弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人上野正秀の上告理由甲について。
 民法四一九条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、
法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその
損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の
損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべ
く、したがつて、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対
し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないと解するのが相当である。
これと同旨に出た原審の判断は正当として是認することができ、右判断の過程に所
論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同乙について。
 金銭を目的とする消費貸借上の利息について、利息制限法一条一項所定の利率の
制限をこえる約定があるが、遅延損害金については特約がない場合には、利息が右
条項所定の制限利率にまで減縮されるとともに、遅延損害金もおのずからこれと同
率にまで減縮されると解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁判所昭和四〇年(
オ)第九五九号同四三年七月一七日大法廷判決・民集二二巻七号一五〇五頁参照)
とするところであつて、これと同旨に出た原審の判断は正当である。原判決に所論
の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同丙について。
 金銭債権の取立費用は民法四八五条所定の弁済費用にあたらない旨の原審の判断
は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用する
ことができない。
 同丁について。
 金銭を目的とする消費貸借にあたり、利息の天引が債務者の任意の申出によつて
なされた場合においても、利息制限法二条の適用がある旨の原審の判断は、正当と
して是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。それゆえ、論旨は採
用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官大隅健一郎の反対意見
があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大隅健一郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由乙については、多数意見に賛成することができない。すなわち、
法律的にいえば、金銭債権における利息は元本利用の対価であるのに対し、遅延損
害金はその履行遅滞につき損害賠償として支払われる金銭であつて、両者の性質が
異なることはいうまでもないが、一般の取引の常識においては、このような区別を
意識することなく、利息も遅延損害金もひとしく元本利用の対価と考えているのが
普通であつて、本件における上告人の被上告人らに対する貸金のように当事者がそ
の利息を年三割六分五厘(日歩一〇銭)と約束した場合には、債務者は元本が完済
されるまでは、ひき続いて元本の利用に対して年三割六分五厘の対価を支払うこと、
法律的にいえば、弁済期までの利息を年三割六分五厘の割合で支払うのみならず、
弁済期に弁済をしなかつた場合の遅延損害金も同様に年三割六分五厘の割合で支払
うことを約したものと解するのが、当事者の意思からみても、一般の取引の常識か
らいつても自然であるといわざるをえない。その意味で、金銭の消費貸借契約にお
いて「利息年三割六分五厘」と定められている場合には、特段の事情がないかぎり、
「利息および遅延損害金年三割六分五厘」と定められているのと同様に解するのが
相当である(この点については、多数意見の引用する大法廷判決における私の反対
意見参照)。それゆえ、上告理由乙は理由があり、原判決はこの点において破棄を
免れないものと考える。
     最高裁判所第一小法廷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
 裁判長裁判官大隅健一郎は海外出張中につき署名押印することができない。
            裁判官    藤   林   益   三

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