弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、
二審とも被控訴人の負担とする。」 との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の
判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、本件登記の抹消を求める
のは、法人格のない者が登記名義人となることができないのにかかわらず、法人で
ない控訴人のために所有権取得登記がなされているので、本件土地の所有者である
被控訴人がその所有権にもとずいて、右事実に符合しない登記の抹消を求めるもの
である、と述べ、控訴代理人において、控訴人が現在社団法人でも財団法人でもな
いことは認めるが、控訴人は社会事業法による傷痍者生活援護事業団体であつて、
法人でない社団であるから、訴訟当事者となることができ、したがつて登記権利者
ともなることができるものである、と述べた外、いずれも原判決事実摘示(別紙目
録をも含む)と同一であるからここにこれを引用する。
 証拠として、被控訴代理人は、甲第一ないし第六号証を提出し、原審証人Aこと
A(第一、二回)、B、C、Dの各証言ならびに原審における被控訴本人尋問の結
果を援用し、乙号各証の成立を認める、と述べ、控訴代理人は乙第一号証、第二号
証の一ないし三を提出し、原審証人AことA(第一回)、E、Fの各証言ならびに
原審における控訴協会代表者GことG(第一、二回)尋問の結果を援用し、甲第
一、二号証の成立を否認し、同第四号証の成立は不知、その他の甲号各証の成立を
認める、と述べた。
         理    由
 被控訴人主張の別紙目録記載の本件不動産(静岡県伊東市大字a地内所在山林三
筆合計五反三畝二十五歩)について、静岡地方法務局伊東出張所昭和二十三年九月
三日受附第二、一六二号をもつて控訴協会のために被控訴人からの寄附による所有
権取得登記のなされたことは、当事者間に争がない。そして控訴協会が社会事業法
による傷痍者生活援護事業団体であるが、法人格を有しない社団であることは、そ
の自陳するところであるから、控訴協会としては私法上の権利の主体となり得ない
ものというべきであり、したがつて本件不動産について、自己の名を以つてその所
有権を取得し得ないことはいうまでもない。しかも不産動登記は、物件の得喪変更
を第三者に対抗する要件に過ぎないのであるから、実体上の権利を取得することの
できない控訴協会が、登記権利者となり得ないことは明かであつて、控訴協会を登
記権利者とする前記所有権移転登記は無効のものといわなければならない。さすれ
ば本件不動産の登記簿上の真実の権利者は、成立に争のない甲第六号証(本件三筆
の山林の土地登記簿謄本)中各甲区(所有権)欄の記載からみて、右無効の登記の
直前の順位にある被控訴人であり、被控訴人は本件三筆の山林の現在の所有権者で
あることを主張しているのであつて、控訴協会は自己が被控訴人から贈与をうけこ
れを取得した現所有者だと抗争するけれども、控訴協会としては私法上の権利の主
体たり得ないこと前示の如くであるから、右第六号証の記載により、別段反証なき
本件においては(成立に争のない乙第一号証も右の反証とはならない。)被控訴人
がその主張どおり現所有者であると認める。よつて被控訴人は右登記すべからざる
事項の登記簿上の記載により、その円満な所有権が侵害されることになるから、該
無効登記の形式上の登記名義人である控訴協会に対し、これが抹消を求め得べきこ
と勿論である。な<要旨>お不動産登記法第百四十九条の二によれば、登記官吏は右
のような登記すべからざる登記であることを発見したときには、同条ならび
に同法第百四十九条の三、第百四十九条の五の規定に則り、職権でその抹消をなす
べきであるから、真実の登記権利者である被控訴人は、登記官吏の右職権発動をう
ながすことによつても、本訴で求めるのと同一の目的を達することができるのでは
あるが、かかる方法ありとしても被控訴人が訴訟によつて登記すべからざる事項の
登記の抹消を求めることは別段差支ないので、被控訴人に訴訟の利益なしというこ
とはできない。もつとも控訴人は、右所有権取得登記については、傷痍者厚生協会
理事長G名義をもつてG個人としてこれが登記申請をしたところ、登記官吏が過つ
て単に傷痍者厚生協会名義をもつて登記をなしたものである旨主張するけれども、
成立に争のない甲第五及び六号証同乙第二号証の二(本件登記申請書)及び三(理
事の資格証明書)の各記載と原審証人Dの証言とを綜合すれば、控訴協会理事長G
は、静岡司法事務局(現在静岡地方法務局)伊東出張所登記官吏Dに対し、登記権
利者を控訴協会とし「同協会が社会事業法による一般傷痍者の生活援護団体なるこ
と」の静岡県知事の証明書(甲第五号証)を添附して右登記の申請をなしたため、
同登記官吏は法人登記簿の謄抄本の提出がないのに、控訴協会が法人であると軽信
してこれが登記をなしたものであることが認められる。右認定に牴触する原審にお
ける控訴協会代表者GことGの供述(第二回)はこれを措信せず、他に該認定を左
右するに足りる証拠がないから、控訴人の右主張はこれを採用することができな
い。また控訴人は、控訴協会は法人でない社団であつて訴訟当事者となることがで
きるものであるから登記権利者ともなることができる旨主張するけれども、法人で
ない社団でも代表者または管理人の定めのあるものについては、訴訟手続の煩雑を
避けるため民事訴訟法第四十六条の規定によつてその名において訴えまたは訴えら
れることができるにとどまり、これがため私法上の権利能力があるとはかぎらな
い。いいかえれば訴訟の当事者となることができても、つねに私法上の権利の主体
となることができるというものでなく、控訴協会が権利の主体となりえないことは
前示説示のとおりであるから控訴人の右主張も採用することができない。
 さすれば被控訴人の本訴請求はその他の争点について判断するまでもなく正当で
あるから、これを認容すべきであり、右と同趣旨に出でた原判決は相当であつて本
件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、
第九十五条、第八十九条を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 斎藤直一 判事 菅野次郎 判事 坂本謁夫)

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