弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
押収してある電気コード1本(押収番号省略)を没収する。
理    由
(犯罪事実)
被告人は,平成13年12月中旬ころから同居していた二男A(当時42歳)に
対し,日頃,飲酒に耽って定職に就かない上,被告人を侮辱する態度を取っている
と感じて憎しみを抱いていたところ,Aとの同居のために生活習慣を乱され,夜も
熟睡できなくなったこと等も相まって,この憎しみを募らせ,同人を殺害すること
を決意し,平成14年1月11日午後零時45分ころ,山口県防府市ab番c号所
在の被告人方2階4畳半間において,就寝中のAに対し,殺意をもって,切断した
電気コード(押収番号省略)の一端に結び目を作り,他端をこの結び目の中に通し
て大きな輪を作り,この輪を2重にしたものをAの頭部を通して頸部に掛け,結び
目になっていない端を強く引いて同人の首を強く締め付け,よって,同日午後2時
40分ころ,同市d
e番地所在のB病院において,同人を窒息死させて殺害したものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
 被告人の判示所為は,刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選
択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未
決勾留日数中60日をその刑に算入することとし,押収してある電気コード1本
(押収番号省略)は,判示殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,
同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法
181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人が,その二男で,以前から再々にわたって被告人から経済的援
助を受けていた被害者が定職に就かずに飲酒し,また,被告人を侮辱するような発
言や行動を取っていることに憎しみを感じ,被害者を殺害することを思い付き,こ
の思いを次第に強めて,遂には被害者を殺害することを決意し,事前に準備した電
気コードで同人の首を締め,同人を窒息死させて殺害したという事案である。
2 関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯について,以下の事実を認めることが
できる。
被告人は,尋常高等小学校卒業後,防府市内のC時計店に丁稚奉公に入り,昭
和22年ころDと結婚し,昭和23年に長男Eを,昭和34年に二男である本件被
害者をもうけた。なお,Eは平成3年に病死している。被告人は,いわゆる職人気
質の真面目な性格で,その働きぶりを買われ,C時計店の社長の養子になるととも
に,同人から現住地の土地,建物の財産分与を受け,69歳までC時計店に職人と
して勤務した。また,被告人は,昭和36年ころから平成11年ころまで,自宅で
損害保険の代理店をしていた。
被告人の二男であるA(以下「被害者」という。)は,昭和59年,Fと結婚
し,同女との間に1子をもうけたが,昭和63年には同女と離婚した。被害者は,
平成元年1月,Gと結婚し,同女の両親宅の近隣に自宅を新築して居住,生活し,
同女との間に3子をもうけた。
被害者は,平成7年ころ,それまで勤務していた会社を辞職し,その後,職を
転々としていたが,その間,満足な収入が得られず,自宅新築時の住宅ローンの返
済に窮するようになった。そして,被害者は,消費者金融からの借金に頼り,ます
ます困窮の度合いを深め,平成11年2月,借金取立を回避するため,Gと離婚
し,同女共々自己破産を申し立て,同年11月,破産宣告を受けた。被害者は,G
と離婚したものの,実際には,同女及び同女との間の3人の子とともに競売手続中
の自宅で同居を続けていた。なお,被告人は,被害者の破産手続に要する費用とし
て,数十万円を用立てた。
被害者は,平成13年11月,自宅の競落人から立退きを求められたが,当
時,被害者には,知人に紹介してもらう作業員としての仕事が時折あるだけであっ
た。Gは,被害者に働く気を起こさせるためにも,自宅立ち退きを機に被害者と別
居し,被害者が定職に就いた後に再び同居するのがよいと考え,被害者との間でも
その旨合意した。被害者とGは,平成13年12月中旬,それぞれの両親を頼って
実家に転居し,被害者とGとの間の3人の子は,Gが引き取った。かくして,被害
者は,被告人方で被告人及びDと同居することになり,被告人とDは主に1階で,
被害者は2階で生活するようになった。被告人は,被害者に対し,再々定職を探す
よう注意したが,被害者は,定職に就こうとせず,平成13年10月と11月に数
日間働いた分の給料を
小遣いにして飲酒に耽る生活を続けていた。
被告人は,被害者が20歳前後のころから,消費者金融からの借金,車や住宅
ローンの返済,前々妻との間の子の養育費の支払いなどのために金銭的援助をして
いたが,その総額は,本件犯行時までに,優に1000万円を超えており,その中
には,被告人の退職金,被告人が趣味にしていた株取引に投資していた金員や,D
が相続した金員も含まれていた。被告人は,もともと古風で職人気質,他人に迷惑
をかけないで生きていくべきとの価値観を有し,これに反して放蕩な生活を続ける
被害者に反感を持ちながらも,被害者に対して様々な援助をしていたが,同居後も
被害者が定職に就かず,飲酒ばかりしているのを見て,自分とは違うどうしようも
ない性格の人間であり,他人に相談しても被害者の性格が正されることはないし,
被害者が経済的に立
ち直ることもないと考えるに至った。
被告人は,このような被害者と同居することが苦痛でたまらず,夜,被害者が
家の中の階段を昇降する音でさえ気にして眠れなくなるほどであった。そこで,被
告人は,Gに電話し,毎月5万円ずつ援助するので,被害者と一緒に暮らすように
勧めたが,Gから,被害者が定職に就くまでは同居するつもりはないと拒否され,
被告人と被害者の同居状態が続いた。もっとも,被告人は,被害者に対し,被告人
方を出て行くように言ったことはなかった。
被告人は,平成14年1月初めころ,被害者から,「親父が首をくくったら,
わしが足を引っ張っちゃる。」などと言われて立腹し,それまでにも被害者の借金
を返済していたことや,被害者との同居後,生活習慣を乱されたことなどに対する
悪感情が高まり,定職に就かずに飲酒している被害者の将来を不安に思う感情も加
わって,いっそのこと被害者を殺害しようかなどと考えるようになり,Dに対して
も,被害者に対する殺害をほのめかすようになった。
被害者は,平成14年1月10日,歯科医に行くと言って,Dから現金800
0円を受け取り,車で外出した。ところが,被告人が同日夕刻に被害者の携帯電話
に電話したところ,被害者が友人方で飲酒していることが判明し,被告人は,被害
者が歯科医への通院を口実にしてDから現金を騙し取り,その現金で飲酒している
ものと考え,非常に立腹した。さらに,被告人は,被害者に対し,代行運転で帰宅
するように電話したが,被害者はこれに応えることなく友人方に宿泊し,被告人方
に帰宅することはなかった。
被告人は,被害者の被告人に対する侮辱も極まったと感じ,同日夜,被害者を
殺害することを決意した。そして,被告人は,同夜,被害者殺害用の道具として,
ミシンに接続されていた電気コードを切断し,プラグが付いている一端に結び目を
作り,プラグの付いていない一端をその結び目に通し,プラグの付いていない一端
を引っ張れば首を容易に絞めることができるように同コードを細工し,被害者を殺
害する準備を整えた。
被害者は,翌11日の午前11時30分ころ,被告人方に帰宅し,2階に上が
って就寝した。被告人は,Dとともに昼食を取り,Dは,近所の知り合いの家で洗
髪などをしてもらうために,被告人方から外出した。
被告人は,被害者を殺害する機会を窺っていたが,2階から物音がしないこと
から被害者が眠っていると考え,前夜に準備した電気コードを手に持って,物音を
立てないように2階に上がり,被害者の部屋に入った。そして,被告人は,被害者
が眠っていることを確認し,殺害行為に及ぶことを決意して,本件犯行に及んだ。
なお,本件犯行の動機として,弁護人は,被告人が被害者の将来を不安に思
い,悲観した点を強調している。従前被告人が被害者のために多額の援助をしてい
ること,従前の経過及び同居後の被害者の生活態度を見て,もう被害者が立ち直る
ことはないと考えたことも故なしとできないこと,被害者が定職に就かず,飲酒に
耽る生活を続けていたこと,被告人は,被害者と同居することが嫌で大きな苦痛を
感じていたにもかかわらず,被告人方を出て行けとは言えず,そこには親の子に対
する責任が感じられることなどに照らせば,この点も本件犯行の動機を形成するに
当たり,影響を与えていることは否定できない。しかし,被告人は,被害者と同居
を始めてからわずか1か月弱で本件犯行に及んでいること,被告人は,被害者と同
居を始めてすぐに眠れ
なくなり,被害者を嫌う気持ちもあって,精神的にも肉体的にも限界を感じた旨述
べている部分があること,被告人がDに対して被害者殺害をほのめかし始めたのは
平成14年の正月ころであり,これは,被害者が「親父が首をくくったら,わしが
足を引っ張っちゃる。」と述べた時期であることなどに照らすと,被告人は,直接
には,元々被害者に対して抱いていた憎しみや,自己の生活習慣が乱されたことに
よる苦痛を動機として,本件犯行に及んだものであると認めざるを得ない。
また,検察官は,被告人が被害者を嫌悪・憎悪していたことのみを本件犯行の
動機として主張するが,前記のとおり,被害者の生活歴やこれに対する被告人の経
済的援助等からすれば,被告人が被害者の将来を悲観したことも,直接ではないに
せよ,本件犯行の動機形成に影響を与えていることは否定できないのであって,当
該主張は,被告人の内心を正確に捉えたものであるとはいえない。
3 被告人は,上記のとおり,被告人の価値観に反し,放蕩な生活を続ける被害者
に反感を持ちながら,従前多額の援助をしていたにもかかわらず,被害者が生活態
度を改めず,同居後は被告人の平穏な余生を乱し,怠惰な生活を続け,忘恩的な言
動をし,本件犯行前日も,被告人の妻から金銭を受け取って飲酒等に興じ,被告人
の指示にも従わずに帰宅しなかったなど,被害者が被告人の意にそわず,むしろそ
の神経を逆なでするような言動を続けたため,一方でその将来を悲観しつつも,他
方では親である被告人を侮辱しているなどとして憤激し,もはや被害者との同居生
活は耐え難いとして,その殺害を決意し,本件犯行に及んだものと認められるが,
その犯行動機は,やはり自己中心的で余りにも短絡的なものであるといわざるを得
ない。確かに,被害
者の従前の生活状況,同居後の生活態度には芳しくない点が多々見受けられるし,
被告人に対する暴言等のあったことも認められ,被告人が被害者に対して憤りの念
を持ったこと自体は理解できる。しかしながら,被害者は飲酒の上で被告人らに暴
行等を加えたことはなく,放蕩,怠惰な生活を送っていたにせよ,Gとの間の3子
をかわいがり,Gも被害者との連絡を絶やさず,将来親子5人での生活再開を夢見
ていたものである。実子といえども親の所有物でないことはいうまでもなく,まし
てや被害者には,戸籍上離婚しているとはいえ妻も,また実の子供もいるのであ
り,上記被害者の生活態度等について一定の非難は免れないとしても,到底その一
命を奪われるほどの落ち度があったといえないことが明らかである。また,冷静に
考えれば,親族や第3
者を交えて協議する等,事態打開の方策を模索する途もあったと思われるのに,被
告人は,一時Gに同居を打診したのみで,被害者との真摯な話し合いを持った形跡
もない。
  以上のとおり,被告人の本件犯行動機は,結局のところ,自己中心的かつ短絡
的なものであったといわざるを得ない。
次に,本件犯行の態様についてみると,被告人は,就寝し,無防備な状態にあ
る被害者の頸部に事前に準備した電気コードを掛け,確定的な殺意をもって,自分
の足を横臥している被害者の体に固定し,その反動を利用して力の限り引っ張って
被害者の頸部を締め付け,犯行途中で被害者が目を覚ましてもがいているにもかか
わらず,翻意することなく被害者がぐったりするまで絞め続け,被害者の脈がなく
なったことを確認して初めて手を緩めたことが認められるのであって,その犯行態
様は,極めて悪質かつ執拗なものであったといわざるを得ない。
また,被告人は,本件犯行の前夜に,殺害用の凶器として使用しようと,切断
した電気コードを準備し,一端を引っ張れば首を容易に絞めることができるように
同コードに細工を加えた上で本件犯行に及んだというのであって,このような準備
の周到さからも,殺意は強固で,計画的であったというべきである。
被害者は,被害当時42歳であり,定職に就かず飲酒に溺れる日々を過ごして
いたとはいえ,前記のとおり,命を奪われてその将来を全否定されるほどの落ち度
があった訳ではない。また,被害者が,Gとの間にもうけた3子に対して愛情をも
って接しており,Gも親子5人での生活を夢見ていたことも前記のとおりである。
妻子との別居生活に入って1か月も経たないうちに,それも実の父親である被告人
の手によって,確かな理由も分からないまま一生を終えざるを得なくなった被害者
の無念さは計り知ることができない。また,被害者の遺族にあっても,上記希望を
奪われたG,実の父親を奪われた子供らの被害感情には大きなものがある。
以上の諸事情,とりわけその犯行結果の重大性,犯行態様の執拗性に鑑みれ
ば,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ず,後記被告人に有利な事情を
最大限に考慮しても,被告人に対して相当期間の実刑判決をもって臨むことは避け
られない。
4もっとも,本件については,従前被告人から多大な援助を受けながら生活再建
に失敗し,被告人らを頼って同居したのに,依然として飲酒に耽り,定職に就こう
とせず,あまつさえ被告人に対して忘恩的言動をとった被害者にも一定の落ち度は
あったといえること,被告人は,本件犯行直後,元警察官である甥に連絡を取った
上,同人の忠告に従って警察に連絡し,自己が本件犯行に及んだ旨を伝えているこ
と,被告人は,捜査段階から一貫して自己の犯行を認め,本件犯行について後悔し
ている旨の供述をしていること,被告人には前科前歴はなく,本件犯行の動機,態
様,被害者との関係等に照らせば,再犯のおそれも考えにくいこと,被告人は高齢
である上,同じく高齢の妻も,被告人の身柄拘束の早期解放を待ち望んでいるこ
と,被告人は,本件犯
行に至るまで,真面目な社会人としての生活を全うし,町内会,保険会社関係等の
多数の知人,知り合い等も被告人に対し寛大な処分を望むとしていること,被告人
の親族において,被告人名義で贖罪寄付を行っていることなど,被告人のために酌
むべき情状も認めることができる。
5 そこで,以上の諸事情を総合考慮の上,被告人に対しては主文掲記のとおりの
量刑が相当であると判断した。なお,本件については,被告人に自首が成立する
が,この事情は,情状において十分評価するけれども,法定刑の最下限を下回る量
刑を選択する事由とするまでの情状とはできないから,あえて法律上の減軽をしな
いこととする。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役8年)
 平成14年5月22日
     山口地方裁判所第3部
裁判長裁判官   小   島   正   夫
裁判官   山   口   浩   司
 裁判官   安   部       勝

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