弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告はこれを棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告の理由は末尾添附の抗告理由書記載のとおりである。
 よつて判断するに、記録によれば抗告人は原告となり相手方三名を被告として東
京地方裁判所に家屋明渡の請求訴訟を提起し同庁昭和二十二年(ワ)第一二九〇号
家屋明渡請求訴訟事件に於て抗告人(原告)勝訴の判決の言渡があつて右判決には
仮執行の宣言が附せられた事実、相手方三名は右判決に対し当庁へ控訴し当庁昭和
二十四年(ネ)第一三六号家屋明渡請求控訴事件として繋属し尚当庁に於では相手
方三名の申請により昭和二十四年三月二日相手方Aに於で金八千円、その他の相手
方等に於て各金千円宛の担保を供託することを条件として本案控訴事件の判決のあ
る迄前記判決の仮執行を停止する旨の強制執行停止決定をした事実、相手方Aは金
八千円、相手方B、相手方Cは各金千円宛をその翌日供託した事実、右控訴事件は
その後昭和二十四年十月二十一日相手方三名敗訴(控訴棄却)の判決の言渡があり
同判決が確定した事実、相手方三名は原裁判所へ右担保取消の決定を求める為め抗
告人に対し権利行使の催告を求め、原裁判所は昭和二十六年十月三十一日抗告人に
対し十四日以内に権利行使をなすべき旨の催告書を発送し同催告書が同年十一月十
二日抗告人に到達した事実、抗告人が同月二十六日相手方三名との間の東京地方裁
判所昭和二十二年(ワ)第一二九〇号(東京高等裁判所昭和二十四年(ネ)第一三
六号)家屋明渡請求訴訟事件につき相手方三名の負担すべき訴訟費用額の確定決定
を求める旨の申立をなした事実は孰れも明白である。
 <要旨>おもうに仮執行の宣言を附した判決に対し上訴を提起したとき保証を立て
させて仮執行の停止を命じた場合右保証によつて担保せられる債権は、右仮
執行の停止によつて生じた損害賠償請求権であつて本案訴訟事件に於で生じた訴訟
費用の請求権はこれに該当しないものと解するを相当とする。即ち訴訟費用の担保
は、民事訴訟法第百七条に、「原告が日本に住所、事務所及営業所を有しないとき
は裁判所は被告の申立に因り訴訟費用の担保を供すべきことを原告に命ずることを
要する」と明定するように、法律の規定を俟つて始めて生ずるものであつて、民事
訴訟法第五百十二条によつて準用せられる同法第五百条に規定する担保は、強制執
行の停止によつて生じた損害賠償請求権だけを担保するものであることは同法条の
法意に照して疑ないものと考へられる。然も訴訟費用は民事訴訟法第八十九条によ
れば、敗訴の当事者が負担するのが原則であるが、同法第九十条によれば、裁判所
は事情に従ひ勝訴の当事者をして其の権利の伸張若は防禦に必要でなかつた行為に
因つて生じた訴訟費用又は訴訟の程度に於で相手方の権利の伸張若は防禦に必要で
あつた行為に因つて生じた訴訟費用の全部又は一部を負担せしめ得るものであり、
他面損害賠償請求権の成立要件としては故意又は過失によつて権利を侵害したこと
を必要とするから、訴訟費用の請求権と損害賠償請求権とはその成立要件内容を異
にする結果相一致するものでないこと多言を俟つ迄もなく明白である。
 従て本件担保について、抗告人が本案訴訟事件に於ての訴訟費用額の確定決定の
申立をなした一事によつては民事訴訟法第百十五条第三項所定の権利行使をなした
ものとは云ひ難く、右に所謂権利行使をなしたものとしては抗告人に於で前記説明
の損害賠償請求権について訴の提起、支払命令の申請、調停の申立、裁判上の和解
の申立等少くとも裁判上の権利の行使を催告期間内になすべきことを必要としたも
のと解すべきところ、抗告人が催告期間内にこれ等の権利行使をしたことはその主
張、立証しないところであるから原裁判所が抗告人が催告期間内に権利行使をしな
かつたものと認め抗告人に於て本件担保取消に付同意があつたものとみなして本件
担保取消決定をしたのは洵に相当である。
 又原決定の担保取消決定には昭和二十六年(モ)第三九四六号事件に於て申請人
としてA、C、B、被申請人として抗告人を表示し申請人が昭和二十四年三月三日
東京法務局へ金八千円を供託して為した担保(供託番号昭和二十四年金第七五八五
号)は担保権利者の同意があつたものとみなして取消す旨記載してあるが冒頭説示
のとおり本件強制執行停止決定は相手方Aに金八千円、その他の相手方に各金千円
宛の担保の供託を命じたものであつて相手方等三名は夫々その担保を供託したもの
であり、本件担保取消決定の申立は相手方三名から原裁判所へ同時に共同して申立
てられ昭和二十六年七月十一日東京地方裁判所(モ)第三九四六号担保取消決定申
請事件として受理せられ(記録第八丁参照)、担保権行使催告の申立も同様三名か
ら原裁判所へ同時に共同して申立てられ同年十月二十七日東京地方裁判所(モ)第
六三九九号事件として受理せられ(記録第二八丁参照)催告書亦申立人A、C、B
三名を表示して発せられ(記録第二九丁参照)た事実に、原決定の事件名並に当事
者として相手方三名を表示してある点並にその内容の記載を照合するときは、原決
定は相手方三名の供託に係る担保全部について取消の決定をなしたものであること
は明白疑のないところであり、唯相手方C、同Bの供託金額、供託番号の表示を遺
脱したものと認められる。そしてこのような遺脱は民事訴訟法第百九十四条はより
原裁判所は申立に因り又は職権はより何時にても更正をなし得べきものであらて原
決定の実質には何等の違法がないものと云わなければならない。
 よつて抗告人の本件抗告は理由がなく、その他記録を調査しても原決定を取消す
べき違法の点は発見出来ないから本件抗告を棄却すべきものとして主文のとおり決
定する。
 (裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 牛山要 裁判官 野本泰)

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