弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     昭和四三年二月一七日施行の青森県三戸郡a町議会議員一般選挙の効力
に関し、被告が同年一〇月一五日なした右選挙を無効とする旨の裁決はこれを取消
す。
     訴訟費用は被告の負担とする。
         事    実
 原告ら訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求原因として、
 一、 原告らは昭和四三年二月一七日施行された青森県三戸郡a町議会議員一般
選挙の選挙人であり、候補者であり且つ当選人である。
 二、 右選挙における有権者総数は六、四九六名で、議会議員の定員一八名に対
し立候補者は二五名であつた。
 そして、右選挙における投票総数は五、八七五票、うち有効投票は五、八四五
票、無効投票は三〇票であり、最高当選者は原告A(四〇〇・四三五票)、最下位
当選者は原告B(一九七票)であつて、最高落選者はC(一九一票)、最下位落選
者はD(二五票)であつた。
 なお本件選挙においては第一投票所から第一一投票所までの計二一ケ所の投票所
が設けられ、そのうち投票時間が午後五時までに繰上げられた投票所は第九投票所
と第一一投票所の二ケ所で、開票所はa中央公民館の一ケ所であつた。
 三、 ところで本件選挙の選挙人であり且つ候補者である訴外E1外六名は昭和
四三年二月二二日及び同月二三日本件選挙の効力に対しa町選挙管理委員会に対し
異議の申立てをなしたところ、同委員会は同年三月一八日右異議の申立を棄却する
旨決定し、同日告示した。これに対し右E1外四名は右決定を不服として同年四月
二日被告委員会に審査の申立をしたところ、被告委員会は同年一〇月一五日「昭和
四三年二月一七日施行のa町議会議員一般選挙を無効とする」旨の裁決をなし、右
裁決は同月一九日青森県報に告示された。
 四、 被告委員会の右裁決の理由の要旨は、
 (一) 本件選挙における第五投票所の不在者投票二〇票及び第六投票所の不在
者投票一一票計三一票が投票所の閉鎖時刻前に送致可能の状況にあるにかかわらず
投票所閉鎖時刻後に送致されたのは違法の措置である。
 (二) 第一投票所の不在者投票二九票及び第一一投票所の不在者投票二票は投
票所閉鎖時刻後に送致されたのに投票所閉鎖時刻前に送致されたように取扱つたの
は違法の措置である。
 (三) 右六二票の不在者投票の取扱いは選挙の規定に違反するもので、これが
選挙の結果に異動を及ぼす、というのである。
 五、 しかしながら、本件選挙を無効とする理由はなく、右裁決は次の理由によ
り違法である。即ち
 (一) (1) 第五投票所の不在者投票二〇票及び第六投票所の不在者投票一
一票合計三一票が投票所閉鎖時刻後に送致され、そのため右投票が開票されなかつ
ことは争わないが、公職選挙法施行令第六〇条第二項は選挙管理委員会の委員長に
対し不在者投票の送致又は送付を受けた場合「直ち」に投票管理者に送致すること
を義務づけているに止まり、投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致しなければ
ならないことを義務づけているものではないから、委員長が直ちに送致する行為を
すれば投票管理者への送致が投票所の閉鎖時刻を経過した後になつても違法ではな
く、選挙の無効原因となるものではない。
 本件において、町選挙管理委員会の事務局長E2は不在者投票を整理してその送
致関係の書類を作成し、午後四時一五分頃町役場の運転手E3に送致用封筒を渡し
て運搬送致を命じ、E3は投票所の閉鎖時刻前に送致すべく乗用車で出発したが止
むを得ない自然現象、即ち新田バス停留所及びそこより道前に至る町道の積雪、風
雪、他の通行自動車に妨害されたこと等の事情で送致が投票所の閉鎖時刻後になつ
たものであるから、右不在者投票の送致事務には少しの懈怠もなく、結局右のよう
な止むを得ない事情で送致が後れたのであるから、第五、第六投票所の投票管理者
への送致が閉鎖時刻後になつても、直ちにこれを送致すべき義務に違反したもので
はない。それ故右送致事務に何ら違法はなく選挙の無効原因となるものではない。
 (2) 仮りに右三一票の不在者投票の取扱いに違法があるとしても、その票数
は三一票である。その数も限定され明確であつて、総投票数に対する割合も二〇〇
分の一にすぎない。その三一票の特定数のために適法に施行された全体の選挙を無
効とすべきではなく、本件選挙にあつてはむしろ当選の効力として争うべきもので
ある。
 (二) 第一投票所に対する不在者投票二九票は投票所の閉鎖時刻前に送致され
たものである。その送致の経過は次のとおりである。即ち、
 (1) 町選挙管理委員会事務局長E2はE4に対し第一投票所に不在者投票を
入れた封筒を送致するよう命じて手渡し、E4はそれを町役場と第一投票所との間
にある田子警察官派出所前で第一投票所の受付主任であるE5に手渡した。
 (2) 右封筒を受取つたE5は第一投票所に帰り同投票所の入口の受付の処で
係員に午後六時のサイレンと同時に投票所閉鎖の紙を入口に貼るよう命じた後直ち
に投票管理者のE6に右不在者投票を手渡した。E5よりE6に届けられたのは午
後六時のサイレンが鳴り響く最中であつた。
 (3) 従つて第一投票所の不在者投票は閉鎖時刻前に送致されているものであ
り、同投票所の選挙投票録にも閉鎖時刻前に送致され受理と決定された旨記載され
ている。
 この点に関する被告の裁決は事実を誤認したものである。
 (三) 第一一投票所における不在者投票二票も投票所の閉鎖時刻前に送致され
たものである。即ち同投票所に対する不在者投票の運搬送致もE3の自動車により
なされたものであるが、同投票所には繰上投票閉鎖時刻である午後五時前に送致さ
れているものである。
 同投票所の選挙投票録にも閉鎖時刻前に送致され受理と決定された旨記載されて
いる。
 この点に関する被告の裁決も事実認定を誤つたものである。
 六 よつて被告のなした本件裁決の取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、
 立証として、甲第一号証の一ないし一一、第二ないし八号証、第九号証の一ない
し一二、第一〇号証の一ないし一三、第一一号証の一ないし三〇を提出し、証人E
3、E7、E2、E4、E8、E5、E6、E9、E10、E11、E12、E1
3、E14、E15、E16、E17、E18、E19、E20、E21、E2
2、E23、E24、E25、E26、E27、E28、E29、E30の各証言
及び原告本人E31の尋問の結果並に検証の結果を援用し、乙第六、第八、第一
〇、第一一号証中選挙委員会の受付印の部分の成立は認めるけれども、その余の部
分の成立はいずれも不知、第一七、一八号証の成立は不知、第二〇号証は地図の部
分は認めるがメモの部分の成立は不知、その余の乙号各証はいずれも成立を認める
と述べた。
 被告訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」
との判決を求め、答弁として、
 一、 請求原因第一ないし第四項の事実は認める。
 二、 同第五項の(一)について、
 (1) E3が午後四時一五分頃町役場を出発したこと、第五、第六投票所への
送致がその主張のような止むを得ない事情によるとの点は否認する。
 第五、第六、第七、第一〇、第一一の各投票所に対する不在者投票の送致は町役
場の自動車運転手E3の運転する町役場の自動車によりなされたものであるが、右
投票所には、第七、第一〇、第一一、第六、第五の各投票所の順序で届けられたも
ので、被告の調査によれば、
 (イ) E3が町役場を出発したのは午後五時二〇分頃、
 (ロ) 第一〇投票所に到着したのが午後五時四〇分ないし五〇分頃、
 (ハ) 第一一投票所に到着したのが午後六時過ぎ、
 (ニ) 第六投票所に到着したのも午後六時過ぎ、
 である。
 (2) 第五投票所の不在者投票二〇票、第六投票所の不在者投票一一票合計三
一票が右各投票所の閉鎖時刻である午後六時以後に送致されたものであることは明
らかである。
 (3) 本件における選挙人の不在者投票は必ず投票所の閉鎖時刻までに投票管
理者に送致されなければならないものである。不在者投票が投票所の閉鎖時刻後に
送致されたことは公職選挙法施行令六〇条、六二条、六三条の規定に違反するもの
である。仮りに当日吹雪であつたとしても選挙の規定に違反することに変りはな
い。選挙無効制度は選挙の管理執行機関の過失責任を問うものではない。たとえ不
可抗力の事態の発生があつたとしても選挙人の責に帰すべき理由によらないでその
投票の機会が妨げられたときは、選挙の結果との関係を考慮してそれらの選挙人に
再び選挙権行使の機会が与えられなければならない。
 三、 同第五項の(二)について、
 (1) 選挙投票録に原告ら主張のような記載があることは認めるが、投票所の
閉鎖時刻後に送致されたにも拘らず閉鎖時刻前に送致されたように処理されたもの
である。
 (2) 第一投票所に対する不在者投票は、その送致のため町選挙管理委員会の
職員E4が徒歩で町役場を出たところ、町役場と第一投票所との間にある田子警察
官派出所前において第一投票所の事務従事者であるE5が町選挙管理委員会事務局
に不在者投票を取りに向うのに出合い、その場で右E5に不在者投票を手渡し、同
人が第一投票所に帰つて投票管理者に渡したものであるが、E5が投票所閉鎖時刻
である午後六時までに同投票所に到着したか否かは疑問であり、仮りに六時までに
到着したとしても、投票管理者であるE6に手渡されたのは午後六時過ぎである。
 (3) 公職選挙法施行令六〇条二項は不在者投票を投票管理者に送致すべきも
のと規定し、また同施行令六二条によれば、投票管理者は送致を受けたときは送致
用封筒を開いてその中の投票及び不在者投票証明書を一時そのまま保管しなければ
ならないものとされている。この手続は投票管理者のみが行いうるものであるか
ら、不在者投票がこのような手続を行いうる状熊に置かれること、即ち投票管理者
の面前に届けられることをもつて投票管理者に対する送致と解すべきである。
 本件において、第一投票所の不在者投票が投票管理者の面前に届けられたのは午
後六時過ぎであるから、同投票所の不在者投票は閉鎖時刻後に送致されたものであ
り、同投票所の投票管理者がその送致を受けた不在者投票を投票箱に入れたことは
同施行令六二条、六三条、六五条、七六条の規定に違反するものである。
 四、 同第五項の(三)について、
 (1) 選挙投票録に原告ら主張のような記載のあることは認めるが、投票所の
閉鎖時刻後に送致されたにも拘らず閉鎖時刻前に送致されたように処理されたもの
である。
 (2) 第一一投票所に対する不在者投票二票の送致も第五、第六の各投票所と
同様E3の自動車によりなされたものであるが、同投票所に送致されたのは午後六
時過ぎであるから同投票所の閉鎖時刻(午後五時)以後に送致されたものである。
同投票所において閉鎖時刻後に送致を受けた不在者投票を投票箱に入れたことが選
挙の規定に違反することは第一投票所の場合と同様である。
 五、 本件は選挙の管理執行機関の違法な行為により選挙人の投票が不当にその
効力を奪われたものである。
 選挙の自由と公正を害するものであり、公職選挙法二〇五条にいう選挙の規定に
違反するものであつて、選挙の無効原因となるものである。
 そして右違法が選挙の結果に異動を及ぼすか否かは、第五投票所及び第六投票所
の違法に効力を奪われた三一票が何れの候補者に対し投ぜられたものか知る由もな
く、可能性の最大限としてはすべて次点者に投ぜられるべきものかも知れないか
ら、規定違反がなければ次点者の得点数が右票数だけ増加するものと判断するの外
はない。
 また第一投票所及び第一一投票所の関係においては、開票すべからざる三一票が
加算されているが、その投票の内容は知る由もないので、可能性の最大限としては
すべて当選者に加算されているものとして各当選者の得票数から右票数を控除して
次点者の得票数と比較する方法にらうざるを得ない。
 仮りに違法管理の投票が第五、第六投票所の三一票であるとしても、次点者の得
票数一九一票に三一票を加えれば二二二票となり、当選人中一四位(二一一票)か
ら一八位までの五名の者について当選を失う可能性がある。当選人一八名中の五名
であるから決して少数ではない。このように仮りに三票であつてもその違法管理は
本件選挙にとり重要な意味を有するものであり無視されてはならないものであると
述べ、
 立証として、乙第一ないし第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二
一号証を提出し、証人E32、E33、E34、E35、E3、E1、E6、E
4、E36、E2、E37、E38の各証言並に検証の結果を援用し、甲号各証の
成立を全部認めた。
         理    由
 原告ら主張の請求原因第一ないし第四項の事実はいずれも当事者間に争いがな
く、成立に争いのない甲第八号証(乙第五号証)によると、本件選挙における当選
者及び落選者の順位、得票数は別表記載のとおりであることが認められる。
 よつて被告のなした裁決の当否について審究するに、
 (一) 第五投票所及び第六投票所の不在者投票について、
 第五投票所の不在者投票二〇票、第六投票所の不在者投票一一票合計三一票が投
票所の閉鎖時刻後に投票管理者に送致され、ために直三一票が開票ざれなかつたこ
とは当事者間に争いがない。
 原告らは右不在者投票の送致事務に少しの懈怠もなく、右送致が閉鎖時刻後にな
つたのはその主張のような止むを得ない事情によるものであるから、右送致が閉鎖
時刻後になつても何ら義務違反はなく違法でない旨主張する。
 しかし、不在者投票が投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致されないとき
は、右投票が無効となるので、法は市町村の選挙管理委員長に対し直ちに不在者投
票を投票管理者に送致すべきことを義務づけているものであることは公職選挙法施
行令六〇条、六二条、六三条、六四条等に照して明らかであるから、投票所の閉鎖
時刻の直前或はその以後というような時間的に投票所の閉鎖時刻までに投票管理者
に送致することが不可能な時刻に不在者投票が町選挙管理委員長に送致又は送付さ
れて来たような場合は格別、そうでない限り町選挙管理委員長が不在者投票を投票
所の閉鎖時刻前に投票管理者に送致せず、これを無効のものたらしめることは違法
の措置といわなければならない。
 本件において右投票所への送致が遅れた事情をみるに、いずれも成立に争いのな
い甲第一号証の一ないし二、乙第二ないし四号証、証人E3、E7、E32、E3
5、E2、E26の各証書並に検証の結果を綜合すると、本件選挙における不在者
投票は、a町役場において選挙の前日までに行われたもの五八票、他町村で投票さ
れたもので選挙前日までに町選挙管理委員会に送付されて来たもの四五票、選挙当
日の午前中に送付されて来たもの二一票、合計一二四票であるが、町選挙管理委員
会の事務局長であるE2は右不在者投票を各投票所の投票管理者に送致すべく選挙
当日の午後二時半頃から投票の整理等を始め、送致に必要な所定の書類を作成し、
第五、第六、第七、第八、第一〇、第一一の各投票所に送致する投票を送致用の封
筒に入れ、午後四時一五分頃町役場の運転手E3とE7に渡してその運搬送致方を
命じたこと、E7は右のうち第八投票所の分を持参して午後四時三〇分頃ジープで
町役場を出発し、E3は第五、第六、第七、第一〇、第一一投票所の分を持参して
E7より五分位先に乗用車で出発したこと、そしてE3は先づ第七投票所に立寄つ
て不在者投票を右投票所の投票管理者に送致し、次いで第一一投票所に向い午後五
時の直前頃に同投票所への不在者投票の送致を終え、同所から引返して第一〇、第
六、第五の各投票所に向つたが、第一〇投票所へ向う途中運転の不手際から雪の中
に自動車を乗入れたため時間を空費し、第一〇投票所には午後六時前に到着して送
致したが第六、第五の各投票所に到着したのはいずれも午後六時過ぎになつたもの
であることが認められる。乙第二〇号証の記載及び証人E38、E1の各証言中有
認定に反する部分は前掲各証拠に照して採用し難く、証人E37の証言も右認定を
覆すに足らず、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。
 以上認定の事実によれば、右送致された不在者投票は、遅くとも選挙当日の午前
中には町選挙管理委員会に送付されていたのであるから、時間的にこれを投票所の
閉鎖時刻までに送致することが不可能であると云えないことは明らかである。そし
てたとえ送致の途中において運転手のE3が前述のように雪の中に自動車を乗り入
れたというような事情があるとしても、それはE3の運転の不手際によるものにほ
かならないのであるから、結局第五投票所及び第六投票所の不在者投票三一票を投
票所の閉鎖時刻後に送致し、ために右三一票を無効たらしめたことは違法であると
いわなければならない。
 (二) 第一投票所の不在者投票について
 証人E6、E5、E4、E14、E16、E15の各証言及び検証の結果を綜合
すると、第一投票所の不在者投票については、これを同投票所の投票管理者に送致
するためE4が持参して町役場を出発し、町役場と第一投票所との間にある田子警
察官派出所前において第一投票所から不在者投票を取りに来た同投票所の選挙事務
従事者E5にこれを手交し、右E5が第一投票所に持ち帰つて投票管理者に送致し
たものであるが、E5が第一投票所に帰つてその入口を入り、入口の受付係に六時
のサイレンが鳴つたら閉鎖の張紙を投票所の入口に貼るように命じていたところ午
後六時のサイレンが鳴り始つたものであること、そしてE5は右サイレンの鳴り止
まないうちに不在者投票を投票管理者のE6の面前に持参しこれを手交したもので
あることが認められる。証人E36の証言によつては未だ右認定を覆すに足らず他
に右認定を左右するに足る証拠はない。
 以上の事実によれば、E5が不在者投票を投票管理者の面前に持参したのは午後
六時のサイレンが鳴り始めたときより一瞬後ではあるが、不在者投票を持参して第
一投票所の中に入つたのは午後六時のサイレンが鳴り始めるより前であることが明
らかであるところ、被告は投票管理者の面前に届けられることをもつて投票管理者
に対する送致と解すべきであるから右送致は午後六時過ぎになされたものであると
主張する。
 しかしながら、不在者投票が投票所の閉鎖時刻までに投票所に到着しておれば、
閉鎖時刻前に投票管理者に送致されたものと解するのが相当である。けだし、投票
管理者は当該投票所の投票に関する事務全般を担任するもの(公職選挙法三七条四
項)であつて、当該投票所の内部全部を投票管理者が管理し、その内部全部がその
職務を行う場所にほかならないからである。
 そうすると、第一投票所の不在者投票は投票所の閉鎖時刻前に送致されたという
に妨げなく、これを受理した同投票所の投票管理者の措置には違法はない。
 (三) 第一一投票所の不在者投票について
 同投票所の不在者投票が投票所の閉鎖時刻前に送致されていることは前に認定し
たとおりである。同投
 票所の投票管理者がこれを受理したのは適法である。
 以上検討したところを綜合すると、第一投票所及び第一一投票所の不在者投票の
送致については違法はないが、第五投票所及び第六投票所の不在者投票三一票を投
票所の閉鎖時刻前に送致せず、ためにこれを無効ならしめた点に違法があるといわ
なければならない。
 <要旨>よつて右違法が選挙の無効原因となるか否かについて判断するに、右三一
票の不在者投票を投票所の閉鎖時刻までに送致しなかつたことは、一応選挙
の管理執行に関する規定に違反したものではあるが、しかし右違法は限定された投
票数即ち違法管理により不法に効力を失わしめられた三一票の不在者投票について
のみ、いわゆる潜在的有効投票の発生のみが問題とされる管理の違法にすぎず、右
三一票の及ぼす影響の点をみても、本件の場合当選者全員にその影響が及ぶわけで
はなく、別表の得票数からみると、当落或は当選順位に影響があるのは当選者一八
名中下位当選者の五名のみであつて、他の上位当選者一三名は当落について何らそ
の影響を受けないのである。
 しかして右のような選挙の規定違反が当初から限定された投票数についてのみの
管理の違法にすぎない場合には、右違法が当落の決定に及ぼす影響も限定されてい
るのであるから、その違法によつて生ずる問題は、結局その違法に管理された投票
の効力に関する問題従つて各候補者の得票数の計算に関する問題であつて、選挙全
体の効力に関する問題ではないというべく、従つて他に選挙の全般に亘つて自由公
正な執行がなされたことを疑わしめるような特段の事情のない限り、右の違法は選
挙無効の原因とはならず、当選無効の原因に止まるものと解するのが相当である
(最高裁昭和三二年五月三一日第二小法廷判決民集一一巻五号八九四頁参照)。
 してみれば他に右のような特段の事情の認められない本件においては、第五投票
所及び第六投票所の不在者投票合計三一票を無効ならしめたことは違法であるけれ
ども、それは本件選挙全体を無効ならしめる原因とはならないものというべきであ
るから、本件選挙を無効とした被告の裁決は違法であるといわなければならない。
 そうすると、被告が本件選挙の効力に関してなした本件裁決の取消を求める原告
らの本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について
民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 松本晃平 判事 伊藤和男 判事 佐々木泉)
別 表
<記載内容は末尾1添付>

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