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裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一、当事者双方の求めた裁判
(原告)
一、被告が、昭和三九年三月二八日、原告に対してなした六ケ月間俸給月額の一〇
分の一を減ずる旨の懲戒処分を取り消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
(被告)
主文第一、二項と同旨の判決。
第二、当事者双方の事実上、法律上の陳述
(原告の請求原因)
一、原告は、昭和二九年七月郵政省職員となり、昭和三三年三月から昭和三四年五
月まで東京空港郵便局(以下「空港局」ともいう。)の運行課で、その後は同局の
通常郵便課で勤務している郵政事務官であつて、昭和三五年五月から一年間同局職
員で構成する全逓信労働組合東京空港郵便局支部(以下「組合支部」ともいう。)
の執行委員、昭和三七年六月から昭和三八年一一月まで同支部職場委員兼職場委員
会議長の地位にあつたものである。
二、被告は、昭和三九年三月二八日原告に対し、左記(1)ないし(4)の処分理
由にもとづき請求の趣旨記載の懲戒処分(以下「本件処分」ともいう。)を行つ
た。
「(1) 昭和三八年八月一日関係
イ 同日午後四時五五分頃、空港局職員Aなど空港支部役員および原告ならびに同
局通常郵便課職員計一七名が、同局通常郵便課計画主事席わきにきて、執務中の同
課主事Bに対し、上記Aなど支部役員が口々に「なぜメモをとつたのか。」と抗議
し、Aは膝でB主事の膝を押し、また肘で同主事の肩を小突いた。
ロ 同日午後五時頃、Aは、同局通常郵便課長席のわきに行き、通常郵便課長Cに
対しメモをとることについて同主事へ命令を行なつたかどうかを確かめ、同課長が
これを肯定したところ、数名の職員は口々に大声をあげて抗議し、また数名の職員
は「メモをよこせ。」などとの趣旨の発言をしたのに続いて、一名の職員が「読み
あげろ。」と発言したところ、原告は、同主事席の机上に置いてあつた同主事のメ
モを手にとつて読みあげ、午後五時四五分ごろ、同主事が席をたつたところ、原告
は「今日に限つてなぜ早く帰るのか。」といいながら同主事の胸ぐらをつかんで押
えつけていすに腰かけさせ、さらにAは同主事に対し「官側の犬だ。」といつて同
主事の顔面に二回唾をかけ、午後五時五五分ごろ解散した。
ハ この間、原告を含む上記の職員は午後四時五五分ごろから同五時一五分ごろま
での約二〇分間勤務を欠いた。
(2) 同年一一月一五日関係
 原告は許可なくして左記勤務時間を欠いた。
イ 同日午前一〇時五分頃より同時二〇分頃まで約一五分
ロ 同時四五分頃から午後〇時三〇分までの間所定の一五分間の休息時間を除いた
約一時間三〇分
(3) 同年一二月三日関係
 原告は、同日午後四時四七分頃から五時一五分までの間許可なくして勤務を欠い
た。
(4) 昭和三七年一一月一二日関係
 原告および前記Aほか空港局職員三名は、同日午前九時五〇分頃から五五分頃ま
での間、同局通常郵便課事務室において、B主事を殴打するなどして全治約一ケ月
の傷害を与えた。」
三、しかしながら、右処分理由該当の事実はなく、本件処分は違法であるから取消
しを求めるものである。
(被告の答弁および主張)
一、請求原因第一項の事実は認める。
 同第二項の事実中処分理由(4)を除きその余を認める。処分理由(4)は、本
件処分の理由としたものではなく、処分の量定上斟酌したものに過ぎない。
 同第三項の主張は争う。
二、被告は、次のとおり処分理由(1)ないし(3)の原告の所為が国家公務員法
に違反するため本件処分を行つたものであつて、本件処分は適法、妥当なものであ
る。
(一) 処分の対象となつた原告の所為
処分理由(1)イ、ロ
 昭和三八年八月一日午後四時五五分頃、原告および空港局職員A(同局通常郵便
課勤務、組合支部副支部長)、同D(同局運行課勤務、同支部支部長)、同E(同
局通常郵便課勤務、同支部書記長)、同F(同局運行課勤務、同支部執行委員)、
同G(同局通常郵便課勤務、同支部執行委員)、同H(同局小包郵便課勤務、同支
部執行委員)ならびに同局通常郵便課職員等合計約一七名が、同局通常郵便課計画
主事席の脇に来て、勤務中の通常郵便課主事B(以下「B主事」という。)に対
し、AおよびEが口々に「なぜメモをとつたのか。」と抗議し、Aは、膝で同主事
の右膝を押し、また肘で肩を小突いた。
 午後五時頃、Aは、同局通常郵便課長席に行き、通常郵便課長C(以下「C課
長」という。)に対して「課長が命令してメモをとらせたのか、それともB個人が
行なつたのか。」と言つたので、C課長が「命じたのは私の責任であり、B君は、
その命令に従つただけだ。」と答えたところ、前記約一七名の職員のうち数名の職
員は口々に「このようなメモを主事がとつてよいというのか、勤務評定をするのは
重大なことだ。」「口に人の和を唱え、背後から人を監視する。それで和が得られ
るか。」などと大声をあげ、また、数名の職員が口々に「メモをよこせ。」と発言
したのに続いて、一名の職員が「読みあげろ。」といつたところ、原告は、前記計
画主事席の机上に置いてあつたB主事のメモを手にとつて読みあげた。
 午後五時四五分頃B主事が「用事があるから帰る。」と言つて席を立つたとこ
ろ、原告が「いつもは時間すぎまでいるのに、今日に限つてなぜ早く帰るのか。」
と言いながらB主事の胸倉をつかんで押さえつけて椅子に腰かけさせ、さらに、A
はB主事に対し「官側の犬だ。」といつて、同主事の顔面に二回唾をかけ、午後五
時五五分頃解散した。
 これらの集団による暴言および暴力行為は、原告ら組合支部の幹部間においてあ
らかじめ相互に意思を通じて行われたものであり、仮令事前に具体的な謀議がなか
つたとしても、他の抗議者が暴力行為に及んでいることを認識しながら、再度右行
為が反覆実行される可能性の大きい状況のもとで集団抗議を継続したのであるか
ら、原告は右集団抗議中の組合員の行為全体について責任を負うべきものであつ
て、右集団による抗議および暴行の各所為は、国公法九九条に違反し、同法八二条
に該当する。
処分理由(1)ハ
 右集団抗議の間、原告は午後四時五五分頃から五時一五分までの約二〇分間勤務
を欠いた。右所為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反し、同法八二条に該
当する。
処分理由(2)イ
 同年一一月一五日午前一〇時五分頃、原告は空港局玄関の掲示板に掲出されてあ
つた全逓信労働組合からの脱退者の声明書の内容を書きとつていたので、同局庶務
会計課長Iが、勤務時間中であるから仕事に就くよう口頭で命令したところ、原告
は、課長に断つてある旨虚偽の申立をし、更に午前一〇時一五分頃、同局局長Jが
「勤務時間中だろう。」と質問したのに対し、原告は「課長に休暇を話してありま
す。」と虚偽の申立をし、声明書の内容を書き続け、午前一〇時二〇分頃同所を立
ち去るまで約一五分間勤務を欠いた。
 右就業命令違反行為および欠務行為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反
し、同法八二条に該当する。
処分理由(2)ロ
 同日午前一〇時二五分頃、同局通常郵便課事務室において、前記GがC課長に対
して、原告および右同人、A、Eの四名分の組合休暇付与願書を一括して提出した
ので、C課長が承認できない旨申し渡したところ、Gは付与願書をその場に置いて
立ち去つた。そこで、C課長は、同日午前一〇時四五分頃、組合支部事務室におい
て、原告およびA、E、Gに対して組合休暇は認められない旨申し渡して、さきに
Gから提出された組合休暇付与願書を手交したところ、Aは、これをとりまとめて
返戻しようとしたが、同課長は受けとらなかつた。かくの如くして、原告は午前一
一時から午後〇時三〇分までの一時間三〇分勤務を欠いた。
 右欠務行為および就業命令違反行為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反
し、同法八二条に該当する。
処分理由(3)
 原告は、同年一二月三日午後四時四七分頃から五時一五分までの間、上司に無断
で離席し、約二八分間勤務を欠いた。
右所為は、国公法九八条一項、一〇一条一項に違反し、同法八二条に該当する。
(二) 処分量定の事由
 国家公務員は国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、職務の遂行に
あたつては、全力を挙げてこれに専念しなければならないものである。しかるとこ
ろ、原告は、昭和三七年一一月一二日午前九時四〇分頃、通常郵便課事務室特殊係
作業室付近において、B主事に対し、「区分作業室ができないのは何事か。そんな
ことでは仕事なんかできるか。すぐ事務室を拡げろ。」などと侮辱的言辞を弄し、
これに立腹したB主事が原告の胸を手で突いたところ、原告は郵便用竹籠につまづ
いて尻餅をつき、立ち上るなりB主事のネクタイを掴んだので、同課のK課長代理
ら特殊係職員数名が止めたのであるが、原告はB主事の両足内腿を蹴る行為にで
た。その後B主事が前記Eの要求により午前九時五〇分頃特殊係作業室に赴いたと
ころ、原告および前記D、E、FおよびL(運行課勤務)らが口々に「先に手を出
したのだから謝まれ。」といい、九時五五分頃までの間こもごもB主事の顔面等を
殴打あるいは蹴るなどし、同主事が謝つたところ、誰れかが「土下座して謝れ。」
といつたので同主事は床に坐つて「自分から先に手を出したことは悪かつたので謝
る。」といつたが、前記の者らは再び口々に「謝つて済むことか。」といいなが
ら、同主事の顔面あるいは体を殴打し、Aの如きは、同主事の左眼のふちを殴打
し、治療約一ケ月を要する傷害を与えた。
 被告は、処分理由(1)ないし(3)の原告の違法行為、原告が組合支部職場委
員兼職場委員会議長の地位にあることなど諸般の事由を勘案考慮し、なお前記B主
事に対する暴行事件をも斟酌して原告を本件処分に付したものである。
(被告の主張に対する原告の答弁および主張)
一、(一)(1) 処分理由(1)イ、ロの主張中、被告主張の職員ら約一七名
が、昭和三八年八月一日午後四時五五分頃、空港局通常郵便課計画主事席の脇に来
てB主事に対し、また同日午後五時頃同局通常郵便課長席に行きC課長に対し、そ
れぞれB主事のメモ行動に関して抗議したことは認めるが、その余の事実はすべて
争う。
(2) B主事が、職員の背後から勤務状況を監視、査定し、しかもメモの内容が
上司のC課長から命ぜられた以外のことに亘る越権的なものであつたことに対し組
合員がその権利を擁護するため抗議するのは当然のことであり、現にC課長は、右
抗議の結果組合員に対し、翌日行過ぎの点を謝罪する旨約束して非を認めているの
である。原告は、B主事がC課長の目くばせによつて差し出したメモを読み上げ、
同主事が抗議の最中に何の理由もなく帰りかけたので、交渉終結まで同席するよう
説得するためこれを押しとどめようとしたに過ぎない。また、仮に右抗議中AがB
主事に暴行を加えたとしても、右は例外的、突発的な出来事であつて、原告に対す
る懲戒事由にはなり得ないものである。
(二)(1) 処分理由(1)ハの主張中、原告が被告主張の時間交渉に加つてい
た事実は認めるが、その余は争う。
(2) 昭和三八年当時、空港局の日勤者は、許された慣行として午後四時三〇分
業務終了、午後四時五〇分退局となつていたものであり、したがつて、日勤者につ
いて午後四時三〇分以後の欠務を問題とする余地はないのである。処分理由(1)
ハの午後四時五五分には日勤者の業務はすべて終了し、バス利用者はバスに乗車
し、それ以外の者は既に退局していたのであるから、当局側の不当について交渉の
ため残留した原告のみが欠務扱いをされる理由はない。
(三)(1) 処分理由(2)イ、ロの主張中、原告が昭和三八年一一月一五日に
被告主張の時間勤務をしなかつた事実は認めるが、その余は争う。
(2) 原告は、同日早朝組合支部から大量の脱退者が出たので、この非常事態に
対処する必要上、上司である空港局通常郵便課課長代理M(以下「M課長代理」と
いう。)に対し、組合休暇を請求すると同時に予備的に年次有給休暇をも請求し
た。当時の通常郵便課においては、M課長代理が職員の休暇請求を処理しており、
請求の方法は口頭で当日行つても差支えないものとされていた。そして、M課長代
理は右組合休暇ないし年次有給休暇の請求を承認したものである。
(3) 仮にM課長代理が右請求に対し拒否もしくは不承認の意思を表示したとし
ても、その不承認は次の理由により無効である。
 郵政省では、勤務時間中の組合活動については、①団体交渉手続および②苦情処
理手続ならびに組合休暇により③組合の大会、会議等へ出席し、④その他組合の業
務を行う場合に認められており、(就業規則二七条、二八条)、空港局における組
合休暇の許可基準によれば、支部機関招集の会議も右③、④に該当するものとされ
ている。したがつて、職場委員会議長の地位にある原告が、大量脱退という非常事
態に対処するための拡大執行委員会に組合休暇をとつて参加できることは当然であ
り、組合休暇請求の拒否は右許可基準に違反するものである。
 また、M課長代理は、原告の年次有給休暇請求に対し時季変更権を行使すること
なく、請求の理由が組合脱退対策という組合活動であることの故に承認しなかつた
もので違法である。
(四)(1) 処分理由(3)の主張中、原告が昭和三八年一二月三日午後四時五
〇分過ぎに退局した事実は認めるが、その余は争う。
(2) 昭和三八年当時の空港局における終業および退局時刻についての慣行は上
記のとおりであり、原告は、同年一二月三日も午後四時三〇分に仕事がすべて終了
し、午後四時五〇分になつたので終業と信じて退局したのであるが、その際原告は
局舎玄関でJ局長と顔を合わせたにもかかわらず、同局長は原告に対して何の注意
も与えなかつたのである。
(五) 処分量定の事由に関する被告の主張はすべて争う。
 B主事は、原告からその職場である通常郵便課特殊係作業室の拡張問題について
詰問されたところ、忽ち些細なことに激昂して原告を強烈に突き飛ばしたため、原
告としてはやむなく防衛行為に訴えざるを得なかつたのである。また、その直後B
主事の暴行事件を知つた若干の支部組合員がこれに憤慨してB主事に乱暴したこと
はあつたが、原告は、この後の暴行事件については全く無関係であつて、傍観して
いたものに過ぎない。したがつて、原告は、むしろB主事による暴行事件の被害者
にほかならず、これを本件処分についての不利益な情状として斟酌することは不当
である。
二、不当労働行為
 原告は、上記のとおり組合支部の役員として組合活動を活発に行つてきたもので
あるが、被告はかねて原告の正当な組合活動を嫌悪し、組合支部の組織破壊を意図
していた。被告は、そのため昭和三八年七月二二日労働組合役員の経歴をもち、そ
の組織および活動に明るいJを空港局長に任命し、利益誘導や恫喝など露骨、悪質
な手段により組合支部の運営に対する介入と分裂工作に当らせた結果、同年一一月
一五日組合支部から多数の脱退者を生じた。そして、昭和三九年二月二一日には同
局長の政策に協力した脱退後の新組合役員に対して昇進の発令をし、同年三月二八
日原告を含む旧役員に対して懲戒処分を発令したものである。しかも、上記のとお
り、原告の処分理由とされた事実および情状はいずれも懲戒事由としては関係がな
く、単なる口実に過ぎないものであつて、本件処分の決定的動機は、原告が正当な
組合活動をしたことにあるのであり、本件処分は公労法三条、労組法七条一号、三
号の不当労働行為に該当する。
三、懲戒権の濫用
 本件処分は、上記のとおり懲戒事由の事実上の前提を欠くのみならず、懲戒権の
行使に藉口して組合支部の組織攻撃のための個人的制裁をとげようとしたものであ
り、組合分裂に加担した者には本件各事実が不問とされたばかりか栄進の途がひら
かれ、逆に団結強化をはかる者には不利益取扱の口実とされるという社会観念上著
しく不公正な処遇を敢行した事案であつて、空港局の業務運行に実害を及ぼしたわ
けでもないなど諸般の情況に鑑みれば、本件処分は懲戒権の濫用である。
(原告の主張に対する被告の答弁および反論)
一、(一) 組合支部としては、B主事の勤務状況監視行為が不当であると考える
ならば、被告に対して正式な話合を申入れ、その機会に釈明を求める秩序立つた方
法があるのであつて、本件のような態容の集団抗議が許容されるものではない。ま
た、C課長はメモに関する被告側の非を認めたわけではなく、行過ぎの点について
はB主事とともに釈明する旨を述べたに過ぎない。
(二) 原告の勤務時間に関する慣行の主張はすべて争う。原告の勤務時間は、日
勤の場合は午前八時三〇分から午後五時一五分(午後〇時一五分から四五分間は休
憩時間)まで、半日勤の場合は午前八時三〇分から午後〇時三〇分(休憩時間な
し)までであつて、右の勤務時間中には常に処理すべき仕事がある。処分理由
(1)ハおよび(3)の場合は、いずれも未だ処理すべき業務が残存するにも拘ら
ず、これを放棄したものである。
(三)(1) 原告がM課長代理に組合休暇を請求すると同時に予備的に年次有給
休暇の請求をし、同課長代理が右請求を承認したとの原告主張はすべて争う。原告
は、当日同課長代理に対し、単に休暇をもらいたい旨の話をし、同課長代理が休暇
は許可にならないだろうと答えたところ、「組合の方から交渉してまとめて組休か
年休にしてもらう。」と述べたに過ぎず、休暇請求書を提出してその意思を明示し
たものではない。
(2) 組合休暇に関する就業規則の定めが原告主張のとおりであることは認める
が、空港局における組合休暇の許可基準に関する主張は争う。支部執行委員会等は
右許可基準に該当せず、原則として組合上部組織の議決機関の構成員として出席す
る場合に限定されている。
(四) 原告が昭和三八年一二月三日退局する際にJ局長と顔を合わせた事実はな
い。同局長は、局舎の階段北側の踊り場から原告が退局する現場を見たものであ
る。
二、(一) 現業の国家公務員に対して懲戒処分その他の不利益処分が行われた場
合に、その不服申立事由が当該処分自体の違法を理由とする場合と不当労働行為を
理由とする場合とでは救済手続が截然と区別されている。すなわち、前者の場合
は、まず人事院に対し不利益処分の審査請求をし、人事院の判定に不服があるとき
は不利益処分の取消しを求める抗告訴訟を提起することができ、後者の場合は、公
労委に対して救済の申立をし、公労委の命令に不服があるときは、公労委を被告と
してその命令の取消しを求める抗告訴訟を提起することができることになつてい
る。右の二つの救済制度は全く別個の自己完結的なものであり、不当労働行為につ
いては、法はその救済手続として原処分を対象とする取消訴訟を予定していないの
であるから、懲戒処分の取消しを求める本件訴訟において不当労働行為を処分の違
法事由として主張することは許されない。
(二) 原告の不当労働行為に関する主張中、原告が組合支部の役員として組合活
動を活発に行つてきたことは認めるが、その余はすべて否認する。
三、本件処分が懲戒権の濫用であるとの原告の主張はすべて争う。
第三、証拠関係(省略)
       理   由
一、原告が昭和二九年七月郵政省職員となり、昭和三三年三月から昭和三四年五月
まで東京空港郵便局の運行課で、その後は同局の通常郵便課で勤務している郵政事
務官であつて、昭和三五年五月から一年間同局職員で構成する全逓信労働組合東京
空港郵便局支部の執行委員、昭和三七年六月から昭和三八年一一月まで同支部職場
委員兼職場委員会議長の地位にあつたことは当事者間に争いがない。
二、被告が昭和三九年三月二八日原告に対し、次の(1)ないし(3)の処分理由
にもとづき、六ケ月間俸給月額の一〇分の一を減ずる旨の懲戒処分を行つたことは
当事者間に争いがない。
(1) 昭和三八年八月一日関係
イ 同日午後四時五五分頃、空港局職員Aなど空港支部役員および原告ならびに同
局通常郵便課職員計一七名が、同局通常郵便課計画主事席わきにきて、執務中の同
課主事Bに対し、上記Aなど支部役員が口々に「なぜメモをとつたのか。」と抗議
し、Aは膝でB主事の膝を押し、また肘で同主事の肩を小突いた。
ロ 同日午後五時頃、Aは、同局通常郵便課長席のわきに行き、通常郵便課長Cに
対しメモをとることについて同主事へ命令を行なつたかどうかを確かめ、同課長が
これを肯定したところ、数名の職員は口々に大声をあげて抗議し、また数名の職員
は「メモをよこせ。」などとの趣旨の発言をしたのに続いて、一名の職員が「読み
あげろ。」と発言したところ、原告は、同主事席の机上に置いてあつた同主事のメ
モを手にとつて読みあげ、午後五時四五分ごろ、同主事が席をたつたところ、原告
は「今日に限つてなぜ早く帰るのか。」といいながら同主事の胸ぐらをつかんで押
えつけていすに腰かけさせ、さらにAは同主事に対し「官側の犬だ。」といつて同
主事の顔面に二回唾をかけ、午後五時五五分ごろ解散した。
ハ この間、原告を含む上記の職員は午後四時五五分ごろから同五時一五分ごろま
での約二〇分間勤務を欠いた。
(2) 同年一一月一五日関係
 原告は許可なくして左記勤務時間を欠いた。
イ 同日午前一〇時五分頃より同時二〇分頃まで約一五分
ロ 同時四五分頃から午後〇時三〇分までの間所定の一五分間の休息時間を除いた
約一時間三〇分
(3) 同年一二月三日関係
 原告は、同日午後四時四七分頃から五時一五分までの間許可なくして勤務を欠い
た。
 原告は、本件処分の理由としては、右(1)ないし(3)のほか「(4)原告お
よびAほか空港局職員三名が昭和三七年一一月一二日午前九時五〇分頃から五五分
頃までの間、同局通常郵便課事務室において、B主事を殴打するなどして全治約一
ケ月の傷害を与えた。」との事実も含まれていると主張するけれども、成立に争い
のない乙第一号証および本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、右(4)の事実は、
本件処分の量定上斟酌された事情に過ぎないことが認められ、右認定を覆すべき証
拠は存在しない。
三、そこで、まず本件処分の対象となつた原告の所為について順次判断する。
(一) 処分理由(1)イ、ロについて
 昭和三八年八月一日午後四時五五分頃原告および空港局職員A(同局通常郵便課
勤務、組合支部副支部長)、同D(同局運行課勤務、同支部支部長)、同E(同局
通常郵便課勤務、同支部書記長)、同F(同局運行課勤務、同支部執行委員)、同
G(同局通常郵便課勤務、同支部執行委員)、同H(同局小包郵便課勤務、同支部
執行委員)ならびに同局通常郵便課職員ら合計約一七名が、同局通常郵便課計画主
事席の脇に来てB主事に対し、また同日午後五時頃同局通常郵便課長席に行きC課
長に対し、それぞれB主事のメモ行動に関して抗議したことは当事者間に争いがな
く、右事実に、成立に争いのない甲第二号証の二、同第五号証、同第七号証、同第
一〇号証(ただし後記信用しない記載部分を除く)、乙第二号証、証人Eの証言に
より成立を認める甲第二号証の一、証人J、同C、同Bの各証言を総合すると次の
事実が認められる。
(1) 空港局長Jは、昭和三八年七月二七日に着任直後、同局の業務の実態につ
いて調査した結果、職員の勤務状態(勤務時間、勤務態度など)が乱れており、そ
のため業務運行が停滞しているものと判断し、組合支部執行部に対し、同月二九日
には職員のレクリエーシヨンなど行事の場合における応援服務の協力方を要請し、
八月一日には勤務時間の厳守、勤務時間内組合活動の禁止などを申し入れるととも
に、他方七月三一日に主任以上の職制を集めて業務の正常化に努めるよう注意し、
更に全課長に対し、八月一日の職員の勤務状況について各課長が実態を把握して報
告するよう命じた。
(2) C課長は、右命令にもとづき同年八月一日午前八時三〇分頃部下のB主事
に対し、午後四時三〇分までに勤務をやめた者および勤務時間中無断で離席した者
がいるかどうかについてメモをとることを指示した。そこでB主事は、午前九時一
〇分頃から空港局一階の通常郵便課普通係作業室において同係職員の就業状況の調
査を開始し、午後一時から四時三〇分までの間は作業室内の真中にある記帳台で調
査結果を記録し、メモを作成した。
(3) 同係職員であるD、Nの両名は、B主事がメモをとつていることに気付
き、通常郵便課選出の職場委員である原告および組合支部役員らにこれを通報した
ところ、原告および上記組合支部役員ならびに通常郵便課の職員合計約一七名は、
事実を糾明するため同日午後四時五五分頃同局舎二階のB主事の席へ押しかけてそ
の周囲を取り囲み、A、Eが口々に「何故メモを取つたのか。」と抗議を繰り返
し、同主事が明確な回答をしないでいると、Aは同主事の椅子のすぐ傍に立つて膝
で同主事の膝を押したり、肘で肩を小突いたりした。
(4) そのうち、午後五時頃、C課長が課長席に戻つて来ると、Aは同課長に対
し、「課長が命令してメモをとらせたのか、それともB個人が行つたのか。」と追
及し、同課長が「命じたのは私で、B君は私の命令に従つただけだ。」と返答した
ところ、その場にいた職員らは、口々に同課長に対して「このようなメモを主事に
取らせてよいのか。勤務評定ということになれば重大なことだ。」「課長は口で人
の和を唱えながら裏で人を監視する。そんなことをして人の和が得られるか。」な
どと、B主事に対しては、「課長から命令されたからといつて組合員が組合員を売
るようなことをして平気でいられるのか。」「お前は日頃民主主義とか何とかいつ
ているが、実際は官の片棒をかついでいるのではないか。」「お前は悪いことをし
ているのだ。」などと大声で罵声を浴びせた。このような喧噪な状態が四〇分近く
続き、午後五時四〇分頃B主事の机上に置いてあつたメモ用紙を周囲の者が発見
し、「それはメモだろう。出せ。」といい出した。B主事はC課長から見せるよう
目で合図を受けたので、メモ用紙を差し出し、Aがそれを取り上げたところ、職員
の中から「読みあげろ。」という声があり、原告がメモの全文を読みあげた。その
メモの内容は、一、午後四時三〇分前に勤務をやめ退席したもの、二、勤務時間中
話し込みが多く手を休めたもの、三、午後四時より四時三〇分までの間空席のも
の、四、午後一時より引続き組合活動のため勤務に着かなかつたもの、五、特に真
面目に作業を行つたもの、の五項目に分けて該当する職員の氏名を記載したもので
あつた。
(5) その後職員らは、また同主事に対し同様の抗議を繰り返したが、午後五時
四五分頃、同主事が「用事があるから帰る。」といつて席を立ち二、三歩歩きかけ
たところ、原告が「いつもは時間過ぎまでいるのに、今日に限つて早く帰るのはお
かしいじやないか。」といいながら、矢庭に同主事のワイシヤツの衿元を掴んで押
さえつけ、再び椅子に坐わらせた。そして、同主事が腰かけた直後、Aは「お前は
官側の犬だ。」といいながら同主事の顔面に唾を二回吐きかけた。そのうち周囲の
職員の中から「明日謝罪させろ。」という者があり、C課長は、原告の読み上げた
メモの内容を聞いてB主事が指示以外の事項(前記第五項)についてもメモしたこ
とを知つたので、その場の混乱を収拾するため、右の点について遺憾の意を表する
つもりで「行過ぎの点は、明日B主事とともに釈明する。」と発言した。
ところが、その段階では、もつぱらB主事がメモをとつたこと自体が抗議の対象と
され、メモの内容にC課長の指示以外の事項が含まれていることは明確になつてい
なかつたので、抗議に集つた職員らは、C課長の右発言を勤務状況をメモしたこと
について全面的に謝罪したものと理解し、間もなく午後五時五五分頃抗議をやめて
解散した。そして、翌八月二日午前九時三〇分頃、通常郵便課普通係作業室におい
て同係職員に対し、C課長からは「昨日命令した人間が勤務時間以外のことについ
て介入したことは遺憾であるので、今後そうしたことのないよう注意する。」旨
を、B主事からは、「命令以外のことをやつた点については注意する。」旨をそれ
ぞれ釈明した。
(6) 当時の空港局主事主任職務内規によると、各課の主事に共通の職務内容と
しては、職員の出勤、退庁、休憩、休息時刻ならびに執務状況を監査し、職場規律
の確立をはかることが規定されており、B主事がその所属する通常郵便課普通係の
一般職員の勤務状況を調査、記載することは、右職務権限の範囲に属する事項であ
る。
 以上の事実が認められ、前掲甲第一〇号証の記載、証人E、同Aの各証言および
原告本人の供述中右認定に反する部分は、前掲の各証拠に照らして信用し難く、他
に右認定を覆し得る証拠はない。
 右認定の事実によると、B主事が職員の目につくような態度でその勤務状況をメ
モしたことは、職員に無用の刺戟を与えるものであつて、労務管理の方法としては
いささか拙劣の謗りを免れないけれども、同主事が、その所属する通常郵便課普通
係の職員の勤務状況を調査、記録すること自体は、本来同主事の職務権限の範囲に
属する事項であつてなんら非難の対象となるべき行動ではないにもかかわらず、原
告が、同課の職場委員として他の組合支部役員および同課の一般職員多数ととも
に、B主事およびC課長に対し、一時間以上に亘つて罵詈雑言を交えていわゆるつ
るし上げの状態でメモをとつたことに対する抗議を執拗に繰り返し、その間、帰り
かけたB主事の衿元を掴み、実力を用いてこれを阻止した所為は、到底組合員の権
利を擁護するための正当な行動とはいい難いものであり、Aの暴行が突発的なもの
であつてこれについての共同責任を追及し得ないとしても、この点を問責するまで
もなく、原告の右所為は国公法九九条に違反し、八二条一号、三号に該当すること
が明らかであるといわなければならない。
(二) 処分理由(1)ハについて
 原告が、昭和三八年八月一日午後四時五五分頃から五時一五分までの間上記C課
長およびB主事に対する集団抗議に参加していたことは当事者間に争いがない。
 原告は、当時の空港局における許された慣行として、日勤者の勤務時間は午後四
時三〇分業務終了、午後四時五〇分退局とされていたから、午後四時三〇分以後の
欠務を問題とする余地はない、と主張するので判断する。
 成立に争いのない甲第八、第九号証、乙第七号証の一、同第八、第九号証、証人
J、同C、同A(ただし後記信用しない部分を除く)の各証言および本件口頭弁論
の全趣旨を総合すると、次の諸事実を認めることができる。
(1) 昭和三八年当時施行されていた郵政省就業規則、郵政事業職員勤務時間、
休憩、休日および休暇規程にもとづいて定められた空港局通常郵便課服務表による
と、一週間のうち一日は半日勤(午前八時三〇分から午後〇時三〇分まで)の勤務
をする日勤者の勤務時間は、午前八時三〇分始業、午後五時一五分終業で、休憩時
間は午後〇時一五分から午後一時まで四五分間、そのほか午前、午後にそれぞれ一
五分間の休息時間を設けるものと定められていた。
(2) ところで、勤務時間が右のように定められたのは、昭和二八年の就業規則
改正によるものであつて、それ以前は休憩時間が三〇分であつたものを労働基準法
三四条に適合するよう四五分に改めた結果、それに伴い従来五時までの拘束時間が
五時一五分に延長されることになつた。しかしながら、郵政省当局は、従来の実情
や拘束時間を一五分延長することは暫定協定違反であるという組合の主張を考慮し
て、午後の勤務時間中にとるべき、一五分間の休息時間を最後にとつたこととし、
実際上は従来どおり午後五時に終業、退局することを包括的に黙認する取扱をして
いた。
(3) 原告の所属する空港局通常郵便課特殊係は、外国向けの書留郵便物の国別
区分、目録の作成、郵袋納入、発送(いわゆる差立処理)と外国から到着する書留
郵便物および国内の書留郵便物の区分、目録作成、郵袋納入、発送(いわゆる到着
処理)を主たる業務内容としていたが、差立、到着ともに郵便物の受入れは継続的
に行なわれるものであつたので、日勤者は、例えば差立の場合、当日午後八時頃ま
でに出発する航空機に塔載すべき郵便物の差立準備をするとともに、翌朝までに発
送すべき郵便物の差立の下ごしらえをして夜勤者に引き継ぐという形態で業務を処
理しており、引受郵便物の量によつては、日勤者の仕事が午後四時三〇分以前にな
くなることもないではなかつたが、そのようなことが業務の常態というわけではな
かつた。
(4) ところが、J局長の着任以前は、空港局の職場規律はかなり弛緩してお
り、午後四時三〇分頃までに、まだ処理すべき仕事が残つているにもかかわらず、
これを仕舞つて退局する職員が相当数存在したが、同局の管理者が右の事実を明示
的または黙示的のいずれにせよ承認したことはなく、同局の職員通勤用バスは午後
五時頃局舎前に到着しており、J局長は同年七月二七日着任後直ちに上記のとおり
組合支部執行部に対して勤務時間の厳守を申し入れている。
 以上の事実が認められ、証人E、同Aの各証言および原告本人の供述中右認定に
反する部分は前掲の各証拠に照らしてたやすく信用し難く、他に右認定に反する証
拠はない。
 右認定の事実によると、空港局において日勤者の勤務時間は、就業規則上午前八
時三〇分から午後五時一五分までであつて、午後の勤務時間中に設けるべき一五分
の休息時間を勤務時間の最後に与えたことにするという空港局管理者側の取扱は、
休息時間を設けた制度の趣旨に反するものといわざるを得ない。しかしながら、現
業の国家公務員の勤務関係においても、一般の私企業の労使関係におけると同様、
使用者(管理者)と労働者(一般職員)の双方に承認された慣行的事実は、職場の
労使関係を規律するうえで尊重されるべきものであり、前記認定の事実によると、
原告主張のように午後四時三〇分終業、午後四時五〇分退局が許された慣行であつ
たとは、到底認められないけれども、昭和三八年当時空港局においては、日勤者が
午後五時に終業、退局することを包括的に黙認する取扱をしていたのであるから、
午後五時以降勤務を離れたことをもつて職務に専念する義務を怠つたものとして懲
戒処分の対象とすることは許されないと解するのが相当である。
 そうすると、原告が上記C課長およびB主事に対する集団抗議に参加して勤務を
離れた所為のうち午後四時五五分から五時までの五分間の欠務のみが、国公法九八
条一項、一〇一条一項に違反し、同法八二条各号に該当するものといわなければな
らない。
(三) 処分理由(2)イ、ロについて
 原告が昭和三八年一一月一五日午前一〇時五分から二〇分までの一五分間および
午前一一時から午後〇時三〇分までの一時間三〇分勤務を欠いたことは当事者間に
争いがない。
 原告は、当日朝M課長代理に組合休暇または年次有給休暇を請求し、同課長代理
からその承認を受けたと主張するので判断する。
 前掲甲第八号証(ただし、後記採用しない記載部分を除く)、第九号証、証人M
の証言によつて成立を認める甲第一号証、前掲乙第七号証の一、本件口頭弁論の全
趣旨により原本の存在およびその成立を認める乙第七号証の二、証人I、同M(た
だし後記採用しない部分を除く)の各証言、原告本人尋問の結果(ただし後記採用
しない部分を除く)を総合すると、次の諸事実が認められる。
(1) 原告は、昭和三八年一一月一五日早朝組合支部から六〇名余の大量の脱退
者が出たことを知り、職場委員会議長として支部組合執行部とともに右非常事態に
対処する方策をたてる必要に迫られたので、午前一〇時過頃通常郵便課特殊係の作
業室入口附近にいたM課長代理に対し、脱退者が出たため組合休暇がほしい旨申し
出た。
(2) 組合休暇とは、郵政省就業規則二八条に規定するものであつて、組合の大
会、会議に出席する場合およびその他組合の業務を行う場合にあらかじめ組合休暇
付与願を提出して所属長の許可を受けたときは勤務時間中でも組合活動を行える制
度であるが(この点は当事者間に争いがない)、右組合休暇付与の運用に関する郵
政省官房人事部長の通達によれば、許可の具体的基準としては、「労働組合の生成
のため不可欠と思料される活動、たとえば中央本部、地方本部、地区本部、支部等
の組合規約で定められている組合の議決機関(大会、中央委員会、委員会等で定
期、臨時を問わない。)の構成員として出席する場合および地区本部における支部
長会議、あるいは中支部における分会長会議等で上記議決機関に準じて取り扱うこ
とが適当と認められる機関の構成員として出席する場合、地方本部、地区本部およ
び中支部における執行委員会の構成員として出席する場合、会計監査として監査を
行う場合」が挙げられ、また組合休暇の許可権限を有する者は空港局においては局
長であつて、実際上局長以外の管理職員に許可権限を委ねるということはなされて
いなかつたし、従来その請求が課長代理を経由して提出されたこともなかつた。
(3) そこでM課長代理が原告に対し、「組合休暇については課長代理では難し
い。」と返答すると、原告は「それでは組合休暇が難しいならば年休をほしい。」
と申し出た。
(4) 就業規則の規定によると、年次有給休暇には計画付与および自由付与の二
種があり、いずれも職員の請求に対する所属長の意思表示によつて付与され(八一
条)、自由付与の場合、職員は所属長に対して希望する日の前日の正午までに請求
書を提出しなければならないが、病気、災害その他やむを得ない理由によりあらか
じめ請求することが困難であつたことを所属長が認めたときは、職員は勤務しなか
つた日から三日以内にその理由を付して請求書を提出でき(八六条)、また自由付
与にかかる休暇は職員の請求する時季に与えるが、所属長が業務の正常な運営に支
障を生ずると認めた場合には他の時季に与えることがある(八五条)、と定められ
ていた。しかしながら、当時空港局では、職務規程により局長が右就業規則八一条
所定の意思表示をなす権限を各課長に委任しており、通常郵便課における実際上の
慣行としては、課長代理がその課に所属する職員からの年次有給休暇請求を受け付
けて、当該休暇により業務の運営に支障を来たすか否かを検討し、時季の変更を必
要とするような特別の事情がある場合は、課長代理が課長に相談のうえにその旨を
申し入れるが、それ以外の場合は課長代理の判断で処理し、事務手続上事後に課長
の決裁を得るという取扱が一般であり、請求の方法についても、原則的には請求書
が事前に提出されていたが、急用ができた場合などには口頭による請求も受け付
け、出勤簿整理の段階で請求書を追完させていた。
(5) M課長代理は、原告からの年休請求に対し、「組合活動という理由では許
可にならないのではないか。」との趣旨のことを述べたにとどまり、それ以上に業
務運営上の支障を理由に年休請求を拒否するとか、時季の変更を申し出るなどのこ
とはなかつたので、原告はそのまま職場を離れ、上記のとおり勤務に就かなかつ
た。
 しかして、原告の当日の勤務は、午前八時三〇分から午後〇時三〇分まで(その
うち午前一〇時四五分から一一時まで休息時間)のいわゆる半日勤であつて、原告
が休暇をとることによつて通常郵便課特殊係の業務の正常な運営を妨げる事情が存
在したわけではなかつた。
 以上の事実が認められ、前掲甲第八号証の記載、証人Mの証言および原告本人の
供述中右認定に反する部分は、前掲の各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を
覆し得る証拠はない。
 右認定の事実によると、原告が組合休暇の許可を受けたことはこれを認めること
ができない。しかしながら、上記年次有給休暇に関する就業規則八五条の規定は、
労働基準法三九条三項と同趣旨を定めたものというべきであつて、自由付与にかか
る年次有給休暇の請求が、右請求の意思表示を受理し、また時季変更権を行使する
権限を有する者に対してなされたときは、右の意味での使用者側の代表者におい
て、業務の正常な運営に支障を生ずるという客観的事由の存在にもとづき時季変更
権行使の意思表示をしない限り、請求者は有効に年次有給休暇をとることができる
ものと解するを相当とするところ、前記認定の事実によると、原告は、昭和三八年
一一月一五日午前一〇時過頃原告の所属する通常郵便課において慣行上有給休暇請
求を受け付けるとともに時季変更の意思表示をなす権限を有するM課長代理に対
し、適式な方法で当日の年次有給休暇の請求をしたものであり、同課長代理から時
季変更の申入れを受けたことはなく、客観的にも同課の業務の正常な運営を妨げる
事由が存在しなかつた以上、原告は、請求どおり適法、有効に年次有給休暇をとつ
たことになり、上記原告の不就労は右有給休暇によるものというべきである。
 そうだとすると、上記原告の不就労は、国公法一〇一条一項所定の職務に専念す
る義務に違反するものではなく、したがつて就労義務を前提とする就業命令違反の
成立する余地もないのであるから、右原告の所為を懲戒処分の対象とすることは許
されないものといわなければならない。
(四) 処分理由(3)について
 証人Jの証言により成立を認める乙第四号証、証人Mの証言により成立を認める
乙第六号証、証人J、同Mの各証言を総合すると、次の諸事実が認められる。
 J局長は、着任後上記のとおり業務の正常化のため種々の対策を講じたが、容易
に改善されなかつたので、昭和三八年九月二六日以降更に強い規制措置をとること
とし、勤務時間の厳守について局長訓示の形式で警告を含めた要望書を局舎前に掲
示するほか、各課長を通じて職員に訓示し、また組合支部に対しても正式に警告
し、協力を要請するなどの方法をとり、J局長自身も出退勤時間前後に随時局舎内
を巡回して職員の作業状況を視察、把握するよう努めていたが、同年一二月三日午
後四時四七分頃J局長が通常郵便課普通係(局舎一階)の作業状況の視察を終えて
階段を上りかけたとき、踊り場から原告が局舎前の道路を横切つて帰つて行くのを
発見した。そこで、同局長は直ちにM課長代理に原告の当日の勤務について質問し
た結果、原告は日勤の勤務で他の特殊係職員はまだ作業中であるにもかかわらず、
上司である同課長代理に無断で退局したものであることが判明した。
 以上の事実が認められ、前掲甲第一〇号証の記載および原告本人の供述中右認定
に反する部分は、前掲の各証拠に照らして信用し難く、他に右認定を覆し得る証拠
はない。
 右認定の事実によると、日勤者が午後五時に終業、退局することを空港局管理者
において包括的に黙認していたことは上記のとおりであるから、原告は、午後四時
四七分から午後五時までの一三分間上司に無断で離席して勤務を欠いたことについ
て職務専念義務を尽くさなかつたものといわなければならず、右の原告の所為が国
公法一〇一条一項に違反し、同法八二条一号、二号に該当することは明らかであ
る。
四、次に被告主張の処分量定の事由および本件処分の相当性について判断する。
 前掲甲第九号証、本件口頭弁論の全趣旨により成立を認める乙第五号証の二、
五、証人Bの証言および原告本人尋問の結果(ただしいずれも後記採用しない部分
を除く)を総合すると、次の諸事実が認められる。
 昭和三七年一一月一二日午前九時三〇分頃、空港局通常郵便課特殊係作業室にお
いて、原告がK課長代理に対し、作業室の拡張問題について課長代理の努力が足り
ないと難詰している最中に、その場へ来たB主事が傍から補足的な説明をしようと
したところ、原告は同主事に「Kさんと話をしているのでお前には関係がないから
出て行け。」といつた。すると、同主事は激昂して「なんだ、この野郎」といいな
がら原告の方に歩み寄り、矢庭に原告の胸を強く突いたので原告は後方に置いてあ
つた郵便物用の竹籠の中に顛倒し、起き上つた原告の胸のあたりをB主事がなおも
掴んで両者取つ組合の喧嘩をはじめたので、周囲の職員が仲に入つて制止した。そ
の後、B主事が原告に暴力を振つたことを聞きつけた組合支部役員および職員ら
は、同日午前九時五〇分頃特殊係作業室前廊下において、B主事を取り囲んで報復
的に暴行を加えたが、原告は右集団暴行を使嗾したり、現実にこれに加わつたこと
はなく、もつぱら傍観していたに過ぎない。そして、同日午前一一時頃、当時の原
告の上司O通常郵便課長が原告の席へ来て原告に対し、「監督不行届きであんなこ
とになつて申訳けない。このことはなかつたことにして貰いたい。」との趣旨の詑
びを申し入れた。
 以上の事実が認められ、証人Bの証言および原告本人の供述中右認定に反する部
分は、前掲の各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右し得る証拠はない。
 右認定の事実によると、昭和三七年一一月一二日の事件は、原告のB主事に対す
る言辞に穏当を欠く点があつたにせよ、一般職員の指導的立場にある同主事が軽率
にも原告に暴力を振つたことに主たる原因があるのであつて、両名の喧嘩について
原告を非難することは相当でなく、また、その後の同主事に対する集団暴行行為に
ついては、原告はこれに何ら関与していないのであるから、原告を懲戒処分に付す
るに当つて右事件を原告に不利な情状として斟酌することは許されないものといわ
なければならない。
 しかしながら、右事件を斟酌することが許されないとしても、上記処分理由
(1)イ、ロのC課長およびB主事に対する集団抗議ならびにB主事の身体に手を
かけて実力を行使した所為、処分理由(1)ハの右集団抗議中午後四時五五分から
五時まで五分間勤務を欠いた所為、処分理由(3)の管理者側の勤務時間厳守の警
告が再三繰り返された後になおも午後四時四七分から五時まで一三分間勤務を欠い
た所為を総合して考えると、被告が、職場秩序維持の見地から、原告に対し六ケ月
間俸給月額の一〇分の一を減ずる減給処分をもつて臨んだことは、客観的妥当性を
欠く措置とはいい難く、裁量の範囲内における相当な懲戒処分ということができ
る。
五、次に不当労働行為および懲戒権濫用の主張について判断する。
 被告は、懲戒処分の取消しを求める訴訟において、不当労働行為を処分の違法事
由として主張することは許されない、と主張するので検討する。
 懲戒処分を受けた現業の国家公務員が、右処分をもつて不当労働行為に該当する
とする場合には、行政不服審査法による不服申立(人事院に対する審査請求または
異議申立)をすることはできず(公労法四〇条三項)、公労委に救済の申立をし
(公労法三条、二五条の五)公労委の命令に不服があるときは直接公労委を被告と
して当該命令の取消しを求める抗告訴訟を提起できることは被告主張のとおりであ
るけれども、行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上
の利益を有する限りこれを提起できるのが原則であり、行政委員会としての公労委
における原状回復命令による救済の方法が与えられているからといつて、不当労働
行為を処分の違法事由として当該懲戒処分の取消しを求める抗告訴訟を提起するこ
とが許されないとする法律上の根拠はなく、このことは、一般私企業の労使間にお
ける不当労働行為について労働委員会に対する救済申立とならんで民事訴訟を提起
し得ることと理を異にするものではない。したがつて、被告の右主張は到底採用に
値しない。
 そこで進んで不当労働行為ないし懲戒権濫用の成否についてみるに、原告が上記
のとおり組合支部役員の地位にあつて組合活動を活発に行つたことは、当事者間に
争いがないけれども、本件処分が、原告の国公法八二条各号該当の所為にもとづ
き、処分の量定についても客観的妥当性を有する懲戒処分であることは上記のとお
りであつて、それにもかかわらず、本件処分が原告の組合活動を決定的な動機とし
て行なわれたこと、もしくは組合支部の運営に対する介入にあたることを肯認させ
るに足りる的確な証拠は存在しないから、原告の本主張はいずれも理由がない。
六、以上の次第で、本件処分の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこ
れを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文の
とおり判決する。
(裁判官 西山要 島田礼介 瀬戸正義)

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