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平成21年6月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(ワ)第1216号,同1913号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年1月16日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1被告A信用金庫,被告B,被告C及び被告Dは,連帯して,原告2,
4ないし6,9,11ないし18,20ないし22,24,25,27
ないし30,32,34ないし47,52ないし54に対し,別紙「請
求額及び認容額一覧表」の「認容額合計」欄記載の各金員並びにこれに
対する平成16年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
,,,,,2被告A信用金庫被告B被告C及び被告Dは連帯して原告59
61,63及び64に対し,別紙「請求額及び認容額一覧表」の「認容
額合計」欄記載の各金員並びにこれに対する被告A信用金庫,被告B及
び被告Cについては平成16年9月4日から,被告Dについては同月5
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告2,9,13,14,18,29,30,44ないし47,52
ないし54の被告A信用金庫,被告B,被告C及び被告Dに対するその
,,,,,,,,,,,余の請求原告1378101923263133
48ないし51,55ないし58,60,62,65及び66の上記被
告らに対する請求並びに原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却す
る。
4訴訟費用は,原告らと被告A信用金庫,被告B,被告C及び被告Dと
の間においては,これを1560分し,うち546を被告A信用金庫の
負担とし,うち各182を被告B,被告C及び被告Dの各負担とし,う
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,,,,,,,,,,ち各18を原告1378101923263133
48ないし51,55ないし58,60,62,65及び66の各負担
とし,うち各9を原告2,14,18,30,45ないし47,54の
各負担とし,原告らと被告国との間においては,全部原告らの負担とす
る。
5この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告A信用金庫,被告B,被告C及び被告Dは,連帯して,原告1ないし5
7に対し,別紙「請求額及び認容額一覧表」の「請求額合計」欄記載の各金員
並びにこれに対する平成16年6月16日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
2被告A信用金庫,被告B,被告C及び被告Dは,連帯して,原告58ないし
66に対し,別紙「請求額及び認容額一覧表」の「請求額合計」欄記載の各金
員並びにこれに対する被告A信用金庫,被告B,被告Cについては平成16年
9月4日から,被告Dについては同月5日から,各支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3被告国は原告1ないし57に対し別紙請求額及び認容額一覧表の請,,「」「
求額合計」欄記載の各金員及びこれに対する平成16年6月16日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告国は,原告58ないし66に対し,別紙「請求額及び認容額一覧表」の
「請求額合計」欄記載の各金員及びこれに対する平成16年9月4日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,平成14年1月25日に破綻した被告A信用金庫(以下「被告A」
という)に出資した原告ら66名が,被告A,被告Aの破綻当時理事長であ。
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った被告B(以下「被告B」という,専務理事であった被告C(以下「被。)
告C」という,常務理事であった被告D(以下「被告D」といい,被告B。)
及び被告Cと併せて「被告理事ら」という)並びに被告国に対し,出資金相。
当額及び弁護士費用の損害賠償を求める事案である。
1前提事実(証拠等の記載のない事実は,当裁判所に顕著であるか,当事者間
に争いがないか,明らかに争わない事実である)等(関係法令を含む)。
当事者(略)
関係法令等(略)
原告らによる出資
原告らは,被告Aに対し,別紙「請求額及び認容額一覧表(以下「別紙」
一覧表」という)の「出資日」欄記載の日に,同「出資金額」欄記載の金。
員を出資した。
被告Aの財務状況の概要等
ア被告Aは,いわゆるバブル経済の崩壊に伴い,多額の不良債権を抱えつ
つも,平成10年度(信金法上,信用金庫の事業年度は4月1日から翌年
3月31日までとされている)までは黒字決算を維持していたが,平成。
11,12年度と2期連続して赤字決算を行った(以下略)。
イ・・・前略,被告Aは,平成11年10月1日から平成12年3月()
31日までの間及び同年12月1日から平成13年3月31日までの間
に,それぞれ出資金の推進運動を行った(以下「出資金増強運動」とい,
い,平成11年度中の出資金増強運動を「第1次出資金増強運動,平成」
「」。),12年度中の出資金増強運動を第2次出資金増強運動というため
平成12年3月31日時点における出資金総額は前年比2億6700万円
増であり,平成13年3月31日時点における出資金総額は前年比4億4
400万円増であった。
被告Aに対する金融検査
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ア金融検査マニュアル
金融機関は,自ら資産の査定基準を定めて,その有する資産を検討・分
析して,貸出金債権の回収の危険性や価値の毀損の危険性を分類区分する
自己査定(具体的には,債務者の返済能力等に応じて債務者を5つに区分
した〔以下「債務者区分」という〕上で,担保及び保証の有無等を勘案。
,〔「」し回収の危険性に応じて貸出金債権を4つに分類し以下資産の分類
という,各債権につき貸倒引当金・貸出金償却の額を算出する)を行。〕。
う必要があり,これに対し,監督当局は,金融機関による自己査定の適切
性等を検証すべく,銀行法25条等に基づいて,金融機関に対する金融検
査を実施することとなるところ,金融庁は,平成11年7月1日付けで,
金融検査の基本的考え方及び検査に際しての具体的着眼点等を整理した通
達である「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュア
ル(以下「金融検査マニュアル」という)を策定・公表した。)」。
イ日銀考査
日本銀行は,平成11年10月,被告Aに対し,同年9月30日を検査
基準日とする考査を実施した(以下「日銀考査」という。。)
被告Aが平成11年3月31日時点において自ら算出した自己資本比率
は4.72パーセントであったが,被告Aが,日銀考査の結果を踏まえ,
同年9月30日時点における自己資本比率を算出し直したところ,自己資
本比率は2.38パーセントであった。
ウ平成12年検査
関東財務局長は,平成12年6月,被告Aに対し,同年3月31日を検
査基準日とする金融検査を実施した(以下「平成12年検査」という。。)
被告Aが平成12年3月31日時点において自ら算出した自己資本比率
は4.76パーセントであったが,被告Aが,平成12年検査の結果を踏
まえ,再度,平成12年3月31日時点における自己資本比率を算出し直
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したところ,自己資本比率は2.86パーセントであった。
エ平成13年検査
関東財務局長は,平成13年12月から平成14年1月にかけて,被告
Aに対し,平成13年3月31日を検査基準日とする金融検査を実施した
(以下「平成13年検査」という。。)
被告Aが平成13年3月31日時点において自ら算出した自己資本比率
は4.46パーセントであったが,被告Aが,平成13年検査の結果を踏
,,まえ同年12月31日時点における自己資本比率を算出し直したところ
自己資本比率は▲2.11パーセントであった。
被告Aの破綻
被告Aは,平成14年1月25日,金融庁長官に対し,破綻申請を行い,
同長官は,同日,被告Aに対し,預金保険法74条に基づく管理を命ずる処
分をした。
被告Aは,平成14年6月17日,E信用金庫に事業を譲渡し,これによ
り管理を命ずる処分が取り消され,被告Aは解散した。
2本件における主要な争点
被告理事ら及び被告Aの責任
ア被告A職員の説明義務違反の有無(争点1)
イ被告A職員の優越的地位の濫用の有無(争点2)
ウ被告A職員の出資金払戻協力義務違反の有無(争点3)
エ被告理事らの指導監督義務違反の有無(争点4)
オ被告理事らの行為と原告らの損害との間の因果関係(争点5)
被告国の責任
ア被告国の被告Aに対する監督権限不行使の違法性(争点6)
イ平成13年検査の違法性(争点7)
第3争点に関する当事者の主張
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(原告らの主張)
1争点1(被告A職員の説明義務違反の有無)について
主張の要旨
被告A職員は,原告らに対する出資の勧誘に際し,出資の基本的性格及び
リスクに関する説明義務を怠り,また,被告Aの経営状況が悪化し,破綻す
る具体的な危険性があったにもかかわらず,被告Aの経営状況に関する説明
義務を怠ったことにより,原告らに出資金相当額の損害を与えた。
被告A職員の上記説明義務違反は,不法行為に該当し,これは被告Aの事
業の執行につきなされたものであるから,被告Aは,原告らに対し,民法7
15条1項に基づく損害賠償責任を負う。
出資の基本的性格及びリスクに関する説明義務違反
ア出資金は,預金と異なり,元本割れのおそれがあるほか,出資を受けた
会社が破綻した場合には無価値となるリスクを有している。預金について
は,いわゆるペイオフ解禁に際しても,1000万円までは保護されてい
るのに対し,出資金は保護の対象となっておらず,従前は,信用金庫の出
資金についても,信用金庫相互援助資金制度(以下「相互援助資金制度」
という)により全額が保護されていたが,平成10年10月に同制度の。
改正がなされ,平成13年4月1日からは1万円を超えては出資金を保護
せず,平成14年4月1日からは一切出資金を保護しない旨改められるこ
ととなった。
また,出資金は,預金と異なり,譲受けを希望する会員又は会員たる資
格を有する者に譲渡するか,被告Aに譲受請求をしない限り,払い戻すこ
,。とができず投下資本の回収に長期間を要するというリスクを有している
このように,出資金と預金とは相当程度性質が異なるものであるが,信
用金庫は地域住民から預金を受け入れることを主な業務とする金融機関で
あるため,信用金庫の職員が出資を勧誘する場合,預金の勧誘と誤認され
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るおそれがある。
以上の点からすれば,被告A職員には,信義則上,出資の勧誘に際し,
出資金とは相互扶助組織である信用金庫の会員となり,信用金庫の事業を
利用するための拠出金であるという出資の基本的性格を説明するととも
に,預金との誤認を防止すべく,出資金は元本が保証されていない上,払
戻しに長期間を要するというリスクを説明すべき義務があったというべき
である。また,これらの説明に加え,平成10年10月以降に出資を勧誘
するに際しては,相互援助資金制度の改正により,将来,出資金は保護さ
れなくなる旨を説明し,平成10年10月以前に出資した者に対しては,
第2次出資金増強運動が終了した平成13年3月までの間に,相互援助資
金制度が改正された旨を説明すべき義務があったというべきである。
イしかし,原告らの中に,出資の基本的性格について説明を受けた者はお
らず,一部の者については「出資」という言葉さえ聞かされていなかっ,
た。
また,多くの原告は「定期預金より利回りがよい」などと言われ,預,
金とは払戻しの手続など若干の取扱いが異なるだけであるとの説明を受け
たにすぎず,利回りのよい定期預金のような契約であると誤認して出資し
たものである(以下略)。
さらに,原告らの中に,相互援助資金制度の改正について説明を受けた
者はおらず・・・中略,事実と異なる説明を受けた者さえいる状況で,()
あった(以下略)。
被告Aの経営状況に関する説明義務違反
ア被告Aの経営状況
被告Aは,平成8,9年度に合計61億6500万円の特別損失を計
上するとともに,合計62億0300万円の積立金を取り崩したことか
ら,自己資本額を大幅に減少させた。その結果,被告Aは,長期にわた
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って積み立ててきた内部留保をほぼ使い果たし,それ以上の損失に耐え
られない財務体質となっていた。
被告Aは,平成11年10月の日銀考査の結果,多額の貸倒引当金の
計上が必要である旨指摘され,同年9月30日時点における自己資本比
率は2.38パーセントに低下したが,被告理事らは,日銀考査が厳し
い結果となることをあらかじめ予想していたことから,自己資本比率を
高めるべく,日銀考査に先立って第1次出資金増強運動を実施すること
を決定した。そして,第1次出資金増強運動開始から1か月程度で,日
銀考査の結果が厳しいものであることが判明したことから,4パーセン
ト台の自己資本比率を維持するための決算対策として,同運動をさらに
推し進めた。
被告Aは,平成12年検査の結果,多額の貸倒引当金の計上が必要で
ある旨指摘され,同年3月31日時点における自己資本比率を算出し直
したところ,2.86パーセントに低下していることが判明したが,被
告理事らは,平成12年検査終了直後の同年6月28日時点において,
多額の貸倒引当金が必要となり,自己資本比率が大幅に低下することを
認識したことから,第1次出資金増強運動と同様に,自己資本比率4パ
ーセントを維持するための決算対策として,第2次出資金増強運動を実
施した。
被告Aは,税効果会計(企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計
算上の資産又は負債の額に相違がある場合において,法人税等の額を適
切に期間配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益と法
人税等を合理的に対応させることを目的とする手続)の導入に伴い,平
成10年度に14億2400万円の繰延税金資産(企業会計上の費用が
税務上否認され,税務上の課税所得や納付税額が増加することとなった
場合に生じる将来の会計期間に帰属すべき税金費用を前払いしたと考え
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て,これを繰延処理することにより生じる資産)を計上し,平成12年
度にはこれを20億4100万円にまで増加させた。繰延税金資産は,
将来予想される課税所得の範囲内でしか計上は認められないところ,繰
延税金資産14億2400万円を回収するためには約45億9300万
円の課税所得が,20億4100万円の繰延税金資産を回収するために
は約65億8300万円の課税所得が必要であり,これを5年間で回収
するとすれば,年間約9億円ないし13億円程度の課税所得が必要とな
,,るがこれは近年の被告Aの実績からして到底実現不可能な金額であり
上記繰延税金資産の計上は,明らかに過大計上であった。また,繰延税
金資産は3期連続赤字決算の場合には全額取り崩されることになるとこ
ろ,被告Aは,平成11,12年度と2期連続して赤字決算の状態にあ
り,平成13年度が赤字決算になれば繰延税金資産全額が取り崩される
状況にあった。
被告Aは,貸出金の利息収入が減少したことや日銀考査の厳しい結果
などを踏まえ,他の方法で収益を得るべく,株式投資の割合を増やして
いき,平成12年3月31日時点では,有価証券の保有高を約100億
円に拡大させており,被告Aの抱えるリスクは大きなものとなっていた
ところ,日経平均株価は平成12年度中に下落を続け,被告Aは,第2
次出資金増強運動開始時点では,約21億円の含み損を抱え,実質的に
債務超過の状態にあった。
このように,被告Aは,第1次出資金増強運動の前から,積立金の取
崩しや多額の繰延税金資産の計上といった対策をとってきたが,これら
はすべて一過性のものであり,その反面,繰延税金資産が取り崩される
危険性や有価証券の保有高の増加といったリスクは確実に増加してい
き,そのまま事態が推移すれば,いずれ採り得る手段がなくなり,破綻
に至る具体的危険性が存在していた。
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イ被告Aの経営状況に関する説明義務違反
原告らに対する出資の勧誘は,上記アのとおり,被告Aの自己資本比率
が低下し,破綻の具体的な危険が発生している状況下において,自己資本
比率を向上させるために行われたものであり,一般人であれば投資を躊躇
する状況にあった。
したがって,被告A職員には,出資の勧誘に際し,原告らに対し,出資
に大きなリスクがあることを十分認識させるべく,①被告Aの自己資本比
率が,被告国の金融検査により相当程度低下しており,自己資本比率の改
善が急務であること,②被告Aの経営状況が悪化した場合,出資金が返還
されなくなるおそれがあることを説明した上で,③信用金庫の事業を利用
するための拠出金であるという出資の性格からすれば,出資者には多額の
出資を行う利益は乏しいが,それでも被告Aの経営体質改善に協力するか
どうかの判断を求めるべき義務があった。
しかし,被告A職員は,出資の勧誘に際し,原告らに対し,被告Aの具
体的な経営状況を一切説明しなかった(以下略)。
2争点2(被告Aの優越的地位の濫用の有無)について(略)
3争点3(被告A職員の出資金払戻協力義務違反の有無)について
,,被告A職員には被告Aに出資した原告らが出資金の払戻しを希望した場合
信義則上又は定款上,速やかにこれを実現すべく,できるだけ払戻しに協力す
べき義務があった。
しかし,被告A職員は,平成13年3月から10月までの間に払戻請求をし
た原告らに対し,今は無理であるなどと述べて同請求を拒絶した。
また,原告らの中には,払戻請求をして手続を終えたにもかかわらず,被告
Aが破綻したため,払戻しを受けられなかった者や,払戻請求をしようとした
ところ,引き留められ,請求手続をとることができなかった者もいる。
被告A職員の上記行為は,いずれも原告らの払戻請求を不当に拒絶又は回避
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する不法行為に当たり,これは被告Aの事業の執行につきなされたものである
から,被告Aは,原告らに対し,民法715条1項に基づく損害賠償責任を負
う。
4争点4(被告理事らの指導監督義務違反の有無)について
,,,被告理事らには被告A職員に対し相互援助資金制度の存在やその改変
出資金の払戻手続といった出資のリスクに直結する基本的かつ重要事項につ
いて,研修等を行うなどして周知の徹底を図るとともに,出資の勧誘に際し
ては,これらの事項を出資者に説明するよう指導監督すべき義務があった。
また,前記1アのとおり,被告Aは,出資金増強運動当時,債務超過か
これに近い状態となっていたところ,被告理事らは,これを認識し,そのま
ま事態が推移すれば破綻することは十分予想できたのであるから,被告A職
員に対し,出資の勧誘に際しては,被告Aの厳しい経営状況及び破綻の可能
性があることを説明し,それでも出資して被告Aの再建に協力してくれる者
に限って出資してもらうよう指導監督すべき義務があった。
しかし,被告理事らは,被告A職員に対し,相互援助資金制度の存在やそ
の改変,出資金の払戻手続といった出資のリスクに直結する基本的かつ重要
事項について教育を行わず,また,被告Aの厳しい経営状況などを全く知ら
せず,安易な自己資本比率のかさ上げにのみ腐心して,各支店にノルマを課
し,互いに出資金の獲得額を競わせて,強力に出資金増強運動を推進し,上
記指導監督義務を怠った。
その結果,被告A職員は,前記1及びのとおり,出資の勧誘に際し,
原告らに対し,出資の基本的性格,内在的リスク,被告Aの経営状況及び破
綻の危険性について一切説明せず,ときには優越的地位を濫用するなどして
強引に出資させるといった違法な勧誘を続け,原告らから多額の出資金を募
集した。
したがって,被告理事らの上記指導監督義務違反は,不法行為に当たると
−12−
ともに,理事としての職務を行うにつきなされた任務懈怠に当たるから,被
告理事らは,原告らに対し,民法709条及び信金法35条2項(ただし,
),平成17年法律第87号による改正前のものに基づく損害賠償責任を負い
被告Aも,原告らに対し,民法44条1項(ただし,平成18年法律第50
号による改正前のもの)に基づく損害賠償責任を負う。
5争点5(被告理事らの指導監督義務違反と原告らの損害と間の因果関係)に
ついて(略)
6争点6(被告国の被告Aに対する監督権限不行使の違法性)について
被告国(内閣総理大臣,金融庁長官,関東財務局長)は,信用金庫の業務の
健全かつ適切な運営を確保するため,報告又は資料の提出,立入検査,業務の
停止,免許の取消し等により,信用金庫を監督する権限を有し,金融機関の特
性に応じた指導等によって金融機関を監督する立場にあるところ,信金法1条
は,同法の目的として「預金者等の保護」を掲げており,被告国は,出資者,
を含む預金者等の保護を図るために,これらの監督権限を行使すべき義務を有
している。
被告Aは,出資金増強運動に際し,原告らに対する説明義務を果たさず,原
告らから違法に出資を募り,出資金総額を著しく増大させたが,被告国は,被
告Aに対する金融検査や被告Aからの報告によって,被告Aの自己資本比率が
4パーセントを大幅に下回るなどの極めて厳しい経営状況や,出資金額の異常
ともいえる上昇を把握し,被告Aが近く経営的に破綻する具体的危険性がある
こと,被告Aが,出資の勧誘に際し,出資のリスクを十分に説明せずに強引に
出資を募っているであろうこと,出資金増強運動を放任すれば,被告Aの経営
破綻により,いずれ近い将来に出資金を返還できなくなるという深刻な被害が
発生することを容易に予見し得た。また,被告国は,被告Aに対し,金融検査
を実施したり,報告を求めたりする中で,資本充実を含む改善計画の提出を繰
り返し要求し,被告Aが出資金増強運動を強引に推し進めるきっかけを作り,
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さらにこれをエスカレートさせる原因を作った。
これらの事情に照らせば,被告国には,上記監督権限を適切に行使して,被
告Aに対し,出資の勧誘に当たっては,出資のリスクや被告Aの経営状況に関
する説明を尽くし,強引な勧誘をしないよう指導監督する義務があったという
べきであるが,被告国はかかる監督権限の行使を怠った。
かかる被告国の監督権限の不行使は,著しく合理性を欠き違法であるから,
被告国は,原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。
7争点7(平成13年検査の違法性)について
信用金庫は,元来,出資者に対する相互扶助を目的とし,出資者に対する
融資を行うための金融機関であり,また,大銀行では融資を受けられない地
域の中小・零細企業への金融を役割としている。このような信用金庫の特殊
性にかんがみると,信用金庫の主要な貸出先である中小・零細企業の信用を
評価するに当たっては,中小・零細企業の特性,すなわち,財務面における
代表者等との一体性,企業の技術力,販売力や経営者本人の信用力等を勘案
する必要があるというべきであるが,金融検査マニュアルは,本来は大企業
を取引先とする銀行の資産査定を想定して策定されたものであるため,上記
のような経営実態に応じた査定基準が示されておらず,金融検査マニュアル
が信用金庫に対して形式的・画一的に適用された場合,現実とはかけ離れた
不当な査定結果が出るおそれがあった。
ところが,関東財務局長は,平成13年検査において,被告Aの貸出先で
ある中小・零細企業の特性を考慮することなく,金融検査マニュアルを形式
・画一的に適用し,貸出先の債務者区分を大幅に引き下げる査定を行った。
また,被告国は,金融検査マニュアルを形式的・画一的に適用したにとど
まらず,恣意的な運用を行った。
すなわち,金融検査マニュアルでは「直近の不動産鑑定士による鑑定評,
価(中略)がある場合には担保評価額の精度が十分に高いものとして当該価
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格を処分可能見込額と取り扱って差し支えない」とされており,不動産鑑定
士による評価について疑義を差し挟むことは要しないとされているところ,
関東財務局長は,平成13年検査において,不動産鑑定士の評価の精度に疑
義があるとして,被告Aの貸出金債権を保全するための担保物件の処分可能
見込額を不動産鑑定士による担保評価額の90パーセントとした。不動産鑑
定士による評価がある場合,精度が高いことについて合理的な根拠があるか
否かについて検証することは,通常の検査の手順として想定されておらず,
不動産鑑定士による担保評価額の精度に疑義があるとした平成13年検査
は,金融検査マニュアルの恣意的な運用であり違法である。
また,被告国は,平成12年検査までは不動産鑑定士による担保評価額の
,,100パーセントを処分可能見込額として認め平成13年検査と同時期に
被告Aと営業地域をほぼ同じくするF信用金庫に対して行った金融検査の際
にも,被告Aと同じ鑑定事務所が行った担保評価額の100パーセントを処
分可能見込額として認めていることからしても,平成13年検査において金
融検査マニュアルが恣意的に運用されたことは明らかである。
さらに,被告国は,平成13年検査においては,通常の倍の人数である1
2人もの検査官を派遣し,当初から被告Aによる自己査定をすべて否定する
態度で臨み,通常の期間の3分の1である約1か月で検査を終了したもので
ある。
被告Aは,金融検査マニュアルの形式的・画一的適用及び恣意的運用によ
り行われた平成13年検査の結果,多額の貸倒引当金の積み増しを余儀なく
され,14億7600万円の債務超過に陥ることとなり,被告国から,自主
的に破綻申請しなければ業務停止命令を下すと圧力をかけられ,破綻申請を
迫られた。
よって,平成13年検査は,被告国が有する監督権限を濫用する違法な権
限行使であるから,被告国は,原告らに対し,国家賠償法1条1項に基づく
−15−
損害賠償責任を負う。
(被告Aの主張)
1争点1(被告A職員の説明義務違反の有無)について
主張の要旨
被告Aは,原告らが主張する説明義務を何ら負うものではなく,また,出
,,資の基本的性格及びリスクについては仮に説明義務を負っているとしても
原告らに対する説明を尽くしているから,被告Aが,原告らに対し,民法7
15条に基づく損害賠償責任を負うことはない。
出資の基本的性格及びリスクに関する説明義務違反
ア「出資」が事業への資金の拠出を意味し,事業が破綻した場合には返還
不能となることは,通常人において十分理解可能な事柄である。
また,信用金庫に対する出資金は「金融商品の販売等に関する法律」,
が規定する金融商品ではなく,投機の対象となるような性質のものではな
い。唯一,信用金庫に対する出資について想定されるリスクは,信用金庫
の破綻しかなく,先物取引や変額保険などが有するリスクとは自ずから異
なるものである。
したがって,被告A職員が出資を勧誘するに当たっては,出資の勧誘を
していることを明確にすれば十分であり,それ以上に出資の基本的性格や
リスクについてまで説明義務を負うものでないというべきである。
また,相互援助資金制度は,本来的に元本が保証されていない出資金に
ついて,例外的かつ政策的に恩典を与えていたにすぎないのであるから,
同制度の改変によって出資金が全額保護されなくなることまでの説明義務
を負うものでないことは当然である。
イ仮に,被告A職員が出資の基本的性格やリスクについて説明義務を負う
としても,被告A職員は,原告らに対し,これらについて十分な説明を行
っていたものである。
−16−
すなわち,被告A職員は,出資の勧誘に際し,勧誘の相手方に対し,特
に預金との混同を避けるため,出資金は元本が保証されているわけではな
く,万一被告Aが破綻するようなことがあれば,出資金が回収不能となる
可能性がある旨説明していた。また,出資金の払戻しには時間がかかり,
預金をキャッシュカードで引き出すような単純なものではないことも十分
に説明していた。さらに,被告Aでは,預金の利率と出資金の配当率を比
較して,配当率の良さばかりが強調されないよう,営業担当者に厳しく指
導しており,各営業担当者は,出資の勧誘に際し,単純に当時の配当率の
説明を行うだけでなく,それが業績等によって変動し得るものであること
。,,,の説明を行っていたそもそも出資をしようとする者は出資に際して
必ず出資申込書を記載するとともに,出資金相当額の振込若しくは振替の
ための手続をとり,後日,出資証券を受領するのであるから,出資者にお
いて,出資と預金とを混同することは考えられない。
以上のとおり,被告A職員は,出資の勧誘に際し,勧誘の相手方が出資
の意味内容を十分に理解し得るように慎重に説明を行っていたのであるか
ら,被告A職員に説明義務違反は存しない。
被告Aの経営状況に関する説明義務違反
ア被告Aの経営状況
被告Aは,いわゆるバブル経済崩壊後の厳しい情勢下においても,平
成10年度までは黒字決算を続けており,同年度には2億6000万円
余りの利益を計上していた。
被告Aは,平成11,12年度と2期連続して赤字決算となったもの
,,のこれは多額の貸倒引当金を新たに繰り入れたことによるものであり
金融機関としての本来業務による収益力の指標となる業務純益は年間1
0億円を超えていた。
被告Aでは,経営計画を策定し,適正な業務純益の確保,出資金の増
−17−
強,不良債権の回収,経費の圧縮等により経営状況の改善を図ることと
していたが,平成11,12年度とも,業務純益の実績は計画を上回っ
ていたのであり,人件費の削減や不良債権の回収についても順調に推移
していたことから,被告Aの経営状況の改善は進んでおり,被告Aが直
ちに経営危機に陥るようなことは全く想定されていなかった。実際上,
平成13年度についても,計画では10億9800万円の業務純益を予
定していたが,上半期はこれを上回る水準の実績を上げていた。また,
平成12年度までに多額の貸倒引当金を計上していたことから,貸倒引
当金の計上は一段落したと考えており,特に,平成12年度分について
は,G中央金庫(以下「G中金」という)から,被告Aによる自己査。
定が正確であるとの評価を受けていたことから,平成13年度に多額の
貸倒引当金の計上を余儀なくされることなど予想していなかった。
したがって,被告理事らは,平成13年度以降,被告Aの経営状況が
,.改善するものと考えていたところであり同年9月11日のいわゆる9
11テロ事件の発生により景況が悪化し,平成13年検査が実施されて
破綻に追い込まれるまで,被告Aが破綻に瀕した経営状況であるなどと
は考えたことはなかった。まして,第1次出資金増強運動が行われた平
成11年度は,被告Aが初めて経常損失を計上した年度であり,破綻の
可能性など認識すべくもなかったことは明らかであり,第2次出資金増
強運動が行われた平成12年度についても,多額の貸倒引当金の積み増
しにより,貸倒引当金の計上は一段落し,平成13年度以降は経常収益
が上がるものと考えていたのであるから,被告理事ら及び被告A職員に
おいて,被告Aの経営状況が破綻に瀕しているなどとは考えられるはず
もない状況であった。
原告らは,被告Aが,日銀考査や平成12年検査に起因する自己資本
比率の低下を理由として出資金増強運動を実施した旨主張するが,出資
−18−
金増強運動は,日銀考査や平成12年検査の前から計画されていたこと
であり,被告Aの経営体質を強化する種々の施策の一環として従来の計
画どおりに行われたにすぎない。出資金増強については,金融庁からも
指示を受けていたところであり,自己資本比率を上げる施策の一環とし
て出資金の増強を選択することに合理性があることは明らかであり,し
かも,債務超過の状態にあることを認識しつつ出資を募ったわけでもな
いのであるから,被告理事らの経営判断が不合理であったとは到底いえ
ない。
また,原告らは,繰延税金資産の計上が過大であった旨主張するが,
多額の貸倒引当金を計上すれば,その分,繰延税金資産の計上額が増え
ることもやむを得ないのであり,他の金融機関と比較しても計上額が過
大であるとはいえない。被告Aの場合,平成11,12年度と2期赤字
決算が続いていたものの,平成13年度以降は黒字決算が可能であると
考えており,会計監査人からも繰延税金資産の計上に関して問題点を指
摘されたことはない。
さらに,原告らは,平成11年度以降の有価証券の保有高の増加を問
題視するが,当時は,本業である貸出金の伸びが非常に鈍く,それによ
って得られる利益は減少傾向にあったところ,日経平均株価の底値感の
強まり,情報通信株や新規公開銘柄の株価の急騰,株式売買委託手数料
の自由化,インターネット・トレーディングの普及等により,株式を始
めとする有価証券投資に絶好の状況が整いつつあった時期であった。被
告Aとしては,あくまでも長期保有により毎期安定した運用益を確保す
ることを目的として,投資信託等の保有高を増加させたものであり,当
時,有価証券以外に有望な投資先が存したとは到底いえない状況であっ
たため,その判断自体は何ら非難されるべきことではない。
イ被告Aの経営状況に関する説明義務違反
−19−
出資金は市場で取引されるものではなく,投機の対象とはなり得ない
ものであり,元本割れをする場合とは,被告Aが破綻する場合しか想起
できないところ,抽象的な破綻の可能性はすべての信用金庫について存
在するものであるから,出資の勧誘に際し,勧誘の相手方に対し,抽象
的な破綻の可能性について説明する義務などなく,説明を要するのは,
具体的に破綻が差し迫っているか,実質的に破綻状況にあると認識して
いるときに限られるというべきである。
平成11年度中は,前年度が黒字決算であったため,客観的に経営体
質が不良であるとか,破綻の可能性のある状況になかったことは明らか
である。したがって,平成11年度以前の出資者に対しては,被告Aの
経営状況について説明する必要がなかったことは明らかである。
平成12年度については,前年度が赤字決算であったものの,被告A
の経営状況は債務超過とはほど遠く,引き続き経営改善策を推進するこ
とによって健全化することは十分可能であった。したがって,同年度に
おいても,被告Aは,自らが破綻する可能性を全く認識しておらず,単
に,自己の経営状況をより健全化して経営基盤の強化を図るべく努めて
いただけであって,出資の勧誘に際し,勧誘の相手方に対し,被告Aが
破綻する可能性があることについて説明する必要がなかったことは明ら
かである。
平成13年度については,前々年度,前年度と2期連続して赤字決算
であったものの,不良債権処理が相当程度終了していたことなどもあっ
て,当期からは相応な収益が上がるものと考えていた。したがって,平
成13年度についても,被告Aが破綻に瀕していることを知りつつ出資
。(,を募集したことはない平成13年度中に出資した原告ら8名原告4
9,17,24,27,34,38,42)については,出資の時期が
前年度末に近接しているか,破綻の直接の原因となったいわゆる9.1
−20−
1テロ事件以前の出資であることから,同人らの出資の際,被告Aの経
営は悪化している状況にはなく,前年度までと同様に,出資の際の説明
事項として殊更に経営状況に言及する必要はなかったというべきであ
る。
以上のとおり,被告Aは,原告らに対する出資の勧誘時,破綻状態に
あったわけではなく,また破綻の可能性すら認識できない状況にあった
のであるから,原告らに対し,具体的な経営状況について何らの説明義
務を負うものではない。
2争点2(被告A職員の優越的地位の濫用の有無(略))
3争点3(被告Aの出資金払戻協力義務違反の有無)
原告らは,具体的な事実を摘示することなく,また,どのような行為が出資
金払戻義務違反に当たるのか,どのような法的根拠によりそのような義務が発
生するのかを明確にしておらず,原告らの主張は失当である。
また,被告A職員が,信金法16条1項及び定款13条1項の規定に反して
原告らの権利行使を妨げるなどの具体的な事情があれば格別,そのような事情
もなく,単に,現況で払戻しが困難であることや,いったん再考を促すにとど
まる行為が,原告らの権利行使を不当に拒絶又は回避したことになるはずはな
い。
,,,したがって被告Aは原告らの主張する出資金払戻協力義務違反に基づき
何らの不法行為責任を負うものではない。
4争点4(被告理事らの指導監督義務違反の有無)について
被告A職員は,新人時代から,出資金の性格について研修を積み,融資業務
などを通じて各人においてその理解を深めており,各職員は出資の性格を熟知
していた。また,出資金は,価格変動がなく,被告Aが破綻しない限り元本が
保証されるという低リスクのものであることからすると,出資の勧誘に際して
の各職員の具体的な説明義務の程度は,総じて高くないことは明らかである。
−21−
したがって,被告理事らとしては,被告A職員に対し,具体的な勧誘方法ま
で指示する必要はなく,妥当な注意事項を示せば理事としての注意義務を果た
,,,しているというべきであるところ被告理事らは出資金増強運動に当たって
業務企画部長を通じて,各支店長宛に通知を発出し,注意事項として,①広く
募集するのではなく,被告Aの理解者に依頼すること,②配当率を強調しない
こと,③譲渡については信金法所定の手続によること,④大口の出資金の募集
は慎むこと等を指示し,妥当な注意事項を示しているのであるから,理事とし
ての注意義務を果たしているというべきである。
また,原告らは,被告理事らには,被告Aの厳しい経営状況及び破綻の可能
性があることを説明し,それでも出資して被告Aの再建に協力してくれる顧客
にのみ出資してもらうよう被告A職員を指導監督すべき義務がある旨主張する
が,前記1のとおり,被告Aは債務超過の状態にあったわけではなく,被告
,,,理事らにその認識もなかったのであるから被告理事らが被告A職員に対し
被告Aの経営状況等を説明する必要はなかったものである。
したがって,被告Aの理事らには,理事としての注意義務違反はなく,何ら
の不法行為も成立することはないから,被告Aが民法44条1項(ただし,平
成18年法律第50号による改正前のもの)に基づく損害賠償責任を負うこと
はない。
5争点5(被告理事らの指導監督義務違反と原告らの損害との間の因果関係)
について(略)
(被告理事らの主張)
1争点4(被告理事らの指導監督義務違反の有無)について
出資のリスク等に関する指導監督義務違反
出資金が,株式と同様に,出資先が破綻した場合には返還不能となること
は一般常識に属することであるから,被告A職員が,出資の勧誘に際し,出
資のリスクについて説明義務を負うことはなく,そうである以上,被告理事
−22−
らが被告A職員に対する指導監督義務を負うこともない。また,出資金は,
本来的に元本が保証されておらず,相互援助資金制度の改正は,この本来的
な性格に戻るだけのことであるから,被告A職員が,出資の勧誘に際し,勧
誘の相手方に対し,同制度の改変について説明義務を負うことはなく,そう
である以上,被告理事らが被告A職員に対する指導監督義務を負うこともな
い。
また,被告A職員は,法的な説明義務を負うものではなかったとはいえ,
出資の勧誘に際し,上司の指示ないしは信用金庫職員としての実務経験に基
づいて,原告らに対し,出資と預金との相違等の説明を尽くしていたもので
ある。
したがって,被告A職員に説明義務違反は認められず,これを前提とする
被告理事らの指導監督義務違反も認められないというべきである。
被告Aの経営状況に関する指導監督義務違反
ア被告Aの経営状況について
平成11,12年度は,多額の貸倒引当金・貸出金償却を計上したこ
とにより赤字決算となったが,業務純益は計画以上の数字を確保してい
たこと,貸倒引当金・貸出金償却の計上が一段落したこと,首都圏の一
部の地域の地価に下げ止まりないし上昇傾向がみられるようになってき
たこと,景気が回復基調にあったことなどにより,被告理事らは,経営
改善計画を着実に実行していけば,平成13年度以降,被告Aの経営状
況を改善することは十分可能であると見込んでいた。現に,平成13年
度に入ってからは,被告Aの業績は計画どおりに順調に推移していた。
原告らは,日銀考査や平成12年検査の結果が厳しいものであると予
想されたことから,4パーセント台の自己資本比率を維持するための決
算対策として出資金増強運動が実施されたと主張するが,第1次出資金
,,増強運動は被告Aの経営体質の強化を図るための諸施策の一環として
−23−
日銀考査の実施の連絡がなされる前から計画されていたものであり,4
パーセント台の自己資本比率を維持するための決算対策だけを目的とし
て行われたものではない。このことは,平成11年度決算においては,
第1次出資金増強運動による出資金の増加分を計算に入れなくとも,4
パーセント台の自己資本比率を維持することができていたことからも明
らかである。また,平成12年度決算においても,第2次出資金増強運
動による出資金の増加分を計算に入れなくとも,4パーセント台の自己
資本比率を維持していたのであるから,第2次出資金増強運動が,4パ
ーセント台の自己資本比率を維持するための決算対策だけを目的として
行われたものではないことも明らかである。
原告らは,繰延税金資産の計上が過大である旨主張するが,繰延税金
資産は貸倒引当金が増加すればそれに伴って増加するものである。平成
13年3月ころは,大半の金融機関が,不良債権の処理に伴い多額の繰
延税金資産を計上しており,被告Aが計上した繰延税金資産は,大手銀
行と比較しても特に過大であったとはいえない。また,原告らは,繰延
税金資産の回収可能性に疑問がある旨主張するが,会計監査人は,計算
内容や利益計画等を検討した上で,被告Aの計上した繰延税金資産が妥
当な金額であると承認しており,被告理事らは,平成13年度からの5
か年計画を遂行することによって,繰延税金資産を十分回収可能と考え
ていたものである。被告理事らは,平成13年度が赤字決算であった場
合には繰延税金資産が取り崩されることを理解していたが,同年度は黒
字決算を計画しており,業績も順調に推移していたのであるから,繰延
税金資産が取り崩される事態など全く予想していなかったものである。
原告らは,有価証券の保有高の増加を問題視するが,被告Aが保有し
ていた有価証券の大半は分散投資型の投資信託であり,個別銘柄に対す
る株式投資と異なりリスクは少ないものであった。また,売買差益では
−24−
なく,長期保有による運用益を目的とするものであったのであるから,
株価が変動しても直ちに被告Aの損益に大きく影響することはない。投
資信託が増加したのは,不況の影響により被告Aの本業である貸出金業
,,,務が停滞していたことが背景にあるがこの当時は多くの金融機関が
運用益を見込んで有価証券に対する投資を増加させていたのであり,被
告Aが特に過大な投資やリスクの大きな投資を行っていたわけではな
い。被告理事らが有価証券投資を増加させたことは,その当時における
被告Aの経営状況の下では,至極当然の経営判断であったというべきで
ある。
出資金増強運動当時の被告Aの経営が厳しかったことは事実である
が,被告Aが破綻したのは異常に厳しい平成13年検査が原因であり,
被告Aは,出資金増強運動当時,破綻に至ることが予想されるような危
機的状況にはなく,被告理事らには,被告Aの破綻の予見可能性はなか
ったものである。
イ被告理事らの経営状況に関する指導監督義務違反
原告らは,被告理事らには,被告A職員に対し,被告Aの経営状況が極
めて悪化しており,被告Aが破綻することにより出資金が返還不能となる
可能性があることを説明した上で,それでも出資して,被告Aの再建に協
力しようとする者に限って出資を勧誘するよう指導監督すべき義務があっ
た旨主張するが,上記アのとおり,出資金増強運動当時,被告Aが破綻す
るような状況にはなく,被告理事らが破綻を予見することは不可能であっ
たから,被告理事らがかかる指導監督義務を負うことはない。
2争点5(被告理事らの指導監督義務違反と原告らの損害との間の因果関係)
について(略)
(被告国の主張)
1争点6(被告国の被告Aに対する監督権限不行使の違法性)について
−25−
国家賠償法1条1項の要件とされている違法性は,国又は公権力の行使に
当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して
,,,当該行為を行う場合に認められるところ信金法1条は同法の目的として
「預金者等」の保護を掲げているが,同条にいう「預金者等」とは,預金者
及び定期積金の積金者を指し,信用金庫の出資者は含まれない。また,信用
金庫は,信用秩序の維持,預金者の保護,国民経済に対する資金供給という
役割・機能を有しているため,その業務に強い公共性が認められ,この信用
金庫の公共性こそが国による公的介入の根拠となっているものである。
したがって,信用金庫の公共性と無関係な出資者保護という目的のみを根
拠として,信用金庫に対する検査・監督権限を行使することはできないとい
うべきである。
仮に,被告Aに対する関東財務局の監督権限の不行使が違法となる余地が
あるとしても,これは原告らの主張する被告A職員による違法・不当な出資
勧誘行為が存在して初めて問題となるところ,被告Aは,本件訴訟において
説明義務違反の有無を争っており,取調べ済みの証拠からみても被告A職員
に説明義務違反があったとは認められないから,原告らの主張は前提を欠き
失当である。
また,一般に,行政庁は監督権限の行使について広範な裁量を与えられて
いるため,国による監督権限の不行使が違法となるのは,監督権限を行使す
べき作為義務が発生しており,その作為義務に違反した場合に限られる。し
たがって,金融機関に対する監督権限の不行使が違法であるといえるために
は,具体的な作為義務の内容が特定される必要があるところ,原告らは,被
告国の職員が被告Aの出資金の増加を把握していたことを指摘するだけで,
いかなる時点で被告Aが違法な出資勧誘をしていることを認識し得たのか,
いかなる時期にいかなる内容の監督権限を行使すべきだったのかにつき明ら
かにしておらず,作為義務の内容が十分に特定されていない。よって,原告
−26−
らの主張は失当である。
原告らは,被告Aの出資金が短期間に増加していることや,被告Aの経営
状況が悪化していたのに出資金を募集していたことから,関東財務局が被告
Aによる違法・不当な出資勧誘を認識し得た旨主張しているが,出資金が増
えること自体は何ら不自然ではなく,出資金が増加した時期に,関東財務局
に対し,出資者等から勧誘方法に関して多数の苦情が寄せられていたという
ような特段の事情もなかったのであるから,関東財務局において,被告Aに
よる出資金募集が違法・不当な勧誘方法を用いてなされているとの認識を持
ち得なかったというほかない。経営状況が悪化していても,出資金募集によ
り事業が好転する場合も多く,常に破綻するわけではないし,被告Aは一定
水準以上の業務純益を維持していたのであるから,配当を期待して出資する
ことも十分あり得ることであり,関東財務局が,被告Aの経営状況の悪化を
知っていたことが,違法・不当な勧誘方法を用いて出資金を募集していると
の認識につながるとはいえない。
また,原告らは,被告国による被告Aに対する行政指導を先行行為として
位置付けた上,これに基づき被告Aの出資勧誘を監督すべき作為義務を課し
ているが,自己資本比率改善の方策としては遊休資産の売却などの他の手段
もあり,出資金増強はその一手段にすぎないため,被告Aによる個別の出資
の勧誘行為を特に注意して監督すべきものではないし,そもそも,金融機関
は本来独立の経済主体として,自律主義と契約自由の原則の下で自由に経済
活動を行うのが原則であって,被告国による行政指導によって,被告Aの個
別の出資の勧誘行為まで監督すべき義務が発生すると考えることには無理が
ある。
したがって,被告国が,原告らに対し,監督権限の不行使を理由として,
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うことはない。
2争点7(平成13年検査の違法性)について
−27−
形式的・画一的適用の違法について
金融検査マニュアルは,監督当局の検査監督機能の一層の向上及び透明な
行政の確立を図るとともに,金融行政全体に対する信頼を確立する観点から
整備・公表された通達であり,検査官が金融機関を検査する際の手引書とし
て位置付けられる。公務員は,通達によって裁量権行使の内部基準が定めら
れている場合,当該基準に従って行政行為を行う職務上の義務があり,当該
基準に従った職務執行が行われた場合,当該基準の内容が明白に不合理でな
,。い限り当該基準に適合した当該公務員の職務行為が違法となる余地はない
原告らは,金融検査マニュアルが大企業を取引先とする銀行の資産査定を
想定して策定されたものである旨主張するが,金融検査マニュアルは,預金
等受入金融機関に対する金融検査の際に等しく適用されるものであり,いわ
ゆる大銀行の検査だけを想定したものではなく,金融機関の規模の大小等に
より債務者の信用リスクに差が生じるものではないことから,金融機関の規
模により異なる検査マニュアルを策定することは適当ではない。また,金融
検査マニュアルには「中小・零細企業等については,当該企業の財務状況,
のみならず,当該企業の技術力,販売力や成長性,代表者等の役員に対する
報酬の支払い状況,代表者等の収入状況や資産内容,保証状況と保証能力等
を総合的に勘案し,当該企業の経営実態を踏まえて判断する」旨示されてい
るのであって,中小・零細企業の特性をも考慮に入れた内容となっている。
ゆえに,金融検査マニュアルは,中小金融機関に対しても,査定基準として
の合理性,妥当性を有しており,金融検査マニュアルの定める査定基準を用
いて,検査官が被告Aの検査を行ったとしても何ら違法の問題を生じない。
なお,平成13年検査は,あくまでも被告Aの自己査定ガイドラインに照
らして自己査定が適切になされているかを検証したにすぎず,検査官が一方
的に被告Aの自己査定結果を否定したり,検査官の判断で被告Aの自己査定
の債務者区分の変更を求めたものではない。
−28−
よって,平成13年検査に当たり,関東財務局の検査官が,中小金融機関
である被告Aに対して,金融検査マニュアルの査定基準を適用して査定を行
ったとしても,そのゆえをもって査定が違法と評価されるものではなく,原
告らの主張は失当である。
恣意的運用の違法について
金融検査マニュアルにおいては,貸出金債権を保全するための担保物件の
処分可能見込額について,客観的・合理的な方法で算出されているかを検証
することとされている。したがって,金融機関が不動産鑑定士の算出した価
格を担保評価額としている場合であっても,担保評価額の精度に疑義があれ
ば,例えば,実際の処分価格と不動産鑑定士の算出した価格がかい離してい
るようであれば,合理性・客観性の観点から,掛け目を乗じた処分可能見込
額を妥当と判断することがあるのであって,不動産鑑定士の評価について疑
義を差し挟むことは要しないとする原告らの主張は,独自の解釈というほか
ない。
そもそも,被告Aの担保物件の担保評価額は,いわゆる簡易鑑定によるも
のにすぎず,その精度が十分に高いとは認められず,被告Aは,担保評価額
に対する売却価格の割合を勘案し,自ら掛け目を90パーセントで算定する
よう申し出て,検査官もそれを妥当と判断したものである。
また,原告らは,平成12年検査においては,鑑定士による担保評価額が
100パーセント認められていたとか,平成13年検査と同時期に行われた
F信用金庫に対する検査においては,被告Aと営業地域もほぼ同じであり,
鑑定事務所も同じであるにもかかわらず,担保評価額が100パーセント認
められていることなどを指摘するが,平成13年検査と時点あるいは被検査
金融機関を異にすれば,前提となる事情は当然異なっているのであるから,
それらと異なる取扱いとなったことのみをもって,金融検査マニュアルの恣
意的な運用が行われた根拠とはなり得ないというべきである。
−29−
さらに,原告らは,平成13年検査では,通常の倍の人数の検査官が派遣
され,通常の3分の1の日数で終了するなど,当初から被告Aの自己査定を
否定する意図で検査が行われたと主張するが,検査官の人数及び立入検査日
数は,被検査金融機関の規模や検査スケジュール等により当然異なるもので
あるから,検査官の人数や検査期間の点は,原告らの主張の根拠となり得る
ものではない。
なお,原告らは,被告国が,被告Aに対し,破綻申請を強要した旨主張す
るが,関東財務局においては,平成13年検査の結果が既に明らかになって
いるのであるから,被告Aに対して破綻申請を強要する必要はなく,実際に
破綻申請を強要した事実はない。
よって,平成13年検査及びその後の被告Aの破綻申請に関し,関東財務
局の対応に何ら違法な点は存しないから,被告国が国家賠償法1条1項に基
づく損害賠償責任を負うことはない。
第4当裁判所の判断
1認定事実
前記第2の1の前提事実,当裁判所に顕著な事実,証拠(各認定事実ごとに
。),。末尾に掲記する及び弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる
バブル経済の崩壊以後の金融機関を巡る情勢等
アペイオフ解禁(略)
イ地価公示額及び日経平均株価の推移(略)
ウ早期是正措置の導入
多くの金融機関が多額の不良債権を抱えることとなった原因としては,
金融自由化の進展により金融機関の抱えるリスクが増大したにもかかわら
ず,自己責任意識の不徹底等から金融機関自身の経営の健全性確保が必ず
しも十分でなかったこと,金融環境の激動期において,従来型の事前指導
を中心とする行政手法では銀行等の経営の健全性を早期にチェックして是
−30−
正を求めることができなかったことが指摘されていたところ,これに対処
するため,金融機関の自己責任原則の徹底と市場規律に立脚した透明性の
高い新たな金融行政への転換が進められることとなり,その一環として,
平成10年4月1日に早期是正措置が導入された。
早期是正措置とは,自己資本比率が一定の水準を下回った金融機関が講
じるべき是正措置の内容をあらかじめ定めておき,金融機関が一定の自己
資本比率を下回った場合には,監督当局が銀行法26条に基づいて是正措
置命令を発動し,早期に金融機関の経営改善への取組を促すことを目的と
する行政手法である(以下略)。
エ金融機関による自己査定及び金融検査マニュアルの策定・公表(略)
オ税効果会計の導入
平成10年10月30日付けで公表された企業会計審議会の意見書及び
これに伴って改正された財務諸表等規則等並びに日本公認会計士協会が公
表した実務指針等を受けて,税効果会計が導入された(税効果会計の全面
的な適用は平成11年4月1日以後に開始する会計年度からであるが,平
成10年度から適用しても差し支えないこととされた。。)
税効果会計とは,企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資
産又は負債の額に相違がある場合において,法人税等の金額を適切に期間
配分することにより,法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合
理的に対応させることを目的とする会計処理である。税効果会計において
は,一時差異(貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所
得計算上の資産及び負債の金額との差額)に係る税金の額は,将来の会計
期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を除き,繰延税金資産
又は繰延税金負債として計上しなければならず,将来の回収の見込みにつ
いて毎期見直しを行わなければならないとされている。
繰延税金資産の回収可能性は,将来の課税所得の十分性等により判断す
−31−
ることとなるが,将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務
上困難な場合が多いことから,日本公認会計士協会は「繰延税金資産の,
回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」を発表し,繰延税金資産の回
収可能性を判断する場合の実務指針を明らかにしている。これによれば,
将来減算一時差異を十分に上回る課税所得をおおむね3期以上計上してい
る会社(十分会社)の場合には,繰延税金資産の全額について回収可能性
があると判断できるとしており,当期及びおおむね過去3期以上連続して
ある程度の経常利益を計上し,業績は安定しているが,将来減算一時差異
を十分に上回るほどの課税所得がない会社(安定会社)の場合には,合理
的なスケジューリングに基づき計上された繰延税金資産について回収可能
性があると判断できるとしている。また,過去の経常的な損益が大きく増
減しているなど,業績が不安定であり,将来減算一時差異を十分に上回る
ほどの課税所得が発生していない会社(不安定会社)の場合には,おおむ
ね5年以内の課税所得の見積額を限度として,合理的なスケジューリング
に基づき計上された繰延税金資産について回収可能性があると判断できる
としている。さらに,期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する
会社(欠損会社)の場合には,原則として,翌期に課税所得の発生が確実
に見込まれる場合に限り,翌期の課税所得を限度として,合理的なスケジ
ューリングに基づき計上された繰延税金資産について回収可能性があると
判断できるとしているが,重要な税務上の繰越欠損金が,例えば,事業の
リストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因に
より発生したものであり,それを除けば課税所得を毎期計上している会社
の場合には,おおむね5年以内の課税所得の見積額を限度として,合理的
なスケジューリングに基づき計上された繰延税金資産について回収可能性
があると判断できるとしている。そして,おおむね3期以上連続して重要
な税務上の欠損金を計上している会社で,当期も重要な税務上の欠損金の
−32−
計上が見込まれる会社,債務超過の状況にある会社,資本の欠損の状況が
長期にわたっており,短期間に当該状況の解消が見込まれない会社(債務
超過等会社)の場合には,原則として繰延税金資産の回収可能性はないも
のと判断するとされている。
カ時価会計の全面的な導入
従前,有価証券の価額を貸借対照表に計上するに際しては,大蔵省企業
会計審議会が定めた企業会計原則により,原則として購入代価に一部修正
を施した取得原価をもって貸借対照表価額とし,例外的に,時価が著しく
下落したときは,回復する見込みがあると認められる場合を除き,時価を
もって貸借対照表価額としなければならないとされていたところ,大蔵省
企業会計審議会は,平成11年1月22日付けで「金融商品に係る会計,
基準」を公表し,平成13年4月1日以後開始する事業年度から,売買目
的有価証券,満期保有目的の債券,子会社及び関連会社株式以外の有価証
券(以下「その他の有価証券」という)は,時価をもって貸借対照表価。
額とし,評価差額の合計額を資本の部に計上するか(全部資本直入法,)
時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額を資本の部に計上し,時価が
取得原価を下回る銘柄に係る評価差額を当期の損失として処理する(部分
資本直入法)こととされた。
日本公認会計士協会は,上記会計基準を踏まえ「金融商品会計に関す,
る実務指針」を発出しているが,これによれば,その他の有価証券は,長
期的には売却することが想定される有価証券であり,長期的な時価の変動
により利益を得ることを目的として保有する有価証券が含まれることとさ
れている。
キ相互援助資金制度
信用金庫の出資金については,従来,信用金庫業界の信用維持等を目的
として,全国の信用金庫及びG中金が財源を捻出し,経営危機に陥った信
−33−
用金庫の再編に際し資金援助を行う相互援助資金制度(昭和46年創設)
,。により信用金庫が破綻した場合であっても出資金全額が保護されていた
しかし,平成12年9月の改正により,平成13年4月1日からは,平成
14年3月31日までに事業譲渡等を完了したものに限り,正常な会員に
対し1万円を限度に保護されるよう改められ,平成13年11月の改正に
より,平成14年4月1日からは,破綻した信用金庫に係る出資金は一切
保護されないこととなった。
金融検査マニュアルの具体的内容
ア留意事項(略)
イ自己査定及び償却・引当に関する検査の方法(略)
ウ自己査定基準の適切性の検証(略)
エ自己査定結果の正確性の検証
検査官は,次に掲げる方法により,金融機関の自己査定が自己査定基準
に則って正確に行われているかどうかを検証することとされている。
債務者区分
貸出先である債務者を「正常先「要注意先「破綻懸念先「実,」,」,」,
質破綻先「破綻先」に区分する(以下略)」,。
債務者区分は,債務者の実態的な財務内容,資金繰り,収益力等によ
り,その返済能力を検討し,債務者に対する貸出条件及びその履行状況
を確認の上,業種等の特性を踏まえ,事業の継続性と収益性の見通し,
キャッシュフローによる債務償還能力,経営改善計画等の妥当性,金融
,,機関等の支援状況等を総合的に勘案し判断することとされており特に
中小・零細企業については,当該企業の財務状況のみならず,当該企業
の技術力,販売力や成長性,代表者等の役員に対する報酬の支払状況,
代表者等の収入状況や資産内容,保証状況と保証能力等を総合的に勘案
し,当該企業の経営実態を踏まえて判断するものとされている。
−34−
資産の分類
上記の債務者区分を前提に,次に掲げる方法により,債権回収の危
険性又は価値の毀損の危険性の度合いに応じて,資産をⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ
の4段階に区分する。Ⅰ分類とする資産は,Ⅱ分類,Ⅲ分類,Ⅳ分類と
しない資産であり,回収の危険性又は価値の毀損の危険性について,問
題のない資産をいう。Ⅱ分類とする資産は,債権確保上の諸条件が満足
に充たされないため,あるいは,信用上疑義が存する等の理由により,
その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等
の資産をいう。Ⅲ分類とする資産は,最終の回収又は価値について重大
な懸念が存し,損失の発生の可能性が高いが,その損失額について合理
的な推計が困難な資産をいう。Ⅳ分類とする資産は,回収不可能又は無
価値と判定される資産をいう(以下略)。
オ償却・引当基準の適切性の検証(略)
カ償却・引当結果の適切性の検証(略)
被告Aの破綻に至る経緯
ア平成10年度までの状況
被告Aは,千葉県北西部地域を中心に活動していたが,取引先の大半は
中小・零細企業であり,不動産,土木,建設関連の企業が多かったため,
バブル経済の崩壊後,取引先の経営環境の悪化により,多額の不良債権を
抱えるに至った。
被告Aは,平成8,9年度に,多額の貸出金償却及び貸倒引当金の計上
により,多額の損失を計上したが,積立金を取り崩し,これを特別利益と
して計上することなどにより,平成8,9年度とも黒字決算を維持するこ
とができていた。
また,平成10年度についても,平成8,9年度ほどではないものの,
貸出金償却を行ったが,黒字決算を維持することができていた。
−35−
もっとも,金融機関の最大の収益源である貸出金利息による収益は,平
成8年度が53億9770万円,平成9年度が46億9769万3000
円,平成10年度が44億9399万2000円と減少傾向にあった。
なお,被告Aの自己査定に基づく平成9年3月31日,平成10年3月
,,.31日平成11年3月31日時点における自己資本比率はそれぞれ5
62パーセント,5.56パーセント,4.72パーセントであった。
イ日銀考査
被告Aは,平成11年7月の金融検査マニュアルの公表後間もなく,金
融検査マニュアルに基づいて自己査定基準を作成したが,日本銀行は,同
年10月14日から同月29日にかけて,被告Aに対し,被告Aの自己査
定基準に基づく資産査定の検証を目的として,同年9月30日を検査基準
日とする日銀考査を実施した。
被告Aは,考査担当者から,自己査定基準自体に不備がある旨や適切な
,,債務者区分がされていない旨を指摘されⅢ分類及びⅣ分類の債権につき
自己査定では15億円としていたところを55億円と査定された。
被告Aは,日銀考査の結果を受け,他の信用金庫,G中金及び監査法人
等の意見を聞き,自己査定基準を大幅に改訂し,これに基づいて平成11
年9月30日時点における自己資本比率を算出し直したところ,自己資本
比率は2.38パーセントであった。
ウ第1次出資金増強運動
被告Aは,自己資本比率の向上を目的として,理事長,専務理事,常務
理事及び常勤理事により構成される常勤理事会の決定に基づき,平成11
年10月1日から平成12年3月31日までの間,第1次出資金増強運動
を実施したが,これに伴い,被告Aの業務企画部長は,平成11年9月2
,,,,2日付けで各営業店長に対し全店の目標総額各営業店ごとの目標額
実施期間及び募集に当たっての注意事項を記載した通知文を発出した。同
−36−
通知文には,募集に当たっての注意事項として,①広く募集するのではな
,,,く被告Aの理解者に依頼すること②高配当である旨を強調しないこと
③出資金の売却,現金化には相当の期間を要する旨を説明すること,④大
口金額(100万円以上)の募集を慎むこと等が記載されていた。また,
被告Aの業務企画部長は,平成11年10月6日付けで,各営業店長に対
し,募集に当たっての注意事項を訂正する旨の通知文を発出したが,同通
知文には,①広く募集するのではなく,被告Aの理解者に依頼し,募集地
域は営業地区内に限ること,②配当率(平成8年度ないし平成10年度は
4パーセントであり,平成11,12年度は3パーセントであった)を。
強調しないこと,③出資金の譲渡については信金法上の手続による旨を説
明し,譲渡には相当の期間を要する旨を説明すること,④大口金額(10
0万円以上)の募集を慎むこと等が記載されていた。
なお,上記のとおり,出資金増強運動については,各支店ごとに目標額
が設定されているが,目標が達成された場合の報償や未達成の場合のペナ
ルティーはなく,各職員の出資金募集件数や金額が勤務成績の評価対象に
なることもなかった。
,,被告Aの出資金総額は平成9年3月31日時点では8億4809万円
平成10年3月31日時点では8億6400万円,平成11年3月31日
時点では8億6000万円と,ほぼ横ばいで推移していたが,第1次出資
金増強運動の結果,平成12年3月31日時点では11億2700万円と
なり,前年に比べ2億6700万円増加した。
エ平成11年度決算
被告Aの平成11年度決算は,預け金利息,有価証券利息配当金,株式
等売却益の増加等により,前年比約3パーセント増の68億2608万6
000円の経常収益を計上したほか,特別利益としてa支店の売却益3億
1818万9000円を計上したものの,日銀考査の結果を踏まえ,貸倒
−37−
引当金繰入額21億2700万2000円及び貸出金償却7億5747万
,,円を計上したことにより当期利益は▲8億5754万5000円となり
創業以来初めての赤字決算となった。なお,金融機関の最大の収益源であ
る貸出金利息による収益は,前年度より2億2997万8000円少ない
42億6401万4000円であり,業務純益も,前年度より7億861
5万9000円少ない10億1039万5000円であった。
また,上記イのとおり,被告Aの自己査定に基づく平成11年9月30
日時点における自己資本比率は2.38パーセントであったが,第1次出
資金増強運動による出資金の増加,株式の売却益増加,a支店の売却益な
どにより,被告Aの自己査定に基づく平成12年3月31日時点における
自己資本比率は4.76パーセントとなった。
オ早期是正措置命令及び旧改善計画の提出
金融庁長官は,上記イのとおり,平成11年9月30日時点における被
告Aの自己資本比率が4パーセントを下回ったことから,平成12年3月
9日付けで,被告Aに対し,3か年の経営改善計画の提出を求める早期是
正措置命令を発動し,被告Aは,同年4月10日付けで,金融庁長官に対
し,経営改善計画(以下「旧改善計画」という)を提出した。。
旧改善計画は,貸出金,手数料収入の増加等による業務純益の確保,出
,,,資金の増強不良債権回収の推進経費の圧縮等を内容とするものであり
平成12年度の計画は,10億4700万円の業務純益の確保,4億円の
出資金増強,新規不良債権発生の防止,要注意先に対する債権の管理,破
綻懸念先以下の債権の早期回収,14億9000万円への物件費圧縮,7
億4800万円への人件費圧縮を図り,自己資本比率4.58パーセント
を確保するというものであった。
カ平成12年検査
関東財務局長は,平成12年6月8日から同月27日にかけて,被告A
−38−
に対し,同年3月31日を検査基準日とする平成12年検査を実施した。
被告Aは,検査官から,自己査定基準中の要管理先債権の定義並びに正
常先,要注意先,要管理先及び破綻懸念先の引当の根拠となる将来の予想
損失率の算出方法に問題があり,約30億円の貸倒引当金の計上が必要で
あると指摘された。
被告Aは,平成12年検査の結果を受け,自己査定基準を改訂すること
とし,これに基づいて平成12年3月31日時点における自己資本比率を
算出し直したところ,自己資本比率は2.86パーセントであった。
平成12年9月20日に開催された理事会では,平成12年度の決算予
測が議題とされたが,被告Bからは,平成12年検査において指摘された
30億円の貸倒引当金について,保証人からの回収や担保の追加などによ
る資産分類の変更等により,債権回収を強化し,貸倒引当金の計上額の減
少に努めるが,若干の赤字は覚悟しなくてはならない旨の話がなされると
ともに,平成13年度以降についても,環境がより厳しくなると考えられ
るので,給与の一部カットや賞与削減などの人件費の削減を図り,経営基
盤の強化を図っていきたい旨の話がなされた。
また,平成12年12月21日に開催された理事会では,被告Bから,
同月8日付けで通知された平成12年検査の正式な検査結果(ただし,上
記のとおり,遅くとも同年9月時点においては検査結果の概要は判明して
いた)について報告がなされた。また,被告Dから,平成12年度の決。
算見込み及び平成13年度から平成17年度までの経営計画(ふなしん新
),。5か年計画について説明がなされ同計画は理事会において承認された
これによると,平成12年度決算は当期利益▲12億7200万円の見込
みであり,5か年計画の初年度である平成13年度及び最終年度である平
成17年度の当期利益の計画は,それぞれ2億6900万円,5億860
0万円とされていた。
−39−
キ第2次出資金増強運動
被告Aは,自己資本比率の向上を目的として,前年度に引き続き,平成
12年12月1日から平成13年3月31日までの間,第2次出資金増強
運動(目標額は4億円)を実施した。
なお,第2次出資金増強運動についても,各支店ごとに目標額が設定さ
れているが,目標が達成された場合の報償や未達成の場合のペナルティー
はなく,各職員の出資金募集件数や金額が勤務成績の評価対象になること
もなかった。
被告Aの出資金総額は,平成12年3月31日時点では11億2700
万円であったが,第2次出資金増強運動の結果,平成13年3月31日時
,。点では15億7100万円となり前年に比べ4億4400万円増加した
ク平成12年度決算
被告Aの平成12年度決算は,4億4257万円の人件費削減を始めと
する各種費用の圧縮に成功したものの,経常収益は前年比約15パーセン
ト減の59億7851万3000円にとどまり,また,平成12年検査の
結果を踏まえ,貸倒引当金繰入額23億5825万8000円及び貸出金
償却2億4334万9000円を計上したことにより,当期利益は,▲9
億9168万円となり,前年度に引き続き赤字決算となった。なお,金融
機関の最大の収益源である貸出金利息による収益は,前年度より2億96
01万2000円少ない39億6800万2000円であったが,業務純
益は,前年度より3億6897万6000円多い13億7937万100
0円であった。
また,後記ケのとおり,被告Aの自己査定に基づく平成12年9月30
日時点における自己資本比率は3.04パーセントであったが,第2次出
資金増強運動による出資金の増加,国債等債券売却益の増加,繰延税金資
産の追加計上等により,被告Aの自己査定に基づく平成13年3月31日
−40−
時点における自己資本比率は4.46パーセントとなった。
なお,決算直前の平成13年3月12日から同月15日にかけて,被告
Aの依頼により,G中金考査部4名による実地調査が実施されたが,調査
担当者から,被告Aの自己査定基準による自己査定は正確であると評価さ
れた。
ケ新改善計画の提出
被告Aは,平成12年12月8日付けで,関東財務局長から,同年9月
30日時点における自己資本比率について報告を求められたことから,改
訂された自己査定基準に基づき自己資本比率を算出し,平成13年1月5
日付けで,平成12年9月30日時点における自己資本比率が3.04パ
ーセントである旨報告した。
金融庁長官は,被告Aの報告が旧改善計画(平成13年3月31日時点
における自己資本比率を4.58パーセントとする計画)とかい離するも
のであったことから,平成13年4月5日付けで,旧改善計画を同年3月
31日現在で見直しの上,再度提出するよう求め,被告Aは,同年5月1
1日付けで,新たな経営改善計画(以下「新改善計画」という)を提出。
した。
新改善計画は,旧改善計画と同様,貸出金,手数料収入の増加等による
業務純益の確保,出資金の増強,不良債権回収の推進,経費の圧縮等を図
り,平成13年度決算において2億2500万円の当期利益を計上し,平
成14年3月31日時点における自己資本比率を4.61パーセントとす
ることを内容とするものであるが,具体的には,10億4600万円の業
務純益を確保し(その前提として,貸出金を残高ベースで40億円増加さ
せ,上期に年間目標の70パーセントを達成し,その他マイカーローン,
カードローンを積極的に推進し,貸出金利回りの向上を指向する。また,
各種手数料の見直しを図りながら増加に努める,債務者に対する出資。)
−41−
金増額交渉等により1億円の出資金の自然増を図り,不良債権の回収のた
めに,①貸出金の延滞管理の徹底を目的とする「延滞防止マニュアル」の
,「」(,,,),作成②初期延滞防止特別月間5月8月11月2月の設定
③破綻懸念先以下の債権を対象とする債務者ごとの回収方針の確立,④要
「」(,,,注意先以下の債権を対象とする延滞債権回収月間5月6月9月
10月)の設定,⑤貸出金償却を行った債権につき「債務者及び保証人訪
問月間(7月,11月)の設定,⑥要注意先管理のための「要注意貸出」
先チェック表「要注意貸出先管理カード」の作成等により,貸出金債」,
権の期日管理を徹底し,未収利息の回収に努めること,物件費計画は前年
度実績対比で1億1300万円の削減を目指し,人件費についても前年度
実績からさらに3億4700万円の削減を図ることなどを内容とするもの
であった。なお,新改善計画においては,平成13年度の貸倒金(個別貸
倒引当金)の追加償却・引当予定額は9億円とされていた。
コ合併交渉
被告Aは,平成13年3月ころから,F信用金庫との間で,合併交渉を
,,,,開始したが同年10月ころに破談となりその後E信用金庫との間で
合併交渉を開始したが,間もなくして,平成13年検査が実施されること
となったため,E信用金庫との合併交渉は平成13年検査が終了するまで
延期となった。
サ平成13年検査
関東財務局長は,平成13年12月12日から平成14年1月16日に
かけて,被告Aに対し,平成13年3月31日を検査基準日とする平成1
3年検査を実施した。
平成13年7月から平成14年6月までの間における信用金庫に対する
金融検査では,1金庫当たり,平均6.8人の検査官により,平均18.
0日間の立入検査日数で実施されたところ,平成13年検査における検査
−42−
官の人数は12人であり,立入検査日数は15日間であった。
被告Aは,取引先の多くが正常先であると自己査定していたが,検査官
から,債務者区分に関する自己査定が不適切である旨指摘された。
また,被告Aは,融資先に設定していた不動産担保等につき,いわゆる
簡易鑑定による評価額をそのまま処分可能見込額として自己査定を行って
いたところ,被告Aの平成12年1月から平成13年12月までの競売を
除く売却実例40件の売却価格が,簡易鑑定による評価額の87.59パ
ーセントであったことから,検査官から,簡易鑑定による評価額をそのま
ま処分可能見込額として採用することは妥当ではないと指摘され,簡易鑑
定による評価額の90パーセントを処分可能見込額とすることとなった。
,,,最終的には被告Aの自己査定によればⅠ分類の債権が1858億円
Ⅱ分類の債権が339億円,Ⅲ分類の債権が1億円,Ⅳ分類の債権が0円
であったところ,検査官からは,Ⅰ分類の債権が1753億円,Ⅱ分類の
債権が423億円,Ⅲ分類の債権が1億円,Ⅳ分類の債権が20億円であ
り,合計28億円の追加償却・引当が必要であると査定された。これに対
し,被告Aからは,前記エの意見申出はなされなかった。
なお,検査官による査定を前提とすると,被告Aは,平成13年3月3
1日時点において,18億円の資産超過の状態にあったと一応いえるもの
の,これは有価証券の含み損(後記シのとおり,同日時点における含み損
は▲21億3000万円であった)を含まない数値であり,有価証券の。
含み損をも考慮に入れると,実質的には3億3000万円の債務超過の状
態にあったこととなる。
シ有価証券の含み損について
被告Aは,バブル経済崩壊後の長引く不況の影響により,金融機関の最
大の収益源である貸出金利息による収益が停滞していたことから,有価証
券取引を拡大させていたが,平成10年度以降,株式を対象とする投資信
−43−
託の取引量を大幅に増加させた。
被告Aの投資信託を含む「その他の有価証券」の保有高は,平成9年3
月31日時点では39億2204万円,平成10年3月31日時点では4
0億9200万円,平成11年3月31日時点では61億1700万円,
平成12年3月31日時点では101億4300万円,平成13年3月3
1日時点では94億5700万円であったが,平成10年3月31日時点
では▲1億7000万円,平成11年3月31日時点では▲6億1900
万円,平成12年3月31日時点では▲2億9200万円の含み損を抱え
ている状況であり,平成13年3月31日時点では▲21億3000万円
と大幅に含み損を拡大させた。
被告Aの投資信託を含む「その他の有価証券」の保有目的は,長期保有
による運用益にあったが,前記カのとおり,長期保有による運用益を目
的とする有価証券は,平成13年度以降,時価をもって貸借対照表価額と
し,評価差額の合計額を資本の部に計上するか(全部資本直入法,時価)
が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額を資本の部に計上し,時価が取得
原価を下回る銘柄に係る評価差額を当期の損失として処理する(部分資本
直入法)こととされたため,被告Aは,平成13年度決算において,有価
証券の含み損を資本の部に直接計上するか,当期の損失として計上しなけ
ればならない状況であった。これを踏まえ,平成13年8月27日の理事
会では,被告Bから,被告Aの保有する投資信託について約30億円の含
み損が発生しているが,時価会計の導入が控えているため,当時被告Aが
有していた17店舗のうち,b,c,d,e,fの5店舗を売却して賃貸に切
り替えて,経費節減を図りたい旨の提案がなされ,同提案は理事会で了承
された。もっとも,上記5店舗の売却は,実際には実現していない。
ス繰延税金資産の計上について
前記オのとおり,税効果会計の導入に伴い,被告Aは,平成10年度
−44−
以降,前記オのいわゆる不安定会社として,おおむね5年以内の課税所
得の見積額を限度とする繰延税金資産を計上するようになり,平成11年
3月31日時点では14億2400万円,平成12年3月31日時点では
12億6000万円,平成13年3月31日時点では20億4100万円
の繰延税金資産を計上したが,平成11,12年度と連続して赤字決算で
あったことから,平成13年度決算も赤字であった場合には,前記オの
債務超過等会社として,繰延税金資産の回収可能性が否定され,繰延税金
資産全額が取り崩される可能性があった。
セ破綻申請
被告Aは,平成13年検査を踏まえ,同年12月31日を基準日とする
自己査定を行ったところ,多額の貸倒引当金・貸出金償却,有価証券の売
却損の拡大により,平成13年度決算を黒字で迎えることは困難である上
に,有価証券の含み損及び繰延税金資産の全額取崩しを併せると,14億
7600万円の債務超過に陥っており,自己資本比率も▲2.11パーセ
ントと低下していることが判明し,このような状況下にあって,債務超過
の状態を解消する自己資本充実策の策定は困難であり,預金者はじめ取引
先の信頼を維持することは困難であると判断したため,平成14年1月2
5日,金融庁長官に対し,破綻申請を行い,被告Aは破綻した。
なお,被告Aの金融整理管財人が,平成14年6月11日付けで,預金
保険法80条の規定に基づいて金融庁長官に提出した報告文書では,破綻
に至った要因として「融資審査面では,融資姿勢の厳正化を最優先とし,
た審査体制の充実・強化,貸出金の管理・回収面では,初期延滞の発生防
止と不良債権の回収強化のための体制構築を掲げ,審査能力向上に向けた
研修の実施や延滞防止マニュアルを作成したものの,役職員の当金庫の厳
しい経営状況に対する危機感が不足していたため,融資審査は従来通りの
形式的なものにとどまり,また,延滞先に対しても回収のための努力を怠
−45−
るなど,審査・管理とも十分に行われてこなかったこと「営業面では,」,
実効性のある施策を打ち出すことはできず,結果として従来の預金を中心
とした営業活動に終始したこと「資産運用面では,最大収益の確保を」,
方針とし運用を行ったが,リスク管理への認識の甘さから,組織的なリス
ク管理体制も不十分のまま,国内景気の回復に大きく期待したリスクの高
い投資信託等への運用を行い,含み損を拡大させたこと」が指摘されてい
る。
また,被告Aの会計監査人を務めていた公認会計士が,平成14年4月
,,25日付けで金融整理管財人に提出した監査報告書には特記事項として
平成13年度中に,不良債権化した旧債務の実質肩代わりの融資が実行さ
れた事実を発見し,平成13年12月26日付けで,常勤監事に報告した
旨が記載されている。
原告らの出資
原告らは,被告Aに対し,別紙一覧表の「出資日」欄記載の日に,同「出
資金額」欄記載の金額を出資したが,被告理事らは,被告A職員に対し,日
銀考査や金融検査の結果等を踏まえた被告Aの具体的な経営状況を知らせた
ことはなく,被告A職員も,原告らに対する出資の勧誘に際し,被告Aの具
体的な経営状況について説明したことはなかった。
また,被告A職員は,原告らに対し,前記キの相互援助資金制度の改変
について説明したこともなかった(以下略)。
2争点1(被告A職員の説明義務違反の有無)及び争点4(被告理事らの指導
監督義務違反の有無)の検討
出資の基本的性格に関する説明義務について
原告らは,被告A職員が,原告らに対する出資の勧誘に際し,出資金とは
相互扶助組織である信用金庫の事業を利用する(信用金庫から貸付けを受け
る)ための拠出金であるという出資の基本的性格を説明すべき義務があった
−46−
旨主張する。
この点,信用金庫は,相互扶助の精神に基づき,地域の個人ないし事業者
に対する金融の円滑を図ることなどを目的とする協同組織であり,信用金庫
から貸付けを受けるためには,原則として,一定額の出資をしなければなら
ず(信金法11条,53条1項2号,出資が信用金庫の事業を利用するた)
めの拠出金であるという性格を有しているのは,原告らが主張するとおりで
ある。
しかし,出資の上記性格は,勧誘の相手方が出資をするか否かの意思決定
をするに当たって,特に,出資をしない旨の意思決定をするに当たって重要
な意味を有しているとは考えがたい。すなわち,信用金庫からの貸付けを希
望する者は,出資の上記性格を認識していると否とにかかわらず,一定額の
出資をしなければ貸付けを受けることはできず,出資の上記性格を認識した
からといって,出資を翻意することになるとは考えがたいから,出資の上記
性格は,信用金庫からの貸付けを希望する者にとってさしたる意味を有して
いないと考えられる。
,,,また信用金庫から貸付けを受ける意思のない者は高利の配当への期待
懇意にしている職員に対する貢献,地域社会の発展への寄与等,様々な目的
により出資していると考えられるが,いずれにせよ,出資の上記性格を認識
したからといって,出資を翻意することになるとは考えがたく,出資の上記
性格は,信用金庫から貸付けを受ける意思のない者にとってもさしたる意味
を有していないと考えられる。
このように,出資の上記性格は,勧誘の相手方にとってさしたる意味を有
しておらず,勧誘の相手方が出資をするか否かの意思決定に大きな影響を及
ぼすこととなるとは考えがたいから,被告A職員には,出資の勧誘に際し,
勧誘の相手方に対し,出資の上記性格について説明すべき義務はなく,この
点に関する原告らの主張は採用できない。
−47−
出資のリスクに関する説明義務及び指導監督義務について
一般に,信用金庫に対する出資は,公開市場で取引される株式と異なり,
価格が変動するような性質のものではないため,総じてリスクの少ない投資
であるということができるが,リスクが全く存在しないわけではなく,信用
金庫が破綻した場合には出資金が回収不能となるというリスク(以下「回収
不能のリスク」という,信用金庫が破綻に至らない場合であっても,譲。)
受人が現れるか,信用金庫に対し,定款で定めるところによりその持分を譲
り受けるべきことを請求しない限り,出資金を回収することができないとい
うリスク(以下「回収長期化のリスク」という)を有している。。
したがって,信用金庫の職員には,信義則上,勧誘の相手方に対し,回収
不能のリスク及び回収長期化のリスクについて説明すべき義務があると一応
いうことができる。
もっとも,出資に回収不能のリスクがあることを認識している者に対して
は,あらためてこれを説明する必要に乏しく,勧誘の相手方がこの点に関す
る説明を受けなかったとしても,特段の不利益を被ることはない。また,出
資とは,特定の事業者に対して資金を拠出することを意味し,出資先が破綻
した場合に出資金が回収不能となることは,一般通常人において十分に了解
可能な事柄であると考えられるから,一般的には,信用金庫の職員が出資の
勧誘である旨を明らかにして勧誘している以上は,勧誘の相手方において,
回収不能のリスクを認識しているものと考えられる。したがって,これらの
点を考慮すると,信用金庫の職員に回収不能のリスクについて説明義務が発
生するのは,勧誘の相手方が回収不能のリスクを認識しておらず,かつ,信
用金庫の職員において,これを認識し又は容易に認識し得た場合に限られ,
それにもかかわらず,回収不能のリスクについての説明を行わなかった場合
,。に初めて説明義務違反による不法行為が成立すると解するのが相当である
また,回収長期化のリスクについても,回収不能のリスクの場合と同様,
−48−
勧誘の相手方においてこれを認識している場合には,この点に関する説明を
受けなかったとしても特段の不利益を被ることがないということができる
が,回収長期化のリスクは,回収不能のリスクと異なり,広く一般に認識さ
。,,れている事柄であるとまではいいがたいしたがって信用金庫の職員には
原則として,回収長期化のリスクについて説明すべき義務があり,これを怠
った場合には,説明義務違反による不法行為が成立し,例外的に,勧誘時の
言動等により,勧誘の相手方において回収長期化のリスクを認識していると
認められるような特段の事情がある場合には,回収長期化のリスクに関する
説明義務を免れると解するのが相当である。もっとも,回収長期化のリスク
に関する説明がなされなかったことにより発生する損害とは,回収長期化の
リスクを知らされなかったがために,払戻請求が遅れ,自己が予定していた
期限内に出資金の回収ができなかったことにより発生する損害(例えば,貸
金債務の返済のために払戻請求をしたところ,貸金債務の返済期限内に出資
金を回収することができなかったため,貸金債務の返済が遅れ,遅延損害金
),,の支払債務が発生した場合などを意味し信用金庫が破綻したことにより
出資金が回収不能となったという損害は,回収不能のリスクに関する説明を
怠ったことによる損害であるとはいえても,回収長期化のリスクに関する説
明を怠ったことによる損害とはいいがたい。したがって,回収長期化のリス
クに関する説明義務違反による損害賠償請求ができるのは,実際に所定の払
戻手続をとった者に限られるというべきであり,また,賠償対象となる損害
内容も,原則として上記損害に限られる(もっとも,払戻手続をとったもの
の,これがなされずに出資先が破綻した場合において,適時に払戻しが行わ
れていれば出資金相当額の回収ができたであろうといえるときは,出資金相
当額が賠償対象となり得る。。)
なお,原告らは,被告A職員には相互援助資金制度の改変について説明す
べき義務があった旨主張するが,同制度は一般に広く知れ渡っているとはい
−49−
いがたいから,一般的には,勧誘時の説明等を通じて,勧誘の相手方におい
て回収不能のリスクを認識している限り,勧誘の相手方が同制度の改変につ
き説明を受けなかったことにより不利益を被ることはないと考えられる。
もっとも,勧誘時に同制度に関する説明を受けるなどして,信用金庫が破
綻した場合であっても,出資金が全額保護されると認識して出資をする者が
いる可能性も皆無ではない。
したがって,信用金庫の職員には,原則として,勧誘の相手方に対し,同
制度の改変について説明すべき義務はないが,勧誘の相手方が,同制度に関
する説明を受けたなどの事情から,同制度により信用金庫が破綻した場合で
あっても出資金の全額が保護されると信じて出資した場合であって,かつ,
,,信用金庫の職員においてこのことを認識し又は容易に認識し得た場合には
同制度の改変について説明すべき義務があり,それにもかかわらず,この点
に関する説明を行わなかった場合には,説明義務違反による不法行為が成立
すると解するのが相当である。
また,原告らは,被告理事らが,被告A職員に対し,出資のリスクに直結
する重要事項について,研修等を行うなどして周知の徹底を図るとともに,
出資の勧誘に際し,これらの事項を出資者に説明するよう指導監督すべき義
務があったにもかかわらず,これを怠った旨主張するが,原告らが,被告理
事らの指導監督義務違反を主張し得るのは,被告A職員による回収長期化の
リスク及び回収不能のリスクに関する説明義務違反があった場合に限られる
から,被告A職員に上記説明義務違反がない場合には,被告理事らが指導監
督義務違反による責任を負うこともないというべきである。
経営状況に関する説明義務及び指導監督義務について
ア前記のとおり,出資には回収不能のリスクがあり,かかるリスクを承
知して出資している以上,出資先の破綻により出資金が回収不能となった
という不利益は,出資者の自己責任として,出資者自身が甘受すべきであ
−50−
るのが原則であるが,出資者に対し,かかるリスクの高低を判断すること
が可能となるだけの情報が提供されていない場合には,かかるリスクを出
資者に一方的に負わせることが必ずしも公平に適うとはいいがたい。
一般に,良好な経営状況にあり又は少なくとも悪化している経営状況に
はない会社等に対する出資は,回収不能のリスクが低いのに対し,経営状
,,,況が悪化している会社等に対する出資は回収不能のリスクが高く特に
債務超過ないしこれに近い状態にある会社等の場合には,かかるリスクが
現実化する可能性が相当程度あるのであるから,出資先の経営状況(特に
財務状況)に関する情報は,回収不能のリスクの高低を判断するための重
要な情報であるといえる。そして,経営状況が悪化している会社等に対す
る出資の場合には,出資者はかかる高いリスクを引き受けることとなる一
方,出資先は悪化した経営状況を改善するための資金提供を受けられるこ
ととなるのであるから,公平の観点からは,出資先自らが,悪化した経営
,,状況の改善を目的として出資の勧誘を行う場合には勧誘の相手方に対し
出資先の経営状況に関する正確な情報が提供されることが必要不可欠であ
るというべきである。もっとも,出資を求める信用金庫の経営状態が単に
良くないというだけで,勧誘の相手方に対し,当該信用金庫の具体的な経
営状況について説明義務を課すべきであるとした場合は,かえって外部に
信用不安を広めることになり,当該信用金庫の破綻がこれにより逆に現実
化しかねず,当該信用金庫のみならず,その関係者に多大な損害を発生さ
せないとも限らない。
してみれば,これらの事情を勘案すると,出資の勧誘時において,信用
金庫が実質的に債務超過の状態にあるか,近い将来に債務超過に陥り,経
営破綻する具体的,現実的危険性があり,かつ,勧誘を担当する信用金庫
の職員において,これを認識し又は認識し得たような場合に限定して,こ
,,,,のような場合は当該信用金庫の職員は信義則上勧誘の相手方に対し
−51−
信用金庫の経営状況につき具体的かつ詳細な説明をすべき義務があり,こ
れを怠った場合には,かかる説明義務違反は不法行為を構成すると解する
のが相当である。
また,実際に勧誘に当たる信用金庫の職員において,当該信用金庫が実
質的に債務超過の状態にあるか,近い将来に債務超過に陥り,経営破綻す
る具体的,現実的危険性があることについて認識せず又は認識し得ない場
合であっても,理事等の経営陣において,これを認識し又は認識し得た場
合には,理事等の経営陣は,信用金庫の職員に対し,信用金庫の具体的な
経営状況を説明の上,出資の勧誘に際しては,信用金庫の経営状況につき
具体的かつ詳細な説明を尽くさせるよう指導監督すべき職務上の義務があ
り,これを怠った場合には,かかる指導監督違反は,勧誘の相手方との関
係において,不法行為ないし信金法35条2項(ただし,平成17年法律
第87号による改正前のもの)の任務懈怠を構成すると解するのが相当で
ある。
以下,これを前提として,被告A職員の説明義務違反及び被告理事らの
指導監督義務違反の有無について検討する。
イ平成10年度以前の出資者に対する説明義務及び指導監督義務について
被告Aは,バブル経済の崩壊により,多額の不良債権を抱えるに至った
,,,ものの平成10年度までは黒字決算を維持できており自己資本比率も
信用金庫において自己資本の充実の状況が適当であるとされる4パーセン
トを上回っていた(前記1ア)のであるから,平成11年3月31日ま
での間において,被告Aが近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する具体
,,,的現実的危険性があったといえないことは明らかであり被告A職員が
平成10年度以前の出資者に対し,被告Aの経営状況に関する説明義務を
負っていたとはいえず,被告理事らが,被告A職員に対し,被告Aの経営
状況に関する指導監督義務を負っていたともいえない。
−52−
この点,原告らは,平成8,9年度の合計62億0300万円の積立金
(),,,の取崩し前記1アを問題視するが積立金の取崩しは会計処理上
何ら問題のある行為ではなく,上記のとおり,積立金の取崩し後も,4パ
ーセント以上の自己資本比率は維持されていたのであるから,積立金の取
崩しをもって,直ちに経営破綻の具体的,現実的危険性が発生したといえ
ないことは明らかである。また,原告らは,被告Aが,平成10年度決算
において,14億2400万円の繰延税金資産を計上していること(前記
1ス)を問題視するが,平成10年度決算当時は,日経平均株価が上昇
(),,,基調にあったこと前記1イなどを考慮すると今後景気も回復し
収益が恒常的に改善するとの予測を立て,これを前提として比較的多額の
繰延税金資産を計上することも,あながち不合理であるとはいえない。
ウ平成11年度中の出資者に対する説明義務及び指導監督義務について
被告Aは,平成11年10月の日銀考査において,自己査定基準自体に
不備がある旨や適切な債務者区分がされていない旨を指摘された上,Ⅲ分
類及びⅣ分類の債権につき,自己査定では15億円としていたところを5
5億円と査定され,かかる日銀考査の結果を踏まえて,同年9月30日時
点における自己資本比率を算出し直したところ2.38パーセントであっ
たこと(前記1イ,自己資本比率が4パーセントを下回ったことによ)
り,金融庁長官から,早期是正措置命令を出され,3か年の経営改善計画
の提出を求められるに至ったこと(前記1オ,Ⅲ分類及びⅣ分類の債)
権の増加により,平成11年度決算が当期利益▲8億5754万5000
(),,円の赤字決算となったこと前記1エ後に判明したことではあるが
平成12年検査の結果を踏まえた平成12年3月31日時点における自己
資本比率は2.86パーセントであったこと(前記1カ)などからすれ
,,。ば被告Aは前年度よりも厳しい経営状況にあったことは否定できない
しかし,被告Aが赤字決算となったのは平成11年度が初めてであり,
−53−
(),それまでは一貫して黒字決算を続けてきたこと前記1エからすれば
経営体力にもいまだ余力があったとみられること,早期是正措置命令によ
り経営改善を求められることになったものの,裏を返せば,コスト削減及
び収益力向上による経営体質改善の大きな契機になったともいい得るので
,,,あり組織を挙げてこれに取り組み旧改善計画を着実に実行していけば
,,経営状況が改善する余地がなかったとはいえないこと前年度に引き続き
日経平均株価は上昇傾向にあり(前記1イ,有価証券の含み益の増加)
ないしは含み損の減少が期待できる状況にあったこと,平成12年検査の
結果を前提としても,平成12年3月31日時点における自己資本比率は
2.86パーセントであり,健全な数値であるとはいいがたいものの,債
務超過に陥っていたわけではなく,わずかではあるが,平成11年9月3
(,)0日時点における自己資本比率よりも向上していること前記1イカ
などからすれば,被告Aは,平成11年度中についても,近い将来に債務
超過に陥り,経営破綻する具体的,現実的危険性があったとまではいえな
いというべきである。
したがって,被告A職員が,平成11年度中の出資者に対し,被告Aの
経営状況に関する説明義務を負っていたとはいえず,被告理事らが,被告
A職員に対し,被告Aの経営状況に関する指導監督義務を負っていたとも
いえない。
エ平成12年度以降の出資者に対する説明義務及び指導監督義務について
まず,平成13年3月31日時点における被告Aの財務状況について
検討するに,被告Aは,平成13年検査において,合計28億円の貸倒
引当金・貸出金償却の計上が必要であると指摘され,平成13年3月3
1日時点における資産超過額は18億円と査定されているが,これは有
価証券の含み損を含まない数値であり,これに有価証券の含み損の▲2
1億3000万円を加えると,被告Aは,同日時点において,実質的に
−54−
は3億3000万円の債務超過の状態にあり(前記1サ,自己資本)
比率は0パーセントを下回っていたと認められる(原告らは,平成13
年検査が違法である旨主張しているが,後記7のとおり,平成13年検
査に違法な点は存しない。なお,時価会計の全面的な導入は平成1。)
3年度からであり,平成12年度決算においては,有価証券の含み損を
決算上反映させる必要はなかったものであるが,平成13年度以降は,
(),これを決算上反映させる必要があったこと前記1カを考慮すると
説明義務の有無を判断する前提として被告Aの財務状況を検討するに際
しては,有価証券の含み損の金額をも考慮するのが相当である。
また,有価証券の含み損の点を除外して考えたとしても,被告Aは,
平成13年3月31日時点において,少なくとも,近い将来に債務超過
に陥り,経営破綻する具体的,現実的危険性のある財務状況にあったと
認めるのが相当である。すなわち,被告Aは,平成10年度以降,前記
1オの不安定会社として,おおむね5年以内の課税所得の見積額を限
度とする繰延税金資産を計上しているところ(前記1ス,平成1))
2年度決算は,前年度に引き続いての赤字決算であったのであるから,
本来は,不安定会社としておおむね5年以内の課税所得の見積額を限度
とする繰延税金資産の計上は許されず,前記1オの欠損会社として,
翌期の課税所得の見積額を限度とする繰延税金資産の計上しか認められ
なかったのではないかとの疑いがある。また,仮に,おおむね5年以内
の課税所得の見積額を限度とする繰延税金資産の計上自体は許されると
しても,平成12年度に計上した20億4100万円の繰延税金資産を
,,回収するためには法人税実効税率を31パーセントとして計算すると
約65億8000万円(年間平均13億1600万円)の課税所得が必
要となるところ,直近の黒字決算年度である平成8年度ないし平成10
年度までの被告Aの当期利益は年間1億円から3億円の間で推移してい
−55−
た上(前記1ア,被告Aの新5か年計画によれば,被告Aの当期利)
益の計画は,最終年度の平成17年度でも5億8600万円にすぎなか
ったものであり(前記1カ,平成12年度決算における20億41)
00万円の繰延税金資産の計上は過大であった疑いがある。さらに,こ
の点を措くとしても,被告Aは,平成12年度決算が前年度に引き続い
ての赤字決算であったため,平成13年度を赤字決算で迎えるような事
態となれば,前記1オの債務超過等会社として,上記繰延税金資産の
全額について資産性が否認され,自己資本額20億4100万円の減少
を余儀なくされる可能性のある状況に置かれていたものである(前記1
ス。したがって,被告Aは,平成13年度に赤字決算を行うことは)
決して許されない状況にあったということができるが,金融機関の最大
の収益源である貸出金利息による収入は,平成10年度以降,一貫して
減少し続けており(前記1ア,エ,ク,これが平成13年度中に改)
善する見込みがあったとはいいがたいこと,被告Aの取引先の多くは,
景気や地価の影響を受け易い不動産,土木,建設関連の企業が多かった
ところ(前記1ア,平成12年度中の日経平均株価や地価公示額は)
(),,低迷しており前記1イ景気が回復基調にあったとは認めがたく
平成11,12年度に多額の貸倒引当金繰入額及び貸出金償却額を計上
したからといって,平成13年度中に多額の貸倒引当金・貸出金償却が
発生することはないと楽観視できる状況には到底なかったと考えられる
こと,このことは,平成11年10月の日銀考査及び関東財務局長によ
る平成12年検査により,被告Aの自己査定基準の不備や適切な債務者
区分がされていないことなどを厳しく指摘されており,その度に,被告
,,Aは場当たり的な改訂をするにとどまっておりこのような事情の下で
平成13年度においても,当局の検査により同じ指摘がされないとはい
えない状況にあった(被告Aの破綻後,金融整理管財人の報告中に,役
−56−
職員が厳しい経営状況に対する危機感に欠けていた旨指摘されているこ
とからも裏付けられる)ことからも一層明らかであることなどからす。
れば,被告Aが平成13年度を黒字決算で迎えられるか否かについては
予断を許さない状況にあったと認められる。そうすると,被告Aは,平
成12年度に赤字決算を行ったことにより,繰延税金資産の全額取崩し
のおそれという大きなリスクを抱えるに至り,近い将来に債務超過の状
態に陥る危険性を大幅に増加させたということができ,被告Aは,平成
13年3月31日時点では,近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する
具体的,現実的危険性を有する財務状況にあったと認めるのが相当であ
る。
また,平成13年3月31日以前の財務状況について検討するに,被
告Aは,平成12年12月1日から平成13年3月31日にかけて,第
2次出資金増強運動を実施し,出資金総額を4億4400万円増加させ
ているため,第2次出資金増強運動開始時点における自己資本額は,平
成13年3月31日時点における自己資本総額よりも4億4400万円
少なかったことになるところ,本件において,平成12年度中の被告A
の業績が,第2次出資金増強運動開始後に急激に悪化したような事情は
特段見受けられないことや,平成12年検査の結果を踏まえた同年9月
30日時点における自己資本比率が3.04パーセントであったことな
どからすれば,被告Aの第2次出資金増強運動開始時点における自己資
本比率も,相当程度低い状態であったと推認できる。
この点に加え,上記のとおり,被告Aは,平成12年度に赤字決算
を行ったことにより,繰延税金資産の全額取崩しのおそれという大きな
リスクを抱えることとなったものであるが,当期損失の金額がどの程度
になるかについては,年度末まで待たなければ判明しなかったといえる
が,赤字決算を行うこと自体は,平成12年12月21日に開催された
−57−
理事会において,既に事実上決定されていたものと認められる(前記1
カ。)
したがって,被告Aの財務状況については,平成13年3月31日の
平成12年度決算を待つまでもなく,遅くとも平成12年12月21日
の時点では,近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する具体的,現実的
危険性を有していたと認めるのが相当である。
次に,被告理事らにおいて,被告Aが実質的に債務超過の状態にあっ
たこと又は近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する具体的,現実的危
険性があったことを認識し又は認識し得たか否かについて検討する。
この点,被告Aが平成13年3月31日時点において実質的に債務超
過の状態にあった最大の原因は,28億円の追加の貸倒引当金・貸出金
償却にあるところ,上記金額が判明したのは,平成13年検査において
である。したがって,平成13年検査以前の段階で,被告Aが既に実質
的に債務超過の状態にあったことを認識することは困難であったといわ
ざるを得ない。
次に,被告理事らにおいて,被告Aが,近い将来に債務超過に陥り,
経営破綻する具体的,現実的危険性を有していたことを認識していたと
いえるか否かについて検討する。まず,上記のとおり,平成13年度か
ら時価会計が全面的に導入され,被告Aが平成13年3月31日の時点
において21億3000万円の有価証券の含み損を抱えていたこと,平
成13年度を赤字決算で迎えた場合には,平成12年度決算において計
上した20億4100万円の繰延税金資産が取り崩される危険があった
,。,ことについては被告理事らも当然認識していたと認められるこの点
被告Aの平成13年3月31日時点におけるリスクアセット(総資産中
のリスクを有する資産であり,自己資本比率を算定する際の分母となる
もの)は約1266億円であると認められるところ(甲A52,被告)
−58−
Aの同日時点における自己資本総額は53億3700万円であり,同金
額から上記有価証券の含み損21億3000万円及び繰延税金資産21
億4100万円を差し引くと10億6600万円となり,これを基に被
告Aの自己資本比率を算出すると1パーセントを下回ることとなる。し
たがって,これを前提とすると,被告理事らは,平成13年度中に有価
証券の含み損が減少せず,しかも,同年度の決算を赤字で迎えた場合に
は,被告Aの同年度末における自己資本比率が1パーセント以下にまで
低下することを認識していたといえる。この点,被告理事らにおいて,
有価証券の含み損の減少の可能性及び平成13年度決算を赤字で迎える
可能性をどの程度認識していたかが一応問題となるが,上記のとおり,
日経平均株価は,平成12年度中,一貫して低下し続けていたのである
から,被告理事らは,平成13年度中に有価証券の含み損が減少しない
事態が生ずることも十分に予想可能であったといえる。また,新改善計
画によれば,被告Aの当期利益の計画は2億2500万円にすぎず(前
記1ケ,かかる金額は,計画を上回る貸倒引当金・貸出金償却の発)
生や貸出金利息収入等の減少により,容易に赤字に転落し得る程度の数
値であることからすれば,被告理事らにおいて,平成13年度決算を赤
字で迎える可能性があることも十分に予想可能であったといえる。さら
に,新改善計画によれば,被告Aは,平成13年度中の貸倒引当金・貸
出金償却の発生が9億円にとどまるものとして計画を策定しているが
(前記1ケ,かかる数値はあくまでも目標値にすぎず,一般に,経)
営計画は,ある程度希望的観測に基づいて策定されることもあり得るの
であるから,被告理事らにおいて,9億円を超える貸倒引当金・貸出金
償却の発生が予想し得ないものであったとは認めがたい。被告Aは,平
成8年度には合計39億3581万1000円,平成9年度には合計4
6億3107万1000円,平成10年度には合計9億7156万10
−59−
00円,平成11年度には合計28億8454万7000円,平成12
年度には合計26億0160万7000円の貸倒引当金・貸出金償却を
計上しており(前記1ア,エ,ク,上記のとおり,被告Aの取引)
先は,不動産,土木,建設関連の企業が多く,平成12年度中の景気動
向からすれば,平成13年度中に多額の貸倒引当金・貸出金償却が発生
することはないと楽観視できる状況にはなかったのであるから,被告理
事らにおいても,具体的な金額こそ認識し得ないものの,前年度と同程
度ないしはそれに近い金額の貸倒引当金・貸出金償却が発生することも
予想可能であったといえる。
したがって,以上の点にかんがみれば,被告理事らには,平成13年
3月31日時点において,被告Aが近い将来に債務超過に陥り,経営破
綻する具体的,現実的危険性について認識していたか,少なくとも認識
可能であったと認めるのが相当である。
さらに進んで,被告理事らの平成12年12月21日時点における認
識について検討するに,上記のとおり,被告理事らは,同日の理事会
において,平成12年度に赤字決算を行うことを事実上決定しているか
ら,繰延税金資産の取崩しの危険性に関する認識は,平成13年3月3
1日時点における認識と変わりはないというべきである。
また,貸倒引当金・貸出金償却の点についても,平成13年3月31
日と平成12年12月21日とで認識を異にするだけの事情の変更等は
認められないから,平成13年3月31日時点における認識と変わりは
ないというべきである。
これに対し,有価証券の含み損については,日経平均株価が,平成1
2年12月21日以降平成13年3月31日までの間にも下落し続けて
いたことからすると,平成12年12月21日時点では,有価証券の含
み損が21億円にまで拡大していなかった可能性がある。もっとも,上
−60−
記のとおり,第2次出資金増強運動開始時における出資金総額は,平
成13年3月31日時点における出資金総額よりも4億4400万円少
なかったこと,被告Aの平成12年度決算における当期損失額は9億9
168万円であったところ(前記1ク,平成12年12月21日の)
理事会において報告された平成12年度決算における当期損失見込額は
12億7200万円であったことを考慮すると,平成12年12月21
日時点における有価証券の含み損が21億円にまで拡大していなかった
としても,同日時点における被告Aの財務状況に関する被告理事らの認
識は,平成13年3月31日時点における認識と大差はなかったという
べきである。
よって,被告理事らは,平成12年12月21日時点においても,被
告Aが近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する具体的,現実的危険性
があることを認識し又は認識し得たと認めるのが相当である。
,,,もっとも被告Aが近い将来に債務超過に陥り経営破綻する具体的
現実的危険性を被告理事らにおいて認識し得たとしても,業務の大幅な
改善,営業店舗の廃止,合併等により,債務超過の現実的危険性を経営
破綻にまで至らせず,早い時期に解消する見込みが相当程度あるとみら
れる場合は,被告理事らに前記指導監督義務があるとはいえないという
べきであるから,この点についても検討する。
前記1コによれば,被告Aは,平成13年3月ころからF信用金庫
との間で,合併交渉を開始したものの,同年10月ころ破談となり,そ
の後のE信用金庫との合併交渉も中途で延期となり,実現しなかったも
のであり,その他合併の具体的計画をうかがわせる証拠はない。
また,前記1シによれば,被告Aの平成13年8月27日の理事会
において,被告Aが当時有していた17店舗のうち5店舗を売却して賃
借する提案がされたが,結局実現しなかった事情が存在するものの,平
−61−
成12年12月21日当時,そのような計画が具体的に立案されていた
ことをうかがわせる証拠はない。
その他,平成12年12月21日当時,被告Aが現実的危険性を有し
ていた債務超過の状態を早急に解消してその経営破綻を回避できること
が相当程度期待できるような事態が進展しつつあったことを認めるに足
りる証拠はない。
なお,原告らの勧誘を担当した被告A職員については,被告理事ら等
を通じて,被告Aの具体的な経営状況を知らされたことはなく(前記1
,また,時価会計や繰延税金資産に関する制度の詳細を承知してい)
たと認めるに足りる証拠もないから,被告Aが実質的に債務超過の状態
にあったこと又は近い将来に債務超過に陥り,経営破綻する具体的,現
実的危険性があったことを認識することは困難であったといわざるを得
ない。したがって,原告らの勧誘を担当した被告A職員については,被
告理事ら等から被告Aの具体的な経営状況に関する情報の提供を受けて
いない以上,原告らに対する説明義務の発生を基礎付けることはできな
いというべきである。
オ以上によると,被告理事らは,平成12年12月22日以降速やかに,
被告A職員に対し,被告Aの具体的な経営状況(例えば,平成13年度が
赤字決算であった場合には非常に危険な経営状況に陥ることとなり,平成
13年度決算を黒字で迎えられるか否かは,株価や景気回復によるところ
が大きいことなど)を説明の上,出資の勧誘に際しては,かかる経営状況
につき具体的かつ詳細な説明を尽くさせるよう指導監督すべき職務上の義
務を負っていたというべきである。
カこの点,被告A及び被告理事らは,平成12年度までに貸倒引当金・貸
,,出金償却の計上が一段落し地価や景気も回復基調にあったことなどから
被告理事らとしても,平成13年度以降は被告Aの経営状況が改善するも
−62−
のと考えており,現に,平成13年度中は計画を上回る業務純益を上げ,
被告Aの経営は順調に推移していたから,平成13年度に多額の貸倒引当
金の計上を余儀なくされ,被告Aが経営危機に陥ることなど考えられるは
ずもなかった旨主張する。
しかし,平成12年度中は,株価,地価ともに下落傾向にあり,必ずし
も景気が回復基調にあるなどといえなかったことは前記のとおりであり,
景気が回復基調になく,地価の下落が継続しているのであれば,たとえ平
成12年度までに多額の貸倒引当金・貸出金償却を計上していたとして
も,取引先の経営状況の悪化や貸出金債権の担保割れ等により,多額の貸
倒引当金がさらに発生することも十分に予想し得たといえる。
また,平成13年度中は計画を上回る業務純益を上げ,経営が順調に推
移していたという点についても,被告Aの会計監査人を務めていた公認会
計士が金融整理管財人に提出した監査報告書によれば,被告Aでは,平成
13年度中に,不良債権化した旧債務の実質肩代わりの融資が行われてい
たとのことであり(前記1セ,そうであるとすれば,表面上は,計画)
を上回る業務純益を確保することができていたとしても,それが果たして
内実の伴ったものであったといえるか疑問がある上,金融整理管財人が金
融庁長官に提出した報告文書によれば,新改善計画で掲げていた不良債権
回収等のための方策(前記1ケ)は,必ずしも十分に実施されていなか
ったとのことであるから(前記1セ,平成13年度中の被告Aの経営)
が必ずしも順調に推移していたとはいいがたい。
さらに,被告Aは,平成13年度における多額の貸倒引当金・貸出金償
却の発生を予想できなかった根拠として,平成12年度決算の直前に,G
中金考査部による実地調査を受け,被告Aの自己査定基準による自己査定
が正確であると評価されたこと(前記1ク)を挙げる。しかしながら,
同調査は,4名の調査員により4日間実施されたにすぎず,調査の精度は
−63−
金融庁による金融検査とは比べるべくもない上に,それまでに被告Aが受
けてきた日銀考査や関東財務局による金融検査の各検査結果及び内容並び
に当時の景気や地価等の動向等をも勘案すれば,同調査結果をもって,平
成13年度中に多額の貸倒引当金・貸出金償却が発生することを予想でき
なかったとはいえず,仮にこれに信頼を置いたとすれば,安易に過ぎると
いうべきである。
したがって,被告A及び被告理事らが主張する上記事情は,いずれも,
経営状況に関する指導監督義務を否定すべき根拠とはならないというべき
である。
個別の原告に対する説明義務違反及び指導監督義務違反の検討
ア原告調査票について
原告らは,本件訴訟において,原告ら又はその家族の供述内容を録取し
た「原告調査票(甲B1ないし66〔ただし31を除く〕の各2号証)」。
を提出しているが,同調査票は,全体的に,簡略な記載がなされているに
とどまり,出資の経緯及び勧誘時の説明内容等について,不足なく,具体
的かつ詳細に記載されているとはいいがたい(以下略)。
以上の事情にかんがみると,原告調査票の作成経緯や作成の状況等に問
題がなかったかどうか疑問があり,したがって,その記載に高度の信頼を
置くことはできず(ただし,出資日の記載については除く,原告調査。)
票の記載のみをもって,直ちに被告A職員の具体的な説明内容を認定する
ことは困難であるといわざるを得ない。
イ平成12年12月22日以降に出資した原告について
(前略,前記のとおり,被告理事らには,被告A職員に対し,被告)
Aの具体的な経営状況を説明の上,出資の勧誘に際しては,被告Aの経営
状況につき具体的かつ詳細な説明を尽くさせるよう指導監督すべき義務が
あったところ,前記1のとおり,被告理事らは,被告A職員に対し,被
−64−
告Aの具体的な経営状況を説明しておらず,被告A職員も,上記原告らに
対し,被告Aの具体的な経営状況に関する説明をしていない。
したがって,被告理事らには,上記原告らとの関係において,被告A職
員に対する経営状況に関する指導監督義務違反があったと認められる。
ウ原告1,3,53(ただし,平成9年10月1日の20万円の出資,)
54(ただし,平成9年10月1日の20万円の出資及び平成12年2月
18日の300万円の出資)及び55について
被告Aの経営状況及び回収長期化のリスクに関する説明義務違反につ
いて
原告1,3,53,54及び55は,いずれも平成12年12月21
,,,日以前に出資しておりまた払戻手続をとっているわけではないから
上記原告らの被告Aの経営状況及び回収長期化のリスクに関する説明義
務違反の主張は採用できない。
回収不能のリスクに関する説明義務違反について
原告調査票には,出資の勧誘に際し,回収不能のリスクについて説明
を受けていない旨記載されているが,前記アのとおり,これのみをもっ
,,,てかかる事実を認定することはできず一般論としても被告A職員が
出資に関する説明を全く行わないまま,出資を勧誘したとは到底考えが
たい。
また,この点を措くとしても,出資とは,特定の事業者に対して資金
を拠出することを意味し,出資先が破綻した場合に出資金が回収不能と
なることは,一般通常人において十分に了解可能な事柄であると考えら
れる上,これらの原告が,出資当時,出資先が破綻した場合に出資金が
回収不能となることを知らなかったことを認めるに足りる証拠はない。
むしろ,前掲原告調査票によれば,原告らは,被告A職員に対し「出,
資金というのは,お金が必要になったときは売れるかね」と尋ねたり,
−65−
被告Aが破綻しそうであるとの噂に不安を感じて,経営状況を尋ねたり
したというのであるから,上記原告らは,出資金が,預金とは異なり,
当然に返還を受けられるものではなく,被告Aが破綻した場合には回収
不能となることを認識していたと推認するのが相当である。
したがって,上記原告らは,被告A職員から,回収不能のリスクにつ
いて説明を受けたか,その旨の説明を受けなくとも,かかるリスクを認
識していたと認めるのが相当であり,被告A職員に説明義務違反は認め
られないから,上記原告らの回収不能のリスクに関する説明義務違反の
主張は採用できない。
エ原告2(ただし,平成12年11月29日の300万円の出資)につい

被告Aの経営状況及び回収長期化のリスクに関する説明義務違反につ
いて
原告2は,平成12年12月21日以前に出資しており,また,払戻
手続をとっているわけではないから,原告2の被告Aの経営状況及び回
収長期化のリスクに関する説明義務違反の主張は採用できない。
回収不能のリスクに関する説明義務違反について
,,原告2は母親である原告24を通じて出資手続を行っているところ
回収不能のリスクに関する説明義務違反の成否については,原告24が
かかるリスクについて説明を受けたか否か,又は説明を受けていないと
しても,原告24においてかかるリスクを認識していたか否かにより決
すべきである(本件は,原告24が原告2の代理人として出資している
ものと解されるため,説明義務違反の成否は,原告24に対する説明の
有無及び同人の認識を基準に判断すべきである(以下略)。)。
また,原告24に対する出資を勧誘した被告A職員は,証人尋問にお
いて,原告24に対し,回収不能のリスクを説明した旨供述していると
−66−
ころ,かかる供述の信用性に疑いを差し挟むべき事情は特に見当たらな
い。
さらに,原告24の本人尋問の結果によれば,原告24は,過去に株
式投資の経験を有していた上,長年にわたり,建築業を営む株式会社の
取締役の地位にあり,夫とともに同社を経営し,後に,自らが保有して
いた同社の株式を同社に引き取らせた事実が認められ,かかる事実によ
れば,原告24が,被告A職員から説明を受けるまでもなく,回収不能
,,,のリスクを認識していたことは明らかでありこのことは原告24が
出資の勧誘を何度となく断った旨供述していることからも裏付けられ
る。
したがって,原告24は,被告A職員から,回収不能のリスクについ
て説明を受けたか,その旨の説明を受けなくとも,かかるリスクを認識
していたと認めるのが相当であり,被告A職員に説明義務違反は認めら
れないから,原告2の回収不能のリスクに関する説明義務違反の主張は
採用できない。
オ原告7について(略)
カ原告8について(略)
キ原告9(ただし,平成9年9月18日の10万円の出資及び平成11年
12月20日の15万1000円の出資)について(略)
被告Aの経営状況に関する説明義務違反について(略)
ク原告10について(略)
ケ原告13(ただし,昭和51年3月24日の3万円の出資)について
(略)
コ原告14(ただし,平成9年10月1日の100万円の出資)について
(略)
サ原告18(ただし,平成12年2月16日の合計100万円の出資)に
−67−
ついて(略)
シ原告19について(略)
ス原告23について(略)
セ原告26について(略)
ソ原告29(ただし,平成12年6月22日の1万円の出資)について
(略)
タ原告30(ただし,平成11年10月7日の95万円の出資)について
(略)
チ原告31について(略)
ツ原告33について(略)
テ原告44ただし平成12年6月22日の1万円の出資及び45た(,)(
だし,昭和47年9月13日の3万円の出資,平成11年10月6日の3
万円の出資,平成12年2月23日の100万円の出資)について(略)
ト原告46(ただし,平成11年10月5日の50万円の出資)及び47
(ただし,平成11年10月5日の50万円の出資)について(略)
ナ原告48ないし51について(略)
ニ原告52(ただし,平成12年2月8日の10万円の出資)について
(略)
ヌ原告56について
原告調査票によれば,原告56の夫は被告Aのg支店に勤務する同被告
の職員であり,原告56は,出資勧誘者である夫から「出資金増強のノ,
ルマが500万円なので,預金担当者として100万円やりたいから」と
言われて出資することとしたとの記載部分がある。しかし,かかる勧誘態
様を前提とすると,原告56の出資は,被告A職員が同被告の事業の執行
としての勧誘を行い,これに応じた結果としてなされたものではなく,出
資増強に協力することによって自らの勤務先への貢献ないし上司や同僚か
−68−
らの評価の向上を希望する夫に対し,妻として援助したものであるとみる
のが相当であり,原告56の夫が,被告Aの事業を執行する行為の一環と
して,原告56を勧誘したものとは認めがたいというべきである。のみな
らず,前掲原告調査票中には,出資の原資が満期になった定期預金である
との記載部分があるが,これが原告56の所有であることを認めるに足り
る証拠はなく,むしろ,家計を同じくするのみならず,一家の主な収入の
稼ぎ手である同原告の夫の所有である可能性も否定しがたい。
したがって,原告56の夫による出資の勧誘は,被告Aの事業の執行と
して行われたものであるとは認められない上に,同原告の損害が発生した
と認めるには足りないことから,具体的な説明内容や同原告の出資のリス
クに関する認識を問題とするまでもなく,同原告の主張は採用できない。
ネ原告57について(略)
ノ原告58について(略)
ハ原告60について
被告Aの経営状況に関する説明義務違反について(略)
回収長期化のリスクに関する説明義務違反について
原告調査票には,被告Aが破綻する約2か月前に,被告Aに対し,払
戻請求をした旨記載されているが,前記アのとおり,前掲原告調査票の
記載のみをもって,原告60が払戻請求をしたと認めることはできず,
この点を措くとしても,被告A職員の陳述書によれば,払戻請求時に,
出資者から,直ちに現金化できると思っていたとしてトラブルになるこ
とを避けるため,出資の勧誘に際しては,回収長期化のリスクを必ず説
明するようにしていたとのことである上,前記1ウのとおり,業務企
画部長から各営業店長宛に,出資金募集の注意事項として,回収長期化
のリスクを説明すべき旨の通知文が発出されていることからすると,被
告A職員は,回収長期化のリスクについては,回収不能のリスク以上に
−69−
説明を徹底していたと認めることができ,したがって,原告60に対し
ても,回収長期化のリスクの説明はなされていたものと推認できる。こ
のことは,原告60の合計50万円の出資が,譲渡の容易性を図るため
に,30万円の出資と20万円の出資に細分化されていること,仮に,
原告60が回収長期化のリスクについて何ら説明を受けていなかったの
であれば,払戻請求時に,被告A職員との間でトラブルになっていてし
かるべきところ,前掲原告調査票には,払戻請求をしたところ,半年以
上経過した後でないとできないと言われ,払戻請求をあきらめた旨の記
載があるにすぎないことからも裏付けられる(以下略)。
したがって,原告60の回収長期化のリスクに関する説明義務違反の
主張は採用できない。
回収不能のリスクに関する説明義務違反について(略)
ヒ原告62について(略)
フ原告65及び66について(略)
3争点2(被告A職員の優越的地位の濫用の有無)について(略)
4争点3(被告A職員の出資金払戻協力義務違反の有無)の検討
(前略)この点,被告A職員が原告らの主張する出資金払戻協力義務違反の不
法行為を行ったといえるためには,最低限,原告らが払戻請求を行う旨の意思
表示をしたにもかかわらず,被告A職員が,原告らの意に反して,これを拒絶
し又は払戻しに協力しなかった事実が認められる必要があるところ,原告62
以外の原告らは,上記事実を基礎付ける証拠として,原告調査票を提出するの
みであり,原告調査票のみをもってかかる事実を認定することができないこと
は,前記2アのとおりである(以下略)。
次に,原告62について検討するに,甲B62号証の1及び弁論の全趣旨に
よれば,被告Aは,原告62が平成13年8月24日に払戻請求をしたにもか
かわらず,払戻しに応じていない事実が認められる。
−70−
しかし,前記2のとおり,信用金庫に対する出資は,もともと回収長期化
のリスクを内在的に有しているのであるから,被告Aの上記対応が違法である
といえるためには,単に,払戻しまでの期間が長期にわたっているというだけ
では足りず,被告A職員が,譲渡先を見つけることなく放置したり,譲渡先が
見つかっているのに譲渡手続をとらなかった場合など,長期化の原因が被告A
職員の不適切な対応にあったといえる必要があるところ,本件において,かか
る事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記原告らの出資金払戻協力義務違反の主張はいずれも採用で
きない。
5争点5(被告理事らの指導監督義務違反と原告らの損害との間の因果関係)
(略)
6争点6(被告国の被告Aに対する監督権限不行使の違法性)の検討
ア国家賠償法1条1項は,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公
務員が個別に国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民
に損害を加えたときに,国又は地方公共団体がこれを賠償する責に任ずる
ことを規定するものである(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判
決・民集39巻7号1512頁。)
したがって,公権力の行使に当たる公務員の行為が国家賠償法1条1項
の適用上違法となるためには,まず,その前提として,公務員の権限行使
の根拠となる規定の趣旨・目的からして,当該公務員が,賠償を求めてい
る当該国民に対する関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担している
と認められる必要があり,本件においては,信用金庫に対する監督権限を
規定する信金法の制度趣旨・目的からして,被告国の公務員が,出資者が
被る損害の救済・予防の見地から,上記権限を行使すべき職務上の義務を
負担していることを要するというべきである。
そこで,信金法上の被告国の信用金庫に対する監督権限が,出資者が被
−71−
る損害の救済・予防のために行使されることを予定しているか否かにつ
き,以下検討する。
イ戦後,金融面から中小企業を支援する必要性から「中小企業等協同組,
合法」及び「協同組合による金融事業に関する法律(以下「協金法」」,
という)が制定された。協金法は「協同組織による金融業務の健全な。,
経営を確保し,預金者その他の債権者及び出資者の利益を保護することに
,,」より一般の信用を維持しもって協同組織による金融の発達を図ること
を目的としており(1条,出資者の利益保護が明文により掲げられてい)
るが,協金法の規律を受ける信用協同組合には,業域組合や職域組合のよ
うな相互扶助的色彩の強い信用協同組合と,一般金融機関としての性格の
強い信用協同組合とが混在しており,同法によってすべての中小企業専門
金融機関を規律することは監督行政上無理があると考えられたことから,
前者の信用協同組合については,組合員以外の者からの預金を制限すると
ともに,できる限り監督を簡素化して,自律的な業務の運営を行わせるよ
うにし,後者の信用協同組合については,公共性性格の強い金融機関とし
て,会員に限定することなく広く預金の受入業務を行うなど機能を拡大す
るとともに,監督を強化すべく,信金法を制定し,信用金庫制度が発足し
たものである。
このように,信用金庫は,公共的性格の強い金融機関として,信用協同
組合とは異なる規律に服することとなったが,相互扶助の精神に基づく協
同組織としての性格を失ったものではなく,信用金庫の会員たる資格を有
するのは,原則として,当該信用金庫の地区内に住所,居所又は事業所を
有する者,当該信用金庫の地区内において勤労に従事する者に限定されて
おり(信金法10条1項,また,金融機関の基幹事業たる貸付事業につ)
いても,原則として,会員に対するものに限定されている(信金法53条
1項。)
−72−
したがって,信用金庫については,その公共的性格から,信用協同組合
に比べ,会員の利益保護の要請が相対的に弱まったとはいい得るものの,
信金法の制定・施行により,かかる要請が全く失われたということはでき
ない。上記のとおり,信用金庫の会員となる資格は,原則として,当該信
用金庫の地区内の居住者又は勤労者に限定されており,基幹事業たる貸付
けの相手方も,原則として,信用金庫の会員であることを要することから
すれば,信用金庫としての信用は,地区内の居住者ないし勤労者との関係
において維持する必要があり,そのためには,地区内の居住者ないし勤労
者から拠出される出資の健全性の確保が必要不可欠であるというべきであ
る。
ウこの点,被告国は,信金法1条が,同法の目的として「預金者等」の保
護を掲げているところここでいう預金者等とは銀行法における預,「」,「
金者等」と同一の概念であり,同法において「預金者等」が預金又は定期
積金の積金者と定義付けられていることを根拠として,出資者の保護を目
的として,信用金庫に対する監督権限を行使することはできない旨主張す
る。
しかし,仮に,信金法1条の「預金者等」が,銀行法上の預金者と同一
概念であると解したとしても,同条は,信金法の目的として,預金者等の
,「」,,保護のみならず信用の維持をも掲げているのであり上記のとおり
信用金庫としての信用維持のためには,出資の健全性の確保が必要不可欠
であるのであるから,信用金庫に対する監督権限は,出資者保護の観点か
ら行使されることも期待されているというべきである。したがって,この
点に関する被告国の主張は採用できない。
また,被告国は,信用金庫に対する監督権限の行使は,信用金庫の公共
的性格ゆえに許容される旨主張するが,信用金庫のような公共性の認めら
れない信用協同組合に対しても,銀行法上の監督権限を行使することが認
−73−
められている(協金法6条)ことからすると,監督権限の行使は,必ずし
も信用金庫の公共的性格のみを根拠として認められているとはいいがたい
から,この点に関する被告国の主張も採用できない。
エ以上によれば,信金法上の被告国の信用金庫に対する監督権限に関する
規定は,出資者が被る損害の救済・予防の観点から行使されることが予定
されているというべきであり,かかる監督権限の不行使が,出資者である
原告らとの関係において,国家賠償法1条1項の適用上,違法となる余地
があるというべきである。
ア次に,いかなる場合において,被告国の信用金庫に対する監督権限の不
行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となるか否かにつき検討するに,
国又は地方公共団体の公務員による監督権限の不行使は,その権限を定め
た法令の趣旨・目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下にお
いて,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認め
られるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家
賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁
平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁。)
そして,信用金庫は,公共的性格を有しているとはいえ,本来,独立の
経済主体として,自律主義と契約自由の原則の下において,自由に経済活
動を行うことが許されるのが原則であり,信用金庫と出資者との間の出資
契約は,まさに契約自由の原則が妥当する領域の事柄であるから,被告国
が安易に監督権限を行使するのは妥当ではなく,かかる監督権限の不行使
が違法となり得るのは,最低限,被告国において,信用金庫が違法な勧誘
活動を行っていることを認識していたか,容易に認識し得たことを要する
と解するのが相当である。
なお,上記のとおり,被告国に国家賠償法上の責任が発生するのは,被
告Aの原告らに対する勧誘が違法であることが前提であるため,被告Aに
−74−
よる勧誘が違法とはならない前記2イに掲記された原告以外の原告らに
,,ついては被告国による監督権限の不行使の違法性を検討するまでもなく
その主張は採用できない。
イそこで,以下,前記2イに掲記された原告らとの関係で,被告国にお
いて,被告Aが違法な勧誘活動を行っていることを認識し又は容易に認識
し得たか否かにつき検討するに,原告らは,被告Aが,財務状況が悪化し
ていた状況下において,出資の勧誘を行い,出資金総額を短期間のうちに
増加させたことをもって,被告国の公務員において,被告Aが違法な勧誘
活動を行っていることを認識し又は容易に認識し得た旨主張する。
しかし,出資金の増加という現象は,被告Aにおいて,特定の時期から
出資金の増加を図る施策を講じていたことを推認することはできても,そ
れ以上に,勧誘の方法や態様等までも推認することはできず,出資金の急
増を認識したからといって,違法な勧誘行為が行われていることを認識し
又は容易に認識し得たとはいえない。
また,一般に,経営状況が悪化していても,出資を募ることにより事業
が好転する場合も多く,常に破綻するわけではない上,被告Aは,毎年度
3パーセントないし4パーセントの配当を実施していた(前記1ウ)の
であり,出資のメリットを期待して出資することも十分あり得るのである
から,経営状況が悪化している状況下で多くの出資がなされていることを
認識したからといって,違法な勧誘行為が行われていることを認識し又は
容易に認識し得たとはいえない。
当時,経営状況が悪化していた信用金庫や信用協同組合による出資の勧
誘の方法や態様等が,広く世間一般において問題とされていたり,出資者
から,被告国に対し,被告Aの勧誘の方法や態様等について苦情が寄せら
れていたような事情が存在するのであれば,被告国の公務員において,被
告Aの違法な勧誘行為を認識し又は容易に認識し得たといい得るが,本件
−75−
において,かかる事情は特に見当たらない。
したがって,本件においては,被告国の公務員において,被告Aが違法
な勧誘活動を行っていることを認識し又は容易に認識し得たとは認められ
ない。
ウなお,原告らは,被告国が,被告Aに対し,資本充実を含む改善計画の
提出を要求し,違法な勧誘活動を行うきっかけないしエスカレートさせる
原因を作った旨主張するが,資本充実を含む改善計画の提出を命じること
が,なぜ被告国の監督権限の不行使の違法性を基礎付けることとなるのか
不明であるし,資本充実を含む改善計画の提出を命じたからといって,相
当程度の確率で違法な出資の勧誘が行われるなどとはいえないのであるか
ら,かかる事実をもって,被告国の監督権限の不行使の違法性を基礎付け
ることができないことは明らかである。
よって,本件においては,被告国の被告Aに対する監督権限の不行使が違
法であるとは認められないから,この点に関する原告らの主張は採用できな
い。
7争点7(平成13年検査の違法性)の検討
金融検査マニュアルの形式的・画一的適用の違法について
ア原告らは,関東財務局長が,平成13年検査において,金融検査マニュ
アルを形式的・画一的に適用したことが違法である旨主張する。
この点,金融検査マニュアルは,監督当局の検査監督機能の一層の向上
及び透明な行政の確立を図るとともに,金融行政全体に対する信頼を確立
する観点から整備・公表された査定基準等を示した通達であり,検査官が
金融検査を行う際の手引書としての役割を有しているところ,通達によっ
て公務員の行政行為の内部基準が定められている場合,公務員は,当該基
準に従って行政行為を行うべき職務上の義務があるため,当該基準が明白
に不合理な内容であるなどの特段の事情がない限り,当該基準に適合した
−76−
当該公務員の行政行為が違法となる余地はないというべきである。
イそこで,金融検査マニュアルに示された基準が明らかに不合理な内容で
あるか否かについて検討するに,金融検査マニュアルは,貸出先の実態に
,「」,「」,「」,「」応じて債務者を正常先要注意先破綻懸念先実質破綻先
及び「破綻先」に区分した上,これを前提に,優良担保,優良保証等,一
般担保及び一般保証等の有無により調整を施した上で,債権回収の危険性
又は価値の毀損の危険性の度合いに応じて,資産をⅠ分類ないしⅣ分類に
分類し,かかる資産の分類を前提として,各債務者区分ないし各債権ごと
に予想損失額を求め,必要な償却・引当額を算定するものである(詳細は
前記1のとおりである)が,かかる査定基準は,金融機関が有する貸。
出金債権の回収の危険性又は価値の毀損の危険性を合理的に見積もるもの
であるといえ,少なくとも,その内容が明白に不合理であるとはいえない
ことは明らかである。
ウこの点,原告らは,金融検査マニュアルは,本来は大企業を取引先とす
る銀行の資産査定を想定して策定されたものであるため,経営実態に応じ
た査定基準が示されていない旨主張するが,貸倒れの危険性等の債務者に
係る信用リスクは,金融機関の規模の大小等により差が生じるものではな
いから,金融検査マニュアルは,銀行の資産査定のみを想定して策定され
たものであるとはいえない。また,金融検査マニュアルには「金融機関,
の規模や特性を十分に踏まえ,機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮
する必要があり,金融検査マニュアルのチェック項目に記述されている字
義通りの対応が金融機関においてなされていない場合であっても,金融機
関の業務の健全性及び適切性確保の観点からみて,金融機関の行っている
対応が合理的なものであり,さらに,チェック項目に記述されているもの
と同様の効果がある,あるいは金融機関の規模や特性に応じた十分なもの
であると認められるのであれば,不適切とするものではない」旨や「債,
−77−
務者区分は(中略)特に,中小・零細企業については,当該企業の財務,
状況のみならず,当該企業の技術力,販売力や成長性,代表者等の役員に
対する報酬の支払状況,代表者等の収入状況や資産内容,保証状況と保証
能力等を総合的に勘案し,当該企業の経営実態を踏まえて判断する」旨記
載されている(前記1ア,エ)のであり,小規模な金融機関の実態に
配慮した内容のものとなっていると認められる。したがって,関東財務局
長が,平成13年検査において,金融検査マニュアルを形式的・画一的に
適用したことが違法であるとの原告らの主張は採用できない。
金融検査マニュアルの恣意的運用の違法について
ア原告らは,関東財務局長が,平成13年検査において,金融検査マニュ
アルを恣意的に運用したことが違法である旨主張し,その根拠として,金
融検査マニュアルでは「直近の不動産鑑定士による鑑定評価(中略)が,
ある場合には担保評価額の精度が十分に高いものとして当該価格を処分可
能見込額と取り扱って差し支えない」とされているにもかかわらず,平成
13年検査では,不動産鑑定士の評価の精度に疑義があるとして,不動産
鑑定士の鑑定評価の90パーセントを処分可能見込額と判断した旨を指摘
する。
しかし,金融検査マニュアルでは,担保評価額及び処分可能見込額が客
観的・合理的な評価方法で算出されているかを検証することとされてお
り,担保評価額を処分可能見込額としている場合は,担保評価額の精度が
高いことについて合理的な根拠があるかを検証し,具体的には,相当数の
物件について,実際に処分が行われた担保の処分価格と担保評価額を比較
し,処分価格が担保評価額を上回っているかどうかについての資料が存在
し,これを確認できる場合は,合理的な根拠があるものとして取り扱うこ
ととされている(前記1エe。また,その一方で,金融検査マニュ)
アルでは,直近の不動産鑑定士による鑑定価格がある場合には,担保評価
−78−
額の精度が十分に高いものとして当該価格を処分可能見込額と取り扱って
差し支えないとされているが(前記1エe,金融検査マニュアルが)
「取り扱って差し支えない」との文言を使用し「取り扱うものとする」,
ないし「取り扱わなければならない」との文言を使用していないことから
すると,不動産鑑定士による鑑定価格の精度に疑義がある場合には,必ず
しも当該価格を処分可能見込額と取り扱う必要はなく,かえって,当該価
格が合理的な根拠に基づくものであるのか否かの検証を行うことが望まれ
ているといえる。
そして,平成13年検査において検証の対象となった不動産鑑定士によ
る鑑定価格は,不動産鑑定評価に関する法律39条にいう不動産鑑定評価
書に基づくものではなく,いわゆる簡易鑑定に基づくものであった上,被
告Aの平成12年1月から平成13年12月までの競売を除く売却実例4
0件の売却価格は,上記不動産鑑定士による簡易鑑定による鑑定価格の8
7.9パーセントであったのであるから(前記1サ,平成13年検査)
において,検査官が不動産鑑定士による鑑定価格の90パーセントをもっ
て処分可能見込額と判断したとしても,金融検査マニュアルを恣意的に運
用したといえないことは明らかである。
なお,被告Aは,上記検査官の判断に問題があると考えたのであれば,
意見申出制度に基づく意見申出(前記1エ)をすることができたもので
あるが,被告Aが同申出を行っていないこと(前記1サ)からすると,
被告Aは,消極的ではあるにせよ,検査官の上記判断を是認したと評価す
ることができ,この点も検査官の上記判断の正当性を裏付けるものである
といえる。
イまた,原告らは,平成12年検査では不動産鑑定士による担保評価額が
100パーセント認められていた旨,及び平成13年検査と同時期に行わ
れたF信用金庫に対する検査では担保評価額が100パーセント認められ
−79−
ていた旨をも指摘するが,平成13年検査と時点あるいは被検査金融機関
を異にする金融検査を比較しても,前提となる事情が同じであるとは限ら
ないのであるから,これらの検査が平成13年検査と取扱いを異にするこ
とをもって,金融検査マニュアルの運用が恣意的に行われたとする根拠と
はなり得ないというべきである。
ウさらに,原告らは,平成13年検査では,通常の倍の人数の検査官が派
遣されたと主張するが,検査官の人数は被検査金融機関の規模や検査スケ
ジュール等により異なったとしても何ら不自然であるとはいえない。確か
に,平成13年7月から平成14年6月までの間における信用金庫に対す
る金融検査は平均6.8名の検査官により実施されているのに対し,平成
13年検査は12人の検査官により実施されているが(前記1サ,平)
均を上回る人数により金融検査が実施されたという事実は,他の金融検査
よりも充実した検査が実施され,検査結果の精度の高さをうかがわせる事
情とはなり得ても,検査の違法性を基礎付ける事情となり得るものではな
い。また,原告らは,平成13年検査は通常の3分の1の日数で終了した
とも主張するが,平成13年7月から平成14年6月までの間における信
用金庫に対する金融検査の1金庫当たりの平均立入検査日数は18.0日
間であるのに対し,平成13年検査における立入検査日数は15日間であ
り(前記1,その差は3日間にすぎない。そもそも,平成13年検査)
は,平均を上回る人数の検査官により実施されているのであるから,他の
検査に比べ立入検査日数が短縮されることも何ら不自然であるとはいえな
い。よって,平成13年検査における検査官の人数及び立入検査日数につ
いても,金融検査マニュアルの運用が恣意的に行われた根拠とはなり得な
いというべきである。
エなお,原告らは,被告国が,被告Aに対し,自主的に破綻申請しなけれ
ば業務停止命令を下すと圧力をかけ,破綻申請を迫った旨主張するが,か
−80−
かる事実を認めるに足りる証拠はなく,また,仮に,かかる事実があった
としても,自己資本比率が0パーセントを下回る金融機関に対しては業務
停止命令がなされることとなるのであるから(前記1ウ,債務超過に)
陥り,自己資本比率が0パーセントを下回る状態にあった被告Aに対し,
自主的に破綻申請しなければ業務停止命令を行う旨申し向けたとしても,
違法であるとはいえない。
よって,平成13年検査には何ら違法な点はなく,金融検査マニュアルの
形式的・画一的適用の違法及び恣意的運用の違法に関する原告らの主張は,
いずれも採用できない。
8総括
以上のとおり,被告理事らには,平成12年12月22日以降に出資した
原告2,4ないし6,9,11ないし18,20ないし22,24,25,
27ないし30,32,34ないし47,52ないし54,59,61,6
3及び64との関係において,被告A職員に対する指導監督義務違反が認め
られ,かかる指導監督義務違反は,不法行為に当たるとともに,理事として
の任務懈怠に当たり,この点につき被告理事らには重過失があったと認めら
れる。
,(,したがって被告理事らは民法709条ないし信金法35条2項ただし
平成17年法律第87号による改正前のもの)に基づき,被告Aは民法44
条1項(ただし,平成18年法律第50号による改正前のもの)に基づき,
連帯して,上記原告らに対し,上記原告らが被告理事らの指導監督義務違反
,,により被った損害について賠償する責任があるところ上記原告らの損害は
直接的には平成12年12月22日以降の出資金相当額別紙一覧表の認,(「
容額」欄中の「出資金額合計」欄記載の金額)であるが,弁護士費用につい
ても,諸般の事情にかんがみ,上記金額の1割(別紙一覧表の「認容額」欄
中の「弁護士費用」欄記載の金額)を本件と相当因果関係のある損害として
−81−
認める。
よって,上記原告らの被告A及び被告理事らに対する請求は,別紙一覧表
の「認容額」欄中の「認容額合計」欄記載の金額の連帯支払を求める限度で
理由がある。
これに対し,平成12年12月21日以前に出資した原告らとの関係にお
いては,被告A職員及び被告理事らに,説明義務違反及び指導監督義務違反
は認められないから,同原告らの被告A及び被告理事らに対する請求はいず
れも理由がない。
,,また被告国の被告Aに対する監督権限の不行使及び平成13年検査には
何ら違法な点は認められないから,原告らの被告国に対する請求はいずれも
理由がない。
第5結論
以上の次第で,原告らの本訴請求は,原告2,4ないし6,9,11ないし
,,,,,,,1820ないし22242527ないし303234ないし47
,,,,,52ないし54596163及び64が被告A及び被告理事らに対し
別紙一覧表の「認容額」欄中の「認容額合計」欄記載の金額並びにこれに対す
る遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余
の請求は理由がないからいずれも棄却し,訴訟費用の負担について,民訴法6
1条,64条,65条1項を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ
適用して,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官堀内明
−82−
裁判官向井宣人
裁判官上田哲は,転補のため,署名押印できない。
裁判長裁判官堀内明

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