弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月および罰金八万円に処する。
     ただし、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人鈴木市五郎名義の控訴趣意書に記載されたとおりであ
るからこれを引用し、これに対し次のとおり判断する。
 一、 控訴趣意第一点について、
 論旨は、原判決の法令適用の誤りを主張し、薬事法第四六条第一項と同法第四九
条第一項とは普通法と特別法の関係にあり、本件においては同法第四六条第一項の
適用は排除されるべきであるというのである。
 よつて検討するに、薬事法第四六条第一項は、毒薬又は劇薬について、そのもの
の有する強い毒性や劇性に鑑みて、販売又は授与に際して所定の文書の交付を受け
しめることによつて、譲受人に対し品名、数量、使用の目的等の決定を慎重ならし
めるとともに、譲渡人に対しては譲渡に際し使用の目的の適否を判断し譲受人の品
名の選定、数量の多少等につき誤りのないように配慮することを期待した、趣旨の
規定であると解される。
 しかるに、一方同法第四九条第一項は、副作用が強いとか病原菌に対して耐性を
生じ易いとかいうような医薬品について、、譲受人を限定することによつて素人に
よつて非科学的に使用されることを防止しようとする趣旨の規定であると解され
る。即ち、一方は医薬品そのものの有する毒性、劇性に着目したものであり、他方
はその用法の誤りによる弊害を考慮したものと考えられるのである。しかも、薬事
法第四六条第一項にいう毒薬、劇薬と、同法第四九条第一項にいう厚生大臣の指定
する医薬品とはその範囲が必ずしも一致していないのである。これを要するに右両
規定は、その趣旨、目的、要件を異にしており、両者の違反は一の規定の適用が他
の規定の適用を排除するいわゆる法条競合の関係に立つものではないといわねばな
らない。従つて薬事法第四六条第一項が普通法であり、同法第四九条第一項はこれ
に対する特別法であるとする所論は採用できない。
 論旨は理由がない。
 しかし、職権をもつて調査するに、原判決は、被告人の原判示第一の所為は包括
して薬事法第四六条第一項、第八六条第一項第五号、第八九条に、原判示第二の所
為は包括して同法第四九条第一項、第八四条第一一号、第八九条に該当するとした
うえで、以上は刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるものとしているのである。
右薬事法第四六条第一項と同法第四九条第一項は、その趣旨、目的、要件を異にし
ていて両者の違反がいわゆる法条競合の関係に立つものとは解し難いこと前記のと
おりであるが、右両規定はいずれも各その所定の<要旨>要件を充たさない販売又は
授与を禁じているのである。そして、原判示第一、同第二の各事実はいずれも被
人が有限会社Aの従業者として昭和三九年一一月二五日頃より昭和四〇年
七月五日頃までの間Aにおいて、前後一五回にわたり、B外一名に対し全身麻酔剤
ラボナール注射薬合計二八箱(一箱五〇管入り)を販売したという事実にかかるも
のであつて、両者は適用法条を異にしてはいるが、販売という全く同一の行為であ
るから刑法第五四条第一項前段にいう一個の行為で数個の罪名に触れる場合である
と解するのが相当であるしてみれば原判決が前記のように右を刑法第四五条前段の
併合罪の関係にあるとしたのは、法令の解釈適用を誤つたものでその誤りは判決に
影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。原判決はこの点におい
て破棄を免かれない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 新関勝芳 判事 中野次雄 判事 伊東正七郎)

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