弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成18年(行ケ)第10077号審決取消請求事件
平成19年1月16日判決言渡,平成18年11月6日口頭弁論終結
判決
原告三星エスディアイ株式会社
訴訟代理人弁理士志賀正武,渡邊隆,村山靖彦,服部妙子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人木村敏康,原健司,唐木以知良,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003−21131号事件について平成17年9月30日にし
た審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告被承継人日本電気株式会社が,名称を「有機エレクトロルミネッセ
ント素子」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審
判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,審判請求
後に特許を受ける権利を承継した原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第4号証)1
出願人:日本電気株式会社
発明の名称:有機エレクトロルミネッセント素子」「
出願番号:特願平11−356683
出願日:平成11年12月15日
()本件手続2
原告は,審判請求後の平成16年3月15日に日本電気株式会社から特許を受け
,,(,)。る権利を承継し同月16日特許庁長官にその届出をした甲第6第7号証
手続補正日:平成15年2月10日(甲第5号証(以下「本件補正」という))。
拒絶査定日:平成15年9月30日
審判請求日:平成15年10月30日(不服2003−21131号)
手続補正日:平成15年10月30日
審決日:平成17年9月30日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成17年10月18日
2本願発明の要旨
審決が対象とした発明本件補正後の請求項1に記載された発明であり以下本(,「
願発明」という。なお,請求項の数は5個である)の要旨は,以下のとおりであ。
る。
「請求項1】陰極と陽極の間に発光層を含む一層または複数層の有機薄膜層を有【
する有機エレクトロルミネッセント素子において,前記有機薄膜層の少なくとも一
層に,一般式(1:)
【化1】
(1)
(式中,R∼Rはそれぞれ独立に水素原子,ハロゲン原子,ヒドロキシル基,112
置換若しくは無置換のアミノ基,ニトロ基,シアノ基,置換若しくは無置換のアル
キル基,置換若しくは無置換のアルケニル基,置換若しくは無置換のスチリル基,
置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,置
換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置
,。換若しくは無置換のアラルキル基置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表す
またR∼Rは,それらのうちの2つで環を形成していても良い。ただし,R∼1121
Rの少なくとも一つは−NArAr(Ar,Arは置換若しくは無置換の芳121212
香属炭化水素基,又は置換若しくは無置換の芳香属複素環基を表す)で示されるジ
アリールアミノ基である。また,ジアリールアミノ基でないR∼Rの少なくと112
も一つは,置換若しくは無置換の炭素数3以上のアルキル基,置換又は無置換のシ
クロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香
族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラ
ルキル基,置換若しくは無置換のアリールオキシ基から選ばれる立体障害基であ
る)で示されるペリレン化合物を,単独もしくは混合物で含むことを特徴とする。
有機エレクトロルミネッセント素子」。
3審決の理由の要点
審決の理由は,要するに,平成15年10月30日付け手続補正につき,特許法
17条の2第4項1∼4号の各事項のいずれを目的とするものでもないから,同項
に違反するとして,同手続補正を却下し,上記2の本願発明を判断の対象とした上
で,本願発明は,特開平11−144869号公報(甲第1号証。平成11年5月
28日公開。以下「刊行物1」といい,これに記載された発明を「刊行物1発明」
。),(。「」。)という特開平8−199162号公報甲第2号証以下刊行物2という
(。。及び特開平11−279426号公報甲第3号証平成11年10月12日公開
以下「刊行物3」という)にそれぞれ記載された発明に基づいて,当業者が容易。
に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができず,本件特許出願は拒絶すべきものであるとした。
審決の理由のうち,本願発明が刊行物1∼3にそれぞれ記載された発明に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたとする部分の説示は,以下のとおりで
(「」,「」,ある審決の本願発明1との表記を本判決の表記に合わせて本願発明に
,「()」,「()またペレリン系化合物との表記は誤記と認められるのでペリレン系
化合物」に,さらに「①」等の符号を表す「1(注:○中1」等を「①」等に,,)
それぞれ改めてある。以下,審決の説示を引用する場合につき同じ。。)
()刊行物の記載事項の認定1
「刊行物1:
ア『請求項1】陽極と,陰極と,これら陽極と陰極との間に発光層を含む少なくとも一層の)【
有機薄膜層とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子において,前記有機薄膜層の少なく
とも一層が下記一般式(1)で示される材料を単独もしくは混合物として含むことを特徴とす
る有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(1)
(式中,R∼Rは,それぞれ独立に水素原子,ヒドロキシル基,置換若しくは無置換のア
ミノ基,ニトロ基,置換若しくは無置換のアルキル基,置換若しくは無置換のアルケニル基,
置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは
無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のア
ラルキル基,置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表す。ただし,R∼Rのうち少な
くとも一つは−NArAr(Ar,Arはそれぞれ独立に炭素数6∼20のアリール基
。)。,,,を表すで表されるジアリールアミノ基であるR∼Rはそれぞれ独立に水素原子
ハロゲン原子,ヒドロキシル基,置換若しくは無置換のアミノ基,ニトロ基,シアノ基,置換
若しくは無置換のアルキル基,置換若しくは無置換のアルケニル基,置換若しくは無置換のシ
クロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素
基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しく
は無置換のアリールオキシ基,置換若しくは無置換のアルコキシカルボニル基,カルボキシル
基を表す。また,ジアリールアミノ基でないR∼RおよびR∼Rは,それらのうちの
2つで環を形成していても良い・・・。)
【請求項3】前記有機薄膜層として正孔輸送層を有し,この正孔輸送層層が前記一般式(1)
で表される化合物を単独もしくは混合物として含むことを特徴とする請求項1又は2記載の有
機エレクトロルミネッセンス素子(特許請求の範囲の請求項1∼3)。』
イ『本発明者らは,前記課題を解決するために実験及び研究を重ねた結果,特定の位置にジ)
アリールアミノ基を有するペリレン化合物を発光材料として用いて作製した有機EL素子は従
来の有機EL素子よりも高輝度発光することを見いだした(段落【)。』】0008
)『()。ウ本発明に係る有機EL素子は前述の一般式1で表される構造を有する化合物である
R∼Rは,それぞれ独立に,水素原子・・・また,R∼Rは,それぞれ独立に,水素
原子・・・置換若しくは無置換のアルキル基としては・・・イソプロピル基・・・t−ブ,,,
チル基・・・2,3−ジブロモt−ブチル基・・・2,3−ジヨードt−ブチル基・・・置換
若しくは無置換のシクロアルキル基としては,シクロプロピル基,シクロブチル基,シクロペ
ンチル基,シクロヘキシル基,4−メチルシクロヘキシル基・・・置換若しくは無置換のアル
コキシ基は,−OYで表される基であり,Yとしては・・・t−ブチル基・・・2,3−ジ,
ブロモt−ブチル基・・・2,3−ジヨードt−ブチル基・・・置換若しくは無置換の芳香族
炭化水素基の例としては,フェニル基・・・o−トリル基,m−トリル基,p−トリル基・・
・置換若しくは無置換のアラルキル基としては,ベンジル基・・・α−ナフチルメチル基・・
・p−メチルベンジル基・・・置換若しくは無置換のアリールオキシ基は,−OZと表され,
Zとしてはフェニル基,1−ナフチル基・・・等が挙げられる(段落【】∼【)。』】00120024
エ『以下に本発明に係る有機EL素子に用いる,一般式(1)で示される化合物の例を挙げ)
るが,一般式(1)で示される化合物はこれらの例に限定されるものではない。
(段落【】∼【)』】00250028
オ『合成例1:化合物(2(3−ジフェニルアミノペリレン)の合成・・・合成例2:)())()
化合物(3(3,10−ビスジフェニルアミノペリレン)の合成・・・合成例3:化合物)()
(4(3,9−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ペリレン)の合成(段落【))』】0037
カ『以上のように,本発明に係る有機EL素子によれば,有機薄膜の構成材料として一般式)
(),。』1で示される化合物を用いることにより従来に比べて高輝度な発光を得ることができる
(段落【)0058】
刊行物2:
キ『)
(:メチル基)Me
・・・
・・・
・・・本発明においては,蛍光性ドーパントとして,これらの化合物を一種用いてもよく,二
種以上を組み合わせて用いてもよい。なお,本発明における蛍光性ドーパントとは,有機EL
素子の再結合領域又は発光領域において,正孔と電子の再結合に応答して光を発する化合物の
ことであり,再結合領域又は発光領域を形成する物質(ホスト材料)に微量含有させるもので
ある。ここで,再結合領域とは,素子中にあって,正孔と電子とが出会い,結合して励起状態
を形成する場所のことである。また,発光領域とは,再結合領域で形成された励起状態は,場
合によっては移動し,拡散するが,その拡散する範囲を指定する場所のことである。
本発明においては,上記蛍光性ドーパントは,再結合領域及び発光領域の少なくともいずれ
か,即ち,再結合領域のみに,発光領域のみに,あるいは両領域に,0.1∼8重量%の割合
で含有させることが必要である。この含有量が0.1重量%未満では蛍光性ドーパントの効果
が充分に発揮されず,本発明の目的が達せられない。一方,8重量%を超えると蛍光性ドーパ
,,。』(【】ント間の会合により消失現象が生じ充分に効果が発揮されない場合がある段落0022
∼【)0030】
刊行物3:
ク『請求項1】会合体の形成を阻害する立体障害基を分子中に少なくとも一つ有するローダ)【
ミン系色素。
【請求項2】立体障害基が,次の1∼4のいずれかの置換基である請求項1記載のローダミン
系色素。
①主鎖の原子数が6以上の長鎖置換基
②少なくとも一つの4級炭素原子を有する置換基
③主鎖中に少なくとも一つの不飽和結合を有し,その不飽和結合をしている炭素原子が少なく
とも二つの核原子数6以上の置換基と結合している置換基
④少なくとも3個以上のハロゲン原子を有する置換基(特許請求の範囲の請求項1及び2)』
ケ『本発明者らは,前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,ローダミン系色素の)
分子内に立体障害基を導入して色素の会合を抑制することにより,高効率で青色光を赤色に変
換することが可能となることを見いだした(段落【)。』】0007
)『,,コ色素は一般に溶液中や樹脂中に高濃度に分散させると色素分子同志が会合体を形成し
蛍光性が著しく減少することが知られている。この現象は,濃度消光と呼ばれている。このよ
うな濃度消光を抑制するには,ローダミン系色素分子の中に立体障害となる機能を有する基を
導入することにより,前記色素の会合を抑制することができる。すなわち,本発明のローダミ
ン系色素の特徴は,その一般式(I)中に少なくとも一つの立体障害基を有することであり,
R∼Rのうち,少なくとも一つが立体障害基であれば良い(段落【)
。』】0013
サ『この様な立体障害基として,以下から選ばれる置換基が好適であることを見出した。こ)
の置換基は,同一であっても良いし,あるいは互いに異なっていても良い・・・前記②の4。
級炭素の数は,通常1∼10であり,好ましくは1∼6である。この具体例としては,t−ブ
チル,アダマンチル,t−ブトキシ・・・等が挙げられる(段落【】∼【)。』】00140017
シ『実施例1(色変換膜の作製,および色変換膜の評価・・・色変換膜を作製した。この)〔〕)
色変換膜をRCCM1とする・・・次に,色変換膜の評価方法を述べる・・・有機EL素子。。
を駆動し,RCCM1を通過して出力された光を色彩色差計(ミノルタ製CS100)にて発
光輝度およびCIE色度座標の測定を行った。その結果を第1表に示す・・・以上の結果よ。
り本発明の色変換膜によれば従来のローダミン系色素を用いた色変換膜RCCM610比,,(〔
較例1〕参照)に比べて,著しく高い色変換効率を有していることが判る。これは,分子内へ
立体障害置換基を導入したことにより分子会合が抑制され,その結果,ローダミン系色素の濃
度消光が低減したためと考えられる・・・。
〔実施例19(有機EL素子の作製,および評価・・・輝度88cd/mの赤色発光であ〕)
。.。〔〕(,ったこの時の発光効率は12lm/Wであった・・・比較例2有機EL素子の作製
および評価)実施例1においてRh−06の代わりにRh610を用いた以外は,実施例19
と同様にして有機EL素子を作製した・・・輝度34cd/mの赤色発光であった。この。
時の発光効率は0.46lm/Wであった(段落【】∼【)。』】00810107
()対比・判断2
「()。,()刊行物1の式1で表される化合物はペリレン化合物であるまた本願発明の式1
の置換基R∼Rは順に,刊行物1の式(1)の置換基R,R,R,R,R,R,
,,,,,,(),RRRRRRに対応するものであり刊行物1の式1の置換基Ar
Arについての『炭素数6∼20のアリール基』とは本願発明の置換基Ar,Arについ
ての無置換の芳香属炭化水素基に相当する。
したがって,本願発明と刊行物1に記載された発明(刊行物1発明)とは『陰極と陽極の,
間に発光層を含む一層または複数層の有機薄膜層を有する有機エレクトロルミネッセント素子
において,前記有機薄膜層の少なくとも一層に,一般式(1(略:本願発明の式(1:式)))(
中,R,R,R∼R,R,Rはそれぞれ独立に水素原子,ハロゲン原子,ヒドロキ
シル基,置換若しくは無置換のアミノ基,ニトロ基,シアノ基,置換若しくは無置換のアルキ
ル基,置換若しくは無置換のアルケニル基,置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換若
しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換
の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しくは無置換のアリールオキ
シ基を表す。R,R,R,Rはそれぞれ独立に水素原子,ヒドロキシル基,置換若しく
は無置換のアミノ基,ニトロ基,置換若しくは無置換のアルキル基,置換若しくは無置換のア
ルケニル基,置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,
置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しく
,。,は無置換のアラルキル基置換若しくは無置換のアリールオキシ基を表すまたR∼Rは
それらのうちの2つで環を形成していても良い。ただし,R,R,R,Rの少なくとも
一つは−NArAr(Ar,Arは無置換の芳香属炭化水素基を表す)で示されるジア
リールアミノ基である)で示されるペリレン化合物を,単独もしくは混合物で含むことを特。
徴とする有機エレクトロルミネッセント素子』である点で一致し,式(1)の置換基につい。
て,本願発明においては『また,ジアリールアミノ基でないR∼Rの少なくとも一つは,
置換若しくは無置換の炭素数3以上のアルキル基,置換又は無置換のシクロアルキル基,置換
若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置
換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しくは無置換のアリールオ
キシ基から選ばれる立体障害基である』とされているのに対し,刊行物1発明においては,。
かかる立体障害基が必須の置換基であるとはされていない点で相違するものと認める。
上記相違点について検討する。
本願発明において発明特定事項である上記立体障害基は,置換若しくは無置換の炭素数3以
上のアルキル基,置換又は無置換のシクロアルキル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,
置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しく
は無置換のアラルキル基,置換若しくは無置換のアリールオキシ基のうちいずれかの基である
が,これらの基は,刊行物1発明においても採用し得るとされている基であり(摘記ア,本)
願明細書中で立体障害基の好適な例として挙げられている置換基(段落【)も,刊行物0030】
1において記載されている置換基である(摘記ウ。そうしてみると,本願発明の立体障害基)
が刊行物1に採用し得る置換基として記載されている基である以上,それらを必須の置換基と
することは格別困難なことではない。
次に,本願発明の効果について検討するに,本願発明は『濃度消光を抑制した高輝度発光の
有機EL素子を提供することを目的とする』ものであり『従来に比べて高輝度な発光が得ら,
れ,本発明の効果は大である』ものであるが(段落【【,一般に,色素が高濃度00080107】,】)
に存在すると,分子同士で会合体を形成し,濃度消光と呼ばれる蛍光性を減少する現象が生じ
ることは刊行物3に(摘記コ,ペリレン系化合物においてもかかる現象が生じることは刊行)
物2に(摘記キ)記載されており,そのような現象は,色素分子に会合を抑制する作用を有す
る立体障害基を導入することで抑制できることも刊行物3に記載されている(摘記ク∼シ)か
ら,立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,高輝度の発光を得ることが予測し
得ない効果であるということはできない。
また,立体障害基の有無のみが異なる化合物の比較において,摘記シによれば,立体障害基
を有する化合物を用いた色変換膜,有機EL素子(実施例1,2,6,19)は,立体障害基
を有しない化合物を用いた色変換膜,有機EL素子(比較例1,2)の少なくとも1.5倍程
度の輝度を有するものであることが刊行物3において示されているのに対し,本願発明の化合
物を用いた有機EL素子においても同程度の輝度比しか得られていない(実施例11:230
0cd/m,同14:2130cd/mに対し,比較例1:1600;実施例12:301
22
0cd/m,同15:3100cd/m,同18:2970cd/mに対し,比較例2:
222
2000cd/m)ことをみても本願発明が格別顕著な効果を奏するものであるということ

はできない。
,,,()なお審判請求人は平成15年10月30日付け審判請求書において本願発明の式1
で表される化合物に濃度消光の抑制の為に刊行物3の化合物で導入されたような立体障害基を
導入した場合,立体反発によって分子間の距離が大きくなり分子間での電荷のやり取りが阻害
されてしまうと電荷注入特性および輸送能が失われ有機EL素子用材料として適さないものと
なってしまうという問題を有している旨等主張するが,刊行物1には,本願発明において立体
障害基であるとされる置換基を有し得る化合物を用いた有機EL素子が高輝度であることが記
載されている(摘記イ,カ)から,刊行物1に記載された化合物にかかる立体障害基を導入し
た場合に,請求人の主張する上記問題が生じると解することはできず,かかる主張は採用する
ことができない。
したがって,本願発明は刊行物1∼3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものである」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
。,1審決が平成15年10月30日付け手続補正を却下した点は争わない審決は
本願発明と刊行物1発明との相違点についての判断を誤ったものであるから,取り
消されるべきである。
2取消事由(相違点についての判断の誤り)
()審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点である「本願発明においては1
『また,ジアリールアミノ基でないR∼Rの少なくとも一つは,置換若しくは112
無置換の炭素数3以上のアルキル基,置換又は無置換のシクロアルキル基,置換若
しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若し
くは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しくは
無置換のアリールオキシ基から選ばれる立体障害基である』とされているのに対。
し,刊行物1発明においては,かかる立体障害基が必須の置換基であるとはされて
いない点」につき,上記立体障害基が「刊行物1発明においても採用し得るとさ,
れている基であり「本願明細書中で立体障害基の好適な例として挙げられている」,
置換基(段落【)も,刊行物1において記載されている置換基である」とし0030】
た上「本願発明の立体障害基が刊行物1に採用し得る置換基として記載されてい,
る基である以上,それらを必須の置換基とすることは格別困難なことではない」と
判断したが,下記のとおり,誤りである。
アすなわち,本願発明は,数ある置換基の中から,典型的には炭素数3以上の
立体障害性を有する置換基を特に選択し,一般式(1)のペリレン化合物に導入し
た点を技術思想の根幹とするものである。このことは,有機化学における技術常識
として,炭素数が3未満の基,例えば炭素数が1のメトキシ基などや炭素数が2の
,,,エトキシ基などはその大きさが小さく十分な大きさのかさ高さを有しないので
立体障害基に該当しないとされていること,並びに,本件補正後の明細書(本件補
正(甲第5号証)によって,特許請求の範囲が変更されたほか,発明の詳細な説明
の段落【【】及び【】が変更され,同【】が削除された後の公0010001100300015】,
開公報(甲第4号証)掲載の明細書である。以下「本願明細書」という)の「課。【
題を解決するための手段】本発明者らは,前記課題を解決するために鋭意検討した
結果,特定のペリレン誘導体に会合状態の形成を抑制する立体障害基を導入した化
合物を発光材料として用いて作製した有機EL素子は,従来の有機EL素子よりも
高輝度発光することを見いだした(段落【「分子間の会合状態の形成を。」】),0009
抑制する立体障害基としては,分子同士の接近を阻害するのに十分な大きさのかさ
高さを有していれば,どのような置換基でも用いることができる・・・中でも好。
適な例として,イソプロピル基,t−ブチル基・・・などが挙げられる(段落,。」
【】),(【】00300031との各記載及びこれに引き続く具体的な化合物例の摘示段落
∼【)に照らして,明らかである。0038】
これに対し,刊行物1には,これに記載された一般式(1)の化合物の置換基
R∼Rとして,立体障害性のある置換基を特に選択し,高輝度発光を得ること112
については記載も示唆もされていない。現に,刊行物1は,置換基R∼Rとし112
て,膨大な数の有機基を挙げているが,その中には,立体障害基として機能しない
置換基も多数含まれている。
したがって,刊行物1に列挙された膨大な数の置換基の例示の中から,典型的に
は炭素数3以上の立体障害性のある置換基を特に選択してみることは,刊行物1の
記載や本件特許出願時の技術常識を勘案しても,当業者が容易に想到できることで
はない。
イ被告は刊行物3のほか新たに提出した特開平9−241629号公報乙,,(
第1号証。以下「刊行物4」という)及び特開平10−110164号公報(乙。
第2号証。以下「刊行物5」という)に基づき,有機EL素子の技術分野におい。
て,一般に,発光材料の化合物に立体障害基(典型的には炭素数3以上の立体障害
性を有する置換基)を導入することにより,濃度消光の問題を解決して,優れた発
光特性を得ることは,本件特許出願当時,周知であり,本件特許出願時の技術常識
を勘案すれば,刊行物1の一般式(1)で示される化合物として例示されたものの
うちから,炭素数3以上の立体障害性を有する置換基を選択することは,当業者に
とって容易になし得ることであると主張する。
しかしながら,刊行物4には,蛍光性ドーパント間の会合による濃度消光を解決
するのに,蛍光性ドーパントの量を8重量%未満に制限することは記載されている
ものの,濃度消光の問題解決のために蛍光性ドーパント分子にかさ高いアルキル基
を導入することが記載されているものではない。また,刊行物5において立体障害
となる置換基を導入する目的は,キナクドリン分子間に特有の分子間水素結合によ
る凝集を避けることにある。したがって,これら刊行物4,5に,高濃度で存在す
る蛍光性ドーパント同士の会合による濃度消光を抑制するために,蛍光性ドーパン
ト分子内に立体障害置換基を導入することが記載されているとはいえないから,そ
の内容は刊行物3を補強するものではなく,また,刊行物3には,後記のとおり,
一般的な発光材料の化合物に立体障害基を導入することで濃度消光の問題を解決す
,「」。ることが記載されているものではないから被告主張の周知技術は存在しない
のみならず,刊行物1には「本発明者らは・・・特定の位置にジアリールアミ,,
ノ基を有するペリレン化合物を発光材料として用いて作製した有機EL素子は従来
の有機EL素子よりも高輝度発光することを見いだした(段落【)との記。」】0008
載がありこのような特定の位置にジアリールアミノ基を有するペリレン化合物た,(
とえば,段落【】の(3)の化合物)が記載されているところ,このようなもの0027
,,においてはペリレン平面間での会合がジアリールアミノ基の存在により妨げられ
その結果会合が起こりにくくなり,有機EL素子の輝度が従来の無置換のペリレン
化合物に比べて向上したと考えられる。そうすると,ジアリールアミノ基が刊行物
3記載の立体障害基と似たような効果を奏しているのであるから,当業者は,ペリ
レン化合物の会合による濃度消光の問題は,ジアリールアミノ基の導入により解消
しているものと考え,このペリレン化合物に,さらに立体障害基を導入しようとす
ることはない。無置換のペリレン化合物にジアリールアミノ基を導入した化合物に
あっても,なお,分子間の会合による濃度消光の問題が存在することを見出したの
は,本発明者が初めてであり,ジアリールアミノ基を導入したペリレン化合物に濃
度消光が起こることは,刊行物1∼3に記載も示唆もされていない。
したがって,刊行物1∼3の記載や出願時の技術常識を勘案しても,当業者が,
ジアリールアミノ基を有するペリレン化合物に,さらに炭素数3以上の立体障害基
を導入することによって,さらに高輝度発光を得ることを容易に予測することはで
きない。
()また,審決は「一般に,色素が高濃度に存在すると,分子同士で会合体を2,
形成し,濃度消光と呼ばれる蛍光性を減少する現象が生じることは刊行物3に(摘
記コ,ペリレン系化合物においてもかかる現象が生じることは刊行物2に(摘記)
キ)記載されており,そのような現象は,色素分子に会合を抑制する作用を有する
立体障害基を導入することで抑制できることも刊行物3に記載されている(摘記ク
∼シ)から,立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,高輝度の発光
を得ることが予測し得ない効果であるということはできない」と判断したが,こ。
の判断は,下記のとおり,刊行物2,3の記載事項を誤認したものであって,誤り
である。
アすなわち,まず,審決は,刊行物2の「本発明においては,上記蛍光性ドー
パントは・・・0.1∼8重量%の割合で含有させることが必要である・・・8,。
重量%を超えると蛍光性ドーパント間の会合により,消失現象が生じ,充分に効果
が発揮されない場合がある」との記載(摘記キ)を挙げて「ペリレン系化合物に。,
おいてもかかる現象(色素が高濃度に存在すると,分子同士で会合体を形成し,濃
度消光と呼ばれる蛍光性を減少する現象が生じることは刊行物2に記載されてい)(
る」としているが,刊行物2における蛍光性ドーパントについての文言を,特に)
ペリレン系化合物にのみ限定するかのように解釈するのは,刊行物2の記載内容を
曲解するものであり,誤りである。
また,刊行物2の特許請求の範囲に記載された一般式(Ⅰ),(Ⅱ)の化合物(蛍光
性ドーパント)は,いずれも,基本骨格に対してペリレンが置換基の一種として導
入されているにすぎないものであり,基本骨格そのものがペリレン化合物である本
願発明とは,化学構造が全く異なるものである。そして,刊行物2における蛍光性
ドーパントは,発光機能を有するものの,電荷の輸送及び再結合の機能を有するも
の(ホスト材料)ではないから,高いキャリア輸送性等の機能を有する本願発明の
ペリレン化合物とは,その機能も異なる。加えて,刊行物2において,その実施例
1∼6に用いられた蛍光性ドーパント「K−1」∼「K−6」は,ペリレンを置換
基として含まないものであり(段落【【【【【,00780021002300260028】,】,】,】,】)
ペリレンは,これら実施例と対比する比較例1に用いられていて,輝度,発光効率
等が,実施例1∼6よりも劣ることが示されている(段落【【。すな00780079】,】)
わち,本願発明は,刊行物2において性能が劣るものとされているペリレンを,あ
えて有機EL素子の光源として使用し,それにより高輝度発光を得ているのである
から(本願明細書・段落【,本願発明の効果は顕著なものであり,当業者が0009】)
予測できるものではない。
イ被告は,刊行物2における蛍光ドーパントと本願発明のペリレン化合物の機
能が異なるとする原告の主張は誤りである旨主張する。
しかしながら,上記主張の根拠として,被告が主張する事項のうち,刊行物1の
(3)の化合物(段落【)と刊行物2の7頁上から2番目に記載された化合物0027】
(以下「刊行物2の特定化合物」又は単に「特定化合物」という)とが,同一化。
学構造のジアリールアミン基を有するペリレン化合物であることは認めるが,刊行
物2記載のペリレン化合物からなる蛍光性ドーパントが「高い正孔輸送性」を有す
るとか,本願発明のペリレン化合物と刊行物2に記載されたペリレン化合物が重複
するという被告の主張は誤りである。
すなわち,刊行物1は,特定の位置にジアリールアミノ基を有するペリレン化合
物が高い正孔輸送性を有することを記載した上,この特定の位置にジアリールアミ
ノ基を有するペリレン化合物に置換してもよい多数の有機置換基を脈絡なく列挙し
ているだけであり,例示のジアリールアミノ基を有するペリレン化合物に,これら
多数の有機置換基を置換したもののすべてが,同様の高い正孔輸送性を有すること
まで記載されているわけではない。また,刊行物2記載の発明は「長寿命かつ高,
効率の有機EL素子を開発すべく・・・素子の正孔と電子との結合領域又は発光領
域の少なくともいずれかに,蛍光性ドーパントとして,特定の化合物を所定の割合
で含有させること(段落【)にしたものであり,このような化合物の例示と」】0006
して,刊行物2の特定化合物が挙げられ,かつ,これらの化合物に「適当な置換基
が導入されていてもよ(い(段落【)とされているにすぎないものであっ)」】0017
て,上記特定化合物が高い正孔輸送性を有することについては,刊行物2に記載も
示唆もない。被告の上記主張は,特定の位置にジアリールアミノ基を有するペリレ
ン化合物が高い正孔輸送性を有するとの刊行物1の記載を,刊行物2に例示として
挙げられているにすぎない特定化合物に当てはめ,さらに刊行物2に例示されてい
る置換可能な多数の置換基の中から,本願発明の置換基と一致する置換基を選び出
して,特定化合物に当てはめたもの,すなわち,いわば二段の論理付けを行ったペ
リレン化合物を,本願発明のペリレン化合物と比較しているのであって,正当な比
較ということはできない。
加えて,刊行物2記載の発明においては,8重量%未満という,濃度消光の問題
が起こらない濃度条件で蛍光性ドーパントを含有させているから,置換し得る置換
基として立体障害基が記載されていたとしても,それは立体障害基を導入して濃度
消光の問題を解決することを意識したものではない。これに対し,本願発明は,濃
度消光が起こるような条件下において,立体障害基を導入し,濃度消光を解決する
ことを目的としているから,刊行物2における蛍光性ドーパントと本願発明に係る
ペリレン化合物とは機能が異なるというべきものである。
ウ次に,刊行物3には,ローダミン系色素分子の中に立体障害となる機能を有
する基を導入することが記載されているが,このローダミン系色素の化学構造は,
本願発明のペリレン化合物とは全く異なるものである。また,刊行物3において,
ローダミン系色素は,光源の光(青色光)を吸収して励起し,その波長を変換して
赤色を発光する機能を有する色変換膜として(実施例1∼18,又は赤色蛍光体)
(いわゆる色素ドーピング材料)として(実施例19)用いられる「色変換のた,
めの色素(段落【)であり,本願発明のペリレン化合物のように,発光材料」】0031
としての機能及び高いキャリア輸送性を有し,有機EL素子の光源として用いられ
ているというものではない。そして,刊行物3記載の発明は,このローダミン系色
素における周知な課題である,会合による濃度消光を抑制するために,ローダミン
系色素分子の中に立体障害となる機能を有する基を導入したものである。
したがって,化学構造及び機能・作用の異なるペリレン化合物に立体障害基を導
入しても,ローダミン系色素の場合と同様に濃度消光が抑制され,その結果高輝度
の発光を得ることができることは,技術常識を参酌してもなお当業者が予測できる
ものではない。
エ被告は,刊行物3の実施例19に記載された有機EL素子と,本願明細書の
実施例38に記載された有機EL素子とを対比して,本願発明が,刊行物3におけ
る「有機EL素子の発光材料」の態様のものも含むものであると主張する。
しかしながら,刊行物3の実施例19に記載されたものと本願明細書の実施例3
8に記載されたものとでは,その層構成,層材料,成膜条件などの実験条件が全く
異なるのであるから,この両者を,ローダミン系色素(Rh−06)をペリレン化
合物(19)に単に置き換えただけであるとして,単純に比較することはできず,
「有機EL素子の発光材料」の態様として重複するものであるとはいえない。
また,刊行物3の実施例19に記載されたものについては,発光層中に存在する
ローダミン系色素の濃度が不明であり,そうであれば,本来は濃度消光が起こるよ
うな濃度条件下において,ローダミン系色素に導入した立体障害基の影響により濃
度消光が解消され,発光が起こったのかどうかは明らかではなく,ひいては,この
ローダミン系色素が単なる「色変換のための色素」としてではなく「有機EL素,
子の発光材料」として機能したのか否かも明らかではない。
したがって,被告の上記主張は誤りである。
オペリレン化合物同士の距離が近接しすぎれば,会合体を形成する問題も起こ
,,り得るであろうが逆に各ペリレン化合物間の距離があまりに離れすぎてしまうと
平面間(分子間)での電子移動の自由度が阻害されて,電荷注入特性及び輸送能力
が失われ,電荷のやり取りが十分に行われなくなって,有機EL素子の輝度が低下
するおそれがあることは,当業者であれば考え得ることである。したがって,当業
者であれば,ペリレン化合物に立体障害基を導入しようとは考えつかないし,ペリ
レン化合物に立体障害基を導入すると常に有機EL素子の輝度が高くなるとは,当
業者であっても予測し得ない。
この点につき,被告は,有機EL素子の技術分野において,発光材料の化合物に
立体障害基を導入して,濃度消光等の問題を解消することは周知であるとして,上
記原告の主張が失当である旨主張するが,被告主張のような「周知技術」が存在し
ないことは,上記()のイのとおりである。1
()さらに,審決は「立体障害基の有無のみが異なる化合物の比較において,3,
,(,,・・・立体障害基を有する化合物を用いた色変換膜有機EL素子実施例12
6,19)は,立体障害基を有しない化合物を用いた色変換膜,有機EL素子(比
較例1,2)の少なくとも1.5倍程度の輝度を有するものであることが刊行物3
において示されているのに対し,本願発明の化合物を用いた有機EL素子において
も同程度の輝度比しか得られていない(実施例11:2300cd/m,同142
:2130cd/mに対し,比較例1:1600;実施例12:3010cd/2
m,同15:3100cd/m,同18:2970cd/mに対し,比較例2222
:2000cd/m)ことをみても本願発明が格別顕著な効果を奏するものであ2
るということはできない」と判断したが,この判断は,以下のとおり,刊行物3の
誤った理解に基づき,本願発明の奏する顕著な作用効果を看過するものであって,
誤りである。
ア刊行物3に記載されたローダミン系色素は,色変換膜として作用・機能して
いるものであり,本願発明に係るペリレン化合物は,発光材料としての機能及び高
,,いキャリア輸送性機能を有し有機EL素子の光源として機能するものであるから
刊行物3に記載された光の強度比と本願明細書における発光輝度比とを同等に比較
することはできない。また,本願発明のようにペリレン化合物を有機EL素子の光
源として作用・機能させても,刊行物3に記載されたローダミン系色素を色変換膜
として作用・機能させたのと同程度の向上効果が得られることは,当業者は全く予
測することができない。
さらに,そもそも輝度(cd/m)とは光源の輝きの強さを表す量で,一般的2
には「1mの面積の平面光源がその平面と垂直な方向において,一様な輝度を有2
しており,その光度が1cdであるときに,その方向における輝度」を意味する。
したがって,輝度が向上した効果は相対比ではなく,絶対値の差として比較すべき
ものである。しかるところ,刊行物3においては,比較例1の輝度が38
cd/mであり,実施例1の輝度が56cd/mであるから(段落【,わ22
0100】)
ずか18cd/mしか増加していないのに対し,本願発明においては,比較例12
の発光輝度が1600cd/mであり,実施例11では2300cd/mである22
から,その増加分は700cd/mにもなる。したがって,本願発明は比較例12
に比べて輝度が著しく向上するという格別顕著な効果を奏するものである。
イ被告は刊行物3の実施例19にローダミン系色素を「有機EL素子の発光材
」,,料として使用するものが記載され色素の分子内に立体障害基を導入することが
有機EL素子の発光材料としても極めて有効なことが示されていると主張するが,
同実施例が,本来は濃度消光が起こるような濃度条件下において,ローダミン系色
素に導入した立体障害基の影響により濃度消光が解消され,発光が起こったのかど
うか明らかではないことは,上記()のイのとおりである。2
また,被告は,刊行物3記載の発明と本願発明とでは,実施例及び比較例の電圧
や蒸着量などの実験条件が異なるので,輝度が向上した効果につき絶対値の差とし
,「」,て比較することは妥当ではないと主張するが原告の主張する絶対値の差とは
(,同一実験条件下における立体障害基の有無による輝度の差を意味しており例えば
22
刊行物3における比較例1の輝度38cd/mと,実施例1の輝度56cd/m
は,同一実験条件下における輝度であり「絶対値の差」である18cd/mは,,2
同一実験条件下における立体障害基の有無による輝度の差である,被告の上記主。)
張は失当である。
()審決は「本願発明の式(1)で表される化合物に濃度消光の抑制の為に刊4,
行物3の化合物で導入されたような立体障害基を導入した場合,立体反発によって
分子間の距離が大きくなり分子間での電荷のやり取りが阻害されてしまうと電荷注
入特性および輸送能が失われ有機EL素子用材料として適さないものとなってしま
うという問題を有している」との審判請求人(原告)の主張に対し「刊行物1に,
は,本願発明において立体障害基であるとされる置換基を有し得る化合物を用いた
有機EL素子が高輝度であることが記載されている・・・から,刊行物1に記載さ
れた化合物にかかる立体障害基を導入した場合に,請求人の主張する上記問題が生
じると解することはでき(ない」と判断したが,誤りである。)
すなわち,刊行物1には,一般式(1)のペリレン化合物の置換基を漠然と数多
く記載しているにすぎず,そこに記載される多数の置換基の例示の中から典型的に
は炭素数3以上の立体障害性を有する基を特に選択して一般式(1)のペリレン化
合物に導入し,高輝度発光を得ることは一切記載も示唆もされていない。刊行物1
には,ペリレン化合物にジアリールアミノ基を導入した場合の作用による輝度に対
する効果を記載している(段落【【)だけであって,ペリレン化合物00080058】,】
に炭素数3以上の立体障害性を有する基を導入した場合の作用による輝度に対する
効果を記載しているのではない。
第4被告の反論の要点
1審決の認定及び判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
2取消事由(相違点についての判断の誤り)に対し
()原告は,刊行物1に列挙された膨大な数の置換基の例示の中から,典型的1
には炭素数3以上の立体障害性のある置換基を特に選択してみることは,刊行物1
の記載や本件特許出願時の技術常識を勘案しても当業者が容易に想到できることで
はないと主張する。
しかしながら,刊行物1記載のジアリールアミノ基でないR∼Rが,炭素数112
3以上の立体障害性を有する置換基のものを包含していることは明らかである。
そして,有機EL素子の技術分野において,一般に,発光材料の化合物に立体障
害基(典型的には炭素数3以上の立体障害性を有する置換基)を導入することによ
り,濃度消光の問題を解決して,優れた発光特性を得ることは,刊行物3に記載さ
れているほか,刊行物4に「母骨格として・・・ペリレン・・・などを縮合多環,
炭化水素環に選び,イソプロピル基,t−ブチル基あるいはシクロヘキシル基など
の嵩高いアルキル基を導入する。嵩高いアルキル基を導入することによって,ホス
トとの相互作用を避け,エキシマー発光しないようになる(段落【「本。」】),0048
発明の素子は,蛍光性ドーパントとしてペリレン・・・を用いた比較例・・・のも
のに比べて,発光効率が優れていることが分かる(段落【)と記載され,。」】0066
また,刊行物5に「ドープ量が多量過ぎると所謂濃度消光という現象によって発,
光輝度が低下するという問題が生じる・・・各種の蛍光材料においても同様の問。
題が発生すると考えられる(段落【「立体障害となる置換基を備えた分子」】),0004
構造としたことにより・・・蛍光材料の分子が凝集して有機エレクトロルミネッ,
センス層内に偏在してしまうことを防止でき,蛍光材料の分子間でもエネルギーの
やりとりが抑制される。よって,発光特性の良好な電界発光素子を実現できる」。
(段落【「上述の立体障害のための置換基はアルキル基であったが・・・0007】),,
シクロ環等の飽和炭化水素でもよい(段落【)と記載されているとおり,。」】0018
本件特許出願当時,周知であり,技術常識であった。そして,このような出願時の
技術常識を勘案すれば,刊行物1の一般式(1)で示される化合物として例示され
たもののうち,炭素数3以上の立体障害性を有する置換基を選択することは,当業
者にとって容易になし得ることである。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
()原告は,審決の「立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,2
高輝度の発光を得ることが予測し得ない効果であるということはできない」との。
判断が,刊行物2,3の記載事項を誤認したものであって,誤りであると主張する
が,以下のとおり,理由がない。
ア原告は,刊行物2における蛍光性ドーパントと本願発明のペリレン化合物と
は,化学構造も機能も異なるものであると主張する。
しかしながら,刊行物2に記載されたものも,本願発明も,ともにジアリールア
ミノ基等の「−NArAr」という化学構造と,ペリレン環等の「縮合多環炭化水
素基」という特徴ある化学構造を各々必須とするものであるから,両者の化学構造
が異なるという原告の主張は誤りである。
また,刊行物1には,ペリレン化合物が「高い正孔輸送性を有する」ことが記載
されているところ,刊行物1の(3)の化合物(段落【)と刊行物2の7頁上0027】
から2番目に記載された

」(),との化合物刊行物2の特定化合物は
同一の化学構造を有するペリレン化合物であり,かつ,刊行物1と刊行物2の双方
に,当該各化合物にイソプロピル基やt−ブチル基等の置換基が導入されていても
よい旨の記載があるから,刊行物2記載の上記ペリレン化合物からなる蛍光性ドー
パントが「高い正孔輸送性」を有することも明らかである。さらに,本願発明のペ
リレン化合物と刊行物2に記載されたペリレン化合物が重複することは上記のとお
りであるから,刊行物2における蛍光性ドーパントと本願発明のペリレン化合物の
機能が異なるとする原告の主張は,誤りである。
イ原告は,刊行物3記載のローダミン系色素と本願発明のペリレン化合物とは
,,「」化学構造が異なる上刊行物3記載のローダミン系色素は色変換のための色素
であり,本願発明のペリレン化合物のように,発光材料としての機能や高いキャリ
ア輸送性を有し,有機EL素子の光源として用いられているというものではないと
し,刊行物3記載の発明は,ローダミン系色素における周知な課題である,会合に
よる濃度消光を抑制するために,ローダミン系色素分子の中に立体障害となる機能
を有する基を導入したものであるから,化学構造及び機能・作用の異なるペリレン
化合物に立体障害基を導入しても,ローダミン系色素の場合と同様に濃度消光が抑
,,,制されその結果高輝度の発光を得ることができることは技術常識を参酌しても
当業者が予測できるものではないと主張する。
しかしながら,刊行物3には,実施例19として,キノリノール系のアルミニウ
ム錯体(Alq)とローダミン系色素(Rh−06)を同時蒸着して発光層を形成
したものが記載されており(段落【】∼【「本発明のローダミン系色01010103】),
素は・・・有機EL素子の発光材料としても極めて有効である(段落【),」】0108
との記載があるから,刊行物3には,ローダミン系色素を「有機EL素子の発光材
」。,,料として使用することが開示されているそして本願発明の要旨にかんがみて
本願発明は,ペリレン化合物を発光層に単独で含む態様のものに限定されるもので
はなく,ペリレン化合物をAlq等の他の電子輸送材料(ホスト材料)にドープさ
せて発光させる態様のものを含むものである(本願明細書の実施例38に記載され
,()()たものはキノリノール系のアルミニウム錯体Alqとペリレン化合物19
を真空共蒸着して発光層を作製したものであって,上記刊行物3の実施例19のも
のと,電子輸送材料(Alq)と発光材料との混合薄膜を用いて作製した有機EL
素子である点で一致する。したがって,本願発明は,刊行物3における「有機E。)
L素子の発光材料」の態様のものも含むものであるから,原告の上記主張は失当で
ある。
ウなお,原告は,ペリレン化合物間の距離があまりに離れすぎてしまうと,平
面間(分子間)での電子移動の自由度が阻害されて,有機EL素子の輝度が低下す
るおそれがあるから,当業者は,ペリレン化合物に立体障害基を導入しようとは考
えつかないし,ペリレン化合物に立体障害基を導入すると常に有機EL素子の輝度
が高くなるとは,当業者であっても予測し得ないとも主張するが,有機EL素子の
技術分野において,発光材料の化合物に立体障害基を導入して,濃度消光等の問題
を解消することが周知であることは,上記()のとおりであるから,原告の上記主1
張は失当である。
()原告は,刊行物3に記載されたローダミン系色素は色変換膜として作用・3
機能しているものであり,本願発明に係るペリレン化合物は有機EL素子の光源と
して機能するものであるとして「本願発明が格別顕著な効果を奏するものである,
ということはできない」とした審決の判断が誤りであると主張するが,刊行物3の
実施例19にローダミン系色素を「有機EL素子の発光材料」として使用するもの
が記載されていることは,上記()のイのとおりである。そして,刊行物3の実施2
例19のものと比較例2のものとの対比(段落【【)により,色素の01030107】,】
分子内に立体障害基を導入することが,有機EL素子の発光材料としても極めて有
効なことが示されている。したがって,原告の上記主張は誤りである。
また,原告は,輝度が向上した効果は相対比ではなく,絶対値の差として比較す
べきものであるとも主張するが,刊行物3記載の発明と本願発明とでは,実施例及
び比較例の電圧や蒸着量などの実験条件が異なるので,絶対値の差として比較する
ことは妥当ではなく,相対比で評価すべきであり,したがって,相対比の評価に基
づいて「本願発明が格別顕著な効果を奏するものであるということはできない」,。
とした審決の判断に,誤りはない。
()原告は,刊行物1は,ペリレン化合物に炭素数3以上の立体障害性を有す4
る基を導入した場合の作用による輝度に対する効果を記載しているのではないとし
て「審判請求人は・・・立体障害基を導入した場合・・・有機EL素子用とし,,,
て適さないものとなってしまうという問題を有している旨等主張するが,刊行物1
には,本願発明において立体障害基であるとされる置換基を有し得る化合物を用い
た有機EL素子が高輝度であることが記載されているから・・・かかる主張は採,
用することができない」とした審決の判断が誤りであると主張するが,本願発明。
のペリレン化合物と刊行物1記載のペリレン化合物は重複しているところ,刊行物
1には,刊行物1記載のペリレン化合物を用いることにより従来の有機EL素子よ
りも高輝度な発光が得られる旨が記載されており,また,発光材料の化合物に立体
障害基を導入することにより,濃度消光の問題を解決して,優れた発光特性を得る
,,。ことが周知であることは上記()のとおりであるから審決の判断に誤りはない1
第5当裁判所の判断
1取消事由(相違点についての判断の誤り)について
()審決が認定した本願発明と刊行物1発明との一致点は「陰極と陽極の間に1,
発光層を含む一層または複数層の有機薄膜層を有する有機エレクトロルミネッセン
ト素子において,前記有機薄膜層の少なくとも一層に,一般式(1(判決注:本)
願発明の「一般式(1:式中,R,R,R∼R,R,Rはそれぞれ)」)(12581112
,,,,独立に水素原子ハロゲン原子ヒドロキシル基置換若しくは無置換のアミノ基
ニトロ基,シアノ基,置換若しくは無置換のアルキル基,置換若しくは無置換のア
ルケニル基,置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換若しくは無置換のアル
コキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若しくは無置換の芳香族
複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しくは無置換のアリールオ
。,,,,,キシ基を表すRRRRはそれぞれ独立に水素原子ヒドロキシル基34910
置換若しくは無置換のアミノ基,ニトロ基,置換若しくは無置換のアルキル基,置
換若しくは無置換のアルケニル基,置換若しくは無置換のシクロアルキル基,置換
若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基,置換若
しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,置換若しく
は無置換のアリールオキシ基を表す。またR∼Rは,それらのうちの2つで環112
を形成していても良い。ただし,R,R,R,Rの少なくとも一つは−N34910
ArAr(Ar,Arは無置換の芳香属炭化水素基を表す)で示されるジアリ1212
ールアミノ基である)で示されるペリレン化合物を,単独もしくは混合物で含む。
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント素子」である点であり,相違点。
は「式(1(判決注:本願発明の「一般式(1)の置換基について,本願発,))」
明においては『また,ジアリールアミノ基でないR∼Rの少なくとも一つは,112
置換若しくは無置換の炭素数3以上のアルキル基,置換又は無置換のシクロアルキ
ル基,置換若しくは無置換のアルコキシ基,置換若しくは無置換の芳香族炭化水素
基,置換若しくは無置換の芳香族複素環基,置換若しくは無置換のアラルキル基,
置換若しくは無置換のアリールオキシ基から選ばれる立体障害基である』とされ。
ているのに対し,刊行物1発明においては,かかる立体障害基が必須の置換基であ
るとはされていない点」である(この一致点及び相違点の認定については,当事者
間に争いがない。。)
すなわち,刊行物1発明及び本願発明は,いずれも,その置換基とし得るものを
選択肢の形式で特定するものであるが,刊行物1発明において特定された置換基と
し得るものの選択肢は,本願発明において,少なくとも一つは選択されなければな
らないとして特定された立体障害基の全部を含むものの,当該立体障害基の少なく
とも一つを置換基とすることが必須とされていないものであり,したがって,刊行
物1発明は,上記立体障害基の少なくとも一つを置換基とする態様(本願発明と同
一性を有する態様)と,上記立体障害基を全く置換基としない態様との両態様が存
在するものである。かかる意味で,本願発明は,その発明の範囲が,刊行物1発明
の範囲に包含されるものであり,刊行物1発明において置換基とし得るものの選択
肢を,その一部である上記立体障害基に限定した(言い換えれば,刊行物1発明に
,,おいて置換基とし得るものの選択肢からその一部である上記立体障害基を選択し
これを新たな選択肢とした)発明であって,いわゆる選択発明の範疇に属するもの
である。
そして,そうであれば,本願発明が,進歩性を有するといえるためには「本願,
発明が,刊行物1発明の有する効果とは異質の効果,又はこれと同質であるが際立
って優れた効果を有し,かつ「それらの効果が,本件特許出願当時の技術水準か」,
ら当業者において予測できるものではなかったこと」を要するものと解すべきであ
る(もっとも,本願発明の効果である有機EL素子の発光輝度の向上の効果が,刊
行物1発明の効果と異質ではないことは明らかであるから,前者については,当該
効果が際立って優れているものであるかどうかが,問題となる。。)
審決は,本願発明と刊行物1発明の相違点につき,①「本願発明の立体障害基が
刊行物1に採用し得る置換基として記載されている基である以上,それらを必須の
置換基とすることは格別困難なことではない」とした上,②「本願発明は『濃度。
消光を抑制した高輝度発光の有機EL素子を提供することを目的とする』ものであ
り『従来に比べて高輝度な発光が得られ,本発明の効果は大である』ものである,
が・・・立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,高輝度の発光を得
ることが予測し得ない効果であるということはできない」と判断し,さらに,③。
「本願発明が格別顕著な効果を奏するものであるということはできない」と判断。
したものであるが,上記①の部分は,本願発明の立体障害基が刊行物1に採用し得
る置換基として記載されている基であることを摘示して,本願発明が,刊行物1発
明に対し,選択発明の関係にあることを明らかにしたものであり,その上で,②の
部分において,本願発明の効果が,本件特許出願当時の技術水準から当業者におい
て予測できるものではなかったとはいえないことを,③の部分において,本願発明
の効果が,際立って優れたものとはいえないことを,それぞれ示したものと解され
る。
そこで,まず,②の判断の当否について検討する。
()本願発明の効果の予測可能性について2
ア本願明細書には,下記の記載がある。
(ア)「発明の属する技術分野】本発明は,発光特性に優れた有機エレクトロルミネッセン【
ト素子に関する(段落【)。」】0001
(イ)「従来の技術】有機エレクトロルミネッセント素子(以下,単に「有機EL素子」と【
略す)は,電界を印加することにより,陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の
再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である(段落。」
【)0002】
(ウ)「以上のように,種々の高輝度,長寿命の有機EL素子が開示あるいは報告されている
が,必ずしも充分なものとはいえない。本発明者らは特開平11−144869号公報(判決
注:刊行物1)の通り,特定のペリレン化合物を用いることで高輝度発光を示す有機EL素子
が得られる事を開示した。しかしながら,いくつかのペリレン化合物においては分子間の会合
状態が形成されるために,充分な性能が得られない場合があった。また,他の有機エレクトロ
ルミネッセント素子に用いられる色素材料についても,高濃度での分散や,その色素単独で形
成される固体中で,分子同士の会合状態を形成し,これによって濃度消光と呼ばれる色素の発
光強度が著しく減少してしまう現象が認められる場合が多数あった(段落【)。」】0007
(エ)「発明が解決しようとする課題】本発明は前記事項に鑑みてなされたものであり,濃【
度消光を抑制した高輝度発光の有機EL素子を提供することを目的とする(段落【)。」】0008
(オ)「課題を解決するための手段】本発明者らは,前記課題を解決するために鋭意検討し【
た結果,特定のペリレン誘導体に会合状態の形成を抑制する立体障害基を導入した化合物を発
光材料として用いて作製した有機EL素子は,従来の有機EL素子よりも高輝度発光すること
を見いだした。また,前記材料は高いキャリヤ輸送性を有することがわかり,前記材料を正孔
輸送材料あるいは電子輸送材料として作製した有機EL素子,及び前記材料と他の正孔輸送材
料あるいは電子輸送材料との混合薄膜を用いて作製した有機EL素子は,従来よりも高輝度発
光を示すことを見いだし本発明に至った(段落【)。」】0009
イ上記記載によれば,本願発明は,ペリレン化合物,その他有機EL素子に用
いられる色素材料について,分子間の会合状態が形成されるために色素の発光強度
が著しく減少してしまう「濃度消光」と呼ばれる現象を抑制し,高輝度発光の有機
EL素子を提供することを技術課題とし,ペリレン誘導体に会合状態の形成を抑制
する立体障害基を導入した化合物を発光材料として用いることにより,この課題を
解決して,高輝度発光の有機EL素子を得たものであることが認められる。
すなわち,本願発明が,ペリレン化合物の少なくとも一つの置換基を立体障害基
とすることを選択することにより導いた効果は,当該化合物を発光材料とする有機
EL素子の発光を高輝度とすることであり,したがって,本願発明が進歩性を有す
るためには,立体障害基を導入することによって高輝度の発光を得ることが,当業
者の予測し得ない効果であったことが必要である。
ウしかるところ,刊行物2には,下記の記載がある。
(ア)「正孔と電子とが再結合する再結合領域及び該再結合に応答して発光する発光領域を少
なくとも有する有機化合物層と,この有機化合物層を挾持する一対の電極とを備えた有機エレ
クトロルミネッセンス素子において,上記再結合領域及び/又は発光領域に,蛍光性ドーパン
トとして,一般式(Ⅰ)
【化1(一般式(Ⅰ)は省略)】
及び一般式(Ⅱ)
【化2】
〔式中,Ar,Ar,Ar及びArはそれぞれ炭素数1∼10のアルキル基,炭素数6∼
4567
30のアリール基又は複素環式基を示し,それらはたがいに同一でも異なっていてもよく,A
rは炭素数6∼30のアリーレン基又は二価の複素環式基を示すが,Ar∼Arの少なく
848
とも一つは炭素数12以上の縮合多環炭化水素基である〕で表される化合物の中から選ばれ。
た少なくとも一種を0.1∼8重量%の割合で含有させたことを特徴とする有機エレクトロル
ミネッセンス素子(特許請求の範囲の請求項1)。」
(イ)「該Ar∼Arは適当な置換基が導入されていてもよく,この置換基としては,例
18
えば・・・2)アルキル基(3)アルコキシ基(4)アリールオキシ基・・・などを挙げ(,,,
ることができる。ここで(2)のアルキル基としては,炭素数1∼20,特に1∼12の直,
鎖状又は分岐鎖状のものが好ましく,また,このアルキル基は,さらにハロゲン原子(F,C
l,Br,I,水酸基,シアノ基,炭素数1∼12のアルコキシ基,フェニル基又は炭素数)
1∼12のアルキル基やアルコキシ基で置換されたフェニル基を含有していてもよい。このよ
うなアルキル基の例としては,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,t−
ブチル基,sec−ブチル基,n−ブチル基,イソブチル基,トリフルオロメチル基,2−ヒ
ドロキシエチル基,2−シアノエチル基,2−エトキシエチル基,2−メトキシエチル基,ベ
ンジル基,4−クロロベンジル基,4−メチルベンジル基,4−メトキシベンジル基,4−フ
ェニルベンジル基などが挙げられる(段落【)。」】0017
(ウ)「3)のアルコキシ基(−OR)としては,Rとして上記(2)で例示したアルキ(
33
ル基を有するものを挙げることができ,具体的には,メトキシ基,エトキシ基,n−プロポキ
シ基,イソプロポキシ基,t−ブトキシ基,n−ブトキシ基,sec−ブトキシ基,イソブト
キシ基,2−ヒドロキシエトキシ基,2−シアノエトキシ基,ベンジルオキシ基,4−メチル
ベンジルオキシ基トリフルオロメトキシ基などが挙げられる4のアリールオキシ基−,。()(
OAr)としては,Arとして無置換又はハロゲン原子(F,Cl,Br,I,炭素数1∼)
4のアルキル基若しくはアルコキシ基などが置換されたフェニル基やナフチル基を有するもの
を好ましく挙げることができ,具体的にはフェノキシ基,1−ナフチルオキシ基,2−ナフチ
,,,,ルオキシ基4−メチルフェノキシ基4−メトキシフェノキシ基4−クロロフェノキシ基
6−メチル−2−ナフチルオキシ基などが挙げられる(段落【)。」】0018
(エ)「前記一般式(Ⅰ(Ⅱ)で表される化合物としては,例えば次に示す構造のものを挙),
げることができる。
・・・
(段落【【)」00200024】,】
(オ)「本発明においては,蛍光性ドーパントとして,これらの化合物を一種用いてもよく,
二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお,本発明における蛍光性ドーパントとは,有機E
L素子の再結合領域又は発光領域において,正孔と電子の再結合に応答して光を発する化合物
のことであり,再結合領域又は発光領域を形成する物質(ホスト材料)に微量含有させるもの
である。ここで,再結合領域とは,素子中にあって,正孔と電子とが出会い,結合して励起状
態を形成する場所のことである。また,発光領域とは,再結合領域で形成された励起状態は,
場合によっては移動し,拡散するが,その拡散する範囲を指定する場所のことである(段落。」
【)0029】
(カ)「本発明においては,上記蛍光性ドーパントは,再結合領域及び発光領域の少なくとも
いずれか,即ち,再結合領域のみに,発光領域のみに,あるいは両領域に,0.1∼8重量%
の割合で含有させることが必要である。この含有量が0.1重量%未満では蛍光性ドーパント
の効果が充分に発揮されず,本発明の目的が達せられない。一方,8重量%を超えると蛍光性
ドーパント間の会合により,消失現象が生じ,充分に効果が発揮されない場合がある。素子の
長寿命化及び高効率化の点から,蛍光性ドーパントの好ましい含有量は0.3∼4重量%の範
囲であり,特に0.8∼3重量%の範囲が好適である(段落【)。」】0030
エまた,刊行物3には,以下の記載がある。
(ア)「会合体の形成を阻害する立体障害基を分子中に少なくとも一つ有するローダミン系色
素(特許請求の範囲の請求項1)。」
(イ)「立体障害基が,次の①∼④のいずれかの置換基である請求項1記載のローダミン系色
素。
①主鎖の原子数が6以上の長鎖置換基
②少なくとも一つの4級炭素原子を有する置換基
③主鎖中に少なくとも一つの不飽和結合を有し,その不飽和結合をしている炭素原子が少な
くとも二つの核原子数6以上の置換基と結合している置換基
④少なくとも3個以上のハロゲン原子を有する置換基(同請求項2)」
(ウ)「少なくとも有機発光層を有する有機化合物層を一対の電極で挟持してなり,有機化合
物層中に請求項1∼6のいずれかに記載の色素を含有する有機エレクトロルミネッセンス素
子(同請求項8)。」
(エ)「発明の属する技術分野】本発明は,有機エレクトロルミネッセンス(以下,有機E【
Lと略することがある)素子に用いたとき高効率で赤色発光を可能とするローダミン系色素,
およびこの色素を用いた色変換膜および有機EL素子に関する(段落【)。」】0001
(オ)「本発明者らは・・・ローダミン系色素の分子内に立体障害基を導入して色素の会合,
を抑制することにより,高効率で青色光を赤色に変換することが可能となることを見いだし
た(段落【)。」】0007
(カ)「色素は一般に,溶液中や樹脂中に高濃度に分散させると色素分子同志が会合体を形成
し,蛍光性が著しく減少することが知られている。この現象は,濃度消光と呼ばれている。こ
のような濃度消光を抑制するには,ローダミン系色素分子の中に立体障害となる機能を有する
基を導入することにより,前記色素の会合を抑制することができる。すなわち,本発明のロー
ダミン系色素の特徴は,その一般式(I)中に少なくとも一つの立体障害基を有することであ
り,R∼Rのうち,少なくとも一つが立体障害基であれば良い(段落【)
。」】0013
(キ)「この様な立体障害基として,以下から選ばれる置換基が好適であることを見出した。
この置換基は,同一であっても良いし,あるいは互いに異なっていても良い。
①主鎖の原子数が6以上の長鎖置換基
②少なくとも一つの4級炭素原子を有する置換基
③主鎖の中に少なくとも一つの不飽和結合を有し,その不飽和結合をしている炭素原子が,
少なくとも二つの核原子数6以上の置換基と結合している置換基
④少なくとも3個以上のハロゲン原子を有する置換基
ここで,ローダミン骨格に直接結合している原子から数えて,水素原子を除く最も多くの原子
と化学結合により連結している骨格のことをその置換基の主鎖と定義する(段落【)。」】0014
(ク)「前記①の主鎖の原子数は,通常6∼30であり,好ましくは10∼30である。この
具体例としては,n−ヘキシル,n−デカニル,n−オクタデカニル,エトキシプロピル,n
−ブチルエステル,N,N−ジ−(n−ブチル)アミド,n−ペンチルオキシ等の置換基が挙
げられる。前記②の4級炭素の数は,通常1∼10であり,好ましくは1∼6である。この具
体例としては,t−ブチル,アダマンチル,t−ブトキシ,t−ブチルアミド,t−ブチルエ
ステル等の置換基が挙げられる(段落【)。」】0015
(ケ)「本発明の色変換膜によれば,従来のローダミン系色素を用いた色変換膜・・・に比べ
て,著しく高い色変換効率を有していることが判る。これは,分子内へ立体障害置換基を導入
したことにより分子会合が抑制され,その結果,ローダミン系色素の濃度消光が低減したため
と考えられる(段落【)。」】0098
(コ)「実施例19(有機EL素子の作製,および評価)〔〕
先ず,ガラス上に,インジウム・スズ酸化物の透明性アノードを被覆して設けた。この,イ
ンジウム・スズ酸化物は約750オングストロームの厚さであり,ガラスは(25mm×75
mm×1.1mm)のサイズであった。このガラス板を真空蒸着装置(日本真空技術(株)社
製)に入れて,約10torrに減圧し,次いでMTDATAを600オングストロームの
厚さで蒸着した。この時の蒸着速度は,2オングストローム/秒であった。
次にNPDを200オングストロームの厚さで蒸着した。この時の蒸着速度は,2オングス
トローム/秒であった。次いでAlqおよびRh−06とを同時蒸着して400オングストロ
ームの厚さの発光層を形成した。この時のAlqの蒸着速度は,50オングストローム/秒で
あり,Rh−06の蒸着速度は1オングストローム/秒であった。
さらに,上記Alqのみを蒸着速度2オングストローム/秒で蒸着した。最後にマグネシウ
ムと銀とを同時蒸着することにより,陰極を2000オングストロームの厚さで形成した。こ
の時のマグネシウムの蒸着速度は20オングストローム/秒であり,銀の蒸着速度は1オング
ストローム/秒であった。得られた素子に8Vの電圧を印加したところ,電流密度は2.8m
A/cmであり,輝度88cd/mの赤色発光であった。この時の発光効率は1.2lm
/Wであった(段落【】∼【)。」】01010103
(サ)「比較例2(有機EL素子の作製,および評価)〔〕
実施例1においてRh−06の代わりにRh610を用いた以外は,実施例19と同様にし
て有機EL素子を作製した。得られた素子に8Vの電圧を印加したところ,電流密度は2.9
mA/cmであり,輝度34cd/m赤色発光であった。この時の発光効率は0.46l
m/Wであった(段落【)。」】0107
(シ)「以上の結果より,本発明のローダミン系色素は,その分子内に有する立体障害置換基
によって濃度消光が著しく抑制されるため,有機EL素子の発光材料としても極めて有効であ
ることが判った(段落【)。」】0108
オ上記ウ,エの各記載事項によれば,刊行物2,3には,有機エレクトロルミ
ネッセンス素子(有機EL素子)の技術分野において,再結合領域又は発光領域を
形成する物質(ホスト材料)に色素を高濃度に分散させた場合,色素分子が会合す
ることにより蛍光性が著しく減少する「濃度消光」という現象が生じるので,これ
を抑制(刊行物3)又は回避(刊行物2)することを技術課題とすることが記載さ
れているものと認められる。そして,この場合の「蛍光性」とは,上記ウの(オ)の
刊行物2の記載中の「蛍光性ドーパント」の定義にかんがみて,色素の発光強度,
すなわち輝度を意味することが明らかである。
また,刊行物1には,その「一般式(1(本願発明に係る「一般式(1」と)」)
同一である)で示されるペリレン化合物の例示として,(3)の化合物(刊行物1。
の段落【)が掲げられているところ,刊行物2に「一般式(Ⅰ(Ⅱ)で表0027】,),
される化合物,すなわち蛍光性ドーパントの例示として掲げられたもののうち,」
上記ウの(エ)の化合物(刊行物2の特定化合物。一般式(Ⅱ)で示される化合物で
ある)が,上記刊行物1の(3)の化合物と同一化学構造のジアリールアミン基を。
,,,,有するペリレン化合物であることは当事者間に争いがなくかつ刊行物2には
(),高濃度に分散させた蛍光性ドーパントの会合による消失現象濃度消光に関して
上記特定化合物あるいはペリレン化合物一般がその例外であるとするような記載も
示唆も見当たらないから,刊行物2には,濃度消光の現象がペリレン化合物におい
ても生ずることが,記載又は示唆されているということができる。
そうすると,審決の「一般に,色素が高濃度に存在すると,分子同士で会合体を
形成し,濃度消光と呼ばれる蛍光性を減少する現象が生じることは刊行物3に・・
・,ペリレン系化合物においてもかかる現象が生じることは刊行物2に・・・記載
されており」との判断に誤りはなく,本願発明の技術課題と同様の技術課題は,上
記刊行物2,3に(濃度消光の抑制に限れば,刊行物3に)記載又は示唆されてい
るものといわざるを得ない。
カ次に,上記エの各記載事項によれば,刊行物3には,濃度消光の課題の解決
,,手段として色素分子の中に立体障害となる機能を有する基を導入することにより
色素分子の会合を抑制する手段が開示されており,色素分子内に立体障害置換基を
導入したことにより,ローダミン系色素を用いた色変換膜が著しく高い色変換効率
を有することのみならず,色素分子内に立体障害置換基を導入したローダミン系色
素を有機EL素子の発光層に含ませることにより,有機EL素子が高輝度を示し,
有機EL素子の発光材料としても極めて有効であることが記載されている。
そうすると,審決の「そのような現象(判決注:濃度消光)は,色素分子に会合
を抑制する作用を有する立体障害基を導入することで抑制できることも刊行物3に
記載されている」との判断に誤りはなく,本願発明の課題解決手段と同様の課題解
決手段は上記刊行物3に記載されているものということができる。
そして,そうであれば,公知文献である刊行物2,3に接した当業者が,刊行物
1発明のペリレン化合物に立体障害基を導入することによって,濃度消光が抑制さ
れ,高輝度発光の有機EL素子が得られることを予測することは容易であったとい
うべきであり「立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,高輝度の,
発光を得ることが予測し得ない効果であるということはできない」とした審決の。
判断にも誤りはない。
キ以上の審決の判断に対し,原告は,まず,刊行物1の「本発明者らは・・,
・特定の位置にジアリールアミノ基を有するペリレン化合物を発光材料として用い
て作製した有機EL素子は従来の有機EL素子よりも高輝度発光することを見いだ
した(段落【)との記載を引用し,このような特定の位置にジアリールア。」】0008
ミノ基を有するペリレン化合物においては,ジアリールアミノ基が立体障害基と似
たような効果を奏しているのであるから,当業者は,ペリレン化合物の会合による
濃度消光の問題は,ジアリールアミノ基の導入により解消しているものと考え,こ
,。のペリレン化合物にさらに立体障害基を導入しようとすることはないと主張する
しかしながら,刊行物1には,ジアリールアミノ基を導入したことにより高輝度
な発光を得たことは記載されているが,それが,ジアリールアミノ基の導入により
濃度消光が抑制されるという機序によって実現されたとの記載も示唆もない。そし
て,ジアリールアミノ基の導入と立体障害基の導入は,ともに発光輝度の向上とい
う効果を奏するとはいえ,互いに独立した別個の手段であるから,刊行物1に,ジ
アリールアミノ基の導入という手段が記載されていたとしても,当業者が,立体障
害基の導入という別個独立の手段を併用することにより,さらに発光輝度の向上が
得られるものと予測することは極めて自然である。したがって,原告の上記主張は
失当といわざるを得ない。
,,「,,ク原告は審決が刊行物2の本発明においては上記蛍光性ドーパントは
・・・0.1∼8重量%の割合で含有させることが必要である・・・8重量%を。
超えると蛍光性ドーパント間の会合により,消失現象が生じ,充分に効果が発揮さ
れない場合がある」との記載(摘記キ)を挙げて「ペリレン系化合物においても。,
かかる現象(濃度消光)が生じることは刊行物2に記載されて(いる」としたこ)
とにつき,刊行物2における蛍光性ドーパントについての文言を,特にペリレン系
化合物にのみ限定するかのように解釈するのは,刊行物2の記載内容を曲解するも
ので,誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,刊行物2における,蛍光性ドーパント間の会合による消
失現象(濃度消光)を,ペリレン系化合物にのみ生ずるとしているものではなく,
刊行物2には,上記現象が,蛍光性ドーパント一般の問題として記載されており,
したがって,刊行物2に蛍光性ドーパントとして例示されている特定化合物(ペリ
レン化合物)についても,かかる現象が生じるとされているという趣旨の判断をし
たものであることは,その説示に照らして明白であり,また,かかる判断に誤りが
ないことは,上記オのとおりである。したがって,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,刊行物2の特許請求の範囲に記載された一般式(Ⅰ),(Ⅱ)の化合
物(蛍光性ドーパント)は,基本骨格がペリレン化合物である本願発明とは,化学
構造が全く異なるものであると主張する。
しかしながら,刊行物2に一般式(Ⅱ)で示される化合物として例示された特定
化合物が,刊行物1に記載されたものと同一化学構造の2個のジアリールアミン基
,,,,を有するペリレン化合物であることは上記オのとおりでありまた刊行物2は
上記ウの(イ),(ウ)のとおり,一般式(Ⅱ)で示される化合物に炭素数3以上のア
ルキル基,アルコキシ基,アリールオキシ基(いずれも,本願発明において導入の
対象となっている立体障害基である)が導入されてもよいことが記載されている。
ところ,刊行物2の特定化合物に上記立体障害基が導入されたものは,本願発明そ
のものにほかならない。したがって,刊行物2記載の発明と本願発明とは重複して
おり,原告の上記主張も失当である。
原告は,さらに,刊行物2における蛍光性ドーパントは,電荷の輸送及び再結合
(),,の機能を有するものホスト材料ではないから本願発明のペリレン化合物とは
その機能が異なると主張する。
確かに,刊行物2における蛍光性ドーパントは「有機EL素子の再結合領域又,
は発光領域において,正孔と電子の再結合に応答して光を発する化合物のことであ
り,再結合領域又は発光領域を形成する物質(ホスト材料)に微量含有させるもの
である(上記ウの(オ))が,他方,本願発明の要旨が「陰極と陽極の間に発光層」,
を含む一層または複数層の有機薄膜層を有する有機エレクトロルミネッセント素子
において,前記有機薄膜層の少なくとも一層に,一般式(1・・・で示されるペ)
リレン化合物を,単独もしくは混合物で含むことを特徴とする有機エレクトロルミ
ネッセント素子」と規定することに照らして,当該ペリレン化合物を発光層等の。
有機薄膜層に「含む」ものであれば,本願発明に当たるものと解されるから,本願
,,()発明も必ずしも上記ペリレン化合物が有機薄膜層を形成する物質ホスト材料
である態様に限られるものではない。本願明細書の発明の詳細な説明に「本発明,
における有機EL素子の素子構造は,電極間に有機層を1層あるいは2層以上積層
した構造であり,その例として,図1に示す①陽極,発光層,陰極からなる構造,
図2に示す②陽極,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,陰極からなる構造,図3に
示す③陽極,正孔輸送層,発光層,陰極からなる構造,図4に示す陽極,発光層,
電子輸送層,陰極からなる構造が挙げられる。本発明における化合物は,上記のど
の有機層に用いられてもよく,他の正孔輸送材料,発光材料,電子輸送材料にドー
プさせることも可能である(段落【)との記載や,キャリア輸送層に用い。」】0039
られる化合物について「特に限定されず,通常正孔輸送剤(又は「電子輸送材),」
。」(【】,として使用されている化合物であれば何を使用してもよいとの記載段落0040
【)があることを併せ考えると,上記ペリレン化合物を,他の化合物からな0042】
る発光層やキャリア(電荷)輸送層(ホスト材料)に含ませた有機EL素子も,本
願発明の態様に含まれることが明らかであるから,刊行物2記載の発明と本願発明
とは,機能においても重複するものである。したがって,原告の上記主張も失当で
ある。
ケ原告は,刊行物3に記載されたローダミン系色素と本願発明のペリレン化合
物は化学構造が異なるものであり,刊行物3記載の発明は,ローダミン系色素にお
ける周知な課題である,会合による濃度消光を抑制するために,ローダミン系色素
分子の中に立体障害となる機能を有する基を導入したものであるから,ペリレン化
合物に立体障害基を導入しても,ローダミン系色素の場合と同様に濃度消光が抑制
され,その結果高輝度の発光を得ることができることは,当業者が予測できるもの
ではないと主張する。
しかしながら,濃度消光の回避又は抑制という技術課題が,ローダミン系色素特
有のものではないことは,上記エの(カ)の摘記に係る刊行物3の「色素は一般に,
溶液中や樹脂中に高濃度に分散させると色素分子同志が会合体を形成し,蛍光性が
著しく減少することが知られている。この現象は,濃度消光と呼ばれている」と。
いう記載に示唆されているし,刊行物2に,ペリレン化合物における濃度消光の現
象が記載されていることは上記のとおりである。
確かに,刊行物3には,立体障害基の導入という課題解決手段は,ローダミン系
色素に関してのみ記載されているが,色素一般について,同様の技術課題がある以
上,色素のうちのローダミン系色素に関して開示された課題解決手段を他の色素に
も適用して,当該色素に関する同様の技術課題を解決しようとすることは,当業者
であれば当然に試みることであり,効果の予測に関しては,それで十分であるとい
わなければならない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,刊行物3記載のローダミン系色素は,本願発明のペリレン化合物
のように,発光材料としての機能及び高いキャリア輸送性を有し,有機EL素子の
光源として用いられているというものではなく,機能・作用が異なるから,ペリレ
ン化合物に立体障害基を導入しても,ローダミン系色素の場合と同様に濃度消光が
抑制され,その結果高輝度の発光を得ることができることは,当業者が予測できる
ものではないと主張する。
しかしながら,まず,刊行物3に,色素分子内に立体障害置換基を導入したこと
により,ローダミン系色素を用いた色変換膜が著しく高い色変換効率を有すること
のみならず,色素分子内に立体障害置換基を導入したローダミン系色素を有機EL
素子の発光層に含ませることにより,有機EL素子が高輝度を示し,有機EL素子
(),の発光材料としても極めて有効であること実施例19が記載されていることは
上記カのとおりである。
この点に関し,原告は,刊行物3の実施例19に記載されたものは,発光層中に
存在するローダミン系色素の濃度が不明であり,そうであれば,本来は濃度消光が
起こるような濃度条件下において,ローダミン系色素に導入した立体障害基の影響
により濃度消光が解消され,発光が起こったのかどうかは明らかではなく,ローダ
ミン系色素が「有機EL素子の発光材料」として機能したのか否かも明らかではな
いと主張する。
,,,しかしながら上記エの刊行物3の各記載事項によれば刊行物3記載の発明は
色素分子の会合により蛍光性が著しく減少する濃度消光を抑制することを技術課題
として「会合体の形成を阻害する立体障害基(上記エの(ア)。特許請求の範囲の,」
),,請求項1をローダミン系色素分子中に導入した発明であることが明らかであり
かつ「色素は一般に,溶液中や樹脂中に高濃度に分散させると色素分子同志が会,
合体を形成し,蛍光性が著しく減少する(上記エの(カ))との認識に基づく発明」
であるから,当該発明の実施例である実施例19において,色素の含有濃度が明示
されていなくても,その濃度は,本来,濃度消光を生じさせる程度のものであり,
ローダミン系色素に導入した立体障害基の作用により濃度消光が解消され,有機E
L素子の発光材料としても極めて有効であることを示したものと解するのが相当で
ある。したがって,原告の上記主張も失当である。
もっとも,刊行物3の実施例19におけるローダミン系色素は,有機EL素子の
発光層に含ませるものであって,再結合領域又は発光領域を形成する物質(ホスト
材料)ではなく,それ自体がキャリア(電荷)輸送性を有するものとして用いられ
ているのでないことは,原告主張のとおりである。しかしながら,本願発明も,ペ
リレン化合物が再結合領域又は発光領域を形成する物質(ホスト材料)である態様
に限られるものではなく,他の化合物からなる発光層に,ペリレン化合物を含ませ
,,,た有機EL素子も本願発明の態様に含まれることは上記クのとおりであるから
この点においても,原告の上記主張は失当である。なお,原告は,刊行物3の実施
例19に記載されたものと,本願明細書の実施例38に記載されたもの(ペリレン
化合物を含ませる電子輸送材がキノリノール系金属錯体である実施例)とでは,そ
の層構成,層材料,成膜条件などの実験条件が全く異なるのであるから,この両者
を,単純に比較して「有機EL素子の発光材料」の態様として重複するものである
とはいえないと主張するが,実験条件が異なるとしても,少なくとも,原告の主張
するような機能・作用が異なるものでないことは,明らかである。
コ原告は,さらに,ペリレン化合物間の距離があまりに離れすぎてしまうと,
平面間(分子間)での電子移動の自由度が阻害されて,電荷注入特性及び輸送能力
が失われ,電荷のやり取りが充分に行われなくなって,有機EL素子の輝度が低下
するおそれがあるから,当業者であれば,ペリレン化合物に立体障害基を導入しよ
うとは考えつかないし,ペリレン化合物に立体障害基を導入すると常に有機EL素
子の輝度が高くなるとは,予測し得ないと主張する。
しかしながら,ペリレン化合物を,他の化合物からなる発光層やキャリア輸送層
(ホスト材料)に含ませた有機EL素子も,本願発明の態様に含まれることは,上
記クのとおりであるところ,刊行物3に,色素分子内に立体障害置換基を導入した
ローダミン系色素を有機EL素子の発光層に含ませることにより,有機EL素子が
高輝度を示し,有機EL素子の発光材料としても極めて有効であることが記載され
ていることは,上記カのとおりであって,この記載に接した当業者が,ペリレン化
合物に立体障害基を導入することにより,本願発明の効果を得ることを予測するこ
とは容易であるというべきであり,上記主張を採用することもできない。
サしたがって「立体障害基を導入することによって濃度消光を抑制し,高輝,
度の発光を得ることが予測し得ない効果であるということはできない」とした審。
決の判断に誤りがあるとする原告の主張は,失当である。
()本願発明の効果の顕著性について3
次に本願発明の効果が際立って優れたものとはいえるかどうか上記1の(),,(1
の③に係る審決の判断の当否)について判断する。
ア本願明細書には比較例として比較例1段落及び比較例2段,,(【】)(0105
落【)の2例が記載されているところ,それぞれの発光層に用いられている0106】
ペリレン化合物の種類及び有機EL素子の作製(操作)方法に照らして,これらの
比較例と対応する実施例としては,実施例11(段落【【)及び実施00710072】,】
例14(段落【)が比較例1と対応し,実施例12(段落【,実施例00750073】】)
15(段落【)及び実施例18(段落【)が比較例2と対応すると解さ00760079】】
れる。
そして,それぞれ対応する比較例と実施例の発光輝度,実施例の比較例に対する
輝度の増加分及び増加割合は,以下のとおりである。

(ア)比較例1発光輝度1600cd/m
実施例11発光輝度2300cd/m増加分700cd/m増加割22
合43.8%
実施例14発光輝度2130cd/m増加分530cd/m増加割22
合33.1%

(イ)比較例2発光輝度2000cd/m
実施例12発光輝度3010cd/m増加分1010cd/m増加22
割合50.5%
実施例15発光輝度3100cd/m増加分1100cd/m増加22
割合55%
実施例18発光輝度2970cd/m増加分970cd/m増加22
割合48.5%
他方,刊行物3において,上記のとおり,有機EL素子の発光材料として用いら
(),()れている実施例19上記()のエの(コ)及びこれに対応する比較例2同(サ)2
の発光輝度は,それぞれ88cd/m,34cd/mであるから,実施例の比較22
例に対する輝度の増加分は54cd/m,増加割合は158.8%である。2
そうすると発光輝度の増加割合によって対比した場合には本願発明の効果有,,(
機EL素子の発光輝度の向上)は,刊行物3記載の発明のそれに比べて,格別顕著
といえないことは明らかである。
イ原告は,輝度向上の効果は,相対比ではなく,絶対値の差として比較すべき
ものである旨主張する。そして,絶対値の差(実施例の比較例に対する輝度の増加
で分)で見れば,上記アのとおり,刊行物3記載の発明においては54cd/m2
あるのに対し,本願発明では530∼1100cd/mであるから,確かに,本2
願発明のそれが相当に大きいものということができる。
しかしながら,本願明細書によると,その実施例のうち,本願発明の化合物を発
光層に使用したもの(実施例1∼38)に係る発光輝度,発光層の膜厚及び印加電
圧は以下のとおりであることが認められる((ア)のa∼dは,発光層が本願発明の
化合物から成るものを,有機EL素子の積層構造により分類したものであり,(イ)
のa,bは本願発明の化合物と他の材料との混合薄膜を発光層に使用したものを,
有機EL素子の積層構造により分類したものである。。)
(ア)発光層が本願発明の化合物から成るもの
a積層構造が「陽極/発光層/陰極」のもの(実施例1∼10)
発光輝度160∼580cd/m,発光層の膜厚40nm,印加電圧5V(段2
落【】∼【)00580070】
b積層構造が「陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」のもの(実施
例11∼22)
発光輝度2130∼5130cd/m,発光層の膜厚40nm,印加電圧102
V(段落【】∼【)00710083】
「」()c積層構造が陽極/正孔輸送層/発光層/陰極のもの実施例27∼30
発光輝度1670∼3150cd/m,発光層の膜厚40nm,印加電圧102
V(段落【】∼【)00880092】
「」()d積層構造が陽極/発光層/電子輸送層/陰極のもの実施例35∼37
発光輝度1610∼1910cd/m,発光層の膜厚50nm,印加電圧102
V(段落【】∼【)00970100】
(イ)本願発明の化合物と他の材料の混合薄膜を発光層に使用したもの
a積層構造が「陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」のもの(実施
例23∼26)
発光輝度3280∼5400cd/m,発光層の膜厚50nm,印加電圧102
V(段落【】∼【)00840087】
「」(,b積層構造が陽極/正孔輸送層/発光層/陰極のもの実施例31∼34
38)
発光輝度2360∼3110cd/m,発光層の膜厚50nm(実施例38は2
40nm,印加電圧10V(段落【】∼【【))】,】009300960101
上記各実施例によれば,有機EL素子の発光輝度は,その積層構造,印加電圧,
その他の実験条件により,著しい差異が生ずることが認められる。そうすると,本
願発明の発光輝度向上の効果と刊行物3記載の発明の発光輝度向上の効果とを比較
するに当たって,それぞれの実施例と比較例の輝度の絶対値の差によって比較する
ためには,本願発明及び刊行物3記載の発明に係る,各実施例と比較例とを同一条
件下で試験することが必要であることはもとより,本願発明に係る実施例及び比較
例と,刊行物3記載の発明に係る実施例及び比較例とを,いずれも同一条件下で試
験しなければならないことも明らかである。
しかしながら,上記アの本願発明に係る各比較例と対応する各実施例との間,刊
行物3の実施例19と比較例2との間では,それぞれ実験条件が同一といえるが,
本願発明に係る上記各実施例及び比較例と,刊行物3の実施例19及び比較例2と
の間で,実験条件が同一であるということはできないから,本件において,本願発
明の効果を刊行物3記載の発明の効果と比較するに当たって,絶対値の差(実施例
の比較例に対する輝度の増加分)によってこれを行うことはできないといわざるを
得ない。
これに対し,上記アの本願発明に係る各比較例と対応する各実施例との間,刊行
物3の実施例19と比較例2との間で,それぞれ実験条件が同一である場合におい
て,それぞれの実施例の比較例に対する輝度の増加割合により,本願発明の効果と
刊行物3記載の発明の効果とを比較することは,本願発明に係る各実施例及び比較
例と,刊行物3の実施例19及び比較例2との間で,実験条件が同一でなくとも,
合理性が認められる。そして,輝度の増加割合によって比較した場合に,本願発明
の有機EL素子の発光輝度の向上の効果は,刊行物3記載の発明のそれに比べて,
格別顕著ということができないことは,上記アのとおりである。
ウなお,原告は,刊行物3の実施例19が,本来は濃度消光が起こるような濃
度条件下において,ローダミン系色素に導入した立体障害基の影響により濃度消光
が解消され,発光が起こったのかどうか明らかではないと主張するが,この主張が
失当であることは,上記()のケのとおりである。2
エしたがって「本願発明が格別顕著な効果を奏するものであるということは,
できない」とした審決の判断に誤りはない。。
2結論
以上によれば,原告の主張はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却される
べきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
高野輝久

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛