弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴人の当審予備的請求を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取消す、本位的請求として、「被控訴会社の昭和四〇年一
一月二七日の株主総会の左記決議はこれを取消す。
 記
 第一号議案の決議
 A、B両氏所有に係る当社の貸借中の名古屋市a区b町c丁目d番地宅地四六〇
坪を昭和四一年六月三〇日限り返還する。
 第二号議案の決議
 昭和四一年六月三〇日当会社を解散することを内定する。」
 予備的請求として「被控訴会社の昭和四〇年一一月二七日の株主総会の左記決議
は無効であることを確認する。
 記
 第一号議案の決議
 A、B両氏所有に係る当社賃借中の名古屋市a区b町c丁目d番地宅地四六〇坪
を昭和四一年六月三〇日限り返還する。
 第二号議案の決議
 昭和四一年六月三〇日当社を解散することを内定する。」
 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人
は控訴棄却並に当審予備的請求棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述証拠の提出認否は左記のほか原判決事実摘示と同一で
あるからこれを引用する。
 控訴代理人の陳述
 第一
 一、 本件株主総会の決議権数に付いて
 (イ) 発行済株式数二〇、〇〇〇株であるからその過半数一〇、〇〇〇株以上
の出席を要する(無決議権株なし)
 (ロ) 出席株主とされた一五名中既に死者であるC、Dもその株主名簿上の持
株合計五三七五株をもつて決議に加わりそれによつて一六、二二七株の出席があつ
たことは明らかである。(これは被控訴会社は右二死亡者の持株の内三五八四株は
Aにおいて相続し行使したと主張するが、それも不明であるのみならず残り一七九
一株は誰に帰属し行使されたのか不明であり、右二死亡者も生存者として代理出席
していることにより明らかである。)
 (ハ) 右二死亡者は総会出席の代理委任状を作成提出したことになつているが
明らかに虚偽のものである。 (控訴人は右二者が死者であることを知らなかつた
からこれを真正のものとして提出したにすぎない。)
 そしてこの死亡者と全く同一筆跡、同一文書になる他の連名委任者A、E
(B)、同F、同Gの委任状も虚偽のものであると断ずることができる(Aは委任
状に依らず自身出席した)
 以上により議事録上一五名一六、二二七株の出席は事実に反し真実は一〇名五、
五二七株である(一六、二二七株よりC、同潔子、同F、同G、同Dの持株合計一
〇、七〇〇株を除く)、そしてその議決権数はAの二七四四株を控除した二七八三
株であるから発行済株式の過半数の出席のないものである。
 二、 決議について特別の利害関係ある株主の決議参加
 A、同Bは特別の利害関係を有することは明白であるに拘らず決議に加つたもの
であるからこの者の決議権数を控除して結果に影響なき場合に於ても決議は違法で
ある。(東京地裁昭和八年七月一七日判決、法律新聞第三五八七号、名古屋高裁昭
和三〇年九月一四日判決下級民集六巻九号二〇一二頁)
 三、 控訴人の請求原因第三項(イ)(前記引用にかかる原判決事実摘示三、
(イ)に主張した事実は株主総会の決議の方法が法令に違反するか又は著しく不公
正であつたというよりもむしろ決議の内容が法令に違反することであつて当審にお
いて予備的に決議無効確認を申立てた所以である。本件決議に現われた宅地返還が
借地権の放棄ではなく借地権の消滅の結果によるとしてもその消滅を被控訴会社が
進んで是認して宅地上の会社所有の建物の運命には関知しないことは会社の業務の
放棄に等しいことは明白であつて会社の取締役として為すべきことではなく商法上
の責任規定たる法令に違反するものである。
 第二
 一、 現行の借地法は借地上に建物がある場合には期限到来にも拘らずその借地
権の更新請求権を認め(同法第四条)又法定の更新さえ認めている(同法第六
条)。此の規定乃至権利は公益的のものであつて被控訴会社が本件借地上に有する
建物も亦借地権の更新により収益を継続することが唯一の途である。然るに借地期
限の到来を唯一の口実にして進んで借地を返還することとし地上建物を否定するこ
とは被控訴会社としてはなし得ないことである。それを進んでなすと云うことは土
地の所有者が被控訴会社の代表取締役又はその取締役であるからであつて即ち代表
取締役、取締役の利益のみを目的として被控訴会社の生命を絶つととが本件決議の
趣旨と断ずることが出来る。
 二、 被控訴会社の株主総会が本件決議以後更に同一趣旨の決議を繰返しても同
一違法の決議たることには変りはないのであるから本件決議の取消又は無効確認の
利益は存在する。又その違法性、不当性は株式会社にとつては重大顕著であり、綜
合的裁量によりなお違法不当でないと断ずることの事情も存在しない。
被控訴代理人の陳述
 一、 控訴人は本件株主総会の決議の方法が法令に違反し、又は決議の内容が法
令に違反し、従つて右決議は無効又は取消さるべきものであると主張する。
 二、 しかしながら、決議の内容が法令に違反すると主張するがごときは全く理
由がない。即ち第一号議案の決議は被控訴会社の賃借土地の借地期限が昭和四一年
六月三〇日限り終了するのでこれを賃貸人たるA、Bに返還すると云うのであつて
法律上当然の義務を履行する旨の決議は法令上当然のことを決定したに過ぎず何等
の違法はない。第二号議案の決議は被控訴会社は右賃貸人両名の恩情によつて極め
て低廉な地料の支払により命脈を保つて来たのであつて借地期限満了によつて土地
を返還する以上会社存続は不能事であるから右期限到来と同時に会社を解散する旨
を仮に決議し何れ後日正式の解散決議をすることにしたのであつて何等法令に違反
するものではない。
 三、 被控訴会社は昭和四一年六月二一日被控訴会社事務所において臨時株主総
会を開き本件の株主総会で決議した第一号議案の決議と同一の決議及び昭和四一年
六月三〇日解散する旨の決議をした。右決議の方法には何等の違法がなく何人から
も右決議取消の訴の提起はなく確定しているのである。
 四、 以上の事情であるから仮に本件総会の決議の方法に瑕疵があつても今更こ
れを取消しても全く無意味であつて控訴人及被控訴会社の権利の消長に毫末の影響
も生じないのであるからこれが取消を求むることは権利の濫用であつて棄却を免れ
ない。又仮にそうでなくても裁判所は商法第二四七条によつて提起された株主総会
決議取消の訴訟において合理的な判断の下に右取消請求を認容するか否かを決し得
べく、たとえ株式総会招集の手続、又はその決議の方法が違法であつても株主総会
における議事の経過その他から判断してその違法が決議の結果に異動を及ぼすと推
測されるような事情の認められない本件においては控訴人の本訴請求は棄却を免れ
ない。
 証拠として控訴代理人は被控訴会社代表者Aの尋問を求め、乙第五号証の成立を
認め、被控訴代理人は乙第五号証を提出した。
         理    由
 被控訴会社はその肩書地に本店を有し資本金一〇〇万円、発行済株式総数二万
株、株主数四五名の株式会社であつて控訴人は被控訴会社の一〇株の株主であるこ
と、被控訴会社はその招集した昭和四〇年一一月二七日の臨時株主総会において、
第一号議案A、B両氏所有に係る当社の賃借中の名古屋市a区b町c丁目d番地宅
地四六〇坪を昭和四一年六月三〇日限り返還する件、第二号議案昭和四一年六月三
〇日当社を解散する事を内定する件を夫々順次に総会に上提して出席株主一同異議
なく可決されたものとしたことは当事者間争がない。
 <要旨>成立に争なき甲第一号証の一、二、三、乙第一、二号証、原審証人H、I
の各証言、当審における被控訴会社代表者A尋問の結果によれば右総会の決
議においては出席株主(委任状とも)一五名、此の議決権数一六、二二七個の行使
によつて決議されたこと、A、Bの議決権数は被控訴人主張の如く(イ)Aの個有
持株数二、七四四、(ロ)同人の父亡C所有名義株数三、九三五株及祖父亡D所有
名義株数一、四四〇株、此の合計五、三七五株中三、五八四株を相続所有している
のでその相続株三、五八四株、(ハ)B所有株数一、八九五株以上(イ)(ロ)
(ハ)合計八、二二三株であつて右A、Bともに右総会に出席し右両名の右議決権
数八、二二三個は前記出席株主議決権数一六、二二七個に包含されかつ行使された
ことが認められる。
 そして商法第二三九条、三四三条所定の総会の決議をなすには発行済株式の総数
の過半数に当る株式を有する株主の出席を要するところ本件総会の決議においては
総議決権数二〇、〇〇〇個のうち前記の如く一六、二二七個の出席があつたのであ
るから所謂定足数の要件はこれをそなえていたものと謂わなければならない。しか
し、同法第二三九条第五項は総会の決議につき特別の利害関係を有する株主は議決
権を行使することができない旨を規定し、同法第二四〇条は右株主の議決権の数は
出席した株主の議決権の数に算入しない旨を定めているところ前記総会の決議事項
からみて右A、Bは特別の利害関係を有する株主であるからその議決権八、二二三
個は決議に際しては前記出席議決権数一六、二二七個から控除されるべきであり従
つてこれを控除した八、〇〇四個の議決権行使によつて決すべきであるに拘らず前
記の如く利害関係議決権の行使を含めて一六、二二七個の議決権行使によつて決し
たのは決議の方法が法令に違背したものと謂わなければならない。
 然しながら、成立に争なき乙第五号証によると被控訴会社は乙第一号証の前記本
件総会の決議の後再び昭和四一年六月二一日臨時株主総会を開催し第一号議案とし
て昭和四一年六月三〇日被控訴会社を解散する件、第二号議案として乙第一号証本
件総会の前記第一号議案と同一である借地返還の再決定の件を可決する旨の決議を
したこと及び右総会においては総議決権数二〇、〇〇〇個の過半数を占める一八、
一四四個の議決権出席があり、そのうちA、Bの両名及びその議決権を除き九、七
八六個の議決権の行使により、控訴人外三名の議決権計三八個の反対があつたのみ
で他は凡て賛成して決議されたことが認められる。そして此の乙第五号証の総会の
決議に対しては商法第二四八条所定の期間内に何人からも決議取消の訴の提起はな
かつたのであるから右決議は既に取消の方法がなく、従つて右と同一事項の決議を
している本件乙第一号証の総会の決議を取消すことは全くその利益がない。又控訴
人は本件総会の決議の内容が被控訴会社の損失において代表取締役等の利益を図る
ものであるなどいろいろと法令違背を主張するけれども成立に争なき乙第四号証原
審証人Iの証言によつて真正の成立を認め得る乙第三号証、原審証人H、Iの各証
言、当審における被控訴会社代表者A尋問の結果によれば被控訴会社は戦災でその
本業とする製油施設を焼失後復興に難渋し、A、同Bの先々代Dに乞いたまたま戦
災で空地となつていた本件議題の土地を賃借し映画館、飲食店を建ててその家賃収
入で一時の急場を凌ぐべく借地期間も昭和二一年から明確に二〇年と約定して無理
に頼んで右Dの承諾を得たものであり当然右期間満了とともに返還すべきものであ
るうえ、戦後の被控訴会社の製油業は失敗に終り廃業のやむなき状態で、映画館等
の家賃収入月約八〇万円に対しA等に支払う地代約二六万円の差額で被控訴会社の
人件費等経常支出を賄い前記製油事業の損失を補填している状況であるからA等と
しては現下名古屋市中の最も繁華街となりつつある本件議題の土地をその所有者と
してビルデイング等の建設により有効に使用するのは当然の理であり且本件議題の
土地を被控訴会社に貸与した経緯からしてもその期間満了によりこれが明渡を受け
ることを待望していたことは当然であつて本件の決議の内容に違法はないのであつ
てこれを無効とすることはできないから控訴人が右決議の無効確認を求めるのは失
当である。
 以上の如く控訴人の当審予備的の決議無効確認の請求は理由がないからこれを棄
却すべく、本件の決議取消の請求については前記の如く後に同一事項の再決議され
た乙第五号証の総会の決議が既に取消すべく方途がなくその内容も前記説明と同一
理由で無効とさるべき理由あるものではないから結局いまや本件決議取消を求める
利益はなくなつているのであつて棄却を免れない。
 よつて本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い
主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 渡辺門偉男 裁判官 可知鴻平)

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