弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は東京地方検察庁検事正代理検事田中万一名義の控訴趣意書と題
する書面に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のよう
に判断する。
 案ずるに
 本件公訴事実の要旨は「被告人は東京都江戸川区ab丁目B親睦会会長として、
東京国税局江戸川税務署、江戸川区役所より、右会員に対する税の適正賦課、取
立、保管等の仕事を依嘱され、右業務に従事中、同会事務員Cと共謀の上、昭和二
十四年五月上旬頃から昭和二十五年三月上旬頃迄の間に、前記会員D他百二十二名
より昭和二十四年度事業税及び所得税金として税務署に納入すべく預り保管中の現
金三十七万七千八百七十五円を、その同都内において擅に自己の用途に費消して横
領したものである。」
 と云うのであるが、
 原判決はこれに対し「右記載によれば被告人はD外百二十二名より昭和二十四年
五月上旬頃から昭和二十五年三月上旬頃迄の間に預り保管中の現金をその頃自己の
用途に費消したというのであるから、その現金は一度に費消したものでないことが
窺われる。然るに、横領罪は不法領得の意思が発現したとき即ち費消の都度成立す
るものであるから、かかる数個の犯罪行為を示すには各個の行為の内容を一々具体
的に示し、更に日時場所等を明かにすることによつて一の行為を他の行為より区別
しうる程度に明示しなければならない。然るに右起訴状によれば各個の費消横領行
為が何ら具体的に示されていない。従つて本件公訴は訴因を特定せずに為されたも
のであつて刑事訴訟法第二百五十六条第三項に違反し無効である。」として同法第
三百三十八条第四号により公訴棄却の言渡をしたものである。
 思うに起訴状には公訴事実及び罪名その他を記載しなければならない。公訴事実
は訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するにはできる限り
日時、場所、及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならな
いことは刑事訴訟法第二百五十六条の規定するところである。同条にいわゆる訴因
とは罪となるべき具体的の事実、換言すれば犯罪構成要件に該当する具体的の事実
をいい、その特定とは他の訴因と紛れることのない程度に、即ち同一性を認識させ
るに足る程度に、日時、場所、方法、目的物件の記載によつて罪となるべき事実を
特定するの謂であることは多言を要しない。本件公訴事実によれば被告人は前記親
睦会会長として同会員D外百二十二名から税務署に納入すべく預り保管中の現金合
計三十余万円を昭和二十四年五月上旬頃から同二十五年三月上旬頃迄の間に自己の
用途に費消したと云うのであるからその費消の所為は単に一回に止まらず多数回に
上つていたものと推認されることは原審の説示するとおりである。そして横領罪は
不法領得の意思が発現したときに成立するものであるから、原審が本件について個
々の費消行為により各独立の横領罪が成立するものとして、各別に訴因の特定を要
するものとしたのは、一理なしとしない。しかし本件公訴事実として記載されてい
る事実は前記のように、被告人が右親睦会会長として会員の税金の適正賦課取立等
の事務に従事していたと云う同一の社会的事実関係に基き、被告人が右会員より税
金として納付する為預り保管するようになつた同一性質の金員を単一又は継続した
犯意の下にいずれも自己の用途に費消したと云うのであつて、その所為の態様も軌
を一にしたものと認められるのであるから、以上の所為は社会観念上これを包括し
て一個の犯罪と認められうるものであり、従つて又その全部を一体として批判の対
象とし<要旨>処罰の対象とせらるべき性質のものであるということができる。かく
の如く、数個の所為が同一又は継続の犯意の下に数回に亙り連続して行わ
れ、それが各々同一の犯罪構成要件に該当する場合であつて、且それらの所為が同
一の社会的事実関係を基盤としてその犯罪の態様をも同じくする為、これを包括し
て社会観念上一個の犯罪として処罰の対象とすべきものと認められる場合において
は、それらの所為を包括して、一個の犯罪として処断することをうるものと解すべ
きである。
 蓋し叙上の各所為がこれを個別的に観察すればそれぞれ犯罪構成要件に該当する
ため全体としては数罪と認められるような場合であつてもこれを包括して一罪とし
て処断することは被告人の利益を害するものでないのみならず、又かくの如く包括
的に一罪として認定処断することが却て被告人の刑責を如実に論定しうる所以とも
なるからである。殊に被告人の所為が著しく多数に上りその個々の行為を具体的に
確定することは甚しく困難であり、徒らに繁雑を加えるに過ぎないような場合で、
しかもその行為の結果が総括的にこれを確定しうるような場合においては―本件は
宛もかくの如き場合に属するものと認められる―それらの所為を包括して一罪とし
て処断しうるものと解することは必要且妥当であると云わねばならぬ。何となれ
ば、もし、かくの如き場合においても右犯行は各個の犯罪の集合たる併合罪に外な
らないから各個の所為を具体的に確定しない限り訴因は確定せず、又犯罪として認
定することもできないものとするならば、事実上かかる犯罪の大部分は訴因を確定
し得ざる結果訴追するを得ないこととなるばかりでなく、仮りにその各個の所為を
一応確定の上起訴しえたとしても、かかる場合において右各所為は併合罪の関係に
立つと解せらるることとなり、しかも、その各個の所為については当該被告人の供
述以外にその補強証拠を挙げることは著しく困難である関係上、その所為の大部分
は有罪として処断しえないこととなるべく、かくては被告人の犯した行為の全貌を
犯罪として如実にこれを確定し、これに即してその刑事責任を論断することは殆ど
不可能とならざるを得ないからである。しかして以上の如く数個の所為が包括して
一罪として処断すべきものと認められる場合においては、これを起訴状に訴因とし
て表示するに当つてはその処断の対象となる所為の全体を一括して、他の訴因と区
別しうる程度に日時、場所方法等を記載して公訴事実を特定すれば足るものと解す
る。蓋し起訴状において公訴事案を記載し、訴因を明示するのは、裁判所に対し審
判の対象を明確ならしめると共に、被告人に対し訴追された事実を具体的に明瞭な
らしめ、これに対し充分な防禦をさせる趣旨に出たものと解せられるのであるが、
右の如く多数の行為が同一の社会的事実関係を基盤とし社会観念上一個の犯罪事実
をなすものと目せられる場合には、その事実の全体を明確にし他の犯罪事実と区別
し得る程度に明示するときは裁判所の審理並びに被告人の防禦権の行使に関して訴
因の不明確による不利益は生じないものと解せられるからである。
 以上説示したように本件の如く同一又は継続した犯意の下に行われた数個の行為
が同一の犯罪構成要件に該当する場合であつて、しかもそれらの行為が同一の社会
的事実関係を基盤とし且つその犯罪の態様をも同じうするため、社会観念上これを
包括して一個の犯罪として処罰の対象と認められる場合には、それらの行為全部を
包括的に一個の犯罪として訴追しうべく、裁判所もまた一罪としてこれを認定処断
しうるものと解すべきものであるのに、原審は本件起訴にかかる各個の費消行為が
それぞれ独立の横領罪を構成するとの見解に拘泥してその各費消行為の具体的内容
を明示しなければいわゆる訴因の特定を欠くものであるとして本件公訴を棄却した
のは法令の解釈を誤り、不法に公訴を棄却した違法があるものであつて、検察官の
控訴は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条本文に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 三宅富士郎 判事 荒川省三 判事 堀義次)

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