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平成16年10月29日判決言渡
平成16年(少コ)第1844号 敷金返還請求事件
口頭弁論終結日 平成16年10月22日
判      決
主      文
1 被告は,原告に対し,金24万6525円及びこれに対する平成16年7月11日から支払済みまで
年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金32万円及びこれに対する平成16年7月11日から支払済みまで年5パ
ーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告と被告との間の,平成11年1月21日締結の東京都品川区ab-c-d-e号室についての
賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に基づき,原告が被告に交付した敷金32万円の
原告から被 告に対する返還請求。
2 争 点
(1)原状回復の特約及びクリーニング代の借主負担等の特約が有効かどうか
(2)本件原状回復等の各項目について原告負担が相当かどうか
第3 当裁判所の判断
1 原状回復義務について
(1)そもそも建物賃貸借においては,通常の使用によっても建物及びその付属設備等が時の経過に
よって古くなり,減価していくものであって,賃貸借はそのような減価の進行する期間,その建物
を賃借人に使用させる賃貸人は,その対価として家賃を受け取っているのであるから,通常の
使用によって生ずる損耗・汚損(通常損耗)は本来家賃でカバーされているものといわれている
(家賃は,通常,貸家の減価償却費用,維持・管理費用,家主の利潤の三要素からなるといわ
れる由縁である)。
しかし,私的自治の原則,契約自由の原則から,経年の変化や通常損耗に対する修繕義務
を賃借人に負わせるということも全く不可能というわけでないが,それは賃借人に法律上,社会
通念上の義務と異なる新たな義務を課することになるから,次の要件が備わることが必要と解さ
れる。
ア その特約の必要性があり,暴利的でない等の客観的,合理的理由があること
イ 賃借人が通常の原状回復義務を越えた修繕等の義務を負担することの説明を受け,理
解し,納得していること
ウ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
したがって,賃貸人が特約の存在を主張し,賃借人から特約の有効性が争われれば,当然,賃
貸人がその立証の責めを負うということになる。
(2)まず,本件で争点(1)でいう原状回復については,被告は,その請求根拠として本件賃貸借契約
書20条及び特約事項(1)の乙の負担の項を,また,クリーニングについて26条の各存在を指
摘するところである。
しかしながら,20条は「・・契約が終了したときは,・・原状回復の上・・明け渡す・・」というもの
であるが,原状回復とは,本件建物をリニユーアルして貸したのであるから,賃借人は完全に入
居した当初の状態に戻して返還するということではなく,借主が賃借した当時の原状を変更した
とき,例えば,賃借人が自ら設置したものは取り除く,あるいは,取り外したものは元に戻して返
還しなければならないということであって,本条がそれ以上の意味を持つと読みとることはできな
い。したがって,これは当然のことを定めたものというべきであって,その対象として「本物件及
び別紙付帯設備表において有とした付帯設備」との記載があるとしても,その意味が変わるとこ
ろではない。いわゆる特約の存在と認めることはできない。仮に,本契約が,入居した当初の状
態に戻して返還するという内容であるとすれば,まず,特約の有効性の検討をする必要があるこ
とになるが,5年3か月もの賃貸期間を経て,なお,次の入居者を確保する目的で行う設備の交
換,化粧直しなどのリフォームを賃借人の負担させるというものであるから,民法の基本原則や
旧建設省の委託を受けた財団法人不動産適正取引推進機構が平成10年3月に公表したいわ
ゆるガイドラインの基準を大きく超えるもので,賃借人に著しく不利益となるもので合理性がない
といわざるを得ないことを指摘したい。
次に,同契約書の特約事項(1)の乙の負担の項については,この内容は,賃借人が賃借期
間中に,これらの取替え,補修等を行った場合のその費用負担者としての賃貸人の義務を免除
する趣旨の合意をしたものと解される。
更に,クリーニング費用の負担についての条項には,単に「・・借主負担とし・・」とする合意が
あるが,どういう条件のもとで,費用がどのくらいかかるかも不明な内容の契約であるから,明
確性に欠け,賃借人に著しく不合理なもので合理性がないと言わざるを得ない。したがって,こ
の条項は,合理的解釈のもとではじめて認められるもの,即ち,賃借人が明渡しに当たって通常
求められる掃除やクリーニングをしていない場合にこれを認めるものとし,そのクリーニングの方
法,箇所,その費用が相当であるかどうかを総合して決められるものと解される。
そうすると,被告が本件のいわゆる原状回復費用の請求根拠としている前記各条項が,賃
借人に特別の負担義務を定めた,いわゆる特約条項として特段の意味を持たないから,前記契
約の効力について検討するまでもないこととなる。
2 原状回復等の各項目について原告負担が相当かどうかについて
(1)争点(2)の原状回復等の各項目及びその費用については,原告が賃借した時点の状況,明渡し
時の状況,賃借期間等を前提として,賃借人の通常使用による損耗・汚損の程度(通常損耗か
どうか),経年劣化等によるものか,あるいは賃借人の故意・過失,善管注意義務違反,その他
通常損耗を超える使用による損害に当たるか,その上で,賃借人が負担すべき損害として算定
が相当なものかの検討がされることになる。
(2)本件建物は,昭和63年9月30日に建築され,原告が賃借したのが平成11年1月21日であるか
ら,築後11年弱のものであったこと,原告が賃借して今回明け渡しに至るまで5年3月弱居住し
ていたことは,当事者間の主張から認めることができる。
また,入居した際に取り付けられていた備品,風呂,照明器具等は,新築した際に取り付け
たものであること,本件賃貸借は2回更新しているが,各回とも約定どおり更新料の支払いをし
ていること,しかし,いずれの更新の際にも被告から畳の入れ替えや補修等何ら手を入れてもら
ったことがないこと,以上について当事者間に争いはない。
原告は,入居したときは,和室を除くリビングルーム,各洋間の床には長期賃貸による数多く
の傷が見られたこと,トイレの壁にはピンによる数多くの穴があったことを主張し,今回の明渡し
に当たって,和室を含めて心当たりのない傷,汚れを指摘されているという。これに対し,被告
は,原告に賃貸するに際して,トイレ部分を除き,クロス,カーペットの張り替え,室内塗装等のリ
ニューアルをしており,床は張り替えはしていないが補修,塗装していると主張している。思う
に,原告が長期賃貸による数多くの傷が見られたなどと指摘する点は,築11年余も経過してい
ればそれなりに劣化し,損傷があることは容易に理解できるところであるが,新たに賃貸するに
当たっては,床に傷があれば補修し,塗装を施しているのが通常であり,また,被告が言うクロ
ス,カーペットの張替え,室内塗装等のリニューアルについては,原告の反証のない限り,手入
れされているものと解されるところである。
(3)その上で,被告は,原状回復等の費用として答弁書添付の一覧表(別紙1)のとおりの金額がか
かり,それが合計46万4297円であるから,敷金として預かった金額が32万円であるので,返
還すべき敷金はないと主張するので検討する。
    前記載の認定事実並びに当事者の主張,証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,
被告が請求する前記一覧表のうち,
1 ハウスクリーニング
ハウスクリーニング代は,脱衣所の床の汚れ,洗面化粧台水栓金具の汚れ,防犯シ
ールの剥がし以外にその必要性について立証がないので,これを5000円の限度で認め
る。
2 リフォーム工事
リフォーム工事中1から4までのフロアについては,そもそもの前記の状況に賃借期間
の5年3か月を考慮し,乙第1号証の各該当する写真を照らし合わせると,必ずしもいわ
ゆる自然損耗とは言えない傷も散見され,それらの補修を考慮すると,その損害について
は補修費用の1割の1万6177円の限度で認めるのを相当とする。
同5及び6については,合計1500円につき原告の負担もやむを得ないものと認める。
同7から9については,原告に負担させるのは相当でない。
同10から14については,双方の主張及び乙第1号証の各該当する写真を照らし合わ
せても必ずしも原告負担となる故意過失による損傷,汚れか,いわゆる自然損耗と言わ
れるものか,いずれとも明白でないが,しかしながら,原告は,賃借期間が5年3か月であ
ることから,クロスの耐用年数,減価償却を考慮して,その残存価値を20パーセントととし
て,その限度で原告負担を認める旨述べたので,これをもとに計算すると,原告の負担は
2万4400円となる。
同15から18については,原告に負担させるのは相当でない。
同19については,塗装工事費用の2割の4000円の限度で認めるのを相当とする。
3 その他
その他の1から5については,前記のとおり風呂は原告が入居した際に取り付けられ
ていたものであること,その後の5年3か月を考慮しすれば,原告
負担を認める余地はない。
      同6のシリンダー交換代1万8900円の原告負担については,争いはない。
      同7の原告負担については,前記のとおりこの照明器具はカバーを含めて原告が入居し
た際に取り付けられていたものであること,その後の5年3か月を考慮しすれば,原告負担を認める
のは相当でない。
 3 以上を合計すると原告が負担すべき金額は6万9977円に消費税相当分を加えると7万3475円と
なるので,敷金32万円からこれを控除すると,被告は原告に対して24万6525円の返還義務があるこ
とになる。 
 4 よって,主文のとおり判決する。
      東京簡易裁判所少額訴訟2係
                          裁 判 官 小 林 一 義

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