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平成19年7月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第10223号特許権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結の日平成19年7月23日)
判決
大韓民国京畿道水原市<以下略>
原告三星電子株式会社
訴訟代理人弁護士片山英二
同佐長功
同服部誠
同中村閑
同高橋雄一郎
訴訟代理人弁理士日野真美
訴訟復代理人弁理士望月尚子
補佐人弁理士廣瀬隆行
同林佳輔
大阪府門真市<以下略>
被告松下電器産業株式会社
訴訟代理人弁護士森崎博之
同根本浩
同松山智恵
補佐人弁理士稲葉良幸
同江口昭彦
同佐藤睦
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載のプラズマエッチング装置を使用してはなら
ない。
2被告は,その占有にかかる別紙イ号物件目録記載のプラズマエッチング装置
を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2億6600万円及びこれに対する平成17年6月7
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は,プラズマエッチング設備におけるエンドポイントの検出装置に関す
る後記の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許,後記」
請求項1の特許発明を「本件特許発明」という)を有する原告が,被告が別。
紙イ号物件目録記載のプラズマエッチング装置(以下「イ号物件」という)。
を使用する行為は,本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,イ号物件
の使用の差止め,イ号物件の廃棄,及び,損害賠償を求めている事案である。
1前提となる事実等(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠
及び弁論の全趣旨により認められる事実)
()当事者1
原告は,半導体装置の製造,販売等を業とする会社である。
被告は,電気・通信・電子及び照明機械器具の製造,販売等を業とする会
社である。
()原告が有している特許権2
原告は,次の特許権を有している(甲1,2。)
ア特許番号第3148128号
イ発明の名称プラズマエッチング設備におけるエンドポイントの検出
装置
ウ出願日平成8年7月17日
エ優先日平成7年12月13日
オ登録日平成13年1月12日
カ請求項の記載
本件特許発明の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本
判決末尾添付の特許公報参照)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次。
のとおりである。
「反応室の壁に具備された感知窓と,該感知窓を介してエッチング工程
中に生成された光を反応室の外部の測定手段へ伝達する光学ケーブルと,
前記反応室壁の外側面に装着されて前記感知窓と前記光学ケーブルとを固
定するブラケットとを備えるプラズマエッチング設備におけるエンドポイ
ントの検出装置において,前記感知窓は反応室の外部に突出するように固
設し,かつ前記ブラケットは反応室内のプラズマとの間に設けられる電界
の強さを減らすことができるように前記感知窓を前記ブラケットとの間に
所定の空間を確保して取り付けられることを特徴とするプラズマエッチン
グ設備におけるエンドポイントの検出装置」
()構成要件3
本件特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説し
た各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。。)
A反応室の壁に具備された感知窓と,
B該感知窓を介してエッチング工程中に生成された光を反応室の外部の
測定手段へ伝達する光学ケーブルと,
C前記反応室壁の外側面に装着されて前記感知窓と前記光学ケーブルと
を固定するブラケット
Dとを備えるプラズマエッチング設備におけるエンドポイントの検出装
置において,
E前記感知窓は反応室の外部に突出するように固設し,
Fかつ前記ブラケットは反応室内のプラズマとの間に設けられる電界の
強さを減らすことができるように前記感知窓を前記ブラケットとの間に
所定の空間を確保して取り付けられる
Gことを特徴とするプラズマエッチング設備におけるエンドポイントの
検出装置。
()イ号物件4
被告は,訴外米国アプライドマテリアルズ社(以下「AM社」という)。
が製造販売したイ号物件を,訴外アプライドマテリアルズジャパン社(以下
「」。。)AMJ社というAM社の製品の日本における販売を行う法人である
から購入し,使用している。
()対比5
,,。イ号物件の製品概要構造等は別紙イ号物件説明書記載のとおりである
これによれば,イ号物件は,反応室の壁に具備された感知窓と(構成要件
A,該感知窓を介してエッチング工程中に生成された光を反応室の外部の)
測定手段へ伝達する光学ケーブルと(構成要件B,前記反応室壁の外側面)
に装着されて前記感知窓と前記光学ケーブルとを固定するブラケット(構成
要件C)とを備えるプラズマエッチング設備におけるエンドポイントの検出
装置において(構成要件D,前記感知窓は反応室の外部に突出するように)
固設している(構成要件E)ことを特徴とするプラズマエッチング設備にお
けるエンドポイントの検出装置である。
したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件のうち,構成要件Aな
いしEを充足する。
2争点
()イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属するか(イ号物件は,構成1
要件F及びGを充足するか(争点1。))
()AM社ないし被告は,本件特許発明について,先使用による通常実施権2
(特許法79条)を有するか(争点2。)
()本件特許は無効にされるべきものか(争点3。3)
ア公然実施(特許法29条1項2号(争点3−1))
イ文献公知(特許法29条1項3号(争点3−2))
()損害額(争点4)4
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属するか(イ号物件は,
構成要件F及びGを充足するか)について)。
〔原告の主張〕
()イ号物件には,別紙イ号物件説明書図4イ号物件のエンドポイント検出1
装置の断面図が示すとおり,感知窓とブラケットとの間に所定の空間が存在
し,その空間は「ブラケットは反応室内のプラズマとの間に設けられる電,
界の強さを減らすことができるように」確保されている。
すなわち,構成要件Fにいう「所定の空間」とは,①感知窓とブラケット
との間に設けられる空間であること,②反応室内のプラズマとの間に設けら
れる電界の強さを減らすことができる程度の大きさを有する空間であるこ
と,の二つの要件を満たせば足りるもので,断面がブラケットと感知窓外周
部との間の幅で規定されるところの回転体である。
イ号物件の感知窓とブラケットとの間の空間の断面積は,乙1の図面を前
提とすると約32.2であり,本件実施例よりも大きい。そして,断mm
面積20のものと断面積0のものとを比較したシミュレーション結果mm
(甲11)では約1割の電界強度の低下が見られたから,イ号物件の上記空
間が電界強度を減らすに足りるものであることは明らかである。
なお,ブラケットに窓(ブラケットの筒状部分にある,感知窓の突出部を
外側からみることのできる長孔状の開口)がある場合には,仮に窓がなかっ
たと仮定した場合に存在するところのラインをもって「所定の空間」と定義
することができる。
()被告は,断面積を比較して本件特許発明の作用効果を論じたことを論難2
する。しかし,回転体のサイズ比較によって,反応室内のプラズマとの間に
設けられる電界の強さを減らすという効果をイ号物件においても享受してい
ることは争いがないと思われ,そうであれば断面積の比較を行うことは当然
である。
また,被告は,甲11について,感知窓の開口部分の電界を測定すること
は無意味であり,ブラケットの近傍の電界を測定する必要があるなどと述べ
ている。しかし,所定の空間がない場合に電界の集中が起こる部分はプラズ
マとブラケットとの間であるところの「感知窓の開口部」であるから,この
部分の電界を測定することが本件特許発明の効果を語る上で重要である。
さらに,被告は,シミュレーションの条件が異なる旨の主張をしている。
しかし,イ号物件のようにブラケットの窓(長孔状の開口)があれば,シミ
ュレーション結果よりも電界の低減される効果がいっそう得られることにな
る。
〔被告の主張〕
イ号物件においては,感知窓の突出部の周囲がブラケットの筒状部分によっ
て完全に覆われているわけではない。そうすると,ブラケットの筒状部分と感
知窓の突出部との間に形成される空間の外延を定めることは不可能であり,ブ
ラケットの筒状部分と感知窓の突出部との間に原告のいうような「回転体」を
把握することもできないはずである。
したがって,原告の主張はその前提を欠く。また,本件特許発明における断
面積と空間の体積の比率,イ号物件における断面積と空間の体積の比率は異な
るのであるから,断面積のみを比べても意味がない。さらに,異なる形状で断
面積が同じ場合にも同様の効果が生じるかは全く不明であり,縦横比を無視し
た断面積のみの比較は無意味である。
原告のいう「所定の空間」の要件のうち「電界の強さを減らすことができる
程度の大きさ」を有する空間とは,表現が抽象的であり,本件明細書及び図面
の記載を参酌してもなおその意義は不明瞭である。本件明細書には「・・・電
界の強さを減らすことができるように,前記感知窓20との距離Lが出来る限
り遠く離れるように設置されなければならない。望ましくは5㎜以上の空間を
確保する方が良い」という記載しかなく,同図4及び図5にも,単に距離L。
の寸法線が示されているだけで,電界を減らす程度の大きさの意義を把握する
ことはできない。
さらに,原告が提出したシミュレーション結果(甲11)は,本件特許発明
は反応室のプラズマとブラケットとの間の電界の強さを減らすことが必要であ
るのに,甲11では,感知窓の開口部分の電界の強さを測定していること,シ
ミュレーション条件が不明であること,対象となったモデルの寸法・形状は,
原告主張のイ号物件(Lが約23,Wが1.38)と異なるものであmmmm
ること,甲11は真空であるのに対し,イ号物件はブラケットの筒状部分に開
,,。口があり周辺大気と連通していることなどからみて客観的な信用性がない
2争点2(AM社ないし被告は,本件特許発明について,先使用による通常実
施権(特許法79条)を有するか)について
〔被告の主張〕
イ号物件が本件特許発明の技術範囲に属する場合,AM社ないし被告は,本
件特許発明について,先使用に基づく通常実施権(法79条)を有している。
すなわち,被告は,本件特許の優先日である平成7(1995)年12月13
日より前の平成6(1994)年10月に,AM社が製造販売したイ号物件を
AMJ社から購入し,その使用を継続しているものである。AM社は,本件特
許の優先日の14月前から,本件特許発明の内容を知らないで,イ号物件を開
発し,その製造販売をしていたものであるから,本件特許発明について先使用
権を有する。また,被告は,AM社からイ号物件の内容を知得し,イ号物件の
使用を継続していたのであるから,本件特許発明について先使用権を有する。
〔原告の主張〕
先使用による通常実施権が発生するためには,実施者が「発明の内容を知ら
ないでその発明をしたこと」あるいは「発明の内容を知らないでその発明をし
た者から知得したこと」に関する具体的な事実が必要であるが,被告はかかる
事実関係に関して何ら主張していない。
また,被告が,AM社が本件特許発明の内容を知らないでイ号物件に関する
発明を行い,被告はこれを知得したと主張しているとしても,被告は,AM社
が本件特許発明の内容を知らないでイ号物件に関する発明を行ったということ
について何ら立証していない。AM社がイ号物件を本件特許の優先日以前に製
造したとしても,そのことによって直ちにAM社の善意を推定できるわけでは
ない。半導体製造装置の業界では,ユーザーである半導体メーカーと装置メー
カーとが情報交換等を行い,その情報を基礎として装置の開発を行うことが頻
繁に行われており,半導体製造装置の分野では,装置メーカーが新たな構成を
有する装置を開発した場合であっても,その装置が当該メーカーの知見によっ
て開発されたものとは限らないのである(現に,原告はAM社のビッグユーザ
ーであり,原告とAM社は常に製造装置の改良等について情報交換を行ってき
た。加えて,イ号物件の購入者に過ぎない被告がAM社の発明を知得する。)
などということもあり得ない。
3争点3(本件特許は無効にされるべきものか)について
〔被告の主張〕
本件特許は,以下のとおり,無効にされるべきものである。
()争点3−1(公然実施)について1
前記2のとおり,AMJ社は,本件特許の優先日前にイ号物件を販売し,
被告はこれを購入しており,イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属する
のであれば,被告が購入したものから容易にその発明の内容を知ることがで
きる。被告がイ号物件購入にあたり,AMJ社及びAM社との間で,イ号物
件の構成について秘密保持の合意をしたという事実は全くない。
したがって,本件特許発明は,優先日前に公然実施されたものである。
()争点3−2(文献公知)について2
AM社は,本件特許の優先日前に,イ号物件の購入者に配布するためにマ
ニュアル(乙14及び15)を作成しており,当該マニュアルに本件特許発
明の各構成は開示されている(乙14及び15には「」等の記載Confidential
は一切ない。被告がイ号物件購入にあたり,AMJ社及びAM社との間。)
で,マニュアルについて秘密保持の合意をしたという事実は全くない。
したがって,本件特許発明は,優先日以前に配布された文献に開示されて
いるものである。
〔原告の主張〕
AMJ社やAM社が費用や時間をかけて開発した独自の技術情報が含まれて
いる製品を販売・納入するにあたって,買主に対し秘密保持を求めないという
ことはあり得ない。たとえマニュアルに「」の記載がなくても,被Confidential
告がイ号物件を購入した際にも第三者に対して装置の構成やマニュアルの記載
内容を秘密に保持する旨の措置がとられたのは明らかである。加えて,クリー
ンルームに設置されているイ号物件の構成を不特定人が知り得る状態となるこ
とはありえない。
したがって,イ号物件の販売やマニュアルの記載によって本件特許発明が公
然実施されたものであるとか,文献公知となっているなどという被告の主張は
誤りである。
4争点4(損害額)について
〔原告の主張〕
被告は,平成13年ころから現在に至るまで,本件特許発明の技術的範囲に
属するイ号物件を使用して半導体装置を製造しており,その半導体製品の売上
高は年間1330億円を下らない。エッチング工程は,半導体製造工程のうち
の重要な工程の一つであり,かつ,エンドポイントを正確に検出することは,
エッチング工程において極めて重要であることから,被告による半導体製品の
売上げにおける本件特許発明の寄与率は,10%を下らない。また,本件特許
権のロイヤルティ料率は5%を下らない。
したがって,本件特許権の実施により原告が受けるべき金銭の額は,以下の
とおり,26億6000万円を下らないから,被告は,原告に対し,少なくと
も同額の損害賠償をする義務がある。原告は,本訴において,その一部である
2億6600万円の損害賠償を求める。
1330億円×10%×5%×4年=26億6000万円
〔被告の主張〕
原告の主張を否認し争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属するか(イ号物件は,
構成要件F及びGを充足するか)について。)。
()イ号物件は構成要件を充足するかについて1F
ア本件特許発明の「所定の空間」について
(。),a)証拠甲2本判決末尾添付の特許公報及び弁論の全趣旨によれば
次の事実が認められる。
①従来の技術及び発明が解決しようとする課題
半導体素子製造工程のうちエッチング工程においては,エッチング
のエンドポイント(エッチングが進行されるにつれて,薄膜がなくな
りシリコン基盤や他の薄膜が露出されるエッチングの終了時点)を正
確に感知する方法が必要であり,プラズマエッチングのような乾式エ
ッチングにおいては,薄膜の屈折率の差を光学的に測定してエンドポ
イントを決定する方法などが使われている。光学的に測定する方法を
用いた従来の装置(甲2記載の図1。上記特許公報参照)では,反応
室(図1記載1)内のプラズマから発光する光を透明な感知窓(図1
記載2)を介して検出するが,反応室内においてエッチング中に発生
する副産物などがプラズマに比べて相対的に温度が低い反応室の壁
(図1記載1a)や感知窓に吸着するため,感知窓はエッチングが進
行する程濁るようになる。そうすると,光学ケーブル(図1記載3)
に伝達される光の強度が低くなってエンドポイントの検出状態が不安
定となる問題点があった(甲2【0002】ないし【0012。】)
そこで,感知窓の濁化現象を改善するため,感知窓の構造をブラケ
ット図1記載4側へ後退するように変更することが考えられた甲()(
2記載の図2。上記特許公報参照。しかし,この場合,反応室(図)
2記載1)内のプラズマとブラケット(図2記載4)間に電界が形成
され,プラズマスパイキング現象が生じて,感知窓側へプラズマが引
き込まれるようになるので,工程の副産物の吸着を防ぐことができな
いとの問題が生じる(甲2【0013】ないし【0014。】)
本件特許発明は,上記の問題点を解消するため,反応室内のプラズ
マとブラケットとの間に形成される電界の強さを減少させるため,反
応室の壁に具備された感知窓を反応室の外部に突出するように固設
し,感知窓と光学ケーブルとを固定するブラケットを感知窓との間に
所定の空間を確保して取り付けることを特徴とするものである(甲2
【0016。】)
②発明の実施の形態
本件特許発明の望ましい実施の形態(甲2記載の図4及び図5)に
おいては,ブラケット(図4及び図5記載40)は,感知窓(図4及
び図5記載20)と所定距離Lだけ離隔されて一定の空間を確保する
(甲2【0020。】)
上記感知窓とブラケットとの距離(図5記載L)は,できるだけ遠
く離れるように設置されなければならず,望ましくは5㎜以上の空間
を確保するほうがよい(甲2【0023。】)
)上記認定のとおり,本件特許発明は,エッチング工程における副産物b
が感知窓に吸着すること,そしてそれによって感知窓が濁化することを
防止するべく,反応室内のプラズマとブラケットとの間に形成される電
界の強度を減らすために,ブラケットと反応室壁の外に突出した感知窓
との間に「所定の空間」を確保するものである。したがって「所定,,
の空間」とは,上記電界強度を減らすため,感知窓とブラケットを接触
させないように,感知窓が反応室壁の外に突出した部分の外周とブラケ
ットとの間に設けられた空間であり,本件明細書でいえば,図4及び図
5に記載された,感知窓の外周とブラケットの内周(そのうち光学ケー
ブル取付部は切欠となっている)の間の空間がこれに当たるものであ。
る。ただし「所定の空間」の大きさについては明確に規定されている,
わけではなく,本件明細書には,図5記載Lの距離が5㎜以上であるこ
とが望ましいと記載されているものの(上記)②,その根拠は不明でa)
あり,5㎜以上でなければならない(5㎜以上でなければ所期の目的を
達することができない)と規定されているわけでもない。
そうすると,本件特許発明における「所定の空間」とは,感知窓が反
応室壁の外に突出した部分の外周とブラケットの内周との間に設けられ
た空間で,感知窓とブラケットとが接触しないようにするものであり,
これにより反応室内のプラズマとブラケットとの間に形成される電界の
強度が減少するとの効果を奏するものをいうと解すべきである。
イイ号物件における「所定の空間」について
,,イ号物件においては別紙イ号物件説明書図4に記載されているとおり
イ号物件の感知窓が反応室壁の外側に突出した部分の外周とその外側に取
り付けられたブラケットの内周との間には「空間」が設けられており,そ
のため,感知窓とブラケットとが接触していない。そして,イ号物件にお
ける上記空間により,反応室内のプラズマとブラケットとの間に形成され
る電界の強度が減少することは明らかである。したがって,イ号物件にお
ける上記「空間」も,本件特許発明の構成要件Fにいう「所定の空間」に
該当するものと認められる。
()小括2
以上によれば,イ号物件は,構成要件Fを充足するものであり,構成要件
Eを充足することは前記第2の1()のとおりであるから,構成要件Gをも5
充足する。
,,。したがってイ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属するものである
2争点2(AM社ないし被告は,本件特許発明について,先使用による通常実
施権(特許法79条)を有するか)について。
(,,,,()ア証拠乙3ないし7乙8の1ないし4乙10乙11の1及び21
乙12,乙13)及び弁論の全趣旨によれば,被告がAMJ社から購入し
たイ号物件は,いずれもAM社が製造販売したもので,被告の魚津工場に
おいて使用されているものであり,その購入時期等は以下のとおりである
と認められる。
)資産番号−平成6年10月購入のもの(乙3,乙7,乙aME61705
8の1,乙10)
)資産番号−平成7年10月購入のもの(乙4,乙7,乙bME64385
8の2,乙11の1及び2)
)資産番号−平成7年10月購入のもの(乙5,乙7,乙cME64400
8の3,乙12)
)資産番号−平成7年10月購入のもの(乙6,乙7,乙dME64404
8の4,乙13)
イ上記のとおり,被告はその使用するイ号物件のいずれも本件特許の優先
日である平成7年12月13日よりも前に購入したものである。そして,
イ号物件の製造者であるAM社は,上記認定のとおり,本件特許発明の優
先日の14月も前に,イ号物件を製造販売していたのであるから,原告が
本件特許発明の優先日の14月よりも前に本件特許発明を完成していたに
もかかわらず,これを出願していなかったとか,出願もせずにこれをAM
社に教示し,AM社のみが本件特許発明を実施していたとは,到底考えに
くいことからすれば,AM社は,本件特許発明の内容を知らないで自らそ
の発明をし,イ号物件を製造販売したものと認めるのが相当である。した
がって,AM社は,本件特許発明について,イ号物件に具現されている技
術思想と同一性を有する範囲内で先使用による通常実施権を有する。
この点,原告は,半導体製造装置の業界では,半導体メーカーと装置メ
ーカーとが情報交換等を行い,その情報を基礎として装置の開発を行うこ
とが頻繁に行われており,現に原告はAM社のビッグユーザーで,AM社
と常に製造装置の改良等について情報交換を行ってきたものであるから,
AM社がイ号物件を本件特許の優先日以前に製造したとしても,直ちにA
M社の善意を推定できるわけではないなどと主張する。しかし,本件証拠
上,原告が本件特許発明の優先日よりも14月以上も前から,AM社と取
引関係にあり,本件特許発明について情報提供をしていたことを窺わせる
ような事情は,何ら見あたらず,原告の主張は上記認定を左右するもので
はない。
()被告は,本件特許発明について先使用による通常実施権を有するAM社2
の製造販売にかかる上記()ア)ないし)のイ号物件をAMJ社から購入1ad
して,以後これらを使用しているものである。先使用権者が製造販売した
製品を使用する行為が特許権侵害行為に当たらないことは明らかであるか
ら,被告の上記行為が本件特許権を侵害するものではないことも明らかで
ある。
第5結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官間史恵
裁判官古庄研

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