弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原判決中被告敗訴部分を取消す。
右部分についての原告の請求を棄却する。
原告の付帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも原告の負担とする。
○ 事実
(原判決主文)
一 被告北税務署長が昭和(以下略)四〇年八月三日付でした、原告の三九年分所
得税の総所得金額を金一、二二万八、四四五円とする更正(異議申立に対する決定
により一部取消されたのちのもの)のうち、金一一〇万一、六〇三円を超える部分
を取消す。
二 原告の被告北税務署長に対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告北税務署長との間においては、原告に生じた費用の三
分の一を同被告の負担、その余は各自の負担とする。
(請求の趣旨)
1 被告北税務署長が四〇年八月三日付でした原告の三九年分所得税の総所得金額
を金一二二万八、四四五円とする更正(異議申立に対する決定により一部取消され
たのちのもの)のうち金九一四、二〇〇円を超える部分を取消す。
(不服の範囲)
原、被告の各敗訴部分
(当事者双方の主張)
次のとおり付加訂正する外は原判決事実摘示のとおりである。
原告の主張
1、原判決はaの所得を原告の所得算定の唯一の根拠としているが、両者は同じ天
神橋筋にあつてもその立地条件設備外観に差があるのでこの算定は不当である。原
判決のいう理容椅子と従事人員の類似する同業者は数多く、むしろ平均的規模の店
舗が多いのであるから、この類似性で推計することなく、立地条件、客筋設備等の
差異を重視すべきである。
2、被告は同業者三名の所得からの推計を主張しているのに、その中の一人である
aの所得のみで原告の所得を認めるのは弁論主義に反する。
3、被告のいう実調率についてはその根拠となつた店舗を明らかにしないので原告
は反対尋問も出来ず反証の機会も封じられている。その調査は、所得の申告が被告
からの種々の干渉の結果なされている実情からみて真実の所得を反映せず、被告に
有利になされた調査であることが十分推測される。
被告の主張
1、理容椅子台数と従事員数が極端に異なる場合は理容椅子台数を以て推計の根拠
となすことはできないが、椅子が常時満席ということはないのであつて業者は常に
忙しい時期、日、時間というもの、更には顧客をふやすことを念頭において理容椅
子台数や従事員数をきめているのであるから理容椅子九台に従事員七人というよう
な若干の差は考慮すべきものでない。又原告は老令であり、bは幼児を抱えてい
た、cは三九年に出産した、といつてその労働力を各自〇・五人前として実働七人
であると計算するのは合理性がない。cの出産は十一月六日であつたから少くとも
九月までは働けたのであり、同業者のaは五九才で同業組合の副支部長という役職
にあつたし、家事をなすべき同人の妻も従事員であつたから、この能力換算をしな
ければならなくなる。
2、被告が推計の根拠として提出した所得税の青色申告決算書である乙二号証の
一、二の作成名義人Aは、その同意が得られなかつたので氏名を開示できないので
あるが、これは被告が大阪国税局長に送付した報告文書の内容をなしていることは
表紙等に被告の割印がなされていることで明らかである。原告はこのAの氏名が明
らかにされねば反対尋問もできないというが、原告はこの書証の内容の信用性を直
接攻撃できなくとも、その内容に反する証拠を外部に求めることも可能であろう
し、自己の事業内容を明らかにすることにより、Aの所得を自己の所得の推計根拠
とすることの適切でないことを立証できるのであるから、Aの氏名が明らかでなく
とも被告が自己の管内にかような同業者が存在するという報告の公文書として証拠
能力を許容さるべきである。民訴法の規定以外に、信義則という一般原則を持出し
書証の証拠能力を封ずることは許されない。
訂正
原判決八枚目表一二行目の「次にと」とあるのを「次々に」と訂正する。
(証拠)省略
一 理由
一、原告の請求原因1の主張事実、被告の処分の適法性についての1の(2)、
(3)、(4)の主張事実は当事者間に争がない。
二、そこで本件の争点である被告が更正処分によつて判定した収入金額について判
断する。
弁論の全趣旨によると原告は理容業を営んでいたが、その収支を明記した書類を作
成していなかつたか作成していても全然これを提出せず、他に原告の三九年度の所
得を確認するに足る資料がなかつたので、被告がその所得確定の方法として推計課
税の方法をとらざるを得なかつたことが認められる。この方法は推定による計算で
あるから可能な限り実体に近接しておれば足りるものであり、被告がその具体的指
標として原告方の理容椅子の台数をその根拠としたことは妥当といわねばならな
い。また椅子の設置があつてもこれに相応する従業員がいなければ収入は生じない
のであるから、その従事人員数も考慮する必要があるのは当然である。
成立に争のない、甲一号証、甲二、三号証の各一、二、乙一、五、八、一〇号証、
乙一一号証の一、二、三、乙一二、一三号証の各一、二、乙一四号証の一ないし
七、乙一五、一六号証、乙一七号証の一、二、乙一八、一九号証の各一、二、三、
乙二〇号証、乙二一号証の一、二、三、乙二二号証の一、二、乙二三号証の一、
二、三、乙二四ないし二九号証、乙三〇号証の一ないし四、乙三一号証の一、二、
乙三二、三三号証、乙三四号証の一、二、乙三五ないし三八号証、乙三九号証の
一、二、乙四〇号証、乙四一、四二号証の各一、二、乙四三、四四号証、乙四五、
四六号証の各一、二、三、乙四八号証の一、二、乙四九号証、乙五〇号証の一ない
し五、乙五一号証、乙五二号証の一、二、乙五三、五四号証、乙五五号証の一、
二、原審証人aの証言により成立の認められる乙三号証の一、二と同証言、原審証
人dの証言により成立の認められる乙四号証の一、二、当審証人eの証言により成
立の認められる乙五六、五七号証と同証言、原審証人fの証言、原審並に当審にお
ける証人gの証言によると、次の事実が認められる。
1、原告が営んでいた理容院富士は国鉄天満駅の北側で、同駅に近いところにあ
り、人の流れは劇しく、商売上の立地条件に他に勝るとも劣つてはいない。
2、原告は三七年頃からここで理容業を営み、三九年当時は右店舗に理容椅子九台
を設置していて従事者は原告と、原告の長男のg、次男のh、次男の妻のc、雇人
のi、j、k、lの八名の免許をもつ有資格者と同年一〇月に免許をとつたm、免
許の有無の判然としない、n、o、短期間ずつ在職したp、q、r、sと長男gの
妻bが手伝いをしていた。これらの雇人らは出入りはあつたが、原告の一族以外の
従事者が常時五、六人いた。
3、原告は当時六二才であり、長男gの妻bは生後一年の幼児を抱え、次男の妻は
三二九年一一月六日女児を分娩した身体でともに一人前の仕事が出来る身体ではな
かつた。
4、原告はその後は脱退したが、当時は同業者の組合に加入し、男子大人一人の調
髪料三五〇円を標準とする組合の協定料金をとつていた。
5、理容業界は三十年代が好況のピークで四十年代に入ると若者の理髪需要が減り
収益は下降線を辿つたが、原告は店の設備に余り投資をしていなかつた。また原告
の理髪師資格取得は可成り古いが戦後はパンの販売その他種種な営業を営み富士の
開業も三七年で四二年には廃業している。
6、被告が推計課税の根拠としたaは天満駅の南側の天神橋筋<以下略>でa理容
院を営んでいるが椅子は七台で従事者は同人の外妻と雇人五名であつた。天満駅の
南側はその北側に比べ人の流れが少く、いわゆる商売上の賑やかさは北側に及ばな
い。しかし同人の三九年中の収入は三〇五万一三五〇円で椅子一台当り四三万五九
〇七円従事員一人当りも同じ金額であつた。尚原告の店とaの店とは距離は約一粁
ある。
7、同じく被告が推計課税の根拠としたdは当時原告方より一・五粁以上も離れた
北区<以下略>で理容加藤というのを営んでいたが、そこの理容椅子は六台で従事
者は本人の外弟と雇人五名の七名で三九年の収入は三八五万八八九〇円で椅子一台
当り六四万三一四八円、従事者一人当り五七万一二七〇円であつた。同人は椅子一
台の一ヶ月の収入は大体五万円であるといつている。
8、もう一人被告が推計課税の根拠としたAという者が作成提出した青色申告書
(乙五五号証の二、これは同人の承諾がないため被告はA氏名を明らかにしていな
いが、その内容は真実を申告しているものと認められる)によると、同人の営業所
はやはり北区天神橋筋にあり、理容椅子は六台で(従事員は判明しないし、三九年
の収入は四〇八万七三七〇円で椅子一台当り六八万一二二〇円である。
9、乙一一号証の二から乙五二号証の二までの間にある同業者調査表は四三年七月
大阪国税局長が管内のA級税務署長に命じ、管内の理容業者の中三九年度の申告に
つき実地調査を行つた青色申告者、実額調査を行つた白色申告者の収入金額、理容
椅子等を報告させたもので、その報告のあつた大阪市内の二〇例の収入をみると、
椅子一台につき最低三〇万円から最高八三万円の差があり、その平均は一台当り約
五一万八〇〇〇円である。又大阪市以外の一八例の平均は一台当り四五万円強であ
る。
10、原告を含む当時の理容業者は週一回の休日をとり正月休み等をとると年間の
実働日数三〇〇日から三一〇日、一日の営業時間は一一時間で、どの理容業者も大
体同じであつた。
以上のことを認めることができ、以上の認定に反する前記証人gの証言の一部は措
信しない。尚原告は前記8のAという者が作成した青色申告書は作成名義人の氏名
が明らかにされず、原告に反対尋問の機会なく証拠たり得ないというが、この文書
はその方式趣旨により公務員である被告が大阪国税局長あてに提出した公文書の一
部であつて被告が申告者より真正に作成されたものとして受理していることが認め
られるので、証拠たりうるものであり、形式的証拠力がないという原告の主張は採
用できない。裁判所はその内容の信憑性を判断すれば足りるといわねばならない。
原告が申告者について反対尋問ができないのは被告がその守秘義務を守つているた
めであつてやむを得ないといわねばならない。
三、以上の認定事実によると三九年当時の原告の経営規模は理容椅子が九台で、そ
の従事員は一人前の能力を有する者六名に、原告の能力を五〇%、cの能力を七〇
%、bや免許のない者の能力を合せて一〇〇%強とみることができるので、それら
を合計すると、従事員は八・二人強となり、通常の理容店の理容椅子に対する従事
員に匹敵するので、この理容椅子台数を以て推計した被告の方法は正当といわねば
ならない。
次にその理容椅子一台当りの収入であるが被告の主張するA、a、dの収入を椅子
で平均すると一台当り六三万円余となり、被告の主張する五八万六〇〇〇円をこえ
ているが、これらの業者の立地条件、経営規模は原告と似ている点もあるが、原告
の店舗の設備が余りよくなく、結局廃業に至つたこと等を考えるとこの数字で推計
するよりはむしろ前記9で認定した大阪国税局長が管内の税務署長に報告させた大
阪市内の理容業者二〇例の収入平均である椅子一台につき約五一万八〇〇〇円より
更に低い五〇万円と推定すべきである。そして、本件では他にこれをくつがえすに
足る資料がないから、右推定額に椅子台数九を乗じた四五〇万円を以て原告の三九
年度の収入と認める。
この点につき原告は、斯様な推計に合理性はなく、原告の具体的事情に応じて算定
すべきものであり、被告の主張は単なる見込み課税であると主張しているが、原告
が収入について正確な記帳による報告をしない以上被告は推計課税をせざるを得な
いので、この推計課税を以て根拠のない単なる見込課税ということはできない。被
告が訴訟中に於て一部金額を変更しても、それは推計課税故に生じたことであつて
違法とはいえないのでこの主張は採用できない。又被告が実調率による推計の合理
性を主張しても故意又は重大な過失によつて時機におくれた攻撃、防禦方法とか不
合理なものということはできないので原告のこの点に関する主張も採用できない。
四、原告の三九年の諸経費合計が被告主張1の(2)(3)(4)の合計一九四万
九七四六円であつたことは当事者間に争がないので、これを前記四五〇万円より引
くと二五五万〇二五四円となり、被告の更正決定額一二二万八四四五円より多いこ
とは明らかであるから、この更正決定に違法はなく原告の本訴請求は失当といわね
ばならない。
よつて原判決の原告の請求を棄却した部分は正当であるが認容した部分は失当であ
るからこれを取消し、この部分についての原告の請求を棄却すべく、従つて又付帯
控訴も棄却することとし訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九六条を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 前田覚郎 菊地 博 中川敏男)

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