弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,P23を経由して仕向銀行たる原告から被仕向銀行
たる被告に通知された支払要求指令電文,残高照会要求指令電文及び振込支
払要求指令電文のすべてについて,平成19年5月6日付けP1運営機構事
務取扱規則の定めるところに従い,許可報告電文又は拒否報告電文(ただし,
「提携外」を理由とする拒否報告電文を除く。)を,P23を経由して送信
せよ。
2被告は,原告に対し,以下の各金員を支払え。
(1)平成20年11月4日から,被告が前記1の許可報告電文又は拒否報告
電文(ただし,「提携外」を理由とする拒否報告電文を除く。)の送信行
為を再開するに至るまで,1日当たり21万7400円の割合による金員
(2)1850万円及びこれに対する平成20年11月4日から支払済みまで
年6%の割合による金員
(3)別紙1の各「損害発生日」欄記載の日から,被告が前記1の許可報告電
文又は拒否報告電文(ただし,「提携外」を理由とする拒否報告電文を除
く。)の送信行為を再開するに至るまで,1日当たり同別紙の各「1台当
り収益/日」欄記載の額の割合による金員
3(1)被告は,P23を経由して仕向銀行たる原告から通知されてくる支払要
求指令電文,残高照会要求指令電文及び振込支払要求指令電文のすべてに
対し,原告が「提携外」であるという理由で拒否報告電文を送信する行為
をしてはならない。
(2)被告は,平成20年9月19日に行った別紙2記載の内容の原告とのC
Dオンライン提携業務に関するプレスリリースを撤回する旨のプレスリリ
ースをせよ。
(3)被告は,被告のホームページに掲載している別紙2記載の内容の原告と
のCDオンライン提携業務に関する記事及び被告設置の現金自動支払機又
は現金自動預払機に掲示された別紙3記載の内容の顧客への告知文を,削
除ないし撤去せよ。
第2事案の概要等
1原告は,社団法人P2銀行協会(以下「P2銀行協会」という。)に加盟
するP2銀行であり,被告は,都市銀行であるところ,原告と被告は,他の
都市銀行やP2銀行協会の加盟行と共にオンライン現金自動支払機の相互利
用に関する基本契約等を締結し,相互に他行の保有する現金自動支払機(以
下「CD」という。),現金自動預入払出兼用機(以下「ATM」とい
う。)及び自動振込機(以下,CD,ATM及び自動振込機を合わせて「A
TM等」という。)による現金の払出し,残高照会,振込み及びこれらに付
随する業務(以下「本件提携業務」という。)を行っていた。ところが,被
告は,原告に対し,平成20年8月1日付け解約通知書によって,同年11
月3日をもって被告を委託者,原告を受託者とする本件提携業務に係る委託
契約を解約する旨の意思表示をした。
本件は,原告が,(1)上記解約は無効であり,被告はオンライン現金自動
支払機の相互利用に関する基本契約等に基づき本件提携業務に係る電文送信
を行う債務を負っているにもかかわらず,平成20年11月4日以降その履
行を拒否しているなどと主張して,上記基本契約等に基づく債務の履行請求
として電文送信を(前記第1の1の請求),(2)電文送信の拒否行為は私的
独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」とい
う。)2条9項6号イ,不公正な取引方法(以下「一般指定」という。)2
項所定の不当な取引拒絶に該当する旨主張して,同法24条に基づく差止請
求として電文送信の拒否行為等の差止め等を(前記第1の3の請求),(3)
電文送信の拒否行為は債務不履行に当たるとともに,不法行為も構成するな
どと主張して,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求として逸失利益
等の支払を(前記第1の2の請求)求めた事案である。
2前提となる事実(いずれも,当事者間に争いがないか,後記各項掲記の証
拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)当事者について
ア原告は,平成13年に設立された株式会社であり,同年6月11日,
P2銀行協会の加盟行である株式会社P3銀行(以下「P3銀行」とい
う。)から,営業の全部譲渡を受けた(以下,P3銀行を含む趣旨で
「原告」と表記することがある。)。以来,原告は,P2銀行協会に加
盟するP2銀行として銀行業を営んでおり,平成20年当時の預金残高
は,約1兆6559億円であった。(甲200,201,202の1~
2)
イ被告は,大正8年に設立された株式会社(当時の商号は「株式会社P
4銀行」であり,平成8年4月1日に「株式会社P5銀行」に商号を変
更した。)であり,同年7月2日に株式会社P6銀行を吸収合併し,平
成18年1月4日には,株式会社P7銀行(平成14年1月15日以前
の商号は「株式会社P8銀行」であり,同日,株式会社P9銀行を吸収
合併した。)を吸収合併した(以下,株式会社P8銀行,株式会社P7
銀行又は株式会社P9銀行を含む趣旨で「被告」と表記することがあ
る。)。被告は,都市銀行として銀行業を営んでおり,平成20年当時
の預金残高は,約101兆8615億円であった。(乙45,46の1
~4)
(2)原告と被告との間のCDオンライン提携の経緯について
ア被告を含む都市銀行13行と社団法人P10銀行協会(以下「P10
銀行協会」という。)に加盟する地方銀行64行は,昭和63年2月2
9日,オンライン現金自動支払機の相互利用に関する合意をし,同年7
月8日には,オンライン現金自動支払機の相互利用に関する基本契約を
締結した上,平成元年11月1日,P11管理機構(平成16年1月に
「P1運営機構」に名称変更。以下,名称変更の前後を通じて「P1運
営機構」という。)を設立し,その運営規約(以下「P1運営規約」と
いう。)及び事務取扱規則(以下「P1取扱規則」という。)を定めた。
(甲3,4,9,125,乙3~10,24,25,43)
イ被告を含む都市銀行13行とP3銀行を含むP2銀行協会(当時は社
団法人P12銀行協会)の加盟行68行は,昭和63年10月31日,
オンライン現金自動支払機の相互利用に関する合意(以下「本件基本合
意」という。)をした。(甲1)
ウこれを受けて,被告を含む都市銀行12行とP3銀行を含むP2銀行
協会の加盟行68行は,平成2年4月13日,オンライン現金自動支払
機の相互利用に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締
結した。P3銀行を含むP2銀行協会の加盟行は,同年5月14日,P
1運営機構に加盟した。(甲2~4,9,125,乙3~11,24,
25,43)
エ本件基本契約においては,①都市銀行とP2銀行協会加盟行は,それ
ぞれが保有するATM等を相互に利用し,現金支払業務及び残高照会業
務を行う(1条),②上記業務の円滑な運営を行うために必要な事項に
ついてはP1運営規約による(3条2項),③上記業務を行うためにP
1運営機構が管理,運営するP11を介して都市銀行の業態内オンライ
ン提携網であるP13サービス(以下「P14」という。)とP2銀行
協会の業態内オンライン提携網であるP15サービス(以下「P16」
という。)の各オンラインセンターを回線で接続する(4条),④被仕
向銀行(CDカードを発行した銀行)が仕向銀行(ATM等を設置した
銀行)に対して銀行間利用料を支払う(7条),⑤上記業務の取扱いは,
P1取扱規則による(8条)ものとされていた。本件基本契約を締結し
た各行は,それぞれ他行の顧客による現金の払出しが行われた場合に他
行から徴収する銀行間利用料の額を個別に定めて他行の承認を得るとと
もに,この場合,現金払出しの窓口となった銀行が当該払出しを行った
顧客から顧客手数料を徴収することになることから,顧客手数料を変更
するたびにその内容を他行に通知してきた。(甲2,乙11~17)
オその後,P1運営機構におけるシステムの接続は,前記エのP11で
はなく,株式会社P17(以下「P17」という。)が提供するP18
サービスを利用して行われることになり,平成16年1月4日,P1運
営規約及びP1取扱規則の改定が行われた。これに伴い,被告を含む都
市銀行7行と原告を含むP2銀行協会の加盟行51行は,本件基本契約
の条項を改定し,①都市銀行とP2銀行協会加盟行は,それぞれが保有
するATM等を相互に利用し,現金支払業務及び残高照会業務を行うた
め,P17が提供するP18サービスを利用する(4条),②銀行間利
用料は,都市銀行とP2銀行協会加盟行の間でそれぞれ個別に定める
(7条)旨合意した。(甲3,4,乙18)
カ被告を含む都市銀行7行と原告を含むP2銀行協会加盟行は,平成1
7年4月28日,他行カード振込業務に関する基本契約(以下「本件振
込基本契約」という。)を締結した上,同日,他行カード振込業務取扱
規則(以下「振込取扱規則」という。)を定めた。本件振込基本契約に
おいては,①都市銀行及びP2銀行協会加盟行は,それぞれが保有する
ATM等による振込みにおいて,それぞれが発行するCDカードを使用
して,振込資金等の口座からの引落し及びその他付随する業務を行う
(1条),②上記業務を行うためにP18サービスを利用する(4条),
③上記業務にかかる銀行間利用料については,各提携銀行間で個別に定
める(7条)ものとされていた。(甲5,124の2)
(3)本件解約に至る経緯について
ア原告と被告は,本件基本契約の締結後,相手方の承認の下,相互に相
手方発行のCDカードを使用して自行のATM等による現金の払出しが
行われた場合に相手方から徴収する銀行間利用料の額を1件当たり10
0円(税別。ただし,1件当たりの払出金額が11万円を超えるときに
は2件として計算する。)と定め,本件振込基本契約の締結後は,同様
に,他行カード振込業務を行った場合の銀行間利用料を相互に定めた上
で,本件提携業務を行ってきた。これらの場合,現金払出し又は振込み
の窓口となった銀行が当該払出し等を行った顧客(以下「他行顧客」と
いう。)から顧客手数料を徴収することになるところ,原告は,平成1
6年4月当時,他行顧客から徴収する顧客手数料について,①時間内
(平日午前8時45分から午後6時まで及び土曜日午後2時まで)は1
00円(税別),②時間外(平日の午前8時45分まで及び午後6時以
降,土曜日午後2時以降並びに日祝日)は200円(税別)としていた。
(乙12~17,19,32)
イところが,原告は,平成16年5月,コンビニエンスストア(以下
「コンビニ」という。)やスーパーマーケット(以下「スーパー」とい
う。)等の業者と提携し,全国各地のコンビニやスーパー等で自行AT
M等の設置を進めるとともに,他行顧客から徴収する顧客手数料を①時
間内は無料,②時間外は100円(税別)とするいわゆるP19事業
(以下「P19事業」という。)の展開を始めた。その結果,原告のA
TM等を利用して現金の払出しを行う被告の顧客が増加したため,それ
までは原告の支払額とほぼ拮抗していた被告の原告に対する銀行間利用
料の支払額は,同年8月頃から,徐々に増加していった。(乙19,2
6,32)
ウ被告は,平成18年6月20日,原告に対し,本件提携業務における
銀行間利用料の支払額に不均衡が生じているとして,被告が原告に対し
て支払う銀行間利用料の引下げを求めた。その後,原告と被告の間で,
2年以上にわたって協議,交渉が続けられたが,最終的な合意には至ら
なかった。(甲11~14,22~32,193,194,乙43,4
4,証人P20,証人P21)
エそこで,被告は,平成20年8月1日付け解約通知書によって,原告
に対し,同年11月3日をもって被告を委託者,原告を受託者とする本
件提携業務に係る委託契約(以下「本件委託契約」といい,原告が本件
委託契約に基づいて行う業務を「本件委託業務」という。)を解約する
旨の意思表示(以下「本件解約」という。)をした。被告は,同年9月
19日から,本件解約の事実を知らせるため,ホームページ等において
別紙2記載の内容のプレスリリース等を行い,被告設置のATM等に別
紙3記載の内容の顧客への告知文を掲示した上で(以下,これらをまと
めて「本件プレスリリース等」という。),同年11月4日以降,本件
委託契約に伴う事務処理を停止した。これに伴い,被告は,自行の顧客
が自行発行のCDカードを使用して原告の設置したATM等により現金
払出し,残高照会又は振込みを行おうとした場合には,P23を通じて
仕向銀行たる原告から通知される支払要求指令電文,残高照会要求指令
電文又は振込支払要求指令電文に対し,P1取扱規則所定の許可報告電
文又は拒否報告電文(「提携外」を理由とするものを除く。)の送信
(以下「本件電文送信」という。)を行うことなく,「提携外」を理由
とする拒否報告電文を送信するようになった(以下「本件応答拒否」と
いう。)。(甲6,18の1~2,甲19の1~8)
第3争点に関する当事者の主張
1争点
(1)本件基本合意等に基づく債務の履行請求(前記第1の1の請求)
本件解約の効力(争点1)
(2)独占禁止法24条に基づく差止請求(前記第1の3の請求)
ア本件応答拒否の一般指定2項該当性の有無(争点2)
イ独占禁止法24条所定の差止要件の有無(争点3)
(3)債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(前記第1の2の請求)
ア債務不履行又は不法行為の成否(争点4)
イ損害額(争点5)
2争点1(本件解約の効力)に関する当事者の主張
(1)原告の主張
アP1運営機構の加盟行は,本件基本合意,本件基本契約,P1運営規
約,P1取扱規則及び本件振込基本契約に基づき,本件提携業務を行う
債務を負っている。本件基本合意等は,P1運営機構の設立を目的とし
て締結された団体設立契約又はその加盟行を法的に拘束するために定め
られた団体規範であるから,これによって生じた加盟行間における本件
提携業務を行うべき債権債務関係を個別に解消することは許されない。
イ仮に,原告と被告との間に本件委託契約という個別の法律関係が存在
するとしても,本件委託業務の処理は受任者である原告の利益も目的と
するものであり,本件基本合意等には期間の定めや解約に関する規定が
存在しないから,被告は本件委託契約についての解除権を放棄したとい
うべきである。また,本件委託契約は,継続的契約に当たり,当事者の
信頼関係を基礎とするものであるから,契約を継続しがたい重大な事由
又はやむを得ない事由のない限り,解約することは許されない。
ウ以上のとおり,本件解約は,いずれにしても効力を生じていないから,
被告は,本件電文送信を行うべき契約上の債務を負うというべきである。
(2)被告の主張
ア本件基本契約及び本件振込基本契約を締結する際には,これを締結し
た個々の銀行がそれぞれ個別にCDオンライン提携業務の委託契約を締
結することが前提とされていた。被告は,原告との間で,本件基本契約
等に基づき,別途,銀行間利用料について合意することによって,本件
委託契約を締結したものであり,本件解約によって本件委託契約は終了
したというべきである。
イ最高裁昭和54年(オ)第353号同56年1月19日第二小法廷判決
・民集35巻1号1頁によると,受任者が著しく不誠実な行動に出るな
どのやむを得ない事由がない場合であっても,委任者が委任契約の解除
権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは,委任者は民法
651条に則り委任契約を解除することができるものとされているとこ
ろ,被告が本件委託契約の解除権を放棄した事実はない。また,被告は,
原告に対する銀行間利用料の支払額が増加したため,銀行間利用料の引
下げを求めて交渉を重ねたが,合意に至らなかったことから,本件解約
に至ったものであり,本件解約には正当な理由があるというべきである。
したがって,本件解約は,いずれにしても有効である。
ウ以上のとおり,原告と被告との間の本件委託契約は,本件解約により
終了したから,被告には,本件電文送信を行う債務は存しない。
3争点2(本件応答拒否の一般指定2項該当性の有無)に関する当事者の主

(1)原告の主張
ア独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項所定の取引拒絶に関しては,
①市場における有力な事業者が,②競争者を対象市場から排除するとい
う独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引拒絶を行い,
③これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となる
おそれがあり,④顧客の利便性を著しく侵害し,⑤客観的にみて競争促
進的又は合理的なビジネス上の正当化事由が存在しない場合には,公正
競争阻害性が認められるというべきである。
イ①被告は,株式会社P22銀行(以下「P22銀行」という。)に次
ぐ5048万枚のCDカードを発行し,我が国のCDカード発行総数
(4億6384万枚)の10.9%のシェアを有しているから,「AT
M等役務提供市場」(我が国の金融機関に預金口座を有しその発行する
CDカードを有するATM等の利用者を需要者とし,ATM等による現
金払出し等の役務を提供し,顧客手数料を得る事業に係る市場)におけ
る有力な事業者に当たるというべきである。②原告と被告との間の交渉
経緯等に照らせば,被告は,その意向に逆らってP19事業を継続して
いた原告を上記市場から排除するという独占禁止法上不当な目的を達成
するために,本件応答拒否を行ったとみるのが相当である。③本件応答
拒否の後,原告の設置したATM等の利用者が約2割減少したのみなら
ず,被告の顧客割合が高い東海地区では,原告の保有するATM等が撤
去されたり,ATM等の設置提携先から提携解消等の申入れを受けるな
どの影響が生じており,被告以外の金融機関が被告に追随して同様の応
答拒否等を行う可能性も十分あるから,本件応答拒否によって原告の事
業活動が困難となるおそれがあるというべきである。④被告の顧客は,
本件応答拒否によって原告の設置したATM等を利用することができな
くなっており,他の金融機関の顧客も原告の設置したATM等の利用を
避けるようになると想定されるから,本件応答拒否は,ATM等利用者
の利便性を著しく侵害する行為に該当する。⑤本件応答拒否には,客観
的にみて競争促進的なビジネス上の正当化事由は存在しない。
ウしたがって,被告による本件応答拒否は,公正競争阻害性を有するも
のであり,独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項所定の不当な取引
拒絶に該当するというべきである。
(2)被告の主張
ア原告がP19事業の展開を始めた後,原告のATM等を利用して現金
の払出しを行う被告の顧客が増加したため,それまでは原告の支払額と
ほぼ拮抗していた被告の原告に対する銀行間利用料の支払額は、徐々に
増加し,平成20年7月には,平成18年7月時点の3.35倍(月額
5833万9365円)に達した。被告は,原告に対する銀行間利用料
の支払額が著しく増加したため,銀行間利用料の引下げを求めて2年間
にわたって原告と協議,交渉を続けたものの,合意に達しなかったこと
から,本件解約に至ったものであり,本件解約には正当な理由があると
いうべである。
イ以上のとおり,被告が本件解約により本件委託契約が終了したのに伴
って本件応答拒否をしたことには,正当な理由があり,何ら公正競争阻
害性を有するものではない。したがって,本件応答拒否は,独占禁止法
2条9項6号イ,一般指定2項所定の不当な取引拒絶には当たらない。
4争点3(独占禁止法24条所定の差止要件の有無)に関する当事者の主張
(1)原告の主張
ア原告は,本件応答拒否によって,被告の顧客から得ていた時間外手数
料等の顧客手数料収入を失ったばかりか,ATM等の設置提携先から提
携解消等の申入れを受け,ATM等の撤去を余儀なくされた。また,被
告による本件応答拒否が是認された場合には,他の金融機関がこれに追
随して同様の行為に及ぶ可能性も十分あるから,原告は,P19事業を
継続することができなくなるおそれがある。
イしたがって,原告は,本件応答拒否によって利益侵害を受け,著しい
損害を被るおそれがあるから,独占禁止法24条に基づき,被告に対し
て本件応答拒否の停止等を求める差止請求権を有する。
(2)被告の主張
独占禁止法24条所定の差止要件の充足に関する原告の主張は争う。
5争点4(債務不履行又は不法行為の成否)に関する当事者の主張
(1)原告の主張
ア本件応答拒否は,本件基本合意等又は本件委託契約に基づく債務の不
履行に該当する。
イまた,被告は,故意又は過失により本件応答拒否を行ったものである
ところ,本件応答拒否は,原告の上記契約上の権利を侵害するとともに,
独占禁止法19条にも違反する行為であるから,原告に対する不法行為
を構成する。
(2)被告の主張
本件解約及び本件応答拒否は,正当な理由に基づくものであって,独占
禁止法上の不当な取引拒絶にも該当しないから,債務不履行や不法行為は
成立しない。
6争点5(損害額)に関する当事者の主張
(1)原告の主張
原告は,被告の債務不履行又は不法行為によって,次の損害を被った。
ア原告は,被告の顧客が原告保有のATM等を利用した際に支払われる
顧客手数料(時間外手数料及び振込手数料)によって年額7935万0
392円(日額21万7400円)の粗利益を得ていたところ(なお,
他行から支払われる銀行間利用料は,ATM等の維持管理費用として原
告から他社にそのまま支払われる仕組みになっている。),本件応答拒
否の後,顧客手数料を得られなくなったため,日額21万7400円の
損害(逸失利益)を被っている。
イ原告は,本件応答拒否の後,被告発行のCDカードが利用不能となる
ことによる混乱を最小限に抑えるため,種々の措置を講じざるを得なく
なり,150万円の損害(①ATM等の本体に貼る告知用ステッカーの
作成費用40万円,②上記ステッカーの貼付費用60万円,③ATM画
面の情報更新費用50万円の合計額)を被った。
ウ原告は,本件応答拒否の後,平成22年10月末までの間に,別紙1
(損害一覧表)記載の79台のATM等について,顧客利便性が著しく
低下したという理由で,同別紙の「損害発生日」欄記載の日の前月中に
提携契約を解除され,又は撤去することを余儀なくされた。上記79台
の撤去等の直前3か月間の平均粗利益額は,同別紙の「1台当り収益/
日」欄記載のとおりである。したがって,原告は,遅くとも上記「損害
発生日」欄記載の各日以降,上記平均粗利益額相当の損害(逸失利益)
を被っている。
エ原告は,被告に対して少なくとも1億8216万1496円(前記ア
の損害1億5783万2400円,前記イの損害2282万9096円
及び前記ウの損害150万円の合計額)の損害賠償請求権を有している
ところ,これを行使するために本件訴訟の提起,追行を原告訴訟代理人
に委任したものであるから,その約10%に相当する1700万円の損
害(弁護士費用)を被った。
(2)被告の主張
損害額に関する原告の主張は争う。
第4当裁判所の判断
1前記第2の2の事実,証拠(甲16,193,194,199,乙43,
44,証人P20,証人P21及び後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
(1)我が国における金融機関のCDオンライン提携の経緯について
ア我が国においては,昭和40年代から,顧客(預金者)の利便性の向上
等を目的としてATM等の設置が進められ,昭和50年頃からは,同一
地域内の金融機関の間でCDオンライン提携を進める動きが広まった。
昭和55年頃からは,都市銀行,地方銀行,P2銀行(当時はP12銀
行),信用金庫,信用組合等の業態ごとに,業態内でのCDオンライン
提携が進められたが,昭和59年3月に郵便貯金の全国オンラインネッ
トワークシステムの運用が開始されたのを受けて,これに対抗するため,
民間金融機関の間で,業態の垣根を越えた提携に向けて検討,協議が重
ねられた。(甲9,125)
イ被告を含む都市銀行13行とP10銀行協会に加盟する地方銀行64
行は,昭和63年2月29日,オンライン現金自動支払機に関する合意
をし,同年7月8日には,オンライン現金自動支払機の相互利用に関す
る基本契約を締結した上,平成元年11月1日,P1運営機構を設立し,
P1運営規約及びP1取扱規則を定めた。P1運営機構は,業態間にお
けるCDオンライン提携の中継業務の円滑な運営を図ることを目的とし
て設立された組織であり,P1運営規約によって,P1運営機構を通じ
てCDオンライン提携を行っている業態に所属する金融機関がP1運営
機構に加盟する資格を有するものとされている。平成2年2月には,P
1運営機構を通じて,都市銀行の業態内オンライン提携網であるP14
とP10銀行協会の業態内オンライン提携網であるP24サービス(以
下「P25」という。)の接続が開始され,同年5月には,P14とP
2銀行協会の業態内オンライン提携網であるP16及び信託銀行の業態
内オンライン提携網であるP26(以下「P27」という。)との間並
びにP25とP16との間でそれぞれCDオンライン提携が始まった。
(甲3,4,9,125,乙3~10,24,25)
ウその後,信用金庫,信用組合,労働金庫,農業協同組合並びに長期信
用銀行及びP28金庫(以下「P28」という。)等の各業態内オンラ
イン提携網も,P1運営機構を通じて接続するようになり,現在では,
これらの業態に所属する1400以上の金融機関がP1運営機構に加盟
している。もっとも,P1運営機構に加盟している金融機関が全て相互
にCDオンライン提携を行っているわけではなく,長期信用銀行の業態
に属する新生銀行,P29銀行及びP28は,P1運営機構に加盟して
いるものの,都市銀行及び信託銀行以外の業態とはCDオンライン提携
を行っていない。また,金融機関の間におけるCDオンライン提携が全
てP1運営機構を通じて行われているわけではなく,株式会社P30銀
行(以下「P30銀行」という。),P22銀行,P31銀行,P32,
P33銀行,P34銀行,P35銀行,P36銀行等は,P1運営機構
に加盟せずに,それぞれ個別に各金融機関との間でCDオンライン提携
を行っている。(甲9,125)
(2)原告と被告との間のCDオンライン提携の経緯について
ア被告を含む都市銀行13行とP3銀行を含むP2銀行協会(当時は社
団法人P12銀行協会)の加盟行68行は,昭和63年10月31日,
本件基本合意をした。本件基本合意においては,①都市銀行とP2銀行
協会加盟行は,それぞれが保有するATM等を相互に利用し,現金支払
業務及び残高照会業務を行う(1項),②上記業務の取扱店舗は,AT
M等を設置した営業所及び代理店のうち,都市銀行及びP2銀行協会加
盟行がそれぞれ定めたものとする(2項),③上記業務を行うためにP
11を介してP14とP16双方のオンラインセンターを回線で接続す
る(5項),④被仕向銀行(CDカードを発行した銀行)が仕向銀行
(ATM等を設置した銀行)に対して銀行間利用料を支払う(7項)な
どとされていた。(甲1)
イその後,被告を含む都市銀行12行とP3銀行を含むP2銀行協会の
加盟行68行は,平成2年4月13日,本件基本契約を締結した。これ
を受けて,P3銀行を含むP2銀行協会の加盟行は,同年5月14日,
P1運営機構に加盟した。
本件基本契約においては,①都市銀行とP2銀行協会加盟行は,それ
ぞれが保有するATM等を相互に利用し,現金支払業務及び残高照会業
務を行う(1条),②上記業務の取扱店舗は,ATM等を設置した営業
所及び代理店のうち,都市銀行及びP2銀行協会加盟行がそれぞれ定め
たものとする(2条),③上記業務の円滑な運営を行うために必要な事
項についてはP1運営規約による(3条2項),④上記業務を行うため
にP1運営機構が管理,運営するP11を介してP14とP16の各オ
ンラインセンターを回線で接続する(4条),⑤被仕向銀行が仕向銀行
に対して銀行間利用料を支払う(7条),⑥上記業務の取扱いは,P1
取扱規則による(8条)などとされていた。(甲1~4,9,125,
乙3~11,24,25)
ウ本件基本契約を締結した各行は,それぞれ他行発行のCDカードを使
用して自行のATM等による現金の払出しが行われた場合に他行から徴
収する銀行間利用料の額を個別に定めて他行の承認を得るとともに,こ
の場合,現金払出しの窓口となった銀行が当該払出しを行った顧客から
顧客手数料を徴収することになることから,顧客手数料を変更するたび
にその内容を他行に通知してきた。
P3銀行も,平成2年4月20日,被告に対し,①被告に請求する銀
行間利用料を1件当たり103円(税込み。ただし,1件当たりの払出
金額が11万円を超える場合には2件として計算する。)とする,②同
月27日までに被告から特段の申出がない場合には,これが承諾された
ものとする,③これが承諾された場合には,被告に対しても同額の銀行
間利用料を支払う旨の申入れをするとともに,被告発行のCDカードに
よりP3銀行のATM等を利用して現金払出しが行われた場合には,顧
客から1件当たり103円(ただし,平日午後6時以降及び土曜日午後
2時以降は206円。いずれも税込み。)の顧客手数料を徴収する旨を
通知した。上記申入れに対して被告から特段の申出はなかったため,同
月27日,P3銀行と被告との間で,相互の銀行間利用料を上記申入れ
の内容どおりとする旨の合意が成立した。
その後も,P3銀行は,平成3年9月22日に日曜日のオンライン提
携が開始された際,平成9年4月1日に消費税率が引き上げられた際,
平成10年10月5日にP1運営機構におけるCDオンライン提携の平
日稼働時間延長及び祝日稼働が行われた際等において,被告に対し,上
記申入れと同様の申入れを行い,被告との間で,相互の銀行間利用料に
関する合意を成立させてきた。(乙12~17,19,32)
エその後,P1運営機構におけるシステムの接続は,前記アのP11で
はなく,P17が提供するP18サービスを利用して行われることにな
ったため,平成16年1月4日,P1運営規約及びP1取扱規則の改定
が行われた。これに伴い,本件基本契約の条項も,①都市銀行とP2銀
行協会加盟行は,それぞれが保有するATM等を相互に利用し,現金支
払業務及び残高照会業務を行うため,P17が提供するP18サービス
を利用する(4条),②銀行間利用料は,都市銀行とP2銀行協会加盟
行の間でそれぞれ個別に定める(7条)などと改められたが,P18セ
ンターへの切替えに合わせた改定や字句の修正にとどまり,従前の枠組
みを変更するような内容ではなかった。(甲3,4,乙18)
オ被告を含む都市銀行7行と,P3銀行から営業の全部譲渡を受けた原
告を含むP2銀行協会加盟行は,他行カード振込業務についてもCDオ
ンライン提携を始めることとし,平成17年4月28日,本件振込基本
契約を締結した上,同日,振込取扱規則を定めた。本件振込基本契約に
おいては,①都市銀行及びP2銀行協会加盟行は,それぞれが保有する
ATM等による振込みにおいて,それぞれが発行するCDカードを使用
して,振込資金等の口座からの引落し及びその他付随する業務を行う
(1条),②上記業務の取扱店舗は,ATM等を設置した営業所及び代
理店のうち,都市銀行及びP2銀行協会加盟行がそれぞれ定めたものと
する(2条),③上記業務を行うためにP18サービスを利用する(4
条),④上記業務にかかる銀行間利用料については,各提携銀行間で個
別に定める(7条),⑤上記業務の取扱いは,別に定める取扱規則によ
る(8条)ものとされていた。原告と被告は,本件振込基本契約の締結
後は,前記ウと同様に,相手方の承認の下,他行カード振込業務を行っ
た場合の銀行間利用料を相互に定めた上で,他行カード振込業務を行っ
てきた。(甲5,124の2)
(3)原告によるP19事業の展開について
ア原告は,平成16年5月,コンビニやスーパー等の業者と提携し,全
国各地のコンビニやスーパー等で自行ATM等の設置を進めるとともに,
それまでは,①時間内(平日午前8時45分から午後6時まで及び土曜
日午後2時まで)は100円(税別),②時間外(平日の午前8時45
分まで及び午後6時以降,土曜日午後2時以降並びに日祝日)は200
円(税別)としていた他行顧客から徴収する顧客手数料を引き下げ,①時
間内は無料,②時間外は100円(税別)とするP19事業の展開を始
めた。(甲167,195~198,乙19,32)
イ原告のP19事業は,次のような仕組みを前提としたものであった。
(ア)原告は,コンビニやスーパー等の業者(以下「設置提携先」とい
う。)と提携し,設置提携先のコンビニ店舗等に自らを設置者とする
ATM等を無償で設置させてもらうとともに,これを開発したP37
株式会社(以下「P37」という。)に対し,上記ATM等の運用業
務を委託する。
(イ)原告は,上記ATM等を利用する顧客から顧客手数料(時間外手
数料,クレジット手数料及びP22銀行手数料)を徴収するとともに,
当該利用が他行発行のCDカードによるものである場合には,他行か
ら銀行間利用料の支払を受ける。この場合,原告は,P37に対し,
ATM等運用業務の委託費用として,他行払出し1件当たり100円
(ただし,ATM等開設後9か月以内の時間外他行払出しについては
200円。いずれも税別。)を支払う(なお,100円のうち28円
は,P37を通じて,同社の関連会社であって警備・警送業務を担当
するP38株式会社に支払われる。)。また,上記ATM等において
クレジット会社やP22銀行から原告に対して手数料が支払われるよ
うな取引が行われた場合には,当該手数料の一部についても,原告か
らP37等に対する委託費用として支払われる。
(ウ)他方,設置提携先は,P37との合意に基づき,P37に対し,
上記ATM等のレンタル料や保守費用等を支払うが,上記ATMの利
用件数が一定以上に達した場合には,P37から,利用件数に応じた
キャッシュバックを受ける。(甲134,167,195~198,
乙32)
ウ原告のP19事業においては,前記イのとおり,設置提携先のコンビ
ニ店舗等に無償でATM等を設置させてもらい,設置提携先において,
P37に対してATM等のレンタル料等を支払うものとされていた上,
原告がP37等に支払う委託費用の単価は,P1運営機構に加盟してい
る大多数の金融機関の間で採用されている銀行間利用料と同額に設定さ
れており,実質的には,他行から支払われる銀行間利用料をそのまま上
記委託費用の支払に充てることが予定されていた。このため,原告は,
ATM等を設置する場合に通常必要となる費用(設置場所の賃料や電気
代,ATM等本体の費用,設置工事費,現金等の補填回収費用,警備費
等)を大幅に削減することができるものと見込んでいた。(甲167,
195~198,乙32)
エ原告は,P19事業を開始した後,株式会社P39や株式会社P40
(以下「P40」という。)等を初めとするコンビニ業者等との提携を
進め,設置提携先のコンビニ店舗等に自らを設置者とするATM等を設
置していった。このため,原告の店舗外ATM等の設置台数は急激に増
加し,それに伴い,他行発行のCDカードによる原告のATM等の利用
件数も大幅に増加した。
原告と被告との間においても,P19事業開始後,原告のATM等を
利用して現金の払出しを行う被告の顧客が増加したため,それまでは原
告の支払額とほぼ拮抗していた被告の原告に対する銀行間利用料の支払
額(原告から支払を受けるべき銀行間利用料の額を控除したもの)は,
平成16年8月頃から,徐々に増加していった。同年1月から平成21
年3月までの間における被告の原告に対する銀行間利用料支払額の推移
は,別紙4のとおりであり,被告が銀行間利用料の引下げを求める前月
(平成18年5月)の支払額は,約1403万円に上った。被告の支払
額は,その後も増加の一途をたどり,同年12月には約3748万円,
平成19年12月には約5384万円となり,本件解約の前月(平成2
0年7月)には,平成18年5月当時の4倍以上である約5834万円,
年間約6億円にまで増大した。これに伴い,被告の銀行間利用料支払総
額に占める原告への支払額の割合も増加し,後記(5)イのとおり,原告
と同様に顧客手数料を無料とする事業を展開していた株式会社P41銀
行(以下「P41銀行」という。)との間で銀行間利用料の引下げが合
意された平成18年12月以降は,約60%から約95%の間で推移し
た。(乙26)
(4)本件解約に至る経緯について
ア被告は,平成18年6月20日,原告に対し,本件提携業務における
銀行間利用料の支払額に不均衡が生じているとして,被告が原告に対し
て支払う銀行間利用料の引下げを求めた。これを受けて,原告と被告と
の間で,2度にわたって面談の機会が設けられたが,被告は,原告から,
設置提携先との協議を理由に具体的な回答を得ることができなかったこ
とから,同年7月31日,同年10月1日をもって本件基本契約に基づ
いて原告に委託しているオンライン提携業務(被告発行のCDカードに
よる原告のATM等を利用して現金の払出し及び残高照会を行う業務)
に係る委託契約を解約する旨を通知した。(甲10,187)
イこれを受けて,原告は,平成18年8月17日,被告に対し,顧客手
数料の有料化を行う方向で検討中である旨を告げた。これに対し,被告
は,顧客手数料の有料化による解決を図った場合には,公正取引委員会
との関係が懸念されることを伝えた上で,原告との対話を続ける旨返答
した。(甲187)
ウところが,平成18年9月1日のP42新聞において,原告が顧客手
数料を有料化する方針であることが報じられた。原告のP19事業では,
設置提携先は,P37に対し,レンタル料や保守費用等を支払うものの,
ATM等の利用件数が一定以上に達した場合には,利用件数に応じたキ
ャッシュバックを受けることになっていたため,上記報道後,設置提携
先の間では,利用件数の減少を招くとして,顧客手数料の有料化に対す
る反発が広がった。このため,原告は,顧客手数料の有料化は困難であ
ると判断し,同月19日,被告に対し,顧客手数料を無料としたまま,
銀行間利用料の引下げによる解決を図りたい旨申し入れた。これを受け
て,被告は,翌20日,銀行間利用料を相互に無料化することを提案し
た。これに対し,原告は,同月22日,上記提案を受け入れるのは困難
であると返答し,同年10月16日には,銀行間利用料を80円に引き
下げることを提案した。(甲22,23,187)
エ被告は,原告に通知した委託契約の終了日が到来したことから,平成
18年10月18日,原告の意向を踏まえて本件委託業務の委託を継続
し,銀行間利用料の水準について引き続き協議したいとした上で,同年
12月1日から銀行間利用料を暫定的に21円(税込み)とし,妥結後
に暫定期間中の差額を支払う旨の提案をした。これに対し,原告は,同
年10月26日,銀行間利用料を減額してまでP19事業を継続する意
思はないとして,被告との銀行間利用料の引下げではなく,設置提携先
を説得して顧客手数料を有料化することで解決したいと返答した。一方,
被告は,双方のATM等の設置数や顧客数に照らし,銀行間利用料を2
1円に引き下げることによって銀行間利用料支払額の不均衡の是正が図
られるとして,上記提案の根拠を示した上,銀行間利用料の引下げによ
る最終解決と暫定的な引下げの早期実施を求めた。両者の間では,平成
19年2月末頃まで,銀行間利用料を暫定的に引き下げる旨の合意に向
けた協議が続けられたが,原告が将来顧客手数料の有料化を実施するこ
とを前提とする条項とすることを求めたのに対し,被告がこれを拒否し
たため,折り合いがつかなかった。(甲11~13,131~136,
180,181,187)
オその後,原告は,設置提携先との間で顧客手数料有料化の交渉を行っ
ているとして,被告から面談の申入れを受けない限り,自ら連絡するこ
とはなかった。被告は,平成19年7月31日の面談の際,原告から,
P40等の設置提携先との交渉を継続中である旨の説明を受けたため,
その推移を見守ったが,同年12月11日,上記交渉が不調に終わった
との報告を受けた後も,何ら連絡がなかったことから,平成20年2月
8日,原告に対し,改めて,銀行間利用料を1件当たり21円(税込
み)として本件委託業務を受託できるかどうかについて,早急に回答す
るよう求めた。(甲190~192)
カ原告は,平成20年3月7日,被告に対し,「現時点において弊行が
最大限取り得る措置」とした上で,①設置提携先の協力を得て顧客手数
料を順次有料化し,②その完了までの一時的措置として,被告の顧客が
P40傘下のコンビニに設置されたATM等を利用した場合の銀行間利
用料を73円に引き下げることを提案した。これに対し,被告は,上記
金額では銀行間利用料の不均衡の解消は難しいとして,再度,本件委託
業務を21円で受託することの可否について回答を求めた。その後も,
原告と被告の間で,協議が重ねられたが,合意に至らなかったため,被
告は,同年8月1日付け解約通知書によって,同年11月3日をもって
本件委託契約を解約する旨通告するとともに,被告が原告から受託して
いる業務(原告発行のCDカードを利用して被告保有のATM等による
現金の払出し,残高照会及び振込みを行う業務)については,同月4日
以降も従来と同じ条件で取扱いを継続することを明らかにした。(甲6
~8,14,24~32)
キ原告は,平成20年9月16日,被告に対し,本件解約の効力を争い,
本件応答拒否の差止め等を求める仮処分を当庁に申し立てたが、同年1
0月3日,却下決定を受け,これを不服として抗告したものの,同月3
1日,抗告を却下された。(乙2,3)
クその後,被告は,平成20年11月4日以降,本件委託契約に伴う事
務処理を停止した。これに伴い,被告は,自らの顧客が自行発行のCD
カードを使用して原告の設置したATM等により現金払出し,残高照会
又は振込みを行おうとした場合には,本件応答拒否を行っているが,こ
れによってP1運営機構やその加盟行等のCDオンライン提携業務に支
障や混乱は生じていない。
(5)被告と原告以外の金融機関との間における銀行間利用料について
ア被告は,前記(2)ウのとおり,本件基本契約等や昭和63年に締結し
た前記(1)イのオンライン現金自動支払機の相互利用に関する基本契約
等の締結行との間で,相互の銀行間利用料の額について個別に合意して
きたところ,このうち,P41銀行との間では相互に1件当たり21円
(税込み),P43銀行との間では相互に無料,P44銀行との間では
相互に一部無料で合意している。(乙42)
イ上記3行のうち,P41銀行は,平成16年頃から,原告と同様に,
ATM等の顧客手数料を無料とする事業を展開していた。被告は,上記
事業の開始後,P41銀行に対する銀行間利用料の支払額が著しく増加
したため,同行に対し,銀行間利用料の引下げを求めて交渉を重ねた。
その結果,被告とP41銀行は,平成18年11月,銀行間利用料を相
互に1件当たり21円(税込み)とする旨合意した。なお,同年10月
には,被告のP41銀行に対する銀行間利用料の支払額は,月額1億円
近くに達していた。
P41銀行は,その後も現在に至るまで,被告との提携関係を維持し
つつ,顧客手数料を無料とする事業も継続しており,平成21年5月に
は,被告との間で,顧客手数料の無料化を実施しているATM等の提携
時間の延長を実施するなどしている。(乙42)
(6)P30銀行と被告とのCDオンライン提携等について
ア一般に,CDオンライン提携における顧客手数料徴求の仕組みは,仕
向徴求方式と被仕向徴求方式の2種類に大別される。
このうち仕向徴求方式は,ATM等設置行(仕向銀行)が顧客手数料
(時間内手数料,時間外手数料及び振込手数料)の額等を定めて自らこ
れを取得する方式であり,P1運営機構の加盟行は,便宜供与として他
行の設置したATM等を利用させてもらうことに伴う費用の負担という
趣旨から,この方式を採用している。この方式においては,CDカード
発行行(被仕向銀行)は,顧客手数料に関して何ら決定権を持たず,こ
れを取得することもできない。この方式の下では,CDカード発行行は,
顧客のATM等利用件数を左右する顧客手数料の決定権を持たず,顧客
のATM等利用件数に応じて銀行間利用料の支払額も変動することにな
ることから,ATM等設置行の定めた顧客手数料体系によって,銀行間
利用料の支払額が大きく左右される結果となる。
これに対し,被仕向徴求方式は,CDカード発行行(被仕向銀行)が
顧客手数料の額等を定めて自らこれを取得する方式であり,金融機関と
提携してコンビニのATM等を運営している株式会社P45(以下「P
45」という。)及び株式会社P46(以下「P46」という。)のほ
か,P30銀行,P22銀行,P33銀行等がこれを採用している。こ
の方式においては,CDカード発行行が顧客手数料についての決定権を
有しており,自己の顧客戦略に従って顧客手数料の額や顧客の取引状況
等に応じた優遇策等を定め,自ら顧客手数料を取得する。この方式の下
では,CDカード発行行は,自らの顧客が他行のATM等を利用した場
合には,当該他行に対して銀行間利用料を支払う必要があるものの,顧
客のATM等利用件数を左右する顧客手数料の決定権を有しているため,
自らの定めた顧客手数料体系に応じて銀行間利用料の支払額も変動する
ことになる。(甲138~140)
イ被告は,平成18年2月28日,P30銀行との間で,共同ATMに
関する業務提携契約を締結し,同行に対して本件委託業務と同様のCD
オンライン提携業務を委託してきた。上記契約においては,被告の顧客
がP30銀行の設置するATM等を利用した場合には,被告は,P30
銀行に対し,ATM利用料(銀行間利用料)を支払う一方,当該顧客か
らは,被告が自ら定めた料金体系に従って顧客手数料を徴収,取得する
ものとされている。被告とP30銀行との間で合意されたATM利用料
(銀行間利用料)は,1件当たり100円(税別)であるが,平成23年
1月1日以降は,月間利用件数に応じた割引制度が導入されている。
被告のP30銀行に対する銀行間利用料の支払額(ただし,被告が取
得する顧客手数料を控除する前のもの)は,本件解約の直前である平成
20年7月時点では月額約6億5700万円であり,平成22年6月時
点では月額約7億9300万円であった。他方,被告がP30銀行の設
置したATM等を利用した自行の顧客から徴収,取得する顧客手数料の
額は,平成21年6月から平成22年6月までの間,概ね2億5000
万円から3億円で推移していた。(乙29,35~42)
ウ被告は,P30銀行の設置したATM等を利用した自行の顧客から徴
収,取得する顧客手数料を①時間内は100円(税別),②時間外は2
00円(税別)としていたが,平成19年3月以降,①時間内は無料,②
時間外は100円(税別。ただし,優遇条件を満たす顧客に対しては終
日無料。)に改めた。このため,被告の顧客は,同月以降,P30銀行
の設置したATM等においても,時間内は無料で現金の払出しを行うこ
とが可能となったが,P30銀行設置のATM等と原告の設置したAT
M等との間には,設置台数,利用時間,サービス内容,顧客手数料,A
TM等の画面や利用明細書の記載内容等の点で,次のような相違が存在
している。
(ア)設置台数
①原告設置のATM等は,2365台前後であるのに対し,②P3
0銀行設置のATM等は,1万5012台である。
(イ)利用時間
①原告設置のATM等は,平日午前8時から午後9時まで及び休日
午前9時から午後5時まで利用可能であるのに対し,②P30銀行設
置のATM等は,原則として24時間,365日間利用可能である。
(ウ)利用可能なサービス内容
①原告設置のATM等では,現金出金(1回10万円以内),残高
照会及び振込み(ただし,P40内に設置されているATM等では振
込みはできない。)が可能であるにとどまるのに対し,②P30銀行
設置のATM等では,現金出金(1回50万円以内),残高照会,振
込み(ただし,P30銀行と個別に振込業務提携をした金融機関の発
行するCDカードによる振込みに限る。),入金,法人カードの利用
及び暗証番号の変更が可能である。
(エ)顧客手数料
①原告設置のATM等では,時間内無料,時間外100円(税別)
であり,振込みについては別途振込手数料が必要とされているのに対
し,②P30銀行設置のATM等では,時間内無料,時間外100円
(税別。ただし,優遇条件を満たす顧客に対しては終日無料。)であ
り,個人顧客が被告の本支店に対する振込みを行う場合には,振込手
数料は不要とされている。
(オ)ATM等の画面や利用明細書の記載内容等
①原告設置のATM等では,原告がATM等の画面や利用明細書の
記載内容等の決定権を有しているため,被告がこれらを自らの広告媒
体として利用することはできないのに対し,②P30銀行設置のAT
M等では,被告がATM等の画面や利用明細書の記載内容等の決定権
を有しており,被告の広告媒体として利用することが可能である。
(甲143,乙29,31の1,35~42)
2争点1(本件解約の効力)について
(1)原告は,P1運営機構の加盟行は本件基本合意,本件基本契約,P1運
営規約,P1取扱規則及び本件振込基本契約に基づいて本件提携業務を行
う債務を負っているところ,本件基本合意等は,P1運営機構の設立を目
的として締結された団体設立契約又はその加盟行を法的に拘束するために
定められた団体規範であるから,これによって生じた加盟行間における本
件提携業務を行うべき債権債務関係を個別に解消することは許されない旨
主張する。
確かに,前記1で認定した事実によると,①本件基本合意や本件基本契
約は,P1運営機構を通じてCDオンライン提携を行っている都市銀行の
業態に属する複数の銀行と,P2銀行の業態に属する複数の銀行との間で
締結されたものであり,②本件基本合意や本件基本契約では,都市銀行と
P2銀行協会加盟行は,それぞれが保有するATM等を相互に利用し,現
金支払業務及び残高照会業務を行い,上記業務の運営や取扱いについては
P1運営規約やP1取扱規則による旨の定めが置かれており,③本件振込
基本契約も,これらの複数の銀行の間で締結され,④本件振込基本契約に
おいても,都市銀行及びP2銀行協会加盟行は,それぞれが保有するAT
M等による振込みにおいて,それぞれが発行するCDカードを使用して,
振込資金等の口座からの引落し及びその他付随する業務を行い,上記業務
の取扱いについては別に定める取扱規則による旨の定めが置かれていたと
いうのであるから,本件基本合意等において,CDオンライン提携関係に
関する基本的な事項が定められていたことは,原告の指摘するとおりであ
る。
しかしながら,他方,前記1で認定した事実によると,①我が国では,
元々,個々の金融機関がそれぞれ自らの顧客(預金者)の利便性の向上等
を目的としてATM等の設置を進めてきたこと,②その後,顧客(預金
者)の利便性を高めるため,業態ごとに業態内の金融機関の間でCDオン
ライン提携を進める動きが広まり,更にこれら業態間のCDオンライン提
携網を接続するためにP1運営機構が設立され,これを介して各金融機関
のCDオンライン提携が行われるようになったこと,③このため,P1運
営機構の加盟行の間では,便宜供与として他行の設置したATM等を利用
させてもらうことに伴う費用の負担という趣旨から,自らの顧客(預金
者)が他行のATM等を利用した場合には,当該他行(ATM等設置行)
において顧客手数料を徴収することを認めるとともに,当該他行に対して
銀行間利用料が支払われる仕組みがとられていたこと,④そこで,本件基
本合意や本件基本契約では,被仕向銀行が仕向銀行に対して銀行間利用料
を支払うものとされ(P18サービスへの切替えに伴う改定が行われた平
成16年以降は,銀行間利用料は都市銀行とP2銀行協会加盟行の間でそ
れぞれ個別に定める旨が明記された。),これを締結した各都市銀行とP
2銀行協会の加盟各行との間で,別途,銀行間利用料について合意される
ことが予定されていたこと,⑤本件振込基本契約でも,他行カード振込業
務に係る銀行間利用料については,各提携銀行間で個別に定めるものとさ
れており,別途,各行間で銀行間利用料の合意が行われることが予定され
ていたこと,⑥現に,本件基本契約を締結した各行は,それぞれ他行の顧
客による現金の払出しが行われた場合に他行から徴収する銀行間利用料の
額を個別に定めて他行の承認を得てきたこと,⑦原告と被告の間でも,本
件基本契約の締結後,相手方の承認の下,相互に相手方の発行したCDカ
ードを使用して自行のATM等による現金の払出しが行われた場合に相手
方から徴収する銀行間利用料の額を定め,本件振込基本契約の締結後は,
同様に,他行カード振込業務を行った場合の銀行間利用料を相互に定めた
上で,本件提携業務を行ってきたこと等を指摘することができる。
これら諸点に照らすと,本件基本合意等は,P1運営機構を通じてCD
オンライン提携を行っている都市銀行の業態に属する複数の銀行と,P2
銀行の業態に属する複数の銀行との間におけるCDオンライン提携に関す
る基本的な枠組みを取り決めた契約であって,これによって直ちに個々の
締結行間で提携業務を行うべき具体的な債権債務関係を発生させるもので
はなく,別途,本件基本合意等を締結した各行の間において,銀行間利用
料について合意することによって初めて,本件基本合意等で定められた上
記枠組みを取り込んだ内容のCDオンライン提携業務に関する準委任契約
が成立し,これに基づき,双方に具体的な債権債務関係が生ずることにな
ると解するのが相当である。そして,上述のとおり,原告と被告は,本件
基本合意等の締結後,相互に相手方の発行したCDカードを使用して自行
のATM等による現金の払出しが行われた場合に相手方から徴収する銀行
間利用料の額を定め,本件振込基本契約の締結後は,同様に,他行カード
振込業務を行った場合の銀行間利用料を相互に定めた上で,本件提携業務
を行ってきたというのであるから,これらによって,被告が原告に対して
相手方の保有するATM等による現金の払出し,残高照会,振込み及びこ
れらに付随する業務を行うことを委託するという準委任契約としての性質
を有する本件委託契約が成立するとともに,原告が被告に対しても上記業
務を委託する同様の性質の委託契約が成立したことになるというべきであ
る。
そうすると,本件基本合意等によって直ちに本件提携業務を行うべき債
権債務関係が発生するということはできないし,以上のような本件基本合
意等の趣旨や内容等に加え,前記1で認定した我が国におけるCDオンラ
イン提携の経緯等の諸事情,殊に,①P1運営機構の加盟行が全て相互に
CDオンライン提携を行っているわけではなく,その中には,一部の加盟
行との間でのみCDオンライン提携を行うにとどまるものもあることや,
②本件解約後,本件応答拒否によってP1運営機構やその加盟行等のCD
オンライン提携業務に格別支障や混乱は生じていないこと等をも併せ考慮
すると,本件委託契約がP1運営機構の加盟行間で締結された本件基本合
意等を前提として締結されたものであるからといって,そのことによって
直ちに本件委託契約を解約することが妨げられるものではないというべき
である。
したがって,原告の上記主張は,いずれにしても採用することができな
い。
(2)次に,原告は,仮に原告と被告との間に本件委託契約という個別の法律
関係が存在するとしても,本件委託業務の処理は受託者である原告の利益
も目的とするものであり,本件基本合意等には期間の定めや解約に関する
規定が存在しないから,被告は本件委託契約についての解除権を放棄した
旨主張する。
しかしながら,前記1,2(1)で認定,説示したところによると,①本
件委託契約は,被告が自行の顧客のために原告の保有するATM等による
現金の払出し,残高照会,振込み及びこれらに付随する業務を行うことを
原告に委託する旨の準委任契約であり,②原告は,本件委託業務を遂行す
ることによって,被告の顧客から顧客手数料を徴収するとともに,被告か
ら銀行間利用料の支払いを受けることができるが,③これらの支払いを受
けるのは,便宜供与として原告の設置したATM等を被告の顧客に利用さ
せることに伴う費用を回収するという趣旨からのものであるというのであ
る。これに加えて,前記1で認定した我が国におけるCDオンライン提携
の経緯や趣旨,目的等を併せ考慮すると,本件委託契約が受託者である原
告に対して一定の利益を確保しようとする目的に出たものであるというこ
とはできないから,委託者である被告は,民法651条により本件委託契
約を解除することができるものというべきである。
また,この点をしばらく措くとしても,本件委託業務は,被告の顧客
(預金者)が他行のATM等を利用して現金の払出し等を行う際に必要と
される業務であり,これを原告に委託するかどうかは,委託者である被告
の顧客戦略に密接に関わるものである。これに加えて,本件委託契約の前
提となる本件基本合意等には,解除権の放棄やその行使の制約等を定めた
規定は見当たらない上,P1運営機構の加盟行が全て相互にCDオンライ
ン提携を行っているわけでもないことは前記1,2(1)で認定,説示した
とおりであるから,本件においては,被告が解除権自体を放棄したものと
は解されない事情があるというべきである。
この点について,原告は,被告による解除権放棄の根拠として,本件基
本合意等に期間の定めや解約に関する規定が存在しないことを指摘するけ
れども,準委任契約が当事者間の信頼関係を基礎とする契約であることに
照らすと,期間の定めや解約に関する規定がないからといって,それのみ
で直ちに解除権が放棄されたとみることはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)また,原告は,本件委託契約は継続的契約に当たるから,契約を継続し
がたい重大な事由又はやむを得ない事由のない限り,これを解約すること
は許されない旨主張する。
確かに,前記1,2(1)で認定,説示したところによると,本件委託契
約は,被告が原告に対して原告の設置したATM等による現金の払出し,
残高照会,振込み及びこれらに付随する業務の委託を目的とするものであ
り,その性質上,ある程度の期間,受託業務を継続して行うことが予定さ
れており,現に,原告は,長年,被告から,上記業務を受託してきたもの
であるから,本件委託契約が継続的契約としての性質を有するものである
ことは否定し難い。
しかしながら,他方,前記1,2(1)で認定,説示したところによると,
①原告と被告は,いずれも銀行であり,相互に相手方の保有するATM等
による現金の払出し,残高照会,振込み及びこれらに付随する業務を委託
する旨の準委任契約を締結し合ってきたものであって,②これらの契約は,
P1運営機構の加盟行の間で締結された本件基本合意等の内容がそのまま
取り込まれたものであったというのである。このような本件委託契約の内
容や締結の経緯等に照らすと,原告と被告は,いずれも自らの経営判断に
基づいて対等な立場で契約関係に入った独立した事業者であり,その間に,
本件提携業務の委託に関する契約関係をめぐる情報の非対称性があるわけ
ではなく,原告の事業が本件委託契約に基づく取引に全面的に依存してい
るといった関係が存するわけでもないというべきである。そうすると,本
件委託契約が期間の定めのない継続的契約であるからといって,これを解
約するのに,契約を継続し難い重大な事由ややむを得ない事由が必要とさ
れる理由はないといわざるを得ない。
もっとも,本件委託契約が継続的契約として当事者間の信頼関係を基礎
とするものであることに鑑みると,これを解約することが信義誠実の原則
に違背する場合には,その効力が否定されることはいうまでもない。
そこで,このような見地に立って本件についてみるに,前記1で認定し
た事実によると,①原告及び被告を含むP1運営機構の加盟行の間では,
便宜供与として他行の設置したATM等を利用させてもらうことに伴う費
用の負担という趣旨から,自らの顧客(預金者)が他行のATM等を利用
した場合には,当該他行(ATM等設置行)において顧客手数料を徴収す
ることを認めるとともに,当該他行に対して銀行間利用料が支払われる仕
組みがとられていたものであり,加盟行が他行から支払われる銀行間利用
料で収益を上げるようなことはおよそ想定されていなかったこと,②とこ
ろが,原告は,上記のような費用体系を利用し,他行から支払われる銀行
間利用料でATM等の委託費用を賄うことを前提として設置提携先のコン
ビニ店舗等に無償でATM等を設置させてもらい,他行顧客の顧客手数料
を無料にして他行顧客を自行のATM等に誘引するP19事業を始めたこ
と,③その結果,原告のATM等を利用する被告の顧客が増加したため,
それまでは原告の支払額とほぼ拮抗していた被告の原告に対する銀行間利
用料の支払額は,増加の一途をたどり,本件解約時点では,交渉開始当初
の4倍以上,年間約6億円もの水準に達するという想定外の事態が生じ,
そのまま本件委託契約関係を継続した場合には,被告のみが一方的に多大
な支出の累積を甘受しなければならない状況に陥ったこと,④このため,
被告は,平成18年6月20日,原告に対し,銀行間利用料の引下げを求
めて交渉に入ったが,原告側において,顧客手数料有料化の方針を伝える
一方,銀行間利用料の引下幅の縮小を求めるなど,基本的な姿勢が定まら
ず,2年以上にわたって協議が続けられたものの,結局,銀行間利用料の
引下額をめぐって折り合いがつかず,合意に達しなかったことから,本件
解約に及んだものであること,⑤本件委託契約には,期間の定めはなかっ
たが,被告は,本件解約に当たり,なお原告に契約終了に向けた準備のた
めの猶予を与えるため,3か月強の予告期間を設け,その満了によって初
めて本件解約の効力を発生させることにしたこと等を指摘することができ
る。
これら諸点に照らすと,本件委託契約が継続的な契約関係であることを
十分考慮してみても,本件解約が信義誠実の原則に違背するものでないこ
とは明らかというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4)以上のとおり,本件解約は有効であり,原告と被告との間の本件委託契
約は,本件解約により終了したから,本件委託契約に基づいて原告の指摘
するような本件電文送信を行うべき義務が被告に生ずる余地はない。した
がって,原告の被告に対する本件基本合意等又は本件委託契約に基づく債
務の履行請求(請求の趣旨第1の1)は,いずれにしても理由がない。
3争点2(本件応答拒否の一般指定2項該当性の有無)について
(1)独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項は,「不当に,ある事業
者に対し取引を拒絶」することをもって,不公正な取引方法(不当な取引
拒絶)としている。
一般に,事業者は,取引先を選択する自由を有しているから,事業者が
価格,品質,サービス等の要因を考慮して独自の判断によって他の事業者
との取引を拒絶した場合には,これによって,たとえ相手方の事業活動が
困難となるおそれが生じたとしても,それのみでは直ちに公正な競争を阻
害するおそれがあるということはできないから,不当な取引拒絶には該当
しないというべきである。もっとも,例えば,市場における有力な事業者
が競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するた
めの手段として取引拒絶を行い,このため,相手方の事業活動が困難とな
るおそれが生じたというような場合には,このような取引拒絶行為は,も
はや取引先選択権の正当な行使であると評価することはできないから,公
正な競争を阻害するおそれがあるものとして,一般指定2項に該当すると
いうべきである。
(2)この点について,原告は,被告の意向に逆らってP19事業を継続して
いた原告をATM等役務提供市場から排除するという独占禁止法上不当な
目的を達成するために本件解約の上で本件応答拒否を行ったものであるか
ら,本件応答拒否は公正競争阻害性を有する旨主張する。
確かに,前記1で認定した事実によると,①原告がP19事業を開始し
た後,他行発行のCDカードによる原告のATM等の利用件数が増加した
ため,②被告は,原告に対し,銀行間利用料の引下げを求め,最終的に本
件解約に至ったものであり,③この間の両者の交渉過程では,原告による
顧客手数料の有料化による解決が検討されたこともあったというのである
から,原告によるP19事業の開始が本件解約に至る契機となったことは,
原告の指摘するとおりである。
(3)しかしながら,他方,前記1で認定した事実によると,①原告は,被告
から銀行間利用料の引下げを求められたのに対し,平成18年8月の時点
では,自ら顧客手数料の有料化を検討中である旨を表明していたこと,②
その後,これが報道され,設置提携先の間で顧客手数料の有料化に対する
反発が広がったことから,原告は,同年9月,被告に対し,銀行間利用料
の引下げによる解決の意向を申し入れ,以来,両者の間で,銀行間利用料
の引下額や引下時期等をめぐる交渉が重ねられたこと,③ところが,原告
は,同年10月には,銀行間利用料を減額してまでP19事業を継続する
意思はないとして,再び被告に対して顧客手数料の有料化の方針を伝えた
こと,④被告は,平成18年8月に原告から顧客手数料の有料化を検討中
である旨を伝えられた当初から,公正取引委員会との関係での懸念を示し
ており,その後の交渉過程においても,顧客手数料の有料化を前提とする
合意を締結することに難色を示していたこと等を指摘することができる。
これら諸点に照らすと,むしろ原告の方が顧客手数料の有料化による解決
に積極的な姿勢を示していたことがうかがわれるのであって,被告が顧客
手数料の有料化によって原告をP19事業から撤退させ,ATM等役務提
供市場から排除する目的を有していたということはできない。
また,前記1で認定した事実によると,P1加盟行である原告と被告と
の間では,仕向徴求方式がとられているため,委託者である被告(CDカ
ード発行行)は,顧客のATM等利用件数を左右する顧客手数料の決定権
を持たず,顧客のATM等利用件数に応じて銀行間利用料の支払額も変動
することになることから,受託者である原告(ATM等設置行)の定めた
顧客手数料体系によって,銀行間利用料の支払額が大きく左右される結果
となるというのである。このような事情の下では,委託者である被告が本
件委託業務の委託報酬に当たる銀行間利用料の支払額を抑制するには,受
託者である原告に対して銀行間利用料の引下げを求めるか,又は本件委託
契約を解約して委託を取り止めるか,いずれかの方法によるしかないこと
になる。ところが,前記1で認定した事実によると,①原告がP19事業
を開始した後,原告のATM等を利用して現金の払出しを行う被告の顧客
が増加したため,被告の原告に対する銀行間利用料の支払額は,増加の一
途をたどり,②このため,被告は,平成18年6月20日,原告に対し,
銀行間利用料の引下げを求め,2年以上にわたって交渉を続けたものの合
意に達しなかったことから,本件解約に至ったものであって,③被告の原
告に対する銀行間利用料の支払額は,この間に4倍以上に増大し,年間約
6億円もの水準に達していたというのであるから,被告が本件解約に至っ
たことには正当な理由があるというべきである。
(4)これに対し,原告は,被告の不当な目的を裏付ける事情として,被告が
提案した1件当たり21円(税込み)という銀行間利用料の額には合理的
根拠がなく,原告においてこれを受け入れることはP19事業の仕組みと
の関係で不可能であり,被告もこれを認識していたことを指摘する。
しかしながら,前記1で認定した事実によると,①P41銀行もATM
等の顧客手数料を無料とする事業を展開しているところ,②被告は,同行
に対しても銀行間利用料の引下げを要請し,③同行は,これに応じて銀行
間利用料を21円(税込み)に引き下げた後も,被告との提携関係を維持
しつつ,顧客手数料を無料とする事業も継続し,更に被告との提携時間の
延長等を実施しているというのであるから,このような事情も踏まえれば,
1件当たり21円という銀行間利用料がおよそ不合理なものであると断じ
ることはできない。また,前記1で認定したとおり,原告のP19事業に
おいては,他行から支払われる銀行間利用料をそのままP37に対する委
託費用の支払に充てること等が予定されていたからといって,被告におい
て,このような仕組みが成り立つような金額を銀行間利用料として原告に
支払い続けることを甘受しなければならない理由はないというべきである。
(5)また,原告は,被告の不当な目的を裏付ける事情として,被告がATM
等の顧客手数料を無料とする事業を展開しているP30銀行に対してCD
オンライン提携業務を委託し,月額約6億4719万円(平成20年6月
~10月の平均額)の銀行間利用料の支払を行っているが,原告とP30
銀行との間にはATM等のサービス内容に実質的な差異はないことを指摘
する。
しかしながら,前記1で認定した事実によると,①P30銀行設置のA
TM等と原告の設置したATM等との間には,設置台数,利用時間,サー
ビス内容,顧客手数料,ATM等の画面や利用明細書の記載内容等の点に
おいて,様々な相違があるのみならず,②被告とP30銀行との間では,
委託者である被告(CDカード発行行)が顧客手数料についての決定権を
有し,自己の顧客戦略に従って顧客手数料の額や顧客の取引状況等に応じ
た優遇策等を定め,自ら顧客手数料を取得することができるものとされて
いるため,③被告は,顧客のATM等利用件数を左右する顧客手数料の料
金体系を変更することによってP30銀行に対する銀行間利用料の支払額
を変動させることが可能であり,④P30銀行のATM等を利用した顧客
から,顧客手数料(時間内手数料,時間外手数料及び振込手数料)を徴収,
取得することもできるというのであるから,被告がP30銀行との間では
CDオンライン提携業務の委託を続けたからといって,このことをもって,
本件解約が不当な目的で行われたことを裏付ける事情であるということは
できない。
(6)次に,原告は,被告の不当な目的を裏付ける事情として,被告が銀行間
利用料の支払額が1億円にも達していたP41銀行との間では銀行間利用
料を21円とする旨合意する一方,これと同時期に原告に対しては銀行間
利用料の無料化を要請したことを指摘する。
しかしながら,被告が原告との交渉の初期段階においてP41銀行との
最終的な合意内容と同一の条件を提示しなかったことが不自然,不合理で
あるとまでいうことはできない。
(7)さらに,原告は,被告の不当な目的を裏付ける事情として,本件解約が
行われた平成20年11月以降も,被告における銀行間利用料の支払超過
が解消されていないことを指摘する。
しかしながら,前記1で認定した事実によると,①本件解約の前月には,
被告の原告に対する銀行間利用料の支払額は,月額約5834万円,年間
約6億円の水準に達しており,②被告における銀行間利用料の支払総額の
約60%から約95%の間を占める状態が続いていたというのであるから,
前記(3)で説示した諸事情をも併せ考慮すると,被告の銀行間利用料の支
払超過が本件解約後も続いているからといって,本件解約が不当な目的で
行われたことを裏付ける事情であるということはできない。
(8)以上のとおり,被告が本件解約により本件委託契約が終了したのに伴っ
て本件応答拒否をしたことについて,公正競争阻害性があるということは
できず,独占禁止法2条9項6号イ,一般指定2項所定の不当な取引拒絶
に当たるということはできない。したがって,原告の被告に対する独占禁
止法24条に基づく差止請求(請求の趣旨第1の3)は,その余の点につ
いて判断するまでもなく,理由がない。
4争点4(債務不履行又は不法行為の成否)について
(1)原告は,本件応答拒否は,本件基本合意等又は本件委託契約に基づく債
務の不履行に該当し,原告の上記契約上の権利を侵害するとともに,独占
禁止法19条にも違反する行為として不法行為を構成する旨主張する。
(2)しかしながら,被告には本件基本合意等又は本件委託契約に基づき本件
電文送信を行う義務が存しないことは,前記2で認定,説示したとおりで
あり,また,本件応答拒否が独占禁止法19条に違反するものでないこと
は,前記3で認定,説示したとおりであるから,原告の上記主張は,採用
することができない。
したがって,原告の被告に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害
賠償請求(請求の趣旨第1の2)は,その余の点について判断するまでも
なく,理由がない。
5結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官福井章代
裁判官日置朋弘
裁判官秋吉信彦

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