弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 本件上告の理由は末尾に添付する別紙記載のとおりである。
 上告代理人小林寛、同武田蔵之助の上告理由第一点について。
 論旨は、原判決は自作農創設特別措置法(以下自作農法と略称する)六条の解釈
を誤つた違法があるとし、(イ)において同条五項の農地買収計画の公告には少く
とも買収すべき農地並びに買収の時期及び対価を記載しなければならないと主張す
るのであるが、同項は「農地買収計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告し」
と規定しているのであるから、公告には単に買収計画を定めた旨を公告すれば足り、
買収すべき農地、買収の時期及び対価をも記載して公告しなければならない趣旨と
は解することができない。同条二項は買収計画には買収すべき農地、買収時期、買
収対価を定めるべきことを規定しているのであつて、若し所論のように公告にも右
の事項を記載しなければならないものとすれば、法律は計画そのものを公告すべき
ものと規定すべきであつて、五項に定める縦覧の規定は必要のないものと言わなけ
ればならない。
 論旨は更に(ロ)において、若し原判決のように解するならば、公告に関する規
定の存在理由がないと主張するのであるが、公告は買収計画の定められたことを農
地所有者その他の関係者に知らしめ、これらの者に縦覚を促す意味を持つものであ
つて、右の事項の記載がないからと言つて、公告が無意味になるものではない。
 論旨は又(ハ)において、本件買収計画は第十二回目の買収計画であるがその旨
の記載もなくその公告内容はそれ以前の公告と全く同じであつて、如何なる買収計
画についても通用する公告は、本件買収計画の公告としては不法であるというので
ある。しかしながら、本件公告に第十二回公告と明記されていなくても、本件公告
がそれ以前の買収計画の公告と異ることは、告示番号、告示年月日、縦覧期間等の
記載によつて明白であり、関係者は本件公告を見てそれ以前の計画と別個の計画の
定められたことを知り、縦覧の機会を得るのであつて、本件公告に第十二回目と記
載してないからと言つて不法とすべき理由はない。
 同上告理由第二点について。
 論旨は、公告には買収計画を定めた旨を公示すべきこと当然であるにかかわらず、
原判決は「前記公告文の記載によれば農地の買収計画が定められたことを窺知し得
るが故に右公告は適法」と判断している。若し原審が「買収計画が定められたこと
を窺知し得る」記載があれば足りると解しているのであれば、原審は法律の解釈を
誤つているというのである。
 しかし、本件公告文には「買収並に売渡計画書の縦覧期間を左記の通り定め縦覧
に供す」とあり、所論のように、文字の上では、買収計画を定めた旨の記載はない
けれどもその趣旨は買収、売渡の計画を定めたから縦覧期間を定め縦覧に供する趣
旨であるこというまでもない即右公告中には「買収計画を定めた旨」を含んで居る
のであるからこれを是認したのは固より正当で論旨は理由がない。
 同上告理由第三点について。
 論旨は、原判決が、本件公告文を農地委員会の事務所の掲示場に掲示したことを
以て適法であるとしたのは、法令の解釈を誤つているというのであるが、自作農法
施行令三七条には「(前略)公告は(中略)市町村農地委員会のする場合にあつて
は市町村の事務所の掲示場に掲示して、これをしなければならない。」とし同令四
〇条では「この勅令中市町村農地委員会に関する規定は、地区農地委員会の設けら
れている市町村の地区にあつては、地区農地委員会に適用する。」と規定し、更に
「第三十七条中『市町村の事務所』とあるのは『地区農地委員会の事務所』と読み
替えるものとする。」と規定している。本件の場合にはB地区農地委員会が設けら
れているのであるから、同委員会が本件公告を同委員会事務所の掲示場に掲示した
ことは正当であつて、この点に関する原判決の判示に違法の点はなく論旨は理由が
ない。
 同上告理由第四点について。
 論旨は、原判決は行政事件訴訟特例法(以下特例法と略称する)を適用するにあ
たり、法律の解釈を誤つた違法があるというのであつて、要するに、上告人は本訴
提起の前提として法廷の異議中立期間内に異議の申立をしなかつたけれども、申立
をしなかつたのは本件買収計画の公告が具体的でなく、又計画が定められた旨の通
知もなかつたためであるから、特例法二条但書の「正当な事由があるとき」に該当
し、異議訴願を経ていなくても、本訴の提起は適法であつて、原判決が本訴を却下
すべきものと判断したのは違法であると主張するのである。
 自作農法七条は買収計画に対する不服申立方法として異議、訴願の二段階を規定
している。この規定と特例法二条を合せ考えるときは、農地買収計画の取消又は変
更を求める訴を裁判所に提起するためには、その前提として、当該市町村農地委員
会(本件の場合、被上告人、B地区農地委員会)に異議を申し立て、その決定に不
服の者は更に都道府県農地委員会に訴願し、その裁決によつてもなお救済の得られ
ない場合に、はじめて裁判所に訴訟を提起することができる趣旨と解しなければな
らない。そして所論のような事情は訴願法八条の「宥恕すべき事由」というような
ことにはなり得るかも知れないけれども本件のように異議を却下された場合に訴願
を経ないで裁判所に訴訟を提起する正当な事由ということはできない、従つて論旨
(イ)は理由がない。論旨(ロ)(ハ)についても同様である。
 同上告理由第五点について。
 論旨は被上告人農地委員会の指定代理人Dは同委員会の職員ではなく、従つて代
理権を有しないと主張するのであるが、同人が同委員会の職員であることは記録に
編綴してある同委員会の証明書によつて明らかである。それ故同人は同委員会を適
法に代理し得るものというべく論旨は理由がない。
 同上告理由第六点について。
 論旨は特例法二条は憲法三二条に違反し無効であるというのである。しかし憲法
七六条二項は行政機関もまた裁判を行うことのあることを前提としており、而して
行政機関が行う裁判と司法裁判所の行う裁判との相互関係については、裁判所が終
審として裁判を行うことを要するものとしたほか、行政機関の行う裁判を裁判所に
対する訴訟提起の前提要件とするか否かは法律の定めるところに一任しているもの
と解すべきであつて、特例法二条がいわゆる訴願前置主義を定めたからと言つて憲
法三二条に違反するものということはできない。論旨は理由がない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従つて主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   垂
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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