    (エ) そして,あとは分筆登記及び国土法上の届出を経た上で正式に売買
契約書に調印するだけであったにもかかわらず,被告は,自己の都合によりこれら
の手続を遅延して契約締結を引き延ばした上,一旦原告が仲介者として記名押印し
た売買契約書(甲4)を一方的に破棄し,原告を仲介者から外した売買契約書を訴
外ファミリーとの間で調印した(甲6)。しかし,その内容は,原告が仲介者とし
て作成した売買契約書と同一であった。
    (オ) その後,被告と訴外ファミリーは,原告を仲介者から外して賃貸借
契約を締結しているが,その内容は,基本的に前記(ウ)の「事業用借地権設定契約
のための覚書」と同一であった。
    (カ) 以上のとおり,原告の仲介行為により被告と訴外ファミリーの間の
契約が成約に至ったにもかかわらず,被告は故意に原告を排除して契約書を作成調
印することにより条件の成就を妨げたのであるから,民法130条により,契約書
調印の日をもって条件が成就し,同日,仲介手数料支払請求権が発生したものであ
る。
   イ 被告の主張
    (ア) 上記ア・(ア)の事実中,被告が訴外ファミリーから10億円を受領
した事実は認め,その余の事実は否認する。
      原告は仲介行為を行っておらず,また,この時点では,被告と訴外フ
ァミリーの間において売買代金額について明確な合意は成立していない。
    (イ) 上記ア・(イ)の事実については,その後,実測面積が公簿面積より
も大幅に広いことが判明したことや,訴外ファミリーが用意できる金額が総額10
億円程度となったことから,訴外ファミリーの要請に応じて,坪単価の引下げと売
買対象面積の縮小を行うこととなったものである。
    (ウ) 上記ア・(ウ)の事実は,認める。但し,原告が,被告と訴外ファミ
リーの間の事業用借地権設定契約に関与した事実はない。
    (エ) 上記ア・(エ)及び(オ)の事実については,被告がこれらの手続を故
意に遅延させた事実はなく,また,原告は仲介行為を行っていないのであるから,
売買契約書及び賃貸借契約書において原告が仲介者として記名押印していないのは
当然である。
    (オ) 被告の代表取締役であるAは,B及びCの父と面識があったとこ
ろ,B及びCが原告を設立して不動産業を行いたいと頼ってきたので,原告を応援
してやりたいとの気持ちから,訴外ファミリーに対し,将来,売買契約を締結する
際に形式的に原告を仲介者として仲介手数料を支払ってほしいとの提案をなし,訴
外ファミリーもこれに応じたことがあったが,原告が所轄税務署に営業開始届けを
提出しないことなどから,結局,本件土地の売買契約に原告を形式的に仲介者とし
て関与させて仲介手数料を支払うとの扱いをしないことになったものである。
      このように,原告は,形式的に仲介者として登場しただけであり,実
際には何ら仲介行為を行っていない。
(4) 争点③(仲介手数料の金額)について
   ア 原告の主張
    (ア) 原告と被告は,仲介委任契約の締結にあたり,原告の仲介手数料を
法定の上限の金額とすることで合意した。
      仮に,上記合意が認められないとしても,仲介手数料については,特
に合意がない限り,法定の上限の金額にするというのが業界の慣習であるから,こ
れと異なる合意がない以上,原告の仲介手数料は法定の上限の金額ということにな
る。
    (イ) そして,前記(3)・ア・(ア)のとおりの合意が成立したことにより,
原告の仲介行為は実質的に完了し,国土法による不勧告通知及び契約締結を停止条
件として,売買代金10億円の3パーセントに相当する3000万円の仲介手数料
支払請求権が発生したというべきであり,その後,契約内容が変更されているが,
これは被告が行ったものであるから,被告は仲介手数料として3000万円を支払
うべきである。
      なお,宅地建物取引業法に基づく建設省告示によれば,売買に関する
仲介手数料の上限は,200万円以下の金額につき5パーセント,200万円を超
え400万円以下の金額につき4パーセント,400万円を超える金額につき3パ
ーセントとなっているが,通常,不動産取引業者間の取引においては,売買代金が
400万円を超える物件の取引においては,売買代金の3パーセントをもって仲介
手数料の金額とするのが慣習となっている。
    (ウ) 仮に,最終的に成立した売買契約及び賃貸借契約に基づいて報酬額
を算定すると,売買代金は8億3974万円であり,その3パーセントは2519
万2200円となり,また,上記建設省告示によれば,賃貸借に関する仲介手数料
の上限は賃料の1か月分に相当する金額であり,被告と訴外ファミリーの間の賃貸
借契約の1か月分の賃料は147万1000円であるから,合計2666万320
0円となる。
   イ 被告の主張
     上記アの事実は,否認ないし争う。
  (5) 争点④(消滅時効の成否)
   ア 被告の主張
    (ア) 原告の主張によれば,①被告と訴外ファミリーの売買契約は平成3
年2月上旬には実質的に合意に達していた,②被告と訴外ファミリーは,平成4年
9月2日には,訴外ファミリーが対象土地の17分の10を買い受け,その余を賃
借りする旨の合意をみた,③被告と訴外ファミリーは,平成4年10月1日ころ,
売買の対象範囲を縮小し,その余については賃貸借契約を締結することで合意に達
した,④訴外ファミリーは,平成4年から建物の建築を進めていた,というのであ
るから,仮に仲介委任契約が存在したとしても,遅くとも平成4年10月1日ころ
には,仲介手数料の請求が可能となっていたものである。
    (イ) そして,原告が請求している仲介手数料支払請求権は商事債権であ
るから,平成4年10月1日から5年の経過により,消滅時効が完成した。
    (ウ) 被告は,平成11年6月14日の本件第6回弁論準備期日におい
て,上記消滅時効を援用した。
   イ 原告の主張
    (ア) 原告が請求している仲介手数料支払請求権は,被告と訴外ファミリ
ーが,原告を排除して,平成5年11月8日に売買契約を成立させたことにより条
件が成就したものとみなされ,同日,発生したものである。
      したがって,消滅時効の起算点は,平成5年11月8日であり,原告
は,それから5年経過前の平成10年7月28日に本件訴訟を提起しているから,
消滅時効は完成していない。
    (イ) また,被告と訴外ファミリーの間の「事業用借地権設定契約のため
の覚書」(甲5)は,その作成日付は平成4年10月1日となっているが,その添
付測量図の作成日付をみれば,実際には,平成5年4月27日以降に作成調印され
たものであることは明らかであり,賃貸借契約は同日以降に成立したものである。
      そして,原告は,被告に対し,平成5年4月27日から5年経過前の
平成10年2月15日までに書面をもって支払を催告し,それから6か月以内の平
成10年7月28日に本件訴訟を提起しているから,賃貸借契約成立に関する仲介
手数料支払請求権の消滅時効が独立して進行するとしても,その消滅時効は完成し
ていない。
    (ウ) 被告は,仲介行為が実質的に終了したときから消滅時効が進行する
かのごとき主張をしているが,不動産仲介委任契約は,仲介にかかる契約成立を停
止条件として仲介手数料を支払うことを約するものであるから,仲介にかかる契約
が未成立の時点から消滅時効が進行するということはありえない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点①(仲介委任契約の成否)について
  (1) 前提事実,証拠(甲1,2,4ないし6,7の1及び2,8,12ないし
15,19,21,22,23の1及び2,24,25,32,36,38,の
2,39の1ないし3,40,43,44の1及び2,49,66,証人D,原告
代表者(第1回及び第2回),証人E)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認
められる。
   ア 当事者の関係等
  (ア) 原告は,不動産の賃貸,売買,管理及びその仲介等を目的として,
平成2年4月19日に設立された有限会社であるが,設立以来,その経営の実権は
Cが有していた。
      そして,原告は,平成2年7月4日に宅地建物取引業法3条に基づく
免許を取得したが,その更新を行わず,3年の期間満了により同免許は失効した。
    (イ) 被告は,不動産の賃貸,売買,管理及びその仲介等を目的として,
昭和58年に設立された株式会社であるが,その代表取締役はAであった。
    (ウ) そして,CとAは,以前から付き合いがあり,平成2年ころには共
同して貸金業を行っていた。
    (エ) また,Aは,同人が代表取締役を務める訴外山陽鋼機建設株式会社
が昭和55,6年ころ,訴外ファミリーから鉄骨関係の仕事を受注したことから,
訴外ファミリーの代表取締役であるEと面識ができ,その後も,付き合いがあっ
た。
   イ 本件土地の売買等の経過
    (ア) Aは,本件土地の売却を考え,自らも売り先を探すとともに,平成
2年6月ころ,Cにも本件土地の買主を紹介するように仲介行為を依頼した。
    (イ) そこで,Cは,平成2年7月ころ,知り合いのFから紹介された訴
外三井不動産販売のDに本件土地の件を持ちかけたところ,同人がマンション建設
用地として興味を示したので,同人に対し,訴外ファミリーとも売買交渉が進んで
いることを伝えると,共同開発も可能であるというので,早速,DをAに紹介し
た。
      その後,A,E及びDらは,共同開発について数回協議し,その中
で,Dは,共同開発の内容として,分譲マンションを主体とし,建物の一部に訴外
ファミリーが経営するスーパーを入れるという案を提示したが,訴外ファミリーと
してはこれを受け容れることができず,Eは,平成2年11月24日に正式に共同
開発案を断った。
    (ウ) その後の平成2年11月27日,Eは,Aから,資金繰りの関係で
10億円必要なので,10億円で買ってくれるところに本件土地を売却すると言わ
れた。そこで,Eは,Aに対し,訴外第一火災海上保険相互会社(以下「訴外第一
火災」という。)から融資を受けることができた場合には10億円で買い受けても
いいと回答するとともに,本件土地の売却の交渉相手を訴外ファミリーに一本化す
るように求めた。
      そこで,Aは,本件土地の売却の交渉相手を訴外ファミリーに一本化
させるため,そのころ,Cに対し,被告と訴外ファミリーの間の売買契約に仲介者
として関与させることを約束した上,Dにうまく話をして手を引いてもらうように
依頼した。
      そして,CがDに本件土地の件から手を引くように伝えたところ,D
は,すぐには応じなかったが,結局,採算等から本件土地を10億円で買い受ける
のは困難と判断して,本件土地から手を引いた。
    (エ) 他方で,訴外ファミリーは,訴外日本マネージメントを通じて,被
告及び訴外第一火災と交渉した結果,本件土地に訴外第一火災が根抵当権を設定す
る条件で,訴外第一火災から10億8000万円を借り入れることができることに
なり,根抵当権の設定が完了した後の平成3年2月25日,訴外第一火災から10
億8000万円(実際に支払われたのは諸費用等を控除した10億5727万56
17円)の貸付を受けた。
      そして,訴外ファミリーは,被告に対し,同日,被告が訴外ファミリ
ーに対して本件土地を10億円で売却するとの基本的な合意に基づき,上記の10
億5727万5617円のうち10億円を被告に予約申込保証金名目で支払った。
      また,その際,Aは,Eに対し,原告の仲介手数料の一部前渡金とし
て2000万円を支払って欲しい旨申し入れ,同月27日,原告から預かっていた
記名印及び社印を使用して作成した預り証(甲36添付)と引き替えに,訴外ファ
ミリーから,原告の仲介手数料の一部前渡金として2000万円を受領したが,こ
れを原告には渡さなかった。
    (オ) ところが,その後,被告は,訴外ファミリーに対し,売却する土地
の単価を引き上げるように要求し出したため,原告が両者を調整するなどした結
果,被告と訴外ファミリーは,平成4年9月2日,本件土地の17分の10を売買
の対象,17分の7を賃貸借の対象とし,売買代金は坪当たり26万5000円,
賃料は坪当たり月額500円などとすることで基本的に合意し,その旨の覚書(甲
2)を交わし,原告も仲介者として同覚書に記名押印した。
    (カ) その後,被告と訴外ファミリーは,売買部分と賃貸部分の具体的範
囲について合意し,平成5年4月27日までにその測量図面を作成した上,同年5
月1日ころ,賃貸借の対象をe番fほか6筆(8105平方メートル),賃貸期間
を平成4年10月1日から20年間,賃料を月額147万1000円などとするこ
とで合意し,その旨の「事業用借地権設定契約のための覚書」(甲5)を作成し,
原告も仲介者として同覚書に記名押印した。
    (キ) 以上により,被告と訴外ファミリーの間における本件土地の売買契
約及び賃貸借契約の基本的事項は合意に達したが,正式な契約締結は,被告の税務
処理上の都合で平成5年9月以降とすることになった。
    (ク) そして,平成5年11月ころ正式に契約を締結することとなり,被
告が訴外ファミリーに対してc番dほか11筆の土地を8億3974万円で売却す
る旨の売買契約書(甲4と同じもの)が作成され,これに売主として被告が記名押
印し,仲介者として原告が署名押印した後,Aがこれを預かった。
      しかし,Aは,平成5年11月8日の契約締結当日,Eに対し,原告
を仲介から外すと述べた上,上記売買契約書と同一内容の売買契約書(甲6)を別
途用意し,これに売主として被告が,買主として訴外ファミリーがそれぞれ記名押
印し,売買契約を成立させ,原告が仲介者として記名押印した売買契約書を破棄し
た。
    (ケ) さらに,被告と訴外ファミリーは,平成5年11月30日,賃貸期
間の始期平成5年12月1日としたほかは,前記(カ)の覚書(甲5)と同内容の賃
貸借契約書(乙60)を作成し,これに賃貸人として被告が,賃借人として訴外フ
ァミリーがそれぞれ記名押印して,本件賃貸借契約を締結した。
    (コ) 他方で,原告は,G弁護士に依頼して,被告に対して平成5年11
月17日ころ,訴外ファミリーに対して同月18日ころ,それぞれ仲介手数料30
00万円ずつを支払うように請求した。
      また,原告は,被告に対し,平成10年2月13日付書面をもって書
面到達の日から10日以内に仲介手数料3000万円を支払うように催告し,同書
面は同月17日までに到達したが,被告はその受領を拒否した。
(2) 以上で認定した事実によれば,被告は,原告に対し,平成2年6月ころ,
原告が宅地建物取引業法3条の免許を取得することを停止条件として,被告所有の
本件土地の売却に関する仲介行為を委任し,原告が上記免許を取得して仲介委任契
約の効力が発生した後,仲介委任契約の内容として,更に,本件土地の売却の交渉
相手を訴外ファミリーに一本化するための調整活動,被告と訴外ファミリーの間の
本件土地の売買契約の成立に向けた調整活動,被告と訴外ファミリーが一部を売
買,その余を賃貸とすることで合意した後は,被告と訴外ファミリーの間の本件土
地の売買契約及び賃貸借契約の成立に向けた調整活動をそれぞれ依頼されたものと
認めるのが相当である。
  (3)ア これに対し,被告は,原告に本件土地の売買等に関して仲介行為を依頼
した事実はなく,実際,本件土地の売買等に関して原告が関与したのは極一部にす
ぎず,仲介行為と評価できるようなものではなく,Cが関与していたDの件も,本
件土地ではなく,訴外中井産業株式会社(以下「訴外中井産業」という。)所有の
土地の買収を目的としたものであり,本件土地とは関係がないと主張し,被告代表
者本人の供述,乙第30号証の1及び2(被告代表者本人が別件訴訟において本人
として供述した調書),並びに,証人Hの証言中には,以上の被告の主張に副う供
述ないし証言もある。
   イ しかし,証人Dは,訴外三井不動産販売の従業員であるが,証人尋問に
おいて,要旨,「Cから被告所有の本件土地を紹介された。訴外ファミリーとの共
同事業の話もあったが訴外ファミリーが断ったので成立しなかった。訴外三井不動
産販売ないし訴外三井不動産建設が訴外中井産業の土地の買取りに動いたことはな
い。」と証言しており,その証言内容は,全体としてみても具体的であり,かつ,
不自然・不合理な点はなく,しかも,同証人が敢えて虚偽の証言をする理由も見当
たらないから,基本的にその証言の信用性は高いものと評価することができるのに
対し,証人Hの証言内容は具体性に乏しく,また,被告代表者本人の供述をみる
と,別件訴訟の本人尋問調書(乙30の1及び2)では,要旨,「訴外三井不動産
販売の人は訴外中井産業の土地の買取りのことで来た。」と供述していたにもかか
わらず,証人Dの証人尋問の後に実施した被告代表者本人尋問においては,要旨,
「Dの件は,思い違いだった。」などと供述しているのであって,いずれも信用性
は低いといわざるを得ないことに照らすと,証人Dの証言は信用でき,これに反す
る証人Hの証言及び被告代表者の供述は採用できない。
     以上によれば,原告が,被告から本件土地の売却に関して仲介を依頼さ
れ,買主として訴外三井不動産販売を被告に紹介し,具体的な仲介行為を行った事
実があることは明らかである。
   ウ また,被告と訴外ファミリーの間の契約成立に向けた調整行為の依頼に
ついてみても,①甲第22号証(別件訴訟におけるEの証人尋問調書)において,
Eは,要旨,「Aは,Cに依頼してDに手を引いてもらい,被告と訴外ファミリー
が原告に仲介を委任しようと言っていた。」と証言していること,②被告と訴外フ
ァミリーの間の平成4年9月2日の覚書(甲2),平成5年5月1日ころ作成され
た「事業用借地権設定契約のための覚書」(甲5),平成5年11月ころ正式に契
約を締結する際に作成された売買契約書(甲4と同じもの)といった節目の重要な
書類には,仲介者として原告の記名押印がなされていること,③原告は,本件売買
契約成立直後の平成5年11月17日ころ,被告に対して仲介手数料として300
0万円を支払うように書面で請求していることなどに照らせば,被告が原告に対
し,被告と訴外ファミリーの間の契約成立に向けた調整行為を依頼していたことも
明らかというべきである。
   エ なお,被告は,原告と被告の間には仲介委任契約に関する契約書が存在
しないと主張するが,証人Dの証言によれば,不動産取引業者間においては,通
常,契約成立前にあらかじめ仲介委任契約に関する契約書を作成することはまれで
あることが認められることからすると,原告と被告の間には仲介委任契約に関する
契約書が存在しないということから仲介委任契約の不存在を推認するのは誤りであ
る。
(4) 以上によれば,争点①に関する原告の主張は理由がある。
 2 争点②(民法130条の適用の可否)について
  (1) 前記1で認定・判断したとおり,被告は,原告に対し,被告と訴外ファミ
リーの間の本件土地の売買契約成立に向けた調整を依頼し,次いで,同当事者間の
本件土地の売買契約及び賃貸借契約の成立に向けた調整を依頼した。
  (2) そして,前記1・(1)・イ・(オ)及び(カ)で認定したところによれば,原
告は,平成4年9月2日に,被告と訴外ファミリーの間において,本件土地の17
分の10を売買の対象,17分の7を賃貸借の対象とし,売買代金は坪当たり26
万5000円,賃料は坪当たり月額500円などとする基本的合意を成立させ,次
いで,原告は,平成5年5月1日ころ,被告と訴外ファミリーの間において,本件
土地のうちe番fほか6筆(8105平方メートル)を20年間,賃料月額147
万1000円で賃貸するとの覚書を締結させた。
  (3) しかるに,前記1・(1)・イ・(ク)及び(ケ)で認定したとおり,被告は,
正式な契約を締結する段になって,急に原告を仲介者から排除し,上記(2)の合意内
容とほぼ同一内容の契約を締結するに至った。
  (4) ところで,原告の被告に対する仲介手数料支払請求権は,原告の仲介行為
により被告と訴外ファミリーの間に契約が成立することを停止条件として発生する
ものであるところ,以上のとおり,被告と訴外ファミリーの間には,すでに原告の
仲介行為によって正式な契約内容とほぼ同一の合意が成立していたのであり,契約
書の調印段階に至って原告を排除したに過ぎないことからすれば,本件では,民法
130条を適用するまでもなく,原告の仲介行為により被告と訴外ファミリーの間
に契約が成立したものと認めるのが相当であり,被告と訴外ファミリーの間で正式
に契約が成立した時点で,原告の被告に対する仲介手数料支払請求権が発生したも
のと認められる。
    なお,原告は,民法130条の適用により仲介手数料支払請求権が発生し
たと主張しているが,この主張には黙示的に上記の主張が当然含まれているものと
善解することができる。
  (5) 以上によれば,争点②に関する原告の主張は理由がある。
 3 争点③(仲介手数料の金額)について
  (1) 原告は,原告と被告は,仲介委任契約締結にあたり,原告の仲介手数料を
法定の上限の金額とすることで合意したと主張し,原告代表者は,本人尋問(第2
回)において,要旨,「Aは,Cに対し,仲介手数料として売買金額の3パーセン
トを支払うこと,また,坪30万円で売れた場合には,いろいろな名目で1億円ま
で支払うことを約束した。」と供述している。
    しかし,原告代表者本人の供述のみでこのような合意があったと認めるこ
とは躊躇せざるを得ない。加えて,仮に原告が主張するような合意があったとして
も,前記1・(1)・イで認定した経過に照らすと,原告は,被告から,当初,原告が
被告に買主を紹介し契約を成立させるという仲介行為を依頼されたが,途中から,
すでに被告と訴外ファミリーの間で契約の成立に向けた交渉が大分進んでいた状況
で,被告から,被告と訴外ファミリーの間の契約成立に向けた両者の調整行為とし
ての仲介行為を依頼され,これを履行したものであるから,その仲介手数料の金額
について当初の合意の効力がそのまま当然に及ぶということはできない。そして,
被告と訴外ファミリーの間の契約成立に向けた調整行為の依頼を受けた時点で,原
告と被告の間に仲介手数料の金額について何らかの合意が成立したことを窺わせる
証拠はない。
    以上によれば,いずれにしても,合意に基づき仲介手数料の金額が法定の
上限の金額になると認めることはできない。
  (2) 次に,原告は,予備的に,原告と被告の間に仲介手数料に関する合意の存
在が認められないとしても,不動産取引業者間の仲介委任契約においては,法定の
上限の金額をもって仲介手数料の金額とする事実たる慣習があるから,特段の合意
をしない限り,法定の上限の金額が仲介手数料の金額になると主張する。
    確かに,法定の上限の金額をもって仲介手数料の金額としている仲介委任
契約が多いことは公知の事実であるということができるが,特に,本件のように契
約金額が高額の場合でも明示の合意がなければ法定の上限の金額をもって仲介手数
料の金額とするとの事実たる慣習があることが公知の事実であるとはいえず,原告
代表者本人の供述(第2回)のみで,このような慣習があると認めることもできな
い。
  (3) ところで,商行為としての仲介行為について仲介手数料の合意をしていな
かった場合でも,商法512条に基づき相当の報酬を請求することができるとこ
ろ,以上の原告の主張には,黙示的・予備的に,商法512条に基づく報酬請求の
主張が含まれているものと善解することができる。
    そして,この場合,相当の報酬額は,仲介行為により成立した契約の取引
金額,仲介行為の難易,期間,労力,その他諸般の事情を斟酌して認定すべきであ
る。
    そこで検討するに,①前提事実のとおり,原告の仲介行為により成立した
本件売買契約の売買代金額は8億3974万円であり,本件賃貸借契約の月額賃料
は147万1000円であること,②前記1・(1)及び(2)で認定したとおり,原告
は,本件土地の売却の交渉相手を訴外ファミリーに一本化するための調整活動及び
被告と訴外ファミリーの間の本件土地に関する契約の成立に向けた調整活動を行っ
たものであるが,原告代表者も本人尋問(第2回)において,仲介手数料をもらえ
る根拠について尋ねられ,本件土地の売却の交渉相手を訴外ファミリーに一本化し
たことであると供述していることや,被告と訴外ファミリーの間の本件土地に関す
る契約の成立に向けた調整活動の具体的な内容が判然としないことからして,この
契約成立に向けた調整活動の点ではそれほど重要な貢献があったとは認められない
こと,③他方で,交渉相手が訴外ファミリーに一本化されてから契約成立までに約
3年を要していること,その他,証拠上認められる諸般の事情を考慮すると,本件
の原告の仲介行為に対する相当の報酬額は,売買代金の1パーセントに当たる83
9万7400円と月額賃料の約3分の1に当たる49万0300円の
合計額である888万7700円と認めるのが相当である。
(4) 以上によれば,争点③に関する原告の主張は,888万7700円の限度
で理由がある。
 4 争点④(消滅時効の成否)
  (1) 原告の被告に対する仲介手数料支払請求権は,原告の仲介行為により被告
と訴外ファミリーの間に契約が成立したことを停止条件として発生するものである
から,その消滅時効の起算点は,仲介行為にかかる契約が成立したときである。
  (2) そして,前提事実のとおり,本件売買契約が成立したのが平成5年11月
8日であり,本件賃貸借契約が成立したのが同月30日であるから,それぞれ,そ
れから5年の経過により,商事債権である原告の被告に対する仲介手数料支払請求
権は時効期間が満了することになる(商法522条)。
  (3) しかし,本件記録によれば,上記の各契約成立日から5年が経過する前の
平成10年7月28日に本件訴訟が提起されているから,中断により,消滅時効は
完成していない。
  (4) 以上によれば,争点④に関する被告の主張は理由がない。
5 よって,原告の請求は,仲介手数料888万7700円及びこれに対する支払
請求の後である平成10年2月28日から支払済みまで商法所定の年6分の割合に
よる遅延損害金の支払いを求める範囲内で理由があるから,その限度で認容し,そ
の余は理由がないから棄却し,なお,原告勝訴部分の仮執行宣言は相当でないから
これを付さないこととし,主文のとおり判決する。
       山口地方裁判所第1部
裁判官    杉   山   順   一

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