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平成30年6月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第5374号販売差止等請求事件
口頭弁論終結日平成30年3月12日
判決
原告株式会社千鳥屋宗家
原告P1
原告ら訴訟代理人弁護士近藤正昭
被告株式会社千鳥饅頭総本舗
被告P2
被告ら訴訟代理人弁護士吉岡隆典
主文
1原告P1の被告P2に対する別紙商標権目録記載の商標権の持分権の確認請求
に係る訴えを却下する。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告P2及び被告株式会社千鳥饅頭総本舗は,大阪府内,兵庫県内,京都府内,
滋賀県内及び和歌山県内において,千鳥屋という名称を使用して菓子類を販売して
はならない。
2原告P1と被告らとの間において,別紙商標権目録記載の商標権について,原
告P1が4分の1の持分権を有することを確認する。
3被告P2及び被告株式会社千鳥饅頭総本舗は,連帯して原告株式会社千鳥屋宗
家に対し,1000万円及びこれに対する平成27年1月1日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1請求の要旨
(1)本件は,亡P3の三男である原告P1及び同人が代表取締役の地位にあり関西
地域で菓子製造販売業を営む原告株式会社千鳥屋宗家(以下「原告会社」とい
う。)が,P3の二男である亡P4が生前に代表取締役の地位にあり,主として福
岡地域で菓子製造販売業を営む被告株式会社千鳥饅頭総本舗(以下「被告会社」と
いう。)及びP4の妻でP4の全財産を相続し,被告会社の前代表取締役であった
被告P2に対し,以下の請求をする事案である。
ア販売行為差止請求(第1の1項)
原告らは,被告らが原告らに対して大阪府,兵庫県,京都府,滋賀県及び和歌山
県(以下,これらの地域を総称して「関西地域」という。)で「千鳥屋」の屋号を
使用して菓子類を販売しない旨の競合避止義務を負っているにもかかわらず,これ
に違反していると主張して,被告らに対し,関西地域で千鳥屋という名称を使用し
て菓子類を販売することの差止めを請求する。
イ商標権持分権確認請求(第1の2項)
原告P1は,被告会社が名義人となっている別紙商標権目録記載の商標権(以下
「本件商標権」という。)につき,自己が4分の1の持分権を有していると主張し
て,被告らに対し,その旨の確認を請求する。
ウ損害賠償請求(第1の3項)
原告会社が,被告らが上記競合避止義務に違反して関西地域で千鳥屋の名称を使
用して菓子類を販売している行為が債務不履行又は共同不法行為を構成すると主張
して,被告らに対し,1000万円の損害賠償及びこれに対する平成27年1月1
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
(2)これに対し,被告らは,①被告P2において,原告P1の同被告に対する商標
権持分権確認請求に係る訴えについて確認の利益又は被告適格を欠くとして訴えを
却下する旨の裁判を求めたほか,②被告らにおいて,その余の請求を棄却する旨の
裁判を求めた。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲書証及び弁論の全趣旨により容易に
認められる。なお,以下,本判決中で書証を掲記するに当たっては,枝番号の全て
を含む場合はその記載を省略する。)。
(1)当事者等
P3は,夫である亡P5が昭和29年に死亡した後,福岡県飯塚市及び福岡市で
「千鳥屋」の屋号で営んでいた家業の菓子製造販売業の事業主となり,その後,北
九州市(以下,飯塚市及び福岡市と併せて「福岡地域」という。)にも事業を拡大
した(以下,この事業を「千鳥屋事業」という。)。
P3とP5との間には,息子として,長男のP6,二男のP4,三男の原告P1,
五男のP7がいた。このうち,P6は,千鳥屋事業の東京支店が昭和39年に設け
られた後,東京地域で「千鳥屋」の屋号を用いて菓子製造販売業を行い,原告P1
は,千鳥屋事業の大阪支店が昭和48年に設けられた後,関西地域における「千鳥
屋」の屋号を用いた菓子製造販売業の差配を任されていたところ,昭和61年に原
告会社を設立して代表取締役に就任し,以後,原告会社において関西地域で「千鳥
屋」の屋号を用いて菓子製造販売業を営むようになった。
P3は,福岡地域の千鳥屋事業につき,昭和61年8月5日に菓子製造部門を法
人化して,本店所在地を福岡市中央区とする株式会社チロリアン(以下「チロリア
ン」という。)を設立し,平成7年3月16日に菓子販売部門を法人化して本店所
在地を福岡県飯塚市とする千鳥屋販売株式会社(以下「千鳥屋販売」という。)を
設立し,いずれも代表取締役に就任した(甲28の1及び甲38,乙16)。
P3が平成7年12月1日に死亡した後,P4及びP7が,平成8年11月5日
に共に千鳥屋販売の代表取締役に就任したが,P4が,平成9年8月1日に被告会
社(当時の商号は株式会社千鳥屋ファクトリー)を設立した(乙4)後,平成10
年4月22日に千鳥屋販売の代表取締役を解任された結果,以後P7のみが同社の
代表取締役となった(甲28の2)。
P4は,平成20年6月6日に死亡し,妻である被告P2がその全財産を相続す
る(乙5)とともに,P4が死亡する直前に被告P2が被告会社の代表取締役に就
いたが,平成23年12月13日に現代表者である息子が代表取締役に就任し,そ
の後の平成25年9月28日に被告P2が代表取締役を退任した(乙4)。
(2)本件商標権
本件商標権は,片仮名で「チロリアン」と表記してなる登録商標に係るものであ
り,昭和38年5月23日に和泉製菓株式会社(以下「和泉製菓」という。)名義
で登録されたが,昭和39年4月2日にP6名義に移転登録され,その後,平成2
2年4月19日にP8名義に移転登録され,平成26年3月17日に被告会社名義
に移転登録された(甲13及び16)。
3争点
(1)販売行為差止請求(請求第1項)関係
被告らが原告らに対して関西地域において千鳥屋の名称を使用して菓子類を販売
しない義務を負い,被告らが同義務に違反する行為をしているか。(争点1)
(2)商標権持分権確認請求(請求第2項)関係
ア原告P1の被告P2に対する商標権持分権確認請求に係る訴えにつき確認の利
益又は被告適格があるか。(争点2)
イ原告P1が本件商標権の持分権を有するか。(争点3)
(3)損害賠償請求(請求第3項)関係
被告らが関西地域において菓子類を販売する行為が原告会社に対する債務不履行
又は不法行為を構成するか及び損害額。(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告らが原告らに対して関西地域において千鳥屋の名称を使用して菓
子類を販売しない義務を負い,被告らが同義務に違反する行為をしているか)につ
いて
【原告らの主張】
(1)P3は,自己が発展させた千鳥屋事業の経営に息子4人を参加させて全国的に
事業を発展させ,東京地域は長男のP6,関西地域は三男の原告P1に事業分割し
ているところ,兄弟4人が千鳥屋事業を各々展開するについては地域ごとにその事
業を限定し,兄弟間での争いは絶対に起こすべきではないという信念を持っていた。
(2)P3の4人の息子であるP6,P4,原告P1及びP7は,このようなP3の
信念を受け入れ,自分以外の地域で「千鳥屋」の屋号の下に菓子類の販売をしない
旨を互いに合意した。したがって,P4は,原告P1に対し,関西地域において
「千鳥屋」の屋号の下に菓子類の販売をしない義務を負う。
また,千鳥屋事業の事業主であるP3は,昭和60年頃,原告P1に対し,関西
地域で「千鳥屋」の登録商標に基づく千鳥屋事業を独占的に行う権利を付与した。
したがって,P3の千鳥屋事業を承継した者は,関西地域において「千鳥屋」の屋
号の下に菓子類の販売をしない義務を負う(以下,これらの義務を「本件競合避止
義務」という。)。
以上のことは,①P3が,昭和62年8月1日付けで作成した「証明書」(以下
「本件証明書」という。甲1)により,原告P1に対し,関西地域で「千鳥屋」の
屋号を使用した菓子製造販売業を独占的に行う権利を与えたこと,②平成4年8月
27日の荒木法律事務所でのP3及び息子らの話合いにおいて,原告P1と他の兄
弟は,原告P1が関西地域における「千鳥屋」の屋号を使用した菓子製造販売業を
独占することを合意したこと(甲2),③P3が,P4が大阪へ出店する動きをし
た際,原告P1の進言によりこれをやめさせたこと,④P3が,平成7年5月30
日付けの「確約書」(以下「本件確約書」という。甲3)により,原告P1に対し,
関西地域での「千鳥屋」の屋号を使用した菓子製造販売業を独占させることを確約
したこと,⑤P3の遺産分割協議時の4人の兄弟による話合いにおいて,「千鳥
屋」の屋号を使用した菓子製造販売業の販売地域は,P6が東京地域,原告P1が
関西地域,P4及びP7が福岡地域とする旨が確認されており,この旨はP6の原
告P1に対する手紙(甲4ないし6)でも言及されていること,⑥平成16年頃に
P4が関西地域のスーパーで「千鳥屋」の屋号でチロリアン等を販売した際,原告
側の抗議に対してP4が関西地域での販売をしない旨を約したこと(甲8),⑦P
4死亡後の平成23年頃,被告P2が代表取締役を務めていた被告会社が再び関西
地域のスーパーでチロリアン等を販売した際,原告側の抗議に対して被告P2が同
年6月10日付けの手紙で販売しない旨を約したこと(甲9)から明らかである。
(3)そして,以上の合意又は独占的事業権の付与は,単にそれに直接関与した個人
のみを拘束するのではなく,個人が千鳥屋事業を行うために法人化した会社をも拘
束するものであった。したがって,P4の相続承継人である被告P2のほか,P4
がP3の千鳥屋事業を承継するために設立した被告会社をも拘束する。
(4)それにもかかわらず,被告らは,平成23年12月以降,関西地域で「千鳥
屋」の屋号を使用してチロリアン等の菓子を販売しており,これは本件競合避止義
務に違反する行為である。
【被告らの主張】
(1)P3が,息子4名による兄弟間での事業に関する争いを絶対に避けなければな
らないと考えていたことは認めるが,被告らが原告らの主張するような競合避止義
務を負うことは否認する。
(2)P4ら兄弟が,原告らが主張するような競合避止合意をしたこと及びP3が原
告P1に関西地域での独占的事業権を付与したこと,P3にそのような権限があっ
たこと,P4が本件競合避止義務を引き受けたことはいずれも否認する。
原告らが主張する①の本件証明書をP3が作成したことは認めるが,そこにはP
3が原告P1に関西地域での独占的事業権を付与するとの記載はない。②の平成4
年8月27日の荒木法律事務所での話合いは,原告P1が不動産投資に失敗し,莫
大な額の負債を負ったことから,原告P1に対して資金援助を行うに際し,「原告
P1及び大阪千鳥屋関連の会社」と「P3,P6,P4,P7及び福岡千鳥屋関連
の会社」とは相互に相互の事業には容喙しない旨と,それらの間での持株関係を解
消する旨を約したもので,本件競合避止義務を合意したものではない。③は争う。
④の本件確約書は,それをP3が作成したことは認めるが,P3は,母として他の
兄弟達に関西地域に出店させないし,商品を売ることもさせないことを約束し,ま
た,他の兄弟たちがそのようなことをしないという見通しを語っているにすぎない。
⑤の遺産分割協議の際の話については,仮に遺産分割協議の際に兄弟間で地域ごと
に分かれているのをきちんと守っていこうという話が出たとしても,P4がそれを
法的拘束力を有する契約としてそれを承諾したことはない。⑥のP4が原告P1か
らの抗議を受けて関西地域での販売を中止したことについては,P4は,被告会社
は関西地域での取引が少量であり,同地域での取引を積極的に展開する方針ではな
かったため,原告らから訴訟を提起された場合の費用を考えて関西地域での取引を
中止したにすぎない。⑦の被告P2が原告P1からの抗議を受けて関西地域での販
売を中止したことについても同様である。
(3)原告らが主張する競合避止合意やP3による独占的事業権の設定は,自然人間
での事柄であるから,原告会社や被告会社にその効力が及ぶことはない。
(4)被告会社は,平成16年4月20日以降は「株式会社千鳥饅頭総本舗」の商号
で商取引を行っており,このことは関西地域での取引においても同様であるから,
被告会社は「千鳥屋」の屋号を使用して菓子類を販売していない。
2争点2(原告P1の被告P2に対する商標権持分権確認請求に係る訴えにつき
確認の利益又は被告適格があるか)について
【原告P1の主張】
本件商標権は,P3の4人の息子が準共有している商標であり,被告P2は準共
有者の一人であるP4の相続人としてその準共有権者となっていた。そして,被告
P2は,被告会社の代表取締役として,本件商標権をP6からその孫のP8名義で
取得する行動に出た上で,さらに被告会社名義に変更させており,これらの名義変
更は全て被告P2の意向の下に行われている。
したがって,原告P1の被告P2に対する商標権持分権確認請求に係る訴えにつ
き確認の利益又は被告適格は認められる。
【被告P2の主張】
被告P2は,本件商標権の登録名義人でも登録商標の使用者でもなく,本件訴訟
以外で原告P1の準共有持分権を否定する行為をとっているわけでもないから,被
告P2との関係で原告P1の持分権を確認しても,原告P1の持分権をめぐる紛争
を抜本的に解決することにはならない。原告P1は,本件商標権の現在の登録名義
人である被告会社との間で持分権を確認すれば足りる。
したがって,原告P1の被告P2に対する商標権持分権確認請求に係る訴えにつ
き確認の利益又は被告適格を欠く。
3争点3(原告P1が本件商標権の持分権を有するか)について
【原告P1の主張】
本件商標権は,P3が和泉製菓から譲り受けたものであるが,その移転登録手続
を任されたP6が自己名義で登録手続を行ったにすぎない。このことは,P3の本
件確約書からも明らかである。したがって,真の権利者はP3であるところ,P3
及び4人の息子の話合いの結果,P3が4人の息子に本件商標権を譲渡することに
なったことや,少なくとも本件商標権はP3から4人の息子に相続されたことから,
原告P1は,4分の1の持分権を取得した。
【被告らの主張】
(1)本件商標権を和泉製菓からP3が譲り受けたとの主張は否認する。もともと
「チロリアン」の名称はP6が雑誌で見つけてきたものであり,菓子のチロリアン
もP6がP4と共同で昭和37年頃に開発したものである。このような経緯に加え,
本件商標権の譲渡がされた昭和39年当時,長男のP6が家長的な役割を果たすこ
とが期待されていたことから,P6が譲受人となったものである。
(2)仮に,本件商標権の真の譲受人がP3であったとしても,商標法上,商標権の
設定登録は商標権発生の効力要件であるとともに存続要件であるから,原告P1の
主張は失当である。
4争点4(被告らが関西地域において菓子類を販売する行為が原告会社に対する
債務不履行又は不法行為を構成するか及び損害額)について
【原告会社の主張】
原告らは,被告P2及び被告会社に対して,本件競合避止義務を遵守して関西地
域で被告会社が「千鳥屋」という名称を使用して菓子類を販売することを中止する
よう再三にわたって求めてきたが,被告らはこれを無視し,被告P2は被告会社に
販売を継続させ,被告会社は販売を継続している。また,原告会社は,各々店舗を
構えて高級菓子「千鳥屋」というイメージで菓子事業を展開しているのに対し,被
告会社は,「千鳥屋」という名称の下に,スーパーマーケットなどにおいてチロリ
アンを量り売りという安売りの販売方法をチラシで大々的に宣伝して販売しており,
原告会社の信用が大きく毀損され,売上げも減少してきている。このような被告ら
の行為は,本件競合避止義務の債務不履行又は不法行為を構成する。
そして,これによる損害は,1000万円を下らない。
【被告らの主張】
原告会社の主張は争う。被告会社は平成23年5月以前にチロリアンを関西地域
で販売しているが,原告のチロリアンの販売額は平成23年当初から僅少であり,
店頭においてチロリアンを販売しておらず,ホームページではチロリアンを取扱商
品として掲載していなかった。また,原告会社は,特大袋という自家用のチロリア
ンを販売しており,高級志向の販売態様ではない。被告会社の量り売りも阪急百貨
店梅田本店のみであり,それ以外では行っていない。これらから,原告会社の売上
げが被告会社のチロリアンの量り売りに起因するものではない。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告らが原告らに対して関西地域において千鳥屋の名称を使用して菓
子類を販売しない義務を負い,被告らが同義務に違反する行為をしているか)につ
いて
(1)事実経過
前提事実に加え,証拠(後掲書証,甲37,乙14,15及び26,証人P9,
原告P1,被告会社代表者)によれば,以下の事実が認められる。
アP3は,昭和29年に夫のP5が死亡した後,福岡県飯塚市及び福岡市で「千
鳥屋」の屋号で営んでいた家業の菓子製造販売業の事業主となり,その後,北九州
市に事業範囲を拡大しており,福岡地域における昭和44年当時の売上高は11億
円超,昭和55年当時の売上高は40億円超と拡大した(甲17)。
この間,昭和39年に東京支店が設けられてP6が担当し,その後,P6は独立
し,東京地域で千鳥屋の名称を用いて菓子製造販売業を営むようになった。
また,昭和48年に大阪支店が設けられて原告P1が担当し,その後,原告P1
は独立を許されて昭和61年に原告会社を設立し,以後,原告会社において,関西
地域で千鳥屋の名称を用いて菓子製造販売業を営むようになった。そして,P3は,
昭和62年8月1日付けで,本件証明書を作成して原告P1に交付した(甲1)。
そこでは,「大阪千鳥屋(代表者P1)は昭和60年1月1日に独立致しまし
た。」,「近畿地区に於いて公式的な交渉は千鳥屋の一代表として認める。」と記
載され,「千鳥屋P3」の記名印と,「千鳥屋P3」の社印が押捺されている。
イ平成4年8月27日,P3の顧問弁護士であった荒木弁護士の事務所にP3,
P6,P4,原告P1及びP7が参集し,「覚書」を作成した(以下「本件覚書」
という。乙1)。
そこでは,「菓子製造販売業千鳥屋,千鳥屋開発株式会社および株式会社チロリ
アン」を「甲企業」,それらの「各経営者P3,同P6,同P4,同P7の四名」
を「甲」,「菓子販売業大阪千鳥屋,千鳥饅頭製菓株式会社および有限会社千鳥商
事」を「乙企業」,その「経営者P1」を「乙」とした上で,①「本日以降,甲ら
は甲企業の維持育成に専念して乙企業に容喙せず,また乙は乙企業の維持育成に専
念して甲企業に容喙しない。」,②「前記の約定履行を確保するため,甲らが保有
する乙企業の株式・持分と乙らが保有する甲企業の株式とは,可及的速やかに交換
その他相当の手段をもってそれぞれ相手方または相手方企業に譲渡する。ただし,
譲渡の時期・価額その他必要な事項は双方協議の上別途定める。」とされた。
この席で,P3は,この趣旨について,「私はこれについては,もう東京は東京,
大阪は大阪でですね。それぞれ企業も分離してますので,もう大阪の企業に…また
一々口出しをする必要はない。それから大阪には,もう大阪独自でしているんだか
ら,また,福岡にチロリアン株式会社というのができたのに,何とかかんとか少し
でも所有の権利を主張したり何かすることもできない。お互いにそれはもう分離し
て,絶対お互いに…分の何をこの表をもってきっちしていただきたいと。」と述べ
た(甲2)。
ウP3は,原告P1から頼まれて,平成7年5月30日付けで,本件確約書を作
成して原告P1に交付した(甲3)。そこでは,「千鳥屋として関西はP1に経営
を任せたもので,将来あなたの兄弟には『千鳥屋』又は『千鳥屋販売』等の屋号で
絶対に関西には出店させませんので安心してください。あなたは弟だから兄たちが
いう事をかないと言いますけど,身内の争いは信用を落とす最大の要因ですから,
他の兄弟はちゃんとわきまえています。又あなたの兄弟が関西で『千鳥屋』等の屋
号で千鳥屋の商品を売る事はさせませんので,心配しないで関西で頑張って下さい。
今は九州以外では千鳥屋は関東はP6,関西はP1に地域を分けて,独立して経営
していますが,兄弟で地域を争う事は絶対に許しません。親から与えられた家業に
感謝して,与えられた地域で経営して,兄弟仲良く助け合うようにしてくださ
い。」と記載され,「千鳥屋販売株式会社代表取締役P3」の記名印と,「千鳥
屋販売株式会社」の社印が押捺されている。
エP3は平成7年12月1日に死亡した。
オP3の遺産の遺産分割を協議する中で,P6からは,P10家の決まりとして
兄弟仲良くしていかなければならない,お互いに侵害してはいけないとの話があり,
また,平成9年に遺産分割調停が申し立てられた後も,P6が東京地域,原告P1
が関西地域,P4及びP7が福岡地域とする販売地域を互いに守っていこうとの話
があり,他の兄弟らから特に異論は出なかった。
カP3の死後,P3が代表取締役を務めていた千鳥屋販売については,平成8年
11月5日にP4及びP7が代表取締役に就任した(甲28)が,同じくP3が代
表取締役を務めていたチロリアンについては,同年1月27日にP6が代表取締役
に就任した(乙16)ものの,同社から千鳥屋販売への従業員の移籍や,P4を取
締役から解任する株主総会決議とその効力停止の仮処分,チロリアンから千鳥屋販
売に対する工場の断行明渡し仮処分等をめぐる紛争が生じた(乙18及び19)。
また,P4は,自己の事業を行うべく,平成9年8月1日に被告会社(当時の商
号は株式会社千鳥屋ファクトリー)を設立した(乙4)ところ,千鳥屋販売から被
告会社への従業員の移籍や,P7が原告P1を千鳥屋販売の代表取締役に擁立しよ
うとしたことをめぐって紛争が生じ,平成10年4月22日に千鳥屋販売の代表取
締役を解任され,以後,同社の代表取締役はP7のみとなった(甲28の2)。
その後,P4側とP7側の紛争が続いたが,P4及び被告会社側と,P7,千鳥
屋販売及びチロリアン側は,平成15年11月11日付けで「基本合意書」を作成
した(甲12及び35)。そこでは,P4とP7の間でのP3の遺産分割協議の件
やチロリアンの持株の譲渡に関する事項や,被告会社と千鳥屋販売及びチロリアン
との間での本件商標権に係る登録商標の使用や商号の相互承認,被告会社による営
業店舗及び工場の使用の承認と賃貸借契約の切替え等が合意された。
キ原告P1は,生活協同組合コープ神戸に対し,平成16年8月8日付けの書面
を送付し(甲30),その中で,被告会社が同組合の店舗で千鳥饅頭を販売してい
ることについて,兄弟間での販売地域の取決めに反するもので,チラシで安い値段
を強調することにより迷惑を被っているとの趣旨を述べた。また,原告P1は,P
4の代理人弁護士に対し,同年11月25日付けの書面を送付し(甲31),その
中で,被告会社が京阪デパートで千鳥饅頭を安価に販売する行為は,兄弟間の取決
めに反し,原告会社の信用を崩すものであると述べた。これに対し,P4は,関西
地域で「千鳥屋」の屋号を使用して商品を販売することができないわけではないと
考えていたものの,被告訴訟代理人から,たまたま獲得した仕事で訴訟になるのは
得策ではないなどとの助言を受け,関西地域での販売を中止した。
クP6は,原告P1の義父に対し,平成17年1月27日付けの書面を送付し
(甲4),その中で,原告P1が東京都内において「株式会社寛永堂」,「千鳥屋
宗家」の登記をしていることが,遺産分割協議において確認した,P6は東京地域,
原告P1は関西地域,P4及びP7は福岡地域を販売地域とするという兄弟4人間
の合意に反すると述べ(甲4),同年2月2日付けの代理人弁護士による返答書で
も同趣旨を述べた(甲5)。
また,P6は,平成21年9月3日付けの代理人弁護士による通知書を送付し
(甲6),その中で,原告P1が東京都内で寛永堂を出店して商品を販売すること
は,遺産分割協議において確認した,P6は東京地域,原告P1は関西地域,P4
及びP7は福岡地域を販売地域とするという兄弟4人間の合意に反すると述べた。
これに対し,原告P1は,同年9月8日付けの書面を送付し(甲7),その中で,
P6が東京地域で「千鳥屋」の屋号を使用して商品を販売することについて独占す
ることは仕方ないが,他の兄弟が他の屋号を使用して商品を販売することは許され
ると述べた。
ケP4は,平成20年6月6日に死亡し,その頃,被告P2が被告会社の代表取
締役に就任した。原告P1は,被告P2に対し,平成23年6月1日付けの書面を
送付し(甲8),その中で,被告会社が関西のスーパーで千鳥屋の屋号で菓子チロ
リアン等を販売していることについて,原告会社のイメージダウンになり,母親か
らも他の兄弟に大阪で経営はさせないとの証明書ももらっているので中止を求める
旨を述べた。
これに対し,被告P2は,関西地域での競合避止義務を負っているとの認識はな
かったが,同月10日付けの書面で,被告会社が価格の違う商品をスーパーで販売
したことが原告会社のイメージダウンになると原告会社が感じたことは理解したの
で,それらの商品が関西のスーパーで販売されないよう十分に注意する旨を回答し
た(甲9)。
コ被告会社は,平成23年12月13日に息子の現代表者が代表取締役に就任し,
その後の平成25年9月28日に被告P2が代表取締役を退任した(乙4)それ以
後も,別紙「被告会社の販売状況」のとおり,関西地域において商品を宣伝・販売
している(甲21)。そのうち,例えば阪急百貨店うめだ本店では,「福岡『千鳥
屋』」の表示の下に菓子チロリアンの量り売りを行うなどしている(甲22)。
(2)以上を前提に検討する。
アP3が,息子4名による兄弟間での事業に関する争いを絶対に避けなければな
らないと考えていたことは当事者間に争いがないところ,P3が原告P1ら兄弟の
母親であり,千鳥屋事業の長年の事業主でもあったことからすると,千鳥屋事業に
関与していた原告P1ら兄弟が,P3の生前において,その意向を尊重し,その方
針に従う行動を取ることは自然なことである。しかし,それを超えて,原告P1ら
兄弟において,原告が主張するような競合避止義務を法的な義務として負うといえ
るためには,それが営業の自由を制限するものであるだけに,そのような法規範的
拘束力を認めるに足りるだけの根拠が別途必要である。
イこの根拠として,まず原告らは,兄弟間において,自分以外の地域で「千鳥
屋」の屋号の下に菓子類の販売をしない旨の競合避止合意をしたと主張する。
(ア)しかし,この合意をしたとして原告が主張する局面のうち,平成4年8月27
日の荒木法律事務所での協議は,本件覚書のとおり,原告P1側と,P3及び他の
兄弟側との間で,互いの事業に容喙,すなわち口出ししない旨とそのための持株の
交換的譲渡を合意したにすぎず,その席でのP3の説明もそれを超えるものではな
い。したがって,このときに,原告P1ら兄弟間において,原告ら主張の販売地域
に関する競合避止合意がされたとは認められない。
(イ)次に,原告らが主張する局面のうち,P3の遺産分割協議のときのことについ
ては,P6が兄弟それぞれの販売地域を守っていこうと話し,他の兄弟が特に異論
を述べなかったことは認められるが,遺産分割という協議の本題とは別のことにつ
いて示された意見に対して,単に異論を挟まなかったというだけで,書面も作成さ
れないまま法的な義務を負うことを各人が合意したと認めることはできない。確か
にP6は,その後原告P1に対して送付した文書の内容からすると,遺産分割協議
の過程において互いの販売地域を侵さない合意をしたと認識していたと認められる
が,P6は,およそ屋号を問わない販売地域の競合避止合意がされたと認識してお
り,これは原告P1とも認識が異なっている。また,証人P9の証言によれば,P
4は,遺産分割協議の際には,兄弟間で多数の訴訟事件が提起される中で,今後は
仲良くやっていくという程度の合意がされたにとどまると認識していたと認められ
る。これらからすると,遺産分割協議の際の口頭のやり取りについて,各人の思惑
や受け止め方が異なっており,原告らが主張するような内容での明確な合意がされ
たと認めることはできない。
(ウ)さらに,原告らは,P3の生前にP4が大阪へ出店する動きをした際に,原告
P1の進言によりP3がこれをやめさせたと主張し,原告P1もこれに沿う供述を
する。しかし,原告P1は,平成16年のP4の代理人弁護士に対する抗議の書面
(甲31)でも平成23年及び平成25年の被告会社(被告P2及び被告代表者)
に対する抗議の書面(甲32ないし34)でもその旨を述べていないことから,上
記の原告らの主張及び原告P1の供述を直ちに採用することはできない。また,仮
に上記の主張等が事実であるとしても,単にP4がP3の意向を尊重したにすぎな
いと見ることは十分可能であり,それをもって兄弟間で原告ら主張の競合避止合意
があったと推認することはできない。
(エ)加えて,原告は,平成16年及び平成23年に被告会社(P4及び被告P2)
が原告側からの抗議に応じて関西地域での販売を中止したのも,前記認定のとおり,
原告側との訴訟沙汰を避けるためであったと認められるから,それらの行動をもっ
て,兄弟間に競合避止合意があったと推認することはできない。
(オ)そして,他に兄弟間の競合避止合意を認めるに足りる証拠はないから,原告ら
主張の競合避止合意は認められない。
ウ次に,原告らは,原告P1がP3によって関西地域での独占的事業権を付与さ
れたことから,P4ら他の兄弟は関西地域での競合避止義務を負うと主張する。
(ア)しかし,まず,本件証明書(甲1)は,千鳥屋のP3が,原告P1を関西地域
における公式の一代表として認めているにとどまり,それを超えて原告P1に関西
地域での独占的事業権を付与する旨までが記載されているとは認められない。
(イ)次に,本件確約書(甲3)では,千鳥屋販売の代表取締役のP3が,原告P1
に対し,他の兄弟に「千鳥屋」等の屋号で関西地域で出店させたり商品を販売させ
たりしない旨を約していると認められる。
しかし,本件確約書は,そこに千鳥屋販売の代表者の記名印及び社印が押捺され
ていることからして,P3が個人としてではなく,千鳥屋販売の代表取締役として
作成したものであり,約定の主体は千鳥屋販売であると認められる。そして,千鳥
屋販売が原告P1に対してした約定が,千鳥屋販売とは別の法主体である被告会社
及び被告P2に対して拘束力を有するとは認められない。
その点を措くとしても,P4ら他の兄弟が独立の事業主体として事業を行う場合
には,事業地域について営業の自由を有するから,たとえのれん分けであっても,
P4ら他の兄弟側の同意なしに,P3が各人の販売地域を一方的に制約することは
できない。そして,前記イで述べたところからすると,少なくともP4が,原告ら
が主張する競合避止義務を法律上の義務として受け入れていたと認めることはでき
ない。
なお,仮に本件確約書による約定の主体がP3個人であると見る場合,P3の死
亡により,P4ら兄弟はP3がした上記約定を相続により承継するかに見える。し
かし,本件確約書が作成された時点では,千鳥屋事業は既に法人化され,P3個人
は事業主体ではなくなっているから,そのようなP3が個人として原告P1に販売
地域の独占を確約したのであれば,それは,息子らの間で紛争を生じて欲しくない
という母親としての強い心情に基づくものと解され,このことは「兄弟間で地域を
争うことは絶対に許しません。」等の文面からもうかがわれる。そうすると,P3
が本件確約書においてした約定は,個人的な色彩を濃厚に有するものであるから,
一身専属性を有し,相続の対象となるものではないと認めるのが相当である。
(ウ)したがって,P3による原告P1への独占的事業権の付与によるP4ら兄弟の
競合避止義務は認められない。
エ以上によれば,P4ら兄弟が原告らが主張する競合避止義務を負うとは認めら
れず,したがって,被告らが同義務を負うとも認められないから,その余の点につ
いて判断するまでもなく,原告らの被告らに対する競合避止義務に基づく販売行為
差止請求は理由がない。
2争点2(原告P1の被告P2に対する商標権持分権確認請求に係る訴えにつき
確認の利益又は被告適格があるか)について
確認の訴えにおいては,原被告間の紛争を確認判決によって有効適切に解決し得
る関係にある場合に確認の利益が認められ,被告適格は,原告の保護法益と対立拮
抗する利益を主張している者に認められる。
ところで,前提事実記載のとおり,本件商標権の現在の登録名義人は被告会社で
あり,被告P2は,被告会社が登録名義を取得した当時の被告会社の代表取締役で
あったにすぎず,登録商標を使用しているわけでもないなど個人として本件商標権
に法律上の利害関係を有しているわけではない。そうすると,たとえ原告P1と被
告P2個人との間で,原告が本件商標権の持分権を有するか否かについて争いがあ
る場合でも,それは事実上の争いにすぎず,確認判決の既判力によって解決するの
が有効適切な法律上の紛争とはいえないから,原告P1の被告P2に対する商標権
持分権確認請求に係る訴えは,確認の利益ないし被告適格を欠き,不適法というべ
きである。
3争点3(原告P1が本件商標権の持分権を有するか)について
前提事実記載のとおり,本件商標権は,和泉製菓名義で設定登録されたものがP
6名義に移転登録されたものであるところ,原告P1の主張は,和泉製菓からの真
の譲受人がP3であり,それにより本件商標権を真に取得して権利者となったのが
P3であることを前提としている。
しかし,民法上,物権の移転は,当事者の意思表示のみによってその効力を生じ
(民法176条),登記や引渡しは第三者に対する対抗要件にすぎないとされてい
る(同177条及び178条)のに対し,商標権については,商標権の移転は,相
続その他の一般承継によるものを除き,登録しなければその効力を生じないとして,
移転登録が権利移転の効力発生要件とされており(商標法35条,特許法98条1
項1号),この趣旨は,権利の移転等の権利関係をより明確にする点にある。そう
すると,原告P1が主張するように本件商標権の譲渡契約における真の譲受人が仮
にP3であるとしても,P3が移転登録を受けていない以上,P3への商標権移転
の効力が生じることはないから,原告P1の主張はその前提を欠くというべきであ
る。
したがって,原告P1の商標権持分権確認請求は,その余について判断するまで
もなく理由がない。
4争点4(被告らが関西地域において菓子類を販売する行為が原告会社に対する
債務不履行又は不法行為を構成するか及び損害額)について
原告会社のこの請求は,被告らが原告ら主張の競合避止義務の違反行為を行って
いることを前提とするものである。しかし,争点1について述べたとおり,被告ら
が原告ら主張の競合避止義務を負っているとは認められないから,原告会社の主張
はその前提を欠くというべきである。したがって,被告らの関西地域での菓子販売
行為に係る原告会社の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,その余に
ついて判断するまでもなく理由がない。
第4まとめ
以上によれば,原告P1の被告P2に対する本件商標権の持分権の確認請求に係
る訴えは不適法であるからこれを却下し,原告らのその余の請求はいずれも理由が
ないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官髙松宏之
裁判官野上誠一
裁判官大門宏一郎
(別紙)
商標権目録
出願日昭和37年4月17日
出願番号昭37-10998
出願公告日昭和37年12月27日
出願公告番号昭37-32421
登録日昭和38年5月23日
登録番号第614146号
商品の区分第30類
指定商品菓子,パン
以上

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