弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人らの請求をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人石嵜信憲ほかの上告受理申立て理由について
1原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,農業協同組合法に基づき,組合員の事業又は生活に必要な資金
の貸付け,組合員の貯金又は定期積金の受入れ等を目的として設立された信用農業
協同組合である。
(2)上告人は,就業規則13条において,「従業員は満60才をもって定年と
し,定年に達した日の属する事業年度末(毎年3月31日)をもって退職とする。
なお,4月1日生れの者はその前日の3月31日を以て退職する。」,「前項の規
定にかかわらず,本人の希望により定年前の年令で退職する者は,選択定年制実施
要項の規定により定年扱いとし,特別処置を講ずる。」とした上,「選択定年制実
施要項」(以下「本件要項」という。)を定めて,選択定年制(以下「本件選択定
年制」という。)を設けていた。
本件要項の規定は,次のとおりである。
1条「就業規則第13条による定年以前に定年扱いによる退職を選択する職員に
対し,この要項を適用する。」
2条「対象者は,退職時点において48才以上の職員でかつ勤続年数が15年以
上の職員のうち,第4条の手続きによりこの制度による退職を選択し,この組合が
認めたものとする。」
3条「この制度による退職は,定年扱いとし,別表の割増退職金を支給する。」
4条「この制度による退職を希望する職員は,退職を希望する6か月前までに,
組合長に申し出るものとし,事業年度末をもって退職とする。」
上告人が本件選択定年制を設けた趣旨は,組織の活性化,従業員の転身の支援及
び経費の削減にあった。本件選択定年制は,事業上失うことのできない人材の流出
をとどめることができるようにすることなどを考慮して,上告人の承認を必要とす
ることとされたものである。
(3)被上告人Xは,昭和46年5月17日上告人に雇用された。同被上告人1
は,平成13年7月18日,上告人に対し,本件選択定年制により,51歳に達し
ていることとなる同14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をし
た。
(4)被上告人Xは,昭和48年4月1日上告人に雇用された。同被上告人は,2
平成13年9月11日,上告人に対し,本件選択定年制により,50歳に達してい
ることとなる同14年3月31日付けで退職することを希望する旨の申出をした。
(5)上告人は,平成13年7月,神奈川県から資産査定状況の検査において自
己資本比率の低下等を指摘されて指導を受け,他の信用農業協同組合との合併の道
を探ったが,同年8月,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったと判断す
るに至り,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防
ぐため,本件選択定年制を廃止するとの方針を立てた。
上告人は,平成13年9月4日から7日にかけて,本件選択定年制により同14
年3月末日限り退職することを申し出る資格を有する者全員に対し,「他の信用農
業協同組合との合併が避けられない事態となっており,合併を実現させるために
は,これ以上財務状況を悪化させないことが必要である。そのために本件選択定年
制は廃止せざるを得ない。廃止することとした以上,本件選択定年制による退職の
申出に対しては,既にされているものについても今後されるものについても承認を
しないこととする。」という趣旨の説明をし,大方の賛同を得た。その時には,被
上告人Xほか3名が本件選択定年制による退職の申出をしていた。また,この後1
に,被上告人Xほか2名が本件選択定年制による退職の申出をした。2
上告人は,平成13年9月18日の理事会において,経営悪化から事業譲渡及び
解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡する前に退職者の増加によりそ
の継続が困難になる事態を防ぐため,本件選択定年制による退職の申出に対して
は,既にされているものについても今後されるものについても承認をしないこと,
本件選択定年制を廃止することを決定した。上告人は,被上告人らほか5名に対
し,同月27日,本件選択定年制による退職の申出につき承認をしない旨を告げ
た。
(6)上告人は,平成14年1月23日の総会において,同年4月1日限りその
事業の全部をA信用農業協同組合連合会等に譲り渡して解散することを決議し,同
年3月31日,全従業員を解雇した。
2本件は,被上告人らが,本件選択定年制により退職したものと取り扱われる
べきであると主張して,上告人との間において,本件要項の定める金額の各割増退
職金債権を有することの確認を求めているものである。
3原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,被上告人らの請求を
いずれも認容すべきものとした。
(1)上告人は,従業員がした本件選択定年制による退職の申出に対して承認を
するかどうかの裁量権を有するが,不承認とすることが従業員の退職の自由に対す
る制限となることなどからすれば,上記裁量権の行使は,本件選択定年制の趣旨目
的に沿った合理的なものでなければならず,上告人が不合理な裁量権の行使により
不承認とした場合には,申出のとおり本件選択定年制による退職の効果が生ずると
するのが相当である。
(2)被上告人らのした本件選択定年制による退職の申出に対して上告人が不承
認としたのは,事業を譲渡する前に退職者の増加によりその継続が困難になり,信
用不安が発生する事態を防ぐためである。しかしながら,不承認とされることによ
り被上告人らの受ける不利益は,受忍し得る程度のものとはいい難く,また,上記
のような従業員個々の具体的事情にかかわらない事由に基づいて不承認とするのは
理由が不十分であるから,上告人が上記裁量権を合理的に行使したとは認められな
い。
したがって,被上告人らの上記申出は,これに対し上告人の承認があったのと同
様に取り扱うべきであり,被上告人らについて本件選択定年制の適用を受ける退職
の効果が生じたこととなる。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,本件選択定年制による退職は,従業員がする各個の申出
に対し,上告人がそれを承認することによって,所定の日限りの雇用契約の終了や
割増退職金債権の発生という効果が生ずるものとされており,上告人がその承認を
するかどうかに関し,上告人の就業規則及びこれを受けて定められた本件要項にお
いて特段の制限は設けられていないことが明らかである。もともと,本件選択定年
制による退職に伴う割増退職金は,従業員の申出と上告人の承認とを前提に,早期
の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ,本件選択定年制によ
る退職の申出に対し承認がされなかったとしても,その申出をした従業員は,上記
の特別の利益を付与されることこそないものの,本件選択定年制によらない退職を
申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり,その退職の自由を制限さ
れるものではない。したがって,従業員がした本件選択定年制による退職の申出に
対して上告人が承認をしなければ,割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ず
る余地はない。なお,前記事実関係によれば,上告人が,本件選択定年制による退
職の申出に対し,被上告人らがしたものを含め,すべて承認をしないこととしたの
は,経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に,事業を譲渡
する前に退職者の増加によりその継続が困難になる事態を防ぐためであったという
のであるから,その理由が不十分であるというべきものではない。
そうすると,本件選択定年制による退職の申出に対する承認がされなかった被上
告人らについて,上記退職の効果が生ずるものではないこととなる。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人らの請
求は理由がないから,第1審判決を取り消してこれをいずれも棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
泉德治)

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