弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主           文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 原告は,被告に対し,金238万円及びこれに対する平成13年11月6日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ全部原告の負担とする。
 4 この判決の第2項は仮に執行することができる。
             事実及び理由
第1 請求
 1 原告の請求
   被告は,原告に対し,金698万7500円及び内金230万円に対する平成12年12月10日から,内金7500円
に対する平成13年1月28日から,内金468万円に対する同年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 2 被告の反訴請求
   主文第2項と同旨
第2 事案の概要
   本件は,後記本件土地建物についての本件売買契約につき,原,被告双方が,それぞれ相手方の債務不履行
による契約解除を主張し,原告は,手付金230万円の返還,違約金468万円の支払を求めるとともに,原告が負担
した売買契約書に貼付の印紙代のうち半額7500円は契約費用として被告が負担すべきものであるとしてその返還
を求め,一方,被告は,反訴により違約金残金238万円の支払を求めた事案である。
 1 争いのない事実
  (1)当初契約の締結
    原告は,平成12年12月10日,被告との間で,別紙物件目録記載の土地の売買契約と同地上に建築する建
物の建築工事請負契約(以下両契約を併せて「当初契約」という。)を次のとおり締結し(ただし,建築工事請負契約
は被告及び訴外株式会社はるかわ〔以下「訴外はるかわ」という。〕両名が請負人となり,契約を締結した。),同日,
土地売買の手付金として180万円,建築請負工事代金の一部として50万円,合計230万円を被告に支払った。
  ア 土地売買契約
      売り主    被告
      買い主    原告
      売買代金  2181万円
      手付金   180万円
      支払方法  平成13年5月20日限り,売買代金から手付金額を控除した残金2001万円を支払う。
  イ 建物建築工事請負契約
      請負人    被告,訴外はるかわ
      施主     原告
      工事名    霞ケ丘5丁目原告邸新築工事
      工期     平成13年2月1日着工予定,同年5月20日完成予定
      請負金額  2499万円(工事価格2380万円,消費税119万円)
      支払方法  契約成立時50万円,完成引渡時2449万円を各支払う。
  (2)当初契約の合意解除と本件売買契約の締結
    原告と被告及び訴外はるかわは,平成13年1月28日,上記当初契約を合意解約し,そのうえで,原告は,同
日,被告との間で,別紙物件目録記載の土地及び同土地上に被告が建築する同目録記載の建物(以下,個別には
「本件土地」,「本件建物」といい,併せて表示するときは「本件土地建物」という。)を次の約定で買い受ける旨の売買
契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。なお,その際,原告と被告は,当初契約の際原告が被告に支払った
土地売買の手付金180万円及び建築請負工事代金の一部支払金50万円の合計230万円をもって本件売買契約
の手付に充てることを合意し,また,原告は,同日,本件売買契約の契約書(甲1)に貼付する印紙代として1万5000
円を被告に支払った。
       売買代金 金4680万円(消費税・外構工事代金込み)
       手付金  金230万円
       支払方法 原告は,上記売買代金額から手付金額を控除した金4450万円を平成13年5月20日限り支
払う。
       違約解除 原告又は被告のいずれかに債務不履行事実がある場合,相手方は催告の上,本件売買契約
を解除できる。この場合,債務不履行者は,違約金として金468万円を支払わなければならず,原告(買主)の債務
不履行の場合,既払金が違約金468万円を下回る場合には,原告は,被告に対し,金468万円から既払金を控除し
た残額を支払わなければならない。
 2 本訴請求についての原告の主張
  (1)本件売買契約締結に際し,原告と被告は,本件建物の仕様につき,本件建物の当初設計での2階と3階を反
転させ,3階に浴室を設けること,原告は,床面に段差のないバリアフリーを希望するが,3階に浴室を設けることによ
り,2階に浴室を設けた場合に比し,浴室の床面が高くなり,段差が生じる可能性があることについては,100ミリメー
トルを限度として浴室の床面が高くなることを受忍する旨の合意をした。
  (2)被告の債務不履行と本件売買契約の解除
   ア ところが,本件建物建築の下請業者である訴外はるかわは,平成13年2月3日,原告に対し,標準仕様のユ
ニットバスを取り付けると浴室の床面が約300ミリメートル高くなる旨を説明した。
     原告は,上記合意違反であり,到底受け入れがたい旨を回答するとともに,浴室直下の2階ウオーキングクロ
ーゼットの天井部分を下げる方法で対応できないか検討を依頼したところ,訴外はるかわからの回答は,その場合に
は,ウオーキングクローゼットの天井部分が約300ミリメートル低くなってしまうとのことであったため,それは受け入
れがたい旨を回答した。
   イ このため,被告と訴外はるかわは,上記の点の調整につき,2階ウオーキングクローゼットの天井梁部分の
み突出させて強度を確保する方法を採ることにし,併せてその突出寸法をできる限り小さくすることで原告の了解を得
ようとしたが,原告は,被告及び訴外はるかわがバスルームを支える梁の強度・安全性について関心が低いままの言
動を繰り返したため,バスルームの床部分の強度・安全性について強い不安を抱くに至った。
   ウ その後,原告と被告及び訴外はるかわは,同年2月末ころまでに,本件売買契約の仲介業者である訴外霞
ケ丘不動産株式会社(以下「訴外霞ケ丘不動産」という。)のA立会のもとに協議し,2階ウオーキングクローゼットの
天井梁部分の突出寸法を100ミリメートル以下となるようにするが,それが困難である場合には,さらに原告と被告及
び訴外はるかわが協議して調整することで合意し,その旨を合意書にまとめることにした。
   エ ところが,被告及び訴外はるかわは,原告に何ら説明するkとなく本件建物建築工事を進め,同年3月4日ま
でに,2階ウオーキングクローゼット天井梁部分の突出寸法を約130ミリメートルとしてバスユニット据付構造変更工
事を完了してしまった。
     それにもかかわらず,被告は,同月10日,Aを介して,原告に対し,「梁材の突出寸法は100ミリメートル以
下となる方向で調整を行う」旨記載しつつ,「やむを得ず100ミリメートルを超過する場合は・・・被告は10万円を負担
するものとし,左記負担により被告及び原告は互いに異議苦情及び損害賠償等の申し出を行わないものとする。」な
どと記載した合意書に署名・捺印を求めた。
   オ 上記のとおり,被告は,2階ウオーキングクローゼット天井梁部分の突出寸法についても,また,その強度・
安全性についても何ら説明することなく工事を進めてしまったものであり,被告には,原告との信頼関係を破壊するに
足りる重要事項に関する債務不履行(説明義務違反,誠実義務違反及び施工に関する合意違反)が発生していたと
ころ,さらに,被告は,原告に対し,前項のような合意書に署名・捺印を求め,その信頼関係の破壊を決定的なものに
した。
     そこで,原告は,同年3月11日,被告に対し,被告の債務不履行を理由に本件売買契約を解除する旨の意
思表示をした。
   カ 原告から本件売買契約解除の意思表示を受けた被告は,原告に何ら説明のないまま,かつ,確認検査機関
の確認を受けてもいないにもかかわらず,同月18日までに,2階ウオーキングクローゼット天井梁の突出部分につ
き,40ミリメートルも削り取り,これによって2階ウオーキングクローゼット天井梁の突出高さを100ミリメートル以下と
するつじつま合わせをするという暴挙を行って,その債務不履行の事実を隠蔽しようとした。
   キ そこで,原告は,同年4月20日付の書面で,被告に対し,再度,本件売買契約を解除する旨の意思表示をな
し,同書面は,同月23日被告に到達した。
  (3)手付金支払の無効
    被告は,平成12年12月10日,建売住宅の違法な青田刈りを隠蔽するために,原告との間で,土地売買契約
及び建物建築工事請負契約(当初契約)を締結し,土地売買の手付金180万円と建物建築工事請負代金の一部金
50万円を取得した。そして,その後,被告は,平成13年1月28日に原告との間で本件売買契約を締結し,既に受領
済みの前記230万円を,本件売買契約の手付金として受領したが,これら一連の行為は,被告が,原告から手付金
を取ってしまって逃げられないようにするため,宅建業法33条,36条,不動産の表示に関する公正競争規約5条の
規制を免れるための脱法として,行ったものにほかならない。また,被告は,本件売買契約に際し,建売分譲にかか
る土地建物の売買契約であるにもかかわらず,「既に標準プランで建築確認を得ていることから,仕様変更により再
申請し,それに伴う設計変更料,水回り変更工事料の支払いを受けることになる」との虚偽の説明を行って,建築確
認申請費用を負担させようとするなど,自己のリスク負担を原告に転嫁させようとしており,宅建業法の規定する公正
競争を脱法している。したがって,本件売買契約における手付金230万円の支払は法律上無効というべきであり,原
告に返還がなされるべきである。
  (4)売買契約書貼付印紙代の負担
    本件売買契約の契約書に貼付した印紙代相当額1万5000円は,売買に関する費用であり,原告と被告とが
折半で負担すべきものである。ところが,被告は,これを原告が負担しなければならないかのごとく虚偽の説明をして
原告に負担させたものであり,詐欺行為に該当するか,仮にそうでないとしても,宅建業法の公正取引の要請に反す
る行為である。
    したがって,被告は,上記印紙代相当額のうち半額の7500円を,原告に返還しなければならない。
  (5)よって,原告は,被告に対し,次の金員の支払を求める。
   ア 上記(2)の契約解除もしくは上記(3)の手付金支払の無効に基づく,手付金230万円の返還及びこれに対する
平成12年12月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
   イ 上記(2)の契約解除に基づく,違約金468万円及びこれに対する平成13年3月11日から支払済みまで民法
所定年5分の割合による遅延損害金
   ウ 売買契約書貼付印紙代1万5000円のうち,被告が負担すべき7500円の返還及びこれに対する平成13
年1月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合により遅延損害金
 3 本訴請求についての被告の主張
  (1)2階と3階を反転させることに伴い,3階浴室の床面につき,段差のないバリアフリーにするとか,3階浴室の床
面が高くなる限度を100ミリメートルとする合意をしたことはないし,2階ウオーキングクローゼット天井梁の突出寸法
を100ミリメートル以下とすることも,目標であって,それ以下とすることを合意したようなことはない。
    被告は,本件売買契約が,建売分譲にかかる土地建物の売買であるにもかかわらず,多様な原告の要求に応
じ,誠実にその仕様変更等に対応してきたものであって,原告が主張するような債務不履行はない。したがって,原告
の契約解除の主張は理由がなく,仮に契約解除が効力を有するとすれば,それは,原告の都合による契約解除であ
り,逆に,原告は,被告に違約金支払義務がある。
  (2)原告の主張(3)はすべて争う。
  (3)原告の主張(4)はすべて争う。原告は,自己の保持すべき本件売買契約書に1万5000円の印紙を貼付したも
のである。
 4 反訴請求についての被告の主張
  (1)本件建物の完成
    被告は,本件売買契約の目的である本件建物につき,引渡期限の平成13年5月20日までに外構工事を除
き,これを完成させた。なお,外構工事に関しては,原告からの指示が得られなかったため,これを留保していたもの
である。
  (2)原告の債務不履行
    原告は,本訴請求についての原告の主張(2)に記載のとおり,平成13年3月11日,被告に対し,本件売買契
約を解除する旨の意思表示をしたが,被告には,解除理由となるような債務不履行の事実はなかった。
    そこで,被告は,平成13年4月14日到達の書面で,原告に対し,本件売買契約を解除するのであれば,原告
の都合による解除となり,違約金を請求することになる旨を通知し,期限を定めて回答を求めた。これに対し,原告
は,平成13年4月20日付及び同年5月8日付書面で,被告に対し,違約金の支払を求めてきたもので,原告が,支
払期限である同年5月20日に本件売買残代金を支払う意思のないことが明白になり,実際,同期限に残代金は支払
われなかった。
  (3)本件売買契約の解除
    そこで,被告は,平成13年11月5日送達の本件反訴状により,原告の残代金不払の債務不履行により本件
売買契約を解除する旨の意思表示をした。
  (4)よって,被告は,原告に対し,本件売買契約の違約解除条項に基づき,違約金468万円から受領済みの手付
金230万円を控除した残額238万円及びこれに対する反訴状送達の翌日である平成13年11月6日から支払済み
まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
 5 反訴請求についての被告の主張に対する原告の主張
  (権利濫用)
   本訴請求についての原告の主張(2)に記載のとおりの行動により原告に本件売買契約を維持しがたいと判断さ
せるに至った被告が,原告の債務不履行を取り上げて本件売買契約の解除を主張すること自体が,公序良俗に反
し,権利濫用として許されない。
第3 当裁判所の判断
 1 事実経過
   前記争いのない事実,証拠(甲1ないし22,乙1,2,16,23ないし27,,34,38,41の1・2,証人A,同B,同
C,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
  (1)原告は,訴外霞ケ丘不動産の仲介により,当初契約を経て,平成13年1月28日,被告との間で,本件売買契
約を締結し,被告がいわゆる建売分譲する本件土地建物を購入することとしたものであるところ,原告は,当初契約
の時点から,被告が本件土地上に建築する本件建物につき,2階と3階とを反転させ,3階に浴室を設置することを希
望したことから,被告においてもこれに応じて設計図の変更を行い,その結果,本件売買契約は,変更後の設計図に
基づき,かつ,2階及び3階の反転に伴う設計変更料・水回り工事一式はすべて代金額に含まれるとの特約を付し
て,これが締結されたものであった。
    また,被告からは,原告に対し,上記2階と3階の反転に伴い,3階浴室の床面が100ミリメートル程高くなる可
能性があるとの説明があり,これについて原告は,老齢の母親がいるため,できるだけ段差のないバリアフリーを希
望していたが,上記反転により100ミリメートル程度の段差が生じることはやむを得ないものと考え,基本的に了承し
た。
(2)ところが,本件売買契約後の平成13年2月3日ころになって,原告は,本件建物の建築を被告から請け負った
訴外はるかわから,標準仕様のバスユニットを使用した場合,3階浴室の床面が約300ミリメートル高くなってしまうと
の申し入れを受けた。
    原告は,300ミリメートルも高くなるのは許容できないとして,これを拒絶し,バスユニットの据付構造の変更等
も含め,その対応策の検討を求めた。  
(3)原告は,同月10日ころ,訴外はるからから,低層仕様のバスユニットを使用して据付構造を変更すれば,3階
浴室床面を段差のないバリアフリーにできるが,その場合は,2階ウオーキングクローゼット天井の高さが150ミリメ
ートルほど低くなるとの説明を受けた。
    原告は,同月11日,被告に対し,バスユニットの据付構造を変更する場合には,浴室の耐久性の問題とウオ
ーキングクローゼットの収納スペースの減少の問題が生じるため,据付構造を変更せずに3階浴室床面を段差のな
いバリアフリーにする方策の再検討を求めるとともに,バスユニットの据付構造を変更する方法しかない場合には,構
造的に問題のないことの確認と構造計算をしてほしい旨を要望した。
(4)原告は,同月17日,被告が本件建物の設計を依頼していた訴外有限会社ジェネシス建築事務所(以下「訴外
ジェネシス」という。)において,訴外霞ケ丘不動産のA及び訴外ジェネシスの代表者Dと打合せを行った。そこで,原
告は,バスユニットの据付構造の問題に関し,Dから,2階クローゼットの天井の仕上げをできるだけ上で行うことによ
り,中央の梁部分は突出するが,クローゼットの天井高の確保ができ,かつ,3階風呂,洗面所及びリビングの床がフ
ラットになり,構造計算の必要もない旨の説明を受けた。原告は,これを了解するとともに,2階クローゼットに収納予
定家具の寸法の関係で,梁の突出部分を100ミリメートル以下にすることを要望した。原告は,同日午後,被告事務
所において,A,被告代表者のE及び訴外はるかわのBと打合せを行い,風呂に関しては,据付構造の問題から,標
準仕様のバスユニットではなく,低床タイプのバスユニットを採用することを決定した。
(5)原告は,同月24日,被告事務所において,A,E及びBと打合せを行った。その際,原告は,風呂の据付構造
等に関し,「H13-2/17(土)仕様打合せ結果に基づく内容確認書」と題する書面を持参し,霞ケ丘不動産,被告及
び訴外ジェネシスの捺印を求めたが,Eは,被告においてまとめて合意書を作成するとして,原告の持参した書面に
は捺印せず,これを預かった。
(6)同月26日,本件建物の上棟式が,原告,E,A及びBの立会のもとで執り行われた。
(7)原告は,同月27日,被告事務所において,E及びAと話し合った。その際,Eは,2階ウオーキングクローゼット
天井梁の突出部分につき基本的には100ミリメートル以下となるように調整するが,やむを得ず100ミリメートルを超
過する場合には,追加工事の床暖房工事代金のうち10万円を値引きする旨を原告に提案した。
(8)原告は,同年3月4日,本件建物建築現場において,工事の進捗状況を確認したところ,既にバスユニット据付
構造変更工事がなされており,しかも,2階ウオーキングクローゼット天井梁の突出部分が原告の要望していた100
ミリメートルには納まっておらず,約130ミリメートル突出していることが判明した。
(9)原告は,同月10日,霞ケ丘不動産の事務所でAと打合せを行った。その席で,原告は,Aから,被告が風呂の
据付構造等に関して被告がまとめた合意書を示され,これに署名捺印するよう求められた。ところが,上記のとおり,
既にバスユニット据付構造変更工事は実施済みであり,かつ,2階ウオーキングクローゼット天井梁の突出寸法は約
130ミリメートルになっているにもかかわらず,同合意書には「梁材の突出寸法は100ミリメートル以下となる方向で
調整を行う」としか記載がなく,これにつき,Aから補足説明もなかったため,被告に対する不審を募らせた原告は,A
に対し,本件売買契約を解除したい旨の意向を伝えた。
(10)原告は,同月11日,被告に対し,被告の債務不履行を理由に本件売買契約を解除する旨の意思表示をファ
ックスによって行った。また,原告は,同月18日には,被告に対し,本件売買契約後にバスユニット据付構造変更工
事が必要であることが判明したこと,これにより2階ウオーキングクローゼットのスペースの一部が減少してしまうこ
と,原告に何ら報告もなしに上記据付変更工事を行ったこと等が被告の債務不履行(設計ミス,施工に関する合意違
反,説明義務違反,誠実義務違反)であることを説明した書面を送付した。
(11)被告は,同月14日,2階ウオーキングクローゼット天井梁につき,180ミリメートル角の梁材から120ミリメー
トル角の梁材に変更する旨の建築基準法6条の2第1項の規定に基づく計画変更確認申請を,訴外ジェネシス作成
の構造計算結果を添えて行い,同月21日その確認を得たが,その確認を得る以前の同月18日までに,180ミリメー
トル角の2階ウオーキングクローゼット天井梁を約40ミリメートル削り取る加工を行い,その結果,約130ミリメートル
であった前記梁の突出寸法を約90ミリメートルに減少させた。
     なお,被告は,同月15日,代理人弁護士を介して,原告に対し,被告には債務不履行はなく,本件売買契約
の解除には応じられない旨の文書を送付したが,上記計画変更申請を行ったことや,天井梁の一部の削り取りにつ
いては,原告には事前に通知等せず,秘密裏にこれを行った。
(12)原告は,同月19日,本件建物建築現場において,上記のとおり天井梁が削り取られているのを発見し,被告
がこれにより,天井梁の突出部分を100ミリメートル以下とするつじつま合わせを行い,債務不履行の事実の隠蔽を
図ったものと考え,いよいよ被告に対する不審を募らせた。
(13)その後,被告は,同年4月14日到達の書面で,改めて原告に対し,被告による債務不履行はなく,本件売買
契約を解除するのであれば,原告の都合による解除となり,違約金を請求することになる旨を通知し,一方,原告は,
同年4月23日到達の書面で,再度被告に対し,被告の債務不履行による契約解除の意思表示を行うとともに,違約
金の支払を求め,さらに同年5月8日にも同様の書面を被告に対し送付した。
(14)被告は,その後も本件建物の工事を進め,残代金の支払期日である同年5月20日までに,原告の指示がな
いために施工を留保していた外構工事を除いてその工事を完成させた。しかし,原告は,同年5月20日の代金支払
期日に残代金の支払をせず,かえって,同年8月21日,被告の債務不履行による本件売買契約の解除を主張して,
本件本訴請求の訴えを提起した。
(15)これに対し,被告は,本件反訴を提起し,同年11月5日送達の本訴反訴状により,原告の残代金不払いを理
由に本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
 2 原告の本訴請求について
  (1)被告の債務不履行と本件売買契約の解除
    原告は,被告の債務不履行による本件売買契約の解除を主張するところ,確かに,前記認定事実によれば,2
階と3階の反転により生ずる3階浴室床面の段差につき,原告は,本件売買契約締結時点では,被告から約100ミリ
メートルと説明されていたのに,実際には300ミリメートルも高くなることがその後判明したこと,これにつき,据付構
造を変更して低層バスユニットを据え付けることによって3階浴室床面は段差のないものとできるが,その場合には2
階ウオーキングクローゼット天井梁が突出することが避けられないため,その突出寸法を100ミリメートル以下に納め
る方向で交渉が重ねられていたこと,ところが,被告は,その交渉が完全にまとまらないうちに,原告の了解を得ない
で低層バスユニットの据付を先行させ,しかも,その据付工事の結果では,天井梁の突出寸法は約130ミリメートルと
なっており,原告の希望する100ミリメートルの範囲内には納まっていなかったこと,さらに,被告は,原告から本件売
買契約解除の意思表示を受けた後の平成13年3月14日に,原告には何ら連絡せず,秘密裏に2階ウオーキングク
ローゼット天井梁に関し,180ミリメートル角から120ミリメートル角に梁材を変更する計画変更確認申請を行うととも
に,既に設置の180ミリメートル角の天井梁を約40ミリメートル削り取り,これにより,天井梁の突出寸法を90ミリメ
ートルに納める加工を行ったことが認められる。
    しかし,本件建物は,本来,床面に段差のないいわゆるバリアフリー住宅をうたった建物ではなく(甲1,2,被
告代表者,弁論の全趣旨),2階と3階の反転による段差の発生についても,当初の説明では段差予測が100ミリメ
ートルであったのに,それをはるかに上回る300ミリメートルもの段差が生じることにはなったものの,段差の発生を1
00ミリメートル以下にすることを確定的に約束したものであったとは認められず,また,上記段差の発生に関しては,
バスユニットとその据付構造の変更によって浴室床面は段差のないものとし,それに伴い2階ウオーキングクローゼッ
ト天井梁が突出することに関しても,100ミリメートル以下に納める方向で交渉がなされ,大筋においてまとまってい
たこと,被告が原告に無断で先行させた低層バスユニットの据え付けによる2階ウオーキングクローゼット天井梁の突
出寸法は,100ミリメートル以下には納まっていなかったものの,約130ミリメートルの突出にとまっていたこと,バス
ユニットの据付構造の変更の安全性については,訴外ジェネシスのDから原告に対し説明がなされていたこと,2階ウ
オーキングクローゼット天井梁を180ミリメートル角の梁材から120ミリメートル角の梁材に変更しても構造計算上は
問題がないと認められること(乙1,23)にも照らすと,被告が交渉のまとまらないうちに,原告の了解を得ずに低層バ
スユニットによる据付構造変更工事を先行させ,また,原告から本件売買契約解除の意思表示を受けるや,その直後
に,原告に何ら連絡せずに,突出天井梁の一部を削り取り,梁の突出寸法を100ミリメートル以下にする加工を急遽
行うなど,原告の不審を招く行為が一部あったことは否定しがたいものの,被告に,本件建物の施工に関し,本件売
買契約を解除されてもやむを得ないような合意違反や,説明義務違反ないし誠実義務違反があったとまではこれを認
めることができない。
    したがって,原告がした被告の債務不履行を理由とする本件売買契約解除の意思表示はその効力を認めるこ
とができない。
(2)手付金支払の無効について
    原告は,当初契約の締結とその合意解除及び本件売買契約の締結に至る一連の被告の行為は,宅建業法3
3条,36条,不動産の表示に関する公正競争規約5条の規制を免れるための脱法行為であり,また,被告が仕様変
更に伴う建築確認申請費用を原告に負担させようとしたりしたのは,宅建築業法の規定する公正競争を脱法する行
為である等と主張するが,被告にそれら違法行為があったことを認めるに足りる確たる証拠はなく,それら違法行為
があったことを前提として,手付金230万円の支払が無効であるとする原告の主張は採用することができない。
(3)売買契約書貼付印紙代の負担について
    原告は,本件売買契約の契約書に貼付した印紙代相当額1万5000円は,売買に関する費用であり,原告と
被告とが折半で負担すべきものであるのに,原告が負担しなければならない如くの虚偽の説明をしてこれを全額負担
させたと主張する。 
    しかし,前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば,上記印紙代は,原告において保持すべき本件売買
契約書に貼付する印紙代であることが認められるから,その印紙代を原告が負担すべきものとされてもやむを得ない
ところであって,その半額を被告が負担すべきものであることを前提として,その半額を原告に返還しなければならな
いとする原告の主張は理由がない。
(4)以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由がない。
 3 被告の反訴請求について
(1)被告の主張について
    前記2の(1)で判断したとおり,原告の被告の債務不履行を理由とする解除はこれを認めることができないとこ
ろ,被告が,原告が上記解除の意思表示をした後も本件建物の工事を進め,残代金の支払期日である平成13年5
月20日までに,原告の指示がないために施工を留保していた外構工事を除いてその工事を完成させたこと,しかし,
原告は,同年5月20日の代金支払期日に残代金の支払をせず,かえって,同年8月21日,被告の債務不履行によ
る本件売買契約の解除を主張して,本件本訴請求の訴えを提起したこと,これに対し,被告は,本件反訴を提起し,
同年11月5日送達の本件反訴状により,原告の残代金不払いを理由に本件売買契約を解除する旨の意思表示をし
たことは,前記1で認定したとおりである。
    そうすると,本件売買契約は,平成13年11月5日,原告の残代金不払いにより,契約解除されたものと認めら
れる。
    したがって,原告の抗弁が認められない限り,原告は,被告に対し,前記争いのない本件売買契約の違約解除
条項(前記第2の1の(2)参照)により違約金残金として234万円を支払うべき義務がある。
(2)権利濫用の主張について
    そこで,原告の権利濫用の主張について検討するに,確かに前記2の(1)でも触れたとおり,被告には原告に不
審を抱かせるような行為が一部あったことは否定しがたいものの,違約金残金の請求が権利濫用として許されないほ
どの行為があったものとまでは認められず,原告の主張はこれを認めれることができない。
(3)以上によれば,違約金残金238万円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である平成13年11月6
日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める被告の反訴請求は理由がある。
 4 まとめ
   よって,原告の本訴請求はこれを棄却し,被告の反訴請求はこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
     神戸地方裁判所第4民事部
           裁 判 官     上  田  昭  典      

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