弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人名古屋国税局長が控訴人に対し昭
和三九年七月三〇日付でなした昭和三七年度分所得税更正処分に対する審査請求を
棄却した裁決は、これを取消ず。被控訴人名古屋中税務署長が昭和三九年三月三日
付でなした控訴人の昭和三七年度分所得税の課税総所得金額を金三六一万五、九〇
〇円に更正した処分並びにこれにともなう過少申告加算税及び重加算税賦課処分
は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。」との
判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び書証の認否は、左記の外原判
決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
 (控訴代理人の陳述)
 控訴人はいわゆる中小企業者である。控訴人の本件手付金損失が事業目的のため
のものであり、個人生活のためのものでないことは明らかである。控訴人が残代金
を調達できず、ついに手付金没収のうき目にあうに至つたのは、当時の政府の中小
企業政策にもとづく経済的金融状勢の所産であつて、控訴人の怠慢にもとづくもの
ではない。損をした上その損に対して税金を取られることは不合理で、このような
不合理を認める実定法上の根拠は全くない。
 (被控訴代理人の陳述)
 一、 控訴人の本件手付金損失が控訴人にとつて終局的に経済上の損失であるこ
とは一応是認されるが、それは直接的には不動産売買契約にもとづく支出であつ
て、控訴人の事業と直接には関係のない独自の経済的支出であるから、右支出が直
ちに控訴人の主張するように事業上の損失にあたるとはいえない。
 二、 仮に、本件手付金損失が、控訴人主張のように事業上の損失にあたるとし
ても、改正前所得税法(昭和三八年法律第五五号により改正される以前の所得税
法、以下単に所得税法という)上事業所得から当然控除されるものでない。本件手
付金損失が所得税法上事業所得から控除されるものとして定められた経費又は雑損
失にあたらない限り、本件手付金損失は控訴人の事業所得より控除されないもので
ある。そして、本件手付金損失が所得税法第一〇条第二項に掲げられた経費に含ま
れないことは明らかであるし、又本件手付金損失についてこれを必要経費として取
扱う旨の特別の規定もないから、本件手付金損失は所得税法上事業所得から控除さ
れる経費にあたらないものというべきである。又本件手付金損失が所得税法上事業
所得から控除される雑損失にあたらないことは所得税法上明らかである。
         理    由
 当裁判所も控訴人の請求は棄却さるべきものと判断し、その理由は、左記の如く
附加する外原判決理由に説示するとおりであるから、これを引用する。
 一、 仮に、本件手付金損失が控訴人の主張するような事業上の支出であるとし
ても、そのことから直ちに所得税法(昭和三八年法律第五五号による改正前のも
の)上事業所得より控訴されるべきものではない。右控除の対象となるものは、所
得税法に定めた必要経費及び雑損失に限ることはいうまでもない。
 <要旨>(1) 本件手付金損失については所得税法上なんら特別の規定がないか
ら、本件手付金損失は所得税法第一〇条第二項の必要経費にあたるかどうか
がまず検討されねばならない。手付金損失が、同条項に例示したものにあたらない
ことは明らかであるから、同条項の包括的必要経費の規定即ち「当該総収入金額を
得るため必要な経費」にあたらない限り、所得税法上必要経費として事業所得より
控除されないわけである。そして、ここにいわゆる必要経費とは当該収入を得るた
めに必要な費用であるかぎり、売上原価などのような直接の費用であろうと、販売
費や一般管理費などのような間接の費用であろうとすべてそのうちに包含されるけ
れども、それはあくまでも直接間接の費用に限定されるのであつて費用にあたらな
いものは包含されない趣旨と解しなければならぬ。(昭和四〇年三月三一日法律第
三三号による改正後の所得税法第三七条の解釈も同趣旨とおもわれる)。
 ところで手付金損失のごときものは皈するところ、手付金返還請求権の喪失とい
うこと以外に何等の意味をもたないのであるから、その喪失の理由がどうあろうと
も所得をもたらすための必要ないし有益な費用とはとうてい解せられない。本件手
付金損失がいわゆる必要経費に該当しないことは多言を要しない。
 (2) 本件手付金損失が所得税法第一一条の四の雑損失にあたらないことは原
判示説示のとおりである。
 二 本件手付金損失が控訴人のいうように法人税法上損金に算入されることは首
肯できる。しかし、個人(自然人)の事業所得は「私経済の総合主体」である個人
の総合所得の一環として把握され、したがつてそれは消費生活を予定することを要
しない「私経済の部分主体」である法人の所得とは概念構成の上において自ら別個
な考慮が払われているのであつて、その意味において所得税法における事業所得計
算上の必要経費を法人税法における損金と必ずしも同一に定め得ないのである。す
なわち自然人と法人との間にすでに本質的な相異がある以上、その相異にもとづき
所得税法と法人税法との間において事業所得の計算上の相異が生じたとしても、そ
れは結局立法技術及び国の租税政策に由来するものというほかはない。
 よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきも
のとし、民事訴訟法第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 成田薫 裁判官 布谷憲治 裁判官 黒木美朝)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛