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平成14年(ワ)第6884号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成15年4月24日
             判      決
原      告  ダイワ企業株式会社
      訴訟代理人弁護士    飯  塚     孝
同荒  木  理  江
補佐人弁理士若  林     擴
被      告 トータス株式会社
訴訟代理人弁護士鈴  木     修
      同                木  村  耕太郎
      補佐人弁理士           中  田  和  博
      同                土  生  真  之
         主      文
      1原告の請求をいずれも棄却する。
      2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1被告は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を販売し
てはならない。
 2 被告は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を廃棄せ
よ。
第2 事案の概要
本件は,原告が,別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を
付した履物を輸入販売している被告に対し,被告の上記行為は原告の有する商標権
を侵害するとして,同行為の差止め等を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本
件商標」という。)を有する(甲1,6)。
  登録番号       2256236号
  出願年月日      昭和62年12月28日
  登録年月日      平成2年8月30日
  商品の区分      旧第22類
  指定商品       はき物(運動用特殊ぐつを除く),かさ,つえ,
これらの部品及び附属品
  登録商標       別紙本件商標目録記載のとおり
 なお,原告は,本件商標権の他にも,本件商標と類似の商標について複数
の商標権を有する。
  (2) アバディン,エッセ.エル(以下「アバディン社」という。)はスペイン
の法人であり,スポーツ衣料品等の製造,販売を業としている。アバディン社は,
スペインを初めとして世界各国で,「KELME」からなる文字商標,又は「KE
LME」の文字及び動物の足跡の図形からなる商標(以下「KELME商標」と総
称することがある。)を付した商品(以下「KELME商品」と総称することがあ
る。)を販売している。アバディン社は,日本において,KELME商標につい
て,複数の商標権を有する。
(3) 原告は,以前,アバディン社グループのフルーク・エッセ・エル(以下
「フルーク社」という。)及びケレメ・エクスポルタシオン・エッセ・エル(以下
「ケレメ・エクスポルタシオン社」という。)から,KELME商品を輸入し,販
売していた(甲22,乙9)。
(4)本件商標は昭和62年に株式会社タイセイ(以下「タイセイ」という。)
によって出願され,平成2年に登録された。原告は,ケレメ・エクスポルタシオン
社から輸入したKELME商品を販売するのに利用するため,平成5年2月25日
にタイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受けた。その後,原告は,
平成8年5月8日にはタイセイから本件商標権を譲り受け,同年10月21日,そ
の登録をした(甲1,6)。
(5) 被告は,アバディン社の正規輸入代理店であり,別紙物件目録記載の各商
品(いずれもシューズである。以下「被告商品」と総称する。)を,アバディン社
から輸入し,販売しているが,被告商品には,本件商標と同一ないし類似した被告
標章が付されている(乙7,8,10)。
2争点
(1)本件商標権の指定商品と被告商品との類否
  (2)原告の本訴請求は権利濫用として許されないか。
  (3) 被告標章の使用は,商標権に基づく使用として許されるか。
 3争点に対する当事者の主張
(1) 本件商標権の指定商品と被告商品との類否(争点(1))について
  (原告の主張)
ア 履物と運動用特殊靴との区別について
     特許庁商標課による商品区分解説によれば,「履物」とは,「主として
日常歩行の際に使用される履物が含まれ,専らスポーツをする際に限って使用され
る運動用特殊靴は属しない」とされている。
     また,東京高等裁判所は,「スケートボード用靴で通常の運動靴と変わ
りのない商品は,『履物(運動用特殊靴を除く)』中の『運動靴』に該当する」と
判示している。
そうすると,「履物」とは,専らスポーツをする際に限って使用される
ものは除外されるが,通常の運動靴として市中で使用するものは含まれるというべ
きである。
   イ 被告商品は,サッカー用靴とは異なり,底にスパイクが打たれていない
こと,サッカー靴用専門店ばかりでなく,一般のスポーツ用品店及び婦人靴を扱う
履物店においても販売されていること,フットサルシューズはタウンシューズとし
て爆発的な人気があることから,被告商品は通常の運動靴として市中で使用できる
履物に当たると解すべきである。
     したがって,被告商品は「運動用特殊靴」ではなく,本件商標権の指定
商品の一つである「履物」に当たる。
  (被告の主張)
被告商品は,運動用特殊靴に該当するのみならず,本件商標の指定商品の
「履物(運動用特殊ぐつを除く)」と類似する商品ではない。理由は以下のとおり
である。
   ア 被告商品は,フットサル用シューズであり,以下のとおり,通常の運動
靴とは異なる特徴を備えている。
    (ア) ボールを蹴っても足が痛くならないようにつま先からアッパー部に
かけて別の布地を上から貼り付けて補強している。
    (イ) 上記の補強部は,ボールを保持しやすいように摩擦係数の大きい合
成起毛生地(マイクロスウェード)が使用されている。
    (ウ) ボールを蹴りやすいように,靴紐部の並びが外側に向かって湾曲し
ている。
    (エ) ストップ,ダッシュ,ターンの連続の激しい動きをしても足がぶれ
ず,かつ靴の耐久性を高めるために,靴底の側面上部にステッチが施されている。
    (オ) 室内の競技場の床に対して高いグリップ性を発揮するために,比較
的軟質のゴム製の素材を使用し,かつ波形のカットをいれることにより特に前後方
向のぶれを防いでいる。
 原告は,被告商品にはスパイクがないから運動用特殊靴ではない旨主張
する。しかし,フットサルは基本的には室内競技であるから,スパイクがないのは
当然であり,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,「履物」とは,専らスポーツをする際に限って使用されるもの
は除外されるが,通常の運動靴として市中で使用するものを含まれると主張する。
しかし,原告がその主張の根拠とする上記東京高裁判決は,スケートボ
ード用靴には,競技用の特殊なもののほか,単にスケートボードのような機敏な動
きにも適することをアピールするために「スケートボード用靴」と称され,通常の
運動靴として市中で使用してよいものの2種類があると認定した上で,後者につい
ては「はき物(運動用特殊靴を除く)」中の「運動靴」に該当すると認定したので
あって,「通常の運動靴として市中で使用してもよいかにより判断すべきである」
と判示したのではない。したがって,原告のこの点の主張は理由がない。
ウ特許庁の審査基準においては,「靴類」と「運動用特殊靴」とは互いに
非類似とされており,かつ,「運動用特殊靴」には「サッカー靴」が含まれるとさ
れているから,特許庁は,「靴類」と「サッカー靴」とを互いに非類似のものとし
て扱っている。そして,実際の登録例を見ると,「サッカー靴」は,「屋内サッカ
ー靴」と「屋外サッカー靴」とに分類され,いずれも「運動用特殊靴」の一種とし
て登録されている。
 被告商品は,屋内サッカー靴に該当する。被告商品は,サッカー用品専
門店,又はサッカー専門コーナーを有するスポーツ用品店等でしか販売されていな
い。被告商品のうちの「サルサ インドア」は,プロが使用するモデルである。こ
のような点に鑑みると,被告商品は,本件商標権の指定商品の「履物」と非類似で
ある。
(2) 原告の本訴請求は権利濫用として許されないか(争点(2))について
(被告の主張)
アアバディン社と原告とのKELME商品に関する取引について
     原告は,平成6年3月から平成7年11月にかけて,アバディン社グル
ープのフルーク社及びケレメ・エクスポルタシオン社から,KELME商品を輸入
し,販売していた(なお,フルーク社はアバディン社グループの製造部門を会社組
織としたものであり,ケレメ・エクスポルタシオン社はアバディン社グループの輸
出担当部門を会社組織としたものである。)。
 平成7年,アバディン社は,中国においてKELME商品の偽造品が製
造されているのを発見し,これを調査したところ,原告が製造させていることが判
明したので,同年末ころ,アバディン社のグループ企業の従業員であったA氏が大
阪において,原告の経営陣らと直接に会って抗議し,中国での偽造品の製造を中止
するよう申し入れた。原告がこれを受け入れないので,アバディン社は原告との取
引を中止した。なお,A氏と原告との上記会談の際,原告は,アバディン社に対
し,本件商標権をタイセイから譲り受けることの許可を求めたが,アバディン社
は,この申し出を拒絶した。
イ アバディン社のKELME商標の周知著名性
アバディン社は,高級スポーツ衣料品等の生産,販売を業としている
が,スペイン及びロシアに生産施設を有し,フランス,ドイツ,イタリア,ブラジ
ル,米国等に支社を有し,世界中に1万店を超える販売店を有している。
また,アバディン社は,1970年代から,KELME商標について,
サッカー(フットサルを含む。),自転車,テニスを初めとする多くのプロスポー
ツ選手やプロスポーツチームのスポンサーをしている。例えば,アバディン社は,
1974年には,700人の子供によって構成されるサッカーチーム「ケレメ・シ
ー・エフ」を設立し,1987年には,100人以上の選手によるプロの体操チー
ムを設立し,1988年には,テニス選手のコンチータ・マルチネスや,サッカー
選手のスビサレタのスポンサーをし,1989年には,116人の子供と30人の
大人によって構成されるテニスチーム「ケレメ・テニス・クラブ」を設立し,19
90年には,陸上選手のサイド・アウィータのスポンサーやスペインのサッカーチ
ームのレアル・オビエド・シー・エフのスポンサーをし(3シーズン),1993
年には,マヨルカ・シー・エフチームのスポンサーをし(5シーズン),1996
年には,イタリアのサッカーチームのスポンサーをし,バスケットボールチーム
「ホベントゥ・デ・バダロナ」と4年間の技術援助契約を締結した。1992年の
バルセロナオリンピックにおいて,アバディン社は,スペインの参加するすべての
競技において,スペイン代表チームの公式スポンサーとなり,競技用を含む被服8
万5000点,履物8000点,アクセサリー8000点を提供した。また,アバ
ディン社は,1994/95年シーズンから1997/98年シーズンにかけての
5年間,レアル・マドリードの公式テクニカル・サプライヤーとして,KELME
商標を付したユニフォームやシューズ等を同チームに提供するとともに,同期間,
「レアル・マドリード」をモデルとしてKELME商標を付したユニフォームやシ
ューズ等を,世界各国で大量に販売した。また,アバディン社は,1979年にサ
イクリングチーム「コスタ・ブランカ」を設立し,KELME商標を付したユニフ
ォームやシューズ等を同チームに提供しているが,同チームは現在に至るまで,世
界3大大会に継続的に出場し,何回も優勝している。
このように,KELME商標は,アバディン社の出所を表示する商標と
して,少なくともスペインを始めとする諸外国で周知著名となっている。
ウ アバディン社によるKELME商標の商標登録
 KELME商標のうちの一つ(登録第368695号)は,1960年
(昭和35年)7月26日に出願され,1961年(昭和36年)12月18日に
登録されたが,その後,平成5年10月29日,アバディン社へ譲渡された。
なお,アバディン社は,KELME商標のうちのいくつかを,B氏,C
氏,キナ・エルチェ社から譲り受けているが,B氏及びC氏は,アバディン社の創
立者であり(C氏はアバディン社の代表者である。),キナ・エルチェ社は,アバ
ディン社のグループ企業のうちの1社であった(約20年前に解散した。)。
エ 権利濫用
 上記の各事実からすれば,タイセイの本件商標出願は,アバディン社に
帰属する著名なKELME商標の顧客誘引力にただ乗りし,又はアバディン社の日
本における事業活動を妨害しようとする「不正の目的」によるものであることは明
らかであるから,本件商標は商標法4条1項19号所定の無効理由を有する。
また,仮に,本件商標が商標法4条1項19号の要件を充たさないとし
ても,上記の事実からすれば,アバディン社の正規輸入代理店である被告のKEL
ME商標の使用に対して,原告が本件商標権に基づき権利行使をすることは,権利
の濫用となり許されないというべきである。
  (原告の反論)
ア 原告が本件商標権を取得するに至った経緯
(ア) 原告は,平成5年2月から,アバディン社グループのフルーク社及
びケレメ・エクスポルタシオン社や,アバディン社の正規輸入代理店である韓国の
学山トレーディング社から,KELME商品を輸入し,販売していた(なお,原告
は,当時は,スペインにおけるKELME商標の商標権者はKELME社であると
認識していた。)。
原告がKELME商品の輸入販売を開始するに当たりKELME商標
についての登録状況を調べたところ,本件商標がタイセイによって登録されている
ことが分かったため,タイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受け
た。
(イ)その後,原告は,コスト等の問題から,KELME商品の輸入を止
めた。
      なお,平成7年,原告はA氏と大阪で会談し,A氏から中国での偽造
品の製造を中止するよう要請されたが,原告は,本件商標権の専用使用権に基づく
正当な権利行使として,中国においてKELME商品の製造を発注していたことか
ら,A氏の上記要請を拒絶した。原告がアバディン社に対して,タイセイから本件
商標権を譲り受けることの許可を求めたことはない。
    (ウ) その後,タイセイは資金難に陥り,本件商標権を譲渡して資金調達
を図ろうとし,原告は,タイセイに協力することとし,平成8年に,タイセイから
本件商標権を譲り受けた。
(エ) 原告が不正の目的をもって本件商標権を譲り受けたということはな
い。
イ アバディン社のKELME商標の周知著名性等
(ア)アバディン社がバルセロナオリンピックにおけるスペインチーム,
レアル・マドリード,サイクリングチームのスポンサーとなったのは,タイセイが
本件商標登録出願をした昭和62年以降のことである。
タイセイが本件商標を出願した昭和62年当時,KELME商標が周
知著名であったということはできない。
(イ) スペインの商標検索システムであるKISSコンピュータサーチデ
ータの調査結果によれば,アバディン社がKELME商標の商標権者として登場す
るのは平成3年以降である。これに対して,上記のように,タイセイが本件商標権
を取得したのは平成2年である。
ウ 権利濫用について
 以上の事実に照らすならば,原告が被告に対して本件商標権に基づく権
利行使をすることは権利の濫用とはならない。
  (3) 被告の被告標章の使用は,商標権に基づく使用として許されるか(争
点(3))について
  (被告の主張)
アバディン社は,第25類「運動特殊衣服,運動用特殊靴,被服」につい
て,「KELME」と「ケレメ」とを上下2段に書してなる登録商標(登録第43
82132号)を有しているから,アバディン社は,商標の専用権の効力として,
他人の登録商標のいかんにかかわらず運動用特殊靴にKELME商標を付して使用
する権利を有している。
そして,被告は,アバディン社から,KELME商品を購入しているので
あるから,原告は,被告の被告標章の使用に対して本件商標権に基づく権利行使を
行うことはできない。
(原告の認否)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 原告の本訴請求は権利濫用として許されないか(争点(2))について
  (1) 事実認定
前記争いのない事実等,証拠(甲1,6,14,15,17,22,乙
1,2,4,7ないし30,32ないし42)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
   アアバディン社のKELME商標の周知性等
アバディン社はスペインの法人であり,スポーツ衣料品等の製造,販売
を業としているが,アバディン社の前身であるアバディン,エッセ.アー(以下,
同社も「アバディン社」という。)は,1960年代から,そのグループ企業や,
関係のある個人の名義で,「KELME」の文字や「KELME」の文字と動物の
足跡の図形から構成される商標を,「履物一般及びその附属品」等を指定商品とし
て多数出願(スペイン出願及び国際商標出願)し,それらの登録を受けてきた。ま
た,アバディン社は,平成3年1月16日,日本において,「KELME」の文字
及び動物の足跡の図形から構成される商標を,指定商品を旧第17類「被服(運動
用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を
除く)」及び旧第24類「おもちゃ,人形,娯楽用具,運動具,釣り具,楽器,演
奏補助品,蓄音機(電気蓄音機を除く),レコード,これらの部品及び附属品」と
して,それぞれ登録出願し,それぞれ,平成6年5月31日及び平成11年9月1
7日に登録を受け,平成7年7月24日には,「KELME」の文字と「ケレメ」
の文字を上下2段とした商標を,指定商品を第25類「運動用特殊衣服,運動用特
殊靴,被服」として登録出願し,平成12年5月12日,その登録を受けた。
アバディン社グループは,1977年(昭和52年)に,スペインにお
いて,KELME商品の製造,販売を開始し,現在は,ベネルクス三国,ブラジ
ル,フランス,ドイツ,イタリア,パナマ,ロシア及び米国などの国々に支社を有
し,オーストラリア,チリ,デンマーク,フィンランド,ギリシャ,ハンガリー,
日本,ヨルダン,マルタ,ポーランド,ポルトガル,スロヴェニア及びスウェーデ
ンに代理店を置き,世界中で1万店を超える販売店を有している。アバディン社グ
ループは,KELME商品の販売開始以降,KELME商標を周知させ,その顧客
吸引力を高めるために,各種のスポンサー契約を締結したり,広告をしたりするな
どの努力をしてきた。例えば,アバディン社グループは,昭和62年には,サッカ
ー選手のミチェル及びバスケットボール選手のヴィジャカンパと広告及びイメージ
契約を締結し,昭和63年には,テニス選手のコンチータ・マルチネスのスポンサ
ーをし,平成2年には,陸上選手のサイド・アウィータのスポンサーをし,平成4
年には,バルセロナオリンピックにおけるスペインチームのスポンサーをした。ま
た,アバディン社グループは,平成6年には,スペインのサッカーチームであるレ
アル・マドリードと5年間,5シーズンの技術援助契約を締結し,レアル・マドリ
ードに所属する多数の選手にKELME商品を着用させた写真を多数登載したカタ
ログを作成,頒布した。また,アバディン社グループは,サッカーチーム,自転車
チーム,テニスチームを設立している。
イ 原告とアバディン社間のKELME商品に関する取引の経緯
原告は,靴の製造,販売を業とする株式会社であり,昭和58年に設立
された。原告は,平成6年3月から平成7年11月まで,アバディン社グループの
製造部門を会社組織としたフルーク社及びアバディン社グループの輸出担当部門を
会社組織としたケレメ・エクスポルタシオン社から,KELME商品を合計14万
ドル以上輸入し,これを日本で販売していた。原告は,KELME商品を輸入,販
売するに際し,KELME商標の登録状況について調査したところ,本件商標が既
に登録されていることが分かったため,平成5年2月25日,本件商標の商標権者
であるタイセイから,本件商標についての専用使用権の設定を受けた。
     アバディン社は,平成7年,原告が,中国のアモイの工場に,アバディ
ン社の許諾なく,KELME商品の製造を発注していたことを発見したため,原告
に対し,この件について抗議をし,中国におけるKELME商品の製造を中止する
よう要請したが,原告は,本件商標の専用使用権を有すると反論し,これを拒絶し
た。そこで,アバディン社は,原告へのKELME商品の供給を止めることとし,
平成7年12月以降,アバディン社グループと原告との間の取引はなくなった。
   ウ 原告のKELME商標に係る商標権の取得の経緯
原告は,平成8年5月8日,タイセイから本件商標権を譲り受け,同年
10月21日,その登録を受けた。また,原告は,平成6年8月11日,日本にお
いて,「KELME」の文字のみから構成される商標及び「KELME」の文字及
び動物の足跡の図形から構成される商標を,いずれも指定商品を旧第18類「かば
ん類,袋物」として登録出願し,それぞれ,平成9年1月31日に登録を受けた。
また,原告は,平成3年10月30日,「KELME」の文字を上段,「ケルム」
の文字を下段とした商標について,指定商品を「おもちゃ,人形,娯楽用具,運動
具,釣り具,楽器,演奏補助品,蓄音機(電気蓄音機を除く。)レコード,これら
の部品及び附属品」として登録出願したが,平成11年11月19日,拒絶査定を
受けた。
なお,原告は,インターネット上にホームページを開設しており,同ホ
ームページ上には,KELME商標について,「スペインのブランド。サッカーの
ユニフォームでも有名。」と記載されている。
   エ 被告によるKELME商品の輸入,販売
被告は,KELME商品についての日本におけるアバディン社グループ
の唯一の正規販売代理店であるが,平成8年5月から,アバディン社のグループ企
業であるインドゥストリアス・デル・カルサード・イ・プレンダス・デポルティー
ヴァス・エッセ・アーから,被告商品を含むKELME商品を輸入している。
(2)権利濫用の有無についての判断
    上記認定した事実に基づき,権利濫用の有無について判断する。
 アバディン社グループは,1960年代にKELME商標の出願をし,1
977年(昭和52年)から,KELME商品を製造,販売しており,その後,平
成4年にはバルセロナオリンピックにおいてスペインチームのスポンサーをした
り,平成6年にはスペインのサッカーチームであるレアル・マドリードと技術援助
契約を締結するなど,KELME商標のブランド価値を高めるための様々な宣伝広
告活動をしていること等の事実に照らすならば,KELME商標は,遅くとも,平
成8年までには,少なくともスペインにおいて周知商標となっていたものと推認で
きる。
 そして,上記の事実,及び①原告は,平成6年3月以降,スペインのアバ
ディン社グループからKELME商品を輸入し,これを日本において販売していた
が,アバディン社グループから平成7年12月以降の取引を拒絶されたため,以後
アバディン社グループからKELME商品の輸入ができなくなったこと,②原告
は,KELME商品を輸入するに当たり,タイセイから,同社が既に取得した本件
商標権についての専用使用権の設定を受け,その後,平成8年5月8日に,タイセ
イから本件商標権を譲り受けて,同年10月21日,その登録をしたこと,③原告
は,自らが開設したホームページ上で,KELME商標について,「スペインのブ
ランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載し,あたかも,原告の扱って
いる商品がアバディン社グループのKELME商品と関連があるかのような説明を
していること,④原告は,KELME商品の輸入,販売をしていた平成6年8月1
1日,「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標についても
登録出願をし,平成9年1月31日にその登録を受けたこと等の事実を総合すれ
ば,原告は,自らも平成6年から7年にかけて輸入・販売し,また,世界各国に輸
出・販売されている,スペインの周知商標(KELME商標)の付されたKELM
E商品について,わが国への輸入を阻止し,KELME商標に類似した商標を付し
た商品を独占的に販売するという不当な目的のために,既にタイセイにより設定登
録されていた本件商標権を同社から譲り受けたものと認めるのが相当である。他
方,被告は,アバディン社グループの日本における正規販売代理店であり,被告商
品は,被告がアバディン社グループから輸入したKELME商品である。
 以上に判示したところを総合考慮すれば,原告が本件商標権に基づき,被
告に対し,被告商品の販売の差止め及び被告商品の廃棄を求めることは,正当な権
利の行使とはいえず,公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用に当たるとい
うべきである。
2したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理
由がないから,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官 飯  村  敏  明
           裁判官 榎  戸  道  也
           裁判官 佐  野     信
(別紙)
標章目録物件目録本件商標目録

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛